比翼の二人   作:暁悠

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第二話 初めての冒険者活動

 時は流れて。

 当時十歳だったジーンは、十七歳になった。去年の十六歳がこの世界の成人であり、もう立派な大人である。成人と同時に孤児院から出る事になるので、ジーンも晴れて独り身──ではなかった。

『さて、これまでの勉強を活かして、この世界で暮らそう!』

『そうだね、イオフィ。ちょっと楽しみだな』

 彼の中には、一人の天使がいた。名を、イオフィエル。出来損ないの智天使(ケルビム)

 孤児院から出るまでには、様々な苦悩があった。

 続くいじめ。それを相変わらず傍観の姿勢を崩さないシスター……等々、字面だけ見れば変わっているようには見えないが、成長に伴った精神性の形成において、いじめっ子達はより邪悪に、残酷に変わっていった。それに伴って、いじめがよりハードなものに変わるのは、想像に難くない。

 しかし──諦めるだけだった、出来損ないのジーンではないのだ。彼には、頼もしき相棒とも呼べる天使がいた。無論、イオフィエルである。

 イオフィエルは出来損ないだったが、それを補うための知識は膨大だった。過去の歴史から、現在の世界情勢。簡単なもので行っても地理や国語、数学に魔法、様々な武術まで。天界でそれが披露される事はなかったのだが、その知識を諦めずに蓄え続けた努力が報われた形である。

 それに、イオフィエルは教えるのも上手かった。これも、相手がいなければ成立しないので、出来損ないと忌避されていた天界で日の目を見る事はなかったのだが……思わぬ形で、その才能も日の目を見る事が出来たのである。

 よって、定期的に行われる試験(テスト)で、ジーンは上位にランクインし続けた。最終的には一位となる程にまで知識面で成長していた。

 では、武術は?

 これに関しては、二人とも悩みに悩んだのだ。何せ、ジーンはそこまで体格が良いわけではない。背的にもイオフィエルとは勝手が違うので、イオフィエルも苦悩したのである。それでもめげずに教え続け、ジーンも努力し続けた結果……弓術のみは、最優秀で終わる事が出来た。イオフィエルの武術における得意分野は弓術だったのだ。

 そして最も注目を浴びたのが、魔法である。当たり前だが、これは天使の一番の得意分野だからだ。当然イオフィエルも、天界では最優先で習得した分野である。

 結果、元素魔法・精霊魔法・召喚魔法・神聖魔法とある中で……必要がない〈召喚魔法〉と、精霊をその身に宿す必要がある〈精霊魔法〉は除外するとしても、〈神聖魔法〉は素晴らしい域に達していた。ただ、神や天使への祈りや想いを魔法現象に変換する、魔を滅する魔法であるからして……その魔法が脚光を浴びた時に、彼が変な目で見られたのは言うまでもない。

 そうして、ジーンは壮絶ないじめに遭いながらも、強く生きた。そして、今日に至るのである。

『といっても、何していいかわかんないけど……』

『そうだなぁ……最初にやるとしたら、やっぱり日銭を稼ぐ事じゃない?』

 それを聞いて、ジーンは確かに、と思った。同時に、盲点だった、とも。

『お金稼ぎ……って言っても、どうしよう?』

『人間界なら……やっぱり、冒険者?』

 冒険者。当然ながら魔獣や魔物が存在するこの世界では、最もメジャーな職業。

『ジーンは魔法が得意なんだし、魔獣も簡単に倒せると思うよ』

『そうだね。とりあえず、登録に行こうか』

 そう言いながらジーンが向かったのは、町中にある冒険者ギルドだ。そこで、冒険者登録や依頼(クエスト)の確認・受諾を行うのである。

 ちなみにだが。ジーンは戸籍がない。ただ、冒険者にはそういうのも多いので、冒険者登録に戸籍情報は必要ない。

 建物の中に入ると、受付嬢がジーンに話しかける。

「いらっしゃいませー! 見ない顔ですね。冒険者登録ですか?」

「はい」

 慣れたものなようで、ジーンの目的を一瞬で見抜いた。

「それじゃあ、一応は魔力測定しますね」

 この世界では、魔力……というか、大気中に浸透している魔力──一般的ではないが、〝魔波〟という呼び方もある──への干渉力を元に、最初のランクが決まる。

 受付嬢が魔力測定用の水晶球(オーブ)を取り出す。いそいそと準備をして……。

「さてと。それじゃあ、これに手を当ててくださいねー」

「はい」

 ジーンは、恐る恐る水晶球(オーブ)に触れる。ドキドキだ。果たして、結果は──?

