ハイスクールO×O ~目指せ!おっぱいドラゴン!~ 作:貴司崎
「……まだかしらね、あのオッサン」
日本のとある街の待ち合わせスポットとして有名な銅像の前、そこに設置されたベンチで1人の黒髪ロングでカジュアルな格好をした見た目は外国人に見える美女が人を待っていた。
近年外国人観光客が増えた日本でも珍しい程に人目を魅く風貌ではあったが、道行く人達は誰もが彼女を“何処にでもいる一般人”としか思っていない様に通り過ぎていく。
その正体は神器所有者の保護を謳う裏の組織『Outsiders Organization』略して『O×O』の所属、ハーフ堕天使で組織最強クラスの武闘派幹部『イヴェルタ・ネルアス』であり、余計な騒ぎにならない様に認識阻害の術で自分を目立たなくしていた。
「……よぉ、待ったか?」
「遅い、予定時間からもう30分は待ってるわよ」
そんな彼女に声を掛けたのは1人の男、それなりの年齢でありながらワイルド系のイケメンにも見える所謂“イケオジ”なその人物を見たイヴェルタは『やっと来たか』と思いつつベンチから立ち上がった。
「悪い悪い、他の連中の目を誤魔化して出掛けるのはそれなりに手間なんだよ。“シェムハザ”に後の事は全部任せてきたが」
「任せたじゃなくて押し付けたの間違いじゃないの“アザゼル”おじさん」
その男の正体は聖書の三大勢力の一つである堕天使陣営『
本来ならこんな人間界のごく普通の街に居てはいけないレベルの存在ではあるのだが、超高度な気配を偽る術のお陰でその場の一般人は誰もその存在に気づく事なく日常の風景ってしてスルーされている。
「それでイヴェルタちゃん、おじさんにデートのお誘いをしてくれるとは嬉しいねぇ」
「男女2人で出掛ける事をデートと言うならそうでしょうね。じゃあ親父に『アザゼルとデートしてくる』ってメールを……」
「それはマジでやめてくれ、シェムハザ以外の他の幹部を色々と誤魔化して来てるからバレるとマズイ。後そんなメールを送ったら“コカビエル”との模擬戦であっちがガチで殺しに来る」
そんな最上級堕天使を前にしてもイヴェルタは怯まない所か親しげに話しかけているが、彼女は同じく『神の子を見張る者』に所属する最上級堕天使『コカビエル』の娘、その縁でアザゼルとは裏で何度も会っているので慣れているのだ。
「模擬戦なんてしてるの? アザゼルおじさんは研究職で実戦からは離れてるんじゃなかったっけ」
「俺としては研究ばっかりしたかったんだがなぁ。……第二次世界大戦のときにコカビエルがイヴェルタちゃんにボコボコにされただろ? それ以来俺とか『バラキエル』とかはアイツの修行に付き合わされてるんだよ。よっぽど娘にボロ負けしたのが効いたらしい」
「ふーん、まああの時のクソ親父よっぽどこっちを見下してたのか隙だらけだったから殴りたい放題だったしね。大戦が終わって腕も鈍ってたみたいだから」
(娘に対して本気にはなれなかった部分はあるだろうけどな。軽くあしらってやろうとか考えて想像を遥かに超える実力になってたイヴェルタちゃんに不意を突かれてそのまま押し込まれたみたいだが)
ちなみに第二次世界大戦に出会ったイヴェルタに『俺に娘などいない、失せろ半端者』とか言ったコカビエルだったが、彼女は『親子関係云々はどうでもいいけどその上から目線がむかつく』と言いながら初手
幾ら最上級堕天使であっても先手を取られてダメージが蓄積した状態で、当時既にパワーだけなら最上級堕天使を超えていた彼女と戦って勝つのは流石に無理だった様だ。
「まあアイツも自分の子供に情がない訳じゃないんだがな。そもそも好きでもない女を孕ませる様なタイプじゃねぇし」
「そこは一応分かってる、母さんも『自分から誘わないとヤラなかった』とか言ってたし、妊娠したことも暫く隠してたとか」
「え、マジで? 誘い受けに引っ掛かるとかそれでも堕天使かよ。アイツは昔から堕天使の中では真面目で義理堅いからなぁ」
「私達親子とは無関係を貫いた方が私達に危険が及ばないと考えての行動だった事は今なら理解してる。……それはそれとして私が弱いと思ってる態度が気に入らなかったからわからせたけど」
(コイツの変な所でプライドが高くて実力主義な脳筋の部分は親子でそっくりだな。まあコカビエルと比べれば要領が良い……かねぇ?)
