【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


23一夜草編7〜12

●7

 

 旅芸人の一座として教団がある山のふもとまでやってきた。祭りは明日からだが、既に準備が出来た出店から商売をはじめている。

「村って聞いてたけど、たくさん人もいてにぎやかだな」

「観光地らしいからなぁ。祭りってやつも、近隣から人が集まるらしいぞ」

 馬車の中で炭治郎と善逸が会話をしていた。

「そういえば伊之助は?」

「荷物の上でまだ寝ているんじゃないか」

 明日からの興行に向けて準備をしつつ、準備が終わったら各自あたりを散策することになった。

 

 ○ ○ ○

 

 杏寿郎が声をかけてくれたので、ふたりで少し出かけることになった。出店というのも目新しくて、彼から色々教えてもらう。

 

 櫛を売っていた出店の店主が声をかけてきた。横のお嬢さんに求婚するならどうです? と杏寿郎が声をかけられている。もう既に結婚していることを告げるとそうでしたかと会話を楽しんでいる様子だった。

「どうして求婚するなら櫛なの?」

「苦労も幸せも共に過ごし、死ぬまで添い遂げようという意味があるんだ。君が望むなら今からでも贈ろうか?」

 彼が櫛を選んでくれる。

「無地のものも使いやすいかもしれないが、これはどうだろうか? 百合の花が彫られている」

 私の表情をみて、杏寿郎はその櫛を買って渡してくれた。

「ありがとう」

 顔がほころぶ。

「そういえば、君に何かを物を贈るのはこれが初めてか?」

「物を貰うのはこれが初めてかも」

「それはすまなかった」

「なんで謝るの?」

「男の甲斐性ってやつだ」

「私は何かを買ってほしくてあなたのそばにいるわけではないのに?」

 驚いた顔をした後に、照れたように表情を崩し

「君は──物を贈られないよりは、贈られた方が良いだろうに」

「いい奥さんじゃないですか。こっちまで赤くなっちまう」

「あぁ、俺の自慢の妻だ」

 行こうと手を差し出され、手を繋ぐ。

 

「杏寿郎、どこまで行くの?」

 買い物をして、村の子供たちとも少し遊んだりもして楽しい時間はあっという間にすぎていく。

「そろそろ戻らないと、みんな心配するんじゃない?」

 大丈夫、もう少しと言葉が返ってくるが。

 

 ──見えないのだ。

 

 いつからだろう。私は杏寿郎と楽しい時間を過ごした。

 

 日も暮れかかってどちらからともなく帰ろうと言って戻った。

 

 おそらくそれが事実。

 こんな暗くなるまで外にはいなかった。

 

 繋いでいた手を離す。前を歩いていた杏寿郎の姿をしたものは、ゆっくりと振り返り

「どうした? 歩き疲れたのなら休もうか?」

 私に声をかけてくる。

 

「──そうか、君は気付けるのか。

 やはりただの人とは思うなとは、まさにその通りだったようだ」

 

 ぞくりと寒気がする。目の前のそれは杏寿郎の姿をして彼のように話しているが、違和感しかない。

 

「姿も言い方も、君の記憶を借りているからおかしくはないはずなんだが。

 少し話しでもしようか? 何が聞きたい?

 

 こんな不気味なところからは、少しでも早く逃れたいか? ──それなら、それでもいい」

 

 君は既に術中にある。

 祭りが終わる頃に、また会おう。

 

 

●8

 

 無惨様は鬼を増やしたがらない。それは以前から知っていた。表向きには無惨様が許可しなければ、俺たちの血は鬼となるものにかわらないということになっているし。

 俺が教団の教祖で上弦でもかなり上位の存在となることが出来て、ようやく俺は無惨様にある実験に関する提案をすることが出来た。他の鬼は知らない。俺と無惨様だけの秘密。

 

 この実験の成果で、あの巫女殿が手に入るかもしれない……あれをこう配置して、よしよしこれでいこう。上手くいけばきっと喜んでいただけるだろう。

 

 ○ ○ ○

 

 ぼくは、たまたま他の同じような子供と比べて運が良かったのかもしれない。

 

 親の顔は記憶にない。

 

 世話役の大人はよくかわるし、教祖様と関わることもぼくの能力が必要になった時ぐらいだったから。

 

 他の子供のように他人に心を許すこともなく、ただ自分がどういう状況にいるのかを知りたいと思うようになった。

 

