比翼の二人   作:暁悠

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「これはこれは、名乗り忘れておりましたな。私の名は、アイヴィー」
 恭しく礼をして、その男──アイヴィーは名乗った。


 扉が開き始めた瞬間、中から声が聞こえた。
「帰ったか、アイヴィー! 
客人を案内するだけなのに、
少し手間取り過ぎではないか?」

 そう叫ぶのは、尊大な態度で玉座に座る──誰あろう、
(きゅう)(けつ)()カーミラ・ツェペシュだ。
 しかし、ジーン達が想像していたのとは裏腹に──
「「ちっちゃ!?」」
『かわいい……!』

 そう、小さいのだ。その小さい体で、
実に尊大な態度で──玉座に、ちょこんと座っている。
「むっ、何じゃ、無礼な。ソヤツらが客人か?」




(〝『転スラ』書籍の扉絵(?)のアレ〟をやりたかった系作者)


第七話 夜薔薇の吸血姫

 明くる日。

 アルバス帝国の〝エイン〟にある宿で目覚めたジーン。

 隣には──イオフィエル。結局イオフィエルはゼルエルを解放し、ゼルエルはフウマの中に戻ったのである。しかし、イオフィエルは戻る事なく──そのまま、ジーンと共に過ごしたのだ。

 少し複雑な感情を抱くジーン。

(なんだか……イケナイ感じが……)

 こんな感じに。

 まあ、それはそれ。ササッと着替えて、支度をする。

 そして──

「イオフィ、イオフィってば。早く起きて」

「ん〜、むにゃむにゃ……あとごふん……」

 五分も待てないよ──と、ジーンは溜息を吐く。

(昨日は結構〝お姉さん〟っぽかったのに。すぐコレだよ)

 コレだから出来損ないちゃんなんだよね──と思いながら、ジーンはイオフィエルの肩を揺らし続けるのだった。

 

   ◇◇◇

 

 宿のチェックアウトを済ませて、イオフィエルと共に外へ出てきたジーン。

 入口では──

「おう、遅かったじゃねーか。まさかとは思うが……」

 そう言いながら、フウマがイオフィエルに視線を送る。視線の先にいるイオフィエルは、まだ眠そうで、目を擦っていた。

「うん、そうなんだよね。イオフィ、寝起きが悪くて」

 天使なのにね──と、ジーンが笑った。

 昨日の一件で、ジーンとフウマはお互いタメ口で話せる程度には距離が縮まっていた。なので、ジーンは緊張する事もなくフウマに話しかける。

「眠そうだね、イオフィ姉」

「う〜ん……? ああ、ゼルエルちゃん……ごめんねえ、()()()……まだねむいや」

 欠伸(あくび)をしながら、イオフィエルが答えた。この対応には、流石のゼルエルも溜息を吐く。

「天使って、普通は寝ないんだよ。土人形(ドール)とはいえ肉体を手に入れたから、ジーンさん──」

「ジーンでいいよ」

「じゃ、遠慮なく。だから、イオフィ姉は……ジーンと、同じように過ごそうとしたのかも」

 鋭い指摘で、的を射ていた。

 その指摘に、ジーンはなるほど、と思う。イオフィエルは前から、人間(ジーン)と同じような生活を送りたがっていた。

 食事、睡眠。その他、人間の基本的な生活習慣。イオフィエルも真似ようとしていたのだが、如何せん、肉体がなかった。霊体のみで存在出来る、いわば霊的存在とも言えた天使族(エンジェル)では、それは不可能だったのだ。

 しかし、依然霊的存在ではあるものの、肉体に宿る事が出来た。自然の元素で構築された肉体で、十分に人間の真似事が可能だったのだ。

 結果が、これである。

「いざ寝てみたら、イオフィ姉がこんなに朝に弱かったなんて……知らなかった」

 当たり前である。天界では、〝寝る〟なんて事はしてこなかったのだから。したとしても、失敗していただろうが。

 昨日はジーンに対してお姉さんぶっていたのに、すぐコレである。結局は残念属性がついてしまうイオフィエルなのだった。

 

「それで、ほい」

 フウマがジーンに差し出したのは、一枚の依頼書。内容は、正体不明の魔獣の討伐。

「今の俺達にピッタリの依頼、俺が持ってきてやった。戦力としては申し分ないだろうしな」

 ジーンとしては聞いてないですよ!? という案件なのだが、仕方ない。ジーン自身、〝正体不明の魔獣〟という文言に魅入られていた。

(面白そうだ……)

