【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


26策動編6〜10

●6

 

 人の心をよむ能力、そんなものを得てしまって、私は何も信じられなくなってしまっていた。

 どんなに優しくしてくれる人でも、建前があって本音がある。そういうものに私はうんざりしていたのだ。

 

 彼の能力は知っていたから、あの時から童磨を彼と認識しているふりをして教団での生活を続けていた。

 私は言われるままに人の嘘を暴き、童磨のため教団のために尽くしてきた。

 

 巫女服姿の女性を攫ってきて、彼に置き換えを命じる。私もいつものようにその場に立ち会っていた。

 ──誰もがみな童磨の思惑から外れていないかどうか。

 

 そういえば、その場に立ち会っていた背広姿の男は私がはっきりと思考をよむことができないかわった人物だった。さっき食べた焼き魚が美味しかっただの、あの甘味屋にはまた行ってみようだの。誰と会話していても他愛のない思考しかよめないのだ。

 逆にこちらに視線を向けられている間は、こちらの思考をよまれている気さえする不気味な男だった。

 

 寝ている巫女に意識をむける。既に彼はこの女の思考の中を探っているはずだ。

 

 目眩がするのと同時に、急速に引き込まれる。

 

『──つかまえた』

 

 女性の声で囁くように、しかしはっきりと聞こえ。

 

「これはいけません!」

「えぇ、何がどうしたっていうんだい?」

 

 背広姿の男と童磨の声が遠くに聞こえた気がした。

 

 ○ ○ ○

 

 そこはとても綺麗なところだった。

 

 西洋の御伽噺で語られるような雰囲気のあるところで巫女服姿の女性がまだ幼い頃、炎のような色の髪の少年と共に過ごしている。

 

 この光景がキラキラと輝いてみえて、これがあの女性にとって大事な記憶であることはすぐにわかった。

 

 そして、いつものように教祖様とあの少年を置き換えてしまえばいいはずなのに──。

 2人の関係に強く惹かれてしまっていた。

 

 ぼくもあの少年のようにたったひとりを慕って、報われたい……笑い合うふたりの姿がとても羨ましかったのだ。

 

 不意に軽く肩を叩かれた。

 

 驚いて振り返る。

 ぼくの肩を叩いてにっこりと微笑んでいたのは、眠っているはずの本人だった。これは……おかしい……あまりに変だ。無意識領域に本人は1人のはず。あの少年と一緒にいるのは誰だというのか。

「あれは、君に見せるために用意したものだから」

「え?」

「こっちへおいで、少し話しをしましょう。大丈夫、ここには恐れるものは何もないから。

 彼女も既に来ているのよ」

「彼女?」

 

 言われるままに手を引かれ庭園の中を歩いていく、色とりどりの花が咲いた一面の花畑の中心に金属で囲われた小屋が建っている。

 そしてその小屋の中の小さな円卓を前に、人の思考をよむことの出来るあの彼女が先に座っていた。

 ぼくとここに連れてきてくれた女性も席に座る。

 

「はじめまして、私はユリ。会えて嬉しいわ。

 私はね、あなた達に会いに来たの」

 

 微笑むユリと名乗った女性と、隣にいる彼女の表情を交互に見てしまった。彼女が嘘だと言わないなら、今の発言はユリにとって本心なのだろう。

 

「──あなたは一体」

 

 

●7

 

 話は更に遡り、祭りの前夜にあった赤龍とユリの話。

 

 夜中に突然目を覚ましたと思ったら、教団施設に行くのに力を貸してほしいと言われ付き合った。

 どうやら大切な人の認識を、置き換えるように歪めてしまう能力を持った術者がそこにいるらしい。

 

 霊体化して姿を認識できないようにして教団施設内を色々見て回った。

 最終的に辿りついたのは教団に匿われている子供のいるところだった。そこにいる子供たちの思考……ユリがいうには彼らの物語を読み取っていったわけだが。

 ユリ曰く、子供の中にこれからしようとすることを助けてくれる人物がいるという。

 

 

