【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


策動編 刀鍛冶の里編あたり
25策動編1〜5


●1 プロローグ

 

「はいはい。また何かあったら声をかけてくれたまえ──」

 こちらからの音声をきって画面の様子を見守る。

 

 ここはボクの仕事場。今は十数人程度の分身たちと一緒に学園と、ほんの少し興味のある外の世界を大小様々な窓から見える景色として観察していた。

 

 あくまで管理する立場なのでね。

 大体のことはわかるし、対処することがボクのお仕事。もちろん仕事の範囲は学園に限定されるわけだけど、学園は普段特別なトラブルもないし……正直、暇なんだな。

 

 先ほどまで監視者となった杏寿郎と話しをしていたわけだけども、なかなか苦労しているみたいじゃないか。特にユリちゃんの杏寿郎を放置して勝手に行動するところは評価したい。だって一から十まで説明したとしても、彼は反対するだろうからね。

 

 彼を巻き込まず事を成してしまった方が楽だろうとボクは思うわけだが。

 画面の中の姿を黙って見守り続けた。

 

 ○ ○ ○

 

 白猫は俺の腕の中に収まり、じーとこちらを見ている。

 甘露寺から猫は視線を合わせると喧嘩を売られていると思うらしいと聞いていたので、今はそれとなく視線は外しているのだが。白猫は特に暴れることもなく、時折鼻をひくつかせることはあっても黙ってこちらを見ているだけなのであった。

 

 特に急用が入る様子もないので座って猫の身体を撫でる。お腹がぽっこりしているのは、この猫は子を宿しているからだろうか。

「いずれ君も母猫になるのかな? 俺にも将来を誓い合った愛する妻がいるのだが──逃げられてしまった」

 白猫が驚いた顔をしている。

「俺はどんな時でも側にいたいと思っていたんだが、彼女は違ったようでな」

 うにゃうにゃと腕の中で猫は何かを言っているが、猫の言葉を理解できるわけもなく。

 

 にしても本当に、この白猫は普通の猫とはとても思えなかった。

 仮に、この白猫がユリなのだとして。千里眼を逃れる方法が姿をかえることなのか……。

「そうか、ユニゾンしよう」

「にゃに!?」

 何!? という勢いで猫が声を発した。

 やり方はもう完全に思い出している。あの世界の時と違うのはユリが人間寄りということぐらいだろう。

 表舞台の煉獄杏寿郎が血鬼術で若返っているという流れになっている今。監視者として単独行動するよりユリと同化して暗躍した方が何かと都合が良い。

 腕の中の白猫がただの猫なら失敗するだろう。もし猫に姿をかえたユリなら何か変化があるはずだ。

 やってみる価値はある。

 

 頭を近づけようとしたが、白猫は両腕でつっぱって逃れようとしている。ここまできても爪を立てないあたりとても彼女らしいと思う。力比べなら俺が負けることもなく、ごつと額を合わせると呼吸を合わせていった。

 

 

●2

 

 柱に就任したことで、お館様からひとつ屋敷を支給されていたが普段ユリは杏寿郎と生活を共にしていた為に使う予定もないところだった。

 万世極楽教が解散になってしまったことで、預かるあてのない子供たちと世話係の大人が数人この屋敷で生活することになったわけだが。

「あの、狛治さ──」

「普段通り、呼び捨てで構いません」

 ユリに言葉を返す。施設から普段使い用の荷物を運んでくるのを手伝っていた。

 預かるあてのない子供たちというのも、わずかながらも能力を発現している者もいるので野放しには出来ないということのようだが、特に不満がる様子もなく今までとは違う生活を楽しみにしてくれているらしい。

 世話係の大人たちは万世極楽教に依存していなかった者たちが選ばれていると聞く。ユリと大人たちが今後の生活について方針を話している姿を見守った。

 

 血鬼術により若返ってしまったユリと杏寿郎は、特に杏寿郎は鬼殺隊の任務を遂行できなくなってしまった。なにしろ鬼殺隊に入隊する前まで戻ってしまっているのだから。

 ユリの方は俺がついている為、普段ほどではないが重傷者のいる現場に出向いている。

 

