長い旅路の果て。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●5
「あら、煉獄さん。こちらで待ってらしたんですか? 炭治郎君たちは?」
「竈門少年たちは、いま走り込みをしている」
「そうですか」
「ユリは?」
「診察を終えて、ひとまず湯あみをすすめておきました。
湯船につかるのはおすすめ出来ませんが、地面に押し倒されていたので身体の汚れをおとすべきかと。
頭の怪我はそこまで悪くはないようですが、煉獄さんが腕を回していた場所はひどい痣になっていましたよ?
……正直、今回の件はわからないことだらけです。あれだけの脱線事故が起きたのに負傷者はユリさんだけ、病人すらいなかったそうなので」
「病人もいなかった?」
「あら、何か気になります?」
「竈門少年から聞いたのだが、鬼に協力していた者が結核を患っていたと言っていたぞ」
「それはおかしいですね。
あと煉獄さんの回復を待って緊急で柱合会議を開くということだったので、明日には改めて招集がかかると思います。ユリさんにはここに滞在していてもらおうかと思い──
「いや、一緒に連れて行く」
「なぜですか?」
「お館様に俺の婚約者として紹介しておきたい」
「そうですか? 婚約者ぐらいであれば、まだ挨拶は早いと思いますが……ところで煉獄さん」
「なんだ」
「ユリさんとは、いつぐらいぶりに再会されたんですか?」
「なぜそれが気になる?」
「いえ、単純に少し興味がありまして」
正直に答えようとして思いとどまる。
「どうだったかな。俺もど忘れしてしまったようだ」
「そうですか。ところでユリさんですが、明日はお館様の屋敷に同行してもらうとして、その後は記憶が回復するまでこの蝶屋敷に滞在してもらうのはいかがでしょうか?」
「それは承諾しかねる」
「なぜです? 煉獄さんの家で引き取られます? それとも彼女のご実家が近くにあったりするんでしょうか?」
「胡蝶、彼女に関してはあまり詮索をするな」
「煉獄さん、何か言えない事情があるということですか? 嘘をついてまで場をおさめようとしないところは私も信頼していますが。
ーー煉獄さんに限ってはそんなこともないと思っていますけれど」
「俺も父のように人がかわってしまったと?」
「私の知っている煉獄さんは、一人の女性に対してだけ、そこまで必死になる方ではなかったと認識していました。ユリさんに関しては例外ということでしょうか? だとしたら改めなければいけませんね。
ただユリさんとは私も話してみて、とても感じの良い方でしたので何かあればまた交流させていただきたいです」
「それは覚えておこう」
「ところで、今夜の部屋は煉獄さんは大部屋で炭治郎君たちと一緒に寝てくださいね。
ユリさんは私たちと一緒に寝てもらうか、個室を用意しようと思っていますので。
彼女は怪我人なので安静に出来るよう、くれぐれもご協力ください」
●6
夜、竈門少年たちが寝てから部屋を出た。
気配を察してユリのいるあたりまで行き、心の中で声をかける。
しばらく待っていると、スッと戸が開いてユリが出てきた。
「ユリ」
名を呼び腕を広げると、少し迷いながらも近づいてきてくれた。彼女の腰に軽く腕をまわす。
「怪我の具合は大丈夫か? 胡蝶とはどんな話しをした?」
彼女は顔を近づけようとしたが、俺はそれを押し留める。
「待ってくれ、俺は君の声を聞きたい」
彼女の両目に俺の顔がうつる距離だ。寝ている時間だったからか普段編み上げている髪は下におろされ月明かりを浴びて輝いて見える。
ユリの目に、俺はどう映っているんだろうか?
情報としては俺から提供はした。しかし、知っているからといってそれで以前と同じ想いを持ってもらえるものだろうか。
「杏寿郎、の」
わずかにうつむいて、ユリは俺の名を呼んだ。
「どうした?」
「杏寿郎の近くにいると胸が苦しい」
ここと俺の右手を両手で掴んで自らの胸の上、心臓のあるあたりに触れさせる。彼女の胸の鼓動はとても早かった。
「それに、顔もまともに見られない。杏寿郎をみると、顔が熱を持ってしまって……これは異常なこと?」
……強張っていた気持ちが綻んだ気がする。
人の世界に来る時は、身体は人の身体に変化させてやってくるのだと聞いたことがある。おそらくはユリもそうした身体の変化と、今まで感じたことのない感覚に戸惑っているのだろう。
「それは記憶が曖昧になっても、身体は俺を意識し続けているということではないだろうか?