「──はい、ありがとうございます。Cランクってところでしょうか。初めてにしては、凄いですよ」

 Cランク──受付嬢の言う通り、初心者であれば上位ランクである。

 冒険者のランク分けは、S+、S、A+、A、A-、B+、B、B-、C+、C、D+、D、E、Fとランク分けされている。ただし、これは魔力測定に基づくランク分けなので、格闘や武術特化ではFやEに分類される事もある。まあ、その場合は後になって直ぐにAランク辺りに登り詰めるのだが……。

 まあ、まずまずなようで安心だ。

 そうして、ジーンの冒険者認証登録が完了する。同時に、認証カードも発行された。これはとても便利なもの。魔法で作られているのだが、対象の冒険者としての現状によって記述が変わるのである。主に、達成したクエストの数と現在のランクが変わる。これ以上なく便利なものだった。

「それじゃあ、早速依頼の確認をさせてください」

 諸々の手続きが終わったので、早速依頼を見てみることにする。

「あ、はい。向こうに張り紙がありますよ」

 冒険者ギルド内には、依頼(クエスト)を扱う掲示板があった。そこに、依頼(クエスト)内容が印刷されて張り出される形である。こちらもランク分けされているので、かなりありがたい仕様だった。

「えーと、Cランク適性の依頼(クエスト)は……あ、あった。巨体狼(ベアウルフ)の討伐依頼だ」

『ベアウルフかぁ。意外と楽勝なんだね、Cランク適性のクエストって』

『馬鹿言わないでよ。人間から見たら結構な脅威なんだよ? ベアウルフって』

『へえ、そうなんだ』

 イオフィエルの感覚は、人間のものと比べて少しズレていた。いやまあ、イオフィエルは天使なので当たり前といえば当たり前なのだが……。

「あの、すいません──」

 ここで、ジーンは少し後悔する。名前を聞いていなかったな、と。ところが、ジーンのそんな様子を察したのか、受付嬢は「アテネ」と名乗った。

「アテネさん。この、ベアウルフの討伐依頼。受諾しますよ」

「了解しました。場所はアミレス王国とガルート共和国の国境付近の森なので、すぐ終わるでしょうね」

 あ、結構近いな──と、ジーンは思った。ジーンが立ち寄った冒険者ギルドの施設は、その国境にかなり近い場所に位置していたのだ。アテネの言う通り、確かにすぐ終わるだろう。

「了解しました」

「あ、そうそう」

「はい?」

「最近、凶悪な魔獣が増えているので、十分に気をつけてくださいね」

「わかりました」

 それだけ言って、ジーンはその場を後にする。

 ………

 ……

 …

 場面は移り、アミレス王国とガルトー共和国の国境付近にある、大森林にて。

『それっぽい魔獣は見つからないね』

『うん。ここでベアウルフを見たっていうのも、勘違いなんじゃないかなって、疑ってきたところ』

 ジーンはイオフィエルの助言の元に、あまたの魔獣を葬っていた。しかし、依頼にあった巨体狼(ベアウルフ)は見つからない。

 暇なのもあったので、イオフィエルとジーンは談笑しつつ、森の魔獣を殺して回っていた。

『そういえば、アテネさん……だっけ。受付嬢の』

『うん』

『あの人が言ってた、凶悪な魔獣が増えてるって話。ちょっと不穏だよね』

『え? いやいや、杞憂でしょ。イオフィはポンコツだから、心配し過ぎなんだよ』

『ちょっと、それどういう事!? 私は確かにポンコツだけど、そこまで馬鹿じゃないってば! それに、意味わかんない理論だし!』

 イオフィエルは、頬を膨らませてプンプン怒っている。ジーンは内心で案外可愛いなと思いつつも、世間話を続けた。

『それで、一応聞くけど不穏ってどういう感じ?』

『魔界繋がりだと思うんだ』

『魔界?』

 聞き慣れない単語……ではない。流石のジーンも、世界情勢に触れる中で何度か聞いた覚えがあった。確か、天使とは対を成す〝悪魔族(デーモン)〟が生息する、人間界とは別の世界だとか。

『それって、悪魔が住むっていう?』

『そうじゃないんだよね』

『えっ?』

 ジーンからしてみれば驚きだった。ずっと『魔界は悪魔の世界』と聞いて育っていたので、すっかりそういう固定観念が染み付いていたのだ。

『確かに、人間の間では悪魔界の事を魔界って呼ぶけどさ。天使(わたしたち)の間では別の意味を持つんだよ』

 それからイオフィエルが話した内容は、本当に驚きに満ちたものだった。

『まずだけどさ。悪魔達が住む場所は〝冥界〟って呼ばれてるの。ほら、死後の世界とも言われてるあれ』

『ほうほう』

 冥界。人間の間では、天国と似たような意味を持つ言葉。

『それじゃあ魔界は何なのって言う話なんだけど……邪神界』

『邪神界?』

『そう。位置関係としては、この人間界の上に天界が、下に冥界があるんだけど……魔界はその更に下の下。天使が聖なる存在だとしたら、悪魔や魔獣、魔物……邪悪なる存在を統べる存在(モノ)こそ、そこに住まう数百の邪神達』

