【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


31仕舞い編11〜15

●11

 

 うつ伏せに寝かされて、首を上げる練習をしている。ひーは一足先に顔を上げてきゃいきゃいと嬉しそうな声を上げているのだけど。負けていられない……

「むぎ、うぅ──」

 ぐうと力を入れて顔を上げた。

「ルリもすごいなー! よく頑張ったなー!」

 祖父上の声が聞こえる。表情まではまだよく見えないけど、喜んでくれているらしい。

「うぁうー」

 ひーが出来ることは、わたしも出来るんだから。

「すごいぞ2人共、次はずり這いか。

 頭を上げていると疲れるだろう、そろそろやめてもいいんじゃないか?」

「あー」

 まだまだ大丈夫だなんて、随分余裕じゃない。

 わたしだってまだ出来る。ぐぐと力をこめ、

 今度はどれだけ頭を上げ続けるかを争っていると、障子が開く音がして母上が入ってきた。

「あら、2人共すごいじゃない」

「あーうぇー」

「えー」

 そういえばお腹がすいた。

 母上は察してわたしたちのそばに近づいてきてくれる。

「時透くんとの稽古はどうなったんだ? 先ほどすごい音がしたが」

「はい。ちょっと落ちたところが悪くて汚れてしまったので、お風呂に入ってもらうことになったんです。杏寿郎はお風呂場に案内しつつお湯の用意をしてくれているので、私は着替えを取りにきたんですが──」

 わたしもひーもぐすぐすと泣き始めている。これで祖父上にもわたしたちが空腹でいることがわかるだろう。

「そうか。では俺が着替えを持って行こう。2人共そろそろ腹が空く頃のようだから」

「ありがとうございます。お願いしますね」

「あぁ。ルリ、椋寿郎また後でな」

 祖父上が部屋から出て行くのを待ってから、甘い香りのする場所に口をつけた。

 

 ○ ○ ○

 

 霞柱、無一郎くんは柱稽古のためわざわざ出向いてきてくれた。

 屋敷にいる隊士達はぎりぎりまで特訓をして、出かけている間は休み時間としているらしい。

 狛治との戦闘訓練を杏寿郎と共に見守り、無一郎くんが泥まみれになったところで訓練を終えた。

 

 椋寿郎、ルリの相手をしていると

「いただきました」

 お風呂上がりに浴衣を着て、無一郎くんが部屋までやってくる。

「すみません」

 狛治が申し訳なさそうに謝罪した。

「いえ、汚れる心配をしていたら稽古にならないと思うので」

「良ければ夕餉もいかが?」

 無一郎くんは僅かに考えこむ様子で。

「そこまでご一緒してしまうと、屋敷にいる隊士を大分待たせることになってしまうから……俺が来た時より来客が多くなっているようですが、何かあったんですか?」

「えぇ、実は」

 ちらりと襖の向こうに視線を向ける。

「何かあるんですか?」

「開けてみてもらえる?」

「……」

 無一郎くんが襖を開けた。

 隣の部屋には炭治郎と無一郎くんの屋敷からここまで走ってきた隊士と、ちょうどこの屋敷で鍛錬していた隊士達がいた。

 せーのという掛け声と共に、お誕生日おめでとう! と大きな声が無一郎くんにかかる。

 お赤飯を炊いたり、色々喜んでもらえそうなものを集めたのだけれど。

「え?」

 驚いた顔をしてかたまっている。

「こっちこっち! ここに座って!」

 炭治郎がニコニコと笑いながら上座に無一郎くんを案内し、

「まだ少し誕生日には早いって聞いてるけど、こんな風にお祝い出来るのは今日かなと思って」

「そうなんだ」

 おめでとうございます! おめでとう! と沢山のお祝いの言葉が無一郎くんに贈られる。

「誕生日当日もお祝い出来たら嬉しいな。悲鳴嶼さんや不死川さんにも声をかけて」

「炭治郎!? なんなのその人選は」

 善逸が炭治郎の横で驚いた声を上げた。

 

