「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年6月23日 金曜日
なにを食べてもゲロになる


 

 放課後、自教室にて俺は知らない間に机に置かれて帰ってきていた答案用紙を見て愕然(がくぜん)とした。

 

 前の席に居る長谷部さんと気持ちを共有にしに行く。何事も溜め込むと良くないので。

 

「宮川のやつは何処へ雲隠れした? アイツの担当カンニングの範囲、全外しだったんだけど!?ちゃんと勉強しとけよ!!!」

 

 戦友の絆が崩壊危機を迎えそうだ。俺のカンニング範囲は3割ほど当たっているので偉そうな口を利く権利が付与されているのでガンガン行こう。

 

「まずはカンニングを(かえり)みる気はないのかしら?」

 

 長谷部さんが常識的に物事を考えて間違っている事を言っている。

 

(いとおかし)

 

 使い方が違う、だから点数が低いのかもしれない。ベルリンの壁もうっかり崩壊していたので、これぐらいは許容範囲だ。

 

「真面目にテストを受けている生徒なんてこの世には居ない」

 

 もう呆れすらしない俺の受け答えに慣れきっている長谷部さんの顔はこっちに向かない。

 

「偏見ね」

 

 そうかな、この世とまでは行かないが少なくとも、この教室ではそうだと思う。そして今だけがこの世さ。

 

「長谷部さんがテストの日だけに着けてる腕時計は今日は着けてないんだね!俺あれ好きだよ!好き好き!ちゅき!」

 

「……」

 

 横顔の表情は変わらないが明らかに帰り支度の動きが悪くなった。腕時計は身体に装着するのでくっ付けるの付けるじゃなくて着るの方の着けるなのは最近に知った、高校のテスト範囲で出る気がしない。

 

「ん?偏見?んん?」

 

 でも推定無罪という言葉がある。疑わしきは罰してはいけないのだ。個人的には人の多くに苦しんで欲しいから、疑わしいだけでそれがまるで確定したかのように火炙りにされている著名人とかは横目で見てしまうな。事実なら灰になり、潔白なら救助されるだろう、火傷は残るのに。

 

「偏見よ」

 

(こいつは灰になりそうだな)

 

「どうせ、うちの学校の100点は他の学校の10点ぐらいだろうし、どうでもいいや」

 

 西高の満点に価値はない。

 

「そんな学校ないわよ……」

 

 放課後それぞれが部活やらサボりやら、各々の行動を示している教室。

 

 俺は今日は料理研究部へ行かなければいけないのだ。いくのかいけないのかハッキリしろ。

 

 

 調理実習室は立地がいいな。授業で使うからだろうか、本校舎の2Fの端に在るのは大変羨ましい。

 

 文芸部なんて西校舎の隅だぞ、どうして西高校の中で、もっと西に追いやられるんだ。お似合い?

 

 料理研究部に突入した。

 

がらら

 

「皆様の手と足になりに来ました! ですが心までは自由にされません! 今ならなんと! 1人でメイン企画を張れる俺の肉体を!」

 

 宣戦布告してる途中で気づく、

 

「?。」

 

 1人しか居ない、この場合の1人はワン・フォー・オール、1人は皆のために皆は1人のためにだから実質何人居ても1人扱いとかではない。

 

(嘘だろ)

 

 これはまさか、以前に鍋とガスコンロ、あと電子レンジにご飯パックも入れさせてもらった、その借りとして夏前の冷蔵庫の食材処理と掃除や戸締まりなど雑務を任命された。

 

 借りは返す主義ではないが一飯之恩(いっぱんのおん)は、いちよう返しとこうと思い始めた。これはまさかの行方は知らない。

 

「そこの2年、他のヤツはどこいった?」

 

 ネクタイが臙脂(えんじ)色、学年が一発でわかるのは有難い。

 

 新年度、通称4月の始まりはネクタイの色を変え忘れて『〇〇、後輩になってるじゃーんww』みたいなダル絡みはウザったいが風物詩(ふうぶつし)になっている。

 

「夏前に。食べてる場合。では。ないらしい。」

 

(ふむ、オーケー。完全に理解した。これは手伝いじゃなくて俺がメインで終わらせろということだな)

 

「夏に出来る急造(きゅうぞう)カップルは夏と共に終わりがちな気もするが、それはそれで一夏(いちげ)の思い出か」

 