 事を終えてユリの身体を抱き上げ、ふわりふわりと来た道を戻る。

「もう赤龍は──」

 十分に力も戻ったし、私から離れても良いのではないか? 言いかけた言葉を、ユリの唇に指先を向けて黙らせた。

『お主はすぐに孤立しようとするな──確かに力が戻るまでという契約であった。

 力が戻ってなお留まるのは、余の戯れだ』

「……うん」

『余を邪魔に思うか?』

「ううん。すごく助けてもらってる。ありがたいと思っているわ」

『ならば気にせず、そばに置いておけば良いであろう』

「いいの?」

『今のところ他に興味を持つようなこともないからな』

「ありがとう」

 安心したように微笑んだユリに言葉をかける。

『フッ、気まぐれにいなくなってしまうかもしれんぞ?』

「赤龍はそういうことしないもの」

 微笑むユリの顔をみて、遠い昔のことを不意に思い出した。

 

 

 君が自身を犠牲に他者を助けようとする姿はとても良かったよ。良いものを見せてもらったお礼に、この一件で使わずにすんだ力は君にあげよう。

 君が上手くその力を使いこなせたら、その命も失わずに済むかもしれない──。

 

 

 そうして余は、受け取った力をなんとか上手く使いこなすことが出来て今ここにいるのだった。

 

 

 恩人? よせやい。これはボクが勝手に、気まぐれにしたことさ。君の命を救ったのは君自身なのだから、ボクのことなど早く忘れてしまうといい。

 

 

 頭に手をかざされて、おそらくはそれでその時の出来事の印象を操作をされたか。

 こうして思い出してみると、その時に出逢った人物はユリと顔の造形がよく似ている。

 彼奴の方が余程世間慣れしていて狡猾な表情をしていた。

 

「?」

 ユリが不思議そうに余の顔を見ている。

『なんだ? 見惚れたか?』

「違います!」

『姿などいくらでもかえられる。お主があの小僧の姿を好むというなら』

 炎を纏い一瞬にして姿をかえてみせ。

『この姿でお主のそばにいてやっても良いぞ?』

「やめて」

「ユリは俺のことが好きだろう?」

 手をとって彼女の手の甲に唇をつける。

「ひぇ」

 顔を赤くして狼狽えていた。

『なんだ。明らかに偽者とわかっていてもその反応なら、今度は上手く入れ替わって余の相手をしてもらおうか』

「意識すればわかるんだから、やめて」

『意識させる余裕をなくせば良いのだろ?』

「むぅ。そんなことしたら、もう一緒にいないからね!」

『それは困るな』

 

 

 どうしてもボクに興味があるなら──追いかけておいで。

 いつか君の前に、ボクと似た容姿をした者が現れるだろう。

 

 

 ──その瞳に、どこか寂しさを感じたのは何故だったのか。

 

 

『ユリは余のことが好きだよな』

「そうね。好きか嫌いかでいうならね」

『余もお主が好きだぞ』

「……ありがとう」

 少し照れたように顔をほころばせて。

『──無理に人の真似事をしなくて良いのではないか?』

 それが余の考える寂しさの理由だったが。

「無理にしているわけではないのよ。ただ違いすぎることを意識してしまって、本当にこれでいいのかと思う事があるの。

 私たちはね。本当ならこんなにひとつの物語に関わらないから。昔 説明されたけど、その時はどうしてなのかまで理解できていなかった」

『今はわかったと?』

「うん。私たちはほんの一時だけ物語に関わって、良い方向に物語が続くようにする。

 それでね。結果は見届けたりしないの。だって私たちは物語としての結果を知っているし。

 でも物語に関わってしまうと、変化の様子がみえてくるから。良い方に、みんなが幸せになっているようにと行動しているはずなのに上手く出来ているのかそれがよくわからなくなってしまって──」

『やれやれ、それはお主にしかわからぬ悩みだな。だがこうして余と悩みを共有したことで助言をすることは出来るぞ』

「助言?」

『あぁ、お主がわからなくなって苦しく思うなら、思う事をやめてしまえばいい』

「そんな簡単に思う事をやめるなんて出来ないわ」

『そうだな。だから、この物語はお主のものだと思うのはどうだ?

 良い方にと思ってお主が行動するのはもちろん良いことだろう。しかし、それでどう物語が変化するかはそこまで気にしなければいい。

 ひとつの物語に関わり続けるということは、見守ることが出来るということだ。結末が変わるようなことが起こればお主にはわかるのだろう?

