【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


35仕舞い編26〜30

●26

 

「ユリさん、あの人たちは?」

 彼女もはじめの内は僅かに驚いたような顔をしていたが、

「あぁ、えぇと。なんて言ったらいいか。

 私が鬼舞辻無惨退治を助けた世界から助っ人がきたみたい」

 ユリさんは少し困ったように微笑みながら言った。

「?」

 以前、別世界の無惨退治の様子を見せてくれた。その世界の人々ということだろうか。

「もうここは大丈夫ね」

 そうユリさんが言うと、私と狛治さんの手を繋ぎ。周囲の景色が一変した。

 お館様たちがいるところまで、一気に転移する。

「光柱様、しのぶ様」

 ひなき様、にちか様が迎えてくれた。

「ここも鬼達に目をつけられてしまっているようね」

 周囲に複数の鬼の気配を感じる。

「ひとまず俺が出ます」

「えぇ、お願いね」

 狛治さんが周囲を警戒しながら、静かに外に出ていく。

「さて、どうしましょうか。いっそ蝶屋敷あたりまで送ってしまった方が良いかもしれないけど──」

 ユリさんは僅かに目を細め。

「あわよくば無惨の最後を見たいなんて、なんとも強欲ね」

 そう言われ、お館様は口元を微笑ませている。

「光柱様、先ほどから鬼の気配を感じて何人かの隊士に来てもらったはずなのですが。どなたもこちらまでいらっしゃらず──」

「狛治が何か見つけたみたい。少し行ってくるわ」

 私にも目配せがあったので、こくりと頷く。

「はい。お気をつけて」

 

 お館様とあまね様の具合を診る。ユリさんから聞かされていた通り、確かに生きていることがやっとという状態だった。彼女の転移に身体がもつのか。そういう心配もある。

 別の世界からの助っ人──か。

 ユリさんが鬼舞辻無惨退治をした時、花柱と呼ばれていた人は自分が知らない人だった。

 その世界の私や姉さんがどういう運命を辿ったのか。彼女に聞けば教えてくれただろうけれど。私は聞く気にならなかった。

 聞いたところで私の境遇に変化があるわけでなし、死んだ者が生き返ることもないのだから──。

 

 大きな破砕音と共に鬼が姿を現す。

「しのぶ様!」

 ユリさんが狛治さんと共に助けに来てくれるだろうか? 駄目だ。そんな初めから人の助けをあてにするようでは──。

 両手を広げてお館様たちを庇うように立った。

「なんだ? ここはもしかしてアタリか?

 だとしたら俺は運がいいな」

 どう戦う? ここには日輪刀もない。私も呼吸は使えない。どうこの場を切り抜ける?

 周囲に視線を向けながら必死に思考を続けていた。

 

「しのぶのそういうところ、姉さん好きだなぁ」

 光と共に目の前に1人の人物が降り立つ。

 

 花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬

 

 鬼が何か言葉を発するよりも早く、その女性は距離を詰め手にした日輪刀で素早く斬り込んでいく。見事な芍薬の花が咲いたように見えた。

「しのぶ様! ご無事ですか?」

「師範!」

 姉の姿をした女性の他に、同じように光を伴って現れた2人の女性が私を心配するように駆け寄ってくる。

 どちらの顔も見覚えがあった。鬼との戦いで失われた蝶屋敷で共に暮らしていた人。

「鬼相手に戦うのは初めてだったけれど、聞いた通りに首を斬れば倒せるのね。

 しのぶ? 怪我はない? なーんて、あなたの姉さんじゃないのにお姉さんぶったらいけないわよね?」

 話し方も少し背を屈めて話しかける姿も姉そのもので、音もなく涙が溢れる。

「大丈夫よ。この場は私たちが守りきるから。

 ねぇ2人とも」

「はい! 自分から志願しましたから!」

「少しでもお役に立てるように尽力します!」

 

 ○ ○ ○

 

