「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
ただ「今」只今ただいま
気が付けば、汗ばむ肌の煩わしさと冷え込んだ文芸部室内、蒸れている廊下の寒暖差に身体の温度調節機能が
「この学校、絶対大麻とか栽培してますよね? その内、
こうして時々、下校のタイミングが被る後輩。鬱陶しい気持ちはお互いさまなのかもしれないな、自分への理解度が下がってきた。
「心配するな、大麻じゃなくてMDMAの方だ」
グミになっていたりして法をすり抜けている。正直、合成麻薬は興味が湧かない。そんなことしたところで普段と変わらないからだ。捕まる暇があるなら法を犯さない、5月の出来事は憲法記念日しか覚えていないぐらいに俺は正義に熱いのだ。
「私、進学高校ミスりました? 進路選択から人生始まってました?」
(それはそうだろ)
「西藤くんとそれと……はじめましてね、廊下でLSD*1の話はやめなさい。非常識よ?」
長谷部さんと遭遇した。俺、今リミテッドスリップデフの話をしてたのかな?
「なんか叩いてきた先輩の脳内時効が切れてます。この先輩、海外だと死刑になる薬物使用者ですよね」
(おい、長谷部さんに楯突くな)
「あら、また私の手のS極と貴女の顔のN極を当てて欲しいのかしら?」
利き手を挙げだしたS極。
「ひっ」
柊が怯えている。しょうがない、野生の柊を今日は保護しとくか。
「長谷部さん! ずっと前から好きでした! 付き合って下さい!」
間を割って入り二桁は言ってそうな台詞を吐き捨てる。少し、長谷部の目が渋々納得していたのが捨て吐ける。
「ごめんなさい、私は高学歴、高収入、高山病としか付き合えないの」
「ううっ……空気がまた
高山病になりそうな後輩は隣に居るな。
「クソッ! 最後の1個のピースが揃わねえ!!」
「まず絶対前者の二つ持ってませんよ」
お前にツッコむ権利はない。
「西藤くん、噂の付き合っている一年って、この子じゃないのかしら?」
誰だそんな噂を流したホラ吹きミミズ野郎は、閻魔に舌を抜かれたまえ。痛い。
「誰がこんな流木を森林保護活動するかよ」
ワイシャツを掴まれる。
「喧嘩なら買いますよ!?」
怒ってる、饅頭は怖いから叩こう。
「いたっ!え?おかしいです!絶対、私に正義がありました!間違ってます!世の中!!!!」
何か社会に不満があるみたいだ。世の中を責めても現状の自分に価値が付くわけではない、でも言いたい時は言っとけ。
「……やっぱり好きじゃない?素直になりなさいよ」
どこにラブコメの波動を感じ取ったんだ。遂に長谷部さんの頭がおかしくなっていた、現状からの現状なので問題はない。
「領域展開……?
目をパチクリとしながら固まっている後輩。こいつ漫画しか本当に読んでないな。教科書新品同様で卒業するやつとか中学に居た、折り目が入ってないから開くと『ベリベリ』と音がする。
「私が見た時はもっと本気で叩いてたわ。それなのに今は私が叩けない位置までこの後輩を誘導していて、自分の叩きも相手に反論する力を残している程度に力を抑えている。これを愛と言わずに何と呼ぶのかしら?」
「DV」
ドメスティックバイオレンスは恋人や夫婦以外でも使うらしいから合ってるはず、多分。
「そうね、DVも愛の一種よね」
長谷部の興味は特に無さそうな顔。そこまで愛を語りたい理由は無かったらしい。
「もう面倒になってるじゃん」
「西藤と違って私は図書委員で忙しいのよ。どうせ文芸部は暇なんだから図書室の受付でもやっときなさい」
そう言って図書室と違う方向の廊下に消えて行った。
「じゃあ帰ろうぜ柊」
「そうですね」
俺達も違う階段を下って昇降口へ消えて行く。
西校に馴染み出した後輩の歩く姿は俺にとっては小さな一歩(物理的歩幅)だが本人にとっては大きな一歩(物理的歩幅)だ。
キミは青いヴェールをまとった花嫁のようだった。
*
(図書室の受付なんていつも居ないだろ)
と思いながら、あのまま後輩と帰宅する流れに乗ってしまった。
そもそも受付が居ないから、隣に居る文芸部員が部室を図書室(漫喫)化させているのだ。
定期的に返却を長谷部さんに催促されていて、密かに俺が顎で使われている。