 そうしたらその時に、またどうすればいいかを考えれば良いのだ』

 彼奴と違って世界に留まろうとするユリは余程誠実で面倒見がいい。ユリは言葉を聞くと呆気にとられた表情をしてから最後にふと笑った。

「杏寿郎の姿と声で、そんな風に言われると不思議」

『む。姿を戻しておくべきだったか?』

「たとえ姿が違っても、赤龍ならわかるもの」

 そうは言っても、この姿でいた方がユリの具合が良いことは一目でわかる。

『お主がいなければ、余は人と関わろうとはしなかっただろう。間違いなくこの物語は、お主がいるからこそ紡がれる物語だ。だから好きなようにすればいい』

 よしよしとユリの頭を撫でて微笑みあった。

 

「赤龍!」

 暗闇に一閃。ユリが余の身体を抱きしめて転移する。

『やれやれ、逢引の邪魔をしに来たか。空気のよめぬ奴め』

 ユリが何か言おうとしたが、黙っているようにと指を向け。

「何が逢引だ。人の姿を真似た化け物が」

『化け物? 霊体化を簡単に見破れるようになったお前こそが化け物だろう。

 好いた女の悩みもそのままで何を言う』

 ユリがいないことに気付いた杏寿郎がやってきた。

『お前と戦ってもユリの力を使わせるだけだからな。本意ではないが見逃してやろう』

 術を解いて蜥蜴の姿になり、ユリの服の下に入り込む。

「!?」

 ユリの身体はゆるやかに落下、杏寿郎は慌てて抱きとめた。

 

 

●8

 

 刀鍛冶の里への道のりを走りながら、お館様との会話を思い出す伊黒。

 

 

 お館様の膝の上には白猫が丸くなっており、その猫を撫でながら言葉を口にした。

「刀鍛冶の里ひとつが、場所を鬼に特定されてしまったようでね」

 特別な任務があると呼び出されて聞いた内容は、予想もしないことだ。

「小芭内には3夜の間、その刀鍛冶の里に滞在してもらいたい」

「……3夜ですか?」

「そうだよ」

 特定されたというのも、期間が限られているというのも今までになかった。

 ──まるで予知でもしているような気がしてならなかったが。

「なぜ3夜なのでしょうか?」

「残念ながら、伝えられる情報には限りがあるんだ」

 口の前にひとつ指をたてて、お館様は静かに微笑まれた。

「小芭内の脚なら1夜目に間に合うだろう。隠たちに場所を聞きながら里を目指してほしい」

 

 現地で合流した柱や隊士には、俺が采配を振って構わないということだったが。

 煉獄や宇髄、竈門炭治郎でもいるようなら鬼の襲撃はあるかもしれないな。あいつらは無限列車の一件以降上弦との交戦が度々あると聞く。

 ……煉獄の妻も、確かユリといったか。彼女も上弦との交戦時に現地にいることが多いようだった。

 光の呼吸などと、鬼の首も斬れぬ呼吸にどれほどの意味があるのかとは思ったが。産屋敷邸で初めてユリが柱となった日に交わした言葉を思い出した。

 

 

 ユリとそれとなく会話が出来ればと思い声をかけはしたが、煉獄がついてきた。

「伊黒どうした! 俺の妻に何か相談事か!」

 とにかく声がでかい。ユリが慌てたように煉獄の口を手で塞いでいる。

 遠目で他の柱に気にされながらも、光の呼吸の効果について質問した。

 俺が聞きたかったのは、古傷も治すことが出来るのかということだったのだが。包帯で隠された口元に俺は消えない傷を負っている。もしその傷を治すことが出来れば、俺は自身の過去を忘れて生きることが出来るのではないかと思ったのだ。

「古傷は、残念ながら治せません。

 仮に、同じ場所に傷を負って治した場合に以前より目立たなくなるとかはあるかもしれませんが、伊黒さんは傷を追ったらどのぐらいの痕が残るかわかるでしょう?」

「あぁ、わかるな」

「私が傷を治そうとした時に、どれほど痕が残るかは周囲の人の影響を受けてしまうんです。私もここに──」

 ユリが服を手にして肌を見せようとしたが、隣の煉獄が彼女の腕を掴み。

「ユリ、女人が夫以外の男に肌を見せるべきではないぞ」

「あ。えと、このあたりに刀傷があるんですが。それは治そうとした時に近くにいた人の影響を受けたもので」

 服の上からこのあたりと指を指して話してくれた。

「そうか……」

「……すみません」

「いや、謝るならばこちらの方だろう」

 傷跡がなくなったとしても、俺の過去がなくなるわけではないし──。

「伊黒さんも、何かご自身に引目があるんでしょうか?」

 そんなことを急に言われ、思わず鋭い視線を向けてしまう。ユリは申し訳なさそうに言葉を続け。

「私は、杏寿郎に妻として選んでもらいましたが。

 まだまだ未熟で、これで本当に良かったのかと思う事がよくあって」

 煉獄に選ばれた女が、何を言うのか──。

 ふと視界に入っていた煉獄の表情がいつもと違うことに気付いた。今までに見たこともない様子で、まさにベタ惚れと顔にかかれている。慈しむような表情を浮かべ、ユリをじっと見ていたが彼女はまったく気付く様子がない。