 藤の花の香を焚いていれば鬼は近づいてこれない。

 ずっと昔からそう言われてきていて、今まで一度も疑うこともなかったが──。

 突然の鬼の襲来と同時に既に死んだ継子、弟子たちが現れて戦ってくれた。

 一体何が起きているのか。槇寿郎には一度家の様子を見に行くように勧め、俺は歳若い輝利哉様に戦況を報告しようとしたところだ。

「ご報告します」

 部屋の中に気配が増えていることに気付く。

「失礼!」

 襖を開くと、これもまた昔知ったお方がおられた。

「──お館様」

 若くして亡くなった輝哉様のお父上。

 生きていれば俺と同じぐらいの歳だと、歳を取る度に思い出していた。

「あぁ、まさかここで慈悟郎にも会えるとは」

 俺を見てどこか驚いたような様子だった。継子や弟子たちと同じようにまさか──。

「私たちは違う世界からやって来たんだ。ユリさんが私たちの世界の鬼舞辻無惨を退治してくれたから。今は鬼とは無縁の生活をしている。

 私は人より長く生きているぐらいしか誇れるものがないが。共に考え、悲願を叶えよう」

 優しく静かな声音で語りかけた。

「お祖父様?」

「今は輝利哉が当主なのだろう?」

「……代行ですが」

「私が当主になった時のことを思い出すよ。

 こんな風に孫の姿を見守ることが出来ることは幸せなことのように感じるな。さぁ、まずは今の状況を教えておくれ」

 

 

●27

 

 ──さて、どうしたものか。

 繭のようにこの場所に根を張る大きな肉塊を見上げて、腰に差した日輪刀を抜いて構えようとした。

「杏寿郎」

 かたわらのユリが俺を呼ぶ。

「本来なら、鬼舞辻無惨が復帰するのはもっと後のはずだったわ」

「というと?」

「じきにあの中から、姿を変えて現れる。どうやら社側の干渉があったみたい」

 ユリを見て、肉塊を再び見据える。

「そうか。ではこの場は俺一人で受け持とう」

「杏寿郎、あなた──」

「上弦の鬼はとても強力だ。君の助力がなければ沢山の者が傷付き、時に死んでいくだろう」

 彼女にはあえて背を向けて言った。

「自分勝手な人。私の意見は聞いてはくれないの?」

 羽織の裾を掴んでユリが俺に声をかけ、

「君が俺を案じてくれていることは理解している。しかし、誰かがここで食い止めなければ──」

「私を見て」

 振り返ると、彼女は俺の胸ぐら掴んで唇を重ねてくる。

 触れ合った唇から燃えるような熱が広がっていった。

「私の魔力をあなたの身体に入れておくわ。

 そういう術式を予め組んでおいたの。多少の傷ならあなたの意思で治すことが出来る」

「よもや、そんなことが」

「その魔力を使い切らないように戦って。

 もし尽きるようなことがあれば、別の場所で他の誰かを犠牲にすることがあっても、私は必ずあなたの元に駆けつけるわ」

 見つめ合う瞳にうっすらと涙が浮かんで見える。

「気をつけよう」

 両手でユリの身体を抱きしめて耳元で囁いた。

「私は──あなたさえ無事ならそれでいいのに」

「あぁ、わかっている。君が俺を想って協力してくれていると」

「……」

 責めるような視線を受け止めて、それでも微笑みかけるといつものように仕方がないといった様子の笑顔を俺に向けてくれる。

「約束して」

 頷き。

「俺は生き続ける。何より君が望んでくれるから──決して諦めない」

「よろしい。

 私を一人にしたら許さないんだから」

 ……人払いをしておいて良かった。

 俺が彼女の身体を抱きしめていても、ユリが警告しないということはもう少しだけ時間があるのだろう。

 小さく名を呼び唇を重ねる。

「!?」

 彼女を想う愛しさをのせて、唇を重ねるとユリの恥ずかしがるような気持ちが伝わってきた。

 

 ○ ○ ○

 

