「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年6月14日 水曜日
分かり合えないと分かり合える


 

 がたがたがた、俺は無駄に長い文芸部への廊下をカッコよく言うとキャリーカート、ダサく言うなら手押し大車にコタツを乗せて()(さん)じた。

 

 台車はバスケ部から調達した、ちゃんと詩音くんには一声かけるべきだと思ったんだけど、インターハイまでは話をかけない約束をしたから俺はちゃんと約束は守れる男だと示す為に無断で借りてきた。

 

 中身のボールはその場に置いてきたが多分部長の(ふところ)の深さで優しく包み込んでくれるはず、だって俺肩痛いし、詩音くん、解ってくれるよね?

 

 文芸部の引き()を先んじて開けて、いつもより早い時間に帰宅して子供が微妙に邪魔そうな顔してる時の お父さん並に部室に入っていく。

 

「コタツもらってきた」

 

「真夏日ですよ!?頭沸いてっ、ましたね!」

 

 後輩は疑問からの断言、確かに6月なのにもう既に部室がムンムンとしている。もう少し過ごしやすい温度を保ってくれよ文芸部。

 

「酷い言われようだ」

 

 炬燵(こたつ)一つでヤカン扱いされていたらこっちも身が持たない。

 

「まずコタツの出所は?」

 

 仕切り直して生産地を聞いてくれる、いや、調達地か。俺は仲間は売らないからな。

 

「茶道部が暑いし、場所も取るから夏だけ文芸部に預かってくれないかだってさ。ちなみに今茶道部のマイブームは将棋」

 

 仲間じゃない飯塚さんは文芸部を実家だと思っている。あれ?安心感があるみたいだ。人によっては。

 

「物置扱いされてますね……将棋の(こま)を全部王将にしてやりましょう」

 

「試合すぐ終わっちゃう」

 

 王将の影武者と本物が入り混じってるならマインスイーパーみたいになるので逆に面白いかもしれないが。

 

「ツッコミどころはそこなんですかね?早くそれ元の所に帰してきてください、見てるだけで暑苦しいです」

 

「いやだ!ウチで飼う!ちゃんと責任持って散歩にも連れてく!トイレも餌も与えるから!」

 

 パッションだ、こういう時は母性本能をくすぐるような目線で訴える、最終的には子供が家から出ていく時に100%置いていかれる犬。

 

「そう言えばエアコンのリモコンって何処にありますか?」

 

 その前に俺の発言が置いてかれた、少し前の柊なら『トイレも餌も与えるのは当たり前ですキリッ』みたいなチェーンメール送ってくると思ったのに。懐かしいなチェーンメール。滅茶苦茶内容を幸せに書き換えてた。

 

「むむむ」

 

 ガサゴソと自分の(かばん)の中を(あさ)る、ぽいぽいぽいぽい。ポケットを漁る時の擬音。

 

「これだと思う」

 

「先輩が原因で暑かったと思うと殺意が芽生えます」

 

「いちよう副部長だからさ、あっ」

 

 手元から直ぐに奪われるリモコン、よっぽど暑さがキツかった感がひしひし。大人しく涼しい図書室に避難すればいいのに何かがフラッシュバックでもするのだろうか。

 

「18度にしときました」

 

 ピピピピと連打した後に そう宣言される。エアコンの最低温度はメーカーに依ってありけり、大体は16度17度18度、文芸部のエアコン最低到達点は俺の年齢と一緒だった。

 

「コタツの血液型を決めていいよ」

 

「……そうですね、()えて夏にコタツを楽しむ、真夏の方程式を完成させていたということですかね」

 

 なんの敢えてなのかサッパリ分からないけど持ち上げとこう。

 

「なんて悪魔的な後輩なんだ!天才!闇に舞い降りてる!」

 

「ふふ、私の頭脳は一般人と一線を画していますからね」

 

 後ろにだろうか、したり顔は無視して鍋奉行(ぶぎょう)への合図をだす。

 

「そうなると鍋をしたくならない?俺豚骨の(もと)買ってくるわ」

 

「野菜と肉は適度に。それにキムチも欲しいですね、あと雑炊(ぞうすい)用のご飯かウドンも必要です」

 

