比翼の二人   作:暁悠

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 カーミラは翼を広げた。
 蝙蝠(コウモリ)のような真紅の翼が、腰辺りから飛び出している。加えて、額から翼にも似た深紅の二本角が生えていた。
 これが、夜叉姫としての真なる姿──
 久々に晒す、本気モードである。
(わたしの吸血行為を中断させた事、その罪、その罰!
 その身で以て思い知らせてやろうぞ)

 激しい怒りに身を任せて、カーミラは飛翔した。


 前回はフウマ、今回はカーミラ。サブキャラ達に焦点が当たってますね。え、ゼルエル? 彼女はフウマと一緒にいるのが存在意義なので。彼女がいないと〝風花(かざはな)〟を扱えませんからね。
 え、主人公のジーンは、だって? そりゃあ……活躍の日が来ますよ。


第九話 夜叉姫にして怠惰姫

 勝負を終わらせたフウマは、カーミラに向き直った。

「……まあ、なんだ。あんな口聞いちまったけど……アンタのお陰で倒せた。感謝してる」

 素直じゃないフウマである。しかし、それはカーミラも同じ。

「フンッ。ただの暇つぶしじゃ。それに、親愛なる民からの報告であるしな。見過ごせぬだけじゃ」

 実は、フウマが訪れていた武器屋の店主が、悲鳴を聞いて直ぐに夜薔薇城(ローズガーデン)に通報していたのだ。だからこそ、その通報がカーミラの耳まで届き、向かったのである。

 フウマが危険だと思ったからこそ、助けになろうと駆け寄ったのだが……それを素直に言わない辺り、かなりのツンデレである。

「……それに、面白いものも見れたしのう。なんじゃ、その刀は」

「あん? 俺の愛刀だよ。ゼルエルを宿した状態じゃなきゃ扱えねーのが肝だけどな」

 まず、名刀〝風花(かざはな)〟は、とても強力な武器だ。内包するエネルギーも尋常ではないので、幾らフウマといえども扱えない。

 ただし、その身に天使を宿したなら?

 半人半天(デミエンジェル)に近しい状態となり、身に宿せるエネルギーや出力、存在力も格段に向上する。その上でならば、この〝風花(かざはな)〟を扱えるのだった。

 ちなみに、極技──〝閃風(せんぷう)〟だが……こちらも、難儀な技となっている。これは、フウマが〝風花(かざはな)〟を持った状態を前提として、研鑽に研鑽を重ねて編み出した必殺技なのだ。故に、下手な武器で使うと、武器の方が耐えきれずに崩壊してしまう。しかも、技も不発に終わってしまうのだ。

 フウマの技術と〝風花(かざはな)〟があって初めて、極技──〝閃風(せんぷう)〟は成立するのだった。

「やー、大丈夫だったかい?」

 噂をすれば何とやら。武器屋の店主が、フウマ達に駆け寄ってきた。

「おう。お主のお陰で、わたしも早期に対応出来た。感謝するぞ」

「光栄です、カーミラ姫。それで……フウマ君だったかな。凄いね、君。あの剣技、思わず見惚れていたよ」

「見てたのかよ」

 この店主も観戦していたのである。ピンチの時には参戦しようかと思ったらしいが、フウマが〝風花(かざはな)〟を手にした時点でやめていた。

 美しく脈打つ刃紋。湾曲した刀身は流麗で、柄の長さに至るまで、一切の隙がなかったから。武器屋の店主故か、その刀に見惚れていた。

「それに……その、刀は……」

「おう。俺が冒険者時代に使ってた刀でな。銘は〝風花(かざはな)〟だよ」

「〝風花(かざはな)〟……素晴らしい刀だ。きっと、最高の技術を持った職人が鍛え上げた代物なんだろうね」

 ──当たらずしも遠からず、である。

「んー、まあな」

「というか、()()()()()って……今は違うのかい?」

「ああ。今は、ギルドの受付やっててな」

「え!?」

 店主は驚いて、思わずフウマを見つめる。

「勿体ないよ! あんな素晴らしい技量を持っているのに、引退している、だって!? 続けた方がいい。その技量、努力の範疇を超えている。もはや、才能の類だよ」

 実際、フウマは才能がある。才能+努力の重ね掛けをしていたからこそ、ここまでの技量を身に着けているのだから。

 確かにな──と、フウマは考える。

 今の、受付としての生活は平和で、平凡で……楽しい。けれど確かに、刺激に飢えていた。

 それならば──冒険者時代は、どうだっただろうか?

