【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


42仕舞い編61〜65

●61

 

 鬼舞辻無惨との最終戦において雨が降る可能性をユリから聞いていた。

 戦いとは無関係の奏者をここまで連れて来るのは、何かあったら大変だからと音に関して自信のある連中がこの日のために準備していたわけだが。

 

 ──俺は今、何を見させられているんだ?

 

 ユリに促されて来た場所は簡易の神楽殿だった。

 こちらもこの時のために用意させたものなのだが。

 

 そこでユリは俺から降りると、赤い布切れでほんの僅かに身体の一部分を隠しただけの状態で舞い始めた。

 

 その姿は美しいという言葉ひとつではとても足りない。

 

 ユリの舞う姿は優美で、周囲の時が止まっているように感じられるほど強く惹きつけられる。

 時折鈴を鳴らすように手を動かすと、神楽鈴を持ってもいないのに鈴よりも遥かに澄んだ綺麗な音が。

 

 奏者にこの神楽に関する逸話を聞いた。

 戦国の時代、炎の髪色をした侍とどこか人間離れした雰囲気の美しい女人が旅の途中に村を訪れ。神隠しを起こしていた妖怪を退治し、長く村に降り続いて困っていた大雨を止ませたというのだ。

 この舞はその二人に対する感謝と、その時の様子を表現していると話して聞かされた。

 過去、神楽を舞うと豊作になったり悪天候が回復したりすることもあるとは言っていたがユリのように舞うたびに空気をかえ、天気すら操るような巫女はいなかったと聞く。

 へぇとその時は聞き流したが、もしかしてその女人こそユリ自身だったのではないか?

 

 感極まった悲鳴を無理矢理押し殺したような。そんな音が耳に届いた。

 声のした方に視線をやると眼鏡をした隠がいる。ゲス眼鏡こと前田だ。

「お前! 任務はどうした!」

 一瞬で近付いて首根っこを掴む。

「音柱! やめてください! 邪魔しないで!」

 ユリの舞の邪魔をしないように声をひそめてはいるが、いい迷惑だろう。そのまま神楽殿から距離を取る。

「なにすんですか! せっかく近くで見られていたのに!」

「お前が見てどうすんだ!」

 心外という顔でこちらを凝視されたが、ユリの舞の邪魔になるとしたらこの前田のような性的な目で見るような奴だと思ったわけだ。

「音柱は俺が光柱の姿を性的な目で見ていると言いたいんでしょう! 誤解です!」

 手足を振り回しながら前田は言葉を続ける。

「ユリさんのあの姿はエロスではなく芸術です! 芸術を己の欲で汚すような輩は、俺が最も忌み嫌う奴らなんです!」

 独特な早口でそんなようなことを長々と言っていた。正直、途中から聞くことすら頭が否定していたようで随分と短い台詞に変換された気がする。

「何言ってんだお前?」

 真顔で見つめあったが、分かり合えたと思えることは何もなく。

「とりあえず邪魔はするなよ」

 と言って放り投げた。茶羽根の何かを思わせる動きで神楽殿の方へ戻っていったが……。

 

 気を取り直して、善逸たちが待機している場所に戻る。

「ユリさん、大丈夫だったんだろうな?」

「おう。そりゃもうピンピンしてたぜ」

 楽器を手にこちらを気にしていた他の隊士もほっとしたような雰囲気を漂わせ。

 さっそく神楽殿の見える場所まで彼らを誘導した。

「さぁ、これが泣いても笑っても俺たちの最後の戦いだ。

 魂を込めろ! 一音たりとも取り逃がすなよ!」

 

 最後の戦い。上手くいくだろうかという気持ちはまだあったが。

 ──それでも、その最後の戦いにおいて自分が刀ではなく楽器を手にしているのが面白いと思っていた。

「音柱を名乗ってるんだ。

 ここで最高の演奏が出来なきゃ粋じゃねぇよな」

 誰に言うでもなく口にする。

 善逸、獪岳をはじめ知った顔ばかりだ。

 目配せしてから最初の一音を奏でた。

 

 楽曲がはじまると、神楽殿で舞うユリの周囲に金糸が集まりはじめた。奏でられた音が、金色の糸がとして表現されるように。動きに合わせて服のように編み込まれていく。

 ゆっくりと一度回転すると神楽殿上空の雨雲が晴れた。

 演奏に集中しなければならない立場だが、どうしても周囲の様子も気になる。

 ユリは穏やかに微笑みながら舞を続けた。

 