 率直な感想を思い浮かべるのだった。

「場所は隣の、魔国〝ツェペシュ〟近くの森だ。らしいと言やあ、らしい場所だよな」

 今ジーン達がいるのは、西大陸の中央に位置する大帝国〝アルバス・ラムリエ・ウルメリア西方帝国〟の〝エリン〟。

 アルバス帝国は、西方大陸の五割を領地とする大帝国だ。皇帝アルバス・ラム・ウル・デーヴァが統治しており、全臣民の自由と平等を(うた)う国。首都は〝アルバス〟という。

 対して、アルバス帝国より東南に位置する魔国〝ツェペシュ〟は、正体不明の国。貿易を行う国は一切ないが、それでも未だに生き残っている国。悪魔の国や魔の巣窟と恐れられる場所でもあり、やはりそこでの魔獣・魔物討伐は冒険者ギルドに丸投げされるのだ。

「よしっ、依頼はもう受注してんだ。早く行こうぜ」

 というわけで、四人は魔国〝ツェペシュ〟に向かって移動を開始した。

 

   ◇◇◇

 

 場所は移り、アルバス帝国と魔国〝ツェペシュ〟の国境にある、〝()(そう)の森〟──

「……やっぱえげつないな。事前に二人を戻しといて正解だったぜ」

「だね。戻してなかったら、今頃〝瘴気〟に蝕まれて凄い事になっていたかも……」

 凄い事というと抽象的かもしれないが、大体はあっている。二人はその身に天使を宿す超特例なので無事だったが、普通の人間ならば、立ち寄った時点で〝瘴気〟に侵され、精神──及び魂を蝕まれ、死に陥っていただろう。様々な意味で、この二人に適任の依頼(クエスト)なのだった。

 そして、早速。

「おやおや、お客人ですかな? この森の〝瘴気〟に蝕まれないとは珍しい……この森による〝試験〟を突破したという事でしょうかな?」

 二人の目の前に現れたのは、紳士風の装いの男だ。口元には小さな犬歯が覗いており、その者を──吸血鬼族(ヴァンパイア)だと言わしめている。

「誰だよ、アンタ」

 やはり、フウマは強気に出る。敵だったとしても、自分達なら勝てるだろう──そう思っての行動である。

「これはこれは、名乗り忘れておりましたな。私の名はアイヴィーと申します」

 恭しく礼をして、その男──アイヴィーは名乗った。

 アイヴィーは結構な高身長だ。今の仲間(パーティ)内では高身長な部類のフウマに負けず劣らず。測るとすれば百八十二センチ程だろうか。執事(バトラー)のようなタキシードを身に纏っていて、その片目には黒縁のモノクルが。同じような様相のニックとアイヴィーだが、ニックの方が数万倍は胡散臭かった。

「アイヴィー? 聞かねー名だけど……」

「フウマ。その人、吸血鬼族(ヴァンパイア)だ。犬歯がある」

 そう言われてフウマもアイヴィーの口元を見てみると、確かにそこには小さな犬歯が覗いていた。

「……アンタ、ヴァンパイアなのか?」

「ホッホッホ、お気づきになられましたか。如何にも。私は魔人国家〝ツェペシュ〟の女王にして姫、カーミラ様の忠実なる執事(バトラー)で御座いますれば」

「カーミラ!?」

 驚愕の声を上げたのはフウマだ。

「カーミラって言うと……数百年前から存在が確認されてる、大吸血鬼だろ? まだ生きてんのかよ? 勇者か誰かが、もうとっくに討伐したもんだと……」

「そんなまさか。人間に負ける程、あの御方も(やわ)ではありますまいよ」

 魔国──もとい魔人国家〝ツェペシュ〟を統治する初代女王にして現代女王、カーミラ・ツェペシュ。吸血鬼族(ヴァンパイア)の始祖であり、真祖であり、女王。その力は未知数だが、フウマは勇者アギレラならば討伐可能だと考えていた。しかし、彼女の執事によると〝否〟だという。見栄を張っているという考え方も出来るが──

(確かに、ヴァンパイアの女王からすりゃ、人間なんて弱い奴らだよな。そんな俺達に嘘を吐いたとて、そこまで利があるわけでもねーし……わりかし本当なのか? おいおい、どんな強さだってんだよ、女王カーミラってのは……)

