ユリが杏寿郎を探して旅をしている途中、煌寿郎との邂逅前のお話です。
※本作は『鬼滅の刃』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
その日は朝から具合が良かった。
だから道場で父と狛治さんが稽古をすると聞いて、私は1人で大丈夫と2人を見送った。
2人の姿が見えなくなって、わずかな時間で私の体調は急変してしまった。思うように声が出せず、咳が止まらない。苦しくて苦しくて涙が溢れる。
『どうしたの?』
不意にどこからか女性の声がした。
咳が止まらないんです。声が思うように出せなくて、苦しくて。そう思っても声には出せなかった。
せっかく声をかけてくれたのに、助けを求めることも出来ないなんて……。
誰かが私の身体を起こしてくれて、優しく背中をさすってくれる。先ほどまでの胸の苦しさが嘘のようにおさまっていく。
驚いて背中をさすってくれている人物を確認した。
とても美しい人だった。百合の花のような品のある人。それにどこか……儚いような。淋しさを感じさせる。
「あなたは?」
「苦しそうな声が聞こえたので。もう大丈夫?」
「はい……不思議です。背中をさすってもらっただけなのに、こんなにも身体が楽になるなんて」
その女性は、どれだけ聞いても名前も素性も教えてはくれなかった。普段ならばそんな人をそこまで信用したりはしないものだけれど、私は身体の具合が良いこともあって、まるで昔からからの友人のように女性に接してしまう。
縁側に2人で並んで座り、お茶と甘味を用意した。
私ばかりが一方的に話して、女性はうんうんと話しを聞いてくれる。
こうして長々と自分語りをするのも久しぶりだった。
そして私は想いを寄せている人の話しを女性にした。
「その人のことを、とても大事に思っているのね」
「はい」
不意に女性は私の手を取ると、目を閉じて何か集中しているようだった。風が吹き庭にある木々の枝葉が揺れる。
不思議な人だ。この人は何を思ってここにいるのだろう。
「あなたにお守りを渡してもいい?」
「お守りですか?」
「今から即席で作るから大したものではないのだけれど……」
女性は自身の髪の毛を数本切って、編み込み私の手首に結んでくれた。不思議とその場所から安心感のあるぬくもりを感じる。
「いつか」
「?」
「あなたが苦しい目にあって死んでしまいそうになった時に、それを──」
強い風が吹く、待って! 声をかけても叶わない。
それはまるで夢の中のことのようで。
「恋雪さん!」
狛治さんが慌てたように走ってくる。
「なぜこんなところに? 誰か来ていたんですか?」
お茶と甘味が2人分用意されているのを見て言った。
「はい! そうなんです! でも女性ですよ!」
「え?」
いつもより元気な声が出る。
「あれ?」
彼女と出会ったのは16の頃、以降一度も会ってはいない。貰ったお守りも使わないまま私の手首にあり続けた。
「そろそろ、狛治も帰ってくる頃かな?」
「まだかかるんじゃない?」
「そうだな。親父さんに色々話したいこともあるだろうからな。
恋雪、喉乾いたろ。さっき井戸で汲んできた水だ。冷たいぞ」
父が私に水の入った容器を手渡した。
もうひとつの手に自分用の水の入った容器を持っている。一緒に飲もうということらしい。
「ありがとう」
受け取って飲み込むと、その水は喉を一気に焼いた。口から血液が吹き出る。
倒れかけた身体を父が支えてくれるが、父も同時に水を飲んだので口の端から血が溢れていた。
「ぐぁ、まざが……井戸に……毒が」
苦しそうに父が声を上げる。
私も声を上げる出そうとするが、口の中にいっぱいの血液が邪魔して声が出せない。
『いつか、あなたが苦しい目にあって──』
彼女のことを思い出す。あの人はこのことを知っていたの?
父に自分の手首を見せた。もうひとつの手で彼女のお守りを千切るような動作をしてみせる。
私ではもう身体に力が入らない。
お父さん、お願い気付いて……。
「いま医者に、連れで行って、やるがらな」
父が私を担ごうとして、私のしている動作に気付いた。
「それを、とっで、ほじいのか?」
私の身体を一度おろすと、両手でお守りを握り千切った。
瞬間、光が視界を奪う。
「なんだ今のは」
父が尻餅をついて座っていた。
先ほどまでの痛みも、口いっぱいの血も嘘のように。安心して涙が溢れてきた。
「恋雪、大丈夫か? まだどこか痛いなら、医者のところへ行くか?」
「いいえ、いいえ。どこも苦しくも痛くもないの。ただ嬉しくて涙が出ているの」
「そうか? なら良かったが。
しかし、あれは一体なんなんだ? もうどこにも形は残ってないが」
風が吹いて木々を揺らす。
「──そのお守りを千切ったら、あなたと周囲の人を癒す力となるでしょう」
「癒すの、ですか?」
こくりと女性はうなづいた。
私は不思議そうに手首に巻かれたお守りを見る。
「どうして私に良くしてくれるの?」
女性は立ち上がり、歩き出そうとしていた。
「あなたがいてくれたから、この世界に私が探している人がいないことがわかったの」
「どういうこと?」
「……あなたは知らない方がいいこと」
私が聞いても彼女はこたえてくれなかった。
でも私にはもわかったことはある。
彼女は、愛する人を探してるんだって。
「応援します!」
女性は驚いたような表情でこちらを見た。
「いつかあなたがその探している人と再会して、ずっとずっと幸せに暮らせますように!」
彼女は笑った。
私も笑った。
「あなたも幸せに──」
その言葉が聞こえた時にはもう──。
風にのって空を舞うひとひらの花弁のように、彼女は私の前から姿を消してしまった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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