 ユリの言葉は最初の内は皮肉かと思って聞いていたが、聞いてみると発想が俺と似ていた。

 人とは違う生い立ちであるがゆえに、自身が幸福にはなれないと思い、たとえ好意を持った相手にも距離をとってしまう。

「伊黒さんがその人を怖がらせてしまうのではないか、変に気をつかわせてしまうのではないかという気持ちは私もよくわかります。

 でも、伊黒さんがこの人と思った方なら大丈夫だと思いますよ」

 控え目にユリは微笑んだ。

「──参考にする」

 口元の包帯を直しながら小さく言葉を返し。

「それに2人だけが知ってる傷というのは、何か興奮するらしいので!」

 あっと思い出したようにユリがそう言うと、

「よも!? 昂るとは言った気がするが、興奮するとは言ってないぞ!」

 隣の煉獄が少し慌てたように声を上げた。

「? 同じ意味じゃない」

「受け取り方が違うだろう」

 ユリと煉獄が会話をしていると、

「何のお話しをされているんですか?」

 離席していた甘露寺が帰ってきて声をかけてきた。

「甘露寺」

「甘露寺さん! えぇと、鏑丸さんがご挨拶してくれるというので」

「まぁそうなの!?」

 ユリが手を差し伸べると、鏑丸がチラリと俺の方を向いてから彼女の方へ移っていく。

 鏑丸とユリが視線あわせて、ぽつりとユリが。

「──鏑丸さんは伊黒さんのことも甘露寺さんのことも大好きなのね」

「本当!? 嬉しいわ」

「あら、ユリさんは蛇も大丈夫なんですね」

 胡蝶もユリと甘露寺の会話に入ってきた。

「何か苦手なものあったりするんですか?」

「苦手なもの?」

「キャーってなったり、あわわわーってなったりするものよね。

 もしかしてユリさんには苦手なものがないのかしら? すごいわ! 素敵!」

 考え込むユリを甘露寺がキラキラした瞳で見つめ。

「ユリの苦手なものか、考えたこともなかったな!」

 何が苦手なのか明らかにしていた方が、いざという時に役に立つぞと煉獄が混ざってきてその日の会話はうやむやになって終わった。

 

 

●9

 

 遠い昔に彼女と出逢えたことは、間違いなく自分にとって幸運なことだったに違いない。

 

 鬼舞辻の支配を一時的に逃れ、どうしたらこの状態を維持できるのか──考えても考えてもこれという方法が思いつかず、いっそ日の光による自死をしてしまおうかと行動した時だった。

 

 半端な覚悟では己の死を受け入れることは出来ず、ほんの少し朝日を浴びただけで私は悲鳴を上げて日陰へと走り戻ってしまう。

 

 不老不死となったこの身体が、久しぶりに受けた苦痛だったからだろうか。かつての夫と子供を喰い殺してしまった私はまだ自分の身が可愛いのか。

 ──私は泣いた。身体を震わせて絶望した。

 いつまた鬼舞辻に意識を奪われてしまうかわからない、そんな恐怖を抱きながらそれでも生き続けなければならないなんて──。

 

 そんな時にぞわりと全身の毛が逆立つような、そんな気配を感じた。驚いてそちらを見ると、白い服を着た女性が憐むようにこちらを見ていたのだ。

 

 日の光で焼け爛れた皮膚はまだ癒えない。もしかしたら生き続ける限りこのままなのかもしれない。燻るような痛みを感じながら、目の前の女性がそれでも気になった。

 

『……あなたを助けましょうか?』

 

 そんな風に声をかけてくれた。

 鬼である私に。

 

 それから、彼女に肉体的にも精神的にも助けてもらうことになった。そしてなんとか鬼舞辻の支配を逃れる方法も知ることが出来た。

 

 共に生活していると、彼女はいくつもの世界を旅しているのだと教えてくれた。ある人を探しているのだと言っていたが、あれから無事に再会出来たのだろうか……。

 

