無限列車編のその先に。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●16
日が傾いてきた。ユリ様はその後、一人一人と二言三言言葉を交わした後に今は班分けを行なっている。班ごとに行動指針を指示して、簡単に班内の役割分担も行なっているようだ。
「狛治といったか。君は見かけない顔だな。なぜユリ様と行動を共にしているんだ?」
「……」
ユリ様の方に向けている視線をちらりとこちらに向けて、すぐに戻す。
「彼女から受けた恩を返すため、共に行動している」
「そうか。ユリ様は徳の高いお方だ。なぜあれほどの若さでこうも人を惹きつけるのか。私も夏火様との一件でお会いしてからは、ずっとお慕いしている──」
「女同士なのに?」
狛治は既にこちらを見ていない。一体いつ私の性別を看破したというのか。
「む、君は私が女だとわかるのか。私の男装は私をよく知る人以外は、皆男だと思うぐらいの出来のはずなんだが。
慕うのも当然仕えるべき主としてだ。夏火様の命とはいえ、ユリ様にお仕えできることは大変名誉なことだと私は思っているからな」
案内の少女たちが最終選別のはじまりを告げる。
ユリ様の周囲に全員が集まった。
「俺が先に行こう」
狛治がユリ様に声をかけ、うなづくのを確認してから先に中に入っていく。ユリ様は全員を連れだって中に入ろうとゆっくり歩いていたが。
「うん。もう大丈夫ね。まずは中に入りましょうか?」
静まりかえったこの場の全員に届く声で話すと、ユリ様は急にすたすたと歩みを早める。
「ユ、ユリ様お待ちください!」
私たちも慌ててユリ様の後を追った。
狛治の足元に鬼であったものが散乱している。ユリ様に軽く会釈をするとこちらに戻ってきた。道着についた鬼の返り血が、死体が消えるのと同時に消えてゆく。
「刀の具合はどうかしら?」
「悪くないですね」
言いながら右の袖口に触れている。
腰に日輪刀をさしていないので、どうやって戦うのかとは思っていたが暗器のように袖口に隠し持っているらしい。
「では始めましょう。まずはここを拠点とします。各班、離れすぎないように。勝てないと思ったら戻ってきてね。連絡班は常に拠点と、担当班の位置を把握しておくこと。それと最後に──頑張りすぎないで」
はいと声を上げて全員が行動を開始する。
○ ○ ○
遠方から来て早く疲れている者から仮眠をとっている。緊張状態で寝付くことなど出来るわけがないという状況だったが、ユリ様がぽんぽんと子供を眠りにつかすように身体に手を触れさせるとすやすやと寝息をたて始めた。
「ユリ様、あの──かなりの早さで討伐の報告がきていますが。もしかして今夜中に終わらせるおつもりですか?」
「えぇ、7日間も外で生活するのは色々不自由もあるでしょうし。全てを倒せば終わりでいいなら、その方が良いでしょう?」
「そんなことが、出来るのですか?」
つい声に出してしまう。しかし、この人ならばそれが出来てしまうのではないかと思わずにはいられない。
「既に数は半分をきっているから。
はじまりに集まってくれていた分、狛治が多く相手をしてくれたおかげね……」
まるで何体の鬼を倒し、あと何体残っているのか把握しているような話し方だった。
「ユリ様はどこかで兵法でも習われたのですか?」
「いいえ、人の動かし方は夏火を見習ったのよ」
穏やかに微笑むその表情からは、ここが戦場であることをまるで感じさせない何かがあった。
あぁ、やはりこの人は夏火様とは根本から何かが違うのだ。無意識に跪いて頭を下げる。
「どうぞあなたも今は楽にしていて。ずっと気を張っていると疲れてしまうでしょう──」
「はい。御心のままに」
○ ○ ○
閉じていた目を開いてぽつりと。
「──もうすぐ夜明けね」
ユリ様が言葉を口にした。
「連絡班に皆を集めるように言ってもらえる?」
「はい!」
全員を集めると、入り口に戻るということだった。
拠点はゆっくりと動かしており、この山の入り口まで戻るというと早く歩いても1時間以上はかかりそうだ。
「青葉、みんなを先導してもらえるかしら?」
「はい」
