【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
無限列車編のその先に。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


46仕舞い編81〜85

●81

 

「だ、か、ら! 駄目です! 駄目ー!!

 天元様は参加できないんですってー!!!」

 暴れる須磨を小脇に抱えながら廊下を歩く。俺のもう片方の手には須磨が部屋に持ち込もうとしたお茶の入った大きめの急須が。

 気配から察するに見知った顔が、屋敷の一室に集まっていることは知ってはいたのだが──。

 ねずみ達から何やら面白い話をしていると聞いて、ちょうど部屋から出てきた須磨を捕まえてどんな話しをしているのか聞こうとしたら断られ今に至る。

「邪魔するぜー」

 障子を開けて中の様子を窺うと。

「お帰りください」

 にこやかにしのぶが第一声を発した。

「須磨! あんた何やってんだ!」

「ひぃん! 駄目だって言いましたよ!」

「天元様、この場は女性だけの席となっておりますので──」

 雛鶴までもが申し訳なさそうに俺に退室を促してくる。

 しかし、部屋の中にはユリもいる。

 となると俺の来訪はわかっていたはずだ。避けるつもりならここに集まらない等、何らかの方法で避けることも出来ていただろう。

「世界がすっかり平和になって暇なんだよ。

 女同士の内緒話、旦那の愚痴でも大歓迎だぜ。

 俺は口の堅い男だぞ」

 蜜璃が吹き出しそうになり、肩をふるわせて笑い声を出さないように堪えていた。

 

 なんとか全員のお許しをもらってその場にとどまることが出来た。ユリの旅行の企画者側からも協力者がいてもいいだろうという発言がかなり効いたようだ。そうして何を話し合っていたのか聞いてみたところ。

 

「なるほどなぁ。今度の旅行でカナヲの恋を応援しようと?

 お相手の炭治郎自身はどうなんだ?」

 視線を向けた方にいるのは禰豆子、鬼であった頃とは違い今はしっかりと髪を結い上げている。

「お兄ちゃんとカナヲさん、かなりいい感じだと思います! でもお兄ちゃんからカナヲさんへの対応としては、優しいんですけど特別感? みたいなものがなくて……」

「伊之助くんも無一郎くんも炭治郎くんが大好きですもんね」

 困った様子でしのぶの発言に頷きを返しつつ。

「カナヲさんより頻繁に会いに来てると思います」

 真面目な顔でそう言った。

「ふぅむ」

 顎に手をやり考え込む。

「ぶっちゃけ炭治郎と煉獄は似たところがないか? そういう意味ではユリから見てなんかないのかよ」

「なんかとは?」

「あの堅物の煉獄をものにしたんだから、何か必勝法みたいなものがあっただろう?」

 むぅと渋い顔をするユリ。他の面々も興味津々だ。

「杏寿郎は裸に弱いわ。結婚してほしいと言われた時も裸を見られた時だったし、関係が変化した時も私は服を着ていなかったから」

「それは裸で迫ったということか?」

「違うわ!? 別に服を脱ぐつもりはなかったのに脱げてしまって、鼻血を出した杏寿郎のことを心配したら何故だか喜ばれたような感じよ」

 当時を思い出すようにして指先を口元に添えて密やかに言う。

「またそれは随分大胆なことを──で、わかっただろ? やっぱり堅物の気持ちを変化させるのは露出だよ。それしかない!」

 胡座をかいていたところ膝を叩くと大きな音がした。一度は提案して全員から否定されたことを今一度口にする。

 ユリと杏寿郎の話を聞いてからだと妙な説得力があり、全員が思い思いに顔を見合わせながら頷いていた。

「ちょうど煉獄と行き先を山にするか海にするか話し合っていたところだ。俺は山にしようと行っていたが、そういうことなら海にしよう!」

「!?」

「海といえば水着! ちょうど水着に関して面白い考えをしている奴に心当たりがあるから、俺の思いつきもあわせてお前らの水着をド派手に演出してやるぜ」

「嫌な予感しかしませんが」

 しのぶの発言はあえて無視をした。

「俺に任せろー!!!」

 

 ○ ○ ○

 

 青い海、白い砂浜、照りつける太陽。

 

「君が行き先を海にしようと言い出した時は、何かあるのだろうなと思ったが──」

 離小島への遠泳をすることになり、屈伸運動や手足を動かして普段とは違う身体の部位を意識する。

 隣で同じようにしている宇髄に声をかけると、彼は口の端を上げてニヤリと笑ってみせた。

 