 休みの日は、屋敷近くの寺の手伝いをすることもあった。

「俺が勝手にやっていることなので、あなたは休んでいてください」

「いえ、私も手伝いたいので」

「……」

 2人で手伝いをしていると、岩柱と継子が寺を訪れている姿を遠目で見かける。向こうもこちらに気付いてお辞儀をしているので、ユリに声をかけ挨拶することにした。

「手伝いをしているという話しは聞いていたので、いつかはこうして会うのではないかと思っていた。

 良い機会だ。玄弥、少し狛治に相手になってもらうといい」

 玄弥と呼ばれた継子が、立ち上がりこちらに向かって頭を下げる。ユリと岩柱が会話をしている前で手合わせをすることになった。

 

 岩柱の掛け声と共に間合いをつめて目を潰せる状態になる。流石に目潰しはまずいと判断し指先で額をはじき、流れる動作で足払いをした。

 

 何度か同じような動きを繰り返し、岩柱が終わりを告げると先ほどと同じように玄弥は頭を下げ岩柱の横に戻る。

「良い経験になったようだ。ありがとう。

 ──以前使っていた力も使えるものなのか?」

 以前というのは鬼であった頃というのを指すのだろう。試したことはなかったが、おそらく出来ると俺はこたえた。破壊殺という術式を展開するものなのだが、破壊殺という言葉が今の俺に合っていないように感じるとユリから言われていたことがあると話した。

「ふむ。技の名前が合っていない。か──」

 岩柱がしばし考えこみ。いくつか仏教に関係する言葉を教えてもらった。その中で、

「あとは往相回向(おうそうえこう)という言葉がある。自分の行じた善行功徳をもって他の人に及ぼし、自分と他人とを一緒に弥陀の浄土に往生できるよう願うことなのだが。この言葉ならどうだろうか?」

 側を歩いていた白猫がにゃあと鳴く。

「素敵な言葉ですね」

 ユリも悪くないと思ってくれたようだ。

「ありがとうございます」

「いや、少しでも力になれたのなら良かった」

 微笑んで立ち上がると手を合わせながら短く経を唱える。

「──次の機会には、私とも手合わせをお願いしたい」

「はい」

 2人で岩柱たちを見送った。

 

 ○ ○ ○

 

「これちちうえじゃない?」

「ちちうえ?」

「だってひーにそっくりよ?」

「どのあたりが?」

「かおが。かみのけとか」

「あっ、おとこのときのふーににてるかも!」

 

 まだ小さな子供が、横になっている俺を覗き込んで会話をしているようだ。

 

 目を開くと2人の気配が消え、遠くから囁くような声が聞こえた。

「おきた?」

「どうしよう。ははうえからはしらないひととおはなししちゃいけないっていわれてるし」

「ちちうえならしらないひとじゃないぞ?」

「でもあったことがないなら、しらないひとじゃない?」

「それもそうか」

 静かになる。

 起き上がって周囲を見回すと、俺は実家の庭に倒れていたようだった。実家に戻った記憶もないし……ユリの内面世界に入ったのではないかと思ったのだが。これはユニゾン成功と判断していいものだろうか? ひとまず白猫の姿もユリの姿も確認できない。

 

「なにかかんがえてる?」

「しー!!」

 

 声のした方の茂みに、飛び上がって一足飛びに近づき頭を突っ込むと、5歳ぐらいの男児女児が身を寄せ合っている。

 

「「きゃーーー!!!」」

 

 悲鳴を上げると、2人の姿が目の前から消えた。

 

 

●3

 