今までずっとユリ様が先導されていたので、一部でざわざわと不安そうな声が上がるが。
「もうこの山にいる鬼は、ほとんど倒されています。残りは私と狛治で相手をしてくるので、皆は先に戻っていてね。長い時間お疲れ様でした。
なるべくゆるやかな道を選んで戻って」
そう言って道順を描かせていた者から地図を受け取り、私に渡してくれた。
地図に視線を落とし上げると既に狛治がユリ様の横に控えている。特に声をかけることもなく、狛治がユリ様の身体を抱き上げて跳んだ。
結局のところ、誰1人として死者が出なかった。
傷を負った者はいるが、ほんの少し療養すれば治るような程度の軽いものだ。
どこか遠足の帰り道のように、各々を褒め合いながら山道を歩く。最終選別というのはもっと過酷で、やっとの思いで命を繋いだと過去の参加者からは聞いていたのだが──。
入り口まで帰ってくると、既にユリ様と狛治が我々を待っていた。
「おかえりなさい」
ユリ様の声が聞こえるとひどく安心して涙が溢れる。私だけではなく、ほとんどの参加者がだ。
言われるままにユリ様に続いて歩き、藤の花を潜ると案内の少女たちに最終選別の終わりを告げられた。
過去最大人数の鬼が放たれた最終選別は、参加者が誰1人退場することなくたった一晩で終わってしまったのだった。
●17
仏壇に向かって、姉と狛治さんの無事を祈っていた。
「母上、御先祖様、どうか姉上と狛治さんが無事でありますように──」
どうして今更、姉上が最終選別を受けなければならなかったのか。兄上と一緒に鬼狩りの場に出向くことも、僕からすれば信じられないことだったのに──でもきっと僕が思いつかないような、何か深い理由があるんだろうな。
今日は日が暮れてから任務帰りの宇髄さんが兄を訪ねてきた。今も兄と部屋で話しをしていると思うが、そろそろ今日泊まられるのかどうか聞きに行こうかと仏間から縁側に出た。
庭に誰かいる?
女性のようだったから、姉上かと思ったけれど違う。
あれは──
○ ○ ○
宇髄が酒を持ってやってきたが、特に口をつけることなくただ会話を続けていた。
「にしても、どうせ浮かない顔してるんだろうと思ったが。意外とそうでもなかったな」
「そうだろうか?」
「狛治と2人で何かあるんじゃないかと、心配したりはしないのか?」
「どういう類の心配をしないのかと聞いているんだ?」
宇髄はふと笑って、
「そう返答が返ってくるなら、まるで心配してないってことか。たまには夜通し話しをするでも俺はいいが、嫁たちも待ってるだろうからな。そろそろ帰るぜ」
「そうか。では送ろう」
言って立ち上がろうとする。
庭の方から突然気配を感じた。
同時に、
「母上!?」
驚いたような千寿郎の声がする。
宇髄と慌てて部屋の外に出た。
パキパキと周囲が氷つくような音がする。
月明かりの下、一見その姿はごく普通の女性であるように見えるのだが──。
「なぜ私が選ばれたのか。この場で正さねばならない者がわかり、ようやく理解しました──」
「母上?」
千寿郎は怯えたように母の姿そっくりのそれを遠目で見ている。それはそうだ。母は既に死んでしまった存在だ。今目の前に現れて声をかけることなどありえないのだから。
「千寿郎、杏寿郎、大きくなりましたね。母は嬉しく思います。
しかし、杏寿郎は道を違えてしまいました。
──ともすれば母が、正さねばなりません」
「どういうことですか!?」
「あなたの兄は、世界の理をことごとく書き換える存在を、この世界に招き入れた大罪人です」
「そんな、そんなはずないです! 兄上はいつだって真っ直ぐで正義と共にある人です!」
「いいえ、あなたは兄を慕うがゆえに見えていないのです。天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されないと教えたのに──。
千寿郎、少しの間眠っていなさい。あなたが目覚める頃には終わらせましょう」
その言葉が、即座に千寿郎の意識を奪った。
「さぁ、戦いの準備を整えなさい。
この母に否と言うのなら、武を持って証明するのです」
懐から紐を取り出し、たすき掛けする様子は記憶にある母の動作そのものだった。そして両手をかざすとその手の中に薙刀が出現する。
