目を瞑ればそこに、きらきら。



本作は小説家になろうの「冬の童話祭2026」用に書いた作品です。
テーマは「きらきら」です。

以下引用

>>「きらきら」といえば何を思い浮かべますか?妖精の羽にママのネックレス、あの日拾った綺麗な石。みなさんの思い浮かべる「きらきら」や、これから大きくなる子ども達に伝えたい思いを詰め込んだ童話をお待ちしています。
読者の皆さまもお気に入り作品を探してみてくださいね!


本作は12/11の企画開始日に小説家になろうにて公開されますが、それ以前に投稿しても企画に参加できないため別サイト各種で先行公開させていただきました。


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きらきら

 ◇

 

 わたしの名前は──いや、名前なんてどうでもいいか。

 

 誰も呼んでくれないから。

 

「おい、ブス」とか「死ねよ、クズ」とかそういう風に呼ばれる事はあるけど、それは名前じゃない。

 

 わたしの家は最悪だ。

 

 お父さんは刑務所にいる。

 

 何をしたのかは知らない。

 

 知りたくもない。

 

 お母さんは夜になると出ていって、朝になると帰ってくる。

 

 タバコとお酒の匂いをさせながら。

 

「あんたのせいでこうなったんだからね」

 

 それがお母さんの口癖だった。

 

 わたしが生まれてこなければ、お母さんはもっと違う人生を歩めたらしい。

 

 ごめんなさい、と何度謝ったか分からない。

 

 でも謝っても何も変わらなかった。

 

 学校では毎日、地獄が待っている。

 

 上履きがなくなるのは日常茶飯事。

 

 教科書に落書きされるのも、机に「死ね」と彫られるのも、もう慣れた。

 

 慣れてしまった自分が、ときどき怖くなる。

 

 痛みを感じなくなったわけじゃない。

 

 ただ、痛みの置き場所を覚えただけ。

 

 心の奥の誰にも見つからない場所に、そっと押し込む方法を。

 

 でも、こんな私にも救いっていうか、宝物がある──いや、あった。

 

 シロっていう小さな白い犬だ。

 

 お父さんが逮捕される前に、どこからか拾ってきた野良犬だった。

 

 シロだけがわたしの味方だった。

 

 学校から帰ると、ちぎれそうなほど尻尾を振って迎えてくれた。

 

 でももう、いない。

 

 あいつら──クラスの男子たちがやった。

 

「お前んちの犬、拾ってきてやったぜ」

 

 笑いながら差し出されたのは、動かなくなったシロだった。

 

 首が、おかしな方向に曲がっていた。

 

 私はその時どうしたんだっけ。叫んだのかもしれない。泣いたのかもしれない。

 

 覚えていない。

 

 気がついたら、わたしは目を瞑っていた。

 

 ぎゅうっと、力いっぱい。

 

 見たくなかった。

 

 何もかも。

 

 この世界の全部を、視界から締め出してしまいたかった。

 

 そうしたら──。

 

 昏い瞼の裏に、何かが光った。

 

 なんだかチカチカしている。ちかちか、きらきら。

 

 なんだかお星様みたいだなぁって思った。少しだけ青い、きれいなきれいなお星さま。

 

 もっと強く瞑る。

 

 そうしたらお星様が増えた。

 

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 

 数えきれないほどの光が、きらきらと光っている。

 

 きれいだ、と思った。

 

 この世界で初めて、きれいだと思えるものを見つけた気がした。

 

 ◇

 

 それからわたしは、辛いことがあるたびに目を瞑るようになった。

 

 靴を隠されたとき。

 

 髪を引っ張られたとき。

 

「生きてる価値ないよね」と囁かれたとき。

 

 ぎゅっと目を閉じればこの世界から、ほんの少しだけ逃げられる。

 

 ◇

 

 ある朝のことだった。

 

 家を出て、学校への道を歩き始める。

 

 足が重い。

 

 心はもっと重い。

 

 今日もまた、あの教室に行かなきゃいけない。

 

 あいつらの顔を見なきゃいけない。

 

 ──嫌だな。

 

 ──無理だよ。

 

 ──見たくないよ。

 

 気がつくと、目を閉じていた。

 

 歩きながら。ぎゅっと強く、強く。

 

 そうしてあるく。きれいなきらきらだけを見ながら。

 

 一歩、また一歩──暗い中を進んでいく。

 

 ◇

 

 なんだか音がする。車の、なんだっけ。あの音だ。ぶぶーっていう奴。ブザー? 

 

 そしたらすぐに何かがわたしの身体にぶつかった。

 

 ああ、車だ。

 

 凄く痛い。苦しい。冷たい地面の、ざらざらする感触が頬にあたる。

 

 私はずっと目を瞑ったままでいた。

 

 開ければきっと、私は見たくないものを見ちゃうだろうから。

 

 痛くて痛くて、神様たすけてくださいって頭の中でお願いをしていたら──でもだんだんとふわふわしてきた。

 

 私がどんどん上にあがっていく。

 

 ふわふわが強くなる。きらきらが強くなる。

 

 そうしたらね、なんだかシロが()()()で待っていてくれる気がしたの。

 

 ねえ、シロ。

 

 わたし、やっと行けるのかも。

 

 きらきらの向こう側に。

 

 誰もわたしを傷つけない場所に。

 

 誰もわたしを「死ね」と言わない場所に。

 

 わたしは勇気をだして目をあけた。もう大丈夫だとおもったから。そうしたら、やっぱり大丈夫だった。

 

 きらきらはもう目をあけていても見える。

 

 お星様じゃなかった。光だった。

 

 温かくて、優しくて、わたしを包み込んでくれる。

 

 最後に見えたのは、尻尾を振る白い影。

 

 ──シロ。

 

 わたしは笑った。

 

 たぶん生まれて初めて、心から。

 

(了)




皆さんも目をぎゅうっと強く瞑ってみましょう。きらきらっぽいものが見えるかも?

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