 命の危険に常に晒され、戦い、戦い、戦い……。そうやって技術を磨き、世界中を旅する。そんな生活は、もちろん危険だ。しかし……それなりの刺激(スリル)は味わえるだろうと、そう思った。

『いいんじゃない? 冒険者に戻っても。諸々の手続きは面倒だけどさ、冒険者生活、めっちゃ楽しかったじゃん!』

 トドメに、ゼルエルの後押しである。

 フウマの覚悟は、決まった。

「…………んじゃあ、そうしてみようかな」

「そうだよそうだよ、そうしな!」

「……ふむ。面白そうじゃな。お主が〝勇者〟としてわたしを討伐しに来たその時は、正面切って相手をしてやろうぞ」

「そんなの御免だよ。勝てる想像(ビジョン)が見えねー」

「くふふ、それもそうじゃろうな」

 カーミラは笑う。絶対に負けないという自信、からではなく──ヒリヒリとしたスリルを味わえるであろう、フウマとの戦いの日が、いつか来ればいいなと、そう思って。

 ただ──〝雌雄を決する〟だとか、そういった互いの状況(シチュエーション)は好ましくなかった。

(いつでも良いわ。気軽にでいい。いつか、コヤツと戦う事が出来ればいいのう……)

 ただ純粋にそう思って、いつかの明日に想いを馳せるのだった。

 

「それじゃあのう」

「おう」

 それだけ言い残して、カーミラは『空間転移』を行った。行き先は、ジーンの(もと)である。

「おわ、カーミラさん……どこ行ってたんですか?」

「言ったじゃろう。野暮用じゃ。気にするでない」

「は、はあ……」

 カーミラは、再びぬいぐるみサイズとなり、ジーンに抱かれた。

「むふふ……やはり、眺めが良いな、ここは」

「そうですかねえ……」

「そうなのじゃよ」

 先程の戦闘が嘘のように、カーミラはリラックスしていた。

 そのまま、ジーンに身を任せて進む。

 ──と、ここで、カーミラの肉体が空腹を訴えた。

(……マズイのう。どうしたものか……)

 吸血鬼における〝食事〟とは、名にある通り〝吸血〟である。しかし、血そのものではない。

 正しくは、人間や動物の血液に含まれる生気(プラーナ)である。吸血鬼は弱点こそあれど、寿命という概念を逸脱した存在。しかし明確に、永遠の命に対する代償が求められるのである。

 それが、人間が持つ生気(プラーナ)。人間と同じく、生きているだけで体内のプラーナは消費されるので、適宜摂取しなければならないのだ。

(……そうじゃ♪)

 ここでカーミラは、良からぬ事を思いついた。

「のう、ジーンよ」

 そう言ってカーミラは、ジーンの腕の中から飛び降りる。

「着いてこい!」

「えっ、ええっ!?」

 唐突にそう言い出し、どこかへ走り去るのだった。

 

 暗い暗い路地裏にジーンを誘い込んだカーミラ。

 今からカーミラがしようとしている事で邪魔(ノイズ)になるのはイオフィエルの存在だが、フウマのゼルエルと同じく今は別行動中。バレる心配もないので、何も気にせず行動に移せるのだ。

「はあっ、はあっ……カーミラさん? 何ですか、急に走り出して──って、おぁ……」

 カーミラは、一気に体を成長させる。ジーンと同じ目線になる程度にまで成長させて、体の変態を完了させた。

「くふふ……ジーンよ。ヴァンパイアが空腹を満たす方法……其方(ソナタ)は知っておるな?」

 その唐突な質問に、ジーンは何も考えずに答えた。

「え、ええ……。確か、吸血による生気の吸収、でしたっけ」

「よく知っておるな、偉いではないか」

 そう言って、カーミラはジーンの頭を撫でる。

「え、ええ……?」

「それで、わたしが何を言いたいのかというとな……ジーン、其方(ソナタ)生気(プラーナ)を吸わせて欲しいのじゃ」

「ええっ!?」

 流石に驚くジーンである。まさか、そう来るか、と。

「……駄目かのう? 今すぐにでも摂取しなければ、わたしは死んでしまう……どうか、頼むのじゃ……」

 とは言っているが、嘘である。これくらいの空腹を我慢する事など、カーミラからすれば苦ですらない。それに、死ぬ事もない。

 通常──下級から中級の吸血鬼族(ヴァンパイア)は陽光を苦手としているが、果たして、それらの始祖にして真祖たるカーミラも日光が弱点なのか?

