【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
長い旅路の果て。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


13再会編9〜12

●9

 

 風呂から上がり自室にもどったが、先に風呂に入って部屋にいるはずのユリの姿がなく探してしまった。

 散々探し回って部屋に戻ろうとすると、中庭に彼女がいたのだ。

 見たところただ庭に立っているようにしかみえないわけだが、声をかけるとユリが目元を拭うような仕草をしつつこちらに身体を向けた。

「泣いていたのか?」

 慌てて駆け寄り、身体を抱きしめる。

 

 軽く彼女が唇を触れさせると、情報が一方的に流れこんできた。

 

 ただ庭に立っているのも不審がられるかと思い存在を多少薄めていたこと。

 していたことは、並行世界の同じ場所の力も借りて父の精神面での手助けが出来るような術を組んでいたということだった。並行世界に同時に影響を与えることで、監視の目を欺いているらしいが。

『杏寿郎がいなくなった世界の様子も見えたりしたから、涙が出てしまったみたい。

 身体の傷より心の傷の方が治すことは難しいから……いっそ忘れさせてしまうことも出来るけど。そういうのはこの世界では違うでしょう?』

 

「そうだな。

 だが、行動を起こすならまずは俺に相談してくれないか?」

「だめだった?」

「君一人で決めてしまったら何かあった時に責めるのは自身だろう。出来れば何も起きない選択をしたいが、何かあった時に君が自身を責めるようなことにはしたくない」

「うん、ごめんね」

 ユリが俺の身体に頭を擦り寄せる。風呂上がりということもあるが、いつも以上にとても良い香りがした。

「風呂上がりの身体を冷やしてまでしてくれたんだ。謝ってもらうようなことではないさ」

「杏寿郎、そういえば」

「どうした?」

「こんやくしゃというのは、どういうこと?」

「結婚の約束をした相手ということだな」

「結婚の約束? した?」

 眉をハの字にしてユリが聞いてくる。

「やはり記憶がまだ戻っていないのか?」

「そもそも、結婚っていうのがどういうものか結局わからないのだけれど」

「結婚というのは、お互い助け合って生きていくということだ。そういう関係になろうと話したから、今ここに君がいるのでは?」

「助け合って生きてくだけでいいの?

 ……他に何か言ってないことない?」

「他に言ってないこと?」

 今度はこちらが考えこむ。しきたりとか、家のことについても共有はしておいた方が良いだろうが。他に結婚することで発生するユリに伝えておかねばならないことは……。

「子が欲しい」

「こ?」

「うむ。俺とユリの子供が欲しい」

 ユリは少し考えるような仕草で、

「たぶん、やろうと思えばここに喚び出せるけど?」

 それはどういうことだ?

 再び唇を軽く触れさせると、以前ユニゾンした影響で俺の情報はユリの中に残っているので、いきなりこの場所に2人の赤ん坊として生命を生み出すことが出来るということだった。

 しかも赤ん坊の姿に限定することなく、ある程度成長した状態で呼び出せるというから驚きである。

『生命の創造はだいぶ魔力を使うから、もしかしたら私が消滅するかもしれないけど。今の魔力量なら1人ぐらいなら多分だい──

 

「それは、やめてほしい」

 この世界の仕組みから大きく外れることはしない方がいいと昔注意されたことを思い出す。

「そうなの?」

 再び考えこむような仕草をするユリを見つめながら、彼女はまだ人が出来ることと、自分で出来てしまうことの線引きが出来ていないのかもしれない。

 だとするなら、もっと俺が彼女を理解して助言をしていかなければ。

 改めてユリの手をとって。

「その時がきたら俺の子供を産んでくれ」

「あ、あの…」

 ユリは視線を彷徨わせるながら顔を赤くしている。

「どうした?」

「言ってもらって嬉しい気持ちはあるのだけれど、過程も知らないのに引き受けるなんて出来ないじゃない?」

「それもそうだな!

 では部屋に戻ろう、ここは冷える。

 どうしたらいいかはちゃんと俺が教えるさ」

 

 手を繋いだまま部屋に戻ると、千寿郎が布団を持って部屋の前にいた。

「どうした千寿郎」

「兄上、ユリさん。部屋の外におられたんですね。

 あの……お邪魔かなとも思ったのですが、久しぶりに兄上も戻られたので」

 千寿郎はうつむくようにして言葉を濁している。どうやら同じ部屋で一緒に休みたいということらしいが。

「せ──

「あら、良いでは? 兄弟でおやすみになられるのも」

 ユリが俺の返答にかぶせて、いきなり千寿郎の味方をしだした。

「私は別の部屋をお借りしますから」

 ね? と膝をついて千寿郎に話しかけている。客間でのやりとり以降、夕餉の用意や風呂の準備などでユリと千寿郎の仲が深まっているのは感じていたが。

「いえ、兄弟だけでなくとも。

 良ければユリさんともご一緒したいのです!」

 

 

●10

 