尚、この間にも認識阻害の術は継続中なのでそんな結構ギリギリな会話をしながら街を歩いていても周りの通行人が彼女達を気にする事はない。
……そうして暫く父親及び同僚のネタにした会話をしながら歩いた彼女達は、やがて裏路地にある一見の寂れた喫茶店の前に訪れた。
「中々趣のある喫茶店じゃないか。今日の昼飯はここで食うのか?」
「そうね、料理も美味しいからついでにお昼も頼めば良いわ。……O×Oのメンバーが秘密裏に営んでいる店の一つだから内緒話には向いてるし」
「へぇ」
実際念入りに隠されているがこの世界でも最高位の技術者であるアザゼルの目には幾つかの術、特に内側の情報を外に漏らさない様にする術式が魔法・法術・陰陽術など複数種張り巡らされている事を見破っていた。
日本中に幾つかの“領地”を持ち管理人しているO×Oではあるが、この店の様に領地の外で極秘裏に作られた拠点や施設も多数有しており、それら全ての詳細な情報を知るのは彼女クラスの最高幹部達のみである。
「……いらっしゃいませ、イヴェルタ様」
「マスター、予約した個室を使わせて貰うわ、二名で。それと昼食に日替わりランチセットを2つ」
「かしこまりました」
オーダーを受けた初老の男性、この店のマスターはイヴェルタとアザゼルの方をチラッと見てから、カウンターより鍵を一つ彼女に手渡して日替わりランチセットの準備を始めた。
……その様子から『このマスターは認識阻害が掛かった自分の正体を把握し、それでも素知らぬ顔で注文に応えている』とアザゼルは見抜き、堕天使のトップ相手でも動揺をカケラも見せずに業務を続けられる店員がいるこの店に対する警戒度を上げた。
「ああ、ここのマスターは元O×Oの戦闘員でね。現役を引退したら老後は喫茶店をやりたいって言ってたから店を任せてるの。まあ今回みたいな秘密会話以外だと単なる趣味の喫茶店でしかないから此処」
「一応他組織の俺に重要拠点を紹介する訳がないよな」
ちなみにこの店はO×Oの領地と領地の間にある“中継点”の一つであり、所在を知っている構成員が休憩に来る程度の場所なので重要性が低いからこそ他組織のトップであるアザゼルとの“密談”に使われる場所に選ばれた面がある。
そうして2人は外部に情報が漏れない術が念入りに施された個室に通され、日替わりランチセットのコーヒーとサンドイッチを食べながら今回わざわざ堕天使のトップを呼び出した“本題”を話す事になる。
「……それで、わざわざ個人的な秘匿回線まで使って呼び出したのは一体どういうつもりだ? まあ俺としては美女とオシャレなカフェで気分転換に一服でも良いんだが。
「親父に関しては正月とお盆に辺りに会うかメールするかだけで十分よ。まあちょっとアザゼルおじさんに幾つか“世間話”があってね。……“雷光”の堕天使と“姫島家”で色々とトラブルがあったって聞いてね」
その言葉を聞いた瞬間、これまでは親戚の子供に接する様な気さくなおじさん的な雰囲気だったアザゼルの気配が、正真正銘の“堕天使勢力のトップである最強の堕天使”のモノへと切り替わった。
常人であれば気配だけでも意識を失うレベルなので個室の特注の隠蔽結界がなければ正体が一般人にバレていたかもしれないが、そんな本気のアザゼルを相手にしてもO×O最高幹部の一角であるイヴェルタは涼しい顔である。
「何処でそれを……いや、お前達は五大宗家とも繋がりがあるんだったな。“最強の仙人”や“星読みの妖狐”が居て日本各地の霊能組織に伝手があるなら知っていてもおかしくはないか」
「最近の五大宗家は結構ゴタゴタしてるから情報が少し漏れてくるのよね。ちなみにこの情報は輝夜さんが姫島家の穏健派から相談されたらしいわ」
「穏健派ねぇ。……お前らはハーフの保護もやってたか」
「ええ、輝夜さん曰く“とある母娘”の現状をどうにか出来ないか古い知り合いに相談されたそうよ」
平安生まれであり安倍晴明の弟子でもあった輝夜は日本の様々な異形勢力や霊能組織に昔から関わりがあり、五大宗家に関しても遥か昔のその設立に関わっていた事もあるので特に“奥の院”などの一部とはまだ繋がりがある。
姫神家と堕天使の争いに関しても(原作知識を除けば)その伝手で入手した情報であり、O×Oが人外と人間のハーフの保護も行ってその結果を出している事もあって相談が来たのである。
