「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

22 / 44
高校3年6月20日 火曜日
女絶対殺すマン


 

 今日はいつも先んじている文芸部の

守護神が居ない。ゴールキーパーが不在ならば俺は帰ろう、さらばだ。

 

と思った時、帰るためにドアを開けて途中で立ち止まる、俺の部室に押し込む感触と共に

 

「西藤哲也先輩、大変ご無沙汰しております、ね?」

 

ドアを閉められた。元フィアンセの人だ。

 

「てっきり卒業したかと思ってたぜ、じゃあな新キーパー」

 

 密室なら図書室で慣れてるので窓から飛び降りようとする、さらに今ならここは1Fだからノーダメージでトンネル効果を発動出来る、お得。

 

「逃げるのは構いませんがGPSを失念されておりませんか?」

 

 風呂に入る度に思い出してる。海外の性犯罪者などはインターネットで常に位置情報を晒され誰でも見れるようになっている、俺はいつ、お前を犯したんだ。

 

「実は今日は折り紙を用意したから これで勝ったら外してくれさい」

 

「……折り紙に勝ち負けの概念が」

 

 余裕ヅラは消えない、やはり清涼剤(ヒイワトソン)が居ないと夏は暑い。

 

「その前に答え合わせをしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 敬語系後輩に呪われているのだろうか、俺も敬語系に転職しようか。

 

「どうぞです」

 

「アオイさんでは無いという認識で、まずはいいでしょうか?」

 

「んー、俺ではあるな、ます」

 

 二重人格みたいな受け答えだな、朝と夜で人格が違うなんてファンタジーが過ぎる展開は()ってはいない。俺はどこまで行っても俺なんだ。

 

「御本人で在るならば嫌われたくないという乙女心が理解いただけますでしょうか?」

 

「乙女じゃないので分からないな、高校生になっても乙女を名乗るのはどうかと思……睨まないで」

 

「顔、借りますね」

 

 テーブルを挟んで話してる状態から、椅子から立ち上がりこちらに寄ってくる。

 

 顔に手を添えられて、目と目が完全に遭遇した、

 

こんにちは

 

「10秒経ったらロマンチックが始まるから録画しないと」

 

「最悪殺される覚悟で触りましたが、確かに別人ですね、残念です」

 

 あんな女絶対殺すマンと一緒にされたくない、離れて着席し直した彼女。

 

「そろそろ折り紙の開始合図をしていいか?」

 

 ビニールがさごそ、

 

「迷惑をおかけした様なのでお付き合います」

 

「何色居る?」

 

「白で」

 

 黙々と折り紙を折り折りしている、謎空間、さて、まずは共通の会話、学生的束縛発想。

 

「部活はどうしたんだ?」

 

 年頃の娘に話しかける親父みたいなキャッチボールを仕掛ける。

 

「吹奏楽部でピアノをしています、最近、部室の窓から飛び降りた生徒が出たそうですよ」

 

 吹奏楽部で何をやっているんだ、馬鹿な生徒も居るな。

 

「治安が悪い部活だな」

 

「ふふ、そうですね……私は完成しましたよ」

 

 1000年生きる白い鳥か。俺は一瞬、兜でも折ろうかと思ったけど子供の日は終わってしまってるので占い師志望にジョブチェンジ。

 

「クラスメイトが怪我をしたら1000羽折るやつだ、誰か怪我したのか」

 

「私はこれしか折れないんです。中学の頃に生徒のお見舞いで折ろうということで教わりました」

 

 今時折り紙なんて確かに触らないもんな、俺も小学生以来か?

 

「怪我と言えばですね。貴音ちゃんの怪我はクラスで話題にもなっておりませんので安心して大丈夫ですよ」

 

(あいつ人望も無いのか……)

 

 マイ折り紙もそろそろラストスパートに入った、文字をカキカキしている、スパスパ。

 

「ですが、私の情報が古いかもしれませんね。困った事に最近、私の友人が0人になりまして友達募集もしております」

 

「……」

 

 手が思わず止まった、最初から0の奴と捨てて0になってる奴、どっちが怖い?

 

「喉が渇いたから帰ろうかな」

 

「良かったら飲みますか?」

 

 クソダサリュックサックから、クソダサ水筒が出現する。全体的になんでパーツが実用性寄りなんだろうか。

 

「すごく君から飲む液体怖いんだけど」

 

「中井呼びでいいです、友達じゃないですか私達」

 

 友達ってこうやって出来るんだ、知らなかった。

 

「フレンド中井、GPS外して」

 

「嫌です」

 

 水筒の蓋に注いだ薄黄緑の液体を飲む、

 

「緑茶」

 

 いちよう、口を付けないように蓋から距離を取って飲んだ。

 

 口溶けは良き、程よく冷たく温度が保たれてるから魔法瓶だな、水筒の上位互換。

 

「お礼に俺の占い第一号客に任命しよう」

 

 完成品に指を指し込んでパクパクさせる。

 

「どうすればいいですか?」

 

(折り紙ビギナーがよ)

 

「好きな数字を言ってくれ」

 

「81です」

 

(そうなっちゃうか)

 

「10以下で頼む」

 

「好きは自由では無いなんて皮肉な感じが良いですね、では5で」

 

「いーち、にー、さーん、しー、ごー」

 

 パクパクパクパクパクと開いたり閉じたりする、

 

あ、やり方間違えたわ、これ(めく)れるところに数字を書いて選ばせる遊びだ。記憶が曖昧でやるものではなかった、適当に8番のところを捲ろう。

 

「『二兎追うものは一兎も得ず』だってさ」

 

「見ていましたけど、全部そう書いておりませんでしたか」

 

 こういう形でしか釘を刺せないから。

 

「勘違いが分かったなら、俺にもう興味ないだろ?」

 

「心境が複雑なんです……西藤先輩の残高を確認したので、大体の事情は把握しています。でも原因は顔なんです。難しい、一度目に焼き付けてしまって、それで、脳に隅々まで浸透させといて、別人?ふふふふふふふふふふ」

 

 笑い方がバグってる、俺がキッズなら『豆腐!』って言ってたところだ。

 

「俺の口座を覗くな、クレームなら本人に言ってくれ、さい」

 

「そんなことを言ったら嫌われてしまいます」

 

「あっ、俺はもういいんだ」

 

ほっ

 

「そこをもういいと言い切れないのが、今私を苦しめている一番の理由でしょうね」

 

 一息は無理か、乙女も大変なんだな。

 

「本当に付き合う気なら葬儀の準備した方がいいよ」

 

「問題はありません、殺されても良いので」

 

 双方がんばぇー

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。