 さっきまでコタツ反対勢力だったのに、この一瞬で5つ頼まれた。適度ってなんだ、お前の適度知らないんだけど。エアコンもカタカタと不満を鳴いている、あ、フィルターの掃除とかしたっけ。こういうの気になっちゃう、久しぶりのエアコン風をオカズには不潔そうだ、買い物に行っている間に試運転空気を後輩に浴びせとこう。解決。

 

「近くのスーパーまで行ってくるから、部屋をキンキンに涼めといて」

 

「あ、ついでにアイスもお願いします。周りがチョコでコーティングされてザクザクしてる系で、あとカップアイスもです。それとアイスバーもですね」

 

 こいつ夕飯アイスなのか? 帰り道が暑そうだから俺はワンハンドで楽しめる飲用ゼリーみたいなバニラアイスにするか。

 

「これ割り勘だよな?」

 

 いちよう聞いとこう、女性は参加費無料の合コンの男性に対して並に厳しく徴収しよう。

 

「……西藤先輩の!ちょっといいトコ見てみたい!はい!はい!はい!」

 

「飲み会の悪質コールやめろ、今やってる人は居なそう……居ないはず」

 

 不安になってきた。

 

「部屋が寒くなってきたので早く買ってきてください。凍死しちゃいますよ」

 

 態度がデカい、結局俺が財布っぽいな。

 

「鍋の肉は柊でいいや」

 

「上等です、食物連鎖の基礎(きそ)を叩き込んでやりますよ」

 

 とりあえず、お互いの肉は綺麗な空気で食べたいという結論に落ち着いたので部屋の換気と室外機の掃除から始めた事になった。

 

 掃除を黙々と始めなかった俺達はだらだらと開始した。

 

「フィルターってどうやって取り出すのです?」

 

 何故か定位置から動かない柊。バグなら早くデバッグして欲しい。

 

「右側に開けるための取ってがある」

 

 エアコンから見たら左側の方に指が1個分の隙間みたいのがあるのだ。そうすると上に開く、最近のは凍結洗浄やらプラズマクラスターで自動洗浄してくれてる機体も多いから掃除を必要としないのも多いな。文芸部のエアコンは教師から(なか)ば脅しで巻き上げただけ安い代物。

 

「わかる人がやるべきです、適材適所という偉大な言葉があります」

 

 何も出来ないヤツは何もしなくなってしまう。成長するチャンスを自分から拒んだら最後、人は腐るのだ。

 

「無知は罪だって教わらなかったのか?」

 

 偉大なる先人の言葉を発表する、偉大VS偉大。

 

「テラスタルかアマテラスかアマデウスのどれかでしょう」

 

 ソクラテスは二度死ぬ、あんなに教科書や漫画に乗ってるのに。肉体的にも記憶的にも死んでしまった。

 

「外から室外機を拭いてきてくれ、俺はもうアルカリ性洗剤でフィルターを漬けている作業だから買い物に行ってくる」

 

 じゃぶじゃぶ、こびり付いた汚れが浮いてくるのを見ながら、これを見たあとに鍋でしゃぶしゃぶは食べたくないと思う。柊ごときに室外機が拭けるのかも心配になってきた、こいつに何が出来るのだろうか。

 

「先輩が帰ってくる前までに冷やしとくのは無理難題です!まずエアコンに手が届きません!成長期まで待っててください!」

 

 ぴょんぴょんとエアコンに手抜きジャンプでアピールをしてくる後輩。確かに小柄な方だが、椅子を使って身長を伸ばせ。第二次成長期はほとんど終わってるだろ。

 

「お前はもう伸びねえ……」

 

 海賊王が一番言われたくない一言かもしれない。

 

「誰が決めたんですか?」

 

 親?遺伝子?うーん。

 

「神」

 

 多分この人、人というか概念かも。

 

「最終学歴は?」

 

 間違いなく西高校卒業より上なのは確かだな。

 

天岩戸(あまのいわと)かな」

 

 日本神話はヤマタノオロチらへんの知識しかない。ヒュドラは九本、ヤマタは八本。何故ギリシア神話にも蛇のモチーフの化け物が居るのか。

 

「岩卒ですか」

 

 なにその卒業、面接や就職に有利になるのかも分からん。

 

「買い物に行くから、それまでに第三次性徴期を終わらせとけ」

 