 万世極楽教という教団の施設に、ぼくたちはいるらしい。

 その施設の一角にぼくらが生活する場所がある。

 

 物心ついた頃は何も疑問もなく、ぼくも1人の子供として生活をしていた。ある日、同じように群れないでいる子と話しをすることになって色々聞いた。

 彼女の能力は他者の思考を読めるというもので、ここが閉鎖された実験場であること。食事の中に鬼の血がわずかに混ざっていて少しずつ鬼の血が身体にたまっていくことでやがて能力が発現されると言っていた。馴染みやすい鬼の血というのにも種類があるそうで、下弦とか上弦とかと呼ばれる鬼の血が使われているそうだ。

 そして能力が発現すると、太陽の下を出歩けなくなると聞いて驚いた。ひどい火傷を負うらしい。この一見不自由のない生活の裏にそんなことが隠されていたなんて。

 

 そこまで知っていてなぜ他の皆に話さないのかと言ったこともあったが、彼女は彼女なりに既に行動を起こしていて何度も失敗していたようだった。

 

 ──物事は思うようにならない。

 それが彼女の口癖になってしまっていた。

 

 

 教祖様がお呼びですと、声をかけられて向かう。

 

 ぼくの能力は、寝ている人の夢に入って記憶と認識を歪めることが出来る。場合によっては無意識下に行動を書き込み操ることも可能だ。

 強制的に眠らせたりは出来ないけれど、寝ている相手に対してはかなり使えると思われている。

 

 よくやるのが、この教団に不信感を抱いている人に教祖様を父母のように思わせること。もっと相手に神と崇めるような存在があってそれに置き換えると更に効果がある。

 

 その日、いつものようにと言われた相手は眠っている彼女だった。

 

 彼女の夢の中に入る。記憶は孤独であることが多かった。唯一、信用している相手は自分の話しを真面目に聞いてくれた同じような境遇の少年──つまりはぼくだった。

 

 彼女の中のぼくと教祖様の認識を入れ替える。

 ぼくはそのことを教祖様に伝えて、なるべくぼくには会わせない方がいいかもしれないと言っておいた。

 

「そうか、彼女にはまだそこまで大事な存在がないのか。

 可哀想に──」

 

 彼女から聞いたことがある。教祖様の言葉は薄っぺらだと。教祖様には心がないとまで言っていた。

 そして教祖様はとても強い鬼だから、気をつけるようにとも──。

 

「にしても君の能力は優秀だね。今回もありがとう」

 

 勿体ないお言葉ですと、膝をついて頭を垂れる。

 

 ぼくはいつまでこんな生活を続けなければならないんだろう。能力が発現しているから、おそらくもう太陽の下は歩けない。

 

 ──閉じた世界で、ぼくはいつまで生き続けなければならないんだろう。

 

 ○ ○ ○

 

 夜、少し大きめの部屋で今回の任務で潜入や調査など暗部を担当する者たちが集められた。

 胡蝶、冨岡、竈門、我妻、嘴平が主な面子で、別動隊との連携役として何人かの隊士が同席している。

 煉獄は目を閉じたユリを膝の上に乗せて、同じように目を閉じてしばらく黙っていたが──。

「問題ない。はじめてくれ」

 目を開いた煉獄が、俺を見てそう言ったので話しはじめる。ユリは周辺の気配察知に集中しているそうだ。

「よーし、それじゃあお前ら集まったな。明日から2晩公演中、各々の出番では一芸を披露することに集中してもらうが、それ以外の時間はあの施設での情報収集に集中してもらう。

 俺と竈門、我妻、嘴平で行う明日の昼からの作戦については──」

 煉獄が片手を上げた。言葉を止める。

「村の方がご挨拶にいらっしゃいました」

 

 そんな調子でひとまず途中、何回か中断しながらも状況把握と今後の作戦を話し合った。

 村の中であればもう少し気を抜くことも出来るかと思っていたが、竈門も我妻も常に鬼の気配を感じるというからな。暗部を担当しない者たちにも、注意するように言っておいた。

 

 

●9

 

 ユリが任務への参加をすすめた隊員と会話をしている姿を、宇髄が少し離れたところから見ている。

 

 旅芸人の一座としての朝がはじまった。

 

 慕われているユリを見て、俺は違和感を感じる。

 俺の記憶にあるユリはどこか人を寄せつけず、冷たい印象があったから。

 

