裏社会の頭領を親父に持つ青年の戦闘描写。
俺の親父は裏社会の
カタギの人間として平穏な人生を送りたい自分にとって、親父という存在は永遠に付き纏う一族の呪いと呼ぶに等しかった。
西暦2030年 日本 東京
深夜の路地裏。月明りが届かない薄暗がりの小道。小さな街灯に照らされた団地の中央で、右腕を振り抜くと共に眼前の男を殴り倒す。
男は仰向けに倒れ、気を失った。ゴロツキと言うには若く、金で雇われただけの無知な連中だったのかもしれない。自分は体勢を整えて一息をつき、額の汗を右手で拭いながら周囲を見渡した。
付近には、先ほど倒した男の他に6名の男達。いずれも団地に倒れ込んでいる。自分は迫った脅威を退けると、呆れの感情を抱えながら何事も無かったかのように路地裏を歩き進め、繁華街の横丁に合流した。
酒気を帯びた黄昏色の細長空間。一直線に横並びとなった飲み屋はオープンテラスになっており、老若男女が憩いのひと時を楽しんでいる様子だった。身近で暴力沙汰が展開されていた事実など、皆は知りもしない。まるで自分らは“そういう因果”とは無縁であるように、目先のコミュニケーションとアルコールに浸っていた。
彼らの姿を見ていると、とても羨ましく思えた。呑気にすら見えてしまえる愉快げな有様は、自分が脳裏に思い描く理想の日常を体現しているように感じられる。まるで見せびらかされているような、そんな歪な感情すらもどこか芽生えていた。
自分もあちら側になれたら。という渇望を抱きながら進める足。切なさを背負いながら歩いていると、次にも4名の男達が道を遮るように立ちはだかってきた。
先程の若者とは違い、スーツを着崩した威圧的な男達。彼らはゆっくりと歩み寄りながら喋り出してくる。
「おう、
「あんたらが知りたいのは、俺の親父の居場所だろ。殺しでもしたら肝心の居場所を聞き出せないぞ」
「なめたクチ利くんじゃねェぞクソガキが! てめぇは秘密結社シンクディープの代表
大衆の目の前でもお構いなしに攻撃を仕掛けてきた一団。連中の1人が拳を握り締めて飛び込んでくると、自分もまた構えをとって眼前の襲撃に備えた。
突き出された右拳を見切って回避する。そこから左拳も飛んできて連撃が繰り出されるが、自分は余裕を持って目で追い、首を振って紙一重で避け続ける。開戦した喧嘩沙汰に飲み屋のオープンテラスではどよめきが起こるが、酔っている人間達からすれば刺激的な見世物に映ったらしく声援なんかが投げ掛けられていた。
数発の攻撃を回避した自分は、頃合いを見て反撃に出た。次にも相手の右拳を予知すると、それが振り被られて突き出されたその瞬間、ボクシングのような構えから高速の右ストレートを繰り出していく。予想は的中、相手の右拳がこちらの右耳を掠めた直後、こちらのクロスカウンターが相手の顔面にクリーンヒットした。
手応えは十分。相手の顔面をそのまま殴り抜けることで、男は勢いよく転倒した。張り倒されたわけでもなく、乗り物に衝突されたかのような吹っ飛び具合だった。男は仰向けに倒れて後頭部を地面にぶつけた後、血を流しながらピクリとも動かなくなった。
こちらの反撃に、周囲からは困惑と歓声の両方が見受けられた。それでもなお残る3名の男達もまた、何かに迫られたような決死な形相で連携するようにこちらへと襲い掛かってくる。
俊敏な動作で拳や蹴りを避け、猛攻を凌ぎ切る。その殴打の嵐をくぐり抜けると、直にも攻撃で接近してきた男の懐に飛び込んでボディブローを打ち込んだ。腹にめり込む拳は刃物のように鋭く、それを一層と食い込ませて唾を吐かせる。そうして晒した隙に相手の頭部へと2、3発の拳を叩き込み、渾身のアッパーを相手の顎に叩き込んだことで2人目も地面に倒れ伏した。
続けて3人目が付近に落ちていたバールを持って襲い掛かってきたが、それらの攻撃を避け続け、次に振り抜かれた攻撃に合わせてこちらは回し蹴りで応戦した。姿勢を低くして繰り出した回し蹴りは相手のバールを避けながらその手元を踵で薙ぎ払い、その衝撃で相手は悲鳴を上げながらバールを手放していく。蹴り落としたバールはオープンテラスの彼らへと飛んでいき、そちらからも悲鳴が聞こえてきた。
周囲の野次馬に構う事なく、自分は怯んだ3人目の男へと攻撃を仕掛けた。回し蹴りを行った回転の勢いをそのままに、即座に屈んで足払いを繰り出す。そうして相手の足を払って横転させると、倒れ込んだ相手の頭部をサッカーボールに見立てた1発の蹴りを加え、衝撃で転がった相手の顔面へと続けて踏みつけを行い、鼻の骨をへし折った。
足元の彼を雑に退けて、残る1人へと歩み寄る。今更と手加減はしない。揺らがぬ絶対的な意思で迫るこちらに対し、残る1人の男はヤケクソ気味に突っ込んできた。
あまりにも大振りである拳が振り抜かれるその前に、自分は脚をバネにした瞬発力の右ストレートで相手の顔面を殴り抜けた。相手はその一撃こそ耐えはしたが、受けた衝撃で数歩とフラついた後に片脚で横に回転し、自身の真横を歩き去るこちらを恨めしそうな目で睨み付けてからゆっくりと倒れ込んだ。
……闘争の世界。これこそが、自分に纏わりつく忌まわしき宿命だった。
秘密結社シンクディープの代表