「懐かしい気がする」

 無一郎くんの屋敷にいる隊士達がここにいるということで、夕餉も済ませていくことになった。

「そうなんだ?」

「心がぽかぽかするような……」

「大勢で食事をするのも楽しいよね!」

「炭治郎の誕生日はいつ?」

「俺の誕生日は7月14日」

「……」

「そうなんだ。ついこの間、誕生日で」

「来年は俺も一緒に──」

「祝ってくれる? 嬉しいな!」

 顔を見合わせて微笑みあっていた。

 

「どうだ様子は?」

 部屋に大皿を運び終えると、杏寿郎が私の隣に座り声をかけてくる。

「えぇ、喜んでくれているわ」

「それは良かった」

「この子たちをお願い出来る? それからさっきうつ伏せから首を上げられるようになったのよ」

 2人を杏寿郎に預けながら先ほどの2人の頑張りを伝えると、

「それは凄いな。後で父にも見せてほしい」

 嬉しそうに微笑みながら2人を腕に抱いた。

「あー」

「いーうぇー」

「台所はどう?」

「先ほどは千寿郎に指導されながら、伊之助が天ぷらを揚げようとしていたよ」

「そう。それじゃあ私もしばらく台所にいるわね」

「あぁ、人手が足りないようなら椋寿郎とルリをまた父上にみてもらって──」

「そうね。そうしましょう」

「あーうぇ」

 いってくるわねと2人の頭に優しく触れて席を立った。

 

 

●12

 

「兄上、お帰りなさいませ」

 千寿郎の部屋から椋寿郎とルリの声がしたので顔を覗かせた。

「いーうぇ!」

 ずりずりとルリが足下まではってきたので笑顔で抱き上げる。

「上手く進めるようになったな!」

 椋寿郎は同じようにしているはずなのに何故か後退してしまっており、先ほどからずっと半泣きで千寿郎に励まされていたようだ。

「椋寿郎、出来ないことを悔しく思えることは良いことだ! 自分が必ず出来ると信じることが出来ているということだからな! 諦めず続けることが大事だぞ!」

 もう片方の腕に椋寿郎を抱き上げながら話しかける。彼は視線を合わせてう! と元気に声を上げた。

 やる気に満ちた返事につられて笑顔になる。

「ユリはどうした?」

 千寿郎の隣に座り話しかけた。

「先ほど姉上から、今夜は2人を預かって欲しいと頼まれたので」

「──そうか」

 内心なぜだろうかと想像してみたが──答えが出ない。ならば直接聞いてみるかと2人を千寿郎に渡して自室に戻った。

 

 障子に手をかけるよりも前に部屋の中の張り詰めた気配を感じとる。

「ユリ」

 部屋の中には隊服姿の彼女が俺を待っていた。

 あぁ、ついにその時がきたのかと瞬時に全てを理解する。

「待て、いま俺も──」

 着替えようとした俺にユリが抱きついてきた。

「役割の通りにしましょう。あなたは鎹鴉の声を聞いてから準備をして」

「だが、君は先に向かうのだろう?」

「えぇだってそうしなければ、救えなくなってしまうから」

 彼女の身体を抱きしめて唇を重ねる。

「先に話していた通り、持っていってくれ」

 最終決戦の時、監視者の力は全てユリに預かってもらうことにしていた。

 そうすれば、俺は監視者の力を使うことなく煉獄杏寿郎として戦えるしユリ自身も力の使い過ぎで消滅することはないだろうという判断だ。

 もし力の使い過ぎでユリが消滅する場合は……この世界の存続も危ぶまれることになるが。

「わかった。預かるわね。

 大丈夫。この夜が終われば、世界が変わるわ」

 お互いの身体を強く抱き締めて離れる。

 

 ユリが庭に出ると狛治が膝をついて待っていた。

「杏寿郎──」

 今更言葉を交わさずとも、何度も手合わせをしてきた。視線を合わせ頷く。今はそれだけで充分だ。

 狛治はユリの身体を抱き上げると、強く地面を蹴り移動を開始した。

 

 ○ ○ ○

 

 産屋敷邸に到着。

「狛治、ここからは別行動しましょう。

 爆破と同時に珠世から預かっているものを無惨の身体に捻じ込んで。申し訳ないけど、片腕をくれてやるぐらいの気持ちで」

「はい」

「大丈夫よ。気配を消すのも転移するのも1人でいる方が精度がいいの」

 そう言うと狛治はふと微笑んで。

「今までありがとうございました。

 俺が俺でいられるのはあなたのおかげです」

「えぇ、あなたが私を受け入れてくれて良かったわ。この夜が終わるまでは力を貸してね」

「はい」

 