 一目見てすぐにその鬼が、かつてカナエ姉さんを殺した鬼だと気付く事が出来た。

 私が手にしたのは師範の使っていた蟲の呼吸のための日輪刀だ。

「あれ? 君の手にしている刀には何か見覚えがあるな。もしかして君も毒使いなのかい? 肉付きを見たところ普通の刀も使えそうだけど──」

 湧き上がる怒りを鎮め、どこか怯えたような様子を見せる。目の前の鬼は私が女だから、構えた刀が蟲柱が使っていた毒使いの刀だから侮っていることを利用してやろうと思った。

「いきなりこんなところに放り込まれて怖いよね。可哀想に。俺で良ければ君を助けてあげよう」

「鬼に助けてもらおうなんて思わない。

 あなたは私の姉を殺し、もう一人の姉の心も傷つけた」

 絶対に、絶対に許さない。

 私はこの刀と共に想いを託されたのだから──。

 

 

 柱稽古中の蝶屋敷、しのぶの元をカナヲが訪れる。

 

「師範、お戻りでしたか。私はこれから風柱様の稽古に行って参ります」

 縁側に正座をし、手をついて部屋の中にいる師範の様子を窺う。

「そう」

「何かありましたか?」

 いつもの様子と違う気がして、つい声をかけてしまったが。師範は口元を微笑みにかえて小さく首を横に振った。

「師範の稽古は岩柱様の後でよろしいですか?」

「私は今回の柱稽古には参加できません」

「え……ど、どうして?」

「カナヲ、こっちへ」

 手招きされ部屋の中に入り座り直す。

「あの、あの──私、もっと師範と稽古がしたいです」

 そう言うと、師範は嬉しそうに微笑んでくれた。

「カナヲも随分自分の気持ちを素直に言えるようになりましたね……いい兆しです。やはり、良い頃合いだわ」

「?」

「私の姉、カナエを殺した。

 その鬼の殺し方について話しておきましょう。それから──」

 師範が申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 ──どうしたというのだろう?

「先ほど、柱稽古に参加できないと言いましたが。

 ……私は近い内に柱を辞めることになります」

 先ほどよりも大きく驚いてしまった。声を上げることも出来ず大きく目を見開く。

「私が鬼に効果のある毒の研究をしていることは知っていますね?」

「はい」

「毒を強化する方法がわかったのだけれど。その方法を選ぶと私は呼吸が使えなくなってしまって、まともに戦う事が出来なくなってしまうの」

 悲しみ、怒り、悔しさ、複雑な感情が師範の表情から読み取れる。

「……戦う事が出来なくなって──死んでしまったり寿命が縮んだりはしませんよね?」

 私の言葉に師範は微笑んで頷いてくれた。

「私が呼吸を使えなくなったら、

 この刀も、折角強力なものにした毒も使えなくなってしまう」

 師範の日輪刀が、私の前に置かれた。

 言おうとしていることがわかった気がする。

「──私が継ぎます」

 カナエ姉さんの呼吸を見様見真似で習得したのだ。

 私の予想は当たっていたようで、師範は驚いた顔からいつもの優しい微笑みを浮かべてくれた。

 

 この眼で、心で、しのぶ姉さんの想いも私が繋ぐ。命を懸けてそれが成せるのなら、私は必ず繋いでみせる。

 

 

●28

 

 鬼が藤の花の香をものともせずに押し入ってきた。信じられないことだったが事実だった。そして別世界から我々を助けにやってきたという人々もまた信じられない話で。

 

 突然の鬼の襲撃、桑島殿の教授を受けたという人々が現れたのはほぼ同時であった。

 血鬼術のまやかしか。俺は刀から手を離せずにいたが、

「煉獄の。いや、この者たちと戦う必要はないだろう。目の前で鬼を倒してみせたことすらまやかしだというのなら仕方がないが。それならば儂らはとっくに死んでいるはずだ」

「しかし──」

「こうして鬼が儂らの目の前までやってきた。ということは鬼は藤の花の香を無視できるようになってしまったらしい。香が効かないとしたら、お主の家族は無事でいられるか?」

