無限列車編のその先に。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
22一夜草編1〜6
●1 プロローグ
俺は強くならなければならなかった。
強くならねば彼女を、愛する人を守れない。
監視者の力を手に入れて。俺はその力のひとつとして千里眼が使えるようになった。遠く離れた藤襲山の様子がわかり、ユリたちが最終選別を早々に終えて帰ってくる姿も見る事が出来た。
家の前で千寿郎と、ユリたちの到着を待っていた。
「すごい! 本当に兄上が言うように姉上たちが戻られましたね! おかえりなさい!」
千寿郎がユリに向かって手を振っている。
ユリの歩みが止まった。心なしか表情がこわばっているように見える。どうしたのだろうか?
わずかに心配はしたが、ユリはふと微笑んでからは歩く速度を早めてこちらに来てくれた。
「おかえり」
両手を広げてユリを迎える。ユリは吸い込まれるように俺の腕の中におさまった。
「まさか本当に一晩で帰ってきてしまうとは──」
耳元で囁く。
「──背が伸びた?」
ユリは俺の背が伸びたことを指摘してきた。
「あぁ、まさかこの歳で背が伸びるとは思わなんだ」
俺は笑いながら言った。もっと背が欲しいと思っていたから、それは嬉しい変化のひとつだった。
「家の柱で背を測っていたので、それを見ればどれだけ伸びたかすぐわかりますよ」
千寿郎も嬉しそうに笑って、早く中に入りましょうとユリの手を引く。
「杏寿郎」
ユリが俺を呼ぶ声にひどく安心する。あぁそうだ。俺は煉獄杏寿郎。
監視者の力を手に入れて、常に自分が擦り減るような感覚があった。自分という存在が消えてしまったら、きっと俺は俺のままではいられない。
今はまだ大丈夫。大丈夫だと自分に言い聞かせ、いまユリに名を呼んでもらえてようやく落ち着くことが出来た気がする。
ユリ──俺の大事な人、愛しい人。
どうかいつまでも俺の側にいてくれ。
そうでなければ俺は──。
○ ○ ○
私は変化を好まなかった。
杏寿郎と初めて会った時も、真っ直ぐで輝くような彼がいつまでもそうあるようにと思って行動していた。
たとえ元の世界に帰り何もかもが元通りになるのだとしても、少しでも変化に繋がるものは彼から遠ざけたかったのだ。
──しかし、彼は常に変化していく。
異世界の記憶を持ったまま帰ろうとしたり、私と再会の約束をしたり。
姿は少年から青年に、考え方も昔とは違う。
私を守る。私の力になると言ってくれた彼が、戦わなければならない相手はとても強大で彼が彼のまま立ち向かうことはとても難しい。
私は触れた時に、相手の物語を読むことが出来る。
子供が出来たと話しをした時に触れて知った彼の物語は、既に大きく変化することが決まっていた。
その内容を知って──私は涙を流したのだ。
家の前で、彼と千寿郎が待っていた。
「すごい! 本当に兄上が言うように姉上たちが戻られましたね! おかえりなさい!」
千寿郎がこちらに向かって手を振ってくれている。
彼の姿を視界に入れて、私は思わず歩みを止めてしまった。横を歩いていた狛治が、私の方を心配するように視線を向ける。
──大丈夫。
ふと微笑んで、意識して歩く速度を早め2人の元に急いだ。
「おかえり」
あなたは誰? と、口に出してしまいそうになったが。咄嗟に飲み込んだ。
穏やかに微笑んだ彼は、両手を広げて私を迎えてくれる。私は吸い込まれるように彼の腕の中におさまった。
「まさか本当に一晩で帰ってきてしまうとは──」
耳元で彼の声がする。
涙が溢れそうになった。
あぁ彼は、なんて危うい存在になってしまったのだろう。私が彼を認めなければ、それだけで彼は彼でなくなってしまう。
「──背が伸びた?」
気付いたことを口にして思考を切り替える。
「あぁ、まさかこの歳で背が伸びるとは思わなんだ」
嬉しそうに彼が笑った。
「家の柱で背を測っていたので、それを見ればどれだけ伸びたかすぐわかりますよ」
千寿郎も嬉しそうに笑って、早く中に入りましょうと私の手を引く。
「杏寿郎」
私が彼の名を口にする。揺らいでいた彼の気配がひとつの形となり安定する。
杏寿郎──私の大事な人、愛しい人。
私のためにと彼は望んでそうなってくれたはずなのに──私にはただそれが、とてもかなしかったのだ。
●2
『はぁ。ようやく眠るように消えられると思ったのに──。
またボクに役割を与えるのかい?