であれば、問題はない。そのうち慣れるさ」
「意識している?」
「好いてくれているか、愛いとおもってくれているのだろう。俺と同じように」
胸にあてていた手を彼女の頭に置き、そっと顔の輪郭をなぞりながら言う。それだけでユリの顔は益々赤くなった。
「でも、杏寿郎の顔は全然赤くなってないし」
俺の胸に耳をあてて、
「どきどきもしてないよ?」
そう言って上目づかいにこちらをみる。
「んんっ、それは俺が柱だからだ。呼吸で自分の身体を制御している」
「不公平……」
ユリは拗ねたように視線を逸らした。
正直、今まで夢で会うぐらいしか出来なかった愛しい人が目の前で話し表情を変化させ、温もりと優しい香りを感じるだけでおかしくなってしまいそうだ。
「機嫌を直してくれ、先ほどは胸が苦しくなることがわかっていても君は俺の元へ来てくれた。そういうことでいいじゃないか」
再び見つめ合う。
……このまま抱き上げて、連れ去ってしまいたい。
そんなことをすれば胡蝶になんと言われるかわからないが。
ユリの身体を両腕で優しく抱きしめる。
「先ほどの問いにはこたえられそうか?」
「怪我は、大丈夫。このままの方がいいよね?」
「そうだな」
「しのぶさんとは、体調のこと以外はほとんど話してない。どこに住んでいたかとか聞かれたけど、わからないから。だいぶ心配してくれているみたい」
「そうか」
「これからどうしよう」
「君は俺が守る。
同じ場所に留まることは、ユリにとって危険でしかないのはわかっているが……俺にはまだ責務が残っている。
しばらく付き合ってもらえないか?」
「うん。いいよ」
穏やかに微笑んで彼女は言った。
「ユリ……」
彼女の顎に手をやり、唇を重ねようとして固まる。
胡蝶が細く開いた隙間からこちらを見ていた。
「?」
咳払いをして、肩にかけていた羽織をユリの肩にかける。
「そろそろ部屋に戻った方がいい。
寒い中、悪かったな」
おやすみと耳元で囁いて身体を離す。
一足飛びに部屋まで戻った。
●7
柱合会議、産屋敷邸一室
胡蝶から無限列車に関する被害報告が終わると、
「それは事実か? 列車が脱線して怪我人が1人なんて」
宇髄がすかさず声を上げた。
「そのことに関しては、杏寿郎からみんなに話しがあるそうだよ。聞いてもらえるかい?
杏寿郎、頼めるかな」
「はい。
はじめに俺から俺が知っていること全てを話すことは出来ないということを覚えていてほしい」
「なに言ってるんだテメェ」
「実弥、ひとまず最後まで聞いてあげておくれ」
「無限列車での戦いの最後、俺は上弦の参と戦闘になった。そして俺が重傷を負ったという伝達は一度は皆の耳にも届いていたと思う。
今の姿をみて重傷を負ったように見えるか?」
「とてもそうは見えないです!」
甘露寺が声を上げる。
「俺の怪我や竈門少年たち列車の乗客の負傷は、奇跡により癒された。そしてその現象を暴いてしまえば、二度とその奇跡は起きなくなる」
「なんだそりゃあ?」
「本気で言っているのか?」
「まるで鶴の恩返しのようなお話しですね。
命を救われた鶴が、恩人の元に嫁いでくるとか。
機織りの時の姿ではなく、素性を知られたら帰ってしまわれるということでしょうか?」
胡蝶が知った顔で言う。
「そういえば唯一の怪我人であるユリさんですが、記憶障害の症状があるようなので私の蝶屋敷でお預かりするのが妥当かと思います。その件はどうなりますか?」
俺の方を向いて胡蝶は言ったが、言葉を返したのはお館様だった。
「ユリさんは杏寿郎の婚約者だという話だからね。杏寿郎に一任するよ」
お館様が部屋を出て、次に煉獄さんが部屋を出て行った。次に続く者がいないまま、煉獄さんの気配が遠ざかっていくのがわかる。
「随分知った顔だったじゃないか胡蝶」
宇髄さんが声をかけてきた。
「いいえ、私もさっぱりです。
ただ煉獄さんの本気具合を図るつもりでこの柱合会議に参加しましたが、先にお館様と方針を決めてしまっているあたり、我々が何か口出しすることは難しいでしょうね」
「お館様も容認されるということか…」
「一瞬で怪我も病気も完治させる現象、我々の知る呼吸で出来ることではないでしょうし、血鬼術のような人知をこえたものなのかもしれません」
甘露寺さんが驚いたように声を上げる。
「病気も完治ってどういうことなの?」
「列車には重度の結核を患った方が乗車していたそうなのですが、その後の検査で完治されていることが確認できました。そういった他のなんらかの病人だった方々も同じように完治されていると報告があります」
