無限列車編のその先に。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●11
産屋敷邸。
産屋敷耀哉の元を訪れた炎柱、音柱、蛇柱。
「なるほど。まさか天元もユリと面識があるとは──その上で、天元は彼女を鬼殺隊の隊士とした上で更に柱にした方が良いと言うんだね」
肯定の意味で宇髄が頭を下げる。
「杏寿郎はどう思っているんだい?」
お館様が俺に声をかける。俺は先ほどまでのやり取りを思い出した。
○ ○ ○
「だから、お前は既に判断を間違えてるって言ってんだよ!
自分だけのものにしたいなら、なんで力を使わせた。お前の妻という役割だけをユリに与えるだけで良かったじゃないか」
宇髄が俺の胸ぐらを掴みながら言う。
「何をそんなに熱くなっているんだ」
伊黒が声をかけても、宇髄の言葉は止まらない。
「悪いがなぁ、伊黒。惚れてた女が不幸な目にあってて、黙ってる男は粋じゃねぇだろ。俺はこいつに今、言ってやらなきゃならねぇんだ。
──答えろよ。お前はそんなに強いのか? 世界ってもんを相手にして、1人で戦って勝てるのかって聞いている」
「……」
「わかんねぇなら教えてやるよ。
世界を相手にして、今のお前1人じゃ到底勝てない。
相手は上弦の鬼を模倣したものをあっさり作り出すような得体の知れない化け物だぞ? 今回はまだ向こうも加減していたようにも見えた。
問題は次だ。結果的に俺たちはあれを取り逃した。だから必ず次がある」
「待て宇髄、先程から世界だなんだと言っているが。
お前たちは何と戦ったというんだ?」
宇髄は伊黒を見て、再び俺に視線を向ける。
「煉獄、どうする? 伊黒を巻き込むか?
……お前は判断を間違えはしたが。ユリの力を鬼殺隊のために使わせたのは間違いではないと俺は思う。
きっといくつも救われた命があっただろう──。
だったら、受けた分の恩はしっかり返せるようにしてやらないといけないんじゃないのか?」
○ ○ ○
──俺はまだ返答を迷っていた。
管理人は出来るだけ力を使わせるなと言っていたはずだ。力を使わせて、この世界になくてはならない存在とした場合に、彼女は一体どうなってしまうのか……しかし、ユリのために戦わなければならない相手を俺1人で相手にできるかと問われ出来ると言い返せなくなってしまっていた。
「──同じ考えです」
「そうか。ならば隊士として迎えるには少し準備が必要になるね……しかし、鬼を倒すことの出来ない柱か──」
「お館様、ユリの鬼を倒す力としては──元上弦の参である狛治を使うのはいかがでしょうか?」
宇髄が声を上げた。
狛治──元上弦の参、鬼であった頃とは対極の寡黙な男だ。ユリが意識を失っている為に、俺たちは狛治からしか情報を得られず。奴はユリとある程度の知識や意識の共有が出来、傷を負ってもユリの力を使って自動で回復するかわりに、離れすぎると狛治が意識を失うことが分かっている。といっても意識を失わせようとすると、かなりの距離が必要なのであえて別行動しようとしなければ問題なさそうだった。
知識や意識の共有に関しては俺が以前、彼女に召喚された際に施された術と似ているところがあるのかもしれない。
しかし、狛治を鬼だった男として紹介するのか。鬼を不完全としても人間に戻す力が彼女にあると、他の柱にも伝えるのかなど。情報を今後どう扱うかはまだよく考えなければならなかった。
「どういうことだい?」
「狛治はユリと離れて行動することが出来ないそうです。ならば2人でひとつの柱として扱うというのは?」
「それでは無用な混乱を招く。それならばあくまでユリが柱で、狛治は付属するものとした方がいいだろう。それならばまだ俺と鏑丸と似た扱いになる。