 対水中行動用にと作成されていたという隊服は布面積が非常に小さいもので。男用として用意されたものは腰のあたりを覆うだけで、他の部位は丸見えだ。

 そして女性陣が現れた時は──。

 誰もが悲鳴を上げながら皆自身が肩にかけていた羽織を女性たちの肩にかけ前を閉めさせたものだった。

「杏寿郎! 日焼け止めは?」

「後にしよう!」

 ぬるぬるとした液体を彼女の手で全身に塗りたくられるなど……どうなってしまうか想像は容易だった。

「よもやよもやだ! 君こそ覚悟しておくように!

 後で俺がそれを君の全身に隈なく塗るのだから!」

 遠目からでもわかるぐらいユリの顔が赤くなる。

 

 遠泳最下位になったら、それぞれの羽織を身に付けている女性の水着姿をあらわにしなければならないと宇髄が言い出し。

 

 なぜか宇髄の嫁たちは、宇髄ではなく他の者の羽織を肩からかけていた。

「全員納得して水着姿になってるんだから、出し惜しみする必要はないと思うがねぇ」

「いけません! 宇髄さんですか!

 女性にあんなあられもない姿を強制するなんて!」

 炭治郎が頬を膨らませながら宇髄に食ってかかっている。彼は真っ先にカナヲの肩に羽織をかけて心配していた。

「おい、炭治郎。俺に構ってていいのか?」

 離島への遠泳は自己申告で泳ぎの不得意な者から先に泳ぎ始めることになっている。

 山育ちの炭治郎は当然早めの泳ぎ始めのはずだが。

「絶対負けませんから!」

 頬を膨らませて、早めに泳ぎ始める集まりに走っていった。

 

「そもそも勝ち負けで水着姿をどうこうしようなどと──」

「勝負事は何か賭けた方が盛り上がるだろ!」

 一足先に宇髄は海水に飛び込んでいく。その後浮かび上がる事はなく──どうやら息を止めて海中を泳いでいるらしい。

「杏寿郎。髪の毛をもっとちゃんと束ねた方がいいでしょう」

 ユリが水着の生地で作られた紐を持ってきてくれた。

「私が結んであげるわ」

 彼女が両手を上げると自ずと前が開いてしまう。昼の時間に見る裸同然の姿はなかなか刺激的だ。

「紐だけ受け取ろう。その両手はしっかり前を閉じることに使ってくれ」

「まったく、隠さなければならないところはちゃんと隠れているのだから気にしなければいいのに」

 呆れ顔のユリだったが、嬉しそうにしている様子もある。

「その水着は甚だ前衛的すぎるぞ!?」

「そうなの?」

 遠くで義勇の羽織に袖を通したしのぶが片手を振って。

「ユリさーん! こちらで西瓜でも食べていませんか?」

 男たちの遠泳勝負など気にする様子もなく女性たちは自由に浜辺を満喫しているようだった。

「君も君で楽しんでくるといい」

「そうね。そうするわ」

 飛び込もうとしたところで、再び名前を呼ばれ振り返り軽く唇が触れて。

「頑張ってね」

 抱きしめたくなる気持ちを堪えながら海中へと飛び込んだ。

 

 

●82

 

 昼間の馬鹿騒ぎが嘘のように、ただ波の音が繰り返される浜辺を歩く。

「……」

 すると一人で海を眺め、物思いに耽る炭治郎がいた。

「炭治郎!」

 声をかけるとびくりと驚いた様子で。

 よほど集中していたのだろう。

「れ、煉獄さん!?」

「驚かせてしまったか」

 おそらく遠い昔この浜辺に流れ着いたかなり乾燥した流木に腰掛ける。

「ここに座るといい」

 隣のあたりを手で示しながら、座るように声をかけると。

「はい!」

 緊張した面持ちで炭治郎が隣に座る。

 昼間は聞かされていなかったが、先ほどユリからどうしてあぁなったのかの経緯は聞くことが出来。

 ──俺としては炭治郎側の立場でいるべきだろう。

 そして機会があるのなら、彼の考えを一度聞いてみたいと思っていたところだった。

「……」

 といっても、炭治郎からすぐにそんな話題が聞けるとも思っておらず……。

「昼間のことを考えていたのか?」

「……はい」

 山育ちの炭治郎なりに遠泳はかなり頑張ってはいた。

 しかし最後の最後で溺れてしまいカナヲが慌てて助けるために海に飛び込んだのだった。

 結果、炭治郎はカナヲの水着姿を見せない為に頑張っていたわけだが。羽織を着たまま飛び込むことも出来ず。人目についたからという理由で水着姿を見せる見せないという話はうやむやになり──。