「その母娘……子供が姫島と堕天使のハーフって辺りの事情も聞いたわ。私みたいなハーフは人間社会と人外側の両方から爪弾きにされる事もあるから、O×Oで保護して真っ当な生活を送れる様に支援や指導したりもしてる。O×Oの理念は“はぐれ者の居場所を作る”事だし」
「お前らがその理念に従って動いて結果を出してる事は分かってる。……それでお前達は“あの家族”をどうする気だ?」
「強いて言うなら“提案”かな。……その“とある母娘”を私達O×Oで保護する事は出来る。まあ色々と姫島家の頭の硬い連中と相談する必要はあるけど、既に五大宗家を追放された連中を何人かこっちで引き取ってる前例があるから話を通しやすい……って提案」
尚、堕天使の組織に母娘を渡すぐらいなら先んじて始末しろと言う過激な声が姫島本家でもあり、堕天使側や穏健派との交渉の結果としてその母娘は姫島の監視下で隔離しながら幽閉という現状になっている。
それに対して姫神家の穏健派、奥の院とも言える施設のご意見番のとある人物が母娘の置かれている現状に心を痛め、古い知人でハーフや神器保有者の保護を行っている“人間の組織”に所属する輝夜に母娘をそちらで保護出来ないかと相談されたのがこの提案のきっかけになる。
「私達O×Oがはぐれ者にごく普通の生活を送らせる為に尽力してるから、私達に保護して貰えればその母娘の扱いは少しはマシになるかもって考えての相談されたみたいね。……まあ堕天使側とO×Oの仲はいい訳じゃないから、こうして秘密裏に“提案”だけする事にした訳」
「随分と母娘の為だけに組織の最高幹部達が骨を折るんだな。お前達がはぐれ者に居場所を与える為に粗ボランティアに近い事をしてるのは知っているが」
「まあ貴方が懸念している通り五大宗家や堕天使勢力に対する“カード”として機能するからって狙いが全くないとは言えないけれどね。……それでも善意がない訳じゃないわよ。私としても堕天使幹部の娘のハーフって立ち位置にシンパシーもあるしね、伝手を使ってこうして提案する程度の骨を折っても良いと思えるぐらいには」
尤も、その“提案”がO×Oの純粋な善意だけではない事はアザゼルにも分かっており、イヴェルタも敢えてその部分は否定せずに話しを続ける。
「ハーフ堕天使ってだけで人間からも堕天使側からも毛嫌いされるから同じ立ち位置の子に対する同情ぐらいはあるわ。私とか薄汚い黒い羽云々を人間からも堕天使からも言われてるし、親父に怨みがある連中に狙われた事は10じゃ効かないぐらいあるし」
「堕天使がお前を襲った件に付いては組織の長として謝罪する。一応手出しはするなと言い聞かせたんだがな」
「ああそこは別に良いわよ。O×Oとグリゴリは味方同士じゃないって言うかむしろ敵対より同業他社みたいなもんだし。そこにハーフ堕天使、しかも組織の幹部の娘が所属とかちょっかい掛けられるのも当然だしね。それに私を襲ってきた連中は全員返り討ちにしたから問題なし、堕天使は半殺しにした上で縛りあげてグリゴリにクーリングオフしたでしょ」
「死人を出さない様に配慮してくれたのは感謝するが、その時に態々亀甲縛りにする必要はあったか?」
ちなみにその時の事件では最終的に上級堕天使を含めた10人以上の堕天使がボコボコにされた上で亀甲縛り(封印術付き縄)で冥界にあるグリゴリ本部前に打ち捨てられる事になっており、それ以来グリゴリではイヴェルタを『名前を言ってはいけないあの人』みたいなアンタッチャブル扱いになっていたりする。
その際に幾つかO×Oに貸しを作ってしまってグリゴリ上層部が頭を抱えたり、話に変な尾鰭が付いたのか『実はコカビエル様は緊縛趣味』と言う噂が流れてキレたコカビエルとアザゼルが模擬戦(ほぼガチ)する羽目になるなどアザゼルにとっても頭が痛くなる案件だった模様。
「ハーフとか爪弾きにされた人を受け入れてるからO×Oを敵視する連中は多いからね。大体は返り討ちにしたけど。……私は家庭問題はパワーで解決出来ると思ってるけど、実際にそれが出来るのは少数派だろうし」
「堕天使幹部の父親を殴り倒して家庭問題を解決するのはお前ぐらいのもんだろうが。……話は分かったが、俺の一存で決められる事じゃないぞ。そもそも部下の家庭の話だし」