 そう言われて血の気が引いた。

「行ってこい。ここは儂が任されよう。

 独断じゃが、背に腹はかえられん!」

「ご配慮痛み入ります!」

 同時に走り出す。

 昔から戦いの中で考えまいとしても考えてしまうことだった。愛する家族が鬼の手によって無残に殺されてしまう姿、何度も何度も見かけた光景。間に合わず殺されていた人々を見て何度無力さを思い知ったか──。

 この一角を曲がれば家だと、更に加速しようとしたところで、

「千寿郎! 無事だったか!」

 見知った姿がそこにあった。ルリを抱いているようだ。

「椋寿郎はどうした?」

「ち──」

 何か告げようとした千寿郎の言葉を遮るように姿を現す人物が。

「杏寿郎!?」

 なぜここにお前がと言う前に、杏寿郎も一瞬驚いた顔をした後にいつもの表情になった。

 杏寿郎も椋寿郎を抱いたり背負ったりはしていないようだが、何か違和感がある。

「千寿郎、こちらに来なさい」

 千寿郎は俺と杏寿郎を交互に見て、何か迷っているようだ。

「気にすることはない。父と共にいれば安全だろう」

 杏寿郎は千寿郎の背中を軽く押して、俺の方に千寿郎をよこす。

「どういうつもりだ?」

「俺はユリの元へ向かわねばなりませんので!」

「それはわかるが──」

「杏寿郎、もっと簡潔に状況を伝えなさい」

 その声に確かに聞き覚えがあった。

 月明かりの下、杏寿郎の後ろから姿を現したのは──。

「瑠火」

「思っていたよりは驚かれていないようですね」

 腕の中には椋寿郎を抱いていた。優しく微笑み、まるであの頃に戻ったようだ。

 先ほど桑島殿の元に現れた者たちと同じ──。

「君も別の世界から来たのか?」

「はい。私と杏寿郎とで参りました」

「杏寿郎も?」

「えぇ、その通りです」

 瑠火が頷き、杏寿郎もまた頷いた。

「父上、兄上はご無事ですよね? おふたりから聞いたのですが、こちらの世界に来られるのは同一の存在がいない方々なのだと」

「なに? ……特に誰が傷を負ったとも、戦死したとも耳にしていないが」

「良かったぁ」

 心底安心したような表情をして千寿郎は言うが。まだ安心するのは早いのではないかと俺は思った。

「では槇寿郎殿、母も頼みます」

「!?」

「先ほど申し上げました通り、俺はユリのところへ行かねばなりませんので」

「そ、そうか」

 俺の表情を見て、杏寿郎は何かを察したらしい。

「この世界で、あなたほど安心して私の母を預けられる人はいませんよ」

 瑠火と視線を合わせ頷きあっている。

「無事に戻ってくるのだぞ」

 ではと向けられた背に咄嗟に声をかけ、

「はい!」

 彼は、はにかんだように微笑み大きく返事をしてみせたのだった。

 

 ○ ○ ○

 

 理由ってやつがなければ、俺は流されるままだったかもしれない。

 身内が鬼になって、爺ちゃんが責任をとって腹を切る──そんな夢を見て。

 爺ちゃんに言われて鬼狩りになった自分がどうしても強くなりたい。強くならないといけないと思うようになってから自分が何か別のものになれた気がしたんだ。

 