部屋の中に慌てて身を隠し、
「あぁクソ! そういう手できたか──」
宇髄が声を上げた。
「間違いない。あれは監視者だ。どういうわけか、お前の死んだ母親の姿をしている。そうだな?」
こくりとうなづく。
「あれ相手にお前はどう戦う?」
「俺が戦う」
「俺は?」
「武を持って証明しろと言っている。ならば俺1人で戦うべきだ」
「そうだよ。あいつはな、お前だけを殺すつもりでここに来たんだ。お前の右腕を奪って、ユリとお前の関係を理解した上であの姿でここに来た。
お前を殺して取り込んでしまえば、ユリはこの世界にいる意味を失う。
煉獄、勝つための判断をしろ。いまここにある手駒で勝つための最善策を考えるんだ」
○ ○ ○
──桁違いの強さだ。
「あなたの力はこんなものですか」
監視者は薙刀を振り上げ、地面に倒れ伏した俺に最後の一撃を与えようとしている。
隙を狙って宇髄も加わってはくれたが、挽回の機会までにはならず彼も庭の片隅に倒れている状態だ。
「これで終わりです──」
「──化けて出る相手が、違うんじゃないのか?」
腰に日輪刀を挿して現れたのは父上だった。
「鬼かとも思ったが、そんじょそこらの鬼相手に柱2人があっけなくやられるとも思えん。
だとするならば──相手が違うだろう。
瑠火よ。
酒に溺れてろくに息子共をみてやれなかった俺にこそ。その薙刀を向けてくれ──」
●18
「おかしなものだ。お前と結婚して、喧嘩をしたことなど一度だってなかったな。お前はいつも俺をたててくれた。
お前が死んで、なぜ今になって──」
父が日輪刀を抜いた。
「真剣で語り合うことになるとは」
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
横薙ぎの攻撃を監視者は後ろに飛んで避ける。
「無事か? まだ戦えるな?」
身をかがめ後ろ手に俺を庇いながら、小声で声がかけられた。
「──はい」
「ユリと添い遂げたいと、お前は言ったな」
「はい」
「祝言も挙げたんだ。だとするなら、どんな理由があろうともユリはもう俺の娘でもある──」
父がわずかに振り返り、俺の頭に手を置いてくしゃくしゃと頭を撫で。立ち上がると再び刀を構える。
「子のために戦うのが親だろう。どんな理由が子を傷つける理由になるというんだ?」
「あなた。違うのです。杏寿郎が選んだあの娘は、この世界を歪めてしまうのです。取り払わねばならない悪なのです」
「俺にはそんな、悪いものには見えないが──。
杏寿郎はよく出来た息子だ。この若さで自力で炎柱にまでなった。かたくなに結婚に関する話題を避けていた時は、どうしたものかと思ったが。ようやく一緒になりたい娘を連れてきたんだ。
それならば、親として見守ってやればいいじゃないか」
「……」
「思えばお前には、苦労をかけてばかりだった。息子2人を産んで、立派に育て、家を守っていた。お前は本当に良い母親で、良い妻だった。
だとしたら、なおさらおかしいだろう。なぜお前はここにきて杏寿郎を責めるんだ。
俺たちだって、そうだったじゃないか。俺はお前の姉の許嫁だったが、周囲から反対されてもお前を選び一緒になったじゃないか。
どんな理由があっても、お前は息子たちに手を上げることはなかった。
俺は俺の愛した女を何か誤解していたのか?」
「あなた──」
「お前を倒さなければ、杏寿郎とユリの未来がないのであれば。
──俺は、既に死んでしまったお前の味方をすることは出来ない」
監視者は口を噤み、薙刀を静かに構え直す。
父を説得することは不可能だと判断したようだった。
○ ○ ○
まさかここで前炎柱と、現炎柱の共闘が見られるとはな──。
俺は両手両足を負傷してしまっている為、戦線復帰が難しい。なんとか身体を起こして、闘いの様子を見守っていた。
「なんだかんだで親子だねぇ──。
しっかり息があってるじゃねぇか」
監視者は円状の見えない壁で身を守っているようだった。攻撃を繰り返すうちにその壁に亀裂が入っていっているように見える。可能性のひとつだが、もしかしたらあの壁と核は関連しているのかもしれない。
