【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限に広がる世界の片隅で二人は出逢った。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


2出逢い編7〜12

● 7

 

 その後、朝餉も終えて実力試験についての話し合いをしている。

「ユリはすごいな! 昨日の今日であんなにうまい食事が用意できるなんて!」

 ……つもりだったが。

「これでいつ結婚しても安泰だ!」

「杏寿郎、その話はもういいから」

「良いと思ったことはどんどん褒めるように母からも言われている! 恥ずかしがることはないぞ! 良いものは良いのだ!」

「もう! それで杏寿郎が出来ることについてちゃんと教えて!」

 声を荒げると杏寿郎は少し驚いた顔でかたまった。わずかに視線をそらして頬を赤くしている。

 怒った顔も愛いなって思ってるみたいで……私はそこは無視することにした。

「俺が戦うとしたら、やはり刀で戦いたい」

「刀?」

「そもそも、俺はまだ木刀以外のもので戦ったこともないが!」

「それならその木刀というものから用意してみましょうか」

 私が手を出すと、その上に杏寿郎が手のひらを重ねてくる。なるほど、木製の刀……か。

「杏寿郎、こっちに来て」

 手を繋いでいるついでにそのまま歩き出す。歩いて辿りつい先はそこそこな大きさの木の下だった。

「この木は?」

「協力してくれるっていうから」

「ユリは木とも話しが出来るんだな!」

 すごいな! と杏寿郎は横で賑やかにしている。

 杏寿郎と繋いでいない方の手を木の幹に触れさせた。ごめんね。少しだけもらうね。

「杏寿郎、目を閉じて集中して想像して。

 普段使っていた木刀がどういう形をしていたか、

 形、かたさ、重さ、感触、色、すべての情報を具体的に──。

 ……そして最後に目を開いた時に、それを手にしていることを認識して」

 バキンと木の上の方で音がした。枝がひとつ消失している。

 杏寿郎がゆっくりと目を開き、私と手を繋いでいない方の手に木刀が現れていることに気付いて驚いていた。

「すごい! これはいつも俺が使っているものだ!

 ほらここの傷! 父上との稽古中につけたものだ」

「成功したね」

 よしよしと杏寿郎の頭を撫でる。

「協力してくれてありがとう」

 木を見上げて声をかけた。風もないのに静かな枝葉がゆれる音がする。

 

 風が強い日に、根元から折れてしまったことがあった。あの時は助けられて良かった。

 

「ユリ?」

「うん。じゃあそれでいつもやってる修行ってやつを見せてみて」

「もちろんだ!」

 

 その後、杏寿郎にいつもやっている修行というやつを教えてもらいつつ。一通り教えてもらった後は、私も本を取り寄せて杏寿郎が普段していない修行について調べた。

 

 授業が終わってからは修行の時間として、杏寿郎は素振りや基礎の鍛錬を行い。私はその様子を本を読みながら過ごすという日々を送る。

 

 そんな中で、この世界にも彼のいる世界に存在する食べ物や飲み物はあるようだったので。何か栄養になりそうなものを集め、飲み物にして杏寿郎に与えてみようとするが……。

「これは……なんというか、すごい色だな……」

「や、やっぱりやめておく? 私も作ってはみたけどあまり飲みやすそうには見えなくて……」

「いや! せっかくユリが俺のために作ってくれたのだから!」

 杏寿郎は勢いよく、手渡した飲み物を上を向いていくように飲みきり。すぐにうつむくと長く息を吐いた後に顔をあげた。

「杏寿郎、口のまわりが……」

 先ほどまで飲んでいた飲み物が、べったりと彼の口のまわりを汚している。私がふふふと声をもらすと、杏寿郎は顔を赤くしながら袖で口元を拭った。

 

 

『君のところは随分のんびりしているね』

 修行をしている杏寿郎の様子を気にしながら、本を読んでいる私に管理人から声がかかる。

 何か問題でも?

『いやぁ、他の子たちはもっと積極的に戦力強化してるからさ』

 よそはよそ、うちはうちなので。

『そうはいってもねぇ、君。そもそも試験で良い結果を出そうとか思ってないだろ』

 そ、そんなことは……。

『おっと、ユリちゃん! そこ危け──』

 

 轟音と衝撃

 

 閉じていた目を開くと杏寿郎の背中があった。地面に座った私を庇うように、木刀をかまえ私が先ほどまで座っていた場所を凝視している。

 どうやら危険を察知して私の身体を抱き上げ回避してくれたらしい。

 土煙がおさまっていくと現れたのは──

「あ〜ぁ、上手く潰せたと思ったのによぉ」

「13番!」

「よぉ、グズ!