良いことをしているはずなのに『勝手に私の本棚を触らないでください、私の本にもセクハラするんですね、見下げた変態活字野郎です』と、思春期の子供が自室を親に勝手に掃除されて不機嫌みたいになっている。
「それでさ、俺! アポロ計画は成功したと思っている時が2年続いて、失敗したと思っているのが3年続いて、成功したと思っていたのが4年続いている状態なんだよね!」
あの時代に月に辿り着いた方がロマンはある。現代では人類初を各国で取り合う形で宇宙開発が進んでいる。アメリカでは月の敷地を勝手に売っている会社が存在していたり何でもありだ。近年だと民間宇宙旅行を世界一の金持ちな人がやっていた。
個人的にはスペースデブリ、通称宇宙ゴミについてレポートを書いたが『何十年先に起こるかもしれない問題を今、対処しようとする姿勢は素晴らしい』と拍手喝采は起きなかった。普通に提出して普通に成績が加算された、そんなもんか。もっと攻めた課題テーマにしとけば良かった。
「下校のトークテーマそれで合ってます?」
冷めた目が相変わらず俺を貫く。宇宙はもっとワクワクしたテーマだから『先輩!宇宙ですよ宇宙!ワクワクが止まりませんね!?』ぐらい、はしゃぎ回る後輩を見たかっただけなのに……謝ろう。
「ごめん、柊は地球平面説を押してたのに無神経なこと言った……」
十人十色、人様の考え方にケチを付けるということは撃たれる覚悟があるということだ。
俺も子供の頃は地球がたくさん存在していて空の色は別の地球で大量の惑星が見えているから水色だと思っていた。宇宙という概念を知った時には辛くて挫けた。
「絶対、他に謝ることがかなり在りますよ。あと地球は丸いです」
彼女は自分の主張を曲げる恐ろしさを知っている。人が成長する瞬間に立ち会ってしまった。こうやって何度でも挫折しても立ち上がることが出来るから人は怖いんだ。
「そうだな、丸いよな、うんうん、いい子いい子」
撫でながら温かい視線を送り込む。撫でやすい位置にちょうど頭もあるし。
「えっなんかボディタッチを当たり前のようにしてきてますけど、普通に不快ですからね?」
顔が不満を主張している、その意思を汲み取った。
「だから!丸が嫌なら平面でいいって!!」
地球が平面だと太陽の軌道と海の整合性が取りづらくなるので、そこに立ち向かうにはまず重力から攻略しないとな。
「丸だと言ってるでしょうがー!!!」
撫でている手を掴まれて払われる、というか投げられた。
軽々しく手を触らないで欲しい、興味の無い相手のボディタッチは不快でしかないと習わなかったのだろうか?
「左手がお留守になった」
手が戻ってきて元の位置に着いたので留守番という意味で。本来の意味はサボるらしいが、言葉なんて使ったもん勝ちだ。
「そうです、それでいいのです。出来れば視界からも消えて欲しいです」
がるると威嚇が始まったので、クールに去ろう。
「じゃあな」
俺は走って消える、闇夜には消えられない。
「ほ、本当に消えるのですね……!? 言ってみるものです」
後ろの野次に反吐が出たので柊の家に進路を変えた。
*
見慣れない玄関で3つ指をついて家主の帰りを待つ。この体勢は大和
(へー、オールカントリーに取りあえず投資しとけばいいんだ)
膨大な金の使い道を検索していたら、ガチャっと音がしたので一人暮らしではまず聞けない単語を放とう。
「おかえり」
目と目が合う、ポカンと気が抜けている後輩は顔を振って我を取り戻す、えらい。炭酸だったら飲み干す前に水で注ぎ足すよ。
「待ってください、何故家に居るんですか?鍵は?」
日中の2階は洗濯物を干してるので施錠をしている人が少ないので大人しくよじ登った。盗んでないよ。
腕を酷使したので休ませてもらっている、どうぞお気遣いなく。
「帰ったらまずは手洗いうがいだろ」
人間は丈夫だが内側は
「いえ、警察が先かもしれません」
警察だって暇じゃない、簡単に呼ぶな。と考えていると手遅れになるので危ないと思ったらすぐに呼ぶべき。
「そんなに国家権力をチラつかせて!自分の手で解決しようとは思わないのか!」
そうだそうだ、俺もっと頑張れ。
「原因がほざかないでください」
もう頑張れない。ジト目でドアを閉める後輩。普通に靴を脱ぎだして家に入ろうとする。想像してた結果は得られていない。
「ローファー通学は雨の日は滑って命の危険を感じるよね、マンホールとか歩道橋とかで」