 鬼殺隊に入りたての面子も、何人か今回の任務に組み込んだ。ユリの見立てだ。最終選別の時に付き合いがあって、わかっているからこその提案だった。

 会話が終わったのか、彼女に見送られながら彼らは持ち場に戻っていく。

 ちらりとユリがこちらを見た。

「何かご用ですか?」

「別に? 光柱様は新人に対して随分お優しいんだなぁって思っていただけだよ」

「……」

 ユリはふいと立ち去ろうとする。

「おい。黙って行こうとするなよ」

「特に言葉を返す必要もないかなと思ったのだけれど」

「ひとつ確認してもいいか?」

「?」

「俺に冷たくないか?」

 首を傾げられた。

「……天元は、私にどうされたいの?」

「それは──どうしてほしいとかはないけどよ」

「?」

「いいよ。なんでもない。忘れてくれ」

 今度は俺が彼女に背を向ける。

「私が色々旅してきたのは、あなたも知ってるでしょう?」

「あぁ」

「たくさんの人に会って、どんな顔をしてどんな風に言葉を返せばどう思われるか。だんだんわかるようになった。

 ──人は執着するようになると、手放したくないと思う人が多いみたいね」

 ユリなりに警戒しているのだろう。俺の気持ちを汲んで。

「ユリは煉獄と結婚してるし、俺も嫁が3人いる。

 なにより俺は──好きな女を悲しませたりしない。

 だからさ。深く考えずに声をかけてくれよ」

 わずかに振り返り笑って言った。

「うん。ありがとう」

 彼女がわずかに微笑んでくれる。それだけで心があたたかくなる。

「あなたは昔言った通り、素敵な男の人に成長したのね」

「当然よ。俺を誰だと思ってる。

 今更惚れても相手はしてやれないぜ」

「はいはい」

 

『人並みに片想いとかされてるみたいですし? アンタも人の子なんだなって──』

 

 善逸が言ってた言葉を思い出す。この歳で片想いなんて、粋じゃねぇ──でもユリは、わかってるんだろうな。

 

 視線が合うが以前のような気まずさは感じない。

 

 欲しいものは手に入れてこそと思っていた時もあったが、欲しいという気持ちとも違うのだとやっと理解できる。俺は煉獄が好きで、一途に想い続けている彼女だからこそ、尚更愛おしく思えるのだ。

 

「大人ってのは、難儀なもんだな」

 ふふとユリが隣で笑う。

 

 気持ちを口にして、どうしたいとも思ってない。そういう想いもわかって彼女はいま横で会話に付き合ってくれている。それでいいと思えた。

 

 ○ ○ ○

 

 旅芸人の一座として、今夜の公演を宣伝している。俺はねぇ、まさか鬼殺隊に入ってチンドン屋みたいなことをするとは思ってはいませんでしたよ! やれますけどね!

 炭治郎は大声で時間と内容を話していた。伊之助は軽業の芸を披露しているわけだけど、伊之助はここに来てから妙に静かなんだよなー。緊張してるような音が聞こえるんだ。

 鬼の音を探して常に気にはしているんだけど、ここは変なところだなって炭治郎とさっき話した。

 炭治郎の鼻でもこのあたり漠然と鬼のにおいがするって言ってて。俺も同じように感じてたから、伊之助も鬼の気配を感じて警戒しているのかもしれない。

 

 旅芸人のしての表の顔と、裏の顔を使い分けろと宇髄さんには言われてるから。いまこの時は旅芸人としての俺を村の人たちにしっかり覚えてもらわないと。

 

 

●10

 

 人払いをして煉獄と教団について話しをしている。

「と、いうわけでだ。

 教団に行ってみたが、いたって普通だったな」

 昨夜の内に偵察にも行ってはいたが、鬼の情報までは掴めず。

 ユリの存在を知っているってことは、鬼殺隊も一緒に動いていることは当然向こうも知っているだろうし、相当警戒しているということだろうなという意見で煉獄とも一致した。

「攻めるにしても、一手足らないといったところか」

 ふむと顎に手をあてて煉獄が考えこむような仕草をする。

「俺たちは鬼の首さえ斬れればいいんだがな」

 今回ばかりは信者たちが、鬼をかばおうとする可能性も考えないといけない。そして、このままこちらから攻めの一手をうてなければ、ユリの身に危険が及ぶことは明らかだ。

 夜の潜入で、裏帳簿は抑えてある。いざとなれば警察を動かすことも出来るが、それは鬼の首を狙う一手にはなりえない。陽動として使えるかもしれんが。

 