 答えは、圧倒的に否である。太陽光どころか、空腹すらも克服した超克者なのだ。空腹とは、たまに感じる煩わしいモノ程度の認識であり、それによって死ぬ事はない。それに、たった少量の生気(プラーナ)で事足りた。

 ──しかしやはり、血の味にも差があるのである。

 ジーンはただの人間とも思えないし、その身に天使を宿す異質な存在。そんな存在の血──興味が湧かないはずがないのである。

 フウマも同じ状態なのだが、フウマに関しては隙がなかったし、作れないだろう。対してジーンは純粋で騙されやすかったので、比較的簡単に隙を作り出せた。

 それらの理由で、カーミラはジーンを選んだのだった。

(──あと、単純に可愛いしのう)

 ……というわけである。

 それに対する、ジーンの答えは──

「……いい、ですよ」

 カーミラは内心でガッツポーズをした。

(くふふ、上手くいったわ。これで、昨夜の〝お楽しみ〟の続きが出来るというものよな)

 内心で邪悪な笑みを浮かべて、表面では可愛く猫を被って。

「感謝するぞ、ジーン」

「はい……」

 ジーンは、服の襟を引っ張って首を噛みやすくした。その行為に、若干だがカーミラの頬が赤く染まる。

(こっ、コヤツ、どこでこんな技術(テク)を──ッ!?)

 なんて思っているのだが、ジーンからすれば「は?」というものである。これは吸血鬼にとって、人間で言う〝夜這い〟や〝誘惑〟に近しい行為であったのだ。

 ──ジーンはそんな事知ったこっちゃないが。

「で、では……ジーン? 良いな?」

「え、ええ……」

 下手に念を押されたので、少し躊躇してしまうジーンである。しかし、もう背に腹は変えられなかった。

 カーミラが、ジーンの首筋にかぷっと噛みつく。そして、どんどんと吸血開始。

「んっ……うぅ……」

「……」

 吸血という行為だが、人間からすれば、生気を抜かれるという感覚上好ましいものではない。壮絶な不快感を脳が訴えるので、吸血鬼という存在自体を嫌悪しかねなかった。

 カーミラはそんな事許容出来ない。なので──

「──快楽溺吸血(プレジャードレイン)

「んっうう……っ!?」

 この技は、吸血時以外には使わないように封印していた技だ。しかも、かなりの荒業なのである。吸血時に感じる苦痛や不快感を、更に強い快感や快楽で強制的に上書きするというもの。感覚が互いに相殺し合う事で両方の効果を抑えられるが、その方法上、吸血中は常に快感及び快楽が脳内を巡るのである。

「あっ……う……か、かみーら……さっ──あっ」

 なので、ジーンがこんな声を出してしまうのも、不可抗力というものであるのだ。

(まだまだ足りぬ……もっと味わいたい……)

 カーミラも強欲なもので、そんな事を考えていたのだ。故に、まだこの吸血は続く──と、思われたのだが。

 

「ぎゃああああああああああっ!!」

 

「っ!?」

 なんじゃ、クソ──というのが、カーミラの本音だ。昨夜の〝お楽しみ〟にも近しい行為を行っていたというのに、邪魔が入ったのだから。

 悲鳴からして、フウマ達ではない。そもそも、ジーン達がいるのは南東魔都〝オルテミア〟なので、フウマ達なわけがない。

 という事は、悲鳴の主はこの国に暮らす吸血鬼というわけで……。

 この国の女王にして姫として、放っておけるわけがないのだ。

「……スマンな、ジーン」

 渋々ながらに吸血を一旦止めたカーミラが、ジーンに対して呟きかける。

(かなり〝吸血〟したし、暫くは動けまい。ならば──)

 サッサと終わらせて、吸血を再開させてしまおう──そう考えて、カーミラは翼を広げた。

 蝙蝠(コウモリ)のような真紅の翼が、腰辺りから飛び出している。加えて、額から翼の色にも似た深紅の二本角が生えていた。

 これが、夜叉姫としての真なる姿──久々に晒す、本気モードである。

(わたしの吸血行為を中断させた事、その罪、その罰! その身で以て思い知らせてやろうぞ)

 激しい怒り──そこまででもない──に身を任せて、カーミラは飛翔した。

 

   ◇◇◇

 

 事件現場に付くと、そこには──

「……ほう、死霊巨竜(デスドラゴン)か。不死生物(アンデッド)……面倒じゃな。わたしが最も苦手とする……」

 実際、カーミラが得意とするのは物質存在。対して、デスドラゴンは死した竜が生前最期の思考に基づき、いわば本能のままに行動する霊的存在。エンジェルやデーモンのソレよりも性質(タチ)が悪く、保有エネルギーも強大。

