無限に広がる世界の片隅で二人は出逢った。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
1出逢い編1〜6
●1 プロローグ
私の物語は、誰かに認識されてはじめて形になるのだと聞いたことがある。
私の生きるこの世界は白黒で、おそらくは誰かに認識されていたとしても私が見る景色とはきっと齟齬があるのだろうなと常々思っていた。
いま私は走っている。この場所は私が生活する学園と呼ばれるところで、とても長い廊下だ。
本来、学園では世界の常識や魔術を学ぶところのはずだが落ちこぼれの私となかよくしてくれる人などいるはずもなく。
「わかっていたはず……なんだけどな……」
一番遠い教室に変更になったと聞いて、信じてしまったのだ。
息をきらせながらなんとか正解の教室の前に走りつく。室内からはざわざわと誰かがいる気配を感じる。この部屋で間違いない。
息を整えて両開きのドアをゆっくりと開けた。部屋の中にいたほぼ全員の視線が私に集中する。先生は全てを理解しているようで私のことを特に怒ったりもしない。
中央には召喚の魔法陣、いまは召喚術の授業中そしてまわりの皆は幻獣や魔獣といった生き物を既に召喚し終えていた。
「最後にあなたの番になりますが、どうしますか?」
先生が私に声をかける。
「やります!」
部屋の中に嘲り笑うような声が満ちた。先生はその声にわずかに顔をしかめ、私を魔法陣の方へ案内してくれる。
「やり方はわかりますか?」
こくりとうなづく。やり方は本に書いてあった。しっかり読んで理解している。出来るという確信があった。
杖を掲げ、イメージを強く持つ。この召喚術でよんだもの同士を後日戦わせる授業があったはずだ。
とにかく強い……強いのこい!
杖を振り下ろすと魔法陣から強い光が溢れて視界が真っ白になる。瞬間的に目を閉じて開くと、ゆっくりと部屋の中に充満していた煙が消えていき、私が召喚したものが魔法陣の中央できょろきょろと周囲を見まわしていた。
「……人の子?」
部屋のどこからか声が聞こえた。落ちこぼれにはお似合いかも……そんな声も聞こえる。再び部屋の中に嘲るような笑い声でいっぱいになりかけたその時に、
「おれはれんごくけのちょうし! れんごくきょうじゅろうだ! ここはどこだ! おしえてほしい!」
部屋の壁が響くぐらいの大きな声で炎のような髪の色をした人の子は言い、皆を黙らせた。
●2
先生は人の子の頭にふわりと手をかざすと、その子は私の元に一直線に走ってきて片手同士をつなぎ並んで立った。
記憶操作はまだ私たちの履修範囲外だ。きっとこの部屋にいる他の魔獣、幻獣たちが大人しくしているのも先生が先ほどしたように全てよばれたものたちの記憶操作をしたのだろう。
「これで召喚術の授業を終了します。2週後に実力試験がありますから、それまでに力を高めておくように。実力試験前に召喚対象と失った場合は大きく減点となりますから気をつけなさい。それでは解散とします」
「うむ! では行こう!」
私の身体を軽々抱き上げて、呼び出したそれは部屋を飛び出した。
「ちょ」
「ここは変な場所だな! 太陽みたいなものがふたつもある!」
走りながらそう言い出した。先ほどの部屋からだいぶ離れたところまで来たし、そろそろ止まってほしい……そう思っていると。私の顔を見つめたまま走ることを止めた。
「なんだもういいのか?」
もういいとは?
