比翼の二人   作:暁悠

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「──極技──〝閃風(せんぷう)〟──」
 同時に駆け出した、すれ違い際。
 フウマは、納刀状態にしていた〝風花(かざはな)〟を一気に抜き放ち──
 ケルベロスを、一瞬にして塵にしてしまった
 極技──〝閃風(せんぷう)〟とは、フウマが編み出した剣術奥義である。
 風の勇者たる(わざ)であり、
 (あまね)く風の如く、一瞬で相手を切り刻む技。
 その太刀は、舞い上がる落ち葉すらも──粉々に切り刻んでいた。


(恒例行事にしようか迷っています。やりたいと思った時でいいや。そして……やっぱり、一日空いてしまいました! ゴメンナサイ!! 許して! 格好良く書いたから!(?))


第八話 風の勇者

 ──明くる、翌朝。

 ジーンは目覚めると、両隣にイオフィエルとカーミラを発見した。

(えっ、えっ!? どう、どうなってるのコレ!?)

 すぐに驚愕・困惑し、昨日の記憶を探り始める。

(そう、確か……昨日の夜かな? カーミラさんが僕の部屋に来て、膝に乗って、頭を撫でて……それで……)

 そこまで考え、ほぼ全てを思い出した。同時に、ジーンの頬がみるみる赤く染まっていく。

(えっ、ええ〜〜〜〜〜っ!? 僕、僕は……なん、なんて、なんて事に……)

 想定外過ぎた。

 ジーンも、こんな展開望んでないよ!! と声を大にして叫びたいものである。

 ──と、その時。

「おや、起きたか。くふふ……おはよう、ジーン」

「……お、おはようございます……」

 カーミラが薄っすらと目を開けた。起きた、というより、ずっと起きていたのだろう。ジーンが起きたから目を開けた。ただそれだけである。

 そしてジーンは、考えるのをやめた。面倒くさくなったのである。

 なので。

「起きて」

「んん〜〜……? ん〜〜〜……」

「早く」

 ジーンは、少し強めにイオフィエルの肩を揺する。頬を軽く叩く。

「ん〜〜……あとごふん……」

「五分も待てないよ!」

 ジーンが少し怒鳴ると、イオフィエルが飛び起きた。

「おぁよう……ジーン……」

「おはよう」

「ふむ。ジーンと違い、お主、寝覚めが悪いようじゃな」

「う〜〜ん……? うん……」

 そう話しかけるのは、ジーンがアレコレやってる内に魔法で着替えたカーミラである。

 説明しよう。この時、カーミラが使った魔法は、装換魔法(ドレスチェンジ)である。かなり便利な魔法なのだが、使用には事前に『格納空間』及び格納魔法を覚えておく必要があるので注意だ。

 もちろんジーンはその条件をクリアしているので、難なく習得済みである。イオフィエルがカーミラと少し会話している内に、ジーンも着替えていた。

 そして、まだ眠そうなイオフィエルが二度寝しようとしたので、半強制的に体内に戻した。イオフィエルがジーンの精神内に戻ってしまえば眠る事は不可能なので、これで問題なしである。

「さて、ジーン!」

「はい? って!? ちょ、ちょっとっ!? ──あれ?」

「ふふん」

 カーミラが、ジーンに飛び掛かる。当然、ジーンは身構えたのだが……ふと、違和感を覚えたのだ。カーミラを受け止めようとしたのだが、自身の腕の中に収まる何かの感触を覚えた。

 隠す事でもないので言ってしまうが、カーミラである。ジーンとのファーストコンタクトの時よりも更に小さく、ぬいぐるみ程度の大きさになったのだ。

「お、おお……凄いですね……」

「ふふ。わたしも、あの天使と似たような存在でのう。ヴァンパイアの姫や女王とも呼ばれておるが、彼奴らとは〝格〟が違う故な」

 カーミラの種族は吸血鬼族(ヴァンパイア)ではなく、正しくは真血夜叉姫(ハイ・ヴァンパイア)である。

 ()(しん)にして、(きゅう)(けつ)()。カーミラは吸血鬼族(ヴァンパイア)の始祖であり真祖であるが、同時に、鬼族(オーガ)の始祖でもあるのだ。

 その存在は天使族(エンジェル)悪魔族(デーモン)と同じく、半霊的存在である。いわば肉体を得た霊とも言うべきで、肉体の大きさや質量は思い通りに編集可能なのだ。故に、ぬいぐるみサイズになってジーンの懐に入り込んでいるのだった。

 

   ◇◇◇

 