通り過ぎようとする柊の肩を掴んで、ちょうど身長差が近くなるように少し背筋を意識する。
「悪天候なら履き替えますよ、天気予報知りませんか?手洗いうがいしてくるので、逃げないで待ってて、んっ!?」
ここが音ゲーのノーツが重なった瞬間、何の進展も意味も持たない粘膜交換が起きた。
「これ俺も、うがいしないとだよね」
6月の猛暑で頭がやられたようだ。まともな判断力が機能していない、というか備わってない。
「そこじゃないでしょう」
目尻が若干上がってる、怒気を感じ取った。
こいつの菌で病気を患ったら、色んな意味で寝込むなーと考えている場合じゃない、撤退。
「じゃあ何処だよ!全く柊がそんなヤツだとは思わなかった!!帰らせてもらっ、」
右腕を引っ張られ、倒されてマウントポジションを味わう。窓ダイブとベランダ登りで結構右手の痛みが再発気味だからそっちの腕を選ばないで欲しかった。味わうというか味わったあとに味合わされたので
「逃がさないです」
なんか
「俺のファーストキス今、奪ったよね?こんなの心の殺人だよ」
性被害は許せない。一時の欲求でその人の人生を奪っていることに、加害者は気づくべきだ。刑務所になんて行かないで被害者に殺されてろ。
「判定どうなってるんですか!?」
他人の唾液が口の中で渦巻いてると思うと雑菌が気になる、気が狂う。うがいしてから帰ろう。
「分かった、お互い1回ずつなんだから痛み分けってことにしようぜ」
妥協点を提示する。でも離してくれない。流石に男女差と体格差があるとはいえ、乗られていると抜け出しづらい。
「2回されてるのですが」
くそっ、柊なら足し算で
「お前の2回は俺の1回なんだ、だから引き分けだ」
こうして不平等を知れ。
「嫌です」
そう言われ、反論の声を振り絞ろうとした瞬間
「むっ?!」
また大事なモノを盗まれた。原作だととんでもないモノで二次創作は大変なモノだ。
「これでデュースです」
テニスかよ、バレーかもしれない。
「お前、俺の事嫌いだよな?ちょっと一回プラット?フラット?に考えよう」
ちょっと自制心がユラギそうで怖くなってきた、このぐらいなら全然平気。
「嫌いです!!ですけど!!!」
そんな区切られても区間賞はあげられないよ。駅伝の季節まであといくつか寝てくれ。
「悪かった、うがいしたら帰るから玄関で押し倒すの辞めてくれるか?」
平和とラブアンドピースを心情に掲げて、鳩を象徴するから箱舟に連れてって行ってくださいピカソさん、貴方が広めたんだろ。
「あれ?いつもなら力でゴリ押しして逃げていくのに……ああ、肩の怪我で力が入らないのですね、ざまぁです」
お前が刺したよね?(2回目)
怪我が治りそうになる都度、酷使している。自分が悪いと決めるのは簡単だ、でも認めない。そしてまた認められない戦いの
「まだ黄金のジャブが残ってるから、ボクシング界に彗星の如く現れちゃうから」
なんでこの短期間にスポーツが3つも出てしまうのか、大抵1番組にハゲは1人までと決まっているだろ、そうでもない。
「先輩はもう私のこと殴れないのですよね?」
また髪の話を思考しようとしていたら、下校する時に遭遇した長谷部さんの
しゃーなしだな。スポーツマンシップに欠けるジャブで俺は後輩の顔面を殴った。
「グァ!!」
横に倒れている後輩を横目に立ち上がる、よし帰ろう。
「エッ……?イタイ……痛いです……」
玄関の扉をバタンと閉じて、うがいは諦めた。家主を殴ったんだ、俺はお客失格だ。免停案件だ。あとちょっとでゴールドだったのに、またマイルを貯めなおすために屋久島まで行かなければならないじゃないか。
A
「初めてラブコメ感あるな」
「割って入って守るとこまでは良かったんですけど、その後叩いて台無しです」
「照れ隠しって知ってる?」
「常識って知ってますか?」
「これから知ろうと思う」
「はいはい偉いですね」
「ちめたい」
「慣れです」
B
「私の出番より宇宙の方が多くないです?」
「脳内柊はるんるんだったぞ」
「その私を太陽にさっさと突っ込ませといてください」
「『ここなんか→熱くないですか?←』」
「悠長ですね……」
C
「足し算で躓く柊が見たかった」
「1+1で転ぶ方が無理です」
「『ふぇぇ先輩!私の指が→足りません←』」
「そのゴミは人間なんですかね……?」