【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


24一夜草編13〜18(完結)

●13

 

 神楽を舞っている私に話しかけてきたのは、自身を同業だという男の声だっだ。

 

『はじめまして、お嬢さん。

 とても素敵な神楽ですね』

 

 ……。

 

『おや、警戒されてますか?

 ──それも仕方がないですね。同業とはいえ私たちはライバル同士、本来はこんな風に言葉を交わす機会などないのだから。

 

 しかし、私もあなたも変わり者のようです。

 

 私はたとえ商売敵といえど、こうして一度は交渉することを信条としていて。

 あなたは物語の登場人物のように、この物語を関わっているのだから。

 私たちのことを、学園ではどのように教わりました?』

 

 私たちとは似て異なるものだと聞いた。会社という所で私たちのように手段を学び、あらゆる物語を塗り潰すように闇に沈めるのだと。

 

『えぇそうですよ。大体はあってます。

 お嬢さん方はハッピーエンドに、我々はバッドエンドに物語を導くものですが。

 実は過程に関しては目指すものは同じなんです。

 

 物語は面白く、観客をより楽しませなければならない。

 

 学園のお嬢さん方は、その認識がない方が多いようですね。あえてそうされているのかなと、最近は思うようになりましたが』

 

 ……。

 

『私はね。あなたに興味があるんです。

 我々の組織も、あなたの組織も物語と関わる上で登場人物のように振る舞うことは避けてきた。

 干渉するとしても脇役が、見えないところでほんの少し事実を変化させる程度のことしかしてはいけないとしていたのに。

 

 あなたは彼と恋に落ち、今もまた物語の登場人物の一人としてこのシーンでスポットライトの下にいる。

 我々が物語の登場人物になるなど、決して出来はしないのに』

 

 私は──。

 

『あなたは特別だと、誰かに言われましたか?

 こんな風に言葉を交わせる存在が、登場人物としてまともに機能するとでも?

 

 神楽を舞うあなたと、私とこうして言葉を交わすあなたはまったく別人じゃないですか。

 

 ──あなたはそう。好かれるキャラクターを本来のあなたとは別に演じているだけなのです。本来のあなたが抱く想いが、物語の登場人物として相応しいものだとは、誰も証明できませんからね』

 

 ……。

 

『物語の登場人物としての、物語をより面白くする可能性を私はあなたに感じているんですよ。

 そのために協力しても良いかとさえ思っている。

 

 あなたは早くこの戦いを終結させたい。

 彼らと宿敵を引き合わせたいのでしょう?

 

 そのために必要な一手は、あなたが攫われてしまえばいいのでは? 悲劇のヒロインとして、囚われてしまえばいい。

 

 出来るでしょう? あなたなら。

 みえてしまう、わかってしまうことにほんの少し蓋をすればいいのだから。

 不完全な術が今のあなたにはかけられている。

 その術の不完全さを、本来のあなたが補ってしまえばいい。

 彼を信じているなら、彼の役に立ちたいなら、物語の登場人物として攫われるヒロインに。

 ──あなたはなるべきだ。

 

 物語の登場人物の命さえ守りたいなどと、思うあなたは本当にお優しい。誰からも愛されるヒロインを体現している。それならば正に今がその役割を少し変化させる時だと私は思いますよ。

 

 彼を信じているなら出来るはずだ。

 それに彼は自身を犠牲にしてあなたを選んだのだから、選ばれたあなたも献身してみせないといけないでしょう?』

 

 それではまた……と声は聞こえなくなった。

 

 本来の私と、物語の登場人物としての私。

 

 私は。私の想いは──。

 

 ○ ○ ○

 

 神楽を終えたユリの姿を探している宇髄、控室に戻ったと聞いてそちらに向かうと。

 