 訓練のついでに目障りなお前を潰しておこうかと思ったのに、なに勝手に避けてんだ」

 13番は私の知っている中で一番気性の荒い乱暴者だ。長い槍を振り回し、打ち砕く一撃という一撃必殺の技を好んで使っている。

「なぁ、おい! オレを睨んでんじゃねぇよ人の子風情が!」

 13番が飛んできたらしい方向の木々を、なぎ倒しながら大きな赤色の竜が姿を現す。

「お前もおせぇ! 根性で翼ぐらい生やせよな!」

「ユリ、あれは?」

「レッドドラゴン、炎を吐く竜よ。

 召喚された時はあんな大きな個体はいなかったと思うけど……」

「ハッ、召喚したものを有効活用しなくてどうするよ。魔力を流し込んで一気に成長させるだろうが普通」

 13番は馬鹿にしたような目で、こちらに鋭い視線を送る。

「オレがここで人の子の相手をしてやってもいいが、せっかくなら丸焦げ死体ってやつを見てみたいんでなぁ。今回は見逃してやるよ」

 トンと地面を蹴り飛んだかと思うと、竜の頭の上に軽やかにのった。

「とっととブレスを吐けるようになりやがれ! この役立たずが!」

 竜が物悲しげに小さく鳴いて、来た道を振り返ってゆっくりと歩いて帰っていく。

 姿が小さくなるまで、杏寿郎はかなり警戒していた。彼なりに強さが理解できているらしい。

「なんだあいつ、姿はユリと似ているところもあるのに全然違う」

「……そういうものなのよ」

 得意なものや、好きなもの、嫌いなものとかの影響を受けて私たちの姿や性格は変化する。

 出来れば試験までに今のような遭遇はしたくないものだと思い、杏寿郎にも注意するように言っておいた。

 

 

●8

 

 13番との遭遇以来、杏寿郎はなぜ自分に魔力を与えて大人の姿にしないのだとしつこく聞いてくるようになった。したくないからだと言っても、理由を聞いてくる。

「ユリ! なぜだ!」

「だから〜。も〜。何回聞いてくるの!」

「ユリが話してくれるまで俺は聞くぞ!」

「無理矢理魔力を流し込めば、それは成長させることも出来るけど。本来の成長した姿を知らなければ、まともな結果にならないの!

 たとえばこの間遭遇したレッドドラゴンだってブレスが吐けないって言ってたでしょ?

 普通に成長していけば自然に身につくものが、身につかなかったり歪な姿になったりするのよ。

 それこそ未来視でも出来るなら話は別だけど…未来視の能力を得るには莫大な魔力と、情報量に押しつぶされないだけの精神力が必要だと聞いたことがあるわ」

 赤い竜のことを思い出していると、私の手に杏寿郎は自分の手を重ねてきた。

「……ユリは優しいな」

「優しいって……私が?」

 何か言葉を返したくなったが、これという言葉を返せず。

「とにかく、大人になるのはそんな簡単なことじゃないの。元の世界に帰る時にリセットされるとは聞いてるけど、もし少しでも記憶や身体に情報が残ってたら、それらが表に出てきた時にどんな悪影響があるかわからないんだもの。

 

 杏寿郎は元の世界に帰って、ちゃんと時間をかけてゆっくり大人になればいい。

 

 あなたならきっと強くて優しい大人になれる。

 でしょう?」

 杏寿郎は、なんとか納得してくれたようだった。

 

「でも13番があまりに好戦的で、今のままではまずいかもしれないと思ったのは良いことだわ。

 今日は武器倉庫に行ってみましょう」

 

 道すがら木刀を作り出した時の力について、改めて話しをしていた。何もなにところからの創造は倍以上の力を使うこと。先ほどのように木刀が木製のものであるなら、何か同じようなものを変化させることで難易度を下げてくれる。

 しかし、加工という工程を省略しているのでそういうところで本物と比べたら少し劣るといった具合だ。

 

「そう考えると、杏寿郎が自分のつかっていたものだといえるぐらいのものを出すことが出来て良かった」

「ユリはすごいな! どんなものでも作れるのか?」

「私一人では杏寿郎の木刀はつくれなかったよ。

 杏寿郎がしっかりイメージ出来たからね」

「そうか!」

 杏寿郎は嬉しそうに腰にさしている木刀を撫でた。

 その様子を見ていて不意に、

 

 ──鳥の話しをしている君は、どこか嬉しそうにしているようだったから俺も今とても嬉しい気持ちでいる!

