同時に駆け出した、すれ違い際。
フウマは、納刀状態にしていた〝
ケルベロスを、一瞬にして塵にしてしまった。
極技──〝
風の勇者たる
その太刀は、舞い上がる落ち葉すらも──粉々に切り刻んでいた。
(恒例行事にしようか迷っています。やりたいと思った時でいいや。そして……やっぱり、一日空いてしまいました! ゴメンナサイ!! 許して! 格好良く書いたから!(?))
──明くる、翌朝。
ジーンは目覚めると、両隣にイオフィエルとカーミラを発見した。
(えっ、えっ!? どう、どうなってるのコレ!?)
すぐに驚愕・困惑し、昨日の記憶を探り始める。
(そう、確か……昨日の夜かな? カーミラさんが僕の部屋に来て、膝に乗って、頭を撫でて……それで……)
そこまで考え、ほぼ全てを思い出した。同時に、ジーンの頬がみるみる赤く染まっていく。
(えっ、ええ〜〜〜〜〜っ!? 僕、僕は……なん、なんて、なんて事に……)
想定外過ぎた。
ジーンも、こんな展開望んでないよ!! と声を大にして叫びたいものである。
──と、その時。
「おや、起きたか。くふふ……おはよう、ジーン」
「……お、おはようございます……」
カーミラが薄っすらと目を開けた。起きた、というより、ずっと起きていたのだろう。ジーンが起きたから目を開けた。ただそれだけである。
そしてジーンは、考えるのをやめた。面倒くさくなったのである。
なので。
「起きて」
「んん〜〜……? ん〜〜〜……」
「早く」
ジーンは、少し強めにイオフィエルの肩を揺する。頬を軽く叩く。
「ん〜〜……あとごふん……」
「五分も待てないよ!」
ジーンが少し怒鳴ると、イオフィエルが飛び起きた。
「おぁよう……ジーン……」
「おはよう」
「ふむ。ジーンと違い、お主、寝覚めが悪いようじゃな」
「う〜〜ん……? うん……」
そう話しかけるのは、ジーンがアレコレやってる内に魔法で着替えたカーミラである。
説明しよう。この時、カーミラが使った魔法は、
もちろんジーンはその条件をクリアしているので、難なく習得済みである。イオフィエルがカーミラと少し会話している内に、ジーンも着替えていた。
そして、まだ眠そうなイオフィエルが二度寝しようとしたので、半強制的に体内に戻した。イオフィエルがジーンの精神内に戻ってしまえば眠る事は不可能なので、これで問題なしである。
「さて、ジーン!」
「はい? って!? ちょ、ちょっとっ!? ──あれ?」
「ふふん」
カーミラが、ジーンに飛び掛かる。当然、ジーンは身構えたのだが……ふと、違和感を覚えたのだ。カーミラを受け止めようとしたのだが、自身の腕の中に収まる何かの感触を覚えた。
隠す事でもないので言ってしまうが、カーミラである。ジーンとのファーストコンタクトの時よりも更に小さく、ぬいぐるみ程度の大きさになったのだ。
「お、おお……凄いですね……」
「ふふ。わたしも、あの天使と似たような存在でのう。ヴァンパイアの姫や女王とも呼ばれておるが、彼奴らとは〝格〟が違う故な」
カーミラの種族は
その存在は
◇◇◇
部屋から出ると、ちょうどフウマも外に出てきたようだった。フウマは、ジーンの腕の中にいるカーミラを見て、一言言った。
「……何だ、それ? ぬいぐるみ?」
「失礼な! シッカリとわたしじゃ!!」
シッカリと──の意味はわからなかったが、ちゃんとカーミラ本人なんだな、と思う。そう思ったのも当然で、フウマはカーミラの肉体が伸縮自在な事を知らないのだ。
「カーミラさん、体の大きさが自由らしくて」
「へえ。そんな能力持った
その感想を聞いて、カーミラは少し嬉しそうにする。やはり、他人から褒められて悪い気など起こそう筈もないのだった。
──と、ここで、ジーンは気づく。フウマの背後にも人影があり、それはゼルエルだった。
「あれ、ゼルエルさんも出てたんですか」
「おう、ジーン。おはよう。イオフィ姉は……まさか?」
「そうそう。二度寝しようとしたから、強制帰還させた」
ゼルエルは、はぁーーーやれやれと、大きな溜息を吐いた。
「お主も天使か? イオフィエルと知り合いのようじゃな」
「え? あ、はい。姉妹つーか……イオフィ姉は、私の姉ちゃん的存在っていうか……」