「ユリ!」

 ぼんやりしている彼女に声をかけた。

「神楽良かったぜ。

 ……どうした? 何かあったか?」

「いいえ、何も。杏寿郎は?」

「ちょうどまた村の代表ってやつが挨拶に来て、対応中だ。お前のことを心配していたぞ。だから俺がここに来たんだが」

「そう」

 何か思うところがあるのか表情が暗い。

「煉獄のことで何か思うところがあるのか?」

「……私は」

 言い淀む彼女の言葉を待つ。

「杏寿郎の力になれているかしら? 私の想いは彼に伝わっていると思う?」

 そんな風に言うものだから、つい笑いがもれる。

「人が真剣に聞いているのに」

「悪い悪い。

 そんな風に思うなら、行動で示してみればいいんじゃないか?」

 軽い気持ちでそう言った。ユリの方から近づいて甘えてみせればあいつも喜ぶだろう。

「行動で示す──」

 俺の思っていることを読んだにしては、表情が暗いままなのが気になった。

「ユ──」

「宇髄さん! 次の演目で相談したいことがあって舞台の方に来てもらえませんか?」

 軽く舌打ちする。

「わかった! 今から行くがここに誰か2人つれてこい!」

「わかりました!」

「あまり深く考えるなよ?」

 こくりと小さくうなづく彼女に後ろ髪を引かれながら、連れてこられた2人にユリの警護をするよう伝えて控室を後にした。

 

 

●14

 

 出来ればさっきみたいな女の子を、お持ち帰りしたかったけど……仕方がないね。先約があったから。

 今日は会うだけって話だけど──。

 

 そろそろ神楽が終わる時間、巫女殿が俺に会いに来てくれるはずだ。昨夜は夢の中でしか会えなかったけど、今夜はいよいよ本人と会える──楽しみだなぁ。

 人に擬態したまま旅芸人の一座が滞在している天幕の側で待っていると。

 巫女服姿の女の子が姿を現し、きょろきょろと周囲を見回していた。

「こっちだよ〜」

 姿を見せて手を広げて声をかける。

 ニコと笑って巫女殿が近づいてきた。

 わー。可愛い。

 俺の姿が彼女の好きな人に見えてるんだっけ? 愛する人へ向ける表情というのは、こんなに輝いているものなんだねぇ……。

「ユリ」

 巫女殿を追うようにして道着姿の男が出てくる。

 うん? 猗窩座殿? 擬態している──わけでもなさそうだし。彼らの言ってた別存在ってやつか。

 俺の姿をみて男は瞬時に戦闘態勢に入る。地面を蹴って殴りかかろうとする姿を見て、

 おっとこれはいけない、懐から扇子を取り出そうとすると──

「また天幕が壊れちゃう」

 巫女殿が俺の身体に触れたと思ったら視界の情報が一変した。天幕と道着男の姿が消え、どこかの森の中に。

 遠くにお祭りの音が聞こえる。月の位置、遠目にみえる山の場所から大体の場所は知ることが出来た。

 空間転移? 鳴女殿の能力に近いのかな? にしても詠唱も動作もなかった。

「どこか一緒に行きたいところがあるって言っていたっけ」

 彼女が俺にそう言った。

「あぁ、そうなんだ。その前にこれを」

 目の前に花を一輪差し出す。青く輝く美しい花だ。眠気を増幅し、暗示を強める効果がある。

「良い香りだろう? 君にあげるよ」

「ありがとう……」

 両手で受け取ろうとしてくれたが、花に触れる前に彼女の身体から力が抜けた。倒れないように身体を支える。おやすみと声をかけながら、巫女殿の耳に髪をかけてその花を差す。

「これでいいのかな?」

「はい。大変良く出来たかと」

 暗闇から男が1人現れた。無惨様から暫定の協力者として紹介されたわけだが。

「では失礼して」

 軽く彼女の手をとった。

「ふむふむ。なるほど、これは興味深い」

「手をとっただけで何がわかるんだい?」

「色々わかりますよ。まずお伝えしないといけないのは、このままここにいるのは悪手だということです。急いで拠点に戻られた方が良いかと。

 私が持ちましょうか?」

「いいよ。たまには人を抱えて走ってみるのも楽しそうだし」

 ではと2人で全力で移動を開始する。

「君も結構足が速いよね」

「えぇ、肉体面の強化がないと生き残れない職場ですので」

「そうなんだ。

 にしても、まさかこんなに上手くいくなんて」

 抱きかかえた巫女殿にちらりと視線を落として。

「彼女の転移が効果的でしたね」

 男は目を細めて笑った。

 

 ○ ○ ○

 

「煉獄! こっちだ!」

 ユリがいなくなったと聞いた時は、ついにその時が来たかと思った。

 片目をおさえながら監視者の力──千里眼でユリの姿を探す。既に彼女がどこにいてもわかるぐらいに調整していたので、発見することは容易だった。身に危険が及ぶようなら、その場に即座に移動することも考えていたが。向こうは移動中、理を歪めてまで追いつくべきではないと判断してどういう状況で彼女がいなくなったのか現場を調べている。