 

 杏寿郎の言葉を思い出す。

 何か気になったが、何が気になるのかがわからない。

 

「ユリ! ここか?」

 地下に降りてしばらく歩いていると大きな扉の前にやってきた。

 

 扉のそばに置いてあったベルを鳴らすと、

「はぁ〜い。ようこそ武器庫へ〜」

 内側からゆっくりと小さく隙間が開いて声が聞こえてきた。

「どうも、18番さんと……へぇ、パートナーさんは人間さんですかぁ」

 めずらしぃと声をもらしつつ、かけている厚めの眼鏡を上げ下げする。

「えぇと、今回は刀を探しているんでしたっけ?

 ……刀ね〜。まぁ色々ありますんで収集家のわたすがご案内しますよー」

 どうぞこちらへと中に案内される。

「杏寿郎、念のため私が手を引くから目をつぶって歩いてきてもらってもいいかしら?」

「む? それはなぜだ?」

「実はこの武器庫には過去、現在、未来ありとあらゆるものが揃ってるんですよ」

 ふひひと収集家は笑う。

「人の子が未来の武器なんて知ってしまったら、戻った時に抑止力に消されちゃうかも。

 言うこときいときた方が、身のためですよぉ」

「ここで待っていてもらってもいいよ?」

「それは嫌だ」

 杏寿郎は私としっかり手を繋ぎ、目を瞑った。

「では行きましょうかね」

 収集家はどこからともなく古めかしいランタンを取り出して火を灯す。

「あぁこれですか? 古いものが好きなもので」

 特に聞く気もなかったが、独り言のようにつぶやいていた。

 

 薄暗い倉庫の中をランタンの灯りを頼りに進んでいく。

「いや〜薄暗いですよね〜。なんか出そうでしょう?」

 大きな長四角のケースの中にありとあらゆる武器が飾られていた。

「本当は明るくも出来るんですけども、これぐらいの時期しか皆さんいらっしゃらないので……。

 あ、18番さんが今回の試験前最後の来訪者ですよ」

 だいぶ後手になっているらしい。わかってはいたけれども……。

「刀といっても色々ありますが、いつの時代のものですかね」

「大正時代の日輪刀というものらしいのだけれど」

「日輪刀? うーん、今はないみたいですね。いつ入荷するかわからないですけど、取り寄せます?」

「とりあえずあるものを見せてほしい」

「かしこまりでーす」

 書類束を虚空にしまいつつ、収集家は再び歩みを進める。

「あと言い忘れたんですが、18番さんは知ってると思いますけど。くれぐれも勝手にここにあるモノに手を触れないように」

 ……一瞬目眩を感じた。

「? 杏寿郎、先ほどから静かだけど……」

「うわわわわーっ!!! 18番さん! 後ろ! 後ろー!!!」

 前を歩いていた収集家が、こちらを振り返って驚いた声を上げて腰を抜かした。杏寿郎のいる後ろを振り返って見る。

「っ!」

 杏寿郎が繋いでいた手を離して私の身体を収集家の方へ突き飛ばす。もう片方の手には刀が握られていた。

「こ、これは緊急事態ですよー!!!」

 収集家にぶつかる前に、体勢が整うように転移の魔法を使う。

「あれは何!?」

「あれは間違いなく呪物の類いですよぉ。我々には取り付けないから今しかないと思って狙ってきたんだと思いますですー。ヒー! 管理室! 非常事態! 非常事態! 応援求むー!」

 後ろで収集家が管理室に連絡を入れている。収集家には戦闘面での期待出来ない。

『収集家から聞いたけど、誰か向かわせるかね?』

 私一人で終わらせる。

『了解、ではしばらく観戦させてもらおう』

 

 

●9

 

 杏寿郎が吠え、鞘を振り捨てると、現れたその刀身からは黒い炎が刀から湧き出している。

 刀を使った戦い方が見られるか? とは思ったが。おそらく杏寿郎の身体がもたない……なるべく早くこの戦いを終わらせた方がいいだろうと判断した。

 

「えぇと、えぇと……ありましたー! あの刀は人の生き血をすする系の呪いがかかってるらしくて」

 杏寿郎の姿が消え、背後に殺気。

 振り返り様、3歩後ろに転移して何が起きたかを見届ける。

 杏寿郎が円状に刀を振るっていた。収集家の手にしていた書類束が切りつけられ燃えていく、転移が間に合わなければ私も背中をバッサリ切られていただろう。

「ぎゃー!!!」

 尻餅をついたまま収集家が倉庫の奥に勢いよく後ずさりしていく。ランタンは落ちたままになっていたので、光源の心配はしなくても良さそうだ。

 