「それも分かってるから、今日はあくまで提案しただけ。こういう話もあるから雷光さん達に持ち帰って検討して下さいって事。……こっちで保護するにしても問題がない訳でもないしね。まあ家族を引き離す様な事は出来るだけしないつもりではあるけど」
「O×Oとグリゴリは表向きは敵対してるが交渉の結果不戦協定を結んでるって状況だからな」
なので堕天使幹部の家族を引き入れるにしても色々と面倒ごとはある。イヴェルタの場合は堕天使幹部の父親を組織設立前に殴り飛ばして表向き縁を切った的な扱いであり、発生した問題を自分の実力でねじ伏せてどうにかしているのでぶっちゃけ例外枠である。
「……まあ、それでも五大宗家監視下の幽閉の現状よりはマシ、そう考えたのが姫島家の穏健派って所か。
「五大宗家はしょっちゅう追放モノ展開やる癖に追放者が異形勢力に行くのをよく思わないからねぇ。……とりあえずO×Oに保護された場合のメリットとデメリット、例えば娘さんの通える学校とか奥さんの職場とか子育て支援制度や補償サービスその他諸々の資料は持って来たから。雷光さんに渡して検討してねって事で」
「随分と準備がいいな。て言うか資料多いぞ」
そう言いながら魔法陣より資料を複数冊ドサドサと机の上に置くイヴェルタに呆れつつも、アザゼルは少し資料を斜め読みにしてO×Oではしっかり組織所属時の生活保障内容が決められているなと思った模様。
この辺りはO×Oが前世で組織運営経験がある転生者を中心に時代を先取りする各種体制を設立当初から整えたのが原因であり、表の企業としても裏の組織としても出来る限りホワイト運営になる様に転生者が頑張った結果である。
「この一件に関して今日は話と提案を持って来ただけだから。受ける気があるなら秘匿ルートで連絡して。別に強制はしないし」
「分かった、この資料に関しては持って帰ってバラキエルに伝えておく。娘を学校に通わせてやれるなら乗り気になりそうではあるがな。……それで、この話をする為だけに態々俺を、“俺だけに誰にも聞かせられない話がある”と事前にいい含めた上で呼んだのか?」
「うーん、まあ姫島家関連はついでみたいなもんで“本題”はあるよ。……今日の本題は『三大勢力の和平』についてのお話だから」
そのイヴェルタの言葉を聞いた瞬間、資料を魔法陣の中に放り込んでいたアザゼルの顔が堕天使勢力のトップとしての顔へと変わり、同時に室内の雰囲気がこれから戦争でも起こるかの様な張り詰めたモノへと変わった。
……そう、ここからO×Oと神の子を見張る者のトップ層同士の秘密会談、今後のこの世界の未来をも左右する話し合いの本番が始まるのだ。
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「……三大勢力の和平ねぇ。イヴェルタちゃんも知っての通り俺達堕天使と教会や悪魔は軽く二千年以上は敵対してるんだが」
「それは知ってる、加えて何処も次に大規模な戦争を起こせば共倒れになるぐらいに損耗している事もね。……現四大魔王は天使・堕天使との和平を結ぼうとしている形で話が纏ってる。古き悪魔達も初代バアルが賛同よりの黙認姿勢になるぐらいには交渉が纏まったらしいわ」
「ッ!? ……それを堕天使のトップに話してもいい内容なのか?」
「そんな四大魔王からダンタリオン家、O×Oのスポンサーであるジークレドに『天使・堕天使が和平を望んでいるかどうかを探って欲しい』と依頼があってね。ジークレドは天使や堕天使とも繋がりがあるO×O、その私を含めた幹部クラスへ極秘裏に動いて探って出来れば裏で極秘裏に話し合いが出来る環境を整えてくれって話になってね」
ちなみにこの“三大勢力の和平についての裏工作”はO×Oでも幹部クラスのみが知っていて、情報漏洩の危険性から転生者でも一般転生者には伏せられており、この邂逅を知っている者も“あくまで姫島家の交渉”と言う表向きの理由だけが伝えられている。
「それを悪魔の敵対組織である堕天使のトップに言うのは不味いんじゃないか? 四大魔王が和平を望んでいるなんて情報、上手く使えば大きなスキャンダルになるぞ。悪魔がもう一度内戦を起こせば勢力図はひっくり返る」
「でも貴方はそれを望まないでしょ? 嘗ての戦争でも真っ先に手を引き、ウチの親父も『アザゼルはもう二度と戦争を起こす気はない』って愚痴ってたし。世界大戦時にボコボコにしてからもう悪さするなって要求を突き付けたらそう言ったよ」