状況は知っているよ。君が監視者の力を吸収したわけだ。まぁ、可能性のひとつとしては考えてはいた。
けれど、まさか君がユリちゃんと別行動している時に監視者が来るとはねぇ』
『だいぶ力をまわしてもらったし、これでいっそ学園のボクと繋げてしまうことにするよ。ボクが知ってることは学園のボクも知りたいだろうからね。
あと細かい挨拶とかは、もうボクと既にしたから省略するように伝えておくけど。
ようは監視者としての能力を、説明してもらいたいわけだろ?』
○ ○ ○
『──えー。もしもーし。管理人さんだよー。
聞こえてるー? なら良かった。久しぶり。
状況は聞いてるから、サクサク話していこう』
『まず君は監視者の力を得た。言ったか言わなかったかボクもど忘れしてるけど。ボクらは監視者と敵対した場合は戦うか逃げるかして、戦って勝ったら取り込んでるんだ。だから本来、その世界の監視者を倒したのならユリちゃんが取り込むはずだった。でも、その場にいなかったんじゃ仕方がないね。
君が上手く監視者を吸収できたのも、以前ユリちゃんとユニゾンしていたからかもしれない。とにかく人が監視者をなんて、ボクの知る限り前例のないことだ。晴れて人外の仲間入りかな? 君の感情まではこちらからは確認できないけど、せめてこれから明るい未来を迎えられるように祈ってるよ』
『それを踏まえ、君の今の身体の状態をみて得た能力と注意事項を話そうと思う。
まずは監視者としての能力だけど、ざっくり並べると。
千里眼、危険予知、転移、空間遮断、時間停止、肉体強化、写身、そして約500年の間に世界に還ったもの全ての情報と変身能力あたりかな。
あとは君と敵対した監視者は、影操作とそれに付随して魔力吸収が出来たみたいだね。それがオリジナルスキルなのかもしれない。
それで、君は普段の生活と共に監視者の仕事をこなさねばならなくなった。まぁ監視者の仕事はしなくてもいいんだけど、そうするとまた新たな監視者が生まれたりして世界はどんどん疲弊していってしまう。
それなら世界のために動いてあげた方が、追加で力も送ってもらえるし便利なんだよね。
それで二重生活をするにあたり、君はまだ煉獄杏寿郎として存在したいわけだろ? それなら監視者の能力は、なるべく監視者の仕事をする時だけに限定した方がいい。
煉獄杏寿郎と監視者の境界が曖昧になると、それこそ君という存在が希薄になりやがて消えてしまう。
千里眼や危険予知とか内部で片付くものなら多少はと考えるかもしれないが、本来知り得ない情報で動いたという事実は残り、後々君を苦しめることになるだろう──』
『なんてね。悪いことばかりじゃないさ。
君を通して世界の力を直接ユリちゃんに渡せるようになるから、ユリちゃんのエネルギー切れの心配がほぼなくなるんじゃないかな。
あとはボクらの敵対組織とも堂々と監視者として戦いを挑むことが出来るから、見つけたらやっつけてしまえばいいかもね。影を使ってドレインしちゃうのもいいしさ』
『気をつけなければならないのは、まだ完全に君が監視者の力を制御できていないということだ。
世界の意思に取り込まれたらどうなるか──そう、いま君が耐えていること。横で寝ているユリちゃんの首を両手で掴もうとしているのを、やめさせる事さえ出来なくなってしまう』
『使わない能力はユリちゃんに預けるか、ユリちゃんにあげてしまってエネルギーに変換してしまう方がいいかもしれないね。そういう純エネルギーへの変換は君には出来ないから。まずは徐々に慣らしていくことだ。さて、それじゃ早く目覚めてちゃんと意識をしっかり持つんだよ』
寝ている間、夢をみるように昔馴染みの管理人と会話をしていた。目覚めて管理人が言うように、無意識に自分が横に寝ているユリの首に両手で触れようとしていたことに驚愕し慌てて手を離す。