 いっそ信者になってしまえば、遅かれ早かれ鬼と会うことが出来るのかもしれない──しかし、その試みは一度も成功したことがない。潜入した隊士たちは、誰一人潜入任務を遂行できなかったからだ。

「炭治郎たちは何と言っていた?」

「このあたりと同じで漠然と感じるって言ってたぜ。

ここより多少、強く感じたらしいが。

 都合良く元隊士でもいれば、捕まえてきて色々吐かせたんだが」

「そんな不安要素を残すような相手ではない──か」

「──人から慕われる鬼がいるとするなら、そんな鬼を退治しようとする俺たちはどう見られるか。考えたくもない話だ」

 

 ○ ○ ○

 

 ユリに会いに来た。入り口に待機していた狛治からは衣装合わせ中だと聞いたが、

「杏寿郎」

 鏡の前にいた彼女が、こちらをみて微笑む。

「一人でいたのか?」

 近づいて巫女服姿のユリを抱きしめた。

「狛治がいたでしょう?」

「入り口にはいたが、何かあったらどうする」

「杏寿郎のところに行く」

「うむ。そうだな。俺のところが一番安全だ。

 かわりはないか?」

「……うん」

 少し考え込むような様子でいるユリを見て、

「何かあったか?」

「少し、こわい夢をみた気がするのだけど」

「夢か──」

 無限列車に現れた鬼は、人を眠らせてみせる夢を操ることが出来ていたが。

「内容も覚えていないぐらいだもの。そこまでこわい夢でもなかったんだと思う」

「それならいいが。

 ──どうした?」

 腕の中のユリが上目づかいにこちらを見るので、

「その──唇を重ねたくなるのは、どういう時なのかなと思って」

 意思疎通が頭を近づければ出来るのであればと、特に口吸いもしていなかったわけだが。

「君がしたいのであればいくらでも付き合うが」

 ふと笑ってそう返すと、ユリの顔はかぁと赤くなる。

「そういうことではなくて」

「まずあまり人前でするものではないな」

 彼女の腰を抱いて顔を近づけ、

「……今は良い機会だと思うぞ」

「だから私がしてほしいわけじゃ」

 彼女の口を自分の口でふさいだ。

 

 ひとしきり味わっていると、ユリが思いきり腕を突っ張らせて距離をとろうとするので唇が離れる。

「長い!!!」

 ユリがしたいというから嬉しくてつい。

「言ってない!」

 少し離れたところで何度か深呼吸して、ようやく落ち着いたようだった。

「私はそばにいられるだけで充分なの。これは別に強がって言ってるわけじゃなくて、触れなくてもあなたがどれだけ想ってくれているかわかるから。

 それに追加で触れられると。なんていうか──とてもくすぐったくて」

 視線を外され恥ずかしそうに言われた。

「くすぐったい?」

 どういうことだろう。

「興味を持たなくていいから」

 じりと近づくと、ユリも同じように距離をとる。

「座長、演目前の演者に不要な圧力をかけるのはやめてもらえないか?」

 狛治に肩を掴まれた。無言で視線を返す。

 

 ○ ○ ○

 

「おいおい、誰だよ天幕をド派手に壊したやつ」

「座長と狛治さんです!」

「なにやってんだあいつら──」

 

 

●11

 

「まさか冨岡さんからお祭りを一緒にまわろうと声をかけていただけるとは、思ってもいませんでした」

 ──ほんの少しだけ。期待はしていましたけど。

 あら、いない?

 先ほどまで後ろを歩いているようでしたが、振り返るといない。まったくあの人は──。

「これを」

 横から顔にお面を被された。

「これは?」

「容姿が目立つからな」

 ふふんと得意げに浮かべる薄笑いに若干の苛立ちを覚えますが。まぁいいでしょう。なんのお面か確認すると、ひょっとこ。

 お面を売っている出店はすぐそばにあったので、他にどんなものが売られているか確認すると、どうして冨岡さんがこれを選んだのか理解に苦しむ。

 私もその出店で、ひとつお面を買って冨岡さんに渡すことにした。

「はい。冨岡さんはこちらをつけてくださいね」

 おかめのお面である。

「俺は必要ない」

「ありますよ。冨岡さんは顔だけはいいんですから、目立ちすぎるのは良くないでしょう?」

 渋々、冨岡さんはお面をつけてくれた。

「さて、どこからまわります?」

「……」

「なんですか?」

 手を差し出される。おかめのお面をつけた冨岡さんの表情は当然読み取れない。きっと普段のように無表情なのでしょうけど。

「あ、すみません」

 人がぶつかられてわずかによろめくと、冨岡さんが手を引いて抱きとめてくれた。

「気付いていたんですか? ありがとうございます」

「……」

 ふいと身体が離れるが、引いた手はそのままで。

「冨岡さん」

 声をかけても特に反応はない。

 