 部屋から出ると、ちょうどフウマも外に出てきたようだった。フウマは、ジーンの腕の中にいるカーミラを見て、一言言った。

「……何だ、それ? ぬいぐるみ?」

「失礼な! シッカリとわたしじゃ!!」

 シッカリと──の意味はわからなかったが、ちゃんとカーミラ本人なんだな、と思う。そう思ったのも当然で、フウマはカーミラの肉体が伸縮自在な事を知らないのだ。

「カーミラさん、体の大きさが自由らしくて」

「へえ。そんな能力持った吸血鬼族(ヴァンパイア)なんて居たかねえ。ま、吸血鬼族(ヴァンパイア)の姫様だったら、何でも出来たってオカシくねーけど」

 その感想を聞いて、カーミラは少し嬉しそうにする。やはり、他人から褒められて悪い気など起こそう筈もないのだった。

 ──と、ここで、ジーンは気づく。フウマの背後にも人影があり、それはゼルエルだった。

「あれ、ゼルエルさんも出てたんですか」

「おう、ジーン。おはよう。イオフィ姉は……まさか?」

「そうそう。二度寝しようとしたから、強制帰還させた」

 ゼルエルは、はぁーーーやれやれと、大きな溜息を吐いた。

「お主も天使か? イオフィエルと知り合いのようじゃな」

「え? あ、はい。姉妹つーか……イオフィ姉は、私の姉ちゃん的存在っていうか……」

「ふむ。まあ、深くは聞くまい。フウマの中に宿っておったのじゃろう? フウマの滞在を許可した以上、お主にもその権利があるじゃろうて」

 カーミラは、尊大な態度だがそれとは裏腹に意外と寛容なのだ。審査や判断基準もユルユルなので、カーミラとしては──

(ま、別に問題なかろう。あるとしても、その時はアイヴィーに任せれば良いわ)

 なんて考えていた。アイヴィーが聞いていれば、即座に「無茶を言わないでくだされ、姫!!」と、軽く怒号を飛ばしていただろう。しかし、この場にアイヴィーはいないので、さして関係のない事だった。

「今日は昨日以上に自由にしてもらっても構わんぞ。まあ、わたしはジーンと行動を共にするが」

「へいへい。それじゃ、お言葉に甘えて。行こうぜ、ゼルエル」

「あ、ああ……」

 ゼルエルはジーンに少しだけ手を振って、その場から去っていった。道に迷ってもアイヴィーが対応するだろうと思えたので、何ら心配せずに歩き進める二人だった。

 それに──

(ま、あの者らも『(ねん)()』は使えよう)

 レアスキルに、魔法通話の上位版とも言える『念話』というモノがあった。対象はそれなりに繋がりを持ったものに限られるが、それも『一度接触して、ある程度会話した』等、かなり緩い条件なのだ。

 その効果だが、離れた位置にいる対象にも言葉……つまり『思念』を送れるというもの。プロセスは『魔法通話』と似たようなものなので、異世界の電子機器の一つである〝携帯電話(スマートフォン)〟にある『通話』とほぼ同じようなものだ。ただし、こちらに使うのは電波ではなく思念波なので、注意しなければ心の中が筒抜けになってしまう事がある。それにさえ気をつければ、とても便利なスキルとなるのだ。

 長々と説明したが、肝心のフウマは『念話』を使えない。これに関してはカーミラが彼らを過大評価し過ぎていたのだが、フウマ達が道に迷う事もなかったので、特に問題はなかったのであった。

 

   ◇◇◇

 

 さて、外に出てきたフウマに視点が移る。

「どこから回るかねえ」

「う〜ん……服見に行きたいかも」

「オーケー。俺らは()()()()()んだし、別行動でもいいよな。じゃ、俺はテキトーに歩いとくわ」

「了解〜」

 それだけ言葉を交わして、二人は別々の方向に歩き始めた。決して、仲が悪いとかではない。互いが互いに、無愛想なだけであって。

 その中でも、フウマを追ってみるとしよう。

 

 フウマは、もう一度北西魔都〝クリシュナ〟に訪れていた。

「おお、旅人さんじゃないか! どうだったかい? 夜薔薇城(ローズガーデン)は広いし、さぞやよく眠れただろう?」

「あ〜、まあな。ちと相棒が(うるさ)かったが……」

「へえ、アンタ、中に何か宿してるヤツかい? 珍しいね」

 フウマが話していたのは、道すがら仲良くなった武器商人だった。名前はない。そもそも、魔物に固有名があるのがオカシイのである。

 カーミラは、超古代から存在する吸血鬼の上位種。名前があってもおかしくなく、アイヴィーはその側近。カーミラからの寵愛として、名前を授かっていても不思議ではなかった。