「つかまったー」

「つかまっちゃったねー」

 2人を小脇にかかえて、自室に移動中である。

「ちちうえ、あしはやいな」

「かくれてもすぐみつけちゃうし」

 すごいと言ってもらえて悪い気はしない。

「君たちもだいぶ足が早かったし、隠れるのも上手だったじゃないか」

 気配を消すことまでされていたら、流石にこうして2人を捕まえることなど出来なかったかもしれない。

 部屋について2人を解放した。特に言いもしないのに座布団を持ってきてくれる。

「ありがとう」

 持ってきてくれた座布団に座って、向かい合うようにして座っている2人に目を向けた。2人とも道着袴姿で、容姿は俺とユリにそれぞれよく似ている。

「それで、君たちは?」

「おれはひー。こっちはふー」

 俺と似た容姿をしている方がひーという名前で、ユリと似た容姿をしている方がふーというらしい。

「ひーとふー?」

「ちゃんとしたなまえは、うまれてからとははうえからきいてます」

 そういえばユリの世界では名前は数字だったか。ということは彼らの名前もひとつふたつからとっているのかもしれない。

「あなたはちちうえですか?」

 じーと2人がこちらを覗き込む。

「あぁ、君たちの言う母上がユリだというなら俺が君たちの父親で間違いないだろう」

「「わー!!!」」

 2人が抱きついてきた。

「ちちうえ? ほんものだー!」

「すごいー!」

 ぺたぺたと身体や顔を触ってくる。嬉しそうにしているのでしばらく身を任せてると。ふーがいくら父上でもこんなに触るのは失礼だと言い出してやめてくれた。

「ちちうえいやだったですか?」

「いや、いいんだ。嫌なら嫌だと言うさ」

 ひーがほっとした表情をする。

「それでここは?」

「うまれてからのれんしゅうように、ははうえがつくってくれたの」

「うまれてすぐはあかちゃんだからわすれちゃうかもっていってた」

「おなかのなかでそとのおとをきいてるのもいいけど、ここはおはなしやかけっこができるからたのしい」

「それは良かったな」

 2人の頭を撫でると、ふたりとも嬉しそうに笑ってくれた。

「ちちうえはなんでここにきたの?」

「ははうえからはうまれるまで、ちちうえにはあえないだろうっていってたよ?」

「俺もよくはわからないんだが、ユリと一緒に行動しようとした結果ここに来ていたのだが」

 うーんと3人で考えても答えがわかるはずもなく。

「母上とはいつ会える?」

「ははうえはいつもねるまえにきてくれるよ」

「ひるにもたまにきてくれるけど」

「そうか」

 今更焦ることもないかと思い一息ついて。

「ちちうえまだいてくれるの?」

「あそぶ? またあそぶ?」

 2人が期待した瞳でこちらを見るので、父親としてその期待にこたえるかと微笑みを返した。

 

 ○ ○ ○

 

 煉獄家の中庭。

 狛治が洗濯物を干している。

 

 はい。こちらは特に問題ありません。ユリも多少の違和感は感じさせますが、そこは若返ってしまったゆえと思われていることが多いです。

 庭を訪れていた白猫がにゃあと声を上げた。

 

 ……しっぽが以前会った時と違いますね。

 杏寿郎の髪の色のように先端が黄色と赤に染まり、そこだけ毛並みが変わっていた。

 

 ──なるほど、杏寿郎が。

 別行動しているよりは安全かと思いますが。

 猫が顔をしかめている。

 

 そういう問題でもないですか? なんにせよ杏寿郎とはもう少し時間をかけて対話された方が良いように俺は思いますよ。

 

 ユリが部屋から出てくる。ちょうど洗濯物も干し終えたところだ。

 

「狛治さん。ありがとうございました」

 と言いながら千寿郎も庭にちょうどやってきた。

「干すのは終わりました。少し出かけてきます」

 洗濯物を入れていた籠を手渡す。

「はい。お気をつけて」

 俺は白猫を抱きかかえたユリを抱き上げると、屋敷を後にした。

 

 

●4

 

 引退された父上が、兄上が炎柱としての責務を果たせない間だけ復帰することになった。

 

 異例のことだったが兄上が若返ってしまった時期と重なるように、鬼による被害報告が増えているため仕方なしということで。

 炎柱としての羽織はもう兄上のものだからと、父上はただ白い羽織をはおって度々任務へ出向いていく。

「いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃいませ!!!」

 2人で並んで父を見送る。父上は何か言いたげに視線を彷徨わせたが、いつものように夜は藤の花の香を焚いて過ごすようにと言って出かけられた。

 

