比翼の二人   作:暁悠

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第三話 ユニークスキル

 冒険者ギルドに戻ってきたジーン。早速、クエストの完了を受付嬢(アテネ)に知らせる。

「おお、一日の内に完了しちゃいましたか。それじゃあ、ちょっと『格納空間』内を見ますね」

 受付嬢は、全員〈解析魔法〉やそれに準ずる能力を持っていた。この世界で能力とは、異能力とも呼ばれる、超常現象を起こす能力だ。

 主に、種類は三つ。

 一つ、レアスキル。

 人が鍛錬等の「努力」や何らかの「成長」を介して受け持つ、ごく一般的な異能。それぞれ種類があるが、それも多種多様。

 二つ、コモンスキル。

 レアスキルより下位の能力。種族固有だったり、生まれながらに持っているちょっとした能力を指す。

 そして三つ、ユニークスキル。

 個有能力であり、人によって全く異なる千差万別の効果を持つ特殊な能力。人間は生まれながらに有しているが、コモンスキルのそれとはわけが違う。それよりも遥かに強力であり、その人個人を表す能力と言っても差し支えない要素。とても都合が良いように設計されていて、ユニークスキルは人間が四歳になると自動発動し、それで知覚する事が出来る。

 ちなみに基本原則的に、ユニークスキルは一人一つ。ただし、人間の中でも突出した英雄達の中には、ユニークスキルを二つ有している者もいるとかいないとか。

 話を戻すが、その解析系統の魔法及び能力を使用する事によって、その者の魔法によって作り出された『格納空間』にも干渉出来るのだ。

「…………って、わあ!? ちょっと、なんでベアウルフが四体も?」

「あ、あはは……依頼では一匹だったのに、四匹もいたもので……」

 ジーンは、アテネに事の顛末を話した。聞いている最中のアテネの反応は、概ね『信じられない』というものだったが。 

 

 それから、ジーンの冒険者情報の更新が行われた。更新後のランクは、なんと──

「B+!?」

 もの凄い飛躍である。

「えっ、これ、間違ってませんか? 本当にB+でいいんですか!?」

「はい。ベアウルフ四匹の討伐なんて、たったCランクの冒険者に出来ていい事ではないですから」

 そう説明されても──と思うジーンである。

『凄いじゃん! 一発目のクエストでCランクからB+ランクに昇格とか、凄いよ!』

『とは言ってもさあ……急展開過ぎて、ちょっと信じられないな』

『私の教え子だもん。これで当たり前レベルだね!』

 なんて言っているが、イオフィエルも内心では驚いていた。

(うわ、すっご〜い……まさか初クエストで三段階ぐらいすっ飛ばしちゃうなんて……)

 と、いった感じに。

「よっし。この勢いのまま、たくさんクエストこなそう」

「それがいいですよ! 幸先良好ですしね」

 アテネも、ジーンを応援する姿勢のようだ。

 ──と、そこに。

「オイオイ、誰かと思ってきてみりゃ……出来損ないのジーンじゃねーか」

 筋骨隆々といった感じの、いかにも高価そうな鎧をその身に纏う男。

 それは、ジーンをいじめていた奴の一人──アルマだ。

「…………」

『コイツはあの時の……ちょっと、懲らしめたくなってきた……』

 物理的干渉が不可能にも近しいのに、イオフィエルはそんな事を言っている。そんなイオフィエルを、ジーンは大人の対応で(なだ)めた。

『……大丈夫。ここで騒ぎを起こすのは良くないから』

『でも……』

『大丈夫だってば』

 イオフィエルは折れた。実力的にも、最悪の場合でもジーンが負ける事はないだろうと考えたのだ。

「なあ、出来損ない風情が冒険者活動かよ」

 アルマは、ニヤニヤしながらジーンの肩に腕を回す。

 アルマは、歳がジーンの二つ上だった。それも、成人を迎える前に、国の良家に引き取られたので、玉の輿……と言っていいのかはわからないが、かなり裕福な家庭で育っていた。いじめの主犯格は別にいたので、アルマが去ってもいじめが終わる事はない──どころか、主犯格がいなくなっても続くだろうと予測出来たので、それに大した意味はない。