「──不甲斐ないです」

「人間得手不得手があるものだ。

 それにあの姿は彼女らも納得して身につけていたようだし。今は考えられないことだが、このまま平和な時代が続いたらあの姿が普通になる時がくるのかもしれないな」

「考えられません」

 炭治郎は、はぁと深く息を吐いて肩を落とした。

「カナヲを守るために炭治郎は頑張っていた。

 ──彼女も喜んでいただろう?」

「はい。気にしないでとも言われたんですが……」

「君がそこまで考え込むのは、上手くいかなかった事への後悔だけではなさそうだ」

 俺の言葉に頷いて。

「煉獄さんは──」

「?」

 こちらに視線を向けて、何か言いかけ。俺が見つめ返すと改めて言葉を選び直したようだ。

「煉獄さんにとって人を好きになるということはどういうことですか?」

「好きになるというと、どの程度のものだろうか?」

「煉獄さんは既にご結婚されていますし、そのあたりの気持ちについて教えていただけたらなと」

 なるほどと頷いて。

「俺にとっては変化だった」

「変化ですか?」

「ユリと出逢ってから、今まで思いもしなかった事を思うようになったし知らなかった事を知る事になった。

 まさか自分自身が、嫉妬したり彼女を独占したいと思うとは思ってもいなかったな」

「嫉妬!? するんですか? 煉獄さんが?」

「彼女と親しげに話している相手がいたら、つい俺も会話に参加してしまうな。

 存外自分の器はまだ小さいなと気付かされることが多い」

「……」

「そういう変化も含めて、彼女と共に歩みたいと思った。だから俺は今ここにいるのだろう」

 そうか──変化か。と、呟くように言って炭治郎は再び考え込んでいるようだ。

「炭治郎! 君はこれからどうなりたい?

 鬼のいない世界で何を望む?」

「俺は、ずっと人の幸せを願っていました。

 でも禰豆子にそれは自分のことを後回しにしていると言われて」

「人には色々な生き方がある。こうしなければならないという事はない」

「はい。俺自身が納得してどうしたいのかを改めて考えたいと思います」

 よしと炭治郎は勢いよく立ち上がった。

「──前に俺はすごく鼻が良くて、人によっては何を考えているのかわかる事があると話したことは覚えていますか?」

 もちろんと頷く。

「俺の父と母はとても仲の良い夫婦で」

「うむ」

「煉獄さんユリさんからも同じにおいするから嬉しくて」

 はにかむようにして炭治郎は笑った。

「それは俺からもユリからも同じにおいがするものなのか?」

「はい。なんというか幸せそうなにおい。好き合っているんだなということがわかるような優しいにおいです」

「そうか」

 考え込むような仕草で口元に手をやる。

「どうしました?」

「ユリは俺にそれほど愛情表現をしないから、それでも同じぐらいの気持ちでいてくれているならそれはとても喜ばしいことだなと思ったんだ」

「え?」

「うん?」

「ユリさん、愛情表現してますよね?」

 

 ──よもやよもやだ。

 結局あれからしばらく会話を続けて、俺も炭治郎も自身に向けられた好意というものにひどく鈍感であるということに気付くことが出来た。

 

『え? そんなまさかカナヲが俺を──』

 

 カナヲの好意に炭治郎が気付いたというのは、大きな前進ではないだろうか。

 

「──ユリ」

 部屋に戻って静かに声をかけると、彼女は椋寿郎とルリに添い寝をして手をぽんぽんと身体にふれさせている姿を見かけた。

「二人共もう寝たのか?」

「えぇ──。

 なに?」

 近付いてユリの身体を引き寄せると。

「──あら、天元救出はしてこなかったの?」

 と、身体を預けながらぽつりと彼女は言った。

「!!」

 

 ○ ○ ○

 

「うわーん!!! このままじゃ天元様が死んでしまいますー!」

「須磨! 泣いてる暇があったら手を動かすんだよ!