 と、かなり考え込んでいた。

「ささ、この〝瘴気〟を抜けられたという事は、それなりに実力があるという事でしょう。今は引退なさっているようですが、現に──そこのアナタ、名はフウマ……でしたか。数年前にSランクの冒険者として、記録が残っています」

 嘘だろ!? ──と、少し焦るフウマ。

(おいおい、ヤバイぞマジで。つまり、俺の手の内はもうわかってるってこったな? 冒険者ギルドの方に潜入して情報を入手した可能性もあるが……実際に、俺の戦いを観てた可能性もある。勝機があるのはジーンだけかよ……)

 そう、愚痴りたくなるのも頷けるものであった。

「……知ってんだな?」

「生き残る為、情報収集は基本中の基本ですから。案内しましょうぞ。我等が〝ツェペシュ〟の首都──〝トランシルヴェリア〟に」

 

   ◇◇◇

 

 アイヴィーに案内され、二人は森を進んでいく。

『ヤバイ、ヤバイよ!!』

 イオフィエルが、ジーンの中で叫んでいた。それは警告ではなく、どちらかと言うと──

『ヤバイってば!! 私、前々から〝ツェペシュ〟に行ってみたいと思ってたんだぁ! しかも女王様の側近の案内付き!? やっぱりズルイよ、ジーン!!』

 歓喜していたのだ。もう既に、クエストなど忘れて旅行気分である。

『ちょっとイオフィ、はしゃぎ過ぎじゃない?』

『ジーンにはこの凄さがわからないの!? あの魔国〝ツェペシュ〟を旅行なんて、滅多に出来る事じゃないんだよ!? 楽しまなくっちゃ!!』

 ま、はしゃぐ気持ちもわかるけど──と、ジーンも思った。ジーンだって、人類が訪れた事のない国を──もしかすると一番に──訪れる事が出来たのだ。しかも、女王側近の案内(ガイド)付き。なんて幸運な事だろう。

 数分歩いて、森を抜けると、そこには──

「って、はあ? 何もねーけど」

 フウマが愚痴る。それもその筈で、そこには、一つの国がスッポリ収まりそうな程大きな空き地が広がっていただけだからだ。

「八分くらい歩いたけどさ、何もねーんじゃ来た意味ねーじゃん」

「まあまあ、落ち着いてください。もう少し歩きましょう」

「は? どこに?」

「前に、で御座います」

 アイヴィーがそう言うと、二人を構わず歩き出した。そして──

「って、消えた!?」

 直前まで前を歩いていたハズなのに、突如として消えた。

「おいおい、どういう事だよ!?」

 流石のフウマも驚いている。

「歩いてくださいと言ったでしょうに」

 ニュッと、アイヴィーの顔と首だけが現れた。

「おいおい、どうなってんだ!?」

「いいから、前へ」

 仕方ないので、言われた通りに歩き出す。すると、ある一定の場所まで進んだ瞬間、景色が──

「変わり過ぎじゃない!?」

 その瞬間、目の前に現れたのは常夜の街。魔国〝ツェペシュ〟は全体が特殊な『結界』によって隠されており、太陽光は完全反射で内部は星が煌めく常夜。

 そして周囲から見える景色を欺瞞しているため、中に入らぬ限りそこはただの空き地となっている。しかしそれでも魔国〝ツェペシュ〟の話が残っているのは、内部に入った人間がいるから。誰あろう、勇者アギレラである。

「ここが、先ずは初めの一歩……最初の魔都〝クリシュナ〟であります」

 魔国〝ツェペシュ〟は幾つかの街に分かれており、それぞれ、

 中央魔都〝トランシルヴェリア〟

 南西魔都〝オルテミア〟

 南東魔都〝ムンテリア〟

 東方魔都〝モルドヴァ〟

 北東魔都〝プルヒナ〟

 北方魔都〝マルムレシュ〟

 西方魔都〝べナット〟

 そして、北西魔都〝クリシュナ〟となっている。

 最も広大な二つの都が中央魔都〝トランシルヴェリア〟と南東魔都〝ムンテリア〟であるが、やはり最も目を向けるべきは中央魔都〝トランシルヴェリア〟であろう。何しろトランシリヴェリアには、吸血鬼の始祖にして真祖、(きゅう)(けつ)()カーミラが住まう城──夜薔薇城(ローズガーデン)があるのだから。