従者をつれた隊員というのも、だいぶ無理があるだろうが」
伊黒が意見する。
「なるほど。ただ流石にこの話を本人不在のまま進めるには無理があるね。
まずは目覚めを待って希望してもらえるなら、藤襲山で最終選別を受けてもらえるように手配を進めるとしよう」
●12
千寿郎の日記より
兄が姉上を抱きかかえて帰ってきた時は、一体何が起きたのかと肝を冷やした。
話しを聞くと、姉上は敵の攻撃を受けて(血鬼術?)眠ってしまっているのだという。それで布団に寝かせているよりも回復させるには抱きかかえている方が良いということで、鍛錬の時以外は兄がずっと姉上を抱きかかえていた。
それから兄たちと一緒に道着姿の男の人がやってきた。名前を狛治さんというらしい。いつになく兄の口振りが冷ややかで、過去に何かあったんだろうかと気になった。食事も寝る場所も必要ないということだったけれど。本当に用意しないで良かったのかな。
○ ○ ○
そういえば炭治郎さんが継子になってくれたおかげで、兄が家に帰ってくる機会も増えたような気がする。
今日も任務帰りの炭治郎さんが立ち寄ってくれたので、兄と手合わせをしたり共に鍛錬したりしていつも以上に賑やかな1日になった。
そういえば、狛治さんと炭治郎さんが会った時に少し険悪な雰囲気になったような気がしたけど、僕の気のせいだっただろうか。
夜は禰豆子さんも一緒に兄と炭治郎さんと遊んでもらった。禰豆子さんも炭治郎さんも眠ったままの姉上をとても心配してくれていた。
○ ○ ○
朝、顔を洗っていると父がやってきた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
父が横で顔を洗いはじめる。
どうぞと手拭いを渡して。
「ありがとう。今朝も早いな」
「はい」
「昨日から炭治郎くんが来ていただろう。朝餉の準備でも手伝おうと思ってな」
「ありがとうございます!」
父と2人で並んで朝餉の準備をしながら。
「そういえば、父上。首で脈をはかる時はどうされますか?」
なぜそんなことを? といった表情で父は僕の首に片手で軽く触れた。
「ですよね」
「どうかしたのか?」
「兄上が姉上の首に──両手で触れているところを見かけまして。声をかけたら脈をはかるように言われていてとおっしゃっていたんですが」
「あぁそれは、そうなんだろう。杏寿郎は不器用なところもあるから、片手ではわからなかったんだろうな……」
「そうですよね!
──早く姉上が目を覚ましてくれればいいのに」
「……そうだな」
父が手伝ってくれたおかげでいつもより早く準備が終わった。
「次は洗濯をしようと思います。父上も良ければ一緒にいかがですか?」
「あぁ、いいぞ。任せておけ!」
庭で洗濯物を広げて干していると。
「父上! 千寿郎! おはようございます!」
兄が姉上を抱き上げて部屋から出てきた。
僕も父上も笑って朝の挨拶を返す。
賑やかにしていると炭治郎さんも起きてきた。
「さぁ父上、次は朝餉の時間ですね!」
「そうだな」
ふと笑って父が僕に続いてくれる。
よーし、今日も一日頑張るぞ!
●13
炎柱の手記を読んでみようと思った。既に父が何度か読んでいるものだったので、どのあたりが読むといいかあらかじめ聞いてから読んでいるわけだが……。
だいぶ昔にも、百合の花のような容姿の不思議な雰囲気の女性に会ったと書かれているところを見ると──彼女は俺を探して並行世界を旅する内に、何度かこの世界の違う時代を訪れていたことがあったのかもしれないなと思った。
片腕で彼女の身体を支えながら、片手で手記のページをめくる。よほど俺と容姿が似ていたのか、当時の炎柱と交流があったらしい。何頁かやり取りが書き残されていた。読んでいると、なにかこう複雑な気持ちになってくる。