 無惨と輝哉の会話が始まり、今というタイミングで娘2人のいる場所まで転移し2人の身体を抱いて再び転移した。

 輝哉とあまねは一度目の転移の際に場所を視認して、円形に障壁を張ってある。

 娘たちが落ち着いたところで、障壁ごと2人を私や娘たちのいる場所に転移させたのだけれど、ひどいものだった。

「まったく無茶をして──」

 私の障壁を貫通するほどの威力、それほどのものを彼は用意していたのだ。もう少し障壁の術式を強化していればここまで身体を損傷することもなかったのに。

 かざそうとした手を輝哉が握ってくる。

「このままでいい。私もあまねも生きているのなら、あなたの力は私の隊士(こども)たちに使ってください」

「……そうね。そうしましょう。

 あなたもあまねもぎりぎりのところで繋いでいるのだから、死んだつもりで静かにしていなさい」

「「光柱様、ありがとうございます」」

 娘2人が深々をお辞儀をしてお礼を言ってきた。

「そういうのも後。

 2人のこと、あなた達に任せるから」

「「はい」」

 懐から愈史郎の作った札を取り出す。珠世から預かったものだ。

「これを額にあてると周囲の状況がわかるわ。

 必要なら隠も呼んで」

 札を受け取りながら2人は頷き。

「どうぞご無事で」

「ご武運をお祈りしております」

 2人に見送られながらその場を離れた。

 

 

●13

 

 一度目の転移で上空に飛ぶ。

「良い夜ですねぇ」

 不意に声がかかった。

 彼の能力、交渉の場以外の出来事の時を止める力。

「あなたに話しかけるのはついでです。

 鬼舞辻様とは良いお取引相手になるかと思いましたが、残念ながらそうはならなかったもので」

「読み通りということ」

「えぇ、これで晴れてこの世界からは手を引こうと思っていますが。

 その方があなたにも都合が良いのでしょう?」

「そうね」

「またお会い出来る日を楽しみにしてます」

 ニィと笑って姿を消した。私としては二度と会いたくないけれども──そうも言っていられない。

 

 無惨を取り巻くように茨のような血鬼術が展開されていた。そして、いま狛治が片腕を無惨の身体に吸収させたところだ。

 珠世も近くにいる。どうやら血鬼術で、周囲の認識を歪めているらしい。

「お前は!」

「久しいな。あの時の俺は心身共に疲弊し、お前の言葉をただ受け入れてしまった。

 ──衝動と殺戮で血塗られた鬼の生き方は、俺にとって地獄そのものだった!」

「狛治さん! そのままでは腕以外も吸収されてしまいます! 早く!」

 珠世が慌てた様子で声をかけた。狛治は雄叫びを上げて腕を千切ろうとしている。

 見ていられないわ。

 彼の背後に転移して後ろから身体を抱き締める。無惨の体内に入っている部分を無視して珠世のいる方へ更に転移した。

 ──痛いだろうに声ひとつ上げない。

 私の手のひらから生まれた蛍のような光が、集まって失われた狛治の腕を形成していく。

「!?」

 無惨はまるで化け物でも見るように私を見ている。それはそうでしょう。彼の認識では私は無限城に囚われていることになっているのだし。

「大丈夫ね?」

「はい。先ほどまでの状態と寸分の狂いもありません」

 手のひらを閉じて開いて軽く腕を回す。

「珠世、そろそろ柱が駆けつけてくる頃よ。私達は少し距離をとりましょう」

 無惨と感情的に言葉を交わしていた彼女に声をかけると同時に、

 

 

 炎の呼吸

 

 

 よく知った気配が近付いてくる。

 

 

 壱ノ型 不知火

 

 