「コカビエルェ……娘に甘過ぎるだろ」
「まあ、貴方の人格面と能力面を信用して喋ったって事にしておいて。……と言うか基本的にトップダウン制のグリゴリに和平を持ち掛けるなら、貴方が和平に賛同してくれないとどうしようもないしね」
つまりは堕天使勢力の長であるアザゼルが和平に賛同する立場である側に賭けて情報を全て話したという事であり、その普通に考えれば余りにもリスクが大き過ぎる交渉のやり方にアザゼルは相手が何を考えているかを訝しむ。
「……要件は分かりやすかったが交渉の仕方が雑過ぎるぞ。お前は確かに家庭問題をパワーで解決する脳筋だが組織の幹部としての知見は持っている筈だろうに」
「大分酷い事を言われた気がするわね。……一応貴方が和平賛同よりの立場である可能性はかなり高いと踏んでの交渉だったんだけど。それと貴方が和平に動いてくれないと“詰む”し」
「………………」
そんなこの世界でも有数の強者である筈のイヴェルタが“何か焦っている様な態度”を見せた事で、アザゼルは“前々からO×Oと言う組織に抱いていた疑念”が確信に変わっていった。
「……和平については確かにお前らの読み通り、俺は前々から三大勢力での和平を考えて機会を伺いつつ準備をしてたさ。だから和平について各勢力のトップで裏で話し合い擦り合わせと準備をする事については構わん。……だが、その仲介をお前達O×Oに頼む事にはまだ反対だ」
「それはどうして? これでもO×Oは人間側の組織として三大勢力全てに伝手があり、今後の神器所有者やハーフの保護的な観点から見ても和平を望む立場にある組織だと思っているのだけれど」
「ああそうだな、お前達が“はぐれ者の居場所を作る”と言うお題目に真摯に向き合って、多くの神器所有者やハーフなどを保護して来た事は俺も認める。特に日本では裏の組織同士の仲介や犯罪者への対処も行って各勢力から信用を得るに足る誠実な組織運営をしている事もな。実際グリゴリや教会よりよっぽどまともな組織だと思うし、恐らくそのお題目自体も嘘ではないんだろう。……ただお前達幹部には“その先”に本当の目的があるってだけで」
そのアザゼルの発言に対してイヴェルタは目を細めつつ無言を貫き、それを見たアザゼルは長き時を生きてきたこの世界においても有数の頭脳を持つ堕天使として側からO×Oと言う組織への疑問点を挙げていく。
「そもそもお前ら余りにも色々な勢力から人を集めすぎなんだよ。ハーフや神器所有者の保護が重要じゃないとは言わんが、“その程度”のお題目で集まるにはあり得ないぐらいに有能な人材が集い過ぎてる。……ダンタリオン家のハーフ悪魔や仙人や星読みみたいな実力と志がある者達が集めたからだとも思ってはいたが、それにしても色んな勢力の人間が自主的にその勢力を離れて集まってるのは異常だ」
「私みたいなはぐれ者が今の勢力を嫌がって離れたのかもよ?」
「そういう連中が多いのは事実だろうが明らかに人材が簡単に集まり過ぎだ。……お前達の勢力の急速な拡大は何かもっと明確な目的、自分の現在の立場を変えてでも目指さなければならない“何か”があって、その目的を共有する多くの神器所有者達が集まって同じ目標地点に向かって動いていると考えた方が自然なぐらいに組織の成長が早過ぎるんだよ」
第二次世界大戦期に重大事件を解決したO×Oの創設メンバー、所謂“幹部”達の動向をアザゼルは終始調査しており、彼等の行動やO×Oと言う組織の不自然なまでの急成長から“何か”があるとずっと警戒していたのだ。
グリゴリがO×Oとは不戦協定を結ぶだけで協力関係にならなかったのは、単に同業他社だっただけではなく総督であるアザゼルの不信感も理由にあったのである。
「異なる勢力から人材を集めて運用するなら理論値であれば高い成果を出せるだろうが、それぞれ価値観が違う人間が一つに纏まって動くのは困難極まりない。だがお前達は異なる種族・勢力から集ったにしては団結が早過ぎる、むしろ初めから共有出来る価値観や目的があったみたいにな」
「そこまで私達の事を調べてたんだ」
「部下の子供が所属すると言って聞かなかった組織で、あの『聖槍』に纏わる事件を解決した人間達が作った組織だから当然調査は続けてたさ。……そうしたら組織の運営に全く問題がないって言う“不自然さ”が浮き彫りになっただけだ」