──やめるか。
手記を閉じてユリの身体を抱きしめた。
千寿郎が寝ているユリを見て、まるで御伽噺のお姫様のようですねと言っていたことを思い出す。
「お姫様は愛する人の接吻で目を覚ますんですよ!」と、千寿郎は言っていたが。俺にしてみろと言いたかったんだろうか……。
しばらく考えてから、ユリの唇に自分の唇を重ねる。
再会した時に、初めてこうした時のことが思い出された。あの時はひどく緊張していたな──。
唇を離して目を開いた。
ユリと視線が合った。
「!?」
彼女は口元を片手で隠して、恥ずかしそうにしている。
「ユリ?」
「あ、うん。起きたよ──もう大丈夫だから」
いそいそと俺から離れようとするユリを両手で捕まえる。
「なになに!?」
「いや、君がどこかへ行こうとするから」
「い、行かないよ?」
「君は──俺に何も言わずに勝手なことばかりして。
ずっと眠ったままで、心配したんだ」
「ごめんね」
ユリが俺の頭を抱きしめた。彼女のぬくもりが心地良い。胸の鼓動を聞いているとひどく安心する。
下腹部に片手をあてると、
「大丈夫だよ。夢の中で一緒に遊んだりもしたの、早く会いたいねって言ってたよ」
「そうか」
「……」
ユリが部屋の外に視線を向ける。
「どうした?」
「外に出てもいい?」
「──あぁ」
部屋の外に出ると、庭に狛治の姿があり跪いて頭を下げていた。
「狛治さん?」
「──俺のことは、どうぞ呼び捨ててください。
ユリ様、あなたに救われたこの身はどうぞ好きにしていただければ」
俺の死を望むなら従いますと彼は言ったが、ユリは狛治に近づいて膝をつくと彼の手を取った。
「ずっと外にいたの? 寒かったでしょう。
私のことも様をつけたりしなくていいの。良ければお友達になりましょう。恋雪の大事な人だもの。私はもっとあなたのことが知りたいわ」
恋雪という俺の知らない名前をユリが口にすると、狛治の張りつめていた何かが解れたような気配がする。
「──長い間、外にいたんだ。風呂にも入るといい」
その表情を見て、もうここに憎むべき鬼はいないのだなと実感できた。
まるで迷い犬を拾うように、なんてものを受け入れているんだ君は。
○ ○ ○
宇髄が嫁たちを連れて結婚を祝いに来てくれた。
夕餉を共にして、宇髄は嫁たちに家事を手伝ってくるように言うと客間に俺と宇髄、ユリと狛治が残った。
「というわけで、だ。どこまで話した?」
「まだ話していない」
「そんなこったろうと思ったよ。
ユリ、お前は狛治と一緒に鬼殺隊に入れ」
え? という顔でユリが固まっている。
「お前は組織の力を使って守ることにした。助言者には力を使うなと目立つなと言われていたとは俺も煉獄から聞いたが、もう今更──戻れないだろ。
煉獄も渋々だが承諾している。あとはお前の意思だ。狛治はユリに従うな?」
宇髄は構わず言葉を続けた。
「それからな。ユリが力を使う時、特に治療する場合は呼吸ってことにしろ」
「それは流石に無理がないか?」
「出来るだろ。実際、ユリが力を使う時は光ってるし上手いこと光かたをかえればそれっぽく見える」
一通り話し終えて、宇髄はよしとうなづくと。
「前に見せてくれた魔力量ってのは今も見せられるか?」
宇髄が言いながらユリの手をとる。彼女の片腕に淡く光る模様が浮かび上がった。
「よしよし、じゃあこのままで。どうすれば魔力が回復するのか色々試していこうじゃないか。
──まずは俺が、お前を抱いてもいいか?」
●14
「え? 嫌」
俺がどうこう言う前に、ユリの口から明らかな拒絶の言葉が出てきた。
「なん──でだよ。こんな色男、金払ってでも抱かれたいだろうが普通!」
宇髄から離れ、ユリは俺の後ろに隠れる。
「煉獄、その勝ち誇ったような顔をやめろ。今すぐに!
