無限列車編のその先に。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●16
カラコロカラコロと下駄をならして歩く。
「ちょっとのんびり長湯しすぎたな。明日も早朝から作業だってのに……」
ん? と、向かう先の道の真ん中に置かれた壺に気付いた。誰かがうっかり忘れていったにしては大きいし、価値がありそうな趣きがあるように見える。
「危ねぇなあ。誰だこんなところに──」
こんなところに置いてあったら、きっと誰かが足を引っ掛けて怪我をしてしまうだろう。
近づいて壺に手をのばそうとした。
「にゃーん」
「うん?」
猫の声がした。のばしていた手を引っ込める。少し離れた場所に白い猫がいた。しっぽの毛先だけまるで炎のような黄色と赤の色がついたかわった猫だ。
「にゃーん」
まるで俺に声をかけるようにその猫がなくので、壺のことなどつい忘れて猫の方に近づく。
「どうした? お前は野良か? 俺に話しかけてくれてるみたいだが、猫の言葉はわからんぞ」
しゃがんで猫の様子を窺う。なかなかの美猫だな。もし野良なら家で飼ってやってもいいかもしれないと思うぐらいの。
そんな白猫の瞳に俺の姿と、背後から近づく不気味な腕が映っていた。驚いて振り返ると壺から伸びた腕が俺に近づいてきていたのだ。
「ヒィィィ!!」
尻餅をついて逃れようとする。
「壺よりも猫を選ぶとは、なかなか趣味が良い!」
「は?」
後ろからよく通る男の声がした。背後には白猫しかいなかったはずだが──。
炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天
背後から現れたその人は、炎を思わせる羽織を肩にかけていた。円を描くように刀を下から上に振り上げて、薄暗い森の中に見事な炎が浮かび上がる。
その一撃は壺から伸びていた腕と、壺そのものを的確に捉えていた。パンと壺が粉々に砕け散る。
刀をおさめるとこちらを向いて耳をおさえるよう声をかけられた。
そして大きく息を吸い込むような様子で胸を厚くすると、
「敵襲ぅーーー!!!」
大声で叫んでいた。
耳をおさえてはいたが、あまりの大声だったので耳の奥が痛い。
「怪我はないだろうか? 無事なのであれば早く戻って里の仲間を連れて逃げなさい」
尻餅をついた俺に手を差し出して立ち上がらせてくれる。
先ほどの呼吸といい、この容姿といい間違いない。
「ありがとうございます。炎柱様」
深々と頭を下げてお礼を言う。
「今は少しでも時間が惜しい。礼を言ってもらえるのは嬉しいが。急ぐといい」
「はい!」
炎柱様に背を向けて走り出す。あの白猫も既に逃げ出したのだろうか? 振り返ってみても既に姿はそこになく。そういえばしっぽの色合いは先ほどの炎柱様の髪色と似ていたな──。
○ ○ ○
木の上で伊黒は1人静かに耳をすませている。
「──杏寿郎?」
聞き間違いでなければ確かに聞こえた。
「鏑丸、やはり今宵がその時らしい」
深く集中し里の気配を探る。
浴衣姿の甘露寺が1人で部屋にいたところ。
「師範!?」
『煉獄さんの声が聞こえたわ。敵襲って間違いなくそう言ってた!』
慌てて身支度を整える。
『いつもは鬼がいる場所に出向いて戦うことはしてきたけど、こんな風に襲撃されるなんて初めて──』
窓を開けて耳をすませると、遠く人の悲鳴が聞こえた。
「私、頑張るわ!」
履き物を手に近くの木へ跳躍する。
時透が炭治郎の部屋を訪れて会話をしていると、炎柱の声が聞こえた。
2人で顔を見合わせて周囲を警戒する──。
●17
その化け物は、突然現れた。
出現と同時に天井を破壊、金魚のような胴体に屈強な人間の手足が生えており大きな壺をいくつか背負っている。見たことも聞いたこともない化け物だった。
刀鍛冶の里の長の警備なんて、楽なものだと前任からは聞いていたのに──。
恋柱様から襲撃があるかもしれないという話は聞いていたけれど、それがまさか今夜とは。
刀先が震える。
初撃不意にくらった打ち身が痛んだ。骨が内臓を傷つけているかもしれない。とにかく痛い。
呼吸、呼吸を整えなければ──。
警備についていた隊士は俺を含めて3人いた。
1人は既に一撃をあてようとして返り討ちにあって壁に身体を叩きつけられ意識を失っている。
そしてもう1人は、いまその化け物に胴を掴まれて振り回されていた。
俺が動かねば、ここにいる誰もがこの化け物に殺されてしまう。
「時間を稼ぎますから──今の内に逃げて」
俺の後ろには長と、お付きの者が5人。共に戦ったとしても戦力にはならない。ならばせめて時間を稼がなくては──。
雄叫びを上げて刀を振り上げ化け物に立ち向かった。
急に息が詰まる。
何が起きた? 隊服の後ろを強く引かれて後ろに投げ飛ばされたとわかった時は、地面に叩きつけられる直前で咄嗟に受け身をとっていた。投げ飛ばした相手を顔を上げて確認する。視界に入ったのは白と黒の縞模様の羽織──。
「何が時間を稼ぐだ。自身の力量も相手の強さも判断できない。お前のような者を無能というのだ」
「蛇柱様!」
蛇の呼吸 壱ノ型 委蛇斬り
蛇柱様を中心に巨大な蛇が円を描く。隊士の胴を掴んで振り回していた化け物の腕が切り離された。
「どうした無能。考えることをやめたのか?
