長い旅路の果て。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
11再会編1〜4
●1 プロローグ
自分は一体何をしていたのだったか。
「兄上、どうされましたか?」
そうか。任務が終わり家に帰る途中、買い物帰りの千寿郎をみつけ一緒に帰っているところだった。
「いや、少し考え事をしていた。にしても今日はすごい量を買ったな」
預かった荷物に視線を落とす。
「久しぶりに兄上が戻られると聞きまして。今夜は芋を使った献立を考えています」
「芋か! それは良いな。楽しみだ」
視界の隅に遠ざかるように歩く女性の姿をみかけた。
「時に千寿郎、このあたりに俺ぐらいの歳の女人が住んでいなかっただろうか?」
「兄上と同じぐらいの年頃の方ですか? いえ、心当たりはありませんが」
「そうか……先ほども姿を見かけたように思ったのだが」
女性が歩いていった方向に視線を向けるが、もう後ろ姿も見えない。
「……何か思うところがあるのであれば、声をかけてみてはいかがでしょう? もう家も近いですし、その荷物は千が運びます」
「すまないな。では少し行ってくる」
「はい!」
荷物を千寿郎に手渡して、塀を蹴り上げ屋根の上まで跳んだ。
「君」
極力静かに先ほど見かけた女性の後ろに降り立った。歩いていた女性の足が止まる。
「突然話しかけて申し訳ないが、少し良いだろうか?」
女性が振り返ると、周囲がきらきらと輝いたように見えた。年の頃は俺より少し若いか……あどけなさの中に百合の花のような美しさと品のある女性だ。
「俺の妻になってほしい!」
気がつけば膝をついて彼女の手をとり、結婚を申し込んでいた。
我に返って手を離し、立ち上がる。
「あー。いや、何を言っているんだ俺は」
女性は少し困ったような、微笑みを浮かべていた。
「君はこのあたりに住んでいるのか?
良ければその……名前だけでも教えてもらえないだろうか。
俺は──」
不意に女性がこちらへ近づいてくる。
腕を回せば抱きしめることの出来る距離だ。
不意な行動にドキリと胸が大きく鼓動した気がする。
耳元に彼女の吐息がかかった。
『杏寿郎』
彼女が俺の名を口にする。
嬉しく思ったのと同時に、
なぜか声は聞こえずとても胸が締め付けられる。
『起きて。
みんなを、守らないと』
胸をとんと軽く押されると、水面に落とされたような衝撃を受けた。そうか、これは夢か。
いつだって、君とは夢の中でしか出会えない。
現実で苦しさを感じた時に、夢の中で君は俺に共感し寄り添ってくれた。
君のために強くなる。
そう決めてここまできたんだったな──。
●2
夜が明ける──。
鬼との戦いで深い傷を負い。目の前で涙を流す竈門少年に最後の言葉を伝えた。
遠く、母の幻が見える。
母は微笑んでくれているようだった。
不思議と痛みはもう感じない……あとは意識がなくなるのみとそう思っていた。
こんな時になって、ようやく彼女の姿を思い出す。
とうの昔に声を忘れてしまった君、
まだどこかで俺を探してくれているだろうか。
出来ることなら、最後に、もう一度……
不意に、胸の中にあつい炎のような熱を感じた。
驚いて両眼を開くと、俺の頬を両手で覆うようにして心配そうに覗きこむ彼女の顔があった。
君なのか? 見間違うはずもない。
潰れたはずの左目も、腹に開いた穴も、身体の痛みもなにもかも一瞬で癒すその力。
光と共に現れた君はまるで、天からの使いのようだ。
視線が合うと嬉しそうに微笑んでくれるが、次の瞬間にはその微笑みが少しだけかなしげに曇る。
涙が溢れそうになるが、彼女の表情がどうしてそう変化したのか少し遅れて理解できた。
身体が離れ、姿が消えかかる。
おそらく彼女はすぐに次の世界へ、別の俺を探しに行くのだろう。
ユリ! 君の探している杏寿郎は俺だ!
どうすれば君にそれがわかってもらえる!?
このまま何も出来なければ、もう2度と君に会えなくなる!
動け! 動け! 動け! 動け!
何を犠牲にしても今この時、何も出来なければ一生後悔する!