 ○ ○ ○

 

 日の呼吸を学んで気付いたことがあった。

 ヒノカミ神楽、日の呼吸は足止めに適した呼吸である。

 この場所に陽光が射すその時まで、相手を圧倒し動きを制限することに適していた。

 

 鬼舞辻無惨はユリの攻撃を受けても、自身の勝利を疑うことなく我々と戦い続けている。

 もう夜明けの時間だというのに大雨が降り続き、陽光が射してこないから。ユリは倒れた人々を蘇らせはしたが、鬼舞辻無惨の攻撃を受けてしまうと戦闘不能になってしまう者が多い。

 限られた者たちで鬼舞辻無惨の周囲を取り囲み、逃さないように細心の注意を払って。

 

 

 ──そして、その時はきた。

 

 

 鬼舞辻無惨の後方円状に雨雲が抜ける。

 指笛を吹いて周囲に知らせ、傍らの別世界から来た俺と頷きあい。

 

 日の呼吸から派生した炎の呼吸だから出来ることがあった。

 

 壱から始まり奥義に終わる。

 それらを繋げるとどうなるのか──。

 

 別世界から来た俺と共に呼吸を合わせ、煉獄を放つと鬼舞辻無惨の身体は空中へと飛ばされ。

 瞬間上空の雨雲が全て消えて、穏やかな朝陽が視界を満たした。

 

 

●62

 

 上空の鬼舞辻無惨は、その場所に固定されたように身動きが取れなくなっていた。

 ユリとこうしようと話していたわけではなかったが、物語を理解する彼女なら俺たちの意図も汲んでくれるのではないかと思い行動したが思った通りの結果になったようだ。

 鬼舞辻無惨の断末魔が聞こえ続けるだけ、余裕もなく陽光から逃れようとしているだけに見える。

 刀を手にしたまま、誰もがその姿に目を向けていた。

 

 そしてようやくその声も、鬼舞辻無惨の姿も小さく小さくなって見えなくなり周囲から歓声が上がる。

 一時は全滅ともいえる状況になった俺たちだったが、ユリの神憑りという術でおそらくこの戦場にいた者は全て回復しているだろう。

 思い思いに声を掛け合い、肩を抱いたり、抱きしめあったりして喜んでいた。

 ふぅと息を吐いて刀を納める。

 別世界から来た煉獄杏寿郎には、隠たちが鞘を渡していた。

 そうか、彼は炭治郎の刀を借りて戦っていたのか。

「助太刀感謝する」

 片手を差し出すと、

「助けになったのであれば良かった」

 同じように片手を差し出し握り返してくれた。

 自分自身に等しい存在と言葉を交わすことはひどく奇妙な感覚で、相手も同じだったに違いない。

「ここに二人でいると場が混乱するかもしれないな」

「別世界から助っ人が来ていることは周知のことだ。先ほどまでの戦いを見守っていた者であればそこまで気にする者はいないだろう」

 それもそうかと頷く彼を見ながら、急にユリに会いたくなった。彼女は今どこにいるだろう。

 おそらくは意識も戻って無事でいてくれていると思うのだが。

「──ユリ」

 彼女を想いながら小さく口の中でその名を呼ぶと。

「杏寿郎!」

 ユリが突然姿を現した。

 俺たち二人に向かって飛び込んできたので、二人で抱きとめる。

 彼女は見覚えのない金糸で彩られた巫女服を身につけていた。

「どうした?」

「どうしたって、いま私を呼んだじゃない」

 別世界から来た煉獄杏寿郎と顔を見合わせる。

「ようやくこれで終わったわね。

 さっきは炭治郎が無理矢理鬼化しそうになって大騒ぎだったけど、鬼化に関してはあなたの前例を経験していたからすぐ治すことが出来たわ」

「俺たちは早くもとの世界に帰った方がいいのではないか?」

 ユリに向かって別世界から来た煉獄杏寿郎はそう言ったが。彼女は口元を隠してあくびをしながら、

「あなた達がいる程度で物語の均衡が崩れたりしないわよ。ちょっと力を使いすぎてひどく眠いの。また後日にしましょう」

 俺の腕の中に改めておさまると、すやすやと寝息を立て始めた。

「よもやよもやだ。戦ってすぐに帰ることが出来ないとは」

 どこからかユリがここにいると聞きつけて集まってくる人々がいた。別世界からこちらに来た彼らは煉獄杏寿郎から事情を説明され、縁者の元で世話になることに。

 

