「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年6月17日 土曜日 夜
団欒日々


 

 家族と聞いて虫唾が走る人や嗚咽(おえつ)を漏らす人が居るだろう、そのどちらでもない自分は家に生還を果たした。大袈裟な言い方になってしまったので家の内見を見に行こう。敷金礼金は大事だ、そして大家さんとの関係性も大事、家賃が違かったりするので世の中は結局人脈、人との繋がりは神、繋がれてない人間は悪魔か。

 

「てつくんーおかえりー」

 

 実家の玄関を鍵を差し込んでいたら先にドアを開けられてしまった。インターフォンに映像が出るとはいえ、無闇矢鱈(むやみやたら)と外に出たら危ない、似ている人の可能性もある。俺が危ない可能性も。この警戒心が機能していないっぷりが生産地らしい。

 

「母さんこそ、おかえり」

 

 元から家に居ましたが?という顔をしながら、むしろ貴方が帰ってきたのでは? という顔もしながら廊下を歩いていく、行先はもちろん2Fに繋がる階段。

 

「ただいま……?」

 

 自分が間違えたのか不安になっている母さんを横目にリビングの入口の前を通った、ついでに絡まれる前に絡む。

 

「父さん! なんで実の息子を君付けで呼ぶような伴侶を選んだの!? 離婚する時は父さんの家の子になります!!」

 

 原産地に抗議しておく、どちらが原産地と生産地なのかは、人体の仕組み白帯(しろおび)の今の僕には理解出来ない。

 

「哲也、冗談でもそういうことは言うな」

 

 父が椅子に座りながら苦言を呈する。

 

「言われてんぞ世恋」

 

 一先ずは右から来た言葉は左に受け流す、右耐性に全振りなら右の定義を広げればいい。

 

「お母さんもお父さんもさ―、お兄ちゃんの言葉をまともに受け取らないの、いい加減覚えてよー?」

 

 様子を軽く伺っていたであろう妹から茶々が入る。ソファーぐらいの位置から声が聞こえてきたので、どうせ寝転がって牛と化している。見えなくても予想がつく、酪農(らくのう)が趣味なナマハゲが訪ねてきたら妹を献上しようと思いながら、

 

(なんで親の前だと『お兄ちゃん』呼びなんだ?プライドか?なんのプライドだよ?)

 

と自問自答じゃなく自問自問を行い、肉親も所詮他人なのだから理解は難しい。考えるだけ無駄かもしれないのでほっとこう、産地への感謝は妹に任せている。

 

「てつくんなりに頑張っているの!みんな責めないのー!」

 

 何故か俺を守って立ちはだかってくれた母だ。妹は妹で苦労してると思うので妹のメンツも考えるべきだと感じるが、この流れには乗っとこう。

 

「母さん……俺頑張ってるよ……何を頑張ってるかと言われると分からないけど……頑張ってるよ……ぐすん……」

 

 涙は今のところ合同説明会で就活中のために居ない、演劇部を選んどけば良かったな、それは無い。

 

「大丈夫わかってるから……」

 

 しんみりしている空気を妹が絶対見てなかったであろうニュースから騒がしめのドドドバラエティー番組にチャンネルを変えて言葉ではなく行動で抗議している。こちらも窓から飛び降りた、ダメージの蓄積している足で廊下にいつまでも立ち止まって居たくはない、部屋に戻らせて。

 

「すげえ!うちの母、学校と違って勝手に株が上がるんだけど!!」

 

 今日は物理的に落ちたから上がるのは上がるで怖い。この顔を見る限り何を言っても下がる気がしないな。再び足を動かし、この家族ムードから抜け出してワンダーランドでティータイムに勤しむとするとしよう。

 

「今日も夕飯は食べないのか」

 

 パピーから飲みにケーションに誘われてる、目を軽く向けると曇った相手の顔が目についた。

 

「父さん! 俺、部屋にイマジナリーシスターを待たせてるから!!一緒に食べようと思うんだ!やっぱ!!家族は!食卓を囲まないと!!!」

 

 まさか人生で再びエアシスターの上位互換存在を扱う日が来るとはな。言葉の卒業式をやらなくて良かったぜ、待ってろよイマシス。

 

「どの口ー」

 

 リアシスが聞いていられなかったのか、ソファーから少しハミ出て異論を飛ばしてきた。俺を悪く言うのは構わないが、家族を悪く言われるのは許せない。

 