とにかく、今後のことも考えてどうすれば早く回復するのかを把握しておかないといけないだろ。眠ったまんまで何も出来ない時なんて、ない方がいいに決まってるからな。多少は心当たりがあるな? 言ってみろ」
ユリを見る。何か心当たりはあるようだが、言いたくなさそうだ。
「言いたくなければ言わなくていいが……それなら大体わかるだろ煉獄、ユリが俺たちに言えないような内容で何か心当たりは?」
「言えないような内容?」
ユリと視線を合わせるが、これというものが思い浮かばない。
「いやいやいや、お子様か。お前、お前は──まぁいい。じゃあ煉獄は今後何かユリにする時は魔力の回復具合を確認するようにしろ。それでもしユリが回復具合を見せたがらなかったりしたらそれだからな」
宇髄こそ何か思い当たることがあるなら言えばいいのにとは思ったが、
「じゃあユリ、こっち来い」
彼女に向かって宇髄が手招きする。ユリは俺に助けを求めるような視線を向けるが、俺が何も言わないので渋々宇髄の方に歩いていった。
宇髄が自身の膝の上にユリを座らせて、時計と手の模様を見比べている。
「次、狛治」
名を呼ばれ狛治が無表情に宇髄を見ると、ほいとユリが狛治の方に投げられた。おい。人の妻を投げるな。
同じように回復具合をみる。
そして最後に俺の番となり狛治はユリを抱きかかえたまま立ち上がり歩いてくると、俺の膝の上に静かに置いた。
「わかりきったことだったが。煉獄と一緒にいる時の方が回復が馬鹿早いのな。
──しっかしわからんのが、なぜ俺より狛治といる時の方が微妙に回復が早いんだ!」
納得いかんと宇髄は不機嫌そうにしている。
「ユリからどう思われているかの差か?」
「わざわざ口に出して言うな! クソ──面白くない」
その後は炭治郎から狛治は人になったのかと聞かれたりしたことも話題に出した。
炭治郎にしてみれば妹を人に戻せる方法が見つかったのではないかと思ったのだろうが。狛治の状態は完全に人に戻ったとはとても言えず、根本のところは無惨と繋がったままでいるので無惨が死んだら死ぬことになりそうだと話すと、そうですかと少し残念そうにしていた。
狛治がこの状態になった条件は、自分から陽の光の中に居続けたこと。ユリの回復能力で人としての身体を修復出来たことだろう。結果的に全身の修復を補ったのでユリは魔力を使い尽くして昏倒してしまった。
「鬼は自分から陽の光を浴びようとはしないし、途中で魔力切れになったらそこで終わりってこともある。こんなことは2度も起きないだろう」
宇髄はあまり興味がなさそうな様子で言った。
○ ○ ○
藤襲山で最後の最終選別が行われることになった。
最後のというのは、鬼殺隊が今まで捕らえてきた鬼を全て山に放つことになったからだ。
お館様は無惨との最終決戦が近いと判断されているらしく、
「全ての鬼を退治できたらゆうに100を超えるし、柱と名乗る資格も得られるから都合が良いだろう?」
と言って微笑まれた時は、柱の中で俺と宇髄と伊黒だけが僅かに反応していた。
ユリを狛治と共に藤襲山へ送り出す日がきた。
俺は俺で任務が入り隊服を着て、父と千寿郎に挨拶をするユリを狛治と共に外で待っている。
「──なぜ俺ではないのかと、顔に書いてあるな」
ぽつりと狛治が言った。
「ユリから聞いた。聞くという言い方が正しいのかどうかはわからないが、彼女は時折俺に俺の知らないことを見せてくれる。その中にまだ幼い頃のお前が、彼女のためにと尽力しようとしている姿を見た」
こちらをちらりと見たと思ったら、ふとわずかに微笑みを浮かべて狛治は言う。
「杏寿郎、お前のその顔──まるで鬼のようだぞ」
俺から視線を外し、独り言のように言葉を続け
「鬼であった頃はただ無心に強さを求めていたが、まるで深い霧の中を歩いていたような気がする。
この姿になって、ユリには感謝しかない。俺にとっては恩人だ。俺の愛する人が、信じた人でもある。
お前は知らないだろう。彼女はまるで夢をみせるように別の世界の出来事をみせてくれることがある。それが俺にとってはとても心地良い。
愛する人と添い遂げた俺にとってはありえなかった未来を。ほんのわずかでも見ることが出来てそれが本当に、幸せなんだ……」
狛治の足下に音もなく水滴が落ちる。
「──俺は贖罪のために、この拳を振るうと決めた。
今更自分の罪が全て赦されるとは思ってはいないが。きっと俺の愛する人も、そうした方が喜んでくれると思えるようになった」
小さく息を吐く音がした。
「一度は本気で命を奪いあったお前の、おそらく命よりも大事なものを預かる形になるが……。