 喋ってる内に鍋を食べる時間が減っていくので、さっさと買いだしに行くと決意。

 

「フィルター無しで回しときますね、アイス適当に増やしといてくださいー」

 

 これ以上?チョコミントアイスでいいや。嫌な記憶が(よど)みつつ歯磨き粉の穴兄弟だと思えばいいや。

 

 

 買い物に行き『ペイン!』とキャッシュレス決済の電子音を聞き、俺は文芸部へ戻った。

 

 そして鍋なんて温めるのを長い順番にぶち込むだけである。

 

 

「あの、鍋に直接箸を入れないでください」

 

「キスした仲なのに間接気にする?」

 

「わかりました、ぺっ! ほら食べてみてください」

 

「悪魔め!!!!」

 

 悪魔的な後輩と褒めたのが仇になったか。

 

「食べれるんですよね???」

 

「お前 責任持って食えよ」

 

 唾が広がる前に柊の お(わん)に唾の部分を突っ込んだ、他はセーフか?セーフだよな?

 

 

 なんだかんだ美味しく鍋を食べ終わり、

 

「白飯は途中でどっかの誰かに手を出されて消えたからシメはうどん確定演出になったな」

 

 空のご飯パックが舌だして笑ってらぁ、レンジは料理研究部のを使わさせてもらった。

 

「パックで買ってきた先輩のミスですね、反省してください」

 

 対面の誰かが喧嘩を売ってくるが初対面で在りたいので無視して、鍋のガスコンロの火を調整しながらうどんを突入させた。染み込ませたいから、弱でじっくりやろう。

 

「ちなみにミスユニバースの俺はご飯一粒も食べてないからな」

 

「はい」

 

 鍋の汁でびちゃびちゃになった元ご飯パックくんを渡される。

 

「この溺死体をどうしろと?」

 

 こんな可哀想な代物を渡されても、お前にかける以外の有効活用が思いつかない。

 

「探せば一粒ぐらい沈んでます」

 

「柊と同棲は出来ないな」

 

「しませんよ」

 

 お互い、対して目もくれずに適当に話す、実際にコイツの溺死体を食べたらドン引くと思うんだが。

 

「そろそろ下校時間的に危ういから うどんサルベージするぞ」

 

 流石に学校二泊は気が狂ってしまう。今日は図書室で目覚めてから朝担当の図書委員に居ない者として扱われ自宅に帰宅しシャワーを浴び登校、朝ご飯に道中のパン屋でラスクを買っていたら余裕で遅刻。

 

「まだ早いですよ、もっと染み込むまでウノで時間潰しましょう」

 

 頭の中で時間を潰していたら、文芸部の過去の先輩達が持ち込んであろう遺物の中からウノを取り出してくる後輩。

 

「二人だとスキップが強すぎるからスピードにしようぜ」

 

 俺も過去を漁りながらトランプを提示する、日本人なら花札にすべきか?

 

「嫌です、先輩はすぐ私の手を掴んで妨害してくるので」

 

 後輩は(いぶか)しんだ表情をして『絶対に嫌です』ガルル、と訴えてくる。

 

「お前が絵柄違うのに速さと勢いで誤魔化して置きまくるからだろ」

 

 ルールを守らないのに勝ちたいだけで適当に置きまくり、そして賭博現場並にイカサマの瞬間に手を掴んだら、セクハラだのなんだの叫び出すので手がつけられない。

 

「ではどうしますか?人を否定するということは代案を(かか)げるということですよ」

 

「お前も否定してたのに?」

 

「私の尊敬していない先輩の格言を教えましょう、『お前そんな昔のことまだ引き()ってたのかよ。いい加減……今を生きろよ……』です」

 

 どこかで聞いたことがある、尊敬されてないということは、

 

(ほな、俺じゃないか……)

 

 脳内柊が『でもその尊敬していない先輩は表情一つ変えずに人を殴れるのです』とコーンフレークしてきた、でも俺は人を殴ったことがないから、

 

(ほな、俺と違うか……)

 

 顔も見られずに人を殺せるのは羽化。

 

「お前の方が最新に否定してただろ、ならその『今』はお前になるはずだ!それにその先輩はご飯食べれてないから可哀想!その先輩はきっと鍋なのにラスクしか食べてない!」

 