世界の意思、監視者としてはユリを取り込むことで彼女の力を得たいと思っているということだろう。
俺は誰より彼女の側にいたいと思っているのに、なんという皮肉だろうか。
「杏寿郎──」
寝ていた彼女が、目を覚まし俺を心配するように声をかけて身を寄せてくれた。
心を読める彼女なら、もうとっくに気付いている。気付いていてもなお、変わらずに無防備な姿を俺に見せてくれる。俺を杏寿郎と呼び、俺を俺でいさせてくれる。
「ユリ」
彼女の身体を抱きしめた。
●3
朝から俺は父に説教されていた。
なぜそんなことになったかというと──。
監視者の力をユリに預かってもらおうと、双方の同意のもとにはじめたが。思いの外、彼女に渡せず。
管理人によると一度力を消耗し尽くしたせいで、ストックできる上限が低くなっている。しかし、気にせず流し込めば無限に入るから大丈夫と言っていたのに。
顔を真っ赤にしたユリが、俺の腕の中から逃走。
曰く、強引に入ってくる感じで気がおかしくなるということだったが。
廊下を走って追いかけっこしているところを、また父と遭遇。事情を父がユリに尋ねたところ、
「私がもう入らないって言ってるのに、杏寿郎が無理矢理入れようとするから──」
と涙目で言った為に、俺は父の部屋で説教されることになった。ユリは千寿郎の部屋に匿われている。
「前にも言ったな」
「はい」
「なぜお前は嫌がられることをするんだ」
「いや、嫌がられることをしているわけではなく」
「お前はそうかもしれないが、ユリが嫌がっているならやめるか、せめて加減しろ」
「はい」
「なんというか、男と女の関係というのはお互いが受け入れられる範囲でするべきだ。わかるか?」
「はい」
「それから先日、ユリを産婆に合わせていたようだが──どうだったんだ?」
「懐妊しているようです」
「だったら、なおのこと彼女を大事にしろ!
まったくお前は心配ばかりかけて、得体の知れない者とも戦っているし一体なんなんだ!」
「はい。すみません」
怒られてはいるが、父が酒に溺れていた頃とは違いとても心地良い。
「まったく大人になったのは姿だけか? 夫として、父としてのあるべき姿をお前とはよく話さないといけないようだ」
「はい。ご指導いただきたく、お願いします」
やれやれと呆れた様子だったが、父もどこか嬉しそうにしていた。
○ ○ ○
自分の部屋に戻ってきたらユリがいた。
「あの、ごめんね」
ふと笑って、
「父と話す良い機会になったよ」
彼女のすぐ横に座った。
「──なかなか難しいな。どうすれば君の負担にならずに力を渡せるだろうか。何か助言はあるか?」
ユリは少し考えこむような様子で、
「うーん。ひとつお願いしたいのは、私が待ってと言った時に本当に待ってくれない?」
「それでいいのか?」
それならと彼女の身体を抱き寄せる。
「するの?」
「あぁ、君の力の上限が低い内にこの間みたいなことになれば今度こそ消えてしまうかもしれないじゃないか」
そんなことになったら俺は──ユリを抱く腕に力をこめる。
「……」
彼女は俺を見たが、何も言わなかった。わかってくれたということだろうか? 自分の身体からユリに力が移るように流れを思い描く。
「んんっ」
抱いているユリの身体が熱くなる。その後、顔を赤らめて喘ぐようになるので申し訳ない気持ちになる。
せめて気が紛れればと話しかけることにした。
「そういえば、記憶の共有は口吸いの必要はなかったんだな」
ユリがこちらに視線を向ける。
「あれは、最初に、唇が──」
声に出すのは辛そうだったので、額同士をあわせた。
その通りで唇を重ねる必要はなかったが、最初に唇が触れてしまい俺が勘違いしたままだったようだが特に訂正しなかっただけということだった。
そこは訂正しても良かったのでは?