 息を吸い込んで思考を整える。

 

 杏寿郎が床に足をつけると、一瞬収集家の方に注意を向けたが遠ざかっていく気配に興味をなくしたのかこちらを凝視しつつ身を低く構えた。

 あの刀の特徴は生き血をすする系だって? 身体を流れる血液をイメージして身体の内部を変化させる。

「杏寿郎……」

 私が名前を呼ぶとわずかに反応が返ってきた。

 どうやら身体の全てをのっとられているというわけではなさそうだ。

 

「杏寿郎、いいよ。

 こっちにきて」

 両手を広げて杏寿郎を招く、低く唸り声をあげ地面を蹴ると距離を詰めてきた。杏寿郎との意識のリンクが完全に切れているわけではないので、斬り込むタイミングがわかる。

 

 瞬間に後ろへ転移して距離をとった。

 もう一撃くることがわかり、同じように後ろに飛んで縦切りの攻撃を避ける。

 杏寿郎が刀の持ち方をわずかにかえた。低い姿勢から飛び上がるように刀で突いてくる。

「ぐっ……」

 左横腹に深々と刀身が刺さった。

 先ほどより少し手前に転移している。この刀が想定するよりも深く刺さっているはずだ。腹周りの肉質を変化させ簡単に抜かないように細工をした。

 身体の中にあったエネルギーを血液に変換しているので大袈裟なほど血が流れる。

「杏寿郎……」

 手を伸ばせば届く距離に杏寿郎の顔があった。頬を優しく両手で包んで声をかける。

「私の声が今はちゃんと聞こえているね? 刀はきっとこの血を吸うことに集中しているはず。

 ゆっくりと刀から指をはなしていってみて……」

 困惑、迷い、悲しみ、そんな感情が共有されてくる。片手はひとつ杏寿郎の頬に残し、もう片方の指先で杏寿郎の刀を構える指に触れた。

「戦いっていうのは状況をよく分析して行動しなければならない」

 ひとつ指がはなれる。

「自分が何をできて」

 ふたつめ

「……何をできないのか」

 みっつめ

「こうして刀が刺さってはいるけど」

 よっつめ

「これは私が行動した結果なので……」

 いつつめ

「杏寿郎は気にしないで」

 むっつめ

「……」

 強い痛みを感じて、なるべく静かに呼吸を整える。

「この刀は何か杏寿郎と相性が良いのかもしれないから」

 ななつめ

「これをそのまま、杏寿郎の刀に変化させてみようと思うよ」

 やっつめ

「そう考えた時に、こうして動きを止めた方が効率が良いと思ったの」

 ここのつ

「……内側に触れているということは、それだけ強い効果が期待できるし」

 全ての指が刀からはなれた。安堵の息をもらす。

 杏寿郎の瞳も既にいつもの様子に戻っているようだ。

「杏寿郎はまだ自分の刀を持っていないのだから、イメージするとしたら無意識の領域にある。父上の刀だろうから、これで良かったのよ。

 ……さぁ手をとって」

 頬に触れさせていた手を下におろすと、杏寿郎は涙目になりながら両手でしっかり握ってくれた。

 

「集中」

 額同士を触れさせて目を閉じ意識を共有する。

 場所は彼の家、黒い隊服姿の父親がこれから出かけるところだろうか?

 母親に見守られながら、杏寿郎が父親に鞘に収まった刀を渡そうとする。そして刀身を見てみたいと杏寿郎が言い、父親に手伝ってもらいながら鞘から刀を抜いた。

 炎のような赤い波紋がついている。美しいとその時に杏寿郎が思っていたことがわかった。

 

 意識を集中させ刀の情報を置き換えてゆく、何か呪詛を吐かれているような気配を感じるがそんなものがきくはずもなく……強い光が目蓋ごしにもわかった。

 なんとか終わったらしい。

 目を開けて腹部を見ると、杏寿郎の記憶にあった父親の剣とよく似たものにかわっていた。

 しかし、波紋が赤くない?