 小さく息を吐いて書き物の手をとめた。そろそろ愈史郎が帰ってくる頃だろうか。外の様子を窺うと、なにやら騒がしい。

 

 

「なんだお前たちは! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ! 許可なき者はとっとと去れ!」

 きつい物言いで愈史郎が訪問者を追い返そうとしていた。

「愈史郎、そんな失礼な言い方をするものではありません」

 慌てて扉を開けて声をかける。そして愈史郎が追い返そうとしていた者達をみて私は息をのんだ。

「あぁ、まさかそんな」

 彼女は去り際に約束してくれたのだ。次に会った時にはまた協力してくれると。

 道着姿の青年からは鬼の気配をわずかに感じた。そして白い猫を抱いた、昔出逢った時より幼い姿をした彼女。

「可愛いらしい姿をしていますが、どうされたのですか?」

 言葉をかけて違和感を感じる。あの頃のような引き込まれる感覚がなかったからだ。

「にゃー」

 白猫が鳴いた。

「!?」

 あぁその瞳、まさかそんな──今は猫に姿をかえているなんて。白猫が私の腕の中に飛び込んできた。

「なんだ! 馴れ馴れしい猫め! 珠代様から離れろ!」

「おやめなさい!」

 白猫を追い払おうとした愈史郎に強い口調で言葉をかける。

「この方々は私の大事な客人です。そのつもりで案内してください」

「──も、申し訳ございません」

 

 ○ ○ ○

 

 ユリの内面世界。満足そうな表情をした杏寿郎がユリを背後から抱きしめている。

 

「君はこの珠代という鬼とも知り合いなのか」

 まだまだ俺の知らぬことは多いなと言葉を続け。

「鬼であればどんな理由であろうとも斬首というのが鬼殺隊においての常だったが、禰豆子や狛治が現れて変わっていくものだな」

 ユリの肩に顎をのせて。

「やりづらいか?」

 子供たちが時折ここで自由にさせていたり、俺がここにいたりすることでだいぶユリに負荷をかけているのかもしれない。あの頃と違って、ユリは外部とも関わらねばならない状況だから。

 実際、俺がいま彼女に話しかけていても言葉が返ってくることはなく。俺が思考を読み取って独り言を言っているようなものだ。

 考えているだけでもユリには伝わるだろうが。俺という個を維持するには言葉を発するのは良い方法だとユリも教えてくれる。

 

 人が見聞きしていることを知ることが出来るというのは、なんとも不思議な気分だ。まるで夢でもみているような。狛治ともユリは意識が繋がっているから、ここにいてもなんとなく気配は感じていた。

 そういえば、赤龍の意識もどこにあるのか。一方的に覗いているということもないだろうし、少し探してみるかと意識を集中させる。

『なんだお前は』

「なんだとはなんだ」

 また随分と声が遠い。どうやら別行動しているらしいが。

『またユリに無理を言って困らせてるようだな』

「そんなことはない!」

 心外だ。

『──じきに鬼の方にも動きがあるぞ。どうやらある刀鍛治の里を狙っているらしい。

 それから、狛治が鬼だった時の名はなんといったか』

「確か猗窩座といった」

『それが何事もなかったかのように復活しておったぞ』

「!?」

『鬼側にもユリのような協力者がおるようだからな。ユリも余も今は謀り事に忙しい。くれぐれも邪魔はしてくれるなよ』

 一方的に赤龍の声が聞こえなくなる。

 ユリの意識がこちらを向くのは眠る時だろうか? 色々聞きたいことが増えてしまった。

 

 

●10

 

 ユリを抱き上げて帰路を走る狛治。

 

「どうしてですか?」

「?」

 珠代という鬼と会った帰り道。抱き上げていた幼い頃のユリの姿をした少女がぽつりと言った。

 走りながら聞く話でもないような様子だったので、立ち止まる。

 白猫とは既に別行動をしていた。

「どうして、危険な役目を引き受けるなんて」

「俺の思考がよめるならわかっているのでは?」

「わかりますが、わかりません!