「オマエ、魔法だけは出来たもんな。でもよ、見てみろよ。オレはもうAランクにまで登り詰めてる。お前にゃ、到底辿り着けない領域よ」

 ニヤニヤとしながら語ったそれは、ただの自慢話。なんて暇な奴──そう思ったジーン。だったが……。

「なあ? 実力の差ってモンが理解出来たら、黙ってオレに服従──ボヘェ!?」

 ジーンが、素早くアルマの腹に肘打ちを叩き込んだのだ。鎧に守られていたにも関わらず、肘打ちによる衝撃は防がれる事なくそのままアルマの内臓へと到達した。それもその筈で、この肘打ちには神聖力が込められていたのだから。

「……二度と、その口を開くな。ジーンは優しいから許してあげたけど、私は許さないよ」

 男とも女とも取れるジーンの声。しかし、その口調はその性別に関わらず女性のもの。

 そう。誰あろう──イオフィエルが、ジーンの体で喋っていたのだ。

 どうしてそんな事が起きているのか。

『なんて暇な奴』と、ジーンが思った時。彼は、油断していた。それはアルマに対してではなく……イオフィエルに対して。その隙に、イオフィエルは一時的にジーンの肉体の支配権を強奪。肩に腕を回すアルマの腹に、超強烈な肘打ちをお見舞いしたのである。

「──はっ、はあっ!? き、急にどうしたってんだァ!? それに〝私〟ってテメエ……そうか、気でも狂っちまったの──グフッ、ゴハァ!?」

「二度と、その口を開くなと言ったはず」

 尻もちをついて座り込んでいたアルマの顎を蹴り上げ、宙に浮いたアルマの体──それも鳩尾に、正拳突きをお見舞いするイオフィエル。

『ちょっと、イオフィエル!? 何して……』

 ジーンはそう叫ぶものの、それは激情に駆られたイオフィエルには届かない。長い間行動を共にしてきた友達を真っ向から侮辱されようとしている現状を、イオフィエルは許せなかったのだ。

 情に厚いのも、イオフィエルの大きな長所。しかし……それが、悪い方向に転がってしまったのだった。

 

 アルマは気絶してしまったので、病院に運ばれていってしまった。

『ねえイオフィエル? 何が悪かったか、自分で言ってご覧?』

『……勝手にジーンを乗っ取って、アイツをボコボコにしました……』

『そうだね、そうだよね。何してくれてるの?』

 イオフィエルは、当たり前だが精神世界にて、ジーンに長々と説教されている。普段温厚なジーンも、イオフィエルによる暴挙には流石に怒っていた。

(むう……いいじゃんか。私はただ、良かれと思って……)

 当のイオフィエルは全く反省していないのだが、何という事だろうか、それがジーンにバレる事はなかった。まだまだ、反省までの道のりは長い。

 それでも。

(……ちょっと嬉しいな。イオフィが、僕のために怒ってくれたなんて。今までこんな事、なかったしな……。やっぱり、友達って素敵だ)

 怒りながらも、ジーンはそんな事を考える。いい意味で、お似合いな二人なのだった。

 

 アテネがジーンを睨む。ジーンは申し訳なさそうに視線を逸らす。

「ちょっと、急に何してるんですか。今回はアルマさんが悪かったけどね、とんでもない暴挙ですよ!?」

 流石のアテネもお怒りのようだった。当たり前である。

『反省してよね』

『すみませんでした……』

「キチンと、働いてこの無礼を詫びてください」

「えっ?」

「え、じゃないですよ。当たり前ですよね? 普通だったら、迷惑料として金貨三枚支払ってもらうところですからね」

 金貨三枚。この世界では、普通の剣等の武器が変える値段。迷惑料としては普通な値だが……それを帳消しにする代わりに、働けとアテネは言っているのである。

 そんな事を言い出す辺り、アテネもかなり図太い。

「とりあえずは簡単なクエストから消化していってください。これとか」

 そう言ってアテネが提示したのは──

「……迷子の子供?」

「そうです。最近〝雲海の森〟で、行方不明の子供が続出しています。解決してきてください」

 解決してきてください──有無を言わさぬ圧力が、その言葉には籠もっていた。かなりの騒動を起こしてしまったという自覚があるジーンには、とても断る事など出来ない。

「……はい」

 渋々と言った感じで、その依頼を受けるのだった。

 