杏寿郎が嬉しそうにしているのがわかったので、わざわざ訂正する必要はないかと判断したそうだ。
──よもや。
ユリの身体の熱が引いた。ひとまず上限をひとつこえたらしい。まだまだ彼女に渡しておきたい力は残っているのでそのまま流し続けていると、再び身体の熱が上がり喘ぐようになる。
そんなユリの姿を見ていると、あの時の彼女を思い出してしまい。つい邪なことを考えてしまうわけだが。いけないいけない。そんなことを考えては。考えては──
● ● ●
疲れて眠るユリを見ながら。これからを考える。既にユリが鬼殺隊に入らずとも良い条件が揃いはしていた。しかし、お館様はユリの入隊を良しとしていたし、ここに来て入隊しないと言い出すにはかなりの無理があるように思う。
なぜ物事は、思い通りにいかないのだろうか。
管理人に聞いた。
──ユリに役割を与えた場合、どうなるのか。
彼女らは物語を変化させる力が人より遥かに強い。だから、役割を与えるとその役割とそれに付随する意味がだいぶ強くなってしまう。
俺の妻という役割だけのユリと、複数の役割を持ったユリでは別人になってしまうレベルで違ってくるはずと管理人は心配していたが。
「ユリ──」
監視者の力を得ても、君の心が見えないことは良い事なのかもしれない。俺をどう思ってくれているのか。君が向けてくれる微笑みと、抱きしめて感じるぬくもりを俺は信じることが出来るのだから。
●4
産屋敷邸、白洲の間。
「今日は皆に新しい柱を紹介するよ。
──ユリ、来てくれるかい?
既に皆は、杏寿郎の祝言の時に会っているとは思うが──」
「お館様、お尋ねしたいことがございます。
そのユリと共にいる道着姿の男は何者でしょうか?」
「彼は名を狛治という。ユリの従者で元上弦の参、猗窩座という鬼だった男だ。
──皆が驚くのも当然の話だね。
私も彼女を柱にという話しを杏寿郎、天元、小芭内から聞いてとても驚いた。
そして最終的には私から頼む形で、柱になってもらったようなものなんだよ……」
「どういうことでしょうか?」
「彼女の最も優れているところは、傷を癒すことが出来ることだ。しのぶ、無理を言ってすまなかったがお願い出来るかい?」
「はい。お願いします」
隠2人が持つ木の板の上にのせられて深い傷を負った隊士が運ばれてくる。
「彼は現在蝶屋敷で療養中の方です。事情を話して協力を了承いただきお連れしています」
しのぶが近づいて包帯を外し、傷口を皆に見せる。
次にお館様がユリに声をかけ、彼女が傷を負った隊士に近づいて両手をかざし
光の呼吸 壱ノ型 蛍火
蛍のような淡い光が隊士の身体に吸い込まれると、傷口や血のあとが消えて苦しげな呼吸も寝息にかわった。
「この力で、彼女は狛治を人の姿に戻した。といっても不完全な人化であるとは聞いているが、上弦の鬼だった者を従えるなんて今までにないことでもある」
「彼の目を通して、我々の情報が鬼舞辻にもれることはないのでしょうか?」
「鬼舞辻は猗窩座から狛治への変化を察知して、彼から鬼側の知識を消していったそうだ。その過程で支配下から逃れているそうだよ。
鬼舞辻は猗窩座の視界を通して、ユリの姿をみているから間違いなく彼女を狙ってくると私は思っているよ。鬼たちの出没が目に見えて減ってきているし。
そして、予兆として万世極楽教から声がかかっているそうだね?」
「はい。私の舞う神楽をみたいという声がかかっています」
「万世極楽教は昔から鬼との関わりを疑ってはいたが、潜入捜査も今まで上手くいかずにいた。
可能性としては吉原の時のように強い鬼がいるのかもしれない。だとするなら、ここで複数の柱で協力して任務にあたるのはどうだろう?」
○ ○ ○
お館様が先に退席された。
「ようやく、話していただけることになったんですね」
「すごいわ! すごいわ! ユリさん! 光の呼吸? すごい素敵!」