 では、街で働く下級から上級の吸血鬼は? 当然、名前などあるはずもない。そもそも、吸血鬼は全員が『念話』を巧みに扱えるので、別に名前がなくても苦労しない……というか、魔物間では名前がなくても話し相手がわかるので、名前が必要ないように設計されているのだ。

「で、どうだい? 何か、買っていくかい?」

「んー、そうだな……ぶっちゃけ、今日は何か買いに来たわけじゃねーんだよな。いや、買うけど。観光、つーかさ」

「そうなのかい? ああ、相棒さんだね」

「そうよ。アイツと別行動になっちまったから、やる事なくて」

「なんだい、喧嘩かい?」

「馬鹿言うなよ。俺達が喧嘩なんて、あるわけないね」

 ぶっきらぼうだが、フウマのゼルエルに対する信頼は厚い。逆もまた然りで、お互いが「嫌われるわけない」と思っているのだ。かなり、お似合いである。

「お似合いだねえ……おっ、これなんてどうだい? スタイリッシュな戦闘スタイルの君に、かなり合ってると思うんだけど」

 そう言いながら店主が見せたのは、鋭い短剣(ナイフ)だ。薄っすらと魔力を感じるため、主な素材は()鉱石(こうせき)だと予想された。

 魔鉱石とは、魔力──及び〝魔波〟が長い時間をかけて浸透した、特殊な鉄鉱石である。東方魔都〝モルドヴァ〟には採掘場があり、そこから豊富に鉄鉱石が採掘出来た。それが〝魔波〟に馴染めば、時間こそかかるものの、比較的簡単に魔鉱石は生み出せるのである。

 故に、魔国〝ツェペシュ〟の武器はどれも高品質だった。

 ──ここで、フウマは少し後悔する。

(……これ、ジーン連れて来てりゃ、結構エグい武器が作れたんじゃねーか……?)

 そうなのだ。以前から言っていた、巨剣背突竜(グレイブドラゴン)の素材を使った武器。魔国産の、高品質の魔鉱石とその素材を合わせたならば……。

 グレイブドラゴンの背にある巨大な剣のような背びれには、魔力を吸収し、溜め込む性質がある。それが満タンになった時点で吸収は終了し、高威力の武器に変わるのだ。溜め込んだエネルギーはある程度の指向性を持たせられるので、剣に纏わせる事で威力を増幅させる事だって出来るのである。

(──チッ、マズったな。一回戻って……って、どこにいるかわかんねーな)

 まあ仕方ないか──と、割り切ろうとしたフウマだったが、しかし……騒動とは、時と場合を考えずに発生するモノである。

 

「きゃあああああああああああああああっ!!」

 

「っ!?」

 即座に反応するフウマである。

「行ってらっしゃい。武器が足りなくなったらおいで。無償で、幾らか提供する」

 心がとても広い店主である。

「ありがとよ!!」

 そう言い残して、フウマは駆け出した。

 ちなみに、ゼルエルは真反対のムンテリアに向かっていたので、悲鳴が聞こえる筈もなかった。

(……ま、素の力を試す良い機会だわな)

 そう思って、フウマはニヤリと笑うのだった。

 

   ◇◇◇

 

 黒い犬のような魔物の爪が、女性に振り下ろされる──が。

「危ねえ!」

 飛んできた光の手裏剣が、犬の首を跳ね飛ばす。同時に、犬の体もグッタリとして動かなくなった。

「そこのねーちゃん、大丈夫だったかい」

「は、はい……あなたは……」

「いいから逃げろ。ここは俺が引き受ける」

 フウマの視線の先には、何頭もの魔獣がいた。

 その全てが黒い犬──黒妖犬(ヘルハウンド)──であるが、奥にいるのは、ヘルハウンドを統べる三頭黒妖犬(ケルベロス)である。

(ありゃマズいな。ヘルハウンドは一頭でもAランク相当……ケルベロスはSランクでギリ……。なんでこの街に、あの魔獣が居てやがるんだ? まあ、考えたってしかたねーけどさ)

 フウマは思考を巡らせる。頭の中で、どう立ち回れば勝てるかを考える。

 しかし、フウマは元Sランク冒険者──なのだが、ここ数年で腕がかなり鈍っていた。しかも、Sランクになれたのは、フウマの努力もあったとはいえ、ほぼゼルエルありきなのだ。

(……やっぱ、呼ぶか? 呼んでもキツイような気はするけどよ……)