「杏寿郎、目を開けて」

「ユリ……俺また」

「大丈夫、気にしないで。

 刀が出来たみたいなのだけれど……とりあえず抜いてみてもらえる?」

 こくりとうなづくと、杏寿郎が柄に手をかけた。瞬間、刀身から赤い炎が噴き上がる。

「熱……」

「大丈夫か!」

 横腹に熱を感じたが、ほんの一瞬のことだったようだ。先ほどまでは普通の刀身だったその刀は、杏寿郎の記憶にあった赤い炎のような波紋を描いている。

「えぇ、大丈夫。抜いてもらっていい?」

 杏寿郎がゆっくりと刀身を引き抜いていく。

「んっ……んんっ」

 痛いか痛くないかでいうと、とても痛い。

 普段怪我をしたこともないので、久しぶりの痛みだ、つい声を上げそうになるのを堪える。

 杏寿郎は心配そうに私の顔を見ていた。

「だ、大丈夫だから。一気に抜いてしまって……」

 こくりとうなづいて杏寿郎は一息に刀を引き抜いた。

 刀先が引き抜かれたことを確認して回復魔法をかける。血液として周囲を汚していたものもエネルギーの光る粒子に変換させて身体に戻す。

 ようやく思っていたことが全て終わり、ヘタリとその場に座り込んだ。

「ユリ!?」

 杏寿郎が慌てた様子で近づいてきて膝をついて抱きしめてくる。思いがけず杏寿郎の胸の鼓動を聞く形になり、なんとなくしばらくそのままでいた。

 

 その日の夜、入浴の時間。身体が温まったらすみやかにお湯から出るようにと教わり、ではと裸になって入ろうとした時。

 うん?

 左横腹に見慣れないものがあった。

 傷痕である。

 通常、回復魔法を使って傷痕が残ることはまずない。

 しかし、なんでこうして残ったかというと……傷痕が残るかもしれないというイメージを持っていた人物の影響を受けたせいだろう。

 ふぅ……とため息をついて、杏寿郎には黙っておこうと思いながら浴室に入っていった。

 

 

●10

 

 朝、バルコニーで杏寿郎と鳥と一緒にいた。

「ユリ! 鳥が頭にのった!」

 最初は鳥も警戒していたが、しばらくすると打ち解けたようだ。

 そんな杏寿郎と鳥が遊んでいる姿を少し離れて見ながら──。

 

 先生、いま少し宜しいでしょうか?

『……あら、どうしたの?』

 図書館の本がいくつか欠損しているようです。

 あることについて調べようと図書館を検索したところ、該当がないといわれまして。

『何について調べようと思ったの?』

 日本という国の文化についてです。特に結婚ということに関しては他の本の中でも部分的に消去されているような形跡がありました。

『……わかったわ。調べてみるわね』

 それから、

『何かしら?』

 召喚対象は試験が終わったら元の世界に帰されるんですよね?

『その通りよ。こちらでの時間は、もとの世界の時間に比べたらほんのわずかな時間だけれど。全てを召喚前の状態にして帰すことになるわ』

 ……そうですか。

『何か納得できない?』

 杏寿郎は……いえ、私が召喚した人の子は、鬼と呼ばれる脅威の存在と戦い続ける世界に生きているようで。こちらの世界の出来事が、少しでも何かの助けになればと思ったんですが……。

『……』

 それだけです。

『なるほどね。少し考えてみましょう』

 ありがとうございます。

『でも、こちらで見知ったことや得たものを持ち帰ることになれば何か彼の身に悪いことが起きるかもしれない……それはわかっているわね?』

 ……はい。難しいことだとは、わかっています。

 

 鳥が杏寿郎の頭の上でピィピィと鳴いている。

 その鳴き声の意味は思いがけない内容で、少しだけふきだして笑ってしまう。

「どうした?」

「杏寿郎の頭の上が居心地がいいから、ここに住んでいいかって……ふふふ」

「よもや!? それは困る!」

 杏寿郎は鳥を頭の上からどけようとしているが、鳥は鳥で髪の毛を掴んで離れようとしない。

「ごめんね。ここは私のお気に入りなの。

 別の場所を探してくれる?」

 両手で優しく鳥の身体を包むと、杏寿郎の髪の毛をようやく離してくれた。

「また明日ね」

 手を広げると鳥が翼を広げて飛び立っていく。

「大丈夫だった? どこか痛いところがあれば治すけど」

「うむ! 平気だ! そういえば、あの鳥に何か名はつけないのか?」

 思いもしなかった。

「杏寿郎はどんな名前がいいと思う?」

「わからん! 明日、鳥にも聞くのはどうだろうか!」

「そうね。そうしましょう」

「ユリ!」

 言いながら頭を差し出してくる。

「うん?」

「ここがユリのお気に入りだとは知らなかった!」

「あ、ありがとう」

 鳥に諦めてもらうための嘘とも言えず、よしよしと杏寿郎の頭を撫でた。

 

 

●11

 

 実力試験までは授業時間はいつもよりは短縮されているわけだが。

 座学が多く、杏寿郎も暇だろうなと思い視線を向けるとちょうど彼もこちらを見ていて視線が合う……そして杏寿郎がにこりと微笑んだので、なんとなく気まずくなり視線を外した。

 

 昼餉を終えて外に出る。

 今日はもう授業はないので、試験に向けて何か対策を考えようとあらかじめ話しをしておいた。

「ユリ! どうする!