「にしても、本当に千寿郎は大きくなったな!」

 同じ目線の兄上にそんなことを言われ、思わず微笑みを返す。ついこの間までこんなに小さかったのにと兄上は言葉を続けている。

 

 ──兄上の言動は普段通りの兄上だった。

 あくまで容姿に沿った、あの頃のという言い方が正しいが。

 

 まるで同い年の友人と共にいるような感じさえする。

 

 それから、こうして会話をしている時の兄上はさほど違和感を感じないものの、たとえば姉上といる時や兄上1人でいるところを見かけた時に何か心にぽっかりと穴があいてしまったような物悲しい表情を浮かべていることがあってそれがとても心配だった。

 

「どうした!?」

「いえ、なんでもありません。兄上はこれからどうされますか?」

 やはり鍛錬かなと張り切った声を上げている。

 この状態で鍛錬をして意味があるのかどうかわからなかったが、身体を動かしていた方が落ち着くというのも兄らしいと思った。

 

 ○ ○ ○

 

 狛治に移動を頼んだので、眠るように内側に意識を向けた。

 

 猫の姿から人型に──。

 精神世界では姿をかえることはさほどの難しさはない。現実世界で猫でいることを忘れないように耳としっぽはそのままにした。

 

 彼の実家をイメージした場所から子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

「ちちうえまてー!」

「まてー!」

 杏寿郎がこちらに向かって走ってきていた。

「!?」

 ぐるりと私の後ろに回り込み。

「あ、ははうえ!」

「おかえりなさい!」

 ふたりは走ってきた勢いのまま抱きついてきたので、倒れそうになるのを後ろから杏寿郎が支えてくれる。

「ちちうえがきてね!」

「たくさんあそんでもらった!」

 とても嬉しそうにしているので、私も微笑んでふたりを抱きしめた。

「そう。良かったね」

「ははうえはまだねこさんなの?」

 頭の上から生えてる猫の耳を見ながら言う。

「またねこになってくれる?」

「もふもふしたい!」

「もふもふ!」

「また後でね」

 そうかぁと少し考えこむ様子で、今度は私の後ろにいる杏寿郎に視線を向けた。

「ちちうえはいつまでいてくれる?」

「まだいてくれる?」

 後ろにいる杏寿郎の様子を窺い、しばらくこの状態が続きそうだと判断して。

「いてくれるから大丈夫よ」

 言いながらふたりの頭を撫でた。

「ならよかった〜。なんだか、ねむくなってきたから」

「おやすみなさい。ははうえ、ちちうえも」

 よしよしと身体をさすっていると2人共あくびをして両目を閉じ身体を丸くする。小さな赤ん坊の姿になって姿が見えなくなるまで見守った。

 

 

●5

 

 ユリの頭に猫耳が生えている。

 

 子供たちと話している時もかすかに動いていたので飾りというわけでもないようだ。人としての耳もあるようなのだが。

 ──まさかしっぽも?

 しっぽが生えていそうなところを撫でると、驚いた様子でユリが振り返る。

「な、なにをして」

 顔を赤くしているので、なお愛い気持ちが込み上げてきた。勢いのまま抱きしめる。

「!?」

「その猫耳は猫に化けているからか?」

「──そうだけど」

「まさか姿をかえて千里眼から逃れるとは、俺にはまだ知らぬことが多いようだ」

 ユリの猫耳が怯えたように向きをかえた。

「待て待て、俺は君を責めるつもりはないぞ。

 せっかく思考までも重ねているのに、なぜありのままを見ようとしない?