 天元様、何か忍術でどうにかなりませんか? 変わり身の術とか──」

「あれは攻撃を受ける前にどうにかする術だ。

 こんな砂の中に縦にしっかり埋まっている状態でどうこう出来るものじゃねぇだろうが」

「みんな! 早く砂を掻き出して!」

 女達に激しく露出した水着を提供した罰として砂浜に縦に埋められて数時間、満潮の時間までには煉獄が助け出してくれるはずが……なぜか来なかった。

 ムキ! ムキ!

 ムキ!

 ねずみ達も砂を掘ってくれているが、波飛沫は既にかかり始めており。

 ムキー!!

 ムキッ! ムキキッ!

 流されそうになるねずみを他のねずみが助けたりと慌ただしい。

「だめだ。間に合わん! お前たちだけでも逃げろ!」

「そんな! 天元様!」

「天元様ー!!! 死んじゃ嫌ー!!!」

 須磨に抱きつかれ首が嫌な音を立てた。また俺はろくに言葉を伝えられずに死ぬのか!? いや、前回は死にはしなかったが。

「あらあら、首の角度がいつもと違ってより男前になったんじゃない?」

「「「ユリさん!」」」

 

 その後、ユリが砂に手を入れてごにょごにょと何か理解できない言葉を口にすると。俺の身体は砂から吐き出されるように飛び上がった。

 

 

●83

 

 二人で宇髄と共に廊下を横並びで歩きながら。

「お前、あの俺が埋められる前の目配せはなんだったんだよ」

「面目無い!」

 途中までは宇髄を助けに行くつもりが、炭治郎との会話が思いもしない方向に進みすっかり忘れてしまった。

「気が抜けすぎだぞ。俺が死んだら一大事だろ」

「返す言葉もない! 奥方達に顔向け出来んな!」

 

 ユリに天元を助けてこなかったことを指摘されて、しまったとすぐ行動に移そうとしたが。ふぅとユリに息を吹きかけられると身体から力が抜けてしまった。

『あなたが走っていくより私が行く方が早いでしょう。この子たちと一緒にここにいて』

 瞬間目の前から彼女の姿は消える。

 戻ってくるのも一瞬だった。

『まったく──らしくもない。天元は貴方が助けにくるものと思い込んでいたようよ。

 まぁでも夫の不始末は妻が助けないといけないわよね?』

 でも──と彼女の口から言葉が続く。

 

「煉獄が来て力任せに引き抜かれるよりは、ユリに世話になった方が良かったかもな。

 それにもし死んだとしても、ユリなら助けてくれるだろうし」

 頭の後ろに手を組んで宇髄は言う。

「宇髄!」

 俺は立ち止まり、数歩先にいる宇髄に声をかける。

「ユリは俺に言った。彼女が助けてくれると思って行動するのならいずれ見限る時がくるぞと」

「いやいやいや、それは煉獄に言った事だろう?」

「ユリがわざわざ全員に対して宣言するものでもないだろう。つまりはこの発言は全員に対するものと思うべきだ」

 ふむと顎に手をやり考えこむ。

「急いで怪我や病気を治す必要もなくなったからか──」

「おぉい。お前らまだそんなところにいたのか」

 不死川が俺たちに声をかける。早く早くと急かされ。

「そういやもう胡蝶ご希望の百物語の時間だったな」

「まさか一人で五十話はいけると言い出すとは──それだけ熱意があると叶えてやりたくなるものだ」

 大部屋にユリと子供たちを除く全員が集っていた。

 ユリとは俺が途中で交代することになっている。

 参加している人々の表情は楽しんでいる者もあり、恐怖の類で引き攣っている者も。

「──そうして、恐る恐る包帯を解き傷口を確認すると。

 その傷口にはフジツボがびっしりと!!」

 善逸が悲鳴を上げて卒倒した。

「善逸さん! しっかり!」

「善逸!」

 禰豆子と炭治郎が善逸を介抱している。

「おいおい、何度目だぁ?」

「というわけで、海で傷を負った場合は速やかに医療知識のある者へ申告するようにしてくださいね」

 にこにこと笑いながら胡蝶はふぅと蝋燭の火を吹き消した。

 

 ○ ○ ○

 

 煉獄と入れ替わりユリがやってきた。

 さっそく一話、話して聞かせてくれるという。

 

「昔、ある漁師が浜辺で倒れていた女を助けたの。

 その女はとても美しい容姿をしていて、漁師は一目で彼女を気に入って二人が夫婦になるまでさほど時間はかからなかったわ。

 

 数年の月日が経っても、女の容姿が大きく変わることもなく。村の人々からお前の女房は不老不死の人魚なのでは? と冗談を言われるようになったけど、漁師は笑って聞き流していた。

 

 そんな時に漁師の母親が重い病気にかかってしまい寝たきりになってしまって。

 漁師は女に言ったの。

 

『お前が本当に人魚だったら、その血肉をほんの少しでもオラのおっかぁに分け与えてくれたら、おっかぁは昔のように元気になるのにな』

 

 他愛のない雑談のつもりで漁師は言ったけれど。

 言われた方はどう思ったかしら?