「先ほど先生の終了の言葉を聞いて、あの場から早くいなくなりたいと思っていたじゃないか」
あぁそうか、これは先生が記憶操作のついでに私の意識と繋がるようにしてくれているのかとようやく理解した。おそらくは私がいない時に説明があったのだろう。
「俺の名は杏寿郎、君はなんという名前だ?」
「なぜ意識が繋がっているのにわざわざ言葉にするの?」
「俺たちは先ほどはじめて会ったわけだし、名前ぐらいはお互いの言葉で理解した方がいい気がする」
「……18番目のD」
「それは名前ではないのでは?」
「言いたいことはよくわかるけど、この世界に名前という概念はないの。人数分の56の記号と、成績を評価する5つの記号その組み合わせでしか個々をみないから」
「そんなのか……では、あそこに咲いている花の名前はなんだ?」
指差した方には枝葉の集まった茂みがあった。
「やはりあれにも名前はないのか……あそこに咲いている白い花は、俺の世界でユリという名前をもっている。
良ければ君のことを、ユリと呼んでも構わないだろうか?」
はじめて会った時の印象が、私が白い服を着ているからとか。なぜ? という問いに対する答えは簡単に知ることが出来た。
「それは別に……かまわない……けれど……。
今はそれどころじゃないの、あなたを2週間も面倒をみないといけないのだから、まずは人の生態を学ばないと」
空中から一冊の本を取り出す。私たちの得なければならないものは本の形をして図書館に納められており、必要な時にそれらを学び知識として習得するのだ。
「ところであなた何歳?」
容姿は私と同じぐらいだった。しかし人の寿命はせいぜい50〜60らしい。きっと私たちとは歳の取り方も違うはずだ。
「俺は今年で12になる!」
「12!?」
まだ生まれたばかりじゃないか。それぐらいの年齢の人は子供と呼ばれて親の庇護の元で成長するらしいが……。先生だったらこの人の子に戦う力がないことはすぐにわかったはず……それならなんでこの召喚をなかったことにしなかったんだろうか。
先生は私を落ちこぼれとは扱っていないと思っていたのだけれど……。
「その落ちこぼれというのはどういうことだ?」
「……知ってどうするの?」
「君が柱で、俺が継子のような関係なら、俺でも何か力になれることがあるんじゃないかと思ってな!」
「少しだけ待って」
周囲の精霊に静かに呼びかける、私の部屋にこの人の子が生活する部屋を作らなければ……。
「俺は杏寿郎だ!」
私が人の子と呼んでいることが気に入らないらしい。そうね、名前で呼ぶのがあなたの世界でいう礼儀というものなのよね。
「落ちこぼれというのは、もうすぐ消えるかもしれない存在のことをいうの。元々私たちが生まれた時は56の存在がいたけれど、今はもう38しかいない」
「どうして消えてしまうんだ?」
「才能がなかったとか、力を使い切ったとか、自分たちの力の源を理解できなかったからと言われてる」
「力の源?」
「この左手の」
杏寿郎に左手の甲をみせて、現れろと念じると。花の花弁のような紋章がうっすらと浮かび上がってくる。
「すべての印が消えたら私は消えるわ」
もし2週間後を迎える前に私が消えていたら、杏寿郎はどうなるのだろう? 元の世界に帰してもらえるんだろうか……。
「ひとまず俺のことはどうでもいい! 消えるって死ぬことなんじゃないか!? 大変じゃないか!」
何をそんなに慌てるのだろうか。あぁ、そうか彼は私より生きることや死ぬことを身近に感じているのか。私にとって消えるということは、ただ無になることだから……。
「どういう時に増えるんだ?」
「わからない」
「たとえばほら、美味しいものを食べた時とか。ゆっくり眠れた次の日とか」
首を横に振る。食事はそもそもする必要がない。睡眠とにたようなことはするが、記憶整理と活動時間の調整ぐらいしか意味合いがないのだ。
ぐーと杏寿郎のお腹がなった。
「その音は?」
「腹が」
「大丈夫、わかるから。いま調べるから待って」
私が本から知識を得ていると杏寿郎は鼻をひくつかせて振り返った。
「先生」
トレーを持った先生がそこにいた。トレーの上には見慣れないものが置かれている。杏寿郎の反応を見るにそこにあるものが、彼が必要としている食事なのだと理解できた。
「召喚されることで、エネルギーが消費されているからと最初の方に話していたから18番はわからないかなと思って」
どうぞと先生がトレーを差し出すと杏寿郎の前に卓と椅子がはえてくる。
「着ている服と言葉から推測して和食と呼ばれるものを用意してみたのだけれど、お口に合うかしら?」
杏寿郎はふたつの長い棒を手にするといただきますと言ってからガツガツ食事をはじめた。
「うまい! うまい!」
とりあえず問題はないようだ。和食というものがあるのか……食事というものに関しては、もう少し知っておいた方がいいかもしれない。
先生は杏寿郎のことをみて優しく微笑んでいた。まぁ先生はいつも大体優しく微笑んでくれているのだけれど。
「先生、ありがとうございました」
私の方をみて先生は少し驚いた顔をした。なぜ? と不思議に思う。
「ごめんなさいね。感謝の言葉なんて久しぶりに聞いたものだから」
それもそうか、私たちはわざわざ言葉をつかう必要はない。近づきさえすればなんとなく思っていることはわかるのだから。
「あなたにはあなたの良さがあるから、落ちこぼれなんて言葉に負けないでね」
●3
先生は片付け用の精霊を置くと「それではね」と立ち去った。
「ユリも一緒に食べよう!」
「私には必要のないものだから。しっかり食べて」
「……そうか」
近くにあった木の枝にふわりと座ると、空間から再び本を取り出して読書を再開する。
時折、杏寿郎とは目が合ったが特に会話をすることなくしばらく時間が経過した。
「ごちそうさまでした!」
手を合わせて大きな声でそう言った。今の言葉は食事の終わりに言うものだった気がする。食事を終わるのを待っていた精霊にトレーや机と椅子を片付けるように呼びかけた。精霊たちがわちゃわちゃと対応している姿を杏寿郎は興味深く見つめている。
やがて精霊たちが手を振りながらその場を後にすると杏寿郎は私の元に走ってきた。
「ユリ、俺はどうしたらいい!? やはり修行か!?」
やる気はあるようで何よりだった。ただ修行というのがよくわからない……もう少し本から知識を得なければならない。
「私の姿が見える範囲で、このあたりを散策していてくれる? 私はここから動かないから」
「わかった!」
言うと周囲を走り回りはじめた。
しばらく本に集中していると両方の手のひらに突然ピリッとした痛みがはしった。
「杏寿郎?」
慌てて本をしまって周囲を見回したが、杏寿郎の姿は見当たらない。周囲の精霊たちに杏寿郎の捜索を命じて、管理室へと意識を繋げる。
『おやおや、珍しい。慌ててどうしたんだい?』
言わなくてもわかっているでしょう?