 生まれてくる前の子供たちと、こんな楽しいことをしているなら教えてもらいたかったが。君が教えないことを選ぶならそれでもいいさ」

 ユニゾンしている今、俺の心は昔のように透き通っていた。ユリが俺を好いていることがわかるだけで、こんなにも余裕が出来るものなのかと。

 それに大人になったことで以前は理解できなかったユリの内面に関することまでわかるようになったことが、とても嬉しい。知られたくないことを知るには、どうやら一工夫いるようで……。

 

「杏寿郎はユニゾンを間違った使い方してる」

 ぷいと不機嫌そうに顔を背けるので、

「確かに君が言う通りユニゾンはあくまで一時的に行う強化魔法で、長い時間行うものじゃないというのは俺も十分理解しているさ。

 しかし、俺たちは既に長い時をユニゾンしたまま過ごしたこともあるからお互い負担がかかることもなく簡単に情報交換できるし、今は俺が監視者となったことで、今は君も監視者の力を使えるようになっているだろう? それにここが内面世界なら、変に邪魔が入ることもないからな」

 ユリに笑いかける。

「いやいや、あのね? 前は杏寿郎が元の世界に帰る時に元通りになるっていう前提があったからユニゾンしたの。今はもうそんな、この一件が終わったら元通りになる。なんてことないでしょう?」

「よもや!」

「もー! そりゃ良い事もあるけど、上手く分離できなかったらどうするつもりで。

 ──はぁ。まぁでもユニゾンすれば一緒に行動できるのは事実だし。そこまで不安にさせたのは私の責任よね」

 よしよしとユリに頭を撫でられた。

 ──扱いが、子供と同じである。

 

「ユリ?」

 俺は君の夫だろう? 思えばユリの扱いはあの頃とほぼ変わらない。抱きしめている腕に力をこめる。

「にゃ!?」

「立ち話もなんだ。部屋に行こう」

「いやいやいや、私は今こう見えてとても集中しているのよ?」

「だろうな。こうして俺と君と個々を保てているのは、君の集中のおかげだな」

 わかっているぞと言葉を返す。

 

「「…………」」

 顔を見合わせて思考をよみあう。

 

 ひょいとユリの身体を抱き上げて、自室に向かって歩みを進めた。

「──え? だめだって、ちょっと!」

「ユリは何か勘違いしているところがあるようだから、こういう機会にでもちゃんとわかり合わないといけない」

「勘違いしてないし! 杏寿郎のわかり合うは話し合うとかじゃないし! わ、私はもう行くから!」

 離してと逃れようとするが、逃れられるはずもない。

「うにゃーーー!!!」

 部屋について、彼女を組み敷いて囁く。

「これから言う事ふたつのうち、どちらかひとつをしてくれるなら君を自由にしよう」

 以前から薄々感じてはいたある種のズレを確認しようと思い至る。

「?」

「──自分で着ている衣服を全て脱ぐ」

「……」

「もしくは、俺のことをどれだけ好きか口に出して言う」

 ユリは慌てて服を脱ぎ始める。

 ──うむ。やはりそうなのだ。

 きっと彼女らにとって肉体は俺たちほど意味を持たない。思考を曝け出す方が、ユリは恥ずかしいというわけだ。だから俺が以前、話してくれと詰め寄った時に逃げたな? そして慌てていたり何か別のことに集中している時も、周囲の思考をよむことが疎かになる。

「脱いだ!」

「よし、おいで」

 嬉しそうに俺の腕の中に収まるわけだが、これがまた危ういところだ。相手が俺だからと思いたいが……やはりしっぽが生えている。

「しっぽが──」

「そうなの。ユニゾンしたらここだけ毛色がかわってしまって。杏寿郎の毛先みたいでしょう?」

 おそろいねと俺の髪にしっぽを近づけて微笑む。ユリの下腹部は、いつものようにふっくらとはしていなかった。やはりここが精神世界であるからだろう。

「夏火と知り合って色々教えてもらっているといっても、まだまだ人の常識というのが身についてはいないな」

 声を低くして耳元で囁くと、ユリの身体はびくりとふるえた。

「猫の耳としっぽを生やして全裸でいるなんて、煽っていると思われても仕方ないことだぞ?」

「あおっている?」

 よくわかっていない様子のユリと唇を重ねて、思考を流し込む。

「さ、誘ってない! 誘ってないから!」

 口を離してわずかな隙間からそう訴えるが。

「もう遅い」

 言って再び唇を塞いだ。

 

【暗転】

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。

●メインはpixivで活動しています。
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