 

 それから数日の内に、漁師の母親は日増しに元気になっていったわ。

 どうしてか? 漁師は母親に聞いたけど、母親は言いづらそうにするばかりで決して理由を話そうとはしなかった。

 

 そんなある日、漁師の母親と同じ症状で大地主の妻が倒れてしまい。大地主は漁師にどうして母親が元気になったのか教えてほしいと何度も何度も足を運び何度も何度も頭を下げたけど。

 漁師が母親が元気になった理由を話すことはなかった。どうしてかは彼も知らなかったことだからね。

 

 そんな時に、大地主は漁師の妻が人魚でその血肉によって漁師の母親が元気になったという噂話を耳にして。

 

 最初の頃は半信半疑だったけれど。使用人たちに漁師の妻の様子を探らせる内に、漁師の妻は異常なほどに傷の治りが早いという報告を受けた大地主は悩んだ末に漁師の妻を裏の世界の人たちを使って捕らえさせたの。

 

 大地主は自身の妻を救うために、漁師の妻を切り刻み。

 

 大地主の妻が回復の兆しをみせた矢先、呆気なく漁師の妻が死んでしまい。続くように大地主の妻が、更に続いて漁師の母親も息を引き取ったわ。

 

 以来、その村ではどこからともなく。

 

 ──カエセ、カエセ。

 

 という地の底から聞こえるような重く響く声が聞こえてくるそうよ。

 

 漁師の妻は本当に人魚だったのかしら?

 

 でも、死んでしまったのだから不死ではなかったのでしょうね」

 

 ユリがふぅと蝋燭の火を吹き消した。

 

 こわっ。

 

 何が怖いって煉獄と入れ替わるために部屋を出ようとしたユリに、どこでそんな話しを見聞きしたのか聞いたらついさっき声の主から聞いたと話された時は頭から冷水をかけられたような寒気を感じた。

 

 

●84

 

 提灯を手にため息まじりに不死川さんが、

「まったく怪談話の後は肝試しだなんてよォ」

「あら、ただの怪談話ではなかったんですよ。

 先ほどまでしていたのは百物語。怖い話を百話続けて一話ずつ蝋燭の火を消していくことで、それはひとつのまじないとなり本物のもののけが現れるとも幽霊を呼び寄せるともいいます──しかし結局部屋が真っ暗になっただけで何も起きませんでしたね」

 残念残念と口にしながら足取り軽く、私の肝試しのお相手となった不死川さんの隣を歩いていた。

 そもそも今回の集まりは女性の方が少なかったので男女の組み合わせになる方がめずらしい。

「鬼を相手に闇の中で戦っていたんだ。今更何を怖がる?」

「それとこれとは別ですよ。不死川さん」

 海岸近くを歩いているので波の音が心地良く聞こえる。

「私は物心ついた頃から怖い話が苦手でした。怖い話を見聞きした夜は姉を困らせるぐらい怖がってしまって……」

「それがどうしてあんなに流暢に怖い話が出来るようになるんだ?」

「それはもちろん克服したからですよ。どうして私がそんなに怖い話に恐怖するのか、よくよく分析してきちんと理解しました。そうしたら怖くはなくなった。

 幽霊の正体は柳の木だと知ったような感じですね。それに霊感というものが私にはまったくなかったので、そういうところも良かったんだと思います。

 恐怖が興味に置き換わることで、私の趣味のひとつになったぐらいですし。平和になった昨今は読み物を読んだり、落語を聞きに行くこともあります」

「そりゃ良かったなァ」

 不死川さんがふと笑ってぽんと私の頭に手が置かれる。悪い気はしない。ごく自然に行われた動作で、頭に置かれた手はもうそこになく。不死川さんはいつもの表情で周囲の様子を探っていた。