身体は回復の反動で急激な眠気に襲われていた。
思い切り歯を喰いしばると歯が割れる音がして、消えかかった彼女の注意がこちらに向いた。
「……ユ、リ」
なんとか口から言葉を紡ぐ、音として発せられた量としてはほんのわずかなものだったに違いない。
地面を蹴り、腕を伸ばす。
彼女の腕を掴んで引き寄せ、強く強く抱きしめた。
●3
どうしてだろうか頭が痛い。
「もんじろう! こっち来い! 修行だ!!」
伊之助が俺の羽織りを引っ張る。
「ちょっと待ってくれ伊之助! 煉獄さん!?」
さっきまで目の前で座っていたはずの煉獄さんが地面に倒れていた。見覚えのない女性と重なるようにして倒れているようだが?
その女性からは今までかいだことのない不思議な匂いがする。もちろん悪い匂いではない、優しい匂いではあるのだけれど単純にそれだけではなくて──。
匂いを気にしていてふと、先ほどまであった強い血のにおいがしていないことに気付いた。
「あれ?」
腹部にあった傷も、今は跡形もなくなっていることにも気付く。
隠の人たちが駆け寄ってきた。
「皆さん、ご無事ですか?」
「は、はい!」
「炎柱様が重傷と聞きましたが──」
「おい、ごんじろう! これは一体どういうことだ!? ギョロギョロ目ん玉、生きていやがるじゃねぇか!!」
煉獄さんを覗き込んだ伊之助が言う。
「え!? なに? どういうこと? なんかこわいんですけど!!!」
善逸が驚いたような声を上げた。
「煉獄さん!」
顔を覗き込むと確かに顔色もいいし、首筋に軽く触れると脈もあるようだ。
「この女性はどなたでしょうか? 頭からの出血が確認できますね。怪我人のようです」
「おい! 炎柱様の腕が外れん!」
「いったん2人とも一緒に運びましょう」
隠の人たちが煉獄さんと女性を運ぼうと準備をしていた。
「あ、俺たちも手伝います! 伊之助! 善逸!」
「うん? お前、そういえば腹の傷は平気なのか?」
伊之助がまじまじとこちらを覗き込んだ。
「それが、もう治っているようなんだ」
腹の傷があったあたりを見せながら。
「全集中の効果か! すごいな!」
「いや、そうではないと思うんだが……。
今は煉獄さんたちを運ぶのが先だ。急ごう!」
○ ○ ○
炎柱と上弦の鬼との戦いの様子は、近隣にいる隊士や他の柱たち、産屋敷邸にも届いていた。
炎柱が重傷を負い、命も危ういかという報告の後に耳に入ってきたのは──。
炎柱、意識不明だが無事に帰還!
誰もがその報告の内容を、我が耳を疑った。
「……何か、我々の思いしれないことが起きたようだね。杏寿郎が目覚めたら少し話しを聞く機会を設けようか」
産屋敷耀哉は杏寿郎の目覚めを待って柱合会議を行う旨、伝令を飛ばした。
●4
意識が戻った時に感じたのは、ぬくもりと柔らかさだった。ゆっくりと目を開き、視線を上にあげると近くにユリの顔がある。
思いがけず、かぁと顔が赤くなった。
なんとか引き留めることが出来たようで良かった……。
身体を起こして、自身の状態を確認する。
上弦の参との戦いで負傷した形跡がまるでない。
見事なものだった。
ここは、どこか藤の家か? 軽く周囲を見回す。
「ユリ、起きろ。ユリ」
彼女の上半身を優しく抱き上げ、小さく声をかける。
ユリの頭には真新しい包帯が巻かれていた。頭を怪我してしまったか? 自身の怪我など、意識があればすぐ回復していただろう。つまり意識を失った後に傷を負ったことになる。
「ユリ」
彼女のまぶたがわずかにふるえた。眩しそうにゆっくりと目を開く。
「俺だ。わかるか? 杏寿郎だ」
「……」
無言のまま、ユリはわずかに困惑したような表情を浮べた。
まさかとは思うが、何か記憶が混乱しているのかもしれない。
「君がわかることを俺に教えてほしい。力になりたいんだ」
しばらく見つめ合う、不意に彼女が唇を重ねてきた。
「!?」
彼女が俺に尋ねたい質問が流れ込んでくる。
気付くと唇は離れていた。
視線が合うと今度は彼女がまぶたを閉じる。