俺の役目は、ユリを無事にお前の元へ帰すことだと思っている。
──どうか信じてほしい」
なんてことを言うんだこの男は、
「まったく。突飛なことを言うのは、鬼であった頃も今も変わらないな」
俺は笑った。なんだと! と、狛治は拳を向けてくるがそこに敵意はない。2人で笑い合った。
「──鬼というよりは、先ほどの表情は人間らしいという言いかたの方が正しいのかもしれない。
お前は今世で、必ず幸せになれ。杏寿郎」
●15
最後の最終選別と育手から聞いた時はひどく驚いた。なんでも今まで捕らえた全ての鬼が、今回の最終選別のため藤襲山に放たれたらしいが。
なので自分が生涯で最後の鬼殺隊に入隊できる機会になってしまうならと、反対する育手を説得して日輪刀を貸してもらいこの場所までやってきた。
今までにない数の鬼が目の前の藤の花の先にいると思うと、ここにいる誰もが気楽な表情などしていられない。いかに7日間を生き延びるか。
──もしくは鬼を全て倒せば下山して良いと説明があったが、そんなことが出来るはずもない。全て鬼を倒したなんてどうやってわかるというんだ。
ここまでの道中で、鬼と遭遇し負傷した左腕と右足を応急処置しながらどうすれば生き延びれるかを必死に考えていた。
「怪我をしてしまったの?」
自分に声をかけてくれる人がいた。百合の花のような、とても綺麗な人だ。こんな最終選別の場にはとても不釣り合いな、彼女の周囲だけ鬼のことも何もかも忘れて家族と一緒にいるような心から安心できる心地良さを感じる。
「まだ痛みがある?」
膝をついて顔を近づけ、言葉をかけてくれた。
「あぁ、はい! ここに来る途中で鬼と戦いまして、初めての実戦だったので傷を負ってしまって!」
「そう。頑張ったのね」
微笑んで女性は俺の頭を撫でてくれた。
「!?」
「あ、ごめんなさい。嫌だったかしら」
「い、いえ。少し驚いただけで。あの、あなたも最終選別に参加されるんですか?」
「えぇ、そうなの。彼と一緒にね」
彼女が視線を向けた先には道着を着た男性がいた。じっとこちらを見ている。一緒の育手から学んだとかそういう関係なんだろうか。その道着の男性からは常人とはかけ離れた何かを感じる気がするが、俺がまだ未熟だからかなんなのかがよくわからない。
「はじまる前に話しが出来て良かったわ」
光の呼吸 壱ノ型 蛍火
女性が俺に手をかざすと蛍のような淡い光が現れて、先ほどまで応急処置していたところに吸い込まれていく。え? 光の呼吸? 聞いたことのない呼吸だ。そんな光を目で追っていると、傷を負っていた箇所の痛みも血の染みもなくなっていることに気付く。
「これで大丈夫ね。気をつけて」
「ま、待ってください!」
咄嗟に女性の腕を掴もうと──
「!?」
伸ばした手を、先ほどの道着姿の男性が俺の腕を掴んでいた。だいぶ距離も離れていたのに、あの距離を一瞬で?
「え? 狛治、何をして──」
「この男があなたの腕を掴もうとしていたので」
「ただ引き留めようとしてくれただけじゃない。離してあげて」
はいとあっさり狛治と呼ばれた男性は俺の手を放す。
「どうしたの?」
「あの、俺もあなたと一緒にいさせてもらえないでしょうか?」
「それはいい考えね。1人でいなけらばならないわけでもないようだし」
俺たちの様子を見ていた参加者が、僕も私もと近づいてくる。皆、よほど不安だったのだろう。
そんな中で、ちょうどこの場所にやってきた人物がこちらに一目散に駆け寄ってきて女性の前に跪いた。どこかのお屋敷の使用人といった服装だが。
「ユリ様、夏火様から御身の警護と身の回りのお世話を命じられ馳せ参じました! 青葉と申します。以後お見知りおきください」
そして深々と頭を下げている。
「青葉さん? 夏火からって──」
「どうぞ私のことは青葉とお呼びください。ユリ様。
炎柱様の奥方であるあなた様が今更最終選別に参加されるということは余程の理由があると夏火様がおっしゃっていました。
私が必ず、御身をお守りし炎柱様の元へお連れします!」
炎柱様の奥方!? 青葉という人の声も余程大きかったので、更に周囲に人が集まってくる。
最終選別で協力することなどはまずないと、育手からは聞いていた。誰かを助けようなどと動けば命の危険が増す。誰しもが自分のことで手一杯で、集まって始まるまでに周囲と関係を築くことなど大人であっても困難であるからだ。
ユリと呼ばれた女性が周囲に集まる参加者に視線を向ける。誰もがまだ歳若く、不安そうな表情でいた。
「みんな不安なのね……なら、皆で行動しましょう。
どんなことが出来るのか、私に教えてくれる?」