プロローグ
ここは、本当につまらない。死んでしまいたい。
僕の名前? つまらない事聞くんだね。……ジーン。それだけ。僕が住んでるのは、アトロスって名前の孤児院。確か……アミレス王国とか言う国にあるんだっけ?
僕が今読んでる本? つまらない本だよ。夢を追ってた二人の女性の物語。……つまらない、は言い過ぎだったかな。この物語の中では、二人とも生き生きとしているし。
「なあ、出来損ない」
「何だよ」
僕の前に現れた男の子。僕を、よってたかって「出来損ない」って呼ぶ奴らの一人。
「何読んでんだよ、生意気な」
「生意気って何だよ。僕が何読んでいようが勝手でしょ」
「そういうとこが生意気って言ってんだ!!」
打たれた。気に入らない事があるといつもこうだ。僕からその本を取り上げて、どこかに去っていった。
本を取られたから、暇になってしまった。
「ダメダメだな、僕……」
僕を打った相手に呆れる。でも、嫌いにはなりきれない。優しさっぽいものはあるし、本を譲ってくれる時だってある。悪意は小さくて、些細なもの。でもそれが、僕にとっては大きく見える。
「…………」
黙って空を見上げた。絵本で読んだ事があった。
………
……
…
「シスター」
僕達のお世話をしてくれる人。
「うん? なあに?」
「もっかい、読んで」
僕が読んでもらおうとしている絵本の題名は、『天使様』。大きな字で数ページぐらしかない、内容の薄い絵本。
「うん、いいよ。『あるところに、不幸な男の子がいました。男の子は空に祈りました。「天使様、どうか、僕を助けてください」。すると、空から天使が舞い降りました。天使は男の子に幸せをもたらして、空に男の子を連れて行きました。そこは天国でした。男の子は天国で、いつまでも幸せに暮らしました』……何度も読んでいるけど、よく飽きないね?」
「……うん」
天使。人を天国に連れて行ってくれる人。僕は幼いながらに、天使が来てくれたら、と思っていた。
………
……
…
こんなに辛い状況なのに、天使様は来てくれない。
──僕ってどうしたらいいんだろう。
◇◇◇
「ねえイオフィ。いつになったらアナタは普通になれるの?」
私にそう問いかけるのは、上司であるガブリエル様。
「……すみません」
「まあ、少し出来が悪いのはわかっているけれど。それでも、言い訳がいつまで続くかもわからないのよ?」
ガブリエル様は優しかった。私の出来の悪さを、上手く上に伝えきらず、誤魔化してくれる。けれど、それもいつまで続くかわからない。
一刻も早く一人前に──つまり、誰かの守護天使にならなければならないのに、私の守護対象は一向に見つからなかった。
私の名前はイオフィエル。一応は
まず、守護天使について説明しましょう。前提として、
天使は、生まれながらに守護対象が決まっています。ですが、生まれ落ちた瞬間からその人に仕えているのではなく、生まれてからその人を探さなければならない。非合理的ですよね。でも、天使と守護対象の間には「運命の糸」があります。天使や人間含む、誰も視る事が出来ない糸。それに自然と導かれる形で、守護対象と出会います。守護対象は守護天使が視えるので、話しかけられる形で判明するっていうわけですね。
サラッと言いましたが、天使──対を成す悪魔含めて、人間界にいない存在は、人間含む下界の存在に視認される事はありません。ただし、守護天使と守護対象の間柄である場合は別、ってわけです。
天使の基本業務は、魂が根付く〝輪廻の輪〟の観察、制御及び監視です。死んで肉体から抜け出した魂を、キチンと〝輪廻の輪〟に戻して、その魂がちゃんと「次の生を得る」事が出来るかどうかを監視・観察する。天使は、その中で守護対象と出会う事がほとんど──というか、魂の管理が基本業務なだけであって、最重要業務は守護対象と出会い、守護対象が持つ魂を永遠に管理する事。
つまり、一人の人と出逢えば、その人の魂が燃え尽きて死んでしまうその時まで、寿命以外の要素から守護し、死せば〝輪廻の輪〟に戻して、また次の生を受けるまで待つ……の、繰り返しが天使の業務となるわけです。
え、難し過ぎる? ご、ごめんなさい。説明も下手なもので……。
そうなんです。私、
……私は出来損ない。そういう運命なんだ──って、悲観したくもなりますよ。
「……早く、見つけられるといいわね」
「…………はい」
ガブリエル様はどこまでも優しい。
ふと、人間界を見てみた。私の真下にある国──アミレス王国の孤児院。アミレス王国は小さな国です。ですが、国王は深い慈しみを持った人だとか。
確か、その孤児院の名前は──
そこまで考えた時、ふと、ある少年が目についた。
雪のように白い肌。黒曜石のような短い髪とのコントラストが美しい。瞳は、赤かった。赤く紅く、血の色よりも鮮やか。
「何を見ているの?」
「いえ……」
私は軽く、その〝美貌〟とも呼べる容姿に見惚れていた。
「試しに行ってみたら? もしかすると、
確かに──と思った。
今までに一度も、こんな事はなかったから。
だから私は、試しに下に降りてみる事にした。
始まりました、オリジナルシリーズ。
オリジナル短編、二次創作シリーズときてのオリジナルシリーズ。今までの経験、活かせればいいな……。