 どうして私を誘ってくれたんですか?

 ──聞いてもきっとこたえてはくれないだろう。

 

 冨岡さんはいつも言葉が足りないと思うことが多いが、私自身も彼に十分な言葉をかけることが出来ているとは思っていない。

 

 私も彼も、既に背負っているものがあるから。

 余裕がないのだ。

 

 昔、姉さんからしのぶはきっと似たような人を好きになるのでしょうねと言っていたことを思い出す。

 

 そうなのよ。姉さん。

 

 私が気になる人は、私とよく似た人だった。不器用で既にたくさんのものを背負っている。

 姉さんは私の幸せを願ってくれたけど。私はその気になる人と、どうすれば幸せになれるのかよくわからないの。

 

 どう思われているのか、今更そんなことを考えたりもする──もし好かれているとわかっても、私にはどうすることも出来ないと知っているのに。

 

 ○ ○ ○

 

 夜になって開演の時間になった。

「さっきまで天気が良かったが、これは一雨きそうだな」

 空を見上げながら俺がそう言うと、

「演目の順番をかえよう」

 煉獄がそう言ってきた。

「ユリの神楽を最初にする。そうすれば雨雲なんて吹き飛ぶぞ」

 得意げにそう言うので、俺は呆れた。

「お前、いくらなんでもそんなこと──」

 俺が言い返す前に煉獄は、ユリの神楽を最初の演目にすると周囲に指示しはじめている。

 

 なんとか開演の時間に準備が間に合った。

 わずかに雨が降り始めてしまい、客足もまばらだ。

 

 ユリが舞台に立ち、神楽がはじまる。

 

 鈴の音が結構離れた場所にいる俺のところにもしっかり聞こえた。

 彼女が舞い始めて気付くことは俺の視界の範囲、誰もがユリの姿を惚けたようにみていることだ。

 上空の雨雲もいつの間にか消え失せている。

 

 星空の下、その神楽はとても神々しく人々を惹きつけた。

 

 用意していた座席もあっという間に埋まる。立ち見席まで出来るほどだ。

「これが人を惹きつけるっていう神楽か」

 俺が言うと。

「人だけではない」

 煉獄が指差す方を見ると、犬猫や鳥までもがユリの姿をみている。

 ある種のおそろしさすら感じた。あのユリだから、そこまで出来て当たり前か。

 

「ユリがいれば座長として一生食っていけるんじゃないか?」

「かもしれんが。俺は、出来ればあの神楽を商売の道具にしたくはないな」

「相変わらず真面目だねぇ、お前さんはよ」

 ふと気付くと狛治が後ろに控えていた。

「杏寿郎」

「どうした?」

「先ほど夢について聞いたと思うが──やはり昨晩、血鬼術による干渉があったようだ。竈門禰豆子が教えてくれた。影響の範囲はわからない」

 煉獄と2人顔を見合わせる。

「ユリが正常であれば俺が警護することに問題は生じないだろうが。彼女自身に直接何かあった場合に自由がきかない可能性がある。出来れば人をまわしてほしい」

「わかった。すぐ手配しよう」

「だんだんと雲行きが怪しくなるな。せっかくユリが雨雲を払ってくれたってのによ」

 

 

●12

 

 神楽が始まる前にユリの元を訪れたしのぶ。

 