『え、複数いるの?』

『当たり前だよ。そりゃ、悪魔や天使程じゃないけど』

 悪魔も天使も、人間の数に比例して数を増やす性質がある。ただし、邪神は全く違った。

 (てん)()(かい)(びゃく)の時代から存在する、全く素性が不明の存在。いつ増えるのか、いつ減るのか、どうやって増えるのか、減るのか……。そこに、意思があるのか否か。

 何もかもが不明。ただ、力だけを持つ存在なのかもしれない。

『……中には、(えん)()(じゅう)って呼ばれてるヤツもいる。ソイツは何度か人間界に干渉した事があって、その時の悪魔の王と熾天使長が協力して魔界に追い返したんだよね』

 まさかと、ジーンは思った。悪魔と天使の王達が協力して対処しなければいけない存在なのかと。

『でも、それって何百年前の話よ? もしかしたら何千年? 追い返されたんだし、(えん)()(じゅう)も懲りるでしょ』

『そうだといいんだけどね……』

 イオフィエルは、不安を拭えない様子だった。

 ──と、世間話もそこまでに。

『お、見つけた』

 ジーンの視線の先には、凄まじい巨体を持つ狼──間違いなく、討伐対象である巨体狼(ベアウルフ)だった。しかし、問題が一つ。

『えっと……数、多くない?』

 ベアウルフは、四体程いたのだ。もしかするとその場にいないだけで、他にもいるかもしれない。

『あちゃちゃ、運悪かったね。一体だけならCランク相当かもだけど、徒党を組まれると……最低でもB+からA-ランク適正のクエストじゃないかなぁ』

 イオフィエルがなんでもないように言うが、ジーンからしてみればたまったものではない。

 どうしろと──と、頭を抱える事になった。しかし、イオフィエルはそんな様子を察する事もなく、作戦を提示する。

『面と向かって戦っても勝てないよね。だったら、ちょっと小狡い戦法に頼ろうか』

『小狡い戦法?』

『簡単だよ。面と向かって戦っても勝てないなら、バレてない今の状況を有効活用しよう』

 つまり、現時点の最大威力での奇襲。

『ジーンなら扱えるんじゃない? 最高位の〈神聖魔法〉の、〝破邪の光(ディスインテグレーション)〟』

 ああ、そういう──と、ジーンは納得した。

 そうと決まれば。

『それじゃあ、始めようか……。──天使イオフィエルへの祈りを、ここに(ささ)(たてまつ)る』

 神聖魔法の構造は至って単純。祈りや想いを魔法現象に変換する魔法とは言ったが、実情は違う。祈りや想いを特殊な〝魔波〟──〝聖波〟とも呼べる特殊な波に変換し、信仰対象である天使に届ける。それにはもちろん、聖波を操作する〝神聖力〟を消費する。

 その〝祈り〟と〝神聖力〟を対価として、天使が持つ力の一部を発現させる。これが、神聖魔法の基本構造。

 その身に天使本人を宿すジーンからしてみれば、この魔法が最優秀だったのも頷けるというものであった。

 そして、詠唱が終わる。

『──邪悪を滅せよ、〝破邪の光(ディスインテグレーション)〟』

 邪悪とは、魔波を身に宿すものを指す。まず、魔物や魔獣だけでなく、悪魔や人間も、その身に魔力を宿している。魔力とは、大気中の魔波に干渉する力であり、操作する力。神聖力や神聖魔法によって操作する聖波は、その魔波及び魔力を破壊する力を持つのである。

 故に、天使という聖なる存在の力は、邪悪を滅する光の力と言われているのだ。

 光の柱がベアウルフの群れに降りかかり、一瞬にしてベアウルフを消滅させる──事にはならなかった。まだ練度が低いので、完全消滅には至らない。ただし、激痛によるショック死を遂げているので結果オーライである。

『上手く消せなかったんだね』

『消しちゃったらクエスト完了にならないから。別にいいんだよ』

 死体が残らないと依頼を完了させた事を証明出来ないので、これでいいのである。

 後はこの死体を、魔法で作り出した『格納空間』にしまって、ギルドに戻れば全てが完了である。最初のクエストにしては、上々の成果なのではなかろうか。

『いえーい!』

『い、いえーい……』

 ジーンとイオフィエルが、精神世界でハイタッチ。イオフィエルによる物理的な干渉は限られているので、精神世界で行う他ない。

 かくして、ジーンとイオフィエルの、最初の冒険者活動は、上々の成果に終わったのだった。




 やっぱりオリジナルは難しいなあ。頑張らなくっちゃ。
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