「こちらの世界の鱗滝さんにも会っておきたかったから、すぐに帰ることにならなくて良かったかも。

 ね? 錆兎」

「俺たちが急に現れたら心の臓に悪いだろう。

 まずは義勇から事情を説明してもらってから──」

「馬鹿ねぇ、義勇は戦いが終わったら愛する人の側にいたいに決まってるじゃない」

「……気持ちはわからんでもないが」

 

 ○ ○ ○

 

 復旧の手伝いをしようとしたが、俺たちはこの戦いの功労者ということで優先的に帰宅を促された。

 とにかく人手があり、戦いに参加しなかった隊士と隠でなんとかなるそうで。

 たくさんの人々から声をかけられ、笑顔を向けられて自然と俺たちも微笑みを返すようになり。

 

 別世界から来た煉獄杏寿郎とは共に帰ることになった。話しを聞くに母もこちらの世界に来ているそうだからそのままの流れで彼も我が家に招待することになりそうだ。

「かわろうか? 腕も疲れただろう」

 ユリに視線を向けながら声をかけられ。

「まさか、この程度で音を上げるような鍛え方はしていないぞ」

 改めて抱き上げなおすと、ユリが目を覚ました。

「そうそう、帰る前に寄るところがあったわ」

 あっちと指さされた方に向かうと、そこには傷付いたお館様とあまね様のお姿が。

「……終わったんだね」

「えぇ、もう重傷の隊士もいないし回復させてもいいでしょう」

 ユリがお二人の身体に手を振ってかざすと、顔色が良くなり起き上がることが出来た。

「これはすごいな。視界も嘘のように晴れやかで、身体が軽くも感じる」

「鬼舞辻無惨の呪いが解けたのだもの。ようやく普通に生きられるわね」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 お館様に続きあまね様も頭を下げ。

「お礼を言う相手は、あなたの大事なこども達にどうぞ」

 お館様様もあまね様もお顔を見合わせて笑っていた。

「はぁ、胸が痛いわ。早く帰らないと」

 彼女が自分の胸のあたりをさすると、僅かに甘い香りがしてくる。

「そういえば狛治はどうした?」

「狛治は片付けを手伝うと言っていたわ」

「君と離れて大丈夫なのか?」

「鬼舞辻無惨も倒したから、彼との契約はひとまず終了なの。

 今更、彼が何か悪さをするとも思っていないでしょう? だから自由にしていいとは言ってある。改めて挨拶に来る気はあるみたい」

「──そうか」

 お館様、あまね様に付き添っていたご息女たちの手を取りながらお二人が立ち上がった。

「杏寿郎たちはもう帰るのだろう? よく頑張ってくれたね。せっかくだ。見送らせておくれ」

「勿体ないお言葉です」

 微笑みを浮かべ、お館様は外へと歩みを進め眩しそうに目を細める。

「──あぁ、なんて優しい光だろう」

 

 その光は誰もが待ち望んだ。

 戦いの終焉を告げる光だった。

 

 

●63

 

 眠りが浅くなり閉じていた目を開くと、外が先ほどより僅かに暗くなってきていた。

 ユリが俺の身体を枕にするようにしてまだ寝ている。

 先ほどまで起きていたし、このまま眠り続けることもないだろうと思いつつ……少し心配ではあったが。

 

 お館様に見送っていただいた後、結局その後も誰かと会う度に会話をしたり手伝ったりで家に帰ってきたのは昼過ぎになってしまった。

 

 千寿郎をはじめ父上も俺たちの帰還を喜んでくれて。その中に聞いてはいたが、母の姿があった時はやはり平静ではいられなかった気がする。

 後からユリに聞いてみたが、普段通りだったわと笑っていたが。

 

 軽食が用意されたり、風呂の準備もされており至れり尽くせりだった。

 ユリは子どもたちの相手をする以外はずっと俺の近くにいてくれて、自室に戻り仮眠を取ることになっても側にいてくれた。

 ──彼女なりの気遣いだろう。

 