『そりゃあね。君の召喚獣? って言っていいのかな。人の子はそこまで遠くはいってないよ。
ただ倒れているようだから、君の場所からはちょうど姿も見えないんだろう』
言葉の途中で精霊が杏寿郎を見つけたことを知らせてくれた。風の精霊に背中を押してもらいひとっ飛びで駆けつける。
「杏寿郎!」
抱き上げて声をかける。手のひらが傷ついていた。身体が痺れているのか声も出せないようだった。
毒素の分解と、怪我の治癒魔法……近くにあった植物のことは覚えがあった。魔力の回復になるかと思ってその植物の実を育てていたものだ。
「私が口にしていたことがわかったから、一緒に食べようと取ろうとしてくれたのね……」
まったく……思いがけないことをしてくれる。しばらく意識は戻らないことはわかっていたので、精霊に手伝ってもらい杏寿郎を背中に背負った。多少重くは感じたが運ばない重さではない。自室へと歩みを進めた。
自室の扉を開けているところで杏寿郎が起きた。
「ユリ? ここは?」
「ここは私の部屋。杏寿郎の生活する場所も精霊たちに作ってもらっているからみてみたら?」
元々は寝るところと机と椅子があるぐらいのただ広い部屋だったが、召喚したものと生活するのであれば納得だった。部屋の中には彼の住んでいた家を基本として生活に必要な場所がまとまるように配置されている。
「これはすごいな! 面白い!」
杏寿郎はバタバタと部屋の中を走り回る音が聞こえる。楽しんでもらえているようで何よりだった。
部屋の隅に追いやられた椅子に座って再び本を手にする。しばらくすると杏寿郎が戻ってきた。本をしまって様子を伺っていると、
「ユリ、さっきは……」
「うん。無事で良かった」
怒られることを予想していたのか、顔をこわばらせていたが、私の言葉を聞くとほっとしたような表情にかわった。
「ただ私の得意分野が治癒系でなければ、杏寿郎はさっき死んでしまっていたね。
……この世界は杏寿郎のいた世界とはだいぶ違うだろうから気をつけて」
言われて今度は顔を青くする。よく表情のかわる子だ。
「これ」
杏寿郎が先ほどから握ったままだった方の手を開くと、まだ小さな実が3個みえた。そうか、一緒に食べようととってきてくれたんだったか。
「ユリはふたつ食べるといい! 俺はひとつもらおう!」
ありがとうと手のひらに置かれた実をひとつ摘んで口に入れた。カリと音をさせて実を砕くと口の中がヒリヒリする…これは杏寿郎が食べられるものなんだろうか? もうひとつ口にしようとすると、杏寿郎も一緒に口に入れた。
「これは硬いし苦いな! しかし、うまい!」
念のため杏寿郎が実を飲み込んだら外に転移させておくことにする。
「杏寿郎、ここに座って」
膝の上をさす。杏寿郎は少し迷うように視線をさまよわせた後に座ってくれた。
杏寿郎を背中から抱きしめるようにして頭に顎をのせる。
「!?」
杏寿郎は一瞬逃れようとしたが、思い直して座り直した。随分耳が赤かったが、どんな表情をしているんだろうか。
「杏寿郎、これから君の話しを聞こうと思う。
内容は最初は普段の生活についてとか、話しやすい内容で構わないから」
意識が繋がっているので、これだけ近づいていれば言葉以外にも映像も共有できるのではないかと思った。しばらく考えこんでから、杏寿郎は家族のことから話しはじめてくれた。
● 4
いつの間にか外が暗くなってきていた。
杏寿郎が一通り話し終えたというので、最後に私からこのあたりの危険なところ、注意すべきところを共有し終える。するとちょうど杏寿郎のお腹がなった。
「腹が減ったな!」
「そうね。夕餉にしましょう」
杏寿郎からは一緒に生活をすることの良さを語られた。納得したわけではなかったが、機嫌を損ねられても困るので付き合うことにする。
手を引かれながら杏寿郎の家に向かったわけだが、先ほど杏寿郎に見せてもらったイメージだとこの家に暮している人たちは和装をしていた。そうするとどちらかというと洋装の私の服はこの家に合わないような気がしたが。