 やはり今までとは違った修行をするべきだろうか!?」

 杏寿郎はやる気満々だ。しかし、今までとは違った修行をするには時間が足りないし、まだ成長途中の杏寿郎の身体にダメージが残るのではないかと思った。

「私に考えがあるのだけど」

「うむ! なんだ!?」

「……」

「どうした?」

「考えてはみたけど、どうかなぁ……と思って」

「とりあえずは聞こう! まずはそれからだ!」

 かくかくしかじか。

「ふむ、つまり俺とユリが合体して一緒に戦うということか!」

「なにかこう間違ってはいないけど、あってもないような言い方になってる気がする」

「そうか!」

「手順としてはまず私が杏寿郎を取り込んだ後に、身体の年齢を戦いに適した年齢まで変化させようと思うの。

 この姿でいるのにも意味はあるのよ?

 出力と効果のバランスが学んでいくのにちょうどいいからで、低い年齢になればたくさん出力できるかわりに効果が少なくなる。高い年齢にすればその逆って感じで」

「ふむふむ」

「あ、男っぽい姿にもなれるけど。その方が動きやすいかな?」

「よもや!? 男?」

「そうそう、元々私たちは性別なんてないようなものだから。女っぽい姿をしてるのも魔力との相性が男の姿より良いからなのだけれど……」

「ユリが男の姿になるのは、何か嫌だな」

「そう? ならまぁ、試してみましょうか。

 上手くユニゾン出来たら杏寿郎にも管理人の声が聞こえるはずだから、後のことは管理人に聞いてね」

「ユリはどうなるんだ?」

「私は状態維持と都度対処におわれるだろうから、声をかけられてもこたえられないと思う」

「そうか! わかった!」

 ダンスをするように片手ずつ手をあわせて、次に胸をくっつける。

「呼吸と鼓動を合わせて……いくよ?」

 杏寿郎の鼓動がだいぶ速い。

「大丈夫? ちゃんと息してる?」

「だ、大丈夫だ!」

 意識を深く深く集中する。

 身体の境界が曖昧になり、杏寿郎の身体を包み込むように更にイメージを広げた。

 

 

 閉じていた目を開くと、目の前にいたはずのユリの姿はなかった。

「ユリ?」

 周囲を見回すと先ほどより視線が高いことに気付く。見下ろすとユリが普段身につけているものを自分が着ていることに気付いた。手足が長く、何より胸がある。

『もしもーし』

「誰だ!」

『さっき話しに出ていた管理人さんだよ。どうやら上手くいったみたいだね。おめでとう』

「うまくいったのか? ユリは大丈夫なんだろうか?」

『特に君が身体に痛みなど感じないのであればひとまず大丈夫だよ。ユリちゃんはいま、君と混ざりすぎないように細心の注意を払っているはずだ。

 今回の変身時間は君の知ってる時間でいうと、4半刻ってことになってる。腕についてる時計の一番長い方の針が上から下に動いたらタイムアップだからね』

 確かに左腕に見慣れないものがついている。

『さて、ではまずは身体がちゃんと動かせるかどうか基本動作の確認からいこうか』

 

 ○ ○ ○

 

『よし、基本動作は問題ないようだね。じゃあ次は軽く走ってみようか?

 ちょうど今向いてる先に山がみえるだろ? そこの頂上を目指して走っていってごらん』

 山は確かにあるが、頂上のあたりは雲に隠れて見えないようだが。

『そうそう、その山だよ。

 頂上には大きな湖があってね。鏡のような水面がそれはそれは綺麗なんだ。

 ……大人姿のユリちゃんをじっくり見てみたくはないかい?』

 見たい!

『だーよねー。じゃあ頑張って走っていこうか!