甘露寺がユリの手をとってはしゃいでいる。
「状況がかわってな」
宇髄が俺に声をかけた。
「あぁ」
「はいそうですかと、納得はできねぇがな。いいのか? 大事な嫁さんを巻き込んで」
「……彼女を守るためだ」
「鬼殺隊に入って、柱になることが守ることになるとは思えないが。南無阿弥陀仏……」
「まぁまぁ、ここはひとつ万世極楽教をどう攻略するか。皆で考えてみようぜ。
──俺にひとつ案があるんだが」
そう言って宇髄が提案してきたのは、大道芸の一座に化けるというものだった。
「柱全員でってのはやりすぎだとは思うが、柱何人かとそういうのが得意そうな隊士を巻き込んでだな」
「それはとても面白そうですね。万世極楽教には私も興味があったので、ご一緒したいと思います」
「俺も行く」
「冨岡さん。ここで手を上げるということは、何か一芸をお持ちなんですか?」
「……」
「あら、だんまりですか?」
「神楽の評判を聞いた一座に勧誘されたってことにすれば、大人数で行動するのも怪しまれないだろ。
煉獄、お前はどうする?」
「では俺は座長を担当しよう!」
「何!? それは流石にどうかと思うが」
「そうか? こう見えてユリほどではないが、読心には自信があるぞ」
「座長が踊り子に手を出してるってことにならないか?」
「それは事実が逆なのだから仕方があるまい! ユリは元から俺と結婚していて神楽が舞えるとわかったから一座に入ることになったと。この話はこれでお終いだな」
●5
煉獄家の敷地内。
神楽の演奏者達を相手に善逸が悲鳴を上げている。
俺は神楽に使う曲を一人で全部覚えさせられていた。
「俺ひとりだけ覚えること多くない!? なんで!?
俺なんか悪いことした!?」
「それだけお前に期待してるってことだよ! お前が覚えて俺たちに教えるんだからしっかり覚えとけ!」
「アンタは人使いが荒いんですよ!」
「いやぁ、でもたった1日で曲を覚えると聞いた時はまさかとは思いましたが。善逸さんは筋がいいんですね」
いやぁと曲を教えてくれているおじさんたちに笑顔を返していると、
「お茶をお持ちしました」
ユリさんと千寿郎くんがお茶を持ってきてくれた。喜んで受け取りに行く。
「おい! なに勝手に休憩しようとしてるんだ!」
「ひどい! いいじゃないですか休憩ぐらい!」
襟首を掴まれたので、抗議した。
「天元!」
ユリさんが宇髄さんの名前を子供を注意するような口調で言うと、襟首を掴んでいた手はパッとはなれる。
──え? 今の音。
宇髄さんの方を振り向いて見たが、既にこちらに背を向けていた。
千寿郎くんからお茶を受け取って飲んでいると、炭治郎も煉獄さんと話しながらこちらに戻ってくる。
「炭治郎、お前もそろそろこっちの練習に加わったらどうだ?」
「それもそうだな。し──いや、煉獄さん。いいでしょうか?」
「そうだな! 今日の鍛錬はこれぐらいにしよう。
ユリ、俺にも茶を貰えるだろうか?」
「はい」
煉獄さんはユリさんの隣で、にこやかに会話をしている。
「お前さー。なんなの? そのみんなの前では煉獄さんって呼ぶの」
「え? うーん。常に師範って呼ぶのもいいかもしれないけど、俺は気持ちを切り替えたくてさ」
言いながらお茶を飲み終わると、炭治郎は煉獄さんとユリさんの会話に加わっていった。
「師範ねぇ……」
「お前は誰かの継子にならないのかよ?」
宇髄さんが俺の横に座ってお茶を飲みはじめる。
「俺は、まだまだ未熟なので」
「バッカお前! 未熟だから教えを乞うんだろうが」
「そりゃそうですけど」
「俺はお前を結構買ってるんだぜ。なにせ共に上弦の鬼との戦いを勝ち抜いたしな。雷の呼吸の使い手なら、派生の音柱の継子になってみてもいいんじゃないか?」
ジト目を宇髄さんに向けた。
「なんだよその顔」
「俺、嫁さんが3人いるとか許容できないんで」
「はぁぁぁ? まだそんなこと言ってんのか!