 鬼舞辻無惨の首を切り離した。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

「愈史郎──」

 珠世様が心配そうに俺を見ていた。

 俺にかけたいであろう言葉は容易に想像がつく、本当にいいのか? 俺の立場なら戦いに参加しなくても良いと言いたいのだろう。

「珠世様に死の淵から救っていただいたこと、とても感謝しています。俺にとってあなたと共にいるということはそれだけではないのです」

 愛する人のためになるなら、どんな危険も厭わない。もし無事に帰ることが出来たなら、この秘めた想いを必ず伝えようと思った。

 

 ユリから渡された赤い小さな蜥蜴と共に、姿隠しの血鬼術を使って潜んでいる。

 産屋敷邸にほど近いこの場所に鬼舞辻無惨が現れるというのだが。

 ──不意にどこからともなく琵琶の音が聞こえた。

 地面に障子が出現し、音もなく開き1人の男が地面から生えるように現れる。

 蜥蜴がガブと耳に噛み付いてきて正気に戻った。

 閉まりかけた障子の中に身体を滑り込ませる。

 

 これが無限城。四方が襖やら床などの滅茶苦茶な並びで囲まれていた。

 落ちる。ただひたすらに、このままの勢いでもし何かにぶつかりでもしたら無事では済まないだろう。死にはしないだろうが、再生するまで無駄に時間がかかってしまう。

 なんとか壁に手をつけることが出来ないか空を泳いでいるとぐいと足首を掴まれた。

『何を遊んでおるのだ』

 落下が止まる。

「はぁ!?」

 掴まれた足の方を見ると巫女装束のユリの姿が、

『あぁ? 今はこの姿でいる必要もないな』

 全身が炎に包まれて姿がかわる。赤い髪と褐色の肌の神職が着るような服を身に纏った男の姿になった。

『行くぞ』

 足を掴まれたまま男は空間を移動する。

「お前は何者だ!」

『素性を問うならまずは自ら名乗れ若輩者め。

 余は赤龍、ユリの番だ』

「ユリは炎柱と夫婦のはずだろう。何を言っている!」

『あんな奴はいずれ余が喰ろうてやるさ。

 ほれ、お前はこのために来たのだろう』

 琵琶を奏でる女の背後に俺を落とされて、足を掴んでいた赤龍の方を見ると既に姿が見えなくなっていた。自分とは違う手段で姿を隠しているらしい。

 

 珠世様がお認めになったユリが言うのです。

 無限城にいる鳴女という鬼を俺だけが無力化できると。だから俺は──。

 

 

●14

 

『何をしている!! 鳴女!!』

 無限城の一番奥深く、安全な場所へ移ってもらったはずの無惨様から叱咤された……ような気がした。

 

 何か不手際があっただろうか。柱は極力分断するように城内に落としたし、そろそろ上弦との戦闘が始まる頃だったのだが──。

 

 見ようとした視界が乱れる。

「?」

 琵琶を鳴らすと思った通りに無限城は姿を変えた。

 何も問題はないはず──

 

「鳴女!!」

 先ほどよりもはっきりと無惨様の声が聞こえ、思わず背筋をのばす。

 

 改めて無惨様に意識を向けると、先ほど無限城への入り口を開いたところにまだ姿があった。

「!?」

 何が起きているのか理解できない。咄嗟にもう一度琵琶を鳴らして無限城への道を開いた。

 瞬間、無惨様の足元に光る足場が生み出され無限城の中に入ることが出来ないようだ。

 

 ○ ○ ○

 

 無限城に戻れないと理解してから、鬼舞辻無惨は落とされた首を修復しながら私に向かって攻撃を仕掛けてきた。

「!」

 狛治に抱き上げられて距離を取る。珠世も同じように距離を取った。無惨は柱たちと炭治郎の猛攻を受け、こちらを追いかけてくることも難しくなっている。

「愈史郎──」

 一足先に無限城に入ってもらった彼のことが気になっているらしい。

「珠世は愈史郎と一緒にいてもいいのよ?」

「いいえ、私も私にしか出来ないことをするつもりでここにいるのですから」

 

 無惨が鳴女という鬼を叱咤する声が周囲に響いた。

 

 先ほど無限城への入り口が開いた時にこの場にいなかった隊士たちは無限城の中に落ちてしまっている。

 1人1人救出するのは手がかかるし──再びこの場にいる者たちを無限城に落とそうとするが。

「させないわ」

 わざわざその瞬間に琵琶の音が聞こえるから、音に合わせて全員の足元に足場をつくる。

 

 無惨の表情、これだけ遠く離れていてもよく見えた。

 怒り、焦り、苛立ち、無限城への入り口が足元に空開いているのに入ることが出来ずに戸惑っている。

 ──そして今は怒りに任せて鳴女という鬼を切り捨てようと考えたようだ。

 人差し指を唇にあてて首を傾げる。

 無惨は時折こちらを気にしていた。当然その動作も認識しただろう。

 ……本当にそれでいいの?

