戦いも終わり、フウマとジーンは談笑していた。
「いやあ、疲れたな」
「ですね。けど、フウマさんが来てくれたお陰で、思ったより楽に倒せましたよ」
「そうか? なら、良かったんだがよ。やっぱり、グレイブドラゴン製の装備を作っといた方がいいんじゃねーか? 見たところ、やっぱり〈格納魔法〉を使えるんだろ?」
「確かに……平時はそこに格納しておくのがいいんですかね」
「ああ。魔法タイプにしろ戦士タイプにしろ、持っておくに越した事はねーからよ」
そう言って、フウマは笑った。
そんな中で。
『ねえジーン。ちょっとさ、土人形作ってくれない?』
イオフィエルがジーンに頼んでいるのは、地属性の元素魔法:
『え? 別にいいけど……』
断る理由もないので、ジーンは魔法で土人形を作り出した。すると──
「えっ、え?」
ジーンの肉体から天使が抜け出す。そして天使は、ジーンが作り出した
当然ながら、一連の流れを知らないフウマは驚愕している。
「………………だ、誰だ、アンタ?」
そう聞くのがやっとだった。
「私はイオフィエル。この子に
「っ!?」
フウマは更に驚愕した。まさか、と。
(どうして気づいてやがるんだ……?)
『ねえ、フウマ。あの子がやったように、私にも
『あ、ああ……』
フウマも言われた通りに、
髪は赤く、瞳は金色。なんとなくイオフィエルの色合いを逆転させたような印象を受ける、美麗な天使の姿へと。
ゼルエルが動き出す。ゼルエルは、真っ先にイオフィエルの方──実際には、ほぼ真隣──へと飛び出して──
「久しぶり、イオフィ姉ちゃん!!」
イオフィエルに抱きついた。そんなゼルエルを、イオフィエルはご満悦で頭を撫でている。
「え、知り合いなの?」
「うん。ほら、血は繋がってないけど兄弟みたいな間柄──っていうのが、確か人間にはあったでしょ? あんな感じ。存在としての繋がりは希薄だけど、絆で確かに繋がってる間柄なんだよ」
イオフィエルは微笑みながら、そう説明した。
「それにしてもゼルエルちゃん。どうして失踪していたの? 私と同じくして──ゼルエルちゃんの方が時期的には先だけど──運命で結ばれた人と過ごしていたの?」
「そういうコトだよ。そこのフーマが、私の
「へえ、そっか。でも、権天使長の仕事をケルヴィエルくんに丸投げしてたのはどうかと思うな。定期連絡ぐらいすれば良かったのに」
「いや、ははは……フウマ、私の力を酷使するから──」
「さり気なく俺に責任を擦り付けるんじゃねー」
ゼルエルはバレないように、チッ──と、舌打ちをした。
「……忘れてたんだね?」
イオフィエルにそう言われると、少しだけビクッとするゼルエルである。これがケルヴィエルだったならば大いに反論していただろうが、相手が愛しの──どちらかと言うと姉の──イオフィエルに言われてはそれも無理。
「……はい」
なので、ゼルエルにしては素直に自分の非を認めたのだった。
「いやいや、ホント驚きだよな」
──との感想を述べるのは、フウマだ。
「本当ですよね。まさか、僕みたいなのが他にもいるなんて」
ジーンも同意する。彼自身も、もしかしたら──と思った事はあった。けれど、イオフィエルが自分に宿ったのは自分が『天国に連れて行って欲しい』と願ったから、そう思っていたジーンは「ないない」と思っていたのだった。
「だよね。まさか私も、ここでゼルエルちゃんと再会するなんて」
イオフィエルも同じである。何度も言っているが、イオフィエルにとってゼルエルは妹同然の大切な存在で──再会を喜ばない筈がないのだ。それに、それはゼルエルも同じ。かなり苛烈──というか、フウマに似て乱雑で乱暴──な性格だったのだが、イオフィエルに甘やかされるのは満更でもなさそうであった。
「あっ、そうそう! 驚きなんだよね。イオフィ姉ちゃんがちゃんと責務を全うしてんの!」
「ちょっとゼルエルちゃん、失礼過ぎないかな?」
流石に苦言を呈するイオフィエルである。しかし、ここで思わぬ人物から質問が飛んできた。
「そんなに出来損ないだったの、イオフィ?」
ジーンだ。
「ちょっ、ジーン!? ジーンまでそんな事……」
「なになに、知りたいの? 教えてあげたっていいんだけどねー」
「ちょっとゼルエルちゃん!」
イオフィエルは急いでゼルエルの口を手で塞ぐ。
(ジーンってば、最近なんだか私の事馬鹿にしてない? ──まあジーンは優しいし、ないだろうけど。でも……うーん、やっぱり疑わしい)
なんて思っているイオフィエル。しかし当然、ジーンは──
(ああいうところ、結構かわいいんだよね。ほら、いじり甲斐があるというか、可愛い子にチョッカイかけたくなるような感じというか……)
当然、というのは撤回しよう。斜め上の感想を抱いていた。
(……なんでだろ。イオフィが誰かと親しくしてると……モヤモヤ? する……?)
ジーン自身、なぜか正体不明の感情を抱いていた。それこそ
それを、抱いてしまっていた。
だからか、何故か。
「えっ──?」
「あっ」
ジーンは、イオフィエルの腕を引いていた。
「ああっ、ちょっと……。どうしたの、ジーン?」
「あ……」
しまった──と、早々にも後悔するジーンである。
そんな二人に、ニヤニヤとした視線を送る二人がいた。
「なあ、あれってよ」
「多分ね、そうだよ。こりゃ、面白い事になりそう」
紛れもなく、フウマとゼルエル。
そんな視線に気づいたイオフィエルだったが、今はそれどころではない。
(本当にどうしちゃったんだろう……?)