 頂上に着いたら自由時間にしてあげるからさ』

 

 ○ ○ ○

 

『って感じで、打ち合わせ通り山登りをやらせてみたってわけ。このあたりじゃ一番標高の高い山だったけど、想定の半分の時間で登りきったのはすごかったね』

 それは良かったけど、自由時間って何? 聞いてないんだけど。

『ご褒美があった方がやる気が出るかなーと思ったんだけどさ。湖に映った姿をしばらく見ていたと思ったら木刀で素振りをはじめちゃってあんまり面白くなかったな』

 何を期待していたの? 自由といってるわりにしっかり観察を続けているあたり、どうかと思うけど。

『いやぁ、ちょうど異性が気になるお年頃かなぁと思って、胸でも揉んだりするかと期待したんだけど』

 杏寿郎はそういうことするような子じゃないと思う。

『そうかい? にしては最近夜はいつも距離が近いじゃないか。今だってすぐ横に彼が寝てるんだろ?』

 これは眠らせたらいつの間にか手首を掴んでて離せなくて……。

『眠らせて? 魔法で?』

 そうだけど。

『それは魔法に耐性が出来てきてるってことじゃないかな? そのうち君の眠らせる魔法はきかなくなって、主従が逆転しないように気をつけるんだね』

 管理人のフフフと何か含んだような笑い声が聞こえてくる。

『耐性っていっても効果を受けたくない魔法に対してのみだろうからユニゾンには問題ないだろうけど』

 ユニゾンした時の感覚は大丈夫そうだった?

『うーん、本人曰く母親に抱っこされてるような感覚って言ってたからだいぶ健全な感じだったんじゃないのかなー』

 なら良かったけど。

『どうせ分離は出来るんだし、がっつり混ざっちゃえばいいんじゃないかとボクは思うけどね。そうすれば意思疎通だって出来るし戦闘スタイルも幅が出るよ?』

 それは私が嫌なの。最初相談した時に言ったでしょ。変に今までもこれからも知ることのないことを知って杏寿郎の人格が歪んだらどうするの。

『どうせ帰ったらリセットされちゃうのに? まぁいいけどさ。

 あとはユニゾンの動作確認は問題なかったから、戦闘シュミレーターの使用許可を出しておこうか』

 ふぁぁぁと大きく息を吸い込む音がする。

『さて、夜更かしは美容の大敵だからね。ボクはそろそろ失礼するよ』

 寝る必要なんてないのに?

『何事にも らしく振る舞う のは我々にとって重要なことなんだよ』

 らしくね。

 ……管理人、ありがとうございました。

 おやすみなさい。

『うむうむ、可愛い後輩たちには積極的に協力するからまた頼ってくれたまえ。おやすみー』

 

 

●12

 

 朝起きて、いつものようにバルコニーへ向かった。

 昨夜から杏寿郎に掴まれていた手首は見事に痣になっていたが、手が離れた瞬間を見計らって治してある。

 杏寿郎は何か鳥のエサになりそうなものを持ってくると少し別行動をすることになった。

 

 バルコニーに出ると、木の枝に止まっていた鳥がこちらに向かって飛んできた。

 指を向けるが上手くとまれないようで、両手のひらで受け止める。

 少しだけいつもと様子が違ってみえた。

「?」

 

「ユリ! これが鳥のエサになりそうだと思ったのだが──」

 バルコニーに大袋を抱えた杏寿郎がやってきた。

「鳥はまだ来ていないのか?」

 持ってきた袋を足元に置いて、言葉を返さずにいる私を覗き込むようにして見る。

「ユリ? なんだ鳥はそこにいたのか。静かだと思ったら、よもや寝ているとは」

 杏寿郎は私の両手のひらにいる鳥に注目した。

「違うよ」

「む?」

「この子の命の炎はもう消えてしまった……」

「死んでるってことか?」

 杏寿郎の問いにこくりとうなづく。

「どうしてだ? 昨日はあんなに元気だったのに」

「元々この子はかなりの高齢だったから。

 眠るようにいけたのは幸運なことなのかもしれないね」

「……魔法でなんとかしようと思ったりはしないのか?」

 杏寿郎の問いに、首を横にふってこたえる。

「魔法でなんとか出来るのは怪我や病気ぐらいだから……。

 私はね。限りがあるということが、とても大切で尊いものだと思ってる」

 魔力の続く限り老いることも、死ぬこともない私たちよりもずっと……。

「ユリ!」

 杏寿郎が胸に飛び込んできて抱きしめられた。肩が微かにふるえている。どうやら泣いているらしい。

「杏寿郎は優しいね」

「違う、この涙はユリの……」

 泣いているので何を言っているのかよく聞き取れなかった。

「……お別れはもうすんだ? 鳥をかえしてあげてもよい?」

 こくりとうなづくのを確認して、手のひらの鳥だったものに意識を集中する。

 複雑に絡まった糸束を、少しずつ解いていくように…それは光の粒子に変化して、静かに朝陽の柔らかな光とひとつになっていった。

 