 ある隊士の危機に駆けつけ、雷の呼吸で鬼の首を斬った。なんだ俺もやれば出来るじゃないかと、どこかうきうきした足取りで無限城内をよく知った音を探して走っている。

 唐突に足下の床がなくなって落ちた。

「えぇー!?」

 あっという間に落下し、

「いてぇ! 誰だ! 紋逸!?」

 伊之助の上に落ちた。

「伊之助!? なんだここ、寒っ!!」

 カナヲちゃんもいる。

 そして対の扇を手に、対峙している鬼が。

「ここでまた新顔か。相手をしてあげてもいいけど、猗窩座殿がやられちゃって時間もないから」

 伊之助もカナヲちゃんもあの鬼に対して激しく怒っている音が聞こえる。

「君の毒も結局効かなきかったみたいだし、花の呼吸っていうのも使えるっていうのは意表を突いたものだったけど。それだけじゃあね」

 とても強い鬼であることがわかった。それなのになんて穏やかな口調で話すんだろうとその違和感に寒気すら感じた。

「紋逸! お前は下がってろ! この鬼は俺が倒す!」

 いつにない口調で伊之助が俺に声をかけてくる。

「一体どうしたんだよ!」

「──あの鬼はカナヲの姉ちゃんと、俺の母親を殺した! お前は無関係だろ」

「……無関係なんかじゃない」

「は?」

「大事な親友を怒らせるような原因を作ったような奴なら、俺だって──」

 自分は鬼狩りには向いてないんだ。自分は弱いし、いつ死ぬかもわからないからとずっと自分からも目を背けてきた。

 しっかりしろと自分を叱咤する。

 俺はもう目を背けたりしない、そう決めたんだから。

 

 

●29

 

 別世界からやってきたという姉との邂逅を噛み締める間もなく、全身を焼かれるような痛みを感じて膝から崩れ落ちた。

「しのぶ!? どうしたの!!」

 慌てて駆け寄り寄り添ってくれる。

「カナエ様、周囲の警戒は我々が」

「お願いね。

 どこか痛むの?」

 言葉を返すこともままならない。

 

 私はユリさんとの術後のやり取りを思い出した。

 

「はい、これでおしまい」

 珠世さんに一室を借りて、ユリさんはあっさりと私から肺の一部を取ってしまったそうだ。

「痛みが気になるようなら珠世に痛み止めを貰うといいわ」

「──はい」

 自分がもう呼吸法を使えない身体になったことが信じられずにいると、

「先に説明した通り、あなたはもう蟲の呼吸は使えないわ。もちろん基本の呼吸もね」

 心の中を見透かしたようにユリさんが言う。

「無理に使おうとしたら?」

「息が出来なくなる。本来の役割すらやっとの状態だから、戦闘も回避した方がいいでしょう」

「……」

 まさに柱としても隊士としても戦力外になったと言われているに等しい。

「ただ」

 少し考え込むような表情で言葉を濁したので、

「なんですか?」

 つい聞いてしまった。

「あなたが望むなら、これから組み上げる術式に少し変更を加えてもいいかなと思っているの。

 毒を使った相手とあなたを繋げて、あなたは内側から直接相手を呪い弱らせる。

 ──問題は毒を使った相手が複数になると、あなたの人格を壊しかねないといったところかしら。そこは珠世とも相談して、なんとかしましょう」

「──」

 一も二もなく頼もうと思っていると、

「そこまでしなくても毒は十分に効果を発揮するわ。毒を使った相手と繋がるというのは、とても危険なことよ。

 相手の命を奪うまで時間がかかればかかるほど、あなたは死んだ方がマシだと思うような痛みを受け続け、場合によっては寿命が縮んでしまうかもしれない。

 ──そこまで言っても、あなたならそうしてほしいと言うでしょう?」

 

 どうなれば毒が使われたと、繋がったとわかるのか続けて聞いた。ユリさんはすぐにわかると答えた。

 どうすぐにわかるのか、その時はわからなかったが……それが今なのだと理解できた。自分の身体が悲鳴を上げている。

 私は震える手で、別世界から来た姉に触れた。

 そして大丈夫だと笑ってみせる。

「──何か、意味のあることなのね?