今度はこちらからしろということらしい……俺は炎柱 煉獄杏寿郎。口吸いのひとつやふたつ、動じてなるものかと思いつつ……目をいつ閉じるべきか、息はしていいのか悪いのかと考えはじめたらきりがなくなってきた。
深く息を吐いて仕切り直す。
えぇい、ままよ! と軽く触れる程度に唇を合わせて先ほどの問いに答える。
その後、彼女は少し離れたところで1人で座り。視線を下に落として少し考え込んでいるようだ。
……こちらばかりが狼狽えて、納得がいかなかった。
彼女に近づいて両肩に手を添えると、少し驚いたようにユリはこちらを見る。
再びこちらから唇を重ねた。のせたものは出会ってから別れるまでの関係と、今も胸を燃やす熱い想いだ。舌を差し込むと彼女は「んぅ」と小さく声を漏らす。勢い余って押し倒してしまい、ユリの頭と身体を腕で庇った。
「ごんじろう! ギョロギョロ目ん玉が起きたみたいだぞ!」
井之頭少年の声が聞こえてきた。声のした方を見ると、天井裏から猪の頭が突き出ていて不思議そうに聞いてくる。
「なにしてるんだ?」
押し倒してしまったユリに視線を戻すと、彼女は口元を手で覆いながら、頬を赤らめて警戒するように俺から距離をとろうとしているようだ。
彼女が顔を赤くして狼狽えている姿は初めて見た気がする。気まずくなり立ち上がった。
「伊之助、駄目だろう! 煉獄さんは大怪我をしたんだから勝手に部屋に入ったりしたら!」
言いながら竈門少年も部屋に入ってくる。後ろには黄色い少年も心配そうに続く。
「れ、煉獄ざーん!!!」
泣きながら竈門少年が駆け寄ってきた。
「皆、無事か。良かった良かった」
「煉獄さんこそ、あの大怪我はどうやって治したんですか?」
「うむ!」
回答に困る。
「炭治郎、やめとけって。なんか煉獄さん困ってるみたいだし……。
あの、お姉さん! 頭のお怪我は大丈夫ですか? 良ければ俺が看病しますよ」
黄色い少年の前半の発言には助かったが、ユリに色目を使われるのは黙ってはおけない。
「ヒィ……」
何か言葉をかけようとしたが、その前に黄色い少年は顔色を悪くして竈門少年の背後に隠れてしまった。
「煉獄さん、失礼しますね。
無事に目覚められたようで良かったです」
蟲柱、胡蝶がノックをして部屋に入ってきた。
「はい。ここは蝶屋敷です。
そちらの女性が怪我をされているということだったので、こちらにご案内させていただきました。
煉獄さんとはお知り合いの方ですか?
抱きついたまま離れないと聞いた時は驚きましたが。まさか本当に目覚めるまで腕が外れないなんて思いもしませんでした」
探るような視線と物言いだった。当然だろう。
「彼女の名前はユリ、俺のつm……婚約者だ」
「「!?」」
「こんにゃくしゃ?」
「それは本当ですか? 煉獄さんに婚約者がいるなんて初耳ですが。間違いないですか?」
胡蝶がユリに尋ねると、ユリは回答に困っているようだった。確かに、婚約者であるという情報は先ほど彼女に伝えていない。
「彼女は少し混乱しているんだ。おそらく頭の怪我が原因だと思われる」
「あ、頭の怪我といえば」
「どうした竈門少年」
「俺、気付いたら頭が何かとぶつかったみたいに少し痛かったんです。だからもしかしたらユリさんの頭と俺の頭がぶつかったかもしれなくて。もし俺のせいであれば責任を」
「いや! それは俺が彼女に突然抱きついて倒れさせてしまった方が責任が重い! 竈門少年は気にすることはないぞ!」
「煉獄さん……」
「婚約者であれば、元炎柱に話しを聞くと事情がわかりますかね……」
「父は知らないことだ」
「それは、どういうことですか? 彼女が煉獄さんの婚約者であるという情報を煉獄さんからしか聞けないとなると。疑いたくはないですが……煉獄さんが都合よく、勝手に婚約者だと言っている可能性を考えなくてはならなくなりますが」
疑いの眼差しを向けられる。うむ。困った。
「……ひとまず、彼女の怪我の具合を見させてもらいますね。
ユリさん、私の診察室まで来ていただけませんか?」
「待て俺も」
「煉獄さんは炭治郎君達との話しもあるでしょうし、こちらでゆっくりしていください。それでは」
胡蝶はユリを連れて部屋をでていってしまった。