 別世界から来た彼らともう少し、会話をしたいと思っているのではないかとわかっているのだが。

「あら、もう起きていたの?」

 ユリが目を開き視線が合う。

「ゆっくり休むことが出来たかしら」

 大きく伸びをするように彼女が起き上がったので、俺も上体を起こした。

「──ユリ。

 俺はこれから夕餉の支度を手伝ってこようと思う。別世界から来た彼らと話したいこともあるだろうから行ってくるといい」

 軽く腕を引いて抱き寄せると、両腕で優しく抱きしめる。

「何か俺の助力が必要になったら呼んでくれ」

 彼女の額のあたりに唇を寄せ。

「そう……ありがとう。

 なら少しの間、彼らと会話をしてくるわ。別にあなたに聞かれたくない内容でもないから、同席してもらっても問題ないと思うけれど」

「君は良くとも、彼らがきっと気にするだろう」

 特にヒカルという青年はユリを母のように慕っていると聞いている。

「そうかもしれないわね。それじゃあ行ってくる」

 離れようとするユリを呼び止め、服を整えさせてもらった。いつもよりしっかりと合わせを作り、帯も硬く結ぶ。そして更に一枚余計に羽織らせて──。

「よし、これで行ってくるといい」

 微笑んで彼女を送り出した。

 

 ○ ○ ○

 

「かーちゃ、杏寿郎の相手はもういいの?」

 私が一人で部屋に入ってくるなりヒカルがそう言った。

「大丈夫よ。あなた達と話してくるといいって言ってもらえたから」

 ふーんと気のないそぶりで。

「こちらの世界の俺は、かなり君に執着しているように見えたが。あぁいう男が君の好みなのか?」

 部屋の中には杏寿郎もいた。先ほどまで一緒にいたこの世界の杏寿郎ではなく、炭十郎と共に旅をした別世界の杏寿郎だ。

「執着って。

 彼は少し不安定なのよ。人の身でありながら、監視者としての力も宿しているのだから。

 ──まぁでも。いてもいなくてもと扱われるよりは、求められていた方が好みではあるわ」

 瑠火が椋寿郎とルリを抱いて部屋に入ってくる。

「杏寿郎さんが手伝いに来てくれたので、私はこちらで休んでいてほしいと」

「あーうぇー」

 椋寿郎、ルリが私を求めて手を動かしている。ありがとうとお礼を口にしながら二人を受け取った。

「ちっちゃいかーちゃだ! 改めて見ても可愛いなー」

 ヒカルがルリを覗き込む。

「そんなに近くに行くと泣かれてしまうぞ」

 杏寿郎が言うのと同時に二人が泣き始める。

「あらあら、大丈夫よ」

 よしよしと身体をさすっていると、椋寿郎もルリもすぐに落ち着いてうとうととするようになった。

 

 寝てしまった二人を座布団の上に寝かせて。

 この世界に誰が来ていて、今どこにいるのか情報を整理した。

 ヒカルはこの世界に縁者がいないから、ここに滞在することになった。杏寿郎、瑠火も滞在先はここだ。

「こちらの世界の人に会っても、変に混乱させないでしょうか?」

 瑠火が言った。

「まともに会話をしなければ、認識されない程度に印象を操作してあるし都合良く解釈するような流れを作ってあるから大丈夫よ」

「それは俺もか?」

「あなたの場合は本人がいるわけだから、外にいる時は得意の隠身をするといいと思うけど」

「なるほど」

 杏寿郎が二人いるのを目の当たりにして、先ほどは千寿郎が卒倒しかけたわけだけれど。彼ほど杏寿郎を心の拠り所にしている人はいないだろうし、杏寿郎が二人いるぐらいなんとかなるだろうと判断した。