 控室近くの地面に倒れていた狛治には意識がなく、警護をするように言われた2人もユリがいなくなった前後の記憶がなくなっていた。

「君もいなくなる前に彼女に会っていたな。ユリはどんな様子だった?」

 宇髄に声をかける。

「どんなってなぁ──あんな神楽を舞ったにしては、浮かない顔をしていたよ」

「……何か言っていなかったか?」

「うーん。お前に自分の想いは伝わってるかとか聞かれたが」

「!? 君はなんとこたえた?」

「行動してみろと言ったぞ」

 そうか、それだと頭を抱える。

「おいおい、どうしたよ?」

「彼女の心を読む能力は万能じゃない。

 特に彼女の思考が否定的であったり消極的だったりする場合は、まわりをみてくれないんだ。

 俺はユリに側にいてくれるだけでいいと言い続けていたが、何かの理由で気分が落ち込んでいる時に君の行動してみろという言葉に背中を押されたんだ」

「は? じゃあユリには俺が、煉獄相手に自分から甘えに行けばいいと思っていたことはまったく伝わっていなかったってことか?」

「そうだろうな。彼女はもっと行動を起こして俺のために役に立ちたいと思ったから、ここからいなくなったんだろう。君とユリの仲をもっと把握しておくべきだった。俺の注意不足だ」

 彼女は必要以上に人と関わろうとしていなかった。それはおそらく俺以外からの影響を極力受けないようにするためだと思っていたが。

「なんだよそれ──。

 おい煉獄、俺を殴れ」

「今はそんなことをしている場合じゃない」

「いいや、俺の気がすまない。殴れ」

 頬を差し出してくる。

 はぁと息を吐いて拳で差し出された頬を殴った。

 宇髄は口から血を吐き捨て、

「これで喝が入った。

 それで? それだけ落ち着いてるってことは、何かわかっているんだろ? 聞かせてもらおうじゃないか」

 

 

●15

 

 千里眼で見知ったことを、宇髄にも共有していいものだろうか。管理人からは監視者の力を私欲に使えば、状況が悪くなると言われているが──。

 

「話しは聞かせてもらいました」

 今まさに舞台上にいるはずの胡蝶がやってきた。

「私の出番は、先ほど別任務が終わって合流したカナヲに代わってもらいまして。今頃は炭治郎君と一緒に盛り上げてくれていると思いますよ」

 さて。と、糸巻きのようなものを取り出すとくるくると回しはじめる。

「ユリさんから追跡に関する手段をいくつか用意しておいてもらえるように依頼を受けていたんです。

 これはそのひとつ、クモの糸を参考にしてみたんですが──やはり切れていますね。

 もうひとつはこれです」

 そう言って箱から折り畳まれた紙を取り出し、広げると蝶が飛び立った。同じように何匹か蝶を解放していく。

「さぁ──この子たちが我々をユリさんの元へ導いてくれますよ。後を追いましょう」

 走り始めようとする胡蝶に宇髄が声をかける。

「冨岡はいいのか?」

「同じものを預けていますので、合流は容易かと」

「そうか。なら」

 待機組に宇髄が指示を出す。

「煉獄、狛治はどうする? 置いていくか?」

「連れて行こう。ユリの状態を判断する材料になるはずだ」

「了解っと」

 宇髄は狛治を肩に担いだ。

 

 蝶の後を追いながら、今のところユリのいる方へ向かっているので安堵する。

 ユリは監視者としての力を俺が使わずとも、何とかなる方法を考え行動してくれているように思えた。

 しかし、俺が彼女の身を危険に晒してまで事を成して喜ぶと思っているのか。そこには大きな誤解があるように思える。

「君1人の身体ではないのに──」

 ぽつりと言葉をもらす。

 彼女が腹にいる子供のことを考えていないわけはないだろう。

「何か言ったか?」

 宇髄が俺に声をかけてくる。

「いや、独り言だ」

「そうかい」

 特に気にする様子もなく、視線を戻した。

 

 ○ ○ ○

 