長年敵対する三大勢力の一角のトップであり、神器所有者を監視する『
「……と言うか俺達堕天使が千年以上掛けてやってきた
「最後に本音が出たわね。……禁手に関してはしっかりとした鍛錬とメンタルケアをすれば人によっては至れるだけだと思うんだけど」
「それで禁手に至れるなら今頃は禁手のバーゲンセールになっとるわ。……まあ禁手に至りやすい環境の仮説として『禁手に至った所有者の影響を受ける環境であれば至るハードルが下がるのではないか』とグリゴリでも提唱されているが、それもお前らという実例があるせいで生まれた仮説だけどな」
長年神器を研究し続けて来たアザゼルだからこそ、禁手に至った者が多数いるO×Oやそのスポンサーであるジークレド・ダンタリオン眷属は余りにも異常過ぎるので常に警戒を続けていたのだ。
それこそ定期的にイヴェルタと会っていたのも単に部下の子供の様子を見るだけでなく、O×Oと言う組織が世界の脅威になり得るかもしれないと考えてその内情を探る為でもあった。
「正直言ってお前達が何かヤバい実験でもしてるんじゃないかと最初は疑ってたが、調べれば調べる程に裏の組織としてはホワイトな内情だと分かってな。……だからこそ逆にお前達O×Oへの疑念が深まったんだが。逸れ者の保護を謳って実際に誠実でホワイトな運営をしながらも、必要以上に戦力を集めている所とか怪し過ぎたし」
「ウチは外道な人体実験はNGの方向性なんで」
「それはむしろいい事なんだが、その状況で禁手所有者が増えるとかは本来難しい筈だ。何せ禁手に至るには所有者の内面に“劇的な変化”が起きる必要があり、それは平和な日常ではまず起こり得ないモノだからな。お前らが『教団』とかと戦ってるのは知っているが、それでも違和感は拭えなかったんで俺が一つの仮説を立てた。……お前達は“禁手の様な力が必要なデカい目的、世界の運命を変えうる様な何かを成す必要があって、その所有者の想いに応えた神器が禁手に至りやすくなった”のではないかってな」
それはO×Oには何か大きな目的があると言う推測と神器研究者としての知見を合わせた上での仮説であり、アザゼル自身想像に推測を重ねた程度の考えでしかなかったが研究者としての直感と今のイヴェルタの行動からかなり近い所を言い当てていると確信した。
そして彼らO×Oの目的が世界に大きな影響を齎すのであれば、その詳細を知らないままでは堕天使と言う種族のトップとして協力は出来ないともアザゼルは考えており、それを察したイヴェルタは諦めた様に溜息を吐いた。
「……まあ、私達は側から見ればおかしい所は多数あるからね。ジークレドも魔王様達から突っ込まれたって言ってたし。……その仮説で大凡合ってるわよアザゼル、流石はグリゴリの長って所かしら。ここまで正確に言い当てられるとは」
「仮説が偶々当たっただけだろ。それにお前達もそこまで隠す気はなかっただろうが。初めから和平を持ち出す三大勢力のトップ層には自分達の目的を話すつもりだったんだろ?」
「そうね、私達は怪しまれる部分も多いからここまで来たらトップには事情を話すべきだって幹部メンバー達も想定してはいたし」
「ほう、それでお前達の“本当の目的”は一体なんなんだ? お前達と協力して和平の準備を行うかはその目的次第だ」
「……近い未来、この世界を滅ぼし得る“脅威”が来るって言えば貴方は信じるかしら?」
そのイヴェルタの発言に訝しげな表情をするアザゼル。この業界では“世界が滅ぶ預言”をする預言者などは珍しくもないが、その大半は未熟な人間の預言者が妙な未来情報を受信した結果として半ば気が触れて起きるのが大半である。
勿論、中には正しく未来に起きえる重大事件を預言する者もいるし、グリゴリでも占星術などによる未来予測研究がなされてもいるが、それでも未来の情報とは現在の視点から見ると確定するモノではなく様々な要因で預言が当たらない事の方が多い。
「世界が滅びる預言なんて珍しくもないが、お前らの所には星読み……最高位の占星術師であり預言者がいるからそこから何かを知ったのか?」
「残念だけど輝夜さん由来って訳じゃないと言うか、彼女がこの“啓示”を受け取った最古の神器所有者ではあるんだろうけどね。……私含めた一部の神器所有者には『世界が滅びえる未来』の情報が啓示の様に与えられてるのよ。それが何によって齎されたモノかは分からないけど、同じ啓示を受け取った神器所有者達が集まって絶望の未来に備える為の組織が『O×O』なの」