 ええい、ままよ! ──と、フウマは思い、全力でゼルエルに呼びかける。

『おい、ゼルエル!!』

『緊急事態なんだね。わかった。話つけるのも面倒だから、少しかかるかも』

 おいおい嘘だろ!? ──と、フウマは叫びそうになった。

 しかし、もう迷っている暇はない。

「クソッタレが! 犬っころ共め、責任取りやがれよ!!」

 自分を鼓舞するように叫んだフウマは、魔獣群との戦いを始める。

 

「光波手裏剣!!」

 自前の神聖魔法で作り出した光の手裏剣で、ヘルハウンドの首を切り落としていく。幸い、腕が鈍った今でも一体ずつならば討伐出来た。しかし──

(チッ、厄介な……コイツら、連携が上手すぎねーか?)

 そう。ヘルハウンドの群れは、連携攻撃でフウマを仕留めにかかっているのだ。一頭ずつ殺せているとはいえ、このままではほぼジリ貧である。ただ──

(時間さえ稼げりゃ、ゼルエルが来てくれる。そうなりゃ〝アレ〟も使えるし──一か八かってやつだな。メンドークセー……)

 溜息も吐きたくなるというものであった。

(こう)()(けん)!」

 神聖魔法で作り出した光の剣で、ヘルハウンドの爪撃(そうげき)を受け流し、前転して背後からの突撃も回避。

聖光弾丸(ホーリーブレッド)!」

 手のひらから光の弾丸を放ち、一頭のヘルハウンドの頭を撃ち抜く。

 見事な戦いぶりだが、徐々に疲弊し始めている。このままでは、敗北必至であった。

(チッ……本当にマズい……。ゼルエル、頼むから早くしてくれよ。今、ケルベロスは静観決め込んでくれてっけど……アイツが動き出したら即終了だぜ)

 かなり追い詰められながらも、フウマは冷静だ。

 そして、最後のヘルハウンドを殺したところで──

「──あ」

 フウマの後頭部に、ケルベロスの爪が迫っていた。

(……そうかよ。静観決め込んでたのは、最後の一匹を殺した後の隙に、一撃ぶち込むためだったかよ。俺の運も……ここで、尽きたかな)

 諦めて、死を受け入れようとした──その時だった。彼の、今日一番の幸運が炸裂する。

「ぼうっとするでないわ!!」

 そんな声がして、フウマを何者かが突き飛ばした。フウマを殺すはずだったケルベロスの爪が、地面をえぐる。

 フウマを助け出した者は──誰あろう、カーミラ・ツェペシュであった。

 

   ◇◇◇

 

「なっ……アンタ……」

 フウマからすれば、信じられない話である。ジーンと行動を共にし、ジーンを明らかに気に入っていたカーミラが、自身を庇い、助けたのだから。

「フンッ! 不敬じゃぞ、フウマよ。元Sランク冒険者とは、笑わせる。そこまで根性なしだとはな」

 今の一言には、流石にキレるフウマである。

「ああんッ!? アンタ、この街の姫だからってよう、言って良い事と悪い事があるんじゃねーのか?」

「ほう? 違うと申すか。つい先程、アレの攻撃が迫り、もう諦めておったのはどこの誰じゃ」

 これに関しては、ほぼカーミラの無茶振りである。大抵は、あの状況では全てを諦めるものである。それを、諦めるな──と言っているのだから、カーミラが言っている事はかなり滅茶苦茶なのだ。

 そりゃねーだろ──と、ぼやくフウマであった。

「時間稼ぎが必要なのであろう?」

 ケルベロスの猛攻をヒョイッと躱しながら、カーミラが問うた。

「あ、ああ。時間さえありゃ、どうにかなる」

「面白い。わたしもあまり本気は出したくない故、時間稼ぎに徹してやろうぞ」

 実はカーミラ、楽しようとしているのだ。実際、カーミラが本気を出せば、ケルベロスなど歯牙にもかけず圧倒出来た。しかしながら、カーミラはどうしても楽がしたい。それに、疲れたくない。

 プラスで──フウマの実力も、見てみたかった。

 なので、カーミラからすれば、本気を出す気など微塵もないのだ。ただし、フウマはそんな事知ったこっちゃない。

 ふざけんなよ!! ──と、問答無用で怒鳴ったのだった。

「ふんっ、仕方あるまい……紅血鎖鞭縛(ブラッディバインド)

 赤黒い鎖が、ケルベロスを縛り付ける。同時にケルベロスの生気を奪い、動きを鈍くしていく。立派な束縛技なのだが、ケルベロスが本気を出したら一撃で砕けるだろう。本当に時間稼ぎだけの技なのであった。

