エネルギー革命が進み、何もかもが『クリーンエネルギー』に置き換えられてしまった。幼馴染のリューヤとラニも、その被害者である。

このどうにかなってしまった世界を、誰か、誰か……。

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エネルギー革命の行きすぎた終末世界にて。

 遮るものがなにもない、背丈の低い草原。リューヤとラニのパーティーは、辺りを見回しながら道なき道を進んでいた。

 ラニはリューヤの幼馴染であり、行くところは全ていっしょ。大人になってからも、こうしてコンビを組んで剣を手にしている。かわいいよりも凛々しいが勝つ彼女である。

 

「モンスター、いませんね……。だだっ広いところにいる人間なんて、食べごろに見えるでしょうに……」

「誰視点なんだよ、ラニ! ……食われるとか、そんな物騒なこと言うなって」

 

 いつ見ても、彼女の仏頂面には心臓を抜かれそうになる。背筋がピンと立ってしまう。

 

 モンスター、それはたびたび街に出向いては食料をむさぼっていく無法者。戦士たちはパーティーを組み、そのモンスターを狩ることで明日を生き延びている。お互いにメリットのある関係なのだ。

 とはいえ、モンスターが街にやってきてからでは被害が出てしまう。予防しようと、駆除を任されることもしばしばである。

 

「……少し疲れましたね。休憩しましょうか」

「こんなところで? あそこ、街の門がまだ近くに見えるのに?」

「……分かっているでしょう、リューヤも。定期的に補給しないと生きていけないことくらい」

 

 俺には振り向きもせず、ラニはその場に座り込んでしまった。いくら肩からぶら下げているメロン二つが重くても、戦士としての意地があればへたり込まないはずだ。情けない。

 

 リューヤ独りで探索に出れば、ミンチ肉になって返却されることだろう。

 しかたなく、俺はラニのとなりに腰をおろした。

 

「ふぅ……。それでは、エネルギーを補給しましょうか……」

 

 角ばった装甲に身を包んだ彼女は、頭のてっぺんに付いている風車を指で回転させはじめた。無風の平原ではしかたのないことだ。

 

 クリーンエネルギー、という言葉が流行したのはいつだっただろうか。この世のあらゆる化石燃料エネルギーは否とされ、『きれいな』エネルギーのみが崇拝された。

政策が適応されれば、あとは突き進むだけ。まず家畜が、つぎに植物が消えた。ばかばかしい茶番に付き合わされる国民の気持ちになってみたらいい。

 国からは『栄養変換装置』なるものが与えられた。電気を生体活動に必要な物質に変えるという代物で、これを付けずに生活はできない。ってか、そんな技術があるなら他のことに使えっつーの!

 

「子供のころは、腹いっぱいの飯が食えてたんだけどな……。ああ、来世はモンスターになりたい……。食料にありつきたい!」

「……ならば、その転生したリューヤを処分するのはわたし、と……」

 

 一粒の穀物でも口に入れられるのなら、獣にでもなれる。ラニに斬られるのなら、幕も楽に引けそうだ。

 

「……リューヤ、この風車はいつになったら外せるのでしょうかね……」

「国をひっくり返せばいいんじゃないか……」

 

 軽く口をたたいたところに、ラニが覆いかぶさってきた。自身の口元に人差し指を添えて、『しゃべるな』と釘を刺している。ロマンチックでもなんでもない、殺伐とした空気だ。

 彼女の眼光が鋭くなるのもわかる。人の寄り付かない国外でなければ、ギロチンで首を落とされている。

 

「……まあ、俺だってコレだからな……。人として、溢れ出す肉汁とか、塩味のポテトを忘れろ、なんて無理がある……」

 

 口からよだれを垂らしてしまった。アルファベット一文字の店舗で食欲を満たしていた若き頃が思い出される。もう『食欲』は三大欲求から外れたというのに。

 

 俺の腹にくっついている、水車のようなもの。容器から水を流し、下のトレイで受け止める。ある程度増幅されるとはいっても、微々たる量のエネルギーしか得られない。

 

「だいいち、外したら生きられないし……。寝る前は溜めておかなくちゃいけないし……。クリーンどころか、ブラック企業よりひどいぞ、これ……」

 

 ラニも、もう止めてこなかった。好きなだけ言え、とスチール製の剣の表面を入念に拭いていた。スチールも、にっくき悪法のせいで新しく作れない。

 手で風車を回す女に、ミニチュアの滝で水力発電をする男。おかしいようでも、これがこの世界の実態なのである。

 

「子どもたちは、もう『食べる』行為すら知らないし……。……近くない将来に、人間は滅びそうだな……」

「……そうね……。……方向を間違えた種は消え去るのみ、ですか……」

 

 感情が固定されているはずのラニが目を曇らせたのは、見間違いだろうか。

 

 太陽の光を照り返す白銀のアーマーも、モンスターを斬ってきた剣も、すべてが虚無に見える。この世界が虚構であってほしい。

 

 ―――踏み外してしまったこの世界を破壊してくれる、勇気ある者が現れることを願って……。


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