「それで元の世界にはいつ帰れるのだろうか」

「急いで帰りたい理由があるの?」

「そういうわけではないが」

 杏寿郎が彼の世界に残してきた私を心配していることはすぐにわかる。

「この世界の人たちと話したい人もいるようだから、2日ぐらいはゆっくりしていけばいいじゃない。

 元の世界には行ってすぐ帰ってきたぐらいの時間で返してあげるから」

 そのためには彼らが来た時の術式を読み解いて、帰還する際の術式を新たに組まなければならない。

 普通に生活しながらだと完璧な術式を組むには相応の時間がかかってくるわけだ。そのあたりを彼らにもかいつまんで説明した。

「そんなに大変なのかー」

「俺たちで何か手伝えることがあれば手伝おう」

「えぇ、この家のことなら誰より理解していますから」

 杏寿郎と瑠火が頷きあいながらそう言ってくれる。

「別行動している人たちとの連絡は──」

「鎹鴉に頼んでおいた。何、もう鬼はいないんだ。急な用事も他にないだろうし」

 カァと外から声がする。庭先を確認すると見覚えのある鴉たちと視線が合った。

 

 

●64

 

 傷付き倒れた私を小芭内さんが他の隊士たちに預けて戦場に戻っていっていってしまった。

 

 私も一緒に戦う! まだ頑張れるから置いていかないで!

 

 泣きながら後ろ姿に声をかけても振り返ってもらえることはなく──。

 

「──確かにあれを太陽だと言うには無理がある」

「あれが光柱だとして、術を解く事が本当に得策なのだろうか」

「既に夜明けの時間だ、このまま鬼舞辻無惨を焼き殺すよりは──」

 私の頭上で会話をしている。

 閉じていた瞼を開くと私を覗き込む小芭内さんの顔が間近あった。かぁと顔を赤くする。

「良かった。目が覚めて。先ほどから眠りながら泣いていたようだったが、悪い夢でも見たのか?」

 小芭内さんの手にはハンケチが。どうやらそれで涙を拭ってもらっていたらしい。

 

 ──夢。

 

 今まで置いていかれるようなことはなかったから、何かの暗示だったのか……それとも……。

 私は思わず小芭内さんに抱きついてしまった。

「蜜璃」

 小芭内さんが抱きしめ返してくれて、よしよしと背中をさすってくれる。

 

 そうしながら現在の状況を話して聞かせてくれた。

 

 ──そうだったわ! 私も鬼舞辻無惨と戦いはしたけれど、不規則な動きをする広範囲の攻撃についていけずに傷を負って意識を失ってしまっていたのだった。

 だけれど今は。

「どこも痛くないわ──」

 自分の身体を見下ろすと、ぼろぼろになった隊服すら元通りになっているようだ。

「あぁ、そうだろう。この場所は光柱の術の範囲内。

先ほどまで戦っていた者、おそらく命を失った者も蘇っている。

 そして鬼舞辻無惨はこの光を浴び、苦しんで逃れようとしていてな」

 小芭内さんが指差す方が確かに騒がしい。大きな赤ん坊の姿が見えたようだが、あれが鬼舞辻無惨だろうか。

 周囲の瓦礫を取り払い、より光を浴びさせるように車をぶつけたりもしていた。

 

 これで鬼舞辻無惨に勝てる。ような気がするのだが、何か気になって、ひどく不安な気持ちになって──。

 小芭内さんの羽織を握った。

 その手に彼が手を重ねて、私に声をかけてくれる。

「蜜璃。君にはユリの術を解除を、杏寿郎の手伝いをしてきてほしい」

「!? 煉獄さんはご無事なの?」

「あぁ、鬼化も既に解除されている」

 ──良かった。安堵の息をつく。

「術を解くか解かないか意見はふたつに分かれたが、既に夜明けの時間でもある。

 あとは俺たちでなんとかしようと先ほど決着がついた。君は眠っていたから、君の意見まで聞くことは出来なかったが」

 すまないと謝られたが、そんなこと! 眠っていた私が悪いのだから。

「小芭内さん!」

「わかってくれるか?」

 こくりと頷く。

「小芭内さんは一緒には来てくれないの?」

「──術が解けてしまえば、先ほどまでの鬼舞辻無惨との戦闘が再開させる。俺はまだあの攻撃に人よりついていけていたから、こちらに残る方が良いだろうということになった。

 君をこの場から遠ざけたい気持ちが、まったくないと言えば嘘になるが。君は誰かのために行動する時に最も成果の出せる人だ。

 だから今は、杏寿郎の手伝いにまわってほしい」

 小芭内さんが優しく言葉をかけてきてくれて、なんでかしら涙が音もなく溢れた。

「俺は君を泣かせてばかりだな。悪い男だ」

 抱きしめられて、彼の腕の中で頭を左右に振る。

 小芭内さんは私を認めてくれて、煉獄さんを助けに行くよう言ってくれていることがわかったから自分が嬉しくて涙を流しているのだとようやく理解することが出来たのだから。

 