 教団施設に戻ってきて、巫女殿を祭壇に寝かせて会話の続きをする。

「監視者?」

「はい。この世界の守人、世の理の番人です。

 本来なら表には出てこない存在のはずなんですが……」

「そんなものと恋仲なのかい?」

「私としても信じられないことですが、彼女の物語を読み解いてみたところ。そのようです」

「困ったなぁ。流石に置き換えを無惨様に、とまでは思っていなかったけど。

 いっそ殺してしまった方が良いということなんだろうか?」

「そんな簡単に生命を奪う事も出来ませんよ。殺意をもって彼女に触れようとすれば、弾かれてしまうでしょう」

「そんなまさか──」

 と、首を手折ろうと手を伸ばすとバチンと音を立てて弾かれた。火で焼いたように肌が爛れてしまう。

「すごい。本当に出来ない」

「困りましたねぇ」

 ただの娘であれば無惨様のところへ一度連れて行けばいいかと思っていたけれど。思った以上に扱いが難しい。こちらも罠を張っていたし、むこうも罠を張るだろうとは思っていたが。

 

 精神操作が可能なのであれば、俺を対象に置き換える暗示を強化しようということになった。

 

 術者を呼んで暗示の強化を頼んだ。

 

 

●16

 

 えぇと。何がどうなったんだっけ?

 

 巫女殿に暗示の強化をしていたら、俺の姿がかわりかけて例の人が転移で助けてくれて、建物の外まで出て?

 彼は一度、社に戻って今後の対応を検討しますって一人でいなくなっちゃって。

 俺は外の森に取り残されたわけだけど──。

 

 そうしたら、お祭りで会ったあの子が会いに来てくれたんだ。

 

「まだお祭り中だろうに。

 わざわざ着替えて会いに来てくれたのかい?」

 蝶の柄の羽織を羽織った彼女は、鋭い瞳で俺をみている。

「それとも万世極楽教に興味があるのかな? 俺が紹介してあげようか?

 ──何かつらいことがあったんだろう?」

「つらいも何もあるものか、私の姉を殺したのはお前だな?」

 彼女の向ける鋭い瞳の正体がわかった──そうか、俺を姉の仇として憎んでいるのか。

 対の扇を取り出した──なんだ。俺に興味を持って追いかけてきてくれたと思ったけど。

 違うのか……。

「君のお姉さん。そんな羽織を着ていた。花の呼吸を使っていた女の子かな? 優しくて可愛い子だった。朝日が昇って喰べ損ねた子だよね。ちゃんと喰べてあげたかっ……」

 

 蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き

 

 俺の眼球に彼女の刀が突き刺さる。

 鋭い突きだった。

 

 ○ ○ ○

 

 蝶の後を追って、教団施設近くまで煉獄さん達と3人で向かっていた。その内の数匹が別の方へ飛んでいこうとしたので、私だけが様子を見てくると別行動をすることにした。

 その結果がこれだ。

 先ほど祭り会場で会った男にも似た印をつけていたから、蝶が飛んで行く先になるのは当然だったわけだが。

 

 鎖骨も肺も肋も斬られ立っているのがやっとというところまで追い込まれていた。

 ユリさんには協力すると言ってもらえていたけれど……状況が状況だ。ここは覚悟を決める時だろう。

 私を取り込ませて、藤の花の毒で奴を──

 

 水の呼吸 参ノ型 流流舞い

 

「おっと」

 扇で軌道をかえられてしまった。あと少し奴が躱すための身体の捻りが足りていなければ首を落とせていたかもしれない。一瞬にしてつけられた刀傷は修復される。

「今度は君が相手をしてくれるのかい? いいけど、決着がつく頃には後ろの子が死んでしまいそうだな」

 出来れば生きてる内に食べたいんだけど。と、明るく話す声が聞こえた。

 冨岡さんは私の前に庇うように立って、奴に刃先を向けているが。

 何をしてるんですか!

 わずかにこちらを向いた冨岡さんに視線で気持ちを伝えようとした。

 ふわりと身体が浮く。

 何が起きたのかと混乱したが、冨岡さんが私を抱き上げ奴に視線を向けたまま後ろに飛んだのだ。

「あれ? 戦いに来たわけじゃないのかい?」

 冨岡さん! 違います! 助けてほしいとか思っていませんから!