何もせずに地面に伏していることが、お前の任務か?」
化け物から距離をとった蛇柱様が俺に声をかける。
「俺も戦います!」
立ち上がり再び刀を構えると、蛇柱様は羽織の袖で包帯に覆われている口元を隠した。その動作の意味するところは──。
「お前は何もわかってない」
蛇柱様が目を細めている。笑っているのだ。おそらくは俺の判断が間違っているとそういうことなのだろう。
「考えろ考えろ。思考をやめるのなら今度はお前を愚か者と呼んでやる」
腕を斬られて腕を修復させていた化け物が再びその巨軀を揺らして近づいてくる。大きなため息と共に、蛇柱様が俺の前に立って刀を構えてくれた。
「──お前の任務は、長を守ることだろう?
ならばこの場所での役目は終えた。
俺がこの場に来たのだからな。
お前はそこに倒れている隊士どもを叩き起こして長らと共に物見櫓のあった場所へ迎え、そこにお前らの好きな光柱がいるぞ」
光柱様、噂は耳にしている。なんでも身体の不調を治す呼吸が使えるらしい。
「早く行け!」
俺は倒れていた隊士の1人を担いだ。長の付き人が協力してくれて、もう1人の隊士も一緒に移動を開始する。
化け物がこちらを威嚇していた。
「お前の相手は俺だ」
蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙
化け物の後ろに獲物を狙うような笑みを浮かべた大蛇が現れ、鋭い牙が化け物を襲う。
○ ○ ○
刀鍛冶の里の人々を金魚の化け物が襲っていた。
「させないわ!」
飛び回るように化け物が背負っている壺を斬り割っていく。首を斬ってもすぐ元通りだったから、何が他に弱点があると思ったけど。背中のド派手な壺を攻撃すれば倒せることがわかって良かったわ。
「恋柱様! ありがとうございます!」
「みんな無事かしら!? 歩ける人は歩けない人を助けてあげて! 物見櫓のところまで頑張って!」
「はい!」
声援を送ってくれる人たちに言葉を返すと、歓声が上がる。
襲撃はやはり突然だったけれど、準備をしていたからそこまでの被害にはなっていないみたい。良かったわ。
今度は山の上の方にある宿舎の屋根が吹き飛んだ。吹き飛ばされるように飛んでいく人の姿が見える。
「一瞬だったけれど、もしかして無一郎君?」
飛ばされた方へ向かおうとすると、近づいてくる人の気配に気付いた。
「恋柱様!」
傷だらけになりながら近づいてくるのは里の長を警備していた隊士と、
「鉄珍様!」
ふらふらと歩いてきた身体を抱きとめる。
「大丈夫ですか!?」
「うぅ……若くて可愛い娘に抱きしめられて何だかんだで幸せ……」
「やだもう! 鉄珍様ったら!」
鉄珍様たちと合流して、物見櫓のところまで案内した。
道中、鉄珍様のところに伊黒さんが助けに来てくれたという話を聞いて。流石だわ伊黒さん! と、1人胸をときめかせる。
「ユリさん!」
地面に両手をついて目を閉じているユリさんの姿を見つけ声をかけた。一体何をしているのかしら? 声をかけない方が良かったかしら?
それにしても、もう姿のかわる血鬼術は解けたみたいで良かった。
周囲には沢山の人々が逃げてきており、誰もが皆所々傷を負ったり痛みを堪えるような表情をしている。
あたりの様子を気にしていると、ズシンズシンと大きな足音が近づいてきた。
もしかして新手!?