 そんな説明を受けながら、三人は北西魔都〝クリシュナ〟を進む。かなりゆったりと進んでいたが、途中で「休みたくなった時は」と宿を紹介してもらえたので、時間を気にする必要はほぼなくなった。

 

 数時間ほど、説明を受けながら歩いただろうか。そこで、街の景色は一変する。

「おわ、大都会じゃねーか!」

 つまるところ、中央魔都及び、首都〝トランシルヴェリア〟に到着したのだ。

「大事なお客人ですからな。先ずは、カーミラ姫との謁見で御座います」

 フウマとジーンは、少し面倒くさいと思った。すぐにでも、この街を見て回りたかったからだ。

 それとは真逆の意見を持つのは、イオフィエルである。

『早く会いたいな、カーミラ姫! (ちまた)ではとっても可愛いお姫様って噂なんだよ?』

 イオフィエルの言う巷とは、天界の事である。この魔国〝ツェペシュ〟は天界からも観測不可なので、そのためだけに天界から抜け出して観光に来る天使までいる始末。天使ならば〝瘴気〟も簡単に中和出来るので、軽く観光スポットになっていたのだった。

 そうして、アイヴィーは二人を夜薔薇城(ローズガーデン)へと招待した。城に入り、真っ赤なカーペットを歩いて進む。

 城内のいたるところに、常夜の国に似つかわしくなく、それでいて自然に溶け込んでいる白い薔薇が飾られていた。ところどころ、白百合も紛れ込んでいるようだ。

 そうして歩いていく内に、謁見の間の前へと辿り着く。

「この先にカーミラ様がおります。かなり苛烈な御方故、怒らせないようにしてくださりませ」

 最後にそう忠告され、謁見の間の扉が開く──

 

 扉が開き始めた瞬間、中から声が聞こえた。

「帰ったか、アイヴィー! 客人を案内するだけなのに、少し手間取り過ぎではないか?」

 そう叫ぶのは、尊大な態度で玉座に座る──誰あろう、(きゅう)(けつ)()カーミラ・ツェペシュだ。しかし、ジーン達が想像していたのとは裏腹に──

「「ちっちゃ!?」」

『かわいい……!』

 そう、小さいのだ。その小さい体で、実に尊大な態度で──玉座に、ちょこんと座っている。

「むっ、何じゃ、無礼な。ソヤツらが客人か?」

「ははっ、そうでございます」

「ふむ……初手から無礼な態度で接された故、わたしを討伐しに来た勇者か何かかと思ってしもうたわ。安心せい、客人ならば歓迎しよう」

 カーミラは、まだ成長途中の胸を張って述べた。

 そんな中、ジーンの中では──

『ねえ見てよジーン! ほら、ちょこんって感じだよ! かわいいいいいいっ!!』

 イオフィエルが暴れていた。

『ちょっとイオフィ、うるさい』

『だって可愛いんだもん! あんなにちっちゃな胸を張って……想像以上にかわいい!』

 救いようのない天使である。

 ──と、そこで。カーミラが玉座から降り、ちょこちょこと歩いて、ジーンの前で止まった。

「……え、と、どうしました?」

「……ふむ。お主、美しいのう」

「えっ」

 告げられたのがこれである。

 確かに、ジーンの容姿は少女と言われても遜色ない程に洗練された美しさを持っていた。それが、カーミラのアンテナに引っかかった形である。

「お主、泊まる宿はもう決めておるのかの?」

「い、いえ、まだ……」

「ならば決まりじゃ! これから、この国に滞在する時は我が夜薔薇城(ローズガーデン)の一室を貸してやろう! そこの美しい者もじゃ。アイヴィー、手配せい!」

「ははっ」

 そう答えると同時に、アイヴィーは謁見の間から立ち去った。途中〝美しい者〟と形容されたのはフウマだ。フウマは、ジーンのような中性的及び少女的な美しさを持つのではなく、男性的な美しさを持っていた。かなりの美形(イケメン)なのである。

 そんなこんなで……二人の、魔国〝ツェペシュ〟滞在が決まってしまったのだった。

 

   ◇◇◇

 

