その日……大槻と沼川が一日外出で向かった先は……ダチレンジャーの十周年を記念したスーパー戦隊のイベント会場……

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第1話

「えっ!? マジですか……!?」

 

 ここは地の獄……底の底である、帝愛の地下強制労働施設──。

 そこで労役に(はげ)む男、沼川の叫びがこだました。

 

「マジマジ、俺もびっくりしたもん」

「え~っ、でもなぁ~……」

 

 沼川が、彼ら債務者の監視を務める男、宮本と会話しているところに、沼川とおなじ債務者であり彼の上司である男──班長こと大槻が顔をのぞかせる。

 

「なんだなんだ、どうしたんだ二人とも……!」

「あっ、聞いてくださいよ班長! 宮本さんが……!!」

「このあいだのザワドの時みたいに、またケンカか沼川?」

「ちがいますよ! じゃなくてっ……イベントがあるって言うんですよ、宮本さんが! ダチレンの……!!」

「ダチレン……?」

 

 ダチレン……それは朝の子供向け特撮ヒーロー番組、「友情戦隊ダチレンジャー」のことである。

 このダチレン、子供番組とは思えない重厚なストーリーから、メイン層の未就学児にとどまらず、その人気は親世代の大人にまで波及……。

 歴代戦隊シリーズでも、圧倒的な人気を誇るナンバーワンヒーローチームなのである……!

 

 しかし、ここで大槻は顔をしかめた。

 沼川の発言が理外のものであったために……。

 

「いやしかし……ダチレンってもう十年前に終わった作品だろ? なんだって今更イベントなんて……」

「そうなんですよねぇ~……」

 

 沼川もまた首をひねった。

 ダチレンジャーのイベントが行われる、という情報の発信源は黒服、宮本。

 その宮本が口角を上げ、二人にことの説明を始める。

 

「ククッ……お前らは普段地下にいるから知らないんだろうが、ここ数年はずっと……過去に放送を終了した戦隊の、周年を記念したイベントってのをやってんだよ」

「周年の……イベント……」

「そう。で、今年はダチレンジャーの十周年記念イベントがあるんだよ……あの、東京ドームシティで……!!」

「「!!」」

 

 そう……ついに今年……この時……ファンからの圧倒的要望に応えて、開催……っ!

 悪魔的アニバーサリー企画……『友情戦隊ダチレンジャー 十周年記念 ダチ公たちの断てない絆祭り』……開催……っ!!

 

「こうしちゃおれん……沼川……っ」

「はいっ! 行くんですね、班長……記念イベント……!」

「ククク……当然当然、ファンとしては絶対的参加企画……!!」

 

 後日……大槻、沼川、理外の強行……!

 度重なる外出による資金不足を、短い期間でチンチロで荒稼ぎ……。

 そして捻出……緊急一日外出資金……っ!!

 

 地上に出た二人が訪れたのは、数々の戦隊ヒーローたちが活躍……ファンの血、沸かし熱、うかす戦いを繰り広げた、東京ドームシティ……!

 

「おぉ~、ここが噂の……」

「ワシら番組は好きでも、なかなかこういった場所にまでは来れんからなぁ」

 

 沼川も大槻も、圧倒されていた……周囲にはひしめき、集う暴力的なまでのダチレンジャーファン……ダチ公たちの群れ!

 その数……、もはや歴代全スーパー戦隊フルメンバー以上……!!

 

『わっー!!』

 

 ダチ公……否、観客のざわめきがおこる。

 彼らの視線の先には……

 

「あっ、見てください班長!」

「おお! あれは……!」

『どうも、皆さん。ようこそお越しくださいました。ダチレッドこと長友仁(ながとも じん)を演じました、倉本海(くらもと かい)です』

「倉本さん、懐かしいなぁ~」

「ああ、変わらず元気そうだな!」

 

 なにを隠そう、この倉本海……俳優でありかつ、友人の借金を肩代わりしたことで地下落ちし、短いあいだながら大槻らと共に地下生活をすごしたことのある男なのだ……。

 倉本をはじめとしたダチレンジャーの出演者、そして監督など製作スタッフも登壇(とうだん)し、舞台上ではいかにしてダチレンジャーがつくられていったか、赤裸々に語られ始める。

 

「へぇ~、怪人ジャアクって最初はただ倒されるだけの悪役でしかなかったんですね」

「それを脚本家のアドリブで、レッドと和解する展開にしたのか……あれ、いい話だったよな」

「ですねぇ。せっかくレッドと友達になれたのに、ボスの攻撃からレッドを(かば)って死んじゃうなんて……今思いだしても涙が」

 

 数々の舞台裏が披露され、ファンである沼川も大槻も知らない新情報も飛び交いつつ、トークは和気あいあいとしたまま終わった。

 そして……おもむろに会場の照明が落とされる。

 

「ん? なんだ……?」

「は、班長……見てください、あれを!」

「ガッ……! あ、あれは……!?」

 

 正面に張られたスクリーンに映し出されたのは、理外の映像……それは新作……!

 ダチレンジャー10years after……よもやのテレビシリーズ、そのアフターストーリー……後日談……っ!!