 言葉にしようとしているが、上手く声を出すことが出来ない。鬼の姿はどんどん遠ざかり、扇をしまうと奴は姿を消した。

 

 冨岡さんに抱き上げられどこかへ運ばれながら、私は悔しくて悔しくてずっと涙を流していた。

 せっかく仇を見つけたのに! 私はまだ戦えたのに!

 抱き上げたまま走り続けている冨岡さんを見上げ、どうして戦ってくれなかったんですか。いいえ、もう少し遅く駆け付けてくれたら私を取り込ませてもっと追い詰めることが出来ていたのに──。

「俺はここにいる資格のない者だと、ずっと思っていた」

 は?

「言われたんだ」

 突然始まった一人語りに呆気にとられる。

「失ってから後悔することになると」

 跳躍し、飛び降りた。

「胡蝶はそういう相手はいないのか?」

 え? なんの話しですか?

「いつものように隣で小言を言ってほしい。

 ──俺のせいで仇を討てなかったと、言われ続けてもいい」

 は? 私は何を言われているんでしょうか?

 

 毎日味噌汁を作ってほしいというような声音で、小言を言えというのは流石に違いますよね?

 

 そういう告白の類じゃないですよね?

 予想に反して冨岡さんの顔が近づいてきて──

 

 ○ ○ ○

 

 ユリが柱合会議で柱として紹介される前のこと。

 産屋敷邸にて。

 

 お館様がお一人でいる姿をお見かけして挨拶をした。

「どうされたのですか?」

「義勇、先ほどまでユリと話しをしていてね。いま見送ったところだ」

 そう話すお館様はどこか普段とは違い、どうしてかと思っていたが。

「ユリとは、煉獄の?」

「そう。今度、鬼殺隊に入ってもらうことになって。そのことで少し答え合わせをした。

 彼女が入隊することで鬼殺隊のあり方はかわっていくよ。私も久しぶりに諭されて……いや、叱られてという言い方の方がしっくりくるかな。それが本当に嬉しくて」

 叱られて嬉しい? 良くわからない感覚だった。

「良ければ義勇も少し話しをしてみるといい。きっと今までとは違った考え方が出来るようになるだろう」

 そう言われて向けられた視線の先に向かうと、あまね様とユリが立ち話をしているのを見かける。ちょうど会話が終わるところだったのか、2人とも小さくお辞儀をして離れてゆくところだ。

 声をかけるかかけまいか迷っているところで、ユリが振り返ってこちらを見た。にこりと笑いかけられ、お館様からのお言葉もあるし少しだけ話しをしてみようと一歩二歩と近づく。

「義勇さんも御用があったんですか?」

「そうだ」

 大体いつも他の柱との会話はここで終わる。

 ──しかし、彼女は違った。

「少しお腹がすいてしまって、このあたりで美味しいお店はないでしょうか?」

 そんな風に俺に声をかけてくる。

「……ついてこい」

 背を向けて歩き出す、お礼を言いながら後ろをついてきているらしい。

 

 小料理屋まで彼女を案内した。

 屋敷を出るあたりで狛治という彼女の同行者が合流してきたが、唯ならぬ気配であった理由は後の柱合会議で知ることとなるわけだが、この時の俺は思っても口には出さなかった。

「ではこれで」

 立ち去ろうとした俺をユリが羽織を掴んで引き留める。

「良ければ一緒に食べませんか?」

 

 小料理屋に共に入ってユリが話す他愛のない会話を聞きながら、どこか彼女は姉に似ているような気もするなと思っていた。

 それにユリは俺の言葉を待ってくれて、どうしても上手く言葉にならない時は助け船を出してくれる。話しやすい。

「先ほど」

「……」

「お館様が、ユリに叱られたと言っていた」

「そんな叱ったわけでは──」

 彼女は微笑みながら経緯を話してくれる。

「──なので、これからは今までとは違ったやり方で命を大事にしていきましょうと話しただけですよ」

 世間の鬼の数に比べて鬼殺隊において鬼と戦える人数は少ない。それというのも戦う才能のある隊員は強い鬼と戦う機会が増えていき、運が悪ければ……ということなのだが。

 命が救われるのは良い事だと、俺も思う。

 

 そうして話しを続けていき。いつの間にか鬼を、無惨を倒せたらという話しになっていた。

 俺には関係のない話だと思った。俺はここにいるべき者ではない。戦いに生きて戦いに死ぬと思っていたからだ。

 なぜか言葉にしていないのに、ユリはとても悲しそうな顔をした。まるで俺の心の声を聞いてしまったかの様子で。その表情に俺も普段感じたことのない心の揺らぎを感じた。

 