 他人の恋路にとやかく言う趣味はない、ただ恋話は好きだ。えー、誰と誰が付き合ってるのー?マジー?というのをやりたい、やっぱ別にやりたくねえわ。

 

 通学鞄を適当な席に置いて、調理場の辺りを見回す。

 

「なに。作るの。」

 

(そっか、こいつが居るのか)

 

「料理研究部なんだろ、役割分担しようぜ、俺掃除しとくから調理を任せていいか?あと掃除も任せていいか?」

 

「食べる。担当。」

 

 大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない、それならそれで俺が2倍頑張ればいい。

 

「猟犬の面汚しめ、待ってろ、適当に作ってやる残飯処理後輩」

 

「ぐっじょぶ。」

 

 冷蔵庫を開ける、冷気と共に中身を確認するが、

 

「渋いなぁ……」

 

 野菜や肉が少しずつ、卵は助かる。チルド室があるのだからそっちに野菜は入れて欲しいところだな。まぁいい、どうせ、全部に火を通してやる。

 

 調味料を全部冷蔵庫に入れてるのも論外だ。常温保存という概念が欠如している。マヨネーズや醤油、味噌などは分かるが、砂糖、塩、オリーブオイル、酢、などは常温が基本だ。

 

 こういうのは気になる、全部チャーハンでいいや。絶対に確認しないといけないのは炊飯器、

 

ご飯は……あるな。

 

(よし)

 

「もう炒飯ころりんすってんとんでいい?」

 

「いい。」

 

(素直かよ)

 

「聞き分け良いな、伸びるぞ」

 

 年下なのに俺より身長が高いし、バレー部の方が向いてないか?

 

 年下だからとかそういう固定概念は良くないか、女だから男だからなんて言葉は掃いて捨てよう、反省。

 

「よく言われる。」

 

 ご飯の残りはおむすびにして持って帰ろう、

 

にぎにぎ

 

塩さらさら

 

逆か

 

ご飯の体温で塩が溶けるから

 

あっ

 

スマホに駆け寄ってレシピアプリを立ち上げる。持参脳より人工知能。

 

 そう言えば、素材を打ち込むだけで作れる料理を教えてくれる機能があるアプリを思い出した。

 

 こうやって楽に飼いならされるヒューマンビートボックス。炒飯はあるか……な、あった。

 

 

「「いただきます」。」

 

 お手々のシワとシワを合わせていただきますをする、幸せにはなれない。

 

「ん。いいにぎり。」

 

 なんかオニギリから食べられてる、いいけどさ……?麺専門店でカレーを食べに来る人も居るしさ……?

 

「よきにはからえ」

 

 使い方が違う日本語集がまた追加された、もうビンゴシートが埋まってる。景品よこせ。

 

「今日で。ここも。2学期まで。休部。んぐ。来ても無駄。伝えた。」

 

(一番長く喋ったな)

 

「伝わった、はむはむ」

 

 イタ飯を炒める飯だからチャーハンだと思っていた、イタリア料理の略称なんて学校では習わなかった、そんなことばかりだ。

 

 机の隣に備え付けられている水道蛇口から、手を石鹸で一度洗ってから(おけ)のように形作り水を飲む。蛇口直飲みクソ野郎が居たら俺と間接キスだ。

 

「ぷはっ! 水道水のカルキ臭ぱねえ!!!」

 

 夏場だと水が温まって白湯(さゆ)になっている時がある。

 

 今がそうだ、6月ももう終わる。これからが本格的な暑さなのだ。

 

(しばら)く流すの。コツ。」

 

 それは逃げなんだよな。あと次亜塩素酸(じあえんそさん)カルシウムが楽しめないだろ。

 

「俺はカルキを楽しんでるんだよ、邪魔すんな」

 

「そう。」

 

 猟犬のマスコット的な立ち位置だったと記憶しているが、一人残っている辺りその程度の関係性なのか?

 

 他人の弱みを握りたくて仕方ない、そんなことしてる場合ではないな。

 

真面目に生きよう

 

 黙々と食べている、謎の食事会。

 

(そう)!?」

 

 鬱は暗くなるけど躁は何をやっても自信しか湧かなくなる。

 

「……。」

 

スベった

 

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