 無惨はそのようにこの動作を認識していた。

 

 大地が揺れて無限城と呼ばれているものが生えてくる。

 城というよりも塔といった様子だ。

 地上から伸びていくそれに手をかけたり、足をかけたりして上に登っていこうとしているけれど。

「少し待って!!」

 風にのせて声を届ける。この場にいたのは炭治郎としのぶ以外の柱。人によっては不満そうな様子で地上まで戻ってきた。

「無惨は上に逃げた。

 なら、そのまま追いかければいいだろうがァ」

「ただ上に行けばいいわけではないわ。それは無惨もわかってる。そんな簡単に追い付けると思わないで」

「そうはいってもお館様が」

「まずは皆さんこれを」

 珠世が愈史郎の作った札を取り出して炭治郎と柱たちに渡した。

「これを額に貼ると視覚の共有が、身体に貼ると姿を消すことが出来ます」

「血鬼術か」

 こくりと頷き。

「私と同じようにしてみて」

 額に札を貼り、全員が同じようにしてみせる。

「いまこの無限城の奥深くにいるのが無惨、そして上弦の鬼たちがそこへ行くまでの道を塞いでいるわ。無惨は時間稼ぎに上弦の鬼たちを使う気でいるようだけれど……。

 その思惑にのってあげようと思うの」

「なぜだ?」

「無惨が本当に追い詰められたらどうすると思う?」

「……」

「部下でもなんでも吸収して生き延びようとするわ。その時に上弦の鬼が存在していたら面倒でしょう?」

 にこりと微笑んで。

「無限城に落とされた隊士たちもしばらくは無事でしょう。上弦の鬼以外にも鬼がいるようだから気をつけて。

 珠世は怪我人の対応をお願い出来る? お館様の様子も気にはなるし」

「「「「「!?」」」」」

「ご無事なんですか!?」

「──かなり危険な状況よ」

「君の力で治してしまえばいいじゃないか」

「それはお館様から頼まれたの。私の力は隊士たちに使ってくれとね。あなた達が怪我をすればするほど、後でお館様のために使える分が減ると思って」

 柱たちの顔付きが変わってくる。

「さて、長話はこれでおしまい。余計に札を持っていって予備にするなり道中の隊士や鎹鴉に渡すのもいいでしょう。もうすぐここに猗窩座が来るわ。炭治郎と義勇で迎え討って」

「なんで猗窩座が!?」

 炭治郎が狛治を見ながら驚きの声を上げた。

「この世界の法則とは違った形で狛治はここにいるの。それを逆手にとられただけよ。

 他の柱は他の上弦の鬼討伐に向かって、無惨に休む暇を与えないというのも良いとは思うわ。

 私はしのぶを迎えに行って、猗窩座戦でも観戦しようかしらね」

 

 

●15

 

 無限城内を歩く胡蝶しのぶ。蝶の柄の羽織ではなく、隊服の上にアオイが身につけているような白い割烹着を着ている。

 

 大きな爆発音に思わず屋敷を出て様子を確認しようとしたのが間違いでしたかね──。

 足下に障子が現れたと思った瞬間には、その障子が開いて落下していた。巻き添えになりそうだったアオイを突き飛ばして一緒に落ちなかったことは良かったですが。

 

 血の匂いがする。

 ここは何処?

 

 成金趣味の襖が続いている。その内のひとつに手をかけた。ゆっくりと開いて中の様子を伺う。

 ボリボリと何かを齧る音、血の匂いが一層強くなる。

「あれぇ、来たの? 君は──いつぞやのお祭りで話しをした子じゃないか。また会いたいなと思ってたんだ。後で鳴女ちゃんにありがとうって言わなくちゃ。

 確か自己紹介はまだだったかな? 俺の名前は童磨、いい夜だねぇ」

 にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋っている。あの夜と同じだった。

「そういえば君は鬼狩りなんだっけ? あの時とは装いが違うみたいだけど、どうかしたのかい?