 鬼のいなくなった世界で、もし俺が生き残ったとしたら。そう考えるようになって、はじめて──添い遂げたい相手というのを意識したのだった。

 

 

●17

 

 胡蝶と分かれ、教団施設までやってくると深い霧のようなものでその場所は覆われていた。

「なんだこりゃあ」

 宇髄が横で声を上げる。それなりの高度にある場所だから霧が出ることもあるだろうとは思うが。それにしても教団施設だけを覆う霧というのは不自然極まりない。

「人の気配も鬼の気配も感じないが、まさかこの霧が?」

「注意して進もう」

 蝶が霧の中に入っていく、俺たちも後に続いた。

 千里眼でユリの姿を探すが、ここの霧のようなもやがかかってみえる。

 知覚を妨害するような力、監視者の行動を制限できるほどの何かという時点で無惨側にも協力者が現れたということだろう。

 

 視界が開けた。

 

 追いかけていたはずの蝶の姿もなく、狛治を抱えた宇髄の姿もない。

 教団施設の中庭で、俺が見つけたものは。

 

 12歳当時の俺と、出逢った頃の姿をしたユリだった。

「どういうことだ」

 2人が顔を見合わせる。

「──幻、ではないな。何のためにその姿をしている。本物のユリはどうした?」

 12歳の姿をした俺が、出逢った頃の姿をしたユリを庇うようにしてこちらを警戒した。

「煉獄杏寿郎、私たちは来るべき時までの代替として用意されました。あなたはその時まで監視者として姿を隠してください」

 ユリの姿をした者はそのように俺に声をかけてくる。杏寿郎は俺だと彼女の側にいる幼い頃の俺が声を上げているあたり意思疎通は出来ていないらしい。

「従わなければどうなる」

「あなたのユリさんが無事ではいられません」

「それは脅しか?」

「いいえ。お願いです。

 ここにはもうユリさんも鬼もいません。鬼殺隊の柱では、探しまわることも難しいでしょう?」

「探して見つかるようなところに、彼女がいるとも思えないが」

「……」

「俺が君たちに刀を向けないのは鬼ではないからという理由だけだ。わかっているな?」

 2人はこくりとうなづいてみせる。

 

 ○ ○ ○

 

 蝶の後を追っていたらいつの間にか煉獄とはぐれちまった。肩に担いでいた狛治が意識を取り戻す。

 いよいよ、ユリを見つけたかと思ったのも束の間。ずいぶんと幼い姿をした煉獄とユリを見つけた。

「おいおい、これまたどうした? 血鬼術か?」

 狛治が意識を取り戻したということは、このユリは本物なんだろうとも思うが。どうも違和感はある。

 煉獄の方も12歳ぐらいの容姿で、記憶もその頃に戻っているようだ。

 

 そうこうしていると、冨岡が胡蝶を抱きかかえて合流してきた。強い血の臭いが鼻につく。

「宇髄、胡蝶を頼む」

 そう言って胡蝶を俺に渡すと、冨岡は来た方角に戻っていこうとする。

「あまり深追いするなよ。もうすぐ警察隊も来るはずだ」

 こくりと冨岡がうなづくのを確認して、胡蝶の様子を見た。

「ひどくやられたな」

 ユリを呼んで胡蝶を見せると、手をかざして一瞬にして傷を治してみせる。

「おい、光の呼吸はどうした?」

「あ──」

「……気をつけろよ。

 とはいえ、煉獄の方は呼吸は未修得の状態になってしまったようなもんか。胡蝶、具合はどうだ?」

「私は大丈夫ですが、冨岡さんは?」

「俺が様子を見に行こう。胡蝶は2人を連れて一旦戻ってくれ」

「──わかりました」

 

 その後、教団施設には警察隊がやってきた。

 教団施設内ではどこからか火の手も上がり、万世極楽教は存続できなくなったと聞く。

 

 村の方では鬼が匿われている家があることを炭治郎たちが発見し、村人たちの目をかい潜り退治してまわったということだった。

 

 主催でもあった万世極楽教の口利きもなくなり、人々で賑わっていた祭りはたった1日で終わることになってしまった。

 