やれやれ、そんな理由で断る奴なんてこっちこそ願い下げだぜ。
にしても、吉原の時は世話んなったな。お前たちは何か鬼を見極めるコツでもわかってるってことか?」
「あぁそれは、俺は音でわかるんですけど。炭治郎は臭いで、伊之助は感覚でわかるみたいで」
宇髄さんが不敵に笑う。
「な、なんすか?」
「いや、それなら好都合。次の任務もまさにそういうところだからな。期待してるぜ!」
バンと俺の背中を叩いて笑った。
「あぁもう、お茶がこぼれたじゃないですかー」
立ち上がり不満そうにする俺に、悪かったなと拭くものを手渡してくる。
「まぁでも俺も誰の継子になるかって考えた時に、宇髄さんの顔が浮かぶってところはあるんすよ。
人並みに片想いとかされてるみたいですし? アンタも人の子なんだなって──」
それ以上、言うのをやめろと視線で殺された。
ヒィ──。
宇髄さんが近づいてきて、俺の頭を掴み耳元で囁く。
「既婚者相手にお前はわかってないな。万に一そういうものがあるとすれば、それは道ならぬなんとかってやつなんだ。次言ったら──」
「ハイ、スミマセン」
○ ○ ○
信者からの報告を聞いて、驚いた。
「巫女殿は旅芸人の一座に買収されてたって?」
「はい。そのようです」
「巫女というから、もっと神職に近いのかと思ったけれど……」
ふむと少し考えこむ仕草で。
「よほど俗物なのか、何か事情があってということなのかもしれませんが」
「──なら、近々ふもとの村でお祭りがあっただろう?
そのお祭りに来てもらえないかと、打診してみてもらえないかな。村には普段からお世話になっているし、こういうところで喜んでもらえたらと思って」
「教祖様、それは大変良いお考えですね」
「さっそく手配して参ります」
「頼んだよ」
さて、これで巫女殿を近くまで呼び寄せることには成功しそうだけれど。
次の一手は、どれを使おうか──。
●6
蝶屋敷。
庭で蝶をつかった一芸を考案していると、
「しのぶ様、ユリさんがいらっしゃったのでご案内しました」
「あら、ようこそいらっしゃいませ。
案内ありがとう。でも、ユリさんはもう光柱様とお呼びした方が良かったかしら?」
「あ、すみません」
「呼びやすい方で呼んでもらえればいいですよ」
ユリさんにそう声をかけてもらって、なほはぺこりとお辞儀をすると屋敷の中へ戻っていった。
「おひとりですか?」
「いえ、狛治が近くに控えてくれています」
「そうですか。
──なかなか人に見せる芸というのは、難しいものですね。村のお祭りに招待されたというから、なるべく見栄えの良いものをと考えているんですが」
言いながら蝶を指先にとめる。
「しのぶさんはやはり頑張り屋さんですね」
「え?」
「昔、カナエさんから妹の自慢話を聞いた事があって──」
ユリさんがいつ姉と会ったというのだろう。私が一緒にいない頃、入隊前の修行時代だろうか?