「ふむ。まあ、深くは聞くまい。フウマの中に宿っておったのじゃろう? フウマの滞在を許可した以上、お主にもその権利があるじゃろうて」
カーミラは、尊大な態度だがそれとは裏腹に意外と寛容なのだ。審査や判断基準もユルユルなので、カーミラとしては──
(ま、別に問題なかろう。あるとしても、その時はアイヴィーに任せれば良いわ)
なんて考えていた。アイヴィーが聞いていれば、即座に「無茶を言わないでくだされ、姫!!」と、軽く怒号を飛ばしていただろう。しかし、この場にアイヴィーはいないので、さして関係のない事だった。
「今日は昨日以上に自由にしてもらっても構わんぞ。まあ、わたしはジーンと行動を共にするが」
「へいへい。それじゃ、お言葉に甘えて。行こうぜ、ゼルエル」
「あ、ああ……」
ゼルエルはジーンに少しだけ手を振って、その場から去っていった。道に迷ってもアイヴィーが対応するだろうと思えたので、何ら心配せずに歩き進める二人だった。
それに──
(ま、あの者らも『
レアスキルに、魔法通話の上位版とも言える『念話』というモノがあった。対象はそれなりに繋がりを持ったものに限られるが、それも『一度接触して、ある程度会話した』等、かなり緩い条件なのだ。
その効果だが、離れた位置にいる対象にも言葉……つまり『思念』を送れるというもの。プロセスは『魔法通話』と似たようなものなので、異世界の電子機器の一つである〝
長々と説明したが、肝心のフウマは『念話』を使えない。これに関してはカーミラが彼らを過大評価し過ぎていたのだが、フウマ達が道に迷う事もなかったので、特に問題はなかったのであった。
◇◇◇
さて、外に出てきたフウマに視点が移る。
「どこから回るかねえ」
「う〜ん……服見に行きたいかも」
「オーケー。俺らは
「了解〜」
それだけ言葉を交わして、二人は別々の方向に歩き始めた。決して、仲が悪いとかではない。互いが互いに、無愛想なだけであって。
その中でも、フウマを追ってみるとしよう。
フウマは、もう一度北西魔都〝クリシュナ〟に訪れていた。
「おお、旅人さんじゃないか! どうだったかい?
「あ〜、まあな。ちと相棒が
「へえ、アンタ、中に何か宿してるヤツかい? 珍しいね」
フウマが話していたのは、道すがら仲良くなった武器商人だった。名前はない。そもそも、魔物に固有名があるのがオカシイのである。
カーミラは、超古代から存在する吸血鬼の上位種。名前があってもおかしくなく、アイヴィーはその側近。カーミラからの寵愛として、名前を授かっていても不思議ではなかった。
では、街で働く下級から上級の吸血鬼は? 当然、名前などあるはずもない。そもそも、吸血鬼は全員が『念話』を巧みに扱えるので、別に名前がなくても苦労しない……というか、魔物間では名前がなくても話し相手がわかるので、名前が必要ないように設計されているのだ。
「で、どうだい? 何か、買っていくかい?」
「んー、そうだな……ぶっちゃけ、今日は何か買いに来たわけじゃねーんだよな。いや、買うけど。観光、つーかさ」
「そうなのかい? ああ、相棒さんだね」
「そうよ。アイツと別行動になっちまったから、やる事なくて」
「なんだい、喧嘩かい?」
「馬鹿言うなよ。俺達が喧嘩なんて、あるわけないね」
ぶっきらぼうだが、フウマのゼルエルに対する信頼は厚い。逆もまた然りで、お互いが「嫌われるわけない」と思っているのだ。かなり、お似合いである。
「お似合いだねえ……おっ、これなんてどうだい? スタイリッシュな戦闘スタイルの君に、かなり合ってると思うんだけど」
そう言いながら店主が見せたのは、鋭い
魔鉱石とは、魔力──及び〝魔波〟が長い時間をかけて浸透した、特殊な鉄鉱石である。東方魔都〝モルドヴァ〟には採掘場があり、そこから豊富に鉄鉱石が採掘出来た。それが〝魔波〟に馴染めば、時間こそかかるものの、比較的簡単に魔鉱石は生み出せるのである。
故に、魔国〝ツェペシュ〟の武器はどれも高品質だった。
──ここで、フウマは少し後悔する。
(……これ、ジーン連れて来てりゃ、結構エグい武器が作れたんじゃねーか……?)