 

●18 エピローグ

 

 童磨からの詳細な報告を聞き、やはり協力者など不要かと思うようになった。

 

 あちら側の協力者の劣化版を用意し潜入させ、本物はこちらの手中にある。

 ……潜入とはいっても私の血を分けた者ではない為、思うように動かす事が出来ないのは腹立たしくはあるが。

 忌々しい鬼殺隊も本来の状態に戻ったのであれば、今まで通りにすれば良い。そうすればまた自然と奴らの数は減り、弱体化していく。

 

 協力者の一件が片付くまではと待たせていたが、玉壺と半天狗に改めて襲撃の命を出した。

 

 ○ ○ ○

 

 監視者になって世界の危機というものが、目に見えるようになり理解できるようになった。

 時空の歪みから現れた怪物を、刀で切り捨てて一息つく。

 

『だいぶ様になってきたじゃないか』

 思考の中に語りかけてくるのは、遠い場所にいる昔馴染みの管理人。

『ご紹介いただきどーも。わざわざ説明しなくてもわかるんじゃないかと思うけど?

 

 君の世界でも英雄と呼ばれてもおかしくないような人物がいたのは運が良かったね。継国縁壱という人物は正に剣豪。君との相性も悪くないみたいだし』

 

 変身能力は極力使わないようにしている。ただ世界の記憶の中で、日の呼吸の使い手を見つけた時は少しだけ体躯や所作を重ねさせてもらった。

 そうして身に付けたのが、透き通る世界という能力だったわけだが。それとこの歳になって背が伸びたのも先の影響かもしれない。

 管理人はユリの姿を見つけることは出来ないのか?

 

『うーん。やろうと思えば出来るかもしれないけど、ボクがそこまで出しゃばるべきではないと判断するね』

 ──薄情だな。

 

『ふん。

 なんとでも言ってくれたまえ、学園を卒業したからには自由であるのと同時に独立した存在にならなければならないのだから。こうして君との通話をしてあげてるだけでも大サービスなんだぜ。

 

 そもそもボクは人ってやつを完全に信じちゃいない。ユリちゃんにも口が酸っぱくなるほど言った。

 けれど彼女は君を愛していたし、長く人と関わるように世界を旅してきたわけだからボクとは違う考えでいるのかもしれないけど。

 今更ユリちゃんが君に愛想を尽かしたと言い出してもボクは驚かないな』

 なぜそんなに人を悪く言うんだ?

 

『いい人たちばかりなら、そもそもボクはここにいないってことだよ。

 君の世界にも昔、ボクやユリちゃん以外の存在がいたことがあるかなって調べてもみたんだ。

 何人かいたみたいだけど、その内の1人はある国のために戦って最後は魔女として火あぶりになってる。

 人ってやつは自分とは違った存在を受け入れられないものさ。特にボクらみたいな特殊な存在は、簡単に悪というレッテルを貼って遠ざけたりひどい時は命までも奪おうとする。たまったものじゃないね。

 

 ──こうして君に関わる理由の内のひとつを話しておこうか。ボクはね永遠に続く想いってやつが見られるかなと思って君とのチャンネルを残しているんだよ。学園での君たちも、その世界の守護者との戦いも2人で乗り越えてきたよね。とても立派だ。

 

 そうして更に続く2人の物語はどうやって進んでいくのか。ボクの立場から見ればユリちゃんの行動と判断はなんとなく予想も出来るんだよ。なにせ教えたのはボクなわけだし』

 わかっているなら教えてくれればいいじゃないか。

 

『わかってないなぁ。ボクらはボクら、君は君。しかも君は監視者なんだぜ? 最も関わっちゃいけない相手に手の内を見せるわけないじゃないか』

 

 暗闇からこちらを見つめる視線に気付く。

 視線を向けると白い猫がニャアと鳴いて、こちらにゆっくりと近づいてきていた。

 

『おやおや、可愛い猫ちゃんじゃないか。

 えぇと確か液体になれるんだっけ?』

 なんだそれは?

 

「こんな何もないところで、どうした?」

 しゃがんでおいでと呼ぶと近寄ってくる。

 

「随分、君は人懐っこい」

 抱き上げて顔を覗き込むと、その白猫はユリと同じ瞳の色をしていた。

 

 

 旅する物語 白百合異聞 一夜草編 終幕




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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