 私がここにいることで、あなたの力になれるかしら?」

 小さく頷いた。

 

 ○ ○ ○

 

 ある瞬間から、鬼の動きが極端に鈍くなった。

 小さな子供ぐらいの大きさの氷像を生み出して私たちと戦わせ、その間に逃げようとしていたようだったけれど。

 

 以前、光柱のユリさんと手合わせをしてもらった時に教えてもらった。師範は私に話して聞かせてはくれなかったこと──。

 

「はい。それでカナヲが手合わせをお願いしたいそうなんです」

 私を連れて師範がユリさんに話しかけている。産後回復した頃だから、もしかしたら受けてくれるかもしれないということで頼みに来た。

「狛治と。ではなく私と?」

 こくりと頷いで肯定する。ユリさんは困ったように炎柱に視線を向け。

「手合わせが出来ないわけではあるまい? 命のやり取りが発生せず、相手を制圧するだけのことなら君の得意分野では?」

「もう! 私のために戦ってくれるんじゃなかったの?」

「こればかりは仕方があるまい。柱として後輩を導くことは役割のひとつだからな」

 女性で柱となった人との手合わせはとても学ぶことが多い。

 引き受けてくれるだろうかと見つめていると。

「……わかりました。あくまでこの子が経験を積んで、少しでも強くなることに貢献すればいいのね」

 はぁと息を吐いてユリさんは渋々引き受けてくれた。

 

 形式上木刀を手にして手合わせを行うことになり。

最初に軽く握手をさせてもらう。

「宜しくお願いします」

「──そうね。折角なら、私との手合わせでしか経験出来ないことをしましょうか」

 にこりとユリさんは微笑んだ。

 急速に夏場に感じるには不自然な寒さを感じる。

「ユリ! 何をする気だ!」

「寝た子を起こすと大変なことになるわよね。

 それは精霊も同じ。季節違いに起こされたら、それはそれは厄介なことになるんだから」

 ユリさんはおいでと虚空に向かって声をかけていた。キラキラと光る何かが彼女の周囲を舞うように集まってくる。

 

 

●30

 

 カナヲが距離を詰め打ち込もうとしたようだが、胸元を押さえて再び距離をとった。

 ユリさんに対して手合わせを申し込まないのは、柱の中で暗黙の了承となっていたわけだが。まさかこのような形で目の当たりにするとは──。

「何かこう、とても大ごとになってしまった気がするんですが……」

「ユリと手合わせをしたいという希望が、彼女自身のものであるならば致し方ない!」

「……」

 狛治さんが心配そうに手合わせ中の2人を見つめている。

「おっ! ユリに手合わせを申し込んだのか。こりゃあなかなかド派手なことになってるな」

 宇髄さんがどこからともなく現れた。

「ユリの強さは俺も気になっていたんだよ。ぶっちゃけどれほどのものなんだ?」

 煉獄さんに声をかけている。

「ユリは強い! 柱として名を連ねるに相応しい人だ!」

「そういう漠然とした話ではなくてだな」

「狛治さんはどう思われているんですか?」

「──ユリはそもそも俺たちと見えているものが違うので」

 どう戦えば有利になるか、相手の弱点、そういったことがわかってしまうという。

「彼女の一族は力業で物事を解決する事を是としたものだからな」

「ならユリにちょっと頑張ってもらえば、この世界は平和になるってか?」

「そうはいかない。ユリは一族の中で最弱と侮られていた。そうでなければ俺と彼女は出逢うこともなかったわけだし」

「あれで最弱って。その一族ってやつは何なんだよ。化け物か」

 呆れ顔で宇髄さんが言った。

「化け物という言い方は失礼極まりないが。世界を渡るような存在は規格外と思っていた方が良いだろうな!