 ○ ○ ○

 

 戦闘シュミレーターのある部屋まで1人でやってきた。

「いらっしゃい。おや、1人かい?」

「見ていたのでは?」

「そりゃ、ボクは知ってるけども。

 ……知らない人のために聞いておかないといけないだろ?」

 顔の横に人差し指をあてて物知り顔で管理人は言う。

「杏寿郎は泣き疲れて寝てしまって、起きる気配もないから寝かせたままここに来たの」

「ふーん。1人にして大丈夫なのかい?」

「起きたらわかるし、ここに来ていることは書き残してきたから」

 何をしているかぐらいは離れていてもわかるし。やろうと思えば思考を飛ばすぐらいは出来るはずだ。

 それに──。

「少し身体を動かしたくて」

 大きく伸びをする。

「りょーかい。それじゃあいくつかパターンを作ってあげよう。

 ちなみに魔力は十分にあるんだろうね?

 シュミレーター中で消えられたんじゃ、彼になんと伝えればいいか流石のボクも言葉に迷うよ?」

「ご心配なく」

「ほー。なかなかの魔力量……ってことは、そろそろ力の源がなんなのかもわかってきたんじゃない?」

「まぁ、なんとなくは……」

「歯ぎれが悪いのは気になるが、ここは良かったねぇと言っておこうか。

 それじゃあ準備よろしく。ボクは制御室で見守らせてもらうよ」

 

 そうして管理人に呼び出されたのは9つの頭を持つ大蛇ヒュドラだった。確かギリシャ神話についての本を読んだ時に書かれていた気がするけど。

『お! 流石、勤勉だねー。ちゃんと違う世界のことを学んでいるのは高評価だよ』

 なんでそんな大物選んじゃうの!?

『えー? だって折角だしさー。

 ちなみにこのヒュドラ、前々回の優勝者のやつなんだけど。ただの蛇から魔改造してそこまでもってったんだよ〜。すごいよねー。

 試験試合中、結局誰も勝てなかったっていうやつ』

 いや、そんなこと言われましても。管理人は杏寿郎をヘラクレスか何かに進化させろとでも言ってるの?

『まぁまぁ、さくさく戦闘モードに変身してやってみよー』

 

『攻撃が短調すぎるぞー!』

 ヒュドラの頭突きやら噛み付き攻撃を転移で避けながら、弓で攻撃し時折瞬間強化した長剣で首を切り落とそうとするが……切り損ねた!

『ほらほら、今度は防御が疎かになってるよ』

 しなる鞭のような動きで背後から打撃を受ける。咄嗟に障壁を張り身を守るが、地面に叩きつけられる。

『あ、まずい』

 なにが? ヒュドラは私が起き上がるのを待ったりはしない。一斉に噛みつこうとしているところを転移で避ける。

『いつの間にか君のパートナーが部屋を出て、こっちに向かってた。

 それだけならまだいいんだがー』

 どうしたの?

『よりにもよって君を一番敵視してる13番らとエンカウント中だ』

 ハハハと乾いた笑いが聞こえてくる。

 笑い事じゃない!

『外部遮断の結界の力が思ったより強かったみたいだ。流石にトレーニングはもう終わりにしておくだろ?』

 続けられるわけないでしょ!

 ヒュドラの姿が掻き消える。

 

 ○ ○ ○

 

「──で、その結果がこれと」

「無極牢といわれる場所で反省してますけど」

「それはわかってるよ。

 でも、なんでもっと弁解しなかったんだい? あの場面でどうしても、君が悪者にならなきゃいけないわけでもなかったろうに」

「……」

 私が駆けつけた時には、杏寿郎はレッドドラゴンの炎のブレスで丸こげにされそうになっていた。

 すんでのところで割り込んで障壁をはり、あとは売り言葉に買い言葉で私が喧嘩をふっかけてきた全員を果てに転移させて終わった。

「よりにもよって果てまで転移させたら、試験にようやく戻ってこれるかこれないかってところだろうねぇ。

 ここは身内同士のもめごとには昔から厳しいんだから、もっと気をつけてないと」

「わかってる」

「さて、じゃあボクはそろそろ帰ろうかな」

「あ……杏寿郎のこと」

「ハイハイ、また勝手に出歩いたりしないようにちゃんとみておくよ。

 にしても君も彼もお互いに自分のことを悪く言うのはいいが、パートナーを悪く言うのは許さないってブチ切れてるから面白いよね。もとから似た者同士なのか、ユニゾンしてそうなってるのか知らないけどさ」




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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