慌てて刀を抜こうとしたけれど、
「恋柱様、あれは光柱様が呼び出したもので──」
「あら!? そうなの!?」
人の身長より倍の背丈の土で出来た人型は、大事そうに両手で怪我人を連れて来てくれたようだった。
「倒壊した家の下敷きになった者を、助けてくれたんです」
凄いわ! 一体どういうことをしたのか今度教えて貰わないと!
ユリさんが立ち上がり、こちらを向いて微笑んでくれる。私は声の届くところまで駆け寄った。
「ユリさん、鉄珍様に来ていただいたのだけれど──」
こんなに沢山の傷ついた人々を見るのは久しぶりのことだ。いくら傷を癒せる呼吸を使えるユリさんでもきっとすごく難しいことなのではないかと私は思っていた。
「皆さん怪我をされているんですね。
隊士の方々も、よく頑張りましたね」
よしよしと頭を撫でられて顔を赤くしている。羨ましいわ。私もと思っていたら、ユリさんは私の頭も撫でてくれて労ってくれた。恥ずかしい! けれど嬉しいわ!
「ちょうど治療が必要な人たちに集まってもらっていたんです。今からはじめましょうか」
はじめるって何をと言いかけると、少し離れていてくださいねと声がかかった。
一体何をするのかしら?
ユリさんが懐から短刀を取り出した。白く輝く刀身に煉獄さんを思わせる赤い波紋がうっすらと浮かんでいる。神楽のような動作でユリさんが舞い、
光の呼吸 弍ノ型 天気雨
空から光りの雨が降り注ぐ、はじめの内は集まった人々はざわめいていたが、すぐにその声は大きな歓声にかわる。
私の身体についた細かな傷も、その光りの雨は癒してくれた。ううん。それだけじゃないわ。どこからか力が湧いてくる。私もっともっと頑張れる気がする!
「ユリさん! やっぱりユリさんの呼吸はとっても素敵! 私も頑張ってくるから!」
みんなにも応援されて私は再び駆け出した。
●18
──あれ? 私、あれからどうなったんだっけ?
身体が痛い。すごく熱くもあるのに、なんだろう寒気も感じる。
伊黒さんが私を呼びながら駆け寄ってきてくれて、抱き起こしてくれた。伊黒さんの身体あたたかいわ。
どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?
私、私はそう。ユリさんのいるところから一番激しい戦闘をしているところを目指して走って、伊黒さんと炭治郎くんが戦っている場所に着いて。
戦っていた鬼は私の弟と同じぐらいの背格好なのに伊黒さんを根暗、私をあばずれなんて言うから私もう頭にきて見た目が子供でも許さないって言ってやったの。
首を斬り落とそうとした時に、鬼が強烈な叫び声? 超音波っていうのかしら? そういうのを浴びせてきて私は一度意識を失ってしまったけれど、炭治郎くんや禰豆子ちゃん玄弥くんまで私を庇って助けてくれていて、ありがたかったし凄く嬉しかった。
仲間は絶対死なせないから! 覚悟しなさい本気出すから! って言って。
私が気絶している間、伊黒さんが1人で頑張ってくれてたから今度こそ彼の背中を守って立派に戦い抜くと思っていたのに──。
「甘露寺! なぜ俺を庇った!
こんなに深い傷を負って──」
そうか。私、最後の最後に刀を持つ方の手を噛まれてしまって、背後から鬼が伊黒さんを傷つけようとしたから咄嗟に身体を割り込ませて助けようとしたのだったわ……。
伊黒さんを助けたくて負った傷だもの、大丈夫!
そう言葉をかけたかったのに、私の口からは弱々しい吐息しか出てこない。
「気をしっかり持て!
