「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年6月28日 水曜日
耳料理


 

 いつも通り放課後睡眠定番定食を頼む、眠剤のことである。

 

 暑すぎて冬が恋しい、絶対権力者になったら神奈川県の経度をズラして涼しくしてやるからな。

 

 赤道移住民への尊敬の念が生まれながら放課後文芸部の扉を開いた。

 

「おはようこんにちはハローチャオーソーランソーラン」

 

「……そうですか、第一声目は謝罪じゃないのですか、そうですか」

 

 どうやらミスったらしい、珍しく漫画から目を離して視線がこっちに非難と共に来た。

 

「スーツを着て、アフィリエイト付けないで髪を染めて謝罪すればいいんだろ!!」

 

「その動画クリエイターあるあるはちょっと古いです、今は動画にしたら余計に燃料になるのを学習したので次誰かが炎上するまで投稿停止の雲隠れになりました」

 

 グループ系ストリーマーの流行りは移り変わり激しすぎる。やっぱりコンテンツは消費され捨てられる運命(さだめ)なのかもしれない。ずっと浮上している人は努力と運と才能の全てに備わっている。

 

「あの、そんなことはどうでもいいんですよ……いつも通りなんですか? なんかこう『……昨日は…あっ…えっと、そのっ』で『は、はい、なんですか?』みたいなのあるかな?とかは思ってないですけど、思っては無いのですけどね?あまりに自然体だと…ですよ?」

 

 年頃かよ。サカるな。吊り橋からダイブ過多のため、よくわからない路線へトロッコ問題へ突入しそうだ。アオイシュンヤなら片方殺せないことを悔しがるだろう、シュンくんが言いそうな言葉シリーズ。

 

(まく)から声うっせえな」

 

 あいつならそう言う(確信)

 

「し、知ってますか?よく貞操は城だと例えられます、一回も攻められたことがない城と何度も攻められた城、どちらが強固で価値が在ると思いますか?」

 

 ネットで何回か見かけたな。男性は兵士で城に攻め込んだ数、童貞はつっかえ、ヤリチ〇は一騎当千といった感じだった気がする。

 

「でもお前人じゃん」

 

 シュンくんの真似をしていたら友達が居なくなりそうだから辞めよう。まず、こいつと俺は友達なんだろうか? 中井さんは本人が友達だと言っていたから友達なはずだ。

 

「私だって!!彼氏ぐらい居ましたけど!?そういう先輩は!!!人の体温とか知っていますかね!どうせ、警察官に取り押さえられる時に初めて『あっ……人って温かい…』ってポロポロするんですー!!!あー可哀想です!!これだから童貞はー!!!!」

 

 目が無茶苦茶シンクロナイズドスイミングしている……シンクロが相応しくないということでアーティスティックスイミングに名称変更されたんだろうな……。

 

「うーん、証明しろと言われたら元カノの長谷部さん辺りを連れてこないといけないな……生命の危機を感じそうで難しいなぁ……」

 

 平気で切っちゃいけない血管を切ってくるタイプだから長谷部さんに逆らうのはカロリーを使う。地球は丸いからゼロカロリー。宇宙は四角いからロリ。

 

「えっ?ぱ、ぱーどぅん?」

 

(英会話かよ)

 

「いいよ、柊は酒池肉林(しゅちにくりん)で俺はチェリーで」

 

 ちなみにチェリーはスラングで処女という意味なので海外では気を付けなければ。今では童貞に対して使われることが多い、誤用を防ぐならチェリーボーイ。

 

 脳内が恒例(こうれい)のどうでもいい話題で埋まってるとワイシャツの(えり)元を掴まれる。

 

「ならチェリーらしく顔真っ赤にしてくださいよ!!!!!」

 

 休日のパッパが娘にジャングルジムごっこを強要されて登られているみたいな構図だ。

 

 昨日から情緒がやられているな、柊だから夏に弱いのかもしれない。(えのき)に改名しろ。

 