「不死川さんは誰かいい人見つかりました?」

「なんだァ? 藪から棒に」

「そうでもないと思いますよ。平和になった世界で添い遂げたい相手を見つけて、結婚して幸せになるというのはあるべき姿でしょう? 私だって義勇さんと結婚しましたし」

 左手の薬指に指輪を見ながら、手をかざし月を見上げ。

「──俺はそういうのはいらねぇ」

「まだ忘れられませんか?」

 不死川さんの横顔を見ると、姉と二人並んで歩いていた姿を思い出す。

「忘れるとか忘れないとかそういうことじゃねぇんだよ。

 ──まぁでもそうだな。玄弥が相手を見つけて幸せになったらその後に考えてもいいかもな」

 また心にもないことを。

「不死川さんは人気がありますよ」

「なんだそりゃ?」

「不死川さんがその気になったら結婚したいという女性は多いですよってことです。私が紹介しましょうか?」

「勘弁してくれ」

 困った様子の不死川さんを見て、ふふと笑う。

「こうして二人でゆっくり話しをするのも珍しいですね」

「そうだな。しのぶの隣にはいつも旦那がいるからなァ」

「そのことについては不死川さんも何か言ってください。あの人ちょっと目を離すと私がどこかにいなくなるからって本当にそばから離れなくて。鬼のいない世界で私がいなくなることなんてないのに」

「何かあるかもしれないだろうが。

 事故とか怪我とか」

「全集中の呼吸は使えずとも身体能力は並の人より上のつもりなんですがね。

 そうそう。不死川さんは寝ている時に夢をみますか?」

 また話題が変わったと、呆れたような表情をこちらに向けて。

「みない」

「そうですか。でもそれはみてはいるけど覚えていないだけかもしれませんね」

「……」

「私はよく夢をみるんです。

 蝶屋敷での他愛のない夢なんですが、なぜか夢の中では苦しいような切ないようなそんな気持ちでいて」

「……」

「夢から覚めると、その夢の中に姉がいたことに気付き同時に私は泣いている」

「良かったじゃねぇか。会いに来てるってことだろ?」

「あら、意外と空想的ですね」

 そういうことじゃないのかと不死川さんの顔にかいてあるようで笑ってしまった。

「それなら不死川さんは夢をみているはずでしょう?」

 ふぅと息を吐く音が小さく聞こえる。

「……」

 月明かりに照らされた横顔はどこか寂しげで。

 運命が少しでも違っていたら兄となっていたかもしれない不死川さんの事を、私は思っていたよりも気にしていることに気付くことが出来た。

 

 ○ ○ ○

 

「いかさまをするのはやめなさい」

「してないって!」

 といっても相手がユリならバレるが。

 たまには二人で会話もしたくて肝試しの組み分けに少しだけ細工をした。なにしろ嫁が三人もいると、誰か一人と二人きりというのも気を使うものだ。

 暗い夜道も特に怖がる様子もなく俺を置いていく勢いで進んでいく。

「おーい。もっとゆっくり行かないと間隔が狭まっちまう。

 ──にしてもユリさんはよぉ、何か怖いものはないのか?」

 何を言い出すんだという視線を向けて。

「私の怖いものを知ってどうするの」

「別に何も? ただ単純に興味があってさ」

「好奇心は寿命を縮めるわよ。

 私が怖いものはそうねぇ……いきなり今までなかった価値観を押し付けるような存在かしら。

 わけもわからない内に子供を身籠もっていると言われた時はどうしようかと思ったわ」

 下腹に両手で触れながらユリは言った。

 予想もしない答えに噴き出す。

 子供がどう出来るかなんてわざわざ相手に説明してからするものでもないわけだし、そういうところでは煉獄は衝動的にやってしまったということか。

「どこからか大きなくしゃみが聞こえた気がするな」

「そう? 特に聞こえなかったけれど。

 いくら夜に強い人たちが集まっているといっても、怪談話をした後に肝試しというのは盛り込みすぎでは?」

「いやいや、この流れがいいんだよ。普段は見られない一面を見ることが出来ればまた感じ方も変わるものだろ」

「……ほとんど既婚者なのに」

「それはそうだがな」

 どこか耳をすます様子でユリが周囲を窺う。

「どうした?」

「人はね。肉体から解放された後に、はじめて精霊たちと同じような能力に目覚めるのよ。

 でもそうした能力に目覚めても普通は存在を維持できないから、ずっと存在し続ける類いのものは災いとか祝福とか人々からも認識されたりして──よほど想いが強い個体だけが唯一残っていくの」