 ──贖罪のために今を生きることを決めたあなたはとても立派な方だと思います。人に誇れるような行いの出来るあなたは、もっと生きることを選んだっていいのに」

 彼女は珠代が人に戻る薬が出来た場合に、使いたいかという問いに不要とこたえたことも。どうやら気に入らないらしい。

「そうです! 気に入りません。

 なぜですか? なぜ──」

 俺の道着の胸倉を掴んで、彼女は必至に言葉を選んでいるようだった。

「……俺はきっとあなたを納得させるようなこたえを持っているわけではありません。俺は凶悪な鬼であった男です。それこそあなたがさっき言っていた──立派な人たちを死に追いやった罪に塗れている」

 戦いの末に命を奪った者たちの記憶が僅かによみがえると、一瞬自分の手が鮮血に染まったように見えて腕がわずかに震える。

「それに、聞いています。

 あなたが今まで不幸な境遇にいたことは。

 それで身の回りの世話をして、あなたを守るように戦う相手には、どうしても気を許してしまうものだと。

 ……考えてもみてください。俺がそのようにあなたに接するのも、あなたの役目があるからでしょう?」

「わかっています。私が引き受けなければ、あなたとこうして話しをすることすらなかったことも。ユリさんがいなければあなたは──」

「ユリはあなたですよ」

「──はい。

 私の言葉だから、あなたには届かないの?」

「無駄ですよ。他の誰かに説得を頼もうとしても。

 ユリは助けること、助けないことをしっかり決めている。助けを求める声が彼女に届いた時だけ必ず助けることにしているそうです。

 俺は贖罪のために今ここにいて、贖罪は無惨を倒したら続けることの出来ないことだ」

「いずれ死ぬために生きるということですか?」

「多かれ少なかれ、人はそうでしょう。

 いつかは誰もが死ぬ。

 その生きる時間が長いか短いか、どのように生きるかは人それぞれなのだから。

 ──ユリや杏寿郎が、どれほど長い間生き続けるのか俺は知りませんが」

「……」

「あなたが俺という存在を認めて、失われることを悔いてくれることは──なんというか。

 良いことだと思いますが、俺には勿体ないことだ」

 俺のことは路傍の石だとでも思ってくれればいいのにと思った。心のよめる彼女にはその思いも伝わっているのだろう。

 彼女の目に涙が溢れるが、俺にはどうすることも出来ない。昔から泣いてる相手の扱いには困っていたな……。

 俺は彼女を抱き上げたまま帰路を走った。

 

 ○ ○ ○

 

 刀鍛冶の里についた伊黒。

 

「あ、伊黒さん!」

 里について早々に白猫を抱いた甘露寺と遭遇した。

 彼女も襲撃に関する指令を受けているのかと思ったがそうでもないらしい。

 しかし、彼女の腕の中にいる白猫にはどこか見覚えがある。

「甘露寺、その猫は?」

「この猫ちゃんはね。私が刀の調整で里に来たのは先ほどお話しした通りなのだけど、最終調整段階の刀が置いてある部屋に、どこからかこの猫ちゃんが入り込んでしまって、今日帰れなくなってしまったの」

 ころころと表情をかえながら甘露寺は俺に事情を教えてくれた。

「明後日の夜には間に合うだろうってことだけれど、任務が入らないようならその次の日に帰ろうかしら」

 せっかく……だものと言葉を続けていたが、後半は声が小さくてよく聞き取れず。

 

「蛇柱様、恋柱様お部屋の準備が整いましたので。

 どうぞご案内いたします」

 里の者に案内されて通された部屋は、なぜか甘露寺と同室だったりして慌てて別室を用意させたりしたが。

 

 部屋が用意できたというので、俺がそちらに向かうことにする。元々最初に案内されたこの部屋は甘露寺が使っていたものだったそうだ。

「甘露寺」

「何かしら!?」

 部屋を出る前に彼女に声をかけると大きな声で返事がかえってきた。

「──後で話しがある。少し時間を作ってもらえるだろうか?」

 襲撃が予想され迎撃するという任務は、彼女にも伝えておいた方がいいだろう。

「えっ!? お話し!?

 それって、もしかして……大事なお話しだったりするのかしら──」

「あぁ、大事な話しだ」

 人命が関わるからな。

「そ!?」

「そ?」

「ななな、なんでもないわ! 大事なお話しなのね! わかったわ」

 甘露寺の顔がやたらと赤くなっている。

「甘露寺? 体調が優れないようであれば、明日でも構わない。無理はするなよ」

「全然! 元気よ! すごく元気!」

 腕を振って元気そうにしているので、大丈夫かとは思ったが心配しつつ部屋を後にした。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

空き時間を新しい話を書くのに集中しすぎて更新を忘れました。

●メインはpixivで活動しています。
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