 アイヴィーに手配された一室にて、フウマが魔法通話を行っていた。

『ちょっと、それどういう事ですか!? 魔国〝ツェペシュ〟に滞在するって……』

 フウマが繋げた『魔法通話』を介して、少しの怒号が飛ぶ。通話の相手は、どうやら後輩のようだ。あんなに乱雑なフウマに敬語を使っていた。

「言っただろ? 俺、〝()(そう)の森〟のクエスト、やろうとしてたじゃん? その途中で、〝ツェペシュ〟に招かれちまって……」

 フウマは何でもないように告げるが、もちろん通話の相手は納得しない。

『はあっ!? どういう偶然が重なればそんな事起こるんですかっ!? ……まったく、運がいいのか悪いのか……』

「良い方だと思うぜ。カーミラ姫に気に入られちまったし」

『……もうツッコむのはやめました。他の受付に〝エイン〟支部は任せておきますから。引き継ぎせずに出向かなかった分、マシです。魔国〝ツェペシュ〟に滞在なんて凄い事なんですから……どうぞ満喫してきてください』

「へいへい……」

 そう言って、フウマは魔法通話を終わる。──と、そこに。

「話は終わったかの?」

「うぉあっ!? いたのかよ……」

「うむ。気になったのでな。一応は魔法妨害を解いておって正解じゃったわ。察するに、同僚への連絡であろう?」

「あ〜……まあ、そんなとこだ。それで、何の用だよ?」

「特にない。魔法通話を繋げるのに苦戦しておったのを察した故、魔法妨害を解いておいた……そのついでに立ち寄っただけじゃ。気にするでない」

 そう言うと、カーミラは扉をすり抜けるようにして外に出ていった。

「……何でもありか、吸血鬼の女王(カーミラ・ツェペシュ)

 フウマのそんな呟きが、その部屋に木霊(こだま)するのみだった。

 

 視点は移り、フウマの部屋の隣──ジーンに用意された部屋。そこでは──

「う〜〜〜っん……もっかい見てみたいなあ」

「イオフィ……」

 イオフィエルが、そんな呟きを漏らしていた。

「だって、見たでしょ? あの子、すっごく可愛いんだもん」

「まあ、確かに──」

 そこまで言ったところで、イオフィエルが急いでジーンの中に入っていった。抜け殻となった土人形(ドール)は、自動でジーンの『格納空間』に消える。

 次の瞬間、ジーンの部屋にカーミラが音もなく入ってきた。

「おう、お主もお取り込み中じゃったか?」

「いや、別に……」

「ならば良いがな」

「それで……用件は……?」

 ジーンは恐る恐る(たず)ねた。

「ちと寝台(ベッド)に座るが良い」

「え……?」

 逆鱗に触れると怖いので、ジーンは言われた通り、ベッドに座る。すると──

「おわっ!?」

「ふむ。やはり居心地良いな……」

 カーミラがちょこんと、ジーンの膝の上に座ったのだ。

「え、ええ……?」

「なんじゃ、不満かのう? やはりわたしでは小さ過ぎるかの?」

 カーミラは首を傾けて、視線だけジーンに向けた。

「…………いえ、大丈夫ですけど」

 実際、大丈夫なのだ。カーミラは、ジーンの懐に収まる程度には小さかったから。

「……撫でよ」

「へ?」

「撫でよと言っておるのじゃ」

「は、はい……?」

 突然の申し出に困惑しながらも、ジーンはカーミラの頭を撫でる。

「むふふ……良いぞ、もっと撫でるのじゃ」

「はい……」

 困惑続きだが、慣れが来たようだ。特に何も考えず、ジーンはカーミラの頭を撫で続ける。

 と、そこで、カーミラがジーンの膝の上から降りた。そして、靴を脱いで自分もベッドの上に乗った。

「ジーンよ、お主の事気に入ったぞ! 近う寄れ」

「は、はい?」

 もう何が何だかわからず、ジーンはベッドに手をついてカーミラに近づく。すると──

「んむっ!?」

 瞬きよりも短い時間で、カーミラの顔がジーンに接近する。そうして、またたく間に顔同士の距離は縮まっていき──唇が触れ合った。

「んっ、んぐ……ん〜〜〜っ!?」

 ジーンは急いで離れようとするが、カーミラはそれを許すまじとジーンを抱きしめる。かなり強い力で抱きしめられ、ジーンは逃げる事が出来ない。そういえば、カーミラの体が膝に乗せている時よりも大きく感じる。