 ──俺も狛治に聞いてみたいことがあった」

「なんだ?」

「君こそ強者と戦うことに情熱を注いでいただろう」

「……」

「鬼であった頃の君は、たとえ隊士であっても女性と戦うことは極力避けていたと聞くが。そういう君にとってユリはどう目に映るのか」

 ある程度の答えは予想しているような表情で、煉獄さんは狛治さんに声をかけている。

「ユリは普段その強さを隠しているところがあるから──今は俺にとって彼女が守るべき対象で、強くなるための手段にしたい人ではない」

 そういえば狛治さんは女性の鬼に対して遅れを取ったという話も聞かないし、昔と今とでは何か考え方が変わっているのかもしれないと思った。

「うむ。ユリを戦わせることは世界の均衡を崩すきっかけになる可能性が高い。ともすれば今後は狛治を倒した者のみユリと手合わせすることが出来ると公表しよう」

 彼女の補助があって狛治が負けることもないがと煉獄さんは笑う。

「にしてもなんだって、このあたりはこんなに寒いんだ?」

 大袈裟に宇髄さんは肩をふるわせた。

「それはユリが季節外れの精霊を喚んでいるからだな! これは俺の推測だが。彼女が近い内に戦うことになる鬼との模擬戦をしているに違いない」

 空中に氷柱を作り、カナヲを追尾させ。

 冷気や氷を発生させる血鬼術には確かに見覚えがあった。

 いずれカナヲが戦うことが決まっていることなら、私の毒はやはりあの子に託すべきなのか──。

「あんなことが出来る血鬼術があるって? はぁー世界は広いねぇ」

 驚くべきは血鬼術を模倣してみせるユリさんの術のような気がするが。

 手合わせをしながら、ユリさんはカナヲに対して適宜助言も行ってくれている。

「ユリさんには無理を言ってしまいましたね」

「いずれは誰かに頼まれていたことだろう。

 俺もどこまでユリが応じるつもりなのか、わかりかねるところがあった」

「カナヲには良い経験になったようで良かったです」

「うむ!!」

 腕組みをしたまま煉獄さんは大きな声で言った。

 

 ○ ○ ○

 

 自分がどう動くかもわかっているかのように、ユリさんは私の手合わせの相手をしてくれている。

 ユリさんが師範に目配せをすると、

「そこまで!」

 師範が手を叩いて手合わせの終了を告げた。

 集中が解けてその場にへたりこむ。

 ユリさんが近づいてきてくれて、しゃがんで視線を合わせてくれる。

「よく頑張りましたね」

「──ありがとうございます」

 向けられた微笑みに私も自然と笑顔になって答えることが出来た。

 

 

「伊之助! 善逸! 頸を狙って!!」

 

 詳しい話は師範から聞くことになるだろうと、その時ユリさんから教えてもらった。そして、師範が私に伝えない事実をひとつ。

 今、師範も命をかけてあの鬼を弱らせてくれている。

『長く時間をかければ、それだけ彼女に負担がかかるけど。そのことをあなたに伝えて判断を見誤ることにはしたくないと思うようだから』

 そう言っていた。事実、毒の入った日輪刀を託された時に師範は私にその事まで教えてはくれなかった。

 

 一際大きな氷像が出現したが、それが苦しまぎれのものだとわかった。

「俺が行く!」

 

 雷の呼吸 漆ノ型 火雷神

 

 善逸の攻撃を受けて、氷像はまともに動くこともなく氷片へと変わる。

「カナヲ! 連撃いくぞ!」

 伊之助に合わせて技を放つ。

 

 ──童磨の首を斬り落とした。

 

 

 ● ● ● 以下オマケ

 

 カナヲとの手合わせが終わり。

「ユリ!」

 宇髄さんがユリさんに真っ先に駆け付けて何か話しかけている。私もカナヲの元に走り寄った。

「えぇ? 雪だるま?」

「そうそう。まだ肌寒いのは、精霊ってやつがまだいるからなんだろ?」

 煉獄さんも音もなく近付いてきていて、ユリさんと額同士を重ね。

「なるほどねぇ。そういう形」

 ユリさんが両手をかざすと、そこから白い雪粒が生み出される。

 あっという間に表情豊かな雪だるまが完成した。

「わぁ、まるで今にも動き出しそうですね」

 言葉の通りその雪だるまはとても生き生きとしていて、

「動かすものなの? それも出来るけど」

「いや、雪だるまは普通動かない。これで正解だ」

 再び手をかざそうとしたユリさんの腕を掴んで煉獄さんが辞めさせ。

「じゃあ次はかまくら作ってくれ!」

「かまくらぁ?」

 季節外れの雪に、なぜか宇髄さんはとてもはしゃいでいる。このままだと雪遊びにまで発展しそうだが──カナヲも雪を見て何か思うところがあるようなので、黙って様子を見守ることにした。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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