 

「うわ、うわ、うわっ……まさか死んだはずの怪人ジャアクが、新しい敵に甦らされてまたレッドと戦うことになるなんて……!」

「いや、まて沼川! ……ジャアクが心をとりもどしたぞ……! そしてレッドと手をにぎり……」

「えぇーっ!? レッドとジャアクが真の友情で結ばれた、新フォームのエターナルズッ(トモ)ードに強化変身……!? こんなフォームチェンジ当時なかったですよね!?」

「ああ、新作オリジナルのバトルスタイルか……。しかし、敵を倒した代償にジャアクの魂が消滅……友との永遠の別れ……まさかここでも裏テーマの『()ち』がでてくるとは……!!」

 

 と、記念イベント限定の新作上映会をひたすら楽しんだ二人……。

 

 ……が、急転直下……!

 このあと、まさかの発言が、主演倉本の口から飛ぶ……!!

 

『ダチレンジャーの新作、お楽しみいただけて幸いです。さて、私の口から、とても悲しいお知らせをしなければなりません……』

「ん? なんだ?」

「なんですかね?」

 

 倉本の発言、それは……

 

『次回作、五十周年記念作である新作……「最終戦隊 エンドマン」をもちまして……スーパー戦隊シリーズは、終了となります……!』

「「!?」」

『ファンの皆様、長きにわたり戦隊シリーズを応援してくださり、本当にありがとうございました……!!』

 

 涙……()えある主演、レッドを演じた倉本の瞳から、涙がこぼれた……。

 大槻と沼川は、この涙で間違いなく、戦隊シリーズが終了してしまうのだということを悟った……。

 

 

 

「そっかぁ……そりゃ残念だな……」

 

 イベントも終わり、帰路。

 見知らぬ黒服が運転する車に乗り、後部座席でトーンダウンする沼川、大槻に、助手席の宮本が声をかけた。

 

「いやぁ~、ほんとっすよ……まさか俺らが生きてる内に戦隊シリーズが終わっちゃうなんて、夢にも思ってなかったですもん」

「だな。まあ近年は少子化で、購買層になる子どもがおらんという話しだから、おもちゃも売れんし視聴率も下がっていけば制作資金は回収できず、終了はやむをえん選択だろうな」

 

 はげます大槻も、やはり自身が子どもの頃から見続けてきた長寿番組が終わってしまうことには、一抹の寂しさを禁じえない。

 

「……そういえば、二人がはじめて見た戦隊ってなんだった?」

 

 落ち込みムードを変えようと宮本が話題を出し、沼川が顔を上げる。

 

「えぇ~っと、……俺は『超電磁戦隊 オメガレンジャー』でしたね。班長はなんでした?」

「ワシは『復縁戦隊 ゴエンジャー』だったな」

「そうなんですか? 俺はてっきり『突撃戦隊 GO(ゴー)レンジャー』かと……」

「フフ……そりゃ第一作目だろ? ワシはまだその頃は生まれとらんぞ」

「じゃあ、二人が一番好きな戦隊ってなに?」

「俺は『殿様戦隊 アッパレンジャー』ですね。戦隊っていえば合体ロボですけど、アッパレはロボの活躍が少ないのに面白いんですよ」

「大槻は?」

「ワシは『小銭戦隊 ジュウエンジャー』」

「それ、制作予算が少なくて怪人を倒すのがひと月に一体って戦隊ですよね?」

「そうそう。あの作り手のカツカツ感が見てて、頑張ってるな~って応援したくなるんだよな」

「あぁ、なんか班長っぽい!」

 

 いつの間にか、車内の空気は明るさに包まれていた。

 

「……こうして振り返ってみると、戦隊モノって人生の流れと密接してたんですね」

「沼川……」

「俺、俺……もっと戦隊シリーズを見続けたかったですよ……っ!」

 

 袖で涙をぬぐう沼川。

 大の大人の未練をこれほどまでに引きずらせるのも、また長寿番組の力……。

 

 と、宮本のポケットに振動が。

 スマホの通知だ。

 画面を確認した宮本が、フッ……と微笑を浮かべる。

 

「見ろ、沼川……」

「え、なんです……?」

 

 宮本が差し出したスマホの画面には、メタリックに輝く装甲(アーマー)を全身に身に着けた、ヒーローの姿が映っていた。

 

「こ、これは……!?」

「ワシ、見覚えがあるぞ……! これって五十年ちかく前にやっとった、『メタルヒーローシリーズ』の元祖……!!」

「『超 夢中刑事ギャルバン インフィニティ』……昔やってた『夢中刑事ギャルバン』のリメイクだ……!」

「ま、まさか……」

 

 ゴクリ、とツバを飲む沼川に宮本がこたえる。

 

「スーパー戦隊シリーズの後番組……新作だよ……!!」

 

 「えぇーっ!?」と大槻、沼川の驚く声が車内に響いた。

 

「いやいやいや、今さらメタルヒーローシリーズ復活って……!?」

「これって『児童刑事ジャリバン』と『照屋刑事シャイナンダー』とのシリーズ三作品だけで終わったやつですよね!? それを戦隊の後釜に据えて……ちゃんと続けられるんですか!?」

 

 否定的な反応の大槻と沼川。

 意に介さず宮本は言う。

 

「番組が……シリーズが続くかは俺にもわからん。が……」

「「が?」」

「終わってねえ……ってこった。特撮の……ヒーローの火、炎……熱は……!!」

 

 宮本の言う通り。

 スーパー戦隊という形は終わっても、正義の心は(つい)えない……。

 新たな姿へと、その想いは受け継がれていく……! 永遠に……っ!!

 

 だから……

 

「……沼川」

「……はい」

「やることは決まったな……ワシらの……!」

「ですね……俺たちにできるのは……!」

 

 応援しつづけること……灰になるまで……!!


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