 ○ ○ ○

 

 以前、任務帰りにユリさん狛治さんとたまたま会う機会があった。ちょうどお昼の時間で、私の行きつけのお店で一緒に食事をすることになって。

 

 狛治さんは一人分の食事を口にしたら、外で待っていますと出ていってしまった。私が沢山食べるから見ていられなくなってしまったのかしらと箸を止めて心配していると。

「私たち二人で話したいことがあるんじゃないかと気を使ってくれたみたい」

 私を見ながらユリさんがそう言ってくれた。

 なるほど、そういうことだったのねと私は気を取り直して食事を続けユリさんとの会話も楽しんだ。

 

「まぁ本当に!?」

「えぇ、どうも私は彼に心配をかけてしまっているようで」

 ユリさんから煉獄さんの話を聞いて驚く。そうして自分自身も小芭内さんにはいつも心配をかけている気がして、

「それは私もかもしれないわ」

 と言うと。

「まさか」

 ユリさんは私を励ましてくれた。

 人の傷を癒すことの出来る彼女はとても凄いと思うし、私なんていてもいなくてもと思っていた私を見透かすように。ユリさんは私のことを褒めてくれる。

「蜜璃さんは何も意識しなくても、周囲の雰囲気を良くすることが出来てすごいなと思っていたの」

「そ、そんなこと!」

 恥ずかしくなってそんな言葉をつい返しても、微笑みあい優しい時間を過ごした。

 

 自分がやれることを精一杯やる。

 人が出来ること、自分で出来ないことがあっても出来ることを頑張ればいいと思えるようになった。

 

 煉獄さんの足場になる。

 少しでも高く、長い時間跳んで。

 

 ユリさんを助けるための作戦は聞いたこともないような内容だった。

 

 上手く出来るかしら? そう思うこともあったけれど。

 

 早くこの術を解かなければ、ユリさんとは二度と会えないかもしれない。そんな風に聞いて、私は絶対に上手くやりきってみせるんだと心に誓った。

 

 

●65

 

 ユリさんのいる真下あたり、あまりに光が強いので所々天幕が張られている。

 

 ──本当に本物の太陽みたい。

 

 その天幕の下、何か真剣にたくさんの隠たちが読み書きをしていた。

 

 一体何をしているのかしら、覗き込んでも私にはよくわからなくて──。

「蜜璃さん」

 声をかけられて顔を上げると、しのぶちゃんの姿があった。

「しのぶちゃん!」

 蟲柱を辞めることになったと聞いた時はひどく驚いたが、見かけると嬉しくて笑顔で駆け寄ってしまう。

「もう測定は終わったんですか?」

 測定というのは全力で跳躍した場合に、どこまで跳べるのかを先ほど測ってもらったことを言っているのだろう。

「えぇ、あとは決行まで待機と聞いたから。

 みんなが何をしているのかなと思って見て回っていたの」

「そうですか」

「みんなとっても集中していて、声をかけるのも申し訳ないかしらと思って。何をしているかしのぶちゃんは知っている?」

「はい。彼らには今、古い預言書を読み解いてもらっているところです」

「預言書?」

「はい。彼らは那田蜘蛛山の時も古い文献を読み解いて協力してくれたんですよ。

 今回はこの地方に古くから伝わる預言書に、ある謎を解くことが出来ればこの地に眠る精霊の加護を得ることが出来ると記述があったとかで──」

「まぁ! そんなことが!」

「あとは実際ユリさんのところまで跳んでいけるものか計算してくれている人もいますし、測定した数値を参考に跳ぶ順番を決めてくれている方もいます。

 どちらもそろそろ答えが揃います」

 ね? としのぶちゃんに声をかけられて、近くにいた隠たちがはい! と大きく返事をして更に筆記の速さを上げる。

「私よりも小芭内さんにこちらに来てもらった方が良かったかしら……」

「あら、なぜですか?」

「小芭内さんの方がこういった考えて答えを出すようなことは得意だと思ったから」

「そうかもしれませんが、蜜璃さんがこちらに来てくれて皆さん喜んでくれていますよ」

 こくこくと何人もの人たちが頷いてくれているので、思わず顔を赤くして狼狽えてしまった。

「そ、そうかしら!? 喜んでもらえたのなら嬉しいわ!!」

 