 その後、千寿郎、ユリ、俺の順で布団を敷き川の字になって寝ている。

 ユリは俺が真ん中が良いのではないかと言っていたが、千寿郎はどうやらユリと話しがしたいそうだったのでそれならば彼女を真ん中にという意見が兄弟で一致して今に至る。

「あの、ユリさんに伺いたかったんですが。

 兄とはどのように出会われたのですか?」

 横になってからぽつりと千寿郎がユリに声をかけてきた。

「え?」

 チラリとユリがこちらを見る。

「えぇと、私が困っていたところに杏寿郎が来てくれて。私のために戦ってくれた……でいいかしら?」

「うむ!」

 大体あってる。

「なるほど! やはり兄上とは任務中に出会われたのですね! ユリさんを狙う鬼を兄上が退治して、お互いに恋に落ちたと! 素敵です!」

 何かを言いかけたユリを手を引いて止めた。

 だいぶ齟齬があるが、最初から最後まで真実を伝えるわけにはいかない。それならば千寿郎の発想を使わせてもらうのも良さそうだ。

「兄上が戦っている姿をみて、ユリさんは好意を持ったのですか?」

「いいえ、私は杏寿郎が戦っている姿をみていないの」

「それはそうですよね。ユリさんは隊士でもないわけですし、戦場での出来事が心を傷つけてしまうかもしれない。しかし、兄の剣技は強いだけでなくとても美しいのでユリさんにも見ていただきたいです!」

 千寿郎が瞳を輝かせて、ユリに熱く語っている姿が目に浮かぶ。

「そうなのね」

 ユリがこちらに助けを求めるような視線を向けるが、千寿郎の話しは止まらない。

「そうか! 兄上はユリさんの見ていないところで鬼と戦い、傷を負ったところをユリさんに助けられたとか?」

「ユリには度々助けられたな!」

 何を言い出すの! という顔でユリがこちらを見る。

「千は理解しました! もしかしてユリさんと出会ってからは任務で傷を負う度に、ユリさんのところで療養されていたのではないですか?」

 全然違う! が、千寿郎は自分で考えた馴れ初めを勝手になるほどと納得してしまっていた。

「僕ばかりが話してしまっていますが、何か話せない理由があるということでしょうか……もしやユリさんは兄上と駆け落ちして今に至るとか!?

 ……兄上がそんな情熱をお持ちだったとは。

 でも、兄上が駆け落ちなんてらしくもない。ともすればユリさんには親が勝手に決めた性悪な婚約者がいたりして──」

 後半は千寿郎が独り言を口にしていたようだった。

「あの、あまりおしゃべりに夢中になると眠れなくなるから」

 ユリが千寿郎をなだめるように声をかける。

「あっ! そうですね。明日は早く起きて色々やらなければならないこともあるのでした。

 兄上、ユリさん、おやすみなさいませ。

 馴れ初めについてはまた詳しく教えてください」

 千寿郎はそう言うと寝に入ったようだった。

 

 夜も更けて、千寿郎の息づかいが寝息にかわったらユリを自分の布団に抱き入れようと思い、目を閉じて千寿郎の呼吸に耳をすましていると。

 

 寝息にかわって間もなく、千寿郎の息づかいはすすり泣く声にかわってしまう。

 どうやら怖い夢をみているようだ。

 俺が身体を起こすよりも早く、ユリが身体を起こし千寿郎の様子を窺っているのがわかった。

「母上……兄上……行かないで」

 千寿郎の声が小さく聞こえてくる。

 寝言から察するに母と俺が千寿郎を置いてどこかにいってしまう夢だろうか……。

 

 ほどなくして千寿郎の寝息が聞こえてきた。

 ユリの身体を探して手を伸ばすが、指先にすら触れない。

 身体を起こして隣を見ると、彼女の布団にユリの姿はなかった。また外に出ていってしまったかとも思ったが、今度は違う。

 ユリは千寿郎を抱きしめた状態で眠ってしまっていた。

「……」

 これでは手の出しようがない。

 ふぅと息を吐くと再び横になった。

 

 

●11

 

 外が薄明るい、朝になったようだ。

「えっ、ユリさん!?」

 千寿郎が小声で驚いた声が聞こえてきた。ユリに抱かれながら寝ていたことに気づいて慌てているらしい。

 千寿郎が布団を出ようとしている気配を感じる。

「えと……ありがとうございました。姉上」

 ユリの耳元で千寿郎はささやくと、顔を赤くして部屋の外へ小走りに出ていった。

 

