「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
「ここまで付いてきてくれた読者ありがとう」「1話なんですけど……」
「ずっと誰も居ない世界で誰かに殺されたかった」
俺は嘆く。
「ただそれだけなのに何故か今、文芸部に居る」
そして戸惑う。
「理由は簡単だ、文芸部を選んだ己自身。『それならそもそも選ぶな』と言いたい気持ちは凄く分かる」
どれだけ踏んだ選択肢を睨んでも過去は動かない。
「高校三年生にもなると、ふとした瞬間に『あっ、え? 文芸部かぁ……全部燃やして始皇帝ごっこ(巷で流行っている本を燃やす遊び)するか……するべきか……俺がしなかったら誰がするんだ……』と思ったり思わなかったりする」
ちなみに俺は後者だった。
「ああ、確かにカードゲームでは後攻が有利だ。でも俺が話しているのは高校であって後攻ではなく「自分語りウザいのでいい加減に辞めてくれますか?」
目の前に居る小動物がノールックで俺の内心描写の邪魔をしてきた、許せない。
「そしてたった今、心無い言葉を
口頭での心内描写を続けながら『漫画は文芸と言えるのか?』と疑問に思う。
活字に比べるとイラストはドーパミンが出やすく、音楽やアニメは更にドバドバだ。結論、誰も小説なんて読みやしない。
今、俺は小説なんだ。だから彼女には俺の声は聞こえていない。
「後輩の言葉は幻聴だった可能性が高い、続行」
幻聴幻覚には優しくしたいから許そう。
「校則には『必ず部活に所属しなければならない』という不当な弾圧が
視線は相も変わらず本に落としたままの後輩に対して『本と俺、どっちが大事なの?』と聞きたいが、本に普通に圧勝されそうなので聞けやしない。
負けると分かっていて負けに行きたくない臆病者が俺さ、よろしく世界。
「そのばっこばこな弾圧に屈した意思すら放棄した生徒たち、通称『イシナー』どもが「初耳です」入りたい部活が無いからという理由だけで、この文芸部を住処にしやがり、入部してから一度も部室に足を踏み入れすらしないという愚行を働いているんだ!」
実際に来たら来たで困る。
「結果的に文芸部は帰宅部として活用されてしまっている! つまりここは制度の墓場なんだ!! このままでは過去の先輩に申し訳が立たない! そして目の前でずっとキャンキャンうるさかったのが…………名前はまだ付けられてない」
猫の聴覚は人と違うから、聞き取りやすい名前を付けると覚えてもらえるという話がここまでの教訓。
別に先輩の代から実質帰宅部だったので、それが改善されなかったから今なんだ。歴代の先輩が悪いと思う。
「名はあります、初日に名乗りました。先輩の
後輩がわざとらしく音を立てながら本をバタンと閉じ、イライラアピールをしてくる。
受け取ったぜ、お前のイライラ。
(ジトりとした目でこちらを突き刺す。ようやく目が合ったな、怖い)
きっと俺に三年生の威厳は無いんだろう。何ならあるかな。
「毎年恒例と言っていいほど、間違って文芸部を文芸部だと思い入部する一年生が紛れ込む。この目の前に居る後輩のように」
「先輩って、なんで生きてるんですか? 読書の邪魔な上に無茶苦茶存在が目障りなんですけど」
「そう
「実は名前を覚えていたのもモノローグ調なのもムカついてるのですが」
「少しでも文芸部らしいことをして新入生を迎えてあげようという先輩の心意気を受け取ってくれたかな!? せっかくのクリスマスなんだし楽しもうぜ!」
「五月です、先輩に生きてる意味は無いので死んだ方が皆幸せだと思います」
後輩が露骨に鬱陶しそうな溜息をして、細い指先で本の角をなぞりながら毒を吐く。
血も涙も通ってなさそうだから一回ナイフで刺して確かめてあげないといけないかも。
(人を刺さないと人だと確かめられないなんて悲しい)
「意味なんて行動したあとに勝手に付いてくるものだ!! って自己啓発セミナーで習いそう。行動する前に考えさせたら
最近の主流はルール厳粛化に依る思考停止、昔は睡眠制限、食事制限、交流制限。
「生きてる内に誰かを自殺
自殺教唆は自殺する気のないやつを追い込むこと。自殺
『助ける』が間違っているなんてちょっとクスり。
「でも先輩にはそもそも教唆するような相手が居ないじゃないですか。恋人は
「俺と柊は同じフレンドシップに乗ってなかったっけ」
「海底3800メートルに沈没してます」
世界で一番有名な船と同じ深海深度に沈んでいる。
ネタバレが頻繁にされている映画だから言いたいことは分かった。
「そっか、遠回しに告白したんだな? ごめん。俺、ずっと心に決めた人が居てさ」
本編は観たことはないが、恋人が船で死ぬやつだと聞いた気がする。
俺は後輩の恋人になれないことを誠意を持って他に好きな相手が居ると伝え、『あくまで俺達は友達なんだよ』と優しい瞳を向ける。
「えっ、気持ち悪……」
敬語が思わず剥がれ落ちた後輩は
「誰も来ないんだし、急ぐ必要なくない?」
「私はここで静かに本を読むのが好きだったんです」
「先輩として俺も力に成れてたんだな、誇らしい」
「それは全く無いのです。というより私の
先輩呼びが消えた。これは距離が縮まったのか、それとも関係が断ち切られたのか、どっちだろうな。
「どうせ俺が悪いんだろ!? いつもそうだ! はいはい俺が悪者悪者! ふん! どいつもこいつも人のことをよく知りもしないくせに、外見と性格と行動で判断しやがって!!」
「本当に悪いです、冤罪ヅラしないでください」
「俺が喋る
ダァンとドアが閉められた音が代わりに返事をしてくれた、ありがとうドア。
「空、青……」
文芸部の窓越しの空を眺めながら
窓に向かって手を振るがフラれた、何かに。