俺が必ず光柱の元へ君を連れて行く!」
うん。そうよね。ユリさんは凄いもの。さっきもね、沢山の人たちを助けていたわ。
──伊黒さんが好きになるのもわかる。
伊黒さんの声をもっともっと聞いていたいのに、どうしてかしら? ……とても、眠いわ。
○ ○ ○
「甘露寺!」
彼女は眠るように目を閉じてしまった。早くユリの場所を特定し、連れて行かなければ──気ばかりが焦る。
目を閉じて意識を集中させると、まさに今こちらにユリらしき気配が近付いてきているようだった。
気配を感じた方に視線を向けると、ユリを抱き上げた狛治が目の前に降り立つ。
「蜜璃さん!」
ユリが駆け寄り膝をついて甘露寺の手をとった。
すぐに光の呼吸というやつで治すものと思っていたが、
「何をしている? 早く甘露寺を治せ」
低い声でまるで脅すように聞こえたかもしれない。ユリは悲しそうな表情で、
「こんなひどい傷を一気に回復させるような力は、私にはもう残っていません」
「ふざけるな! どういうことだ!」
「ユリはここに来るまでに瀕死の重傷だった人を何人も助けてきています」
狛治がユリを庇うように言った。そんな馬鹿な。何人も助けてきて、どうして甘露寺だけ救えないんだ。
「──私の人を癒す力は人を想う力です。
普段は杏寿郎が私を想ってくれている分を変換していますが、その力が尽きかけている今、蜜璃さんを救う方法はひとつしかありません」
「それはなんだというんだ!」
「今この場に、甘露寺蜜璃さんのことを強く想う人を連れてきてください」
「なっ!?」
「友人や仲間ぐらいの想いでは足りません。
甘露寺さんを伴侶として、この先共に歩みたいと思っているぐらいの強い想いが必要です。
──伊黒さんは蜜璃さんと親しくされていると聞きました。そういう相手に心当たりはないですか?」
「そんなことがあるか!
そんなこと──嘘に決まっている。俺は信じない」
「信じていただけないのなら、甘露寺さんはこのまま死んでしまいますね」
ユリはきっぱりとそう言い放った。
「蜜璃さん、こんなに深い傷を負って──痛かったでしょう」
そう言ってユリは涙を流すのだ。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
しかし、もしユリの言うことが真実なら?
俺は、俺のことを庇って死にかけている彼女すら殺してしまうことになる──。
人を想う力で、傷を癒すなんて俺は信じない。
だが、今彼女を救う術がそれしかないのなら──。
「──どうすればいい?」
「蜜璃さんを強く想う人を連れて来てください」
「それはわかっている! 仮にこの場に彼女を強く想う者がいる場合だ!」
「……いま伊黒さんがしているように蜜璃さんを抱き起こして、しっかりと手を握り、どれだけ彼女のことを想っているか口にしてください」
俺は彼女の手をしっかりと握る。もうだいぶ冷たくなっていた。
俺が彼女をどう想っているかなど、口にすることなど生涯ないと思っていた。
君と出逢って、俺はどれほど幸せだっただろう。
君と過ごすわずかな時間が、俺にとってどれほど支えになっていたか──。
目を閉じて思い出すのはいつも君のことばかりだ。
閉じている視界を焼くような眩い光を感じた。
「続けて!」
ユリの声がする。
俺は甘露寺への想いを伝え続ける。
『伊黒さん』
記憶の中の彼女が微笑んで振り返り、俺を呼んでくれていた。
「俺は甘露寺蜜璃を愛している。心から──」
光も収まり目を開いた。
甘露寺が顔を赤くして、こちらを凝視しており目が合う。
「──伊黒さん?」
「甘露寺、俺は──」
狼狽て離れようとした。しかし彼女が首に腕を回し抱きついてくる。鏑丸は甘露寺が抱きついてくるのと同時に俺から離れて遠目でこちらを見ていた。
「夢じゃないのね! 誰かに騙されて言っているわけではないのね! 伊黒さん伊黒さん伊黒さん!」
甘露寺が頭をぐりぐりと押し付けてくる。
「私も! 私も伊黒さんのことが好きなの! 愛してるわ!」
「これは祝言を挙げるしかないな!」
声の方をした方を向くと、立ち上がったユリの隣に普段通りの杏寿郎が腕組みをして立っていた。お前がその姿で駆けつけていたら、甘露寺がここまで傷つくことはなかったのに。
「ここは男らしく、言っておくべきではないか?」
そう促されて、俺は──。
その時俺は、自分が何と言ったのかあまり覚えていない。しかし、甘露寺は目に涙を浮かべながら嬉しそうに俺との結婚を承諾してくれたのだ。
