「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
最終学歴アザラシ幼稚園
5月という過去の遺産から抜け出した俺は文芸部にただ向かうような輩ではなく寄り道を決行。
「筆とバケツをよこせ!さもないと来年 美術部に入るぞ!」
近場の美術部員に自虐的脅迫をしながら無敵アピを挟みつつ、手を銃のようにして大阪だったら死んだフリをしてくれるのにな、と思いながら手はキツネに直した。
「西藤、先輩は来年卒業ですよね?」
一瞬呼び捨てにしてきた男子生徒、ネクタイが
(この学校は後輩ばかりだな、たまには先輩に会いたい)
眼鏡クール系呼び捨て後輩は俺のことを知っている、だが俺はキミの事を知らない。
「君の勝ちだ……」
オンライン配信が在った、前大会チャンピョン並に知られている。きっと傾向と対策もバッチリだろう、俺は無謀な戦いはしないのでクールさを保ちつつ立ち去る。
「あの 別にそれぐらいなら余ってるので貸しますよ」
敗走している俺に冷や水という事の葉を言の葉しやがった。
(バケツと筆という組み合わせで察したのか、返事を待たずにわざわざ天然毛の水彩筆と筆洗い用の中が仕切られているバケツを持ってきてくれた、優しい)
「敗者に情けは無用っ!!!」
俺は優しさに耐えきれず無下にして美術部を出ていく。人の優しさを断るごとに相手の優しさは死んでいく、そもそも優しさなんだろうか?
美術部の民度の高さを図書室も見習ってくれ、そう思いながら廊下を走って
(マジで
訓読みも言わずもがな。
いつもの席でいつもの古新聞を広げて選手宣誓する。
「紙粘土持ってきたんだけど、何作って欲しい?
100円均一で買ってきた白い塊を古新聞の上に乗せる、水につけて柔らかくして時間経過と共に硬くなる例のブツだ。
「学校に何しに来てます?」
難しい質問だ、どのぐらいかと言えばフェルマーの最終定理には及ばないぐらい。
「友達を作りに来てるぜ」
コネコネしながら友達を作ってる最中。みんな↑みんな↑生きているんだ↑友達なーんーだ↓。
「
相も変わらずページを
「俺達の関係を漢字2文字で表すと?」
分かり易いパスを出す、ヒントは『○達』分かるかな。指を止めて考える
「そうですねぇー……」
俺はその間もペットボトルの水を粘土に注ぎながら生地を柔らかくし、モチモチと歯応えが出るように創意工夫を施している。ほぼウドン作りと化した紙粘土に愛着がモチモチと湧いてきた。
(大きくなるんだぞ)
まずは目の前の矮小後輩より大きくなるのが第1ステップ気候。
「主従なんてどうですか?」
どっちが
「よしハチ公作ろう」
別に犬は好きじゃないけどハチ公像は好きだから。タバコ禁止の看板の前でタバコを吸っていたり、カラスや鳩が人に慣れ過ぎて全く逃げずに止まっている車に排泄していく空気を時の止まった犬が眺めてる、ふふ。
「猫にしましょうよ、私猫好きなんです」
「ごめんにゃ!俺がにゃんにゃかにゃーんするから許してにゃ」
「嫌いになりました」
また1つ柊の嫌いが増えたところで俺は指で犬耳のフォルムを丸く整える、まずは伸ばして量を確保するのをコツとしよう。調べたりしてないから俺がやったことが俺の正解とする。
「名前はシュナウザーにしよう」
誰にも負けるなよシュナウザー、生まれてすぐ死ねば戦わないから負けないけどな。
「犬種違くないですかね」
「む……?何も分かってないな、いいか? こいつが生まれた瞬間に犬種の歴史が変わるのさ」
一々定義付けしたがる奴にはマイルールをぶつける、そうして戦争が生まれ紛争が拡大し命は消耗品に成り下がる、嘆かわしい。
(あっ)
適当に嘆いていたらシュナウザーの耳が潰れてしまった、まあ多様性の時代だから片耳でもいいや、そうして戦争が生まれ紛争がry
「予備の紙粘土もらいますね」
俺が買い物したビニール袋から窃盗事件が起きる。古新聞も取られて連続窃盗事件になった、文芸部の治安悪化は留まりを知らない。
「久しぶりに触りました」
少し感動した様子に思わず『チョロいな』と言いかけたが元カノの言葉を思い出す。
確か『土って爪が汚くなるのよね、世の中から土なんて消えればいい、ついでにお前も消えなさい』みたいなことを言っていた。お前くんが可哀想だった。お前ちゃんかもしれない。