 ご飯は食べたけどご飯は食べてないのだ、ちなみに父親はよくフリカケを持ち歩いて母親の愛妻弁当に好きなフリカケをしゃかしゃかするのが好きらしいが、一度ラインナップを卵だけにしたら『哲也、これは良くない』と悲しそうな顔をしてた。とりあえず『星座占いでラッキーカラーは黄色って言ってた!これが親孝行から見える景色か』と言っといた。

 

「わかりましたオセロで手を打ちましょう」

 

 何がわかったんだ、とにかくオセロットという猫が好きなので俺も手を打つ。

 

「リバーシか、いいぜ」

 

「オセロをリバーシと言う人ってイタいですよね」

 

 文芸部イタいイタい選手権ギネス保持者の後輩に言われたくないな。

 

「リバーシの方が世界的な名称」

 

 オセロは8x8と決まってるがリバーシはnxnと自然数でいい、取り合えず挟んでは色を変えるだけの遊びをリバーシと定義されている、つまり俺達はリバーシなんだ。

 

「日本語としてはオセロがポピュラーです、郷に(はい)ったら郷に従えと知らないのですか?知らないのですね、先輩は何なら知ってます?何も知らないですよね」

 

 自問自答の二回行動(キラーマシン)が通り過ぎて行く、『郷に()っては郷に従え』は中国の経典なんだけど、もうややこしいのでスルー。

 

「じゃーんけーん!」

 

 掛け声で強制試合を発生させる、ででん↑

 

「「ぽん」」

 

 それに乗っかって柊はパーを出し、俺はチョキを出現させた。

 

「馬鹿は(りき)んでグーを出すと聞いたのですがガセですね、たった今証明されました」

 

「じゃあ後攻もらうわ」

 

「オセロが後攻有利もガセですよ、オールドメディアに踊らされて恥ずかしくないのですか?」

 

「後攻」

 

「しょうがないですね、有利な後攻で負けたら完全敗北です、プライドを粉々にしてやります、あっ元から在りませんでしたね」

 

 こいつ跳ねると悪あがきしか覚えてないんだろ、早く進化してくれ。口にご飯粒つけた顔で煽ってくる後輩を黙々と試合で対抗するスポーツマンの俺。

 

「え?そこ置いちゃいます?シマウマ作ってますか?w」

 

 心理フェイズが長い。リバーシの基本は後半から一気にひっくり返すものだ。あとシマウマの地肌は黒一色だ。

 

「ほらほら得意のオセロ(笑)を見せてくれよw」

 

 もうこちらもリバーシを捨てて煽りオセロで戦ってやるか。

 

「あーあ、そうやって角ばっかり……丸い人間になりましょうよ、人当たりは大事です」

 

 後輩の嘲笑(ちょうしょう)していた顔が曇る。シマウマを舐めるなよ、サバンナの肉食動物の中で草食動物なのに生き残ってるんだぞ。

 

 

「柊、参加してた!?w今来たのかな!?w」

 

 真っ白になった盤上(ばんじょう)が初雪を教えてくれてる。初雪から桜まで待てなかったらしい。

 

「……」

 

 急に決心した顔でコタツの上の鍋に箸を伸ばす後輩。

 

「ん、染みてます」

 

 敗者が現実から食欲へ逃げ出した。

 

「おい、うどんを食べるな敗北者」

 

 なんで取り分ける前に直箸(じかばし)で取っちゃうかな。

 

「夏に(なへ)もいいもんで()ね」

 

 食いながら喋るな。俺は何の為に戦っていたのか分からない。

 

「鍋は冬だろ」

 

「うる(ひゃ)いです」

 

 寒暖差で曇り結露(けつろ)した窓を見ながら春眠は暁をやっと覚えた。

 

 下校時間がギリギリどころか過ぎてるので、残った溶けたアイスを持って帰り家で再冷凍した。

 

 

 

 

 袋の形型(かたちがた)アイスも美味しい。

 

「兄ぃー私の好きなハー〇ンダッツは?」

 

「皆好きだよ無えよ」

 

 自室のミニ冷蔵庫を勝手に物色しだしてくる妹、プライバシー生き返ってくれ、ボールを七つ集めても生き返らなそう。

 

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