『依頼の報酬は金貨十五枚か……上々だねえ』

『うん。元は金貨三枚だったのにね』

 ベアウルフ討伐依頼の達成報酬は元々金貨三枚だった。しかし、四体の同時出現と同時撃破に伴って、ランクアップと共にそれ分+ボーナスが加算され、金貨十五枚という値段にまで膨れ上がったのである。

 そして、今回の依頼。〝雲海の森〟にて相次いでいる、行方不明の子供の捜索。

 雲海の森とは、ガルート共和国との国境の森より北に行った、アルバス帝国との国境付近に位置する、濃霧が常に発生している森林である。そこは別名として〝迷いの森〟と言われているだけあり、道に迷う者も多いのだ。行方不明。それも、子供の行方不明者が増えるのも、少し考えれば頷ける事だった。

『でも、何だか不穏な感じだ……』

『また? ベアウルフの時だってなんでもなかったんだし、今回も杞憂でしょ』

『そうだといいんだけど……』

 イオフィエルは不穏な雰囲気を感じ取っているようだったが、ジーンはそれを信じようとはしない。杞憂だろうと割り切って、雲海の森に歩を進めていく。

 

   ◇◇◇

 

『困ったな……霧が濃過ぎて、周りがほとんど見えない……』

『そうだね。結構進んだと思うけど、アルバス帝国に辿り着く気配もないし……』

 ジーンはイオフィエルからの助言で、方向感覚を失わないように直進だけしている。人間の足とはいえ、数時間も歩けばかなり進む事が出来る。しかし森が広いのも事実なので、数時間程度では隣国に辿り着けないのも当たり前なのだが……イオフィエルは天使ゆえか、感覚がやはりズレていた。

『そんな早く着くわけないでしょ。もうそろそろ夜が来るし……どっかで野宿しなくちゃ』

 そう言いながら進んでいると、少し開けた場所に出た。よしと一息ついて、ジーンは野営の準備を進める。『格納空間』から野宿用のテント等々を取り出して……ちゃちゃっと、手際よく準備を終えた。

「うーん……」

『どうしようか? 進むのもいいけど、戻れなくなったら困るしなあ……』

『そうだよね。確かに暇だけど、今日はもうここで過ごそうか』

 イオフィエルもそう言うので、ジーンはそのままそこで過ごす事にした。幸い、食料には困らない。報酬の金貨十五枚の内、十枚程使ってたんまり食料を買い込んでいたからである。

『あっ、いいなあ、それ。美味しそう……』

『ふふふ……天使のイオフィエルには体験出来ない事だもんね』

 ジーンはニヤリとしながら、焚き火で焼いた肉を頬張る。

『う〜〜〜、ズルイズルイ!』

『へへーんだ』

 そんな感じで、平和な口論を繰り広げる二人。

 気楽そのものであった。

 

 明くる、翌朝。

「ふあぁ〜……よく寝た」

『おはよう、ジーン』

 ジーンは、ちゃっちゃと朝食──焼肉の残りと簡素なサラダ──を食べ、野営テント等を『格納空間』に仕舞った。

『よし、と。今日で結構進みたいな』

『そうだね。時間はあるもんね』

『食糧に限界はあるけど、ね……』

 ジーンの心配といえば、食糧が尽きる事だけといっても過言ではなかった。そこまで実力をひけらかす性格でもないが、自身の実力を確認する事ぐらいする。結果、ジーンはそこら辺の魔物には負けないと感じていた。