鈍感にも、結構真面目にジーンの事を心配するイオフィエルである。ただし、鈍感なだけで馬鹿──ではあるかもしれないが、何も察し力がないわけではない。
(あの二人……今の状況を何だと思ってるんだろう? もしかして、ジーンが私に恋心を、とか? 馬鹿馬鹿しいなあ……)
鈍感だった。心の中でそう断じてしまう辺り、イオフィエルは鈍感だ。しかし──とも思う。
(けれど、本当だったら、無視しちゃうとキズついちゃうかな……ジーンって結構
イオフィエルお得意の観察眼が功を奏したのか、イオフィエルはかなり正確にジーンの現状を察した。そこで、最悪の決断に至る。
(ウフフ、ちょっと
そう、
色々と頭の中で考えを整理し終わった後、ジーンにバレないようにゼルエルに向けてウインクをした。その合図で、ゼルエルは色々と察する。
(ウインク? 合図、かな。一体何を企んでるんだ、イオフィ姉ちゃんは? けど、私達の
長い間一緒にいたからか、ゼルエルもイオフィエルの思惑を察してしまった。同時に、困惑する。
(面白そうなのはいいけどさあ……カゲキなのは止してくれよ……?)
それだけが心配なゼルエルである。何とは言わないが、
(……アレは……結構大変だったな……)
一緒に過ごしていたゼルエルは、イオフィエルに人間同士──それも、
(頼むから、あんまソウイウ事はしないでくれよ……)
人間界でフウマと暮らす内に、考えを改めている。異常だとは思わない──人間にも、
ここは森の中だが、それでも入ってくる人はいるだろう。
万が一の時にはあの子から引き剥がそう──と、ゼルエルも身構えていた。
そして、イオフィエルが行動に移る。
「どうしたの、ジーン? 寂しいの?」
「えっ、いや……」
「じゃあ、どうして離してくれないのかなあ?」
イオフィエルがジーンの耳元で囁く。
あっ、やっぱマズイかも──と、もっと早くに止めておくべきだったと後悔するゼルエル。しかし──
(……ま、気になるよな。もうちょっと見てみるか)
意外と好き者なゼルエルであった。
構図としては、小柄な美少年に美少女が詰め寄っている、何とも甘い関係性の匂いがするようなものだ。しかし当の本人達──特に、イオフィエル──にはそういう気がないのだから、驚きである。
「あ、の、ごめん、イオフィ」
「待って待って」
直ぐに離れようとするジーンの腕を、今度はイオフィエルが掴んで引き寄せる。十七歳とはいえ、平均以下の小柄さを持つジーンだ。イオフィエルにとって、力づくでも引き寄せるのは容易い。その力に引っ張られたジーンは、イオフィエルの懐に
「うふふ、素直になればいいのに」
「えっ、う、あの……あ……」
対するジーンは、目を白黒させて赤面していた。
「かわいいなあ……」
イオフィエルは、ジーンの首筋にそっとキスをして──
………
……
…
「はー、楽しかったー!」
そう告げるのは、ある程度の悪戯を終えたイオフィエルである。対するジーンは、少しぐったりしていた。というか、何が何だか理解出来ず、心臓の動悸が止まっていない。
途中、何か扉のようなものが開く幻覚に襲われたらしいが、それは幻覚。まあ開かない方がいい扉なのだろうと断じて、既に忘却の彼方である。
というか、何をされたのか鮮明に思い出せなかった。ジーンは、ほぼ何も考えず、途中からイオフィエルに身を委ねていた。なので、覚えてなくても無理はない。
(……もの凄い事されたような……)
そんな感覚だけ、残っているのだった。
そして、問題は外野である。
「……………………」
フウマは、硬直していた。コイツら、嘘だろ──と、軽く驚愕している。
「…………♪」
対するゼルエルは、もう手遅れだ。
(なんだか、いいもの見たな。眼福眼福……♪ まさか、外野視点だとこんなにも〝イイ〟ものだったなんて)
そんな事を思っている。
本当に救いようがない天使であった。
その裏で。
「おい、大丈夫か?」
「…………は、はい……なんとか……」
「散々な目にあったな、アンタ。ちょっと同情するぜ……」
この場では常識人のフウマが、体に力が入らないジーンを支えていたのだった。
◇◇◇
その後、四人でアルバス帝国の冒険者ギルド〝エイン〟支部に戻ってきた。見知らぬ美少女が二人もいるという事で少しザワついたのだが、それはどうでもいい事である。
「……ああいうの、控えてよね」
「うふふ、ごめんごめん」
ジーンがそう言ったが、イオフィエルに反省の色は見られない。
その光景を横目に、こりゃ駄目だな──と思うフウマなのだった。
「そういえば、俺の方に戻んねーの?」
「この状況見てよ。戻れると思う?」
今度はゼルエルがイオフィエルの標的になっていた。イオフィエルは宝物のようにゼルエルを抱きしめて離さず、頭を撫でている。ゼルエル自身満更でもないので、嫌とも言えない。というか、まだ撫でられていたいとすら考えていた。
なので、戻れるはずがない──そう考えるのである。
「そうかよ」
半ば諦め気味に、フウマはそう答えた。
なんか主人公がフウマに変わってませんか……?
ま、まあ……。おねショタも百合も書けましたし。いっか。
ちなみに、ジーンの身長は十七歳なのに百六十四センチくらいです。イオフィエルは百七十三センチくらいなので、マジでおねショタ。いいね。
癖ぇ!