○ ○ ○
「良かった」
2人の姿を見ながら、ユリがぽつりと言った。そしてわずかにふらついたので両手で彼女の身体を支える。
「どうした?」
「いたたた……」
お腹をおさえてユリが痛がっていた。狛治と顔を見合わせる。更に彼女の足元が濡れていることに気付き、俺は指笛を吹いた。
黒と白の2羽の烏が上空に飛んでくる。
「要! 君は夏火にユリが産気づいたと伝えてくれ! 俺達はこれから家に戻る!」
俺の鎹鴉が短く鳴いて飛び去っていく。
「白菊! 君は千寿郎に伝えてくれ!」
千寿郎には予め、その時は家に戻ると伝えてある。それだけで伝わるだろう。白菊は白い羽色に赤い目をしたユリの鎹鴉だ。同じように鳴いて飛び去っていった。
「伊黒、すまないがこの後の処理は君に任せていいだろうか?」
こちらをわずかに見ると、早く行けと手を振ってくれる。
「急いで戻ろう!」
俺はユリを抱き上げて地面を蹴った。
「杏寿郎、飛ばしすぎだ! 死んでしまうぞ!」
道中、狛治が困ったような笑みを浮かべ言う。
言いながらも2人で全力で走っているところだ。
「この程度で死ぬような鍛え方はしていない!」
日が暮れるまでには帰り着くだろうか? 帰ってから俺は何が出来るか、考えながら家路を急いだ。
●19 エピローグ
昼も過ぎて狛治と庭で手合わせをしていると、千寿郎に案内されて宇髄が奥方たちを連れてやってきた。
「おー。ド派手にやってるな」
片手を上げて宇髄が声をかけてきたので打ち合いをやめる。奥方たちはこちらに深くお辞儀をしてくれていた。
「庭の地形が変わりそうな手合わせだったじゃないか」
「流石にそうはならないように加減はしている」
目配せをすると、狛治はこくりと頷く。
「とてもそうは見えなかったがな──まぁいいか。
さっそく祝いの品を持ってきてやったぞ」
「おぉ、ありがとう!」
「それでなんて名前にしたんだよ」
「椋寿郎とルリだ!」
「男と女の双子とは、良かったな」
「うむ!」
千寿郎が狛治に声をかける。
「狛治さん、姉上の様子はいかがですか?」
狛治は軽く自分の頭に触れるように手をかざし、わずかな間目を閉じて開いた。
「今はちょうど2人の相手をして、起きているので問題ないそうです」
「では姉上の部屋にご案内しますね」
千寿郎は宇髄に声をかけたが、宇髄は奥方たちだけ先にと口にした。狛治も千寿郎たちに続いてユリの部屋に行くようだ。
奥方たちを見送りつつぽつりと。
「あいつらすっかりユリの親友のつもりでいるんだぜ? 今日も早くここに連れて行けと何日も前から催促されてさ」
「それは良いことだ。ユリにも同性の友が複数いれば何かあった時に心強いだろう」
「2児の父ともなると考え方もまた変わったか?」
「む? どういうことだ」
「別に?」
ほらと懐から俺宛の手紙が手渡される。
「これは──」
小芭内からだった。読んでみろと促されてみてみると、繊細で丁寧な内容で俺とユリに甘露寺との婚姻の仲人をしてほしいと書かれていた。
「よもやよもやだ!」
「さっきまで伊黒のところにいたんだよ。お前のところに行くって言ったらそれを渡されてな」
「なるほど。仲人をしてくれないかと書かれていた。ユリもきっと喜ぶ! 後で俺も筆をとろう」
「そういうところまめだよなぁ。お前も伊黒も」
「文を書くのはいいぞ! 姿勢を正し己と向き合う。精神面での鍛錬になる」
はいはいと聞き流されつつ。そうだ! 今度ユリにも文を書こうと思っていると隣で宇髄は言った。
「ここ最近、鬼の出没が止んだのは禰豆子が太陽を克服したからって話も聞くが。どうなんだろうな」
「ふむ。嵐の前の静けさか──」
「伊黒も甘露寺もこの機会に祝言と考えているようだが、同時に進行中なのは柱稽古だ。煉獄とユリのところは最後にしたからまだ到達者は誰もいないだろ?」
「そうだな。悲鳴嶼さんには誰か来る時は連絡してくれることになっている」
「まったく。ほとんどの隊士は基礎からみてやらなきゃならない」
「良い機会になった」
案内を終えた千寿郎が戻ってきた。
「どうした?」
「宇髄さんの奥様たちが、早く来てくださいと──」
ふっと宇髄は笑って。
「では煉獄自慢の赤ん坊たちを見させてもらいますかねぇ……宇髄ルリ。うんうん悪くない。俺も今の内に仕込むとするか」
「──何か言ったか?」
後半聞き捨てならないことを宇髄が言っていた気がするが、意味深に笑ってみせるだけで二度は口にしなかった。
旅する物語 白百合異聞 策動編 終幕