 それに、見たところ丸腰のようだけど」

 僅かに目を細めて童磨と名乗った鬼は言う。

「えぇ、一身上の都合により柱であることを辞めたんです」

「!?」

 露骨に驚いたような顔をして、過剰に反応している。

「柱を辞めるなんて、そんなことが出来るんだねぇ。知らなかったよ」

「もちろん前例のないことですよ。一度鬼殺の道を進むと決めた者は死ぬまで鬼を追い続けますから」

「何かそこまで思い詰めることがあったんだね。

 俺は万世極楽教の教祖なんだ。今は信者の数もだいぶ減ってしまったけど。良ければ君も救ってあげよう」

「貴方の言う救いとは、そこにいる人たちのように腕から足からバリバリと咀嚼することですか?」

「大丈夫、身体ごと吸収することも出来るよ」

 そう言って笑っていた。

 ──本当に腹が立つ。

 表面上はにこやかに会話をしているが、早く終わらせたかった。

「さぁ、おいで」

 手を差し伸べ微笑んでいる。

「……」

 私自身も微笑みを浮かべながら近づいて手を重ねようとした。

 ふと童磨の表情が真顔になる。

「……何か、おかしいな。都合が良すぎる。

 君はとっても美味しそうだけど、鬼狩りが自分から食べてほしいなんて言うわけないからね。

 こういうの、なんて言うんだっけ? まるで食べられることが目的みたいな──」

「そんな気のせいですよ」

 他愛のない話しをしているように笑って言う。

「そうかな! じゃ気にしないでいいか」

 

「だめよ」

 

 重ねようとしていた手が止まる。

 ユリさんの声だった。

「あれ? いつの間に」

 声のした方を向くとユリさんと、彼女を庇うように狛治さんがいる。

「その様子だと暗示はもうとっくに消えてしまっているのかぁ。残念。結構楽しかったのに……」

 狛治さんが童磨に殴りかかろうとしたので、童磨はその攻撃を躱すために後ろに飛んで距離をとった。

 狛治さんはそのまま私の前に立ち、後ろ手に庇うようにしてくれている。

「行きましょう。あなたはもうここに来る必要はないのだから」

 いつの間にかユリさんが隣にいて、私の手をとってくれる。その手はとてもあたたかい。

 

 ○ ○ ○

 

 眠っている椋寿郎、ルリを抱きながら縁側に座って柔らかな日差しを浴びていた。

 不意に視界が暗くなる。

「だーれだ?」

 目にあてがわれた手の感触、聞き馴染んだ声で相手はすぐにわかる。

「ユリ」

「正解」

 ふふと笑いながら彼女はすぐ隣に座った。

「君は本当に気配を消すのが上手いな」

「そうかしら? 特に気配を消そうとも思っていないのよ」

「何かコツがあるなら是非教えてもらいたいものだ」

「そうねぇ──基本はその場にあるもの全て受け入れる気持ちを持つことね。人は個であることを生まれた時から意識しはじめるでしょう? だから私たちみたいな気配の消し方は苦手なんだと思うわ」

「ふむ。そうか」

「私みたいな気配の消し方を、杏寿郎なら出来るかもしれないわね」

 優しく微笑みながら俺の頭を撫でている。夫婦になっても子供が生まれても、ユリは度々こうして頭を撫ででくれた。

「あら、恥ずかしいの? 赤くなって」

 

 

「──煉獄、お前は行かないのか?」

 甘露寺と共に行こうとした小芭内が声をかけてくる。

「猗窩座がこの場所に来るというのなら、一目会っておこうと思ってな。大丈夫。すぐに追い付くさ」

「そうか。では行こう、蜜璃」

「えぇ! 小芭内さん!」

 俺はユリの言っていたことを思い出して気配を消す。

 

 柱たちの姿が無限城の中に消え──炭治郎、冨岡が身構えた。

 塔のような無限城の一角が破壊され、そこから猗窩座が現れる。

 壁を走り降り2人の前に立ち塞がった。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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