【完結】旅する物語 白百合異聞   作:masuda028

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【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】
ユリが杏寿郎を探して旅をしている途中、煌寿郎との邂逅前のお話です。

※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


49おまけ:恋雪との邂逅

 

 その日は朝から具合が良かった。

 

 だから道場で父と狛治さんが稽古をすると聞いて、私は1人で大丈夫と2人を見送った。

 

 2人の姿が見えなくなって、わずかな時間で私の体調は急変してしまった。思うように声が出せず、咳が止まらない。苦しくて苦しくて涙が溢れる。

 

『どうしたの?』

 

 不意にどこからか女性の声がした。

 

 咳が止まらないんです。声が思うように出せなくて、苦しくて。そう思っても声には出せなかった。

 せっかく声をかけてくれたのに、助けを求めることも出来ないなんて……。

 

 誰かが私の身体を起こしてくれて、優しく背中をさすってくれる。先ほどまでの胸の苦しさが嘘のようにおさまっていく。

 驚いて背中をさすってくれている人物を確認した。

 

 とても美しい人だった。百合の花のような品のある人。それにどこか……儚いような。淋しさを感じさせる。

 

「あなたは?」

「苦しそうな声が聞こえたので。もう大丈夫?」

「はい……不思議です。背中をさすってもらっただけなのに、こんなにも身体が楽になるなんて」

 

 その女性は、どれだけ聞いても名前も素性も教えてはくれなかった。普段ならばそんな人をそこまで信用したりはしないものだけれど、私は身体の具合が良いこともあって、まるで昔からからの友人のように女性に接してしまう。

 

 縁側に2人で並んで座り、お茶と甘味を用意した。

 私ばかりが一方的に話して、女性はうんうんと話しを聞いてくれる。

 こうして長々と自分語りをするのも久しぶりだった。

 

 そして私は想いを寄せている人の話しを女性にした。

 

「その人のことを、とても大事に思っているのね」

「はい」

 

 不意に女性は私の手を取ると、目を閉じて何か集中しているようだった。風が吹き庭にある木々の枝葉が揺れる。

 不思議な人だ。この人は何を思ってここにいるのだろう。

 

「あなたにお守りを渡してもいい?」

「お守りですか?」

「今から即席で作るから大したものではないのだけれど……」

 

 女性は自身の髪の毛を数本切って、編み込み私の手首に結んでくれた。不思議とその場所から安心感のあるぬくもりを感じる。

 

「いつか」

「?」

「あなたが苦しい目にあって死んでしまいそうになった時に、それを──」

 

 

 強い風が吹く、待って! 声をかけても叶わない。

 それはまるで夢の中のことのようで。

 

 

「恋雪さん!」

 狛治さんが慌てたように走ってくる。

「なぜこんなところに? 誰か来ていたんですか?」

 お茶と甘味が2人分用意されているのを見て言った。

「はい! そうなんです! でも女性ですよ!」

「え?」

 いつもより元気な声が出る。

「あれ?」

 

 彼女と出会ったのは16の頃、以降一度も会ってはいない。貰ったお守りも使わないまま私の手首にあり続けた。

 

 

「そろそろ、狛治も帰ってくる頃かな?」

「まだかかるんじゃない?」

「そうだな。親父さんに色々話したいこともあるだろうからな。

 恋雪、喉乾いたろ。さっき井戸で汲んできた水だ。冷たいぞ」

 

 父が私に水の入った容器を手渡した。

 もうひとつの手に自分用の水の入った容器を持っている。一緒に飲もうということらしい。

 

「ありがとう」

 受け取って飲み込むと、その水は喉を一気に焼いた。口から血液が吹き出る。

 倒れかけた身体を父が支えてくれるが、父も同時に水を飲んだので口の端から血が溢れていた。

「ぐぁ、まざが……井戸に……毒が」

 苦しそうに父が声を上げる。

 私も声を上げる出そうとするが、口の中にいっぱいの血液が邪魔して声が出せない。

 

『いつか、あなたが苦しい目にあって──』

 

 彼女のことを思い出す。あの人はこのことを知っていたの?

 父に自分の手首を見せた。もうひとつの手で彼女のお守りを千切るような動作をしてみせる。

 私ではもう身体に力が入らない。

 

 お父さん、お願い気付いて……。

 

「いま医者に、連れで行って、やるがらな」

 父が私を担ごうとして、私のしている動作に気付いた。

「それを、とっで、ほじいのか?」

 私の身体を一度おろすと、両手でお守りを握り千切った。

 

 瞬間、光が視界を奪う。

 

「なんだ今のは」

 父が尻餅をついて座っていた。

 先ほどまでの痛みも、口いっぱいの血も嘘のように。安心して涙が溢れてきた。

「恋雪、大丈夫か? まだどこか痛いなら、医者のところへ行くか?」

「いいえ、いいえ。どこも苦しくも痛くもないの。ただ嬉しくて涙が出ているの」

「そうか? なら良かったが。

 しかし、あれは一体なんなんだ? もうどこにも形は残ってないが」

 

 

 風が吹いて木々を揺らす。

 

 

「──そのお守りを千切ったら、あなたと周囲の人を癒す力となるでしょう」

「癒すの、ですか?」

 

 こくりと女性はうなづいた。

 私は不思議そうに手首に巻かれたお守りを見る。

 

「どうして私に良くしてくれるの?」

 

 女性は立ち上がり、歩き出そうとしていた。

 

「あなたがいてくれたから、この世界に私が探している人がいないことがわかったの」

 

「どういうこと?」

 

「……あなたは知らない方がいいこと」

 

 私が聞いても彼女はこたえてくれなかった。

 でも私にはもわかったことはある。

 

 彼女は、愛する人を探してるんだって。

 

「応援します!」

 

 女性は驚いたような表情でこちらを見た。

 

「いつかあなたがその探している人と再会して、ずっとずっと幸せに暮らせますように!」

 

 彼女は笑った。

 

 私も笑った。

 

「あなたも幸せに──」

 

 その言葉が聞こえた時にはもう──。

 

 風にのって空を舞うひとひらの花弁のように、彼女は私の前から姿を消してしまった。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。

お気に入り数としおり数と評価者数の合計5ずつで、おまけ公開は地味に続けてます。次は10になると何かが公開されます。
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