「そりゃあド派手にすげぇな」
「私たちがその現象について知ることは禁止されてしまったようなものですが、推測して何か対策することまでは止められていないのでこの際、私の推測を皆さんにお話ししますね」
「……」
「私は煉獄さんの婚約者、ユリさんがその現象に何か関わっているのではないかと予想しています。
今後もし彼女が煉獄さんと行動を共にしている場合、柱である我々も彼女の安全を第一に考えた方が良いかもしれません。
何かあった時、煉獄さんの精神面もだいぶ心配ですし」
「その、ユリって女は一体なんだっていうんだ」
「さぁ? 頭の怪我もありましたから、診察させてもらいましたけど。当然、鬼ということもなく見目は美しい女性としか言いようがないです。もしかしたら仙女か何かなのかもしれないですね」
「ほぉ仙女の婚約者ねぇ。一目みてみたいもんだ」
「あら、ちょうどユリさんもここにいらしているんですよ」
甘露寺さんが勢いよく立ち上がると、
「しのぶちゃん! そういうことは早く教えてもらえないと! 私、ご挨拶に行く!」
慌ただしく部屋を出ていった。
「甘露寺!」
●8
竈門少年、ユリと一緒に俺の家へ行くことになった。
「そういえば、竈門少年には弟と父への伝言を託していたのだったな」
「そうですね。本当にあの時、呼吸でもどうにもならないと聞いた時は涙が止まりませんでした」
「あの時の言葉は……もしまた俺の身に何かあった時まで、胸の内にしまっておいてほしい」
「……わかりました。出来ればそんなことがないようにしてもらいたいところですが」
「それもそうだな! 俺もユリがいるのに死んでいられん!」
そろそろ家の近くまできていた。
「千寿郎!」
家の前で掃き掃除をしていた弟に声をかける。
「兄上! おかえりなさいませ!
大怪我をされたと聞きましたが、大丈夫なのですか?」
「うむ! 大事ない! このとおり元気だ」
「良かった……本当に……おかえりなさい」
うっすらと涙目になる千寿郎の肩に手をやり、少ししゃがんで視線を合わせる。
「心配をかけてしまったな。兄として不甲斐ない」
「いえ、ご無事であれば良いのです。
ところで兄上、後ろの方々は?
お待たせしてしまってすみません」
「えぇと、俺たちは……」
「継子の竈門少年と、婚約者のユリだ」
「なるほど、継子の方でしたか……そしてあなたがこんやく……こここ、婚約!? 兄上どういうことですか!? 千は何も聞いておりません!」
「うむ! 今まで何も言っていなかったからな」
「だから今まで頑なに見合いを断られていたんですか? それならそう言ってくだされば良かったのに。
私は弟の千寿郎と申します。後ほどまた改めてご挨拶させてください」
千寿郎は深々とお辞儀をした後に、
「兄上、おふたりを客間へご案内いただけますか? 僕は父に伝えてきますので」
小声で俺にそう言って中へ走っていった。
遠くから父の怒鳴るような声が近づいてくる。どうやら今日も昼間から酒を飲んでいたようだ。
今日のところは父と2人を会わせないことも考えてはいたが、千寿郎が折角部屋から連れ出してくれたのであればここは心を決めなければならない。
「すみません、お待たせしました……父を連れてきましたのでご紹介します……」
千寿郎が息をきらせながら部屋に入ってきた。
その後、父は竈門少年の耳飾りをみて激昂して、挨拶どころの状況ではなくなってしまい。俺が父を無理矢理部屋の外へ連れ出した。
どうやら父は歴代の炎柱の手記を読んで、はじまりの呼吸というものがあることを知って戦うことを諦めてしまったようだった。
父を部屋に置いて、3人のいる客間に戻ってきた。
「兄上、ありがとうございました」
千寿郎の言葉にうなづきを返しつつ、
「ひとまず父も落ち着いたようだが、今日はもう会わない方が良いだろうな。
2人とも驚かせてしまってすまなかった」
「煉獄さんのお父さんは炎の呼吸ではなく、ヒの呼吸と言っていましたが、ヒノカミ神楽と何か関係があるんでしょうか?」
「可能性はあると思います」
「うむ。竈門少年は炎柱の手記を読んでみるといい」
「父がよく見ていた書物には心当たりがあるので、後でお持ちしますね。ところで、今日は皆さん泊まられるということで宜しかったでしょうか?」
「はい! お世話になります!」
竈門少年が元気良くこたえる。
「ユリさんは、その……兄の部屋で休まれますか?」
「そのつもりでいる!」
ユリがこたえるよりも早く俺がこたえると、竈門少年も千寿郎も「え?」という顔で一瞬こちらを見たが気にしないことにした。