師匠系爺に憧れて 作:武神祭
聖教。英雄に力を授けた女神を信仰する宗教だが、当然女神に愛され加護を受けた、そんな英雄はいない。そもそも英雄は女だし、力を与えたのは女神ではなくディアボロスを生み出した教団の前身。
当然それは教団にとって都合の良い組織であり、耳障りのいい教えを説いて…………結果としてその中で反教団勢力が産まれたのは中々皮肉が効いているといえよう。
とは言え教団の下部組織のような物。古の時代のアーティファクトなんかも存在して自分達は剣鬼すら下せると勘違いしちゃった時代もあった。1年も経たずに分からされたけど。
そんな聖教の総本山。宗教国家オルムは今まさに蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
異端審問の執行権を持つテンプラーの聖女が剣鬼の下へ向かったのだ。
昨今噂の『剣鬼が悪魔憑きを治療する方法を見つけた』という話を聞いて、だ。
教団側の司祭からしても悪魔憑きが減るのは困るし、反教団側からしても悪魔憑きを治す方法があるなら今まで殺してきたのは何だったのかと不満に思う者達が現れてよろしくない。
せめて聖教の人間が発見したならば神からの啓示だのと言い訳出来たのだが。いや、それすら今は問題ではない。
民意などどうでもいいのだ。問題は嘗て世界を敵に回して勝利した男。賞金稼ぎも国軍も教団もテンプラーも等しく返り討ちにしたあの男は多くを語ることはない。故に当時を知らぬ若き司祭が逸り、テンプラーに命令した。
無論当時を知らぬ若造でも、剣鬼を敵に回せばベガルタも敵に回ることは理解しているはず。忠告から入るようには命じているはずだ。
「勝手に秘薬を使い『女神の声』を聞かせるなど………その者を背教者としてしまえばよいのでは」
「問題は聖女が『女神の声』として聞いてしまったことだ! テンプラー始まって以来の素材を、今日まで教育してきたというのに疑問を持たせるなど………」
強い信仰心を持つ人間の纏う気配はそれだけで説得力が増す。胡散臭さのない演説は胡散臭さを覆い隠す。
『聖女』の作り方は、そういう人間を用意することだ。薬を使い洗脳し、『女神の声』を語り聞かせ、本気で、心の底から自分は女神の声を聞いたのだと信じる人間に育て上げるのだ。
今代の聖女は美しい容姿に加え、高い魔力量。そこに神を信奉する聖女の雰囲気も相まりかなりの人気を得ているが、そんな民意など意に介さないのが剣鬼。
当時の聖騎士長は細切れにされるし次期聖騎士長と呼び声高かった当時の若手最強も『こんな若造なら俺一人でやれるぜ』と得意気に挑みミンチよりひでえ事になったし、なんなら聖女も6枚に下ろされた。
非難も敵意も関係ない。だって勝てるのだから。
「しかし………奴も老いた」
「如何なる剣豪も老いには勝てぬ、か………いや、勝ってそうじゃね?」
「皆さんはともかく、私が赤子の頃から爺でしたからなあ」
「だが教団の連中を見よ。あの者たちですら、老いには勝てぬから魔人の力に頼る」
「それは、確かに……………」
「今なら、或いは………」
となると問題はどうやって、だ。かりにやれたとして、聖女もどうするべきか。
まず間違いなく、剣鬼が悪魔憑きを癒せるというのは事実と見ていいだろう。聖女は本気で女神に仕えている。聖教に従うのはそれが女神の意思と信じているから。
今回の件で悪魔憑きを癒す姿を見れば、間違いなく悪魔憑きをただ殺せとしか言わない『女神の声』に疑問を持つ。
「…………どちらも処分してしまえばよろしいのでは?」
「テンプラー共め、こんな時だけ手を貸せとほざくか」
モードレッドは呆れたようにため息を吐く。
「だが、あの剣鬼が邪魔なのは確かだ。若い私と違い、老い枯れ始めたとは言え今の私でも手痛い傷は負うだろう」
そして現状派閥争いが激化したラウンズに置いて重傷は避けて置きたい。
「聖女には例の秘薬………それでもまあ、所詮は身の程をしらぬ小娘。老いぼれた鬼には勝てぬ………」
ならばどうするか。全盛期は魔王すら屠る規格外。教団で対面し生き残ったのは1%にも満たず、それだって無数の団員の中からメッセンジャーとして生かされただけだろう。教団で、一対一で戦い生き残ったのは1人だけ。その男も『もうお前達から不老を貰う必要はない』と組織を抜けた。
「老いぼれ風情には少々勿体ないが………」
そう言って取り出すのはアーティファクト。『黒い薔薇』の研究過程で見つけたそれを使い
「所詮ただの剣を振るだけの老いぼれよ。剣を振るうだけしか能の無い愚物は、そのまま果ての地で果てるがいい…………」
山を呑み地面を剥がし空気を吸い込む漆黒の球体。それは世界に空いた穴。縁など存在しない。実体無き虚。
周囲の『世界』を呑み込み異なる世界へ引きずり降ろす渦。発動した男は既に飲まれた。剣鬼も聖女も、直ぐに飲まれることだろう。
如何なる破壊も無意味。超質量による攻撃も高エネルギーによる攻撃も全て『穴』に落ちるだけなのだから。
「霞の如く形無き物は斬れぬとでも? 我が剣技を舐めるなよ、生臭坊主めが………」
桜華流抜刀術・
とある竜の毒の霧、とある魔王の放つ死の光、とある獣の神が持つ己が信仰者へ力を与えるパス、彷徨う魂、山々を飲み込まんとした炎…………あらゆる
世界に空いた穴がズレる。形無き虚はそのまま消滅した。
「……………あぁ」
その光景を恍惚とした表情で見つめる幼い聖女。世界を呑み込もうとしていた破滅を容易く切り捨てる至高の武。
「貴方が…………神だったのですね」
「違います」
なぜこうなったのか…………話は数日前に遡る。
聖教 彼奴こえぇよ。マジパないよ。
モードレッド 世界の外に放逐してやろうぜ
世界の穴 魔王を連れてくるのではなく剣鬼を追い払うために使われて斬られた
聖女 脳みそこんがりウェルダン
穴の向こうの魔王 空に空いた穴覗いてたら斬撃が飛んできた一番の被害者