「杏寿郎、私の服はこのままでいいの?」
「服か!? ユリはその服で見慣れてしまっていたから、特に気にしていなかったが母の浴衣を裾上げして着てみるか!!」
そう言って走っていってしまった。
「母の部屋はなかった! 俺の着替えはどうだろうか! 風呂に入った後にでも着替えてみるといい!」
「風呂? 入浴もしろと?」
「まずは飯だな! こっちにもう出来ていたぞ!」
再び手を引かれて家の中へ入っていく。杏寿郎が履物を脱いだので、自分の足を覆っていたものを消失させた。
手を引かれて向かった先には2つの小さなテーブルに細々と色々なものが置いてある。
「夕餉は煮物と焼き魚のようだ! なかなかうまそうだ!」
向かい合うような形で席が用意されているようだが。
「ユリはここに座るといい! 俺はこちらに座る! それでは、いただきます!」
先ほどと同じように長い二本の棒を持って手を合わせてそう言うと、勢いよく食べ始めた。
「……いただきます」
真似て食べようとするが、ころりと茶色い塊が転がっていく。
「むむ!」
杏寿郎は小さなテーブルと座っていたものを手にすると、私の横に移動してきた。
「箸は難しいな! 俺もそうだった! 千寿郎にも教えているところだ。ユリにも俺が教えよう!」
どこか嬉しそうに杏寿郎は手元を見せたり、私に食べさせたりしながら始終しゃべりっぱなしだった。
「完食だ! ごちそうさまでした!」
ほとんど杏寿郎が食べる形で夕食を終える。
「明日は俺たちで食事も作れないだろうか?」
「作るの?」
「うむ! 自分の手で調理した方がうまいからと母の手伝いをよくしていた! 俺が手伝うといつも大体火加減が強くなりすぎて焦がしそうになっていたが!」
「そう。では食材だけ用意してもらいましょうか」
「では次は風呂だな! ユリが先に入るといい! 火加減は俺に任せろ!」
そう言うと、また走っていってしまった。
先ほどの生活に関する話しとイメージを思い出しつつ一通りの工程を終えて湯船につかる。
…身体を温めてどうなるというのか。
ぼんやりと杏寿郎が家族と一緒にお風呂に入っている様子を思い出したりしていた。
「ユリ! 湯加減はどうだ?」
先ほどから頻繁に杏寿郎の声がしている気がする。何か言葉を返そうとするが声にならない。そういえばここにはいつまで入っていればいいんだろうか?
出ようとしたところで身体に上手く力が入らず湯の中に身体が沈む。
……コポコポと音がする。何を考えていたんだっけ?
私の思考はぶつりとそこで途絶えた。
●5
──遠くから杏寿郎の声が聞こえる。
口から空気を入れられて、胸のあたりを強く何度も押されていることがわかった。
ゴホと咳込んで目を開くと、杏寿郎が抱きついてくる。
「ユリ!! よがっだー!」
どうやら意識を失っていたらしい。風呂場の外に寝かせられて、杏寿郎が助けてくれたようだ。
「!?」
杏寿郎は不意に我にかえり、泣くのをやめて距離をとる。
「本っ当に申し訳ない! 裸をみてしまったし! 助けるためとはいえ唇さえも奪ってしまった! この煉獄杏寿郎、男として責任をとらせてもらう!」
「……何を言って?」
「俺と結婚してくれ!!!」
「は?」
「良かれと思って風呂の温度を上げたが、ユリは湯船の加減などわからないのだから俺がもっと注意すべきだった!」
「いやいや……」
「全ての責任は俺にある! 結婚しよう!」
杏寿郎はまっすぐにこちらを見てそう言ったが、私の肌の露出が多いせいか顔を赤くして視線をそらした。
「杏寿郎、まずは落ち着いてほしい」
「うむ! 俺は落ち着いているぞ!」
「私は無事なのだし、それでいいのではないの?」
「駄目だ! ユリはもっと自分を大事にすべきだ!」
「んん? 自分を大事にすることと、杏寿郎と結婚することは同じことなの?」
「んっ!? ……そうだ!」
いまちょっと考えたよね?