「粘土は爪に挟まるから女性は死活問題じゃない?あっ女性とか男性で区切りをつけたのは俺なりの差別。受け取って欲しい、この差別心。ネイルサロンのあとに俺にめっちゃ感想を求めて足止めしてくるわりに、言ったら言ったで『男のくせに何が分かるの?』と叱られた俺は爪が汚い女の人は女として見れない身体になってしまったよパトラッシュV3」
「一言にまとめてください」
「爪、オマエ、マルカジリ」
「そういうのはカースト高めの人の言い分ですよね、私は爪に
札じゃなくてキャッシュレスにしろよ、ここで『あーネイル行ったところで見せる人も気づいてくれる人も身近に居ないもんな!』と言ったら控え目に言ってラクに殺してもらえない。
「かんーせいー! やっつたー! つたー! サウザー爆誕!」
流石の俺もツタツタしてくるので完成品を窓際に置き、一歩下がり眺める。
(今日は曇りか、梅雨も近いし。蒸し暑い、カエルとか紫陽花を食べないとな)
「シュナウザーは何処へ行きました?」
「アイツは耳が消えた時に死んだ」
なんとかウザー部分を蘇生させたところ、おまけにサが増えてしまい、てんやわんや。柊の目から『ウザいのは先輩の方では?』と伝わってくるのでギャルピースをしといた。
「先輩に聞いた私の落ち度ですね、ちなみに今私は何を作ってると思います?」
やり返したいのだろうか、子供心はよく分からない。後輩は自分の中心話題が好きだから特に裏は無い気もする、それは大人も変わらないか。そして大人も子供さ、結果大人消滅。
(んー?)
観察する限り白い粘土が俺より圧倒的に多い、何袋開けたんだ? お前と掛けまして無能な警官と解く、その心はどちらも謙虚(検挙)が足りない。
《座布団カバー1枚!》
やったぜ。
「
大人しく漫画関係が安牌か。
「そっち行っちゃいましたか」
顔で分かる、ハズレだと。
(そこはハズれていても『なんで分かるんだよ』でいいだろ)
「正解という名の自己顕示欲は?」
「私は無欲で お淑やかで清楚ですが、正解はブックエンドです」
実用性を求めたのか。本棚だと作るのは大変だけどブックエンドなら容易いし、合理的。
「柊にしては利口だけど病気?寝たら治るよ」
「そんな睡眠は万能じゃないです……その、ですね……?」
ん?告白か?贈り物(紙粘土)で好感度を上げて勝手に好かれるやつ?勝手に持ってかれて勝手に上がるんだったら怖い話。
《物で釣る好感に
「文芸部に置いても不自然じゃないというか……残したくありませんか……?自分がここに居たって……」
(こいつは何を言ってるんだ、こんな誰も来ない墓場に残したいか普通)
「ないな」
「今、泣くとこですよ?」
「えーん、てんてんてん、ぽた」
「ちょっとそこに立ち止まっててくださいね」
ふむ、作り途中だったブックエンドを丸く
「死ね西藤先輩ッ!」
大きく振りかぶって文芸部に残したかった証を投げてくる後輩。痛くないが汚れた。完全にデッドボールだ、一塁に進もう。
「やめろよ、文芸部で粘土なんかするな」
「先輩が始めた物語です」
(やだカッコいい)
「手を洗いたい、ついでにブレザーに付着した白いベタベタも。これじゃあアダルトビデオ撮影現場だと思われかねない。近場の水道どこだっけ?」
「……外の運動部がよく使ってる水道ですかね」
あそこは文化系の部活には近寄りづらい雰囲気だ。ああ、そうだ、だから俺は水が入ってるバケツが欲しかったんだった。いつも手遅れになってから気づく、だからいつまで経っても成長が感じられないのだ。
「先輩、そのペットボトルの水を私の手にかけてくれませんか?」
「俺はどうするの?」
「待ってください、物事には順序があります。一つ一つ考えますのでまず私の手を流しましょう」
「一理あるな」
後輩の頭に水をかける。大きく育つんじゃないぞ。
「戦争ですね」
本当に始まっちゃった。
「こいよ、マイナス二歳」
「誕生日まだなので三歳ですよッ!」
マズい、相手は俺が買い込んだ紙粘土の袋を独占している状態での開戦。俺の残弾は……
──窓際に走り、残弾に手を伸ばした。
「いいんですか?サウザーはシュナウザーの忘れ形見ですよ」
くっ……!