「……」

「この島はちょうど龍脈の上にある。

 そうした想いが眠りについたまま、力を蓄えていたのね。人の考えたものにどれほどの力があるのか、私も興味があったから。百物語というものがどんなものか見届けたわ。

 寝た子を起こすには十分、効果があったみたい」

 ドンと突き上げるように大地が揺れはじめた。

 おいおい、洒落にならん。

 手にしていた提灯を投げ捨て、ユリを抱きかかえると大きな木の上に移動した。

 月明かりの下、視界は悪くない。

「それで? これからどうなるんだよ」

「登場人物が結末を知った物語ほどつまらないものはないでしょう。

 ただ、あなた達で解決できないようなことを私が見過ごすと思う?」

「そりゃどうも」

「それから補足をするわ。肉体を失った想いは、代わりを見つけてそれに宿るの。依代とでも呼称しましょうか。それを壊してしまえばおしまい。ただ心得のない者が無理に壊そうとすると──」

「憑かれたり、祟られたりするってことか?

 ユリは心得があるってことだよな」

「当然」

 指笛を吹いて俺の鎹鴉 虹丸を呼ぶ。

「依代はどこにある」

「感覚の鋭い人であればわかるわ。嫌な気配を感じる方」

 面白くなってきた。普通の肝試しではやはり物足りないなと思っていたところだ。

 

 

●85

 

 胃なのかはたまた別の臓器なのか、この旅行とやらに参加してから自身の胴の部分に鈍い痛みを感じている。

 

 俺は村田。藤襲山で行われた選別試験を冨岡義勇と共に生き残った。彼とは同期だと勝手に思っている。一隊士と柱とでは力量としても存在感としても。

 戦いが終わった後に、彼の鎹鴉が文を持ってきた時は何かの間違いではないかと思ったが。

 

 思っていたよりも俺は彼から認識されていて、ある程度頼りにもされているようだったから悪い気はしなかった。

 

「旅行?」

 冨岡がこくりと頷く。

「まさか新婚旅行に付き合えとか、そういうことじゃないよな?」

 頷きが返ってくる。

 結婚したばかりだけど、たまには息抜きでもしたいということかな? 念のため元蟲柱、しのぶさんにも顔を合わせた際に確認してみた。

「あぁ、そういう予定もあるようです。

 村田さんの予定が合うようなら付き合っていただけると良いかと思いますよ」

 そんな言葉が返ってくる。

 どうせ行くとしても一泊二泊ぐらいの男旅だろうしと機会があるなら付き合うよと返事をしておいた。

 にしても人妻となったしのぶさんの美しさがもう──なんと表現したらいいのか、目が潰れるかと思うほどで。冨岡も以前に比べれば感情が顔に出るようになってきているし美男美女の夫婦というのが、なんとも羨ましい。

 いや、その夫婦の家にこうして呼ばれる俺という存在も人によっては羨ましがられる存在かもなと帰り道、にやけて笑ったりもしたものだった。

 それがどうして──。

 

 旅行の集合場所というところに早朝出向くと、随分と愛想の良い女性が訪れる人々に声をかけている。

 側にいる面々はどこかで顔を合わせた者ばかり、柱ほどの知名度はなくとも甲の〜、乙の〜といえば知らない者の方が少ないだろう。

「おはようございます! お名前を教えていただけますか?」

「む、村田です!」

「村田さんですね!」

 少々お待ちくださいと名前が書かれた巻物を確認してくれているようだが表情がだんだん曇っていく。

 あれー? とか、ないなー? といった心の声が無意識に口に出ているというのも、なんともこちらの不安を誘い。

「まきをさん! この村田って人の名前がないんです! まきをさんの持ってる方に名前が書いてないか見てもらってもいいですか?」

 もう一人同じように声をかけている女性に声をかけると、勝ち気な様子のその人は。

「何言ってんだ? 天元様は同じものを渡すと言っていたじゃないか」

「えぇ? でもないんですよぉ?」

 疑うような視線が集まってしまい。非常に肩身が狭くなる。

 