煉獄──杏寿郎にとっての母親は、絶対の存在で勝てない相手という意識が無意識だったとしても強かっただろうが。ここにきて前炎柱──槇寿郎殿が味方したことで、流れが一気にかわった。
槇寿郎殿が言葉をかける度に、監視者の存在が揺らいだように感じたのだ。まるで瑠火として、槇寿郎殿の物言いに動揺しているかのように。
──時に蒼い炎が、時に紅い炎が視界いっぱいに広がる。
槇寿郎殿が下から上に打ち上げるように技を放つ。
炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄
呼応するように杏寿郎が屋根の上へ駆け上がり、更に高く跳び、撃ち下ろすように同じ技を放った。
上と下から炎の呼吸最強の技を受けて、攻撃を防いでいた見えない壁は割れるような音を立てて消失した。
杏寿郎の刀が、監視者の薙刀ごと身体まで届く。
薙刀が手から離れ、槇寿郎殿も日輪刀を手放し落ちてくる監視者の身体を抱きとめた。
●19 エピローグ
父に抱きかかえられた監視者が、苦しげに言葉を紡ぐ。
「──ようやく私の言葉で、あなた達と話しをすることが出来るようです。
まったく、なんでまた愛しいあなた達と戦うことになってしまったのか」
その表情は幼い頃の記憶のまま、間違いなく母上のものだった。
「杏寿郎、幼いあなたにかけた言葉は難しすぎたようですね。母のかけた言葉を記憶し、やり遂げようとした事はとても立派でした。
しかし、だからといって自分の身を犠牲にしてまで成そうとしなくとも良いのです。
母がかけた言葉は、誇り高く生きることが出来ていればいずれ相応しい伴侶を見つけた時に、その相手も自ずとあなたに好意を持ってくれているとそう伝えたかったのです──わかりますか?」
俺の頬に手が伸ばされ、自分の手を母の手に重ね頬にあてた。
「──はい」
「子の幸せを願わない親はいません。母もずっと願っていました。あなたが選んだ相手は、それこそ特別な存在だったようですが──自分の望みを叶えようとする時には、多かれ少なかれ障害があるものです。それがあなたにとっては世界の秩序だったのですから、仕方がありませんね」
ふふと小さく母が笑う。
「私がこのまま消えれば、この戦いの全てを記憶し世界の一部に還ります。そして次に新たな監視者が現れたら、もう決して勝つことは出来ないでしょう。
──だから、杏寿郎。
あなたがこの監視者の力を継ぎなさい。この世界が500年程度蓄えた力を己のものとするのです。強い心と精神がなければ成し得ないこと、常人では耐えられないことですが……あなたならきっと出来るはずです」
「そうなったらどうなるんだ?」
父が母に声をかけた。
「──この世界の理と庇護から外れます。世界のために生き続けるのです」
「それしか方法がないのか?」
「杏寿郎としての存在を維持できれば、私たちの息子として留まれるでしょう。しかし、人並みに老いて死ぬことは出来なくなります……。
杏寿郎、世界の意思はまだあなたを軽んじている。この力を受け入れればただ盲目に従う監視者が再び戻ってくると思っています。だから私がこうして話して聞かせることが出来ているのです。
人としての自分を失う覚悟で、この力を受け入れますか?」
「俺は、煉獄杏寿郎として必ずその力を自分のものにします。母上、監視者としての力を俺にください」
ユリは俺を探して、ずっと長い旅をしてくれた。
君のための力になる試練がこれだというなら、受け入れる以外の選択肢はなかった。
母の身体が光となってゆっくりと俺の身体に吸い込まれていく。
「お前の死に目にあえなかったこと、ずっと後悔していた」
涙目の父が母に言葉をかける。
「私も、最後にあなたに息子たちを頼みますと言えなかったことを後悔していました。だから、お互い様です。
それにあなたは立派に炎柱の責務を全うされていたのですから、それで良いのです」
「瑠火。愛している──」
「槇寿郎、私もあなたを愛していました。
あなたの妻で私は幸せでしたよ──」
最後に母は笑って、その姿を消した。
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