そうなのだ。以前から言っていた、
グレイブドラゴンの背にある巨大な剣のような背びれには、魔力を吸収し、溜め込む性質がある。それが満タンになった時点で吸収は終了し、高威力の武器に変わるのだ。溜め込んだエネルギーはある程度の指向性を持たせられるので、剣に纏わせる事で威力を増幅させる事だって出来るのである。
(──チッ、マズったな。一回戻って……って、どこにいるかわかんねーな)
まあ仕方ないか──と、割り切ろうとしたフウマだったが、しかし……騒動とは、時と場合を考えずに発生するモノである。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
「っ!?」
即座に反応するフウマである。
「行ってらっしゃい。武器が足りなくなったらおいで。無償で、幾らか提供する」
心がとても広い店主である。
「ありがとよ!!」
そう言い残して、フウマは駆け出した。
ちなみに、ゼルエルは真反対のムンテリアに向かっていたので、悲鳴が聞こえる筈もなかった。
(……ま、素の力を試す良い機会だわな)
そう思って、フウマはニヤリと笑うのだった。
◇◇◇
黒い犬のような魔物の爪が、女性に振り下ろされる──が。
「危ねえ!」
飛んできた光の手裏剣が、犬の首を跳ね飛ばす。同時に、犬の体もグッタリとして動かなくなった。
「そこのねーちゃん、大丈夫だったかい」
「は、はい……あなたは……」
「いいから逃げろ。ここは俺が引き受ける」
フウマの視線の先には、何頭もの魔獣がいた。
その全てが黒い犬──
(ありゃマズいな。ヘルハウンドは一頭でもAランク相当……ケルベロスはSランクでギリ……。なんでこの街に、あの魔獣が居てやがるんだ? まあ、考えたってしかたねーけどさ)
フウマは思考を巡らせる。頭の中で、どう立ち回れば勝てるかを考える。
しかし、フウマは元Sランク冒険者──なのだが、ここ数年で腕がかなり鈍っていた。しかも、Sランクになれたのは、フウマの努力もあったとはいえ、ほぼゼルエルありきなのだ。
(……やっぱ、呼ぶか? 呼んでもキツイような気はするけどよ……)
ええい、ままよ! ──と、フウマは思い、全力でゼルエルに呼びかける。
『おい、ゼルエル!!』
『緊急事態なんだね。わかった。話つけるのも面倒だから、少しかかるかも』
おいおい嘘だろ!? ──と、フウマは叫びそうになった。
しかし、もう迷っている暇はない。
「クソッタレが! 犬っころ共め、責任取りやがれよ!!」
自分を鼓舞するように叫んだフウマは、魔獣群との戦いを始める。
「光波手裏剣!!」
自前の神聖魔法で作り出した光の手裏剣で、ヘルハウンドの首を切り落としていく。幸い、腕が鈍った今でも一体ずつならば討伐出来た。しかし──
(チッ、厄介な……コイツら、連携が上手すぎねーか?)
そう。ヘルハウンドの群れは、連携攻撃でフウマを仕留めにかかっているのだ。一頭ずつ殺せているとはいえ、このままではほぼジリ貧である。ただ──
(時間さえ稼げりゃ、ゼルエルが来てくれる。そうなりゃ〝アレ〟も使えるし──一か八かってやつだな。メンドークセー……)
溜息も吐きたくなるというものであった。
「
神聖魔法で作り出した光の剣で、ヘルハウンドの
「
手のひらから光の弾丸を放ち、一頭のヘルハウンドの頭を撃ち抜く。
見事な戦いぶりだが、徐々に疲弊し始めている。このままでは、敗北必至であった。
(チッ……本当にマズい……。ゼルエル、頼むから早くしてくれよ。今、ケルベロスは静観決め込んでくれてっけど……アイツが動き出したら即終了だぜ)
かなり追い詰められながらも、フウマは冷静だ。
そして、最後のヘルハウンドを殺したところで──
「──あ」
フウマの後頭部に、ケルベロスの爪が迫っていた。
(……そうかよ。静観決め込んでたのは、最後の一匹を殺した後の隙に、一撃ぶち込むためだったかよ。俺の運も……ここで、尽きたかな)
諦めて、死を受け入れようとした──その時だった。彼の、今日一番の幸運が炸裂する。
「ぼうっとするでないわ!!」
そんな声がして、フウマを何者かが突き飛ばした。フウマを殺すはずだったケルベロスの爪が、地面をえぐる。
フウマを助け出した者は──誰あろう、カーミラ・ツェペシュであった。
◇◇◇
「なっ……アンタ……」
フウマからすれば、信じられない話である。ジーンと行動を共にし、ジーンを明らかに気に入っていたカーミラが、自身を庇い、助けたのだから。
「フンッ! 不敬じゃぞ、フウマよ。元Sランク冒険者とは、笑わせる。そこまで根性なしだとはな」
今の一言には、流石にキレるフウマである。
「ああんッ!? アンタ、この街の姫だからってよう、言って良い事と悪い事があるんじゃねーのか?」