 しかし、それなりに弱点もあった。

 生まれた際に周囲の素粒子や分子・原子を適当に集めて作った肉体に成仏しきれなかった魂が宿っているだけであるので、時間経過で消滅する。

 ──のだが。

(しかし、コヤツは少々肉体(からだ)が大き過ぎる……。自然消滅を待つのも手じゃろうが……被害を抑えるのが、(いささ)か面倒よな。なれば……)

 カーミラは、覚悟を決めた。本気を出す、という事である。

 カーミラの本気は、建国当時から使えているような、純血種……最低でも古代種の吸血鬼でなければ、そもそもお目にかかる事などあり得ないものであった。世界には調和が満ちていたし、戦う意味もなかったからである。

 それこそ太古の時代は、カーミラを討伐して名を轟かせようという人間がいたのだが……今は、見る影もない。

「チッ、忌々しい死霊竜(トカゲ)め。わたしの吸血を邪魔した事、後悔すると良いぞ!!」

 そう叫びながら、カーミラはデスドラゴンとの戦闘を開始した。

 先手を仕掛けたのはデスドラゴンだ。カーミラに対し、自身の『危険予知』が働いたのか、それとも本能的に危険を察知したのか。

 それは正しい行為なのだが……如何せん、相手が悪過ぎる。

「グガァアアアアアアア────ッ!!」

 デスドラゴンが、その口から〝瘴気〟たる『腐食吐息(ゾンビブレス)』を()き放つ。それは、その暴威に晒されたカーミラの肉体や精神までもを蝕む──事はなかった。

 少しの〝干渉〟を受けたし、精神面にまで攻撃は届いた。

 もっとも、それだけである。

 カーミラの手にはひと振りの細剣(レイピア)が握られていて、その干渉波ごと〝瘴気〟を()()()()()()()のだ。

「フンッ。死せる竜如きが、わたしに攻撃を当てられるとでも思ったかのう?」

 その剣の銘は──〝純白(ブラン)〟。フウマのソレ──伝承級(レジェンド)たる一太刀の〝風花(かざはな)〟をも上回る、神話級(ミトロジー)細剣(レイピア)なのだ。

 夜の女王たるカーミラに〝純白〟を冠する名前の剣だが、案外と様になっていた。

 ちなみにだが、フウマの〝風花(かざはな)〟では、『瘴気を断ち切る』などという行為は不可能だ。神話級のひと振りだからこそ可能な芸当なのである。

「死して潰えよ──〝死へと誘う剣撃(エンドマーク・エスパーダ)〟!!」

 初手から、カーミラの必殺奥義である。

 彼女のユニークスキル──人の根本原理に存在する〝大罪〟の中でも、〝堕落〟を司る権能『怠惰(スロウス)』によって、対象を強制的な死に陥れるという(モノ)

 つまり、それは〝魂〟の死という意味でもあって……。

 成仏出来ずに肉体に乗り移った不死生物(アンデッド)が相手ならば無条件の特効が入る──つまり、対象を強制的に成仏させる技でもあるのだ。

 それこそ、夜闇に輝く月光の如き技。

 優しくも容赦のない、強力無比な奥義なのだった。

 

 カーミラの〝死へと誘う剣撃(エンドマーク・エスパーダ)〟によって魂の死を迎えたデスドラゴンが終わりを迎える。素粒子で構成された肉体は粒子分解され、跡形もなくなった。

「おお、流石はカーミラ様だ……!」

「カーミラ様、万歳!」

 ──と、民衆達が声を上げている。妖艶な美女というような容姿のカーミラが、それに片手を上げて応える。すると、またも万雷の歓声が響き渡った。

(フンッ、困ったものよな。少し本気を出してしまい、せっかくジーンから吸収(ドレイン)した生気(プラーナ)も意味がなくなってしまったわ)

 民の歓声などどうでもよく、何よりもそこを気にするカーミラである。しかし声に出してはいないので、カーミラの印象は民の間でどんどんと美化されていった。

「カーミラ様は、やはり我らの安寧を願い、いつも守護してくださっていたのだ!」

「さもありなん。慈悲深いあの御方故に」

「素直じゃないところもあるが、こんなにも素晴らしい御人だったとは! 想像の上を行ったよ!」

『カーミラ様万歳! カーミラ様万歳!』

 ──と、もはや(うるさ)いまでの歓声が上がっていたのだった。しかし、そんな事は既に蚊帳の外。道を開けるように言って、急いでカーミラはジーンの下に帰るのだった。




 カーミラもなかなかの強キャラ。え、まだ神話級(ミトロジー)の武器がどれだけ凄いかわからない?
 無理もないですね。安心してください、大丈夫ですよ。物語が進む事に、あの武器の異常さが際立ちますから。
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