「とにかく! 俺は責任をとる! ユリは湯冷めしないようによく身体を拭いておくように!」
言って杏寿郎は湯船のある方へ走っていった。
ところで、さっきから笑い声が煩いんだが…。
『あっはっはっは! ……いやー18番の生命反応がおかしかったから様子を見ていたが、随分とまぁ面白いものをみさせてもらったーー。
君の召喚した相手はまさか、未来の旦那様だったなんて…あっはっはっは!』
切っていいだろうか。
『いやいや、すまない。無事で何より。
ボクは応援してるよユリちゃん!』
管理室からの通信はむこうから勝手に切られた。
ところで、結婚って?
……杏寿郎もお風呂から帰ってきた。
布団というものを出してみたが、その上で随分と緊張した感じの雰囲気をまとっている。
顔が赤いのも湯上りだからという理由以外に何かあるようだ。
「杏寿郎?」
「こ、この年でちゃんと相手が出来るか不安に思うかもしれないが!」
うん?
「やれるだけのことはする! 必ずユリを幸せにすると約束するから!」
近づいてきてぎゅうと抱きしめられた。
……もう寝た方がいい。明日になればきっと忘れてるよ。
よしよしと頭を触って眠りに落ちる魔法をかけると、杏寿郎の身体から一気に力が抜けた。
ひとつの布団に杏寿郎を寝かせて、もうひとつの布団に自分も入る。
……長い1日だった。
● 6
日が出てすぐに活動を開始した。
杏寿郎から共有された朝餉の作り方を思い出しつつ一通り用意してから、家をでて自分の部屋に戻りバルコニーに出る。
朝のこの時間は小さな訪問客がやってくるからだ。
「おはよう。君は今朝も早いね」
白い鳥が小さな羽根を羽ばたかせてやってくる。
差し出した指の上にのり、くるくると鳴いて色々なことを話して聞かせてくれた。
「ーリー!、ユリー!!」
大きな声が近づいてくる。
「ユリ!」
勢いよく両開きにドアを開いて杏寿郎がやってきた。驚いて鳥は空へ飛び立っていく。
「どこにいったのかと思って探していた!」
走ってきた勢いで抱きつきながら、
「うん。杏寿郎より少し早く目が覚めたものだから」
「起こしてくれても良かったのだぞ!」
「なら次は起こすようにするから」
「うむ! そうしてくれ!
……ユリ、昨日はその……」
杏寿郎は顔を赤くして口ごもる。
「大丈夫、私は忘れたから杏寿郎も忘れてー」
「男に二言はない! 俺はユリと結婚する!」
召喚対象から求愛された時の対処法なんてどこかに書いてあったかな……。
「……俺がまだ子どもだから、ユリは結婚してくれないのか?」
「そ、そういうわけでは……」
「ならあと何年か後に、もう一度言うから! その時にまた考えてほしい!
よし! これでこの話はしまいだ! ここで何をしていたんだ!」
「……あそこに鳥が飛んでいるでしょ?」
先ほど飛び立った鳥を指をさしてみせる。
「朝のこの時間にいつも会いにきてくれて、色々話しを聞かせてくれるんだ」
「ユリは鳥とも話せるのか! すごいな!」
「話そうとしてくれてくれる内容がなんとなくわかるぐらいだけれど」
「あの鳥とはだいぶ長い付き合いなのか?」
「ほんの数日前よ。怪我をして飛べなくなっていたあの子を助けたのがはじまり」
「そうなのか! ところでユリ!」
「?」
「ユリはもっと笑うといいぞ! 笑っていなくとも愛いが、笑うと更に愛いからな!
あの鳥の話しをしている君は、どこか嬉しそうにしているようだったから、俺も今とても嬉しい気持ちでいる!」
言いながらどこか照れた様子だった。
「ユリ? 大丈夫か? まだ朝早いからな、寒いのではないか? そろそろ中に入ろう」
返答に困って思考停止していると、杏寿郎は心配そうに私の顔を覗きこんだ後、よしと私の身体を抱き上げ部屋の中に入っていった。