「……ユリ」

「んん……」

 身を起こして、彼女の耳元で声をかけるとユリが目を覚ます。

「杏寿郎? ……おはよう」

 ふぁぁとあくびをして、まだ眠そうだった。

「千寿郎は?」

「もう先に起きて部屋を出ていったぞ」

「そう。

 ……杏寿郎、怒っている?」

 じっと瞳を合わせて、ユリは俺が怒っているのではないかと指摘してきた。

「怒ってはいない」

「そう?」

 ユリは起き上がると、俺がしているように布団の上に正座で座る。

「どうしたの?」

 俺の顔をユリが下から覗き込む。

「まずは礼を言いたい。昨夜は弟が世話になった」

「お礼を言ってもらえるなら良かったけれど……杏寿郎? やっぱり変だよ? 何か怒っているでしょう?」

「怒ってない」

「……」

 ユリは黙りこんでうつむいてしまった。

「君が、どういうつもりで千寿郎を抱いて眠りについたのか。理由を聞きたいとは思う」

「え? それは悪い夢をみて苦しそうだったから……」

「他には?」

「他? えぇと……初めて会った頃の杏寿郎と姿が似ていたから」

 表情を崩して微笑んだユリをみて、俺は歯を噛み締める。

「杏寿郎? どうして? 私、また何か間違えた?」

 ユリは慌てた様子でそう言った。

「君は何も間違えてない」

 俺が狭量なだけだ。

「ただ俺はあの頃、君に抱きしめてもらいながら眠りについたことはなかったし。

 こうして再会して、君の気持ちがわからない状態でいることが、こんなに──」

 ……苦しいなんて。くすぶっている感情がなんなのか理解はしていた。

 

 嫉妬だ。

 

 何を言ってもきっと君を困らせる。それがわかっているのにどうしても言葉が出てしまう。

「杏寿郎」

 ユリは俺の前で膝をついてそっと抱きしめてくれる。

「大丈夫」

 優しく声をかけてくれる。俺の知っているユリならそうしてくれるはずだ。

 そして実際、彼女はそうしてくれた。

 

 ──しかし。

 

「違うんだ」

 ユリの肩に手をあてて身を離す。彼女は再び困惑したような表情を浮かべた。

「わからないよ……」

「……」

「なら、私に教えて? 杏寿郎はどうしたいの?

 ……私はどうしたらいいの?」

「……」

「……あなたを探して、会いに来ない方が良かった?」

 違う! 慌てて顔を上げた。涙目のユリの身体がわずかに光って見える。転移魔法の兆候だ。

「待て!」

 覆い被さるように抱きしめて手首を掴む。転移魔法は接触されればされるほど、単独での転移が難しくなる。これで彼女の転移は回避できるはずだ。

「離して!」

「嫌だ! 離さない!

 これで出来ないだろう!」

「出来る!」

「出来ない!」

 キッとユリがこちらを睨んだと思ったら、彼女の姿が腕の中から掻き消えた。腕の中にあったものが突然消えて、力をこめていた腕が空振りする。

「ユリ……嫌だ……」

 こんなことで君と会えなくなるなんてーー。

 腕の中にはユリの着ていた浴衣と、わずかなぬくもりだけが残った。

 

 

●12

 

 

 

 

 

 

「ほら、出来たよ」

 後ろからユリの声がした。反射的にそちらを見る。

 そこには転移が成功して誇らしげに胸を張る彼女の姿があった。一糸纏わぬ姿で。

「!?」

 こちらの反応を見て、ユリもしまった! という顔をしたかと思うと両手で身体の前を隠し真っ赤になってうずくまった。

「ユリ、俺が悪かった。

 君は本当に何も悪くない」

 立ち上がってユリに近づき、しゃがんで手にしていた浴衣を彼女の肩にかける。思いがけない形で彼女の美しく成長した姿を見て内心ひどく動揺していた。

「少し頭を冷やしてくる」

 再び立ち上がるとポタタと小さく音がする。ユリの膝のあたりに数滴血が落ちてしまっていた。

 驚いた様子でユリがこちらを見上げ立ち上がる。

「杏寿郎、血が出てる。どこを痛くしたの?」

 心配そうに両手を俺の頬を包むように向け、肩にかかっていた浴衣は床に落ちた。

「ぐっ……」

 見ては、見てはいけないと思いつつ。目を開いていると視線が下を向いてしまう。

「鼻から血が出たの? 大丈夫、いま治してあげるね……うん。もう大丈夫」

 手をおろして優しく微笑む彼女の身体を、

「そういうところだ、ユリ……」

 そっと静かに抱きすくめる。

「?」

 君は何より俺を優先してくれる。あの頃から君はそうだった。

「俺は──」

 わかっているのに疑ってしまう。君を無意味に傷つけてしまう。

「杏寿郎?」

 ユリが俺に声をかける。

「泣いているの?」

 俺の頬に片手を伸ばし心配そうに声をかけた。

 涙は出ていないはずだ。彼女は俺の心に寄り添ってそう言ってくれている。

「ユリ、君が好きなんだ」

 彼女の差し出した手に自分の手のひらを重ね。

 ──傷つけたいなど、思うものか。

「うん」

 君と2人、ひとつであった頃が懐かしい。

 

 なんの不安もなく、満たされて、あたたかく、陽だまりの中にいたようなあの時が。

 

 だからせめてこの僅かな間、

 君を感じさせてほしい──。

 

 

【暗転】




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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