 そうして──。

「村田ぁ?」

 音柱が事態の収集に登場。着流しを着た美丈夫。周囲にいる女性たちの多くが見惚れているようだった。

 そして見目麗しい二人の女性が、やり取りから察するに音柱の三人の嫁の内の二人だということが理解でき。

「ふむ。なるほどなぁ、なんとなくわかったぜ。お前さんは誰の口利きでここに来た?」

「誰と言われると──」

 冨岡義勇の名を口にする。

「やっぱりなぁ」

 にやりと笑って音柱は自身の顎を撫でた。

「誰か決まったら名前を連絡するようにと伝えておいたはずなんだが、行き違いがあったらしい」

 続けて悪かったと謝られ、いやむしろそこまでしてもらわなくともと言い出しづらい雰囲気になってしまって。

 

 ろくにお会いしたことのない現お館様と御姉妹までもが参加するほどの旅行だった。

 事前にそこまでわかっていたら、俺はきっとこの場にいなかっただろう。

 冨岡のやつめ。悪気がないにもほどがある──。

 

 主にしのぶさんの語りを中心とした百物語を終えて、お次は肝試しだという。

 旅行というには何か毛色の違うものを感じつつ。

 企画者が音柱と炎柱だからか?

 肝試しは二人で参加ということで、俺の相手は誰になるのかとくじを引いたところ当然のように冨岡になった。

 変に気をつかう相手でなくて良かったという反面、何かがっかりしたような気持ちになっている。

 それというのも視界の隅に、炭治郎と蟲柱の継子だったカナヲさんの姿があるからだ。炭治郎は相変わらずの表情でいるようだが、カナヲさんの表情が明らかに違っていた。

「──恋だな」

 間違いない。

「淡水魚がどうした?」

 横にいた冨岡が聞いてくる。

「違う!」

「そうか。やはり大根と共に煮込むのであれば鮭が一番ではないかと俺も思っている」

 そういうことでもないし、この会話を広げたいとも思わないわけだが。冨岡はどこか得意げに語っているようだった。

「あー。えー。

 肝試しというとやはり暗い場所を歩くのだろうから、手を繋いだ方が良さそうだな!」

 可愛い弟弟子の応援をするんだ冨岡! そんな気持ちで言ってみると。

「では胴のあたりをお互い紐で縛るか」

 どこからともなく紐を取り出してみせる。

 なんでこんな時だけそんなに準備がいいんだ!

「冨岡! もう鬼はいないんだ。

 片手が塞がっていても問題はないだろう」

 確かにそれもそうかといった表情をしたので、俺たちは手を繋いだみせた。

 次は炭治郎の番だぞとそちらを見ると──。

 

 ○ ○ ○

 

「さっきは助けてくれて本当にありがとう」

 カナヲは遠慮がちに頭を左右に振った。

「ごめんな──」

「……なんで謝るの?」

 カナヲのためと遠泳に挑戦したのに、結果的に水着姿をあらわにさせてしまい不甲斐ないと思っているから。そう説明しても、

「気にしないで」

 特別気にした様子もなく、どこか遠くを見る様子でそう言うのだ。

 ──カナヲが俺を好きでいてくれるなんて本当だろうか。こんなに綺麗な人が俺を?

 じっと横顔を見つめていると、カナヲが視線を彷徨わせ始め。

「何か──私、変?」

「いいや! まったく! むしろ普段と違う雰囲気の服を着ているから──」

 少しの沈黙。

「可愛いなと思っていたよ」

 我ながら照れてしまうようなことを言ってしまった。

「!?」

 かぁとカナヲの顔が赤くなる。

 そんな時に村田さんと冨岡さんが肝試しの時には手を繋ごうと話していた。

 確かに夜道は危険だ。ある程度慣れているとはいえ、気をつけた方が良いだろう。

「カナヲ」

 手を差し出すと、咄嗟に手を重ねようとしてくれたがすぐに引っ込めてしまった。

「……」

「どうした?」

「──私の手はかたいから……」

「俺の手の方がもっとかたいぞ!」

 そう言ってカナヲの手をとる。

「!!」

「カナヲの手は触り心地がいいな。安心する」

「炭治郎!」

「──嫌か?」

 聞き返してはみたけれど、嫌がられてはいないことはにおいですぐにわかった。

「…………」

 沈黙して俯いたカナヲの横顔を見つめていると自然と笑顔になる。

「なに?」

「いいや。これからもっと沢山カナヲと話しがしてみたいなと思ったんだ」

「──そう」

 短い言葉だったが、嬉しく思ってくれていることがわかって俺も嬉しかった。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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