「姉さんを悪く言うな!!」

 

がるる

 

「連れてきなよ」

 

 妹が頭のおかしなことを言い始めた、一休さんだって屏風から白虎を出すのに嫉妬で自分を猫背のまま虎にするしかなかったというのに。

 

「せれん……お前にお姉ちゃんは居ないんだ……悲しいが現実を受け入れてくれ」

 

 そうだよな、居ない兄や姉が俺も欲しくなった時期が特にない。

 

「お母さーん、お兄ちゃん閉め出そうよー早めにー」

 

 一見さんお断りの実家だったのだろうか、いい加減見慣れて欲しい。

 

「それは蚊に刺されちゃうわ、せれちゃん」

 

(そこかなぁ……)

 

 地球で最も人を殺したのは蚊だと習ったような気もする。でも日本の蚊はアレルギーを起こして痒くさせるだけだから殺すほどの力は無いはず、蚊のインバウンド観光客が居たなら俺はオワオワリ。

 

「……」

 

なんとなく目に映ってしまった

 

母の左手に持っていたスマホのストラップの押し花が、きっと“誰かが”帰るのを時計を見ながら待っていた勢いで玄関まで来てしまったんだと、

 

ストラップのカーネーションがチラつく、最近付けだした?見覚えある花?レジンで固めてわざわざストラップに?全て見なかったことにしたい、しよう

 

視線を逸らした先で妹と目が合う、視線が何処から来たのか把握したのか、何を目撃したか気づいたような笑みを浮かべた

 

「良かったね」

 

しね

 

《だから私のことを理解できてない、したくないのかな?もっと捨てなよ》

 

捨てれる個所なんてない、全部美味しく食べれる、そう信じなければ正気を保てない

 

「バイバイ肉親ども!」

 

 グッバイ宣言を血の繋がった相手に叩きつけて、甘酸っぱい胃液とも取れる味を気にせず、2階へ続く階段を上がる。

 

「言い方ー」

 

 階段で肉塊の声が耳に届いた、そして最後に悲しそうな顔をしている両親の顔が

 

 

 自室に入って来てから手洗いうがいを忘れたことを思い出した。来るではなく来ている、心の中で舌打ちをする。

 

 生きるのがつまらないぐらいなのに菌を気にしてるのはダサいな、でもそれが自分だと、未だに自分の使い方が未知だ、自分の説明書とか売ってないのか。

 

馬鹿らしい

 

 冷蔵庫から水を取り、うがいをして、ビニールを被せてあるゴミ箱に吐き出す、違うものが出そうだった、本音とか

 

 除菌シートを数枚引き抜き、手を入念に拭く、不快感は消えない、一番星も消えない、どいつもこいつも洗えた気もしてない。それを乗り越えて下に行くのは、常に不快感の方が(まさ)っている。

 

ベッドの横の引き出しを開ける

 

 朝も確認したが無い、空になった睡眠剤の在庫を鬱陶(うっとう)しく二度目の確認する。

 

ないよなぁ

 

 スマホのアプリから密林のネットショッピング画面を開く、何故か市販で売ってはいけない処方(せん)医薬品が出品されている。

 

 市販薬より効き目が強く医療用医薬品とも言われている、要するに日本では国民の税金で支えているから他国より薬が安いというメリットがある。海外のドラマで大病を(わずら)うと治療代で借金で余生が終わるなんて展開がリアルでよくあるから題材にされがち。

 

 こういう違法行為をする人が増えれば国民の負担は増えるのだろう、でも俺みたいな人間には救いの糸ではある、大人しく病院に行けよ、それな。

 

ぽちぽち

 

 助かるはず、転売ヤーは一生食い扶持(ぶち)に困らなそう、憧れはしないが。

 

今日はどうやって寝よう

 

《寝る権利なんてあるのかな?》

 

そりゃ

 

「人間だもの」

 

本当に人間なのか不安になってきた

なろうなろう理想になろう

明日なんて平等に来ない

 

一先(ひとま)ず目を(つむ)

 

《……》

 




「これは保健室に樫木先輩に連れられた日の話ですね」
「時系列で良かったのに」
「暗いの2連続は良くないです」
「我が家の団欒が漆黒というのか!?」
「1度レンタル家族でもして一般家庭を味わってください」
「時間制限と金銭の関係なんて、それは本当の家族と言えるのかな……?」
「先輩の家庭よりは言えます」
「言えられた」
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