 なので──

「もうちょっと本気でやりやがれ!」

 と、フウマは怒鳴る。

「知った事か。わたしとしては、本気など出したくもない」

「はあっ!? ふざけんな!」

 当然キレるフウマ。

 と──やはり、ケルベロスを縛る鎖が砕け散った。

「ふむ。気づくのに十二秒……確かな知性があるのう。厄介な」

 本気ではないにしろ、分析は怠らないカーミラである。そこは優れているので、本気さえ出してくれれば──という感じであった。

 フウマは爪撃を躱すが──二段階目、逃げた先にまた飛んできた攻撃は避けられない。それを──

防御結界(マジックバリア)!」

 一枚の魔法障壁で爪を受け流し、三度目は──

多重防御結界(マジックアイアス)

 多重に重ねた防御結界で、今度はしっかりと爪撃を受け止める。そして、ケルベロスの背後に回ったフウマによる攻撃。

「極大・光波手裏剣!!」

 最大出力の〝光波手裏剣〟で、ケルベロスの首の一つを跳ね飛ばそうとした──のだが。

「ウッソだろ!?」

「ここまで厄介だとは思わなんだわ」

 カキンッ──と音を立てて、光の巨大手裏剣が弾かれた。ケルベロスの表皮が硬すぎて、手裏剣が食い込まなかったのだ。

「次策を考えねばなるまいよ」

「でも──」

 どうしろって言うんだよ!! ──と、フウマが怒鳴りかけた、その時。

『遅れてゴメン!』

 気の抜けるような声が、フウマの中で響いた。

 何を隠そう──戻ってきた、ゼルエルである。

『テメッ、ホントに()せーぞ!!』

『ゴメンゴメン、目移りしちゃって。って──結構ヤバイじゃん!』

『だから早く戻ってこいって言ったんだよ、馬鹿!!』

 流石に叱りまくるフウマである。死にかけたのだから、それくらい言っても構わないだろう。

「その様子じゃと、間に合ったのじゃな?」

「……ああ! こっからは、俺の独壇場だぜ」

 フウマは昔──冒険者時代に、〝風の勇者〟と呼ばれていた。

 それは、神聖魔法を使うところを勇者教に見られたからである。

 ──と、世間一般には言われていた。実際、その側面もあるのだ。

 しかし、別の面もある。それこそが──

「グガァウ!?」

 キィン! ──と、澄んだ音色を放ち、ケルベロスの爪が弾かれる。爪撃の矛先にいたフウマの手には、ひと振りの刀が握られていた。

 名刀──〝風花(かざはな)〟。

 これこそ、彼が〝風の勇者〟と呼ばれたもう一つの所以(ゆえん)である──伝承級(レジェンド)たるひと太刀(たち)なのだ。

 これを手にしたフウマは、無敗。負けた時はつまらない縛りを設けたが故であって──それも、対人戦闘に限り──、この刀を使って負けた事など、一度たりともないのである。

 しかしここ数年間、一度も手に取っていなかったわけだが──

(……ああ、やっぱり馴染むぜ。コレで戦った記憶なんて忘れかけてたのによ、コレを握っただけで……手に取っただけで、鮮明に思い出せる。コイツとゼルエルとの、戦いの日々をな)

 フウマは、かなりの──というか、ゴリゴリの武闘派なのである。今のジーンのように戦闘系の依頼ばかりこなしていたのだ。

 まあ、そんな過去話は置いておいて。

 フウマは、獲物を見る狩人(かりゅうど)殺意(しせん)で、ケルベロスを射抜く。ケルベロスも、負けじとフウマを睨み返す。

 しかし、刀を手に取ったフウマの圧倒的な威圧感には、どうしても及ばなくて……。

 かくして、勝負は一瞬で終わる。

「──極技──〝閃風(せんぷう)〟──」

 同時に駆け出した、すれ違い際。フウマは、納刀状態にしていた〝風花(かざはな)〟を一気に抜き放ち──ケルベロスを、一瞬にして塵にしてしまった。

 極技──〝閃風(せんぷう)〟とは、フウマが編み出した剣術奥義である。風の勇者たる(わざ)であり、(あまね)く風の如く、一瞬で相手を切り刻む技。

 その太刀は、舞い上がる落ち葉すらも──粉々に切り刻んでいた。

「風と共に参上──ってな」

 圧倒的な技量で(もっ)て、フウマはケルベロスとの戦いを制したのだった。




 フウマ、お気に入りキャラ認定。
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