 次第に、ジーンの口の中にカーミラの舌が捩じ込まれた。抵抗虚しく、ジーンの体はどんどんと脱力していく。

 ちゅるちゅると舌が絡み合う。同時にカーミラの唾液も流れ込んできて、その少し甘い香りがジーンの脳を蕩けさせていく。

 少しして、カーミラは接吻(キス)を止めた。

「ぷはっ……かーみら……さん……?」

 見てみると、カーミラの姿形が変わっている。小さかったカーミラをそのまま大人にしたような、美しい様相。

 深い夜色の長い髪。サラサラとしていて、天鵞絨(ビロード)のようななめらかでツヤのある質感。色白の肌は、ジーンのそれとは毛色の違う透明感と美しさを持っていた。服装も、いつの間にか漆黒のドレスへと変わっている。

 極めつけは、全てを見通すような真紅の瞳。血の色よりも鮮やかで鮮烈な色の瞳で、ジーンを見つめていた。

「くふふ、この姿を見せるのは初めて故にな。驚いたであろう?」

 妖艶な笑みを浮かべながら、カーミラはジーンに問う。しかし、答えは返ってこなかった。

「……ふむ。無理もないか」

 それだけ呟いて、カーミラはジーンをベッドに押し倒す。

「くふふ……お楽しみはこれからじゃ。とくと味わうが良いぞ♪」

 しかし──

「ちょいちょい、ちょ〜〜っと待ったぁ〜〜っ!!」

 カーミラの背後で、何者かが叫んだ。

「ウルサイのう、何じゃ、何者じゃ」

「何者じゃ、じゃないよ! 私はその子に()いてる天使だよ!!」

「ほう、そうか。お主がおったからコヤツも〝瘴気〟を抜けられたのじゃな。感謝するぞ」

「そりゃどうも──じゃなくって! ()()ジーンに何しようとしてるワケ!?」

 怒った様子のイオフィエルが叫ぶ。その問いに、カーミラは何でもないように答えた。

「何って、お楽しみじゃが? お主こそ、どうしてわたしのお楽しみを邪魔する?」

「どうしたもこうしたもないよ!」

 カーミラは、渋々といった感じに体を起こした。そして、ベッドから降りる。

「そうそう、それでいいんだよ」

「そうか」

 カーミラはそのままイオフィエルの前まで歩き──

「んぐっ!?」

 ジーンと同じように、甘い接吻(くちづけ)を行った。

 イオフィエルの心情としては理解に苦しむものである。

(えっと、ちょっとちょっと!? カーミラ姫、何して──っ!?)

 驚愕していたイオフィエルだったが──やはり、イオフィエルの口の中にもカーミラの舌が捩じ込まれる。

「ふっ……んんっ……んっ、ふ……」

 イオフィエルは脱力し、その隙に壁まで追い詰められる。腕も、壁に押さえつけられてしまった。

「ぷはっ……ぁ……」

「ふふふ、可愛いではないか。……っと、そうじゃな。お楽しみとはこういう事じゃ」

「はぇ……え……」

「そこで、お主に提案がある」

「あぇ?」

「お主、アヤツの事を好いておるかの」

「ええ!?」

 あまりの想定外さに、思わずイオフィエルは叫んでしまった。そーっと確認すると、ジーンは放心状態といった感じで、あの問いが聞こえている様子はなかった。

 それを確認すると……イオフィエルは、声に出さず、小さく頷く。

「ふむ、ならば良い♪ それで提案なんじゃが……わたしと一緒に、この〝お楽しみ〟をアヤツにしてやらぬか?」

「っ!?」

 この提案には、流石のイオフィエルも驚いた。

 驚いた。しかし、それだけだ。すぐに、いいかも──と思い始める。

 数秒だけ悩んだ末に──コクリと、頷いた。

「そう来なくてはな♪」

「あと……あの子は、ジーン」

「ジーン……そうか。良い名前じゃな。それでは……始めるとしよう」

「……だね……♡」

 少しばかりの愛情を抱いたイオフィエルは、カーミラと共にジーンの方へと歩み始める──




 長い!! 長過ぎる!!
 しかし……のじゃロリからのじゃ美女(?)に変化するカーミラに私の癖が詰まっています。おねショタはいいですね。

 カーミラは美しい(可愛い)モノ好き。
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