 ユリさんと少し話しをする時間があった。

「神楽を舞う時に、何を考えているか?」

「はい。気になりまして」

「元々、豊穣を祝うお祭りの時に舞うためのものだからまず土地神様への感謝の気持ちね」

「なるほど」

「今回はその感謝の気持ちとお祭りに来てくれた人たちに、何かいいことがあるようにと思って舞うつもり」

「それは素敵ですね」

「……最初、彼に見てほしいなと思って神楽を舞ったら大変なことになってしまって」

「彼って、煉獄さんですよね? どうなったんですか?」

「色々よくないものまでよんでしまって──」

 彼女の袖の中から赤い小さな蜥蜴が顔を出した。

「あら可愛い。蜥蜴を飼ってらしたんですか?」

「飼ってるというわけではないけど、いつも一緒にいるの。ね?」

 ユリさんが指先を向けると、すりすりと頭を寄せている。

「人に慣れているんですね。まるで言葉がわかっているみたい」

 赤い蜥蜴の瞳は宝石のようにキラキラとしていた。

「しのぶさんはこれからどうするの?」

「私はまだ出番まで時間がありますから、少し遠くでお祭りの様子を見守るつもりでいます──」

「?」

 ユリさんは不思議そうに小首を傾げ、私を見て言葉を待っている。黙っていようと思ったけれど、

「……冨岡さんから一緒に見て回らないかと声をかけられたんですが、見回りなら別行動した方が効率的ですよね」

 誘われて咄嗟に考えさせてくださいと言葉を返していた。いまユリさんに言った言葉の通り効率を考えるなら別行動するべきだと思う。

「なぜ?」

「え?」

「物事は効率の良い悪いだけではないじゃない?

 2人でいた方が何か良い事があるかも。

 別行動した方がいいと言ったしのぶさんはとても寂しそうだったから、それは一緒に行きたいということだからではないの?」

「それは、その……」

「今は潜入任務中なのだし、しのぶさんは恋人とお祭りを楽しむ村娘に扮しても良いのではないかしら?

 ──ねぇ? 冨岡さん」

 ユリさんが外に向かって声をかける。驚いて振り返ると、冨岡さんが部屋の中に入ってきていた。

「迎えに来てくれたのですって、いってらっしゃい」

 背中をユリさんに軽く押され、冨岡さんに抱きとめられる。

「いこう」

 表情をかえないまま、身体を離して歩きはじめた。

 

 ──まだ一緒に行くと返事もしていないんですが。

 

 小さく息を吐いて後ろに続いた。

 

 ○ ○ ○

 

 冨岡さんは担当の演目が私より早くにあるので、一足先に戻っていった。

 

 1人になって少し離れたところから、この祭りの参加者の様子を見ている。

 

 今はユリさんの神楽が始まったところだ。

 これだけ離れていても鈴の音が聞こえた。

 ユリさんの神楽は鬼も見ることが出来るんだろうか? 破邪の舞だとも言っていた気がするが。

 

 まさか冨岡さんと一緒にお祭りをみてまわることになるとは、思ってもみなかった。

 ──自分で買うつもりでいた金魚の飴も、結局いつの間にか買い与えられていて。

 

 ユリさんの神楽はとても不思議、みているだけで心が揺さぶられて気付くと涙があふれている。

 

「素敵な神楽だね」

 不躾に声がかけられた。

 

「君、一人だろ? どうしたの?

 もしかして、恋人と喧嘩でもした?」

 遠くからとはいえ、あの神楽をみながらこうも人に話しかけることが出来るなんて……涙が引っ込んだ。

「喧嘩なんてしていません。失礼な方ですね」

「あれ? 怒らせちゃった? ごめんね。

 君と話しがしてみたくて、つい声をかけちゃった。

 なんでひょっとこのお面つけてるの?」

 あなたのような人に気安く声をかけられないようにするためです──が、この人には逆効果だったらしい。

「……」

「今度はだんまりかい?

 いいね。そういう駆け引き、俺は好きだよ」

「駆け引きをしているつもりはありません。どうぞよそをあたってください。私もそろそろ戻らないといけないので」

「そうなのかい? それは残念だな。

 君は、なんていうか前に会ったことがあるような気がしてもっと話したかったのに」

「──前に会ったこと?」

「うん? もしかして興味ある? 君のほら、髪飾り。蝶の形で綺麗だね。その髪飾りに少し見覚えがあってさ」

 血の気が引いた。同時にこの軽口をたたく男の異質さに気付く。

 ──しかし、ここで気付いたことに気付かれてはいけない。

 

 何か良いことがあるようにと込められた想いが、ここで私を姉の仇と引き合わせたのだ。

 

 周囲に人も多く戦闘は行えない。

 ならば私は何も知らない村娘として、この男から少しでも情報を聞き出さねば。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

●メインはpixivで活動しています。
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