故にO×O創設者である高位の預言者の情報で彼等は動いているとアザゼルは考えたが、イヴェルタの口から出て来た情報は予想の斜め上を行く内容だったので思わず声を上げた。
「いやちょっと待て! 神器所有者に与えられる啓示だと!? そんな事はこっちで保護している所有者には見られなかったぞ。それに神器に啓示を与えられる神はもう……」
「私達自身でもこの“啓示”がどういう理屈で齎されているのかは分かってないけど、輝夜さんが中心になって啓示を得た神器所有者を探知する術を開発して啓示を受けた所有者を集めて回ってたの。啓示を受ける者はこの辺り百年で一気に増えたし、そう言った人達を集めたから神器所有者の組織ってして一気に勢力を拡大出来た訳」
「同じ啓示を受けたから価値観を共有出来て結束出来たと? ……その啓示を受けてる神器所有者の数はどのくらいだ?」
「今ではもう百人を優に超えているわね。……私達としてもこれが妄想か幻覚か何かだと思いたかったし、啓示が外れてくれれば万々歳って思ってるけど、ここまで数が増えたなら“何かがある”のは間違いないから備えて調べてるのよ」
余りにも予想外なO×Oの創設理由にアザゼルであっても困惑を隠せないものの、同時にイヴェルタは嘘は言っておらず少なくとも“啓示”とやらを信じている多数の神器所有者がO×Oと言う巨大組織を作り上げる程に“本気”で動いているのは真実だと考えた。
「……啓示云々に付いては一先ず置いておく、それでお前達の本当の目的は?」
「啓示が示す“絶望の未来”に備えて戦力を集める事。だからO×Oは神器所有者を含めた戦力を集めているし、脅威に備えてこの星の神話勢力全てを協力関係にする事を計画している。三大勢力の和平に全力で協力するのもその第一歩だから、そうしなければ脅威に対抗すら出来ないから」
「全ての神話勢力の協力関係とは大きく出たな。確かに三大勢力が和平を結んだ後は北欧やギリシャ神話とも協力関係を作るプランもあったけどな。……そこまでしなければならない“絶望の未来”ってのはなんだ? 古の邪神辺りの復活ぐらいならそこまでする必要はないだろ」
「啓示でも詳細までは分からないけど、異世界からあの『夢幻の龍神』すら噛ませ犬に出来る化け物達が来るらしいわよ。少なくとも主要神話勢力が協力ぐらいしないと地球は確実に破壊されるらしい。それが今から早くて10年以内、遅くても30年後ぐらいには啓示が正しければ来るだろうね」
その荒唐無稽な話にO×Oが単なる誇大妄想を信じる集団ではないかとアザゼル自身も思ったが、そうとするには彼等O×O幹部陣の実力と実績が余りにも大き過ぎるので彼等が本気でそんな脅威に対抗しようとしている事だけは認めざるを得なかった。
「……悪いが、その“啓示”とやらを全面的に信用する訳にはいかん。預言と言うのは参考にはなるが信用出来ないモノだからな」
「それはそうでしょうね。未来を見てからその情報を参照した行動をとる事によって見た未来とは別の未来になる、所謂“未来予知のパラドックス”ってヤツもある通り予知とは基本信用出来ない概念だからね。輝夜さんもあくまで参考にしかならないって常々言ってるし」
「その“絶望の未来”とやらをその星読みの力で予知はしたのか? 啓示とやらは星読みとは別のものなんだろう?」
「輝夜さん曰く『啓示知識前提で占ってみたけど余程高位の存在が関わってるのか見難いし、下手に覗き込むと逆探知されて未来から過去に干渉されかねない恐れがある』ってさ。同じ様に異世界の調査も迂闊に行うと“絶望の未来”が来るのが早まる可能性が高いから簡単には出来ないし。……だからどこまで行っても私達の話には明確な証拠はなく、強いて言えば私達O×Oが今まで成してきた事自体が状況証拠になるかなってぐらい」
確かに彼等O×Oは第二次世界大戦での『聖槍』に纏わる事件を解決した事に始まり、今の今まで三大勢力が取りこぼして来たものを掬い上げるなど少しでも悲劇が減る様に尽力して来た事をアザゼルは知っていた。
証拠がない以上はその“絶望の未来”を信じる訳にもいかないし、彼等自身半信半疑ではある様だが“絶望の未来”を覆す為に様々な事件を解決して来た実績がある彼等の言葉には無視も出来ない説得力があった。