 その後は跳躍の練習、鬼を追いかけたりする時に誰かに足場になってもらう時はあったけれど──。

「キャー! ごめんなさい! 痛かった!? 大丈夫!?」

 思い切り顔を踏んでしまって、慌てて謝った。

 鼻血を出しながらも、どこか嬉しそうな様子で大丈夫ですも言ってくれている。

「あらあら」

 いつの間にかしのぶちゃんが近くまできてくれていて。

「蜜璃さん、準備が整いました。向かいましょう」

 どうやら私を呼びに来てくれたらしい。練習に付き合ってくれたみんなにお礼を言って、煉獄さんたちがいる場所に向かう。

「これまで誰かと協力して鬼と戦うことはあったけれど──」

「こんな風に協力しあうのはめずらしいですね」

「そうよね! なんかドキドキしちゃう……」

「──私も参加できれば良かったんですが」

 寂しそうな様子のしのぶちゃん。

「私が! しのぶちゃんの分まで頑張るから!」

 しのぶちゃんの両肩に手をあてて言う。

「ふふ。ありがとうございます」

「そうだわ! しのぶちゃんとユリさんと今度一緒にお出かけするっていうのはどうかしら!? とっても楽しそう!」

「あら、蜜璃さんもユリさんのことをユリさんと呼んでいるんでしたね」

 そう指摘されてはっとなる。そういえばそうだ。

「一緒に出かけるなんて、そういえば考えたこともありませんでしたが。

 ──もう考えてもいいんでしょうか」

 この光の下で鬼舞辻無惨を確実に追い詰めていた。

 極力光を浴びさせるように立ち回っている音が聞こえ続けているから。小芭内さんのことを考える。

「もちろん! 煉獄さんにも言われたの!」

 

 

 そう。あれは私がまだ煉獄さんのことを師範と呼んで手合わせをしてもらっていた頃。

 

「師範は、誰かとお付き合いしたりはしないんですか?」

 休憩中。こんなに素敵な人がどうして浮いた噂のひとつやふたつないのだろうかと疑問に思っていたことが不意に口から出てきてしまった。

 言ってしまってからしまったと、なんて失礼なことを聞いてしまったんだろうと口を両手で抑える。

「すみません! 失礼なことを──」

 煉獄さんは飲みかけていた水を置いて、ふと笑いながら。

「ある程度の年齢になれば、誰か親しい相手が出来るもの。それが普通だと俺も思ってはいるが──」

「それはお相手がいるということですか!?」

 思わず聞き返す。

「いるいないで言えば、今はいない」

 その言い方だと前はいたということかしらと。更に気になってしまう。

「昔、この人という相手に出逢ったんだ。

 出逢った場所はまるで夢の中のような不思議なところで──。

 その相手と再会の約束をした事は、幸いしっかりと覚えていたから。俺はその相手を待っていたいんだ」

 どこか遠くを見てそう言う煉獄さんの表情は恋をしていた。その相手がどれほど大事な人なのか教えてくれた。

「自分から探したりはしないんですか?」

 私がそう言うと、煉獄さんは少し驚いた顔をして。

「そうだな。ただ待つよりは俺も探せば再会が早まるかもしれない。

 何よりも必ず再会出来る。そう信じていることが力になるからな! さぁ手合わせを再開しよう!」

 私の頭に軽く手を置いて煉獄さんは笑った。

 

 

「絶対できる! 信じることが力になるって!

 鬼舞辻無惨も倒せる! ユリさんも無事だって信じてるから!」

 しのぶちゃんは優しく微笑んでくれる。

 煉獄さんがユリさんを見つめる表情はあの頃と同じだったから、きっと再会出来たんだわと私は確信した。

 

 ユリさんなら煉獄さんと出逢った頃の話をしっかり覚えているのではないか。そんな煉獄さんとの幼い頃の思い出を、しのぶちゃんと一緒に聞いたら。

 ──きっとときめきが止まらないわ。きゅんきゅんするに決まっているもの。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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