 なので、特に気負う様子もなく、ジーンは〝雲海の森〟を進む。迷いの森とも呼ばれている森だが、いつかは出られるだろう──と、気楽な事を考えながら。

『あ、そうだ』

『うん? どうしたの、イオフィ』

『聞いてなかったなって』

『勿体ぶらないでよ』

『うーん……ジーンのユニークスキルって、どんなの?』

「え?」

 思わず、声に出して聞き返してしまうジーン。

『いや、使ってる様子なかったし。使いたくないのかなって、どんなのか気になって』

 対するイオフィエルは、単純に疑問をぶつけているだけだ。そこに、悪意はない。

 ただ、ジーンにとって〝ユニークスキル〟というのは、地雷的要素だったのだ。

『……僕の、ユニークスキル?』

『うん、そうそう。だって、使ってないでしょ? 使う必要がないくらい地味なのか、使っちゃいけないくらい強いのか! どんなのか、すっごく気になって──』

『ないんだよ』

『え?』

 イオフィエルは、素で聞き返してしまう。最初は、どういう事か、理解出来なかったから。だが、少しずつ、少しずつ、イオフィエルの思考回路が理解を始める。

(ユニークスキルの事、聞いて)

(ないって、答えられた)

 考えてみれば、単純な事だ。それに理解を要するのは、ユニークスキルというのがこの世界で馴染み過ぎて、あって当たり前なモノだという認識だったから。

 だが、ジーンの答えはNO。

 つまり、持っていない。ユニークスキルを使う使わない以前に、所有していないのだ。

『えっと……それって……?』

『あのね、イオフィエル。ユニークスキルは、人間が四歳くらいになったら自動発動して、能力を認知出来るのは知ってる?』

『うん……勉強したし、そうって書いてあった』

 書いてあった──というのがどういう事なのか、ジーンには理解出来なかった。ただ、話の腰を折るわけにもいかないのでスルーする。

『僕は……ずっとあの孤児院にいたんだ。孤児院(アトロス)に。でも……四歳になっても、ユニークスキルは発現しなかったって。笑えるよね。その時、それを知った時から、僕は出来損ないだったんだ』

 ジーンへのいじめ。出来損ないという蔑称。

 ジーンが可哀想だとは思いつつも、イオフィエルはそれがなぜ起きた事なのか、聞いてもいないし理解もしていなかった。それが、ほんの些細な疑問から判明してしまった。

 出来損ない。イオフィエルも、出来損ないだった。けれどそれは、天使としての役目を果たせていなかったから故の蔑称。運命の相手を見つけた今、もうその汚名は綺麗に返上出来ていた。定期的に送る『魔法通話』でも、ガブリエルはイオフィエルを褒めていた。

 自分は、もう出来損ないじゃない──そんな自信をつけた矢先に、これである。なんだか……誇らしい気持ちが、直ぐに霧散するようだ。

 イオフィエルは、なんで聞こうとしなかったんだ──と、真っ先に後悔した。

 いつだって、ジーンの愚痴を聞いてあげたり、励ましてあげるだけだった。悩みを解決しようとしたりはしたが、もっと根本的な──いじめの原因を探る事はしなかった。本人的にも、それはデリケートな問題だと思ったのだろう。触れない方がいい事もある──そう割り切っていた。実際、それは有効である。

 ただ……どうして悩みを共有させなかったのかと、過去の馬鹿な自分を責めた。

(……当たり前、じゃないって……苦しい、事のハズなのに)

 イオフィエルはその気持ちが誰よりも理解出来るつもりだっただけに、ショックでもあった。自分はこんなにも視野が狭かったのか、と。

 では、今、彼にかけてあげるべき言葉は?

 下手な事は言えない。これ以上、彼の地雷を踏み抜くわけにはいかない。

 謝るのも違う。かえって、彼が何か……何とも言えない、どす黒い感情を抱きかねない。

 では、どうすればいいのか?

『あるじゃん、ユニークスキル! 私と運命で結ばれてるんだもん! これ以上ないユニークスキルだよ!』

 天真爛漫に、溌剌(はつらつ)に。ただ、何でもないみたいに、そう言うしかなかった。実際にはそれ以外にもあるのだろうが、イオフィエルはそれしか思いつかなかった。

『────ははっ、なんだよ、それ。おかしい奴』

 ジーンは笑った。笑ってくれた。

 イオフィエルはバレないように内心でホッとして、別の話題にシフトする事にするのだった。




 いじめはどんな世界でも怖いね。
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