指先にとまっていた蝶が音もなく飛び立つ。
「──それで、カナエさんが──」
いけないいけない、いつユリさんが姉と会ったかが気になって会話の内容が上手く入ってこない。
「──しのぶ。いまあなたは幸せ?」
小さく息をのむ。まるで姉に問われたような錯覚を覚えた。
「……」
「それでもし、この問いに上手くこたえさられない時は──」
私の身体を近づいてきたユリさんが抱きしめる。
「こうして抱きしめてほしいと頼まれたの。それで、しのぶはいい子だね。いつも頑張ってるものねって沢山褒めてあげてほしいって」
どうして? ユリさんとは歳だってそんなに変わらないはずなのに。年上の女性に、むしろ姉から声をかけてもらっているかのように心がざわめく。
「──私は、そんな。柱としても中途半端で。ユリさんがいるなら医学知識もいらなくな」
「そんなことはありませんよ。光の呼吸は私しか使えません。
色々な場所で戦っている隊士たちの命を繋ぐのは、しのぶさんの医学知識です。あなたは人に教えることが得意なのだから、その医学の知識を隊士たちに教えてもらって少しでも生きながらえる時間を稼いでもらわないと」
不意に肯定されて涙が溢れてくる。
「蝶屋敷の主人としてのあなたも、鬼殺隊蟲柱としてのあなたも、カナエさんの妹としてのあなたも、とっても頑張っているから──たまには息抜きをしましょう。
私はずっとしのぶさんとこうして話しがしたかったの。遅くなってしまってごめんなさい」
彼女の言葉ひとつひとつが、何故かとても心にしみた。
「──今回の任務に参加してくれるのも、お姉さんの仇があの教団にいるかもしれないからなのよね?
私はね。人より少しかわったことが出来るから、あなたの手伝いが出来るかもしれない。少しずつでも話して聞かせてもらえるかしら?」
○ ○ ○
煉獄家の庭にて。
「もうすぐ観篝の準備が終わりますわ」
「いつもありがとう」
「お安い御用です。大事な親友のためですもの。
任務続きでは体調も崩してしまいますから。産屋敷様にもちゃんと話しをつけておきました」
夏火は誇らしげに胸を張っている。
「身体は冷えていません? 何か羽織るものを持ってきましょうか?」
大丈夫と言葉を返すと、私の隣に座って。
「少しお腹が大きくなってきたかしら?
ユリがまだよくわかってない内から関係があったというのは、友としてどうかと思いますけど……杏寿郎様があぁ見えて、そういうことに熱心だったというのは良い事なのかもしれないですわね」
後半は少し声を小さくして夏火は言ったが。
「人聞きが悪いな」
「あら、とても紳士的とは言えないことだと思いますけれど?
では邪魔者は離れたところに退散しますから、また終わる頃に参りますわ」
夏火はそう言って篝火の準備をしている使用人たちのところへ歩いていった。
「おかえりなさい」
「あぁ、いま戻った」
隊服姿の杏寿郎が横に座る。
「君は──」
「?」
「任務帰りに蝶屋敷に寄ったんだな」
「えぇ」
「何か事を起こすなら、事前に話してほしいと言ったと思っていたが」
「……ごめんなさい」
「謝ってほしいわけではないんだ。なにか話せない理由があるのか?」
隣り合った方の手を繋いで寄り添うと、彼も意図を汲んで頭を近づけてくれた。
私が行動を起こすのは、物事を物語として捉えることが出来る特性に関わることで突発的にわかることもあり事前に予知したりすることが難しくて。
「──俺が君を見ていればいいのか」
そんな監視者としての力を使うほどのことでは……。
「後悔だけは、したくないんだ」
杏寿郎は、幸い君という存在に注目することは監視者としての行動でもあるから無理をしているわけでもないんだと教えてくれたが。
──篝火が焚かれた。
杏寿郎が考えていることがわかる。私が勝手なことをしないで、あなたのそばにいればいいんだよね。
でも私は、私が何かすることで物事が少しでも良くなるならそうしたい。
──私がただの人であれば、普通に幸せでいられたのかしら。
あなたが私と出逢わなければ、あなたはあなたらしく変わらずに
「ユリ」
名を呼ばれ、手を強く握られる。
「俺は君のためにここにいる。
君がいなければ、きっとここにはいなかっただろう。だから、もしもの話を考えて気にする必要なんてないんだ」
「うん。そうね──そうよね」