「人はいつ死ぬと思う?」
「紙粘土をぶつけられた時に決まってます」
決めるな、俺の顔面をめがけて乱雑に粘土を投げつけられる。圧倒的に数はあちらが有利。
(だが投げれば投げるほどに こちらの弾数も潜在的に増えていく、あとは機を見て粘土を拾い上げて投げるだけ、サウザーが道を切り開き、俺が進めばこの戦争は勝てる)
──迷わず
「え……?」
俺は真正面から粘土を受けながら突っ込み、柊を蹴飛ばした。
「いたっ!ちょ、タンマです!ストップ!試合中止です!!この人、暴力で黙らせる気です!!!!」
「俺にサウナーを傷つける事なんて出来なかったんだ……」
理屈では分かる。あいつを犠牲にしたらそれで勝てる。だがそんな勝利、なんの意味あると言うんだ。
生まれてきた時から耳が無く、何犬かも分からない、これ以上こいつに負担は押し付けたくない。これが慈しみ……? 世界はこんなに平和だったんだ。
「無機物より有機物を大切にしましょう!今なら引き返せます!」
蹴られた箇所を抑えながら説得を試みられるが、人は有機物でも無機物でも有るんだけどな。
(可哀想だ、これが高校生か……頭を撫でとこう)
「な、なんですか、油断させて奥歯ガタガタですか?」
(猜疑心と警戒心が凄い値になっている)
こういう時は振り切る派なのでポケットからハンカチを取り出して、濡れている後輩の身体を、頭以外優しく拭き取る。
「………………? 今、私寝てる説が浮上してきました」
もちろん叩く。
「痛いです、違いましたね」
「たまには優しくしないと壊れちゃうって玩具屋さんが言ってた」
「聞く相手間違ってます、ファミリーレストランの間違い探しを見習ってください」
あれは両方同じ絵なんだぞ、正解が無いという間違いを探させているのだ。
「立てるか?ほら、掴まれよ」
「蹴飛ばした本人が言うことでは無いですよね、善意は素直に受け取りますけど」
素直じゃない。
「手べちゃべちゃしてますね……頭!!!!!」
(バレた)
なんの為にこいつの頭に水をかけたかと言えば、こいつの頭を撫でるふりをして水で濡れてる頭で俺の手を拭く為だったが、爪が甘かったようだ、爪だけに!?!?!??!?
頭が粘土だらけになった柊が俺の制服で手を拭きだしてしまった結果、ブレザーが建設作業員になってしまった。帰りにコインランドリーに入れないと親に泥で身体を洗う習性が身に付いたと思われる。
「はぁ……この頭で帰宅するの恥ずかしいです」
「俺の制服を見ても同じことが言える?こちとら日雇いだぞ」
「お似合いじゃないですか」
身体のベタベタを手で取り柊に付けることにした、決定事項。
「触らないでください!!訴えます!慰謝料の準備をしておいてください」
「これでペアルックという
「ペアな所をルックされたくないので帰りません」
お互いに帰り支度をしながら俺は妙案を思いついた。6月なのに『もう既に夏が居る』んじゃないかという暑さなのでブレザーを脱ぎ、ワイシャツで帰宅すればいいのではないかと。
「部屋の掃除頑張ってくださいね」
ドアが閉まる音が脱ぎかけのブレザートンネルの中から聞こえた。
「おい待て、クソ後輩」
もう気配がしない、捨て台詞だけ吐いて逃げやがった。ガッデム。
(白い点々とした部室……これは野生の草間彌生が模様替えで水玉にしてくれたで通せないかな)
美術部に走り、掃除用バケツを借りに行く。結局は他人の優しさが無いと生きていけない俺は弱い。
「
「この高校が意識高い系なんだろ」
「でも結局3年で
「この学校の教師がちゃんと物事を考えれるわけがないだろ!!!」
「そこまで言ってないです」
「柊、そんなことないよ先生たちは皆生徒のために考えてるんだ」
「自己批判からの自己援護の冤罪が渋滞してますね」
「クラクション鳴らそうぜ」
「パーキングエリアに閉じ込めますよ」
「なにその嫌がらせ」