「ほう? 違うと申すか。つい先程、アレの攻撃が迫り、もう諦めておったのはどこの誰じゃ」
これに関しては、ほぼカーミラの無茶振りである。大抵は、あの状況では全てを諦めるものである。それを、諦めるな──と言っているのだから、カーミラが言っている事はかなり滅茶苦茶なのだ。
そりゃねーだろ──と、ぼやくフウマであった。
「時間稼ぎが必要なのであろう?」
ケルベロスの猛攻をヒョイッと躱しながら、カーミラが問うた。
「あ、ああ。時間さえありゃ、どうにかなる」
「面白い。わたしもあまり本気は出したくない故、時間稼ぎに徹してやろうぞ」
実はカーミラ、楽しようとしているのだ。実際、カーミラが本気を出せば、ケルベロスなど歯牙にもかけず圧倒出来た。しかしながら、カーミラはどうしても楽がしたい。それに、疲れたくない。
プラスで──フウマの実力も、見てみたかった。
なので、カーミラからすれば、本気を出す気など微塵もないのだ。ただし、フウマはそんな事知ったこっちゃない。
ふざけんなよ!! ──と、問答無用で怒鳴ったのだった。
「ふんっ、仕方あるまい……
赤黒い鎖が、ケルベロスを縛り付ける。同時にケルベロスの生気を奪い、動きを鈍くしていく。立派な束縛技なのだが、ケルベロスが本気を出したら一撃で砕けるだろう。本当に時間稼ぎだけの技なのであった。
なので──
「もうちょっと本気でやりやがれ!」
と、フウマは怒鳴る。
「知った事か。わたしとしては、本気など出したくもない」
「はあっ!? ふざけんな!」
当然キレるフウマ。
と──やはり、ケルベロスを縛る鎖が砕け散った。
「ふむ。気づくのに十二秒……確かな知性があるのう。厄介な」
本気ではないにしろ、分析は怠らないカーミラである。そこは優れているので、本気さえ出してくれれば──という感じであった。
フウマは爪撃を躱すが──二段階目、逃げた先にまた飛んできた攻撃は避けられない。それを──
「
一枚の魔法障壁で爪を受け流し、三度目は──
「
多重に重ねた防御結界で、今度はしっかりと爪撃を受け止める。そして、ケルベロスの背後に回ったフウマによる攻撃。
「極大・光波手裏剣!!」
最大出力の〝光波手裏剣〟で、ケルベロスの首の一つを跳ね飛ばそうとした──のだが。
「ウッソだろ!?」
「ここまで厄介だとは思わなんだわ」
カキンッ──と音を立てて、光の巨大手裏剣が弾かれた。ケルベロスの表皮が硬すぎて、手裏剣が食い込まなかったのだ。
「次策を考えねばなるまいよ」
「でも──」
どうしろって言うんだよ!! ──と、フウマが怒鳴りかけた、その時。
『遅れてゴメン!』
気の抜けるような声が、フウマの中で響いた。
何を隠そう──戻ってきた、ゼルエルである。
『テメッ、ホントに
『ゴメンゴメン、目移りしちゃって。って──結構ヤバイじゃん!』
『だから早く戻ってこいって言ったんだよ、馬鹿!!』
流石に叱りまくるフウマである。死にかけたのだから、それくらい言っても構わないだろう。
「その様子じゃと、間に合ったのじゃな?」
「……ああ! こっからは、俺の独壇場だぜ」
フウマは昔──冒険者時代に、〝風の勇者〟と呼ばれていた。
それは、神聖魔法を使うところを勇者教に見られたからである。
──と、世間一般には言われていた。実際、その側面もあるのだ。
しかし、別の面もある。それこそが──
「グガァウ!?」
キィン! ──と、澄んだ音色を放ち、ケルベロスの爪が弾かれる。爪撃の矛先にいたフウマの手には、ひと振りの刀が握られていた。
名刀──〝
これこそ、彼が〝風の勇者〟と呼ばれたもう一つの
これを手にしたフウマは、無敗。負けた時はつまらない縛りを設けたが故であって──それも、対人戦闘に限り──、この刀を使って負けた事など、一度たりともないのである。
しかしここ数年間、一度も手に取っていなかったわけだが──
(……ああ、やっぱり馴染むぜ。コレで戦った記憶なんて忘れかけてたのによ、コレを握っただけで……手に取っただけで、鮮明に思い出せる。コイツとゼルエルとの、戦いの日々をな)
フウマは、かなりの──というか、ゴリゴリの武闘派なのである。今のジーンのように戦闘系の依頼ばかりこなしていたのだ。
まあ、そんな過去話は置いておいて。
フウマは、獲物を見る
しかし、刀を手に取ったフウマの圧倒的な威圧感には、どうしても及ばなくて……。
かくして、勝負は一瞬で終わる。
「──極技──〝
同時に駆け出した、すれ違い際。フウマは、納刀状態にしていた〝
極技──〝
その太刀は、舞い上がる落ち葉すらも──粉々に切り刻んでいた。
「風と共に参上──ってな」
圧倒的な技量で
フウマ、お気に入りキャラ認定。