「はぁぁぁぁ〜。……啓示云々はともかく、三大勢力の和平に本気で挑むつもりがあるとは一先ず信じてやるよ。まだ隠している事は色々とありそうだが、そんなもんはどの勢力にもあるからな」
「啓示に関する詳しい内容は迂闊には話せないのよ。私を含めて啓示を受けた所有者全員にギアスを掛けて発言を念入りに縛っているからね。……“夢幻”を倒せる存在とか“無限”に知られたら大変な事になるわよ」
「あーそこもあるか。……兎に角、三大勢力で極秘裏に和平の仲介をするなら確かにお前達が適任ではあるからな。これからしっかりと働いて貰う。お前らの啓示云々に付いては……」
「それは今は信じてくれなくてもいいから。三大勢力の和平と言うスタートラインに立てないならどの道“絶望の未来”には抗えないしね」
自分が想定していた以上にO×Oが抱えているモノが面倒な代物だと思ったアザゼルではあったが、同時に三大勢力の和平に向けた協力者としてO×Oが信用は出来ると判断する。
……此処まで来てしまったならこのままO×Oを抱き込んで和平を進めた方が良いと考えての事であり、同時に“啓示”やら“絶望の未来”とやらについても独自に調べるつもりでもあったが。
「私達は“絶望の未来”が来たとしても抗うつもりだし、三大勢力の和平をきっかけにして各神話勢力の協力関係を築く事を目的とするのは本当よ。……そうすれば神器所有者やハーフと言ったはぐれ者が生きやすい世界になるだろうしね。O×Oの表向きの目標も決して嘘ではないわ」
「分かった、そこは信じよう。……バラキエル達の話を含めて今日の所は得た情報を一旦持ち帰らせて貰うけどな。流石の俺も少し考える時間が欲しい」
「今日は和平についてそっちがどう言うスタンスか確認するのが目的だったからそれで構わないわ。和平も家庭問題も一回の話し合いで全部纏まるとは始めから思ってないしね」
こうして今後の世界にとって重要になる堕天使同士の会合は終わり、それから2人はまるで何事もなかったかの様に店を出てから別れて、それぞれ雑踏の一般人に紛れながら誰にも気づかれずに姿を消したのだった。
あとがき・各種設定解説
イヴェルタ:家庭問題はパワーで解決するタイプ
・そんなパワー至上主義な人物だが一応『パワーで解決していい問題』と『パワーで解決するとより状況が悪くなる問題』の区別も付いており、人格面もまともなのでO×O代表として交渉などを任される事も多い。
・原作知識を“啓示”と表現するのは単なる誤魔化しと言う訳ではなく、そもそも原作知識が単に『ハイスクールD×D』が存在する前世の記憶を持っているなんて都合のいいモノではないある種の神託や啓示に近い厄ネタであると幹部クラスは推測しているから。
・三大勢力の和平において各陣営のトップ層には原作知識の“絶望の未来”部分を話す事にはしていたが、それ以外の部分は迂闊に話す事は危険な所もあるのでまだ話さない方針。
・“絶望の未来”は輝夜の星読みで見た事にする案もあったが、アザゼルなどトップ層相手だと誤魔化しきれないだろう事、及び原作知識という名の啓示に付いて本格的に調べる必要もあるかもしれないと幹部は判断した。
アザゼル:部下の家庭問題で苦労するタイプ
・実は堕天使勢力に属していない最上級堕天使であるイヴェルタの立場を容認させる為に色々と裏で手を回したり、同時にそこまでして作り上げたO×Oについても調べ上げるなどこれまでめっちゃ仕事していた。
・啓示については『恐らく“絶望の未来”とやら以外にも未来情報を得ていて、それが組織拡大が早い一因になってる』ぐらいまでは予想しているが、相手がこれ以上話す気がないだろうとして敢えて突っ込まなかった。
・今回の一件で悪魔側が和平を望んでいると分かり天界側もO×Oであれば伝手があるので三大勢力の和平が一気に現実味が出て来たと思っているが、O×Oが隠していた事が彼を持ってしても予想外の事実だったので頭を悩ませる模様。
読了ありがとうございました。
ただ証拠もなく絶望の未来が来ると言っても各勢力のトップ層は信用してしませんけど、これまでO×Oが成して来た事と組織としての力を背景にすれば『証拠はないがアイツらが言うなら無視は出来ない』程度に思わせるぐらいは出来る……感じで描写しました。