「品種改良だ、一回落ち着け、エアコンの温度下げてやるからさ?」

 

 見てみたら18℃だ、もう下がらない。

 

 マジか、こいつ文芸部に入って即最低温度にしたのかよ。

 

「将来的な人体の弊害(へいがい)とか本当に検証してるのですかッー!!」

 

 俺が言いそうなことを言い出してる。本人も、もう振り上げた拳を降ろせなくなっていて、行き場に困っている可能性すらある。

 

「俺、非処女廚だから、その…別にこれで柊を嫌いにならない!!」

 

 好きかと言われればフェイヴァリットに近い。お気に入りという感覚で決して横恋慕(よこれんぼ)ではないのだ。

 

「好かれたくて駄々を()ねてる訳じゃないです!あーなんか全部言い訳に聞こえて気ますよね?!?!」

 

 自分にもキレだしてる。なんだコイツ。

 

「まずセクハラです!!これはプライドとプライドの格闘技なんです!!!」

 

 年中短パンのファン0人が言いそう。

 

「経験人数で尊敬されるのは大学生までだ、気にするな」

 

 個人的な予測だが、社会人になったら家庭を持った方が評価が高くなる。逆にフラフラしているとダラシないと思われがち(私見)

 

「4年も馬鹿にされたら病みますよ!」

 

 確かに一般的な大学は4年制だが、お前は今高校1年生だろ、いや短期大学志望なら。

 

「短大か」

 

 短大は学歴マウントでは大学扱いされない傾向(けいこう)にある(偏見)

 

「6年です!!!!」

 

 自分の年齢と大学卒業までの計算で(つまず)いている、ぴょんぴょん飛び跳ねてキレている生き物を慈愛の精神で見守った。

 


ht

 

 だって仕方ないと思うのです。

 

 高校生になったら自然にモテる予定だったのですから、どこで予定が(もつ)れたのか迷宮入りに違いありません。

 

 ベッドに寝転がり枕元に置いてあるリモコンでエアコンのタイマーを設定しながら、悶々(もんもん)とした夏の蒸し暑さは依然(いぜん)解消されず、

 

 思考が雁字搦(がんじがら)めに固結びされて解けなくなりそうになってきました。

 

「…みず…わすれましたぁ…」

 

 台所まで起き上がって向かうのも億劫(おっくう)になり、遅れてきた微睡(まどろ)みに身体を(ゆだ)ねる。

 

 

「私、何をして、あれ?」

 

 気づいたら文芸部の指定席に座っている、今まで何をしていたのか思い出せない。

 

「起きたか」

 

「先輩?」

 

 よくわからないけど逃げた方がいいと思った時には、

 

「私用が出来たので、ぐぅぇ!」

 

足を引っ掛けられて転ばされた。

 

「まだまだだね」

 

 どっちが出口だったか頭の中がモヤつく。

 

「えと、一人ダブルスすればいいですかね!?」

 

「じゃーん!ハサミ買っちゃった!」

 

 銀色のフォルムが目に映った。

 

 先輩は『意味』のない暴力しないと信じたいところですが、その『意味』が常識外の可能性があるので結局は私からしたら意味がないのですよね。

 

「まだ先輩を入店拒否してない店が実在したのですね、悪です、ギルティー」

 

「好きなヘアスタイルを選んでね!」

 

「今です」

 

 今を大切にしたい、本当にそう思います。

 

「その寝癖は確かに可愛い」

 

あれ、先輩は私を可愛いなんて言わない

 

「そうですよね?理解しましたか?」

 

「じゃあ別の毛を「暑くて!!髪が邪魔になってきましたね!?」

 

 今私は何を思ったのか忘れてしまいました。

 

 というより別の毛ってどこですかね……?

 

「まず一番要らないのは、ここか」

 

 そう言って耳にハサミを当てられ、金属特有の冷たさが伝わってくる、恐怖と浮遊感が込み上げてきた。

 

「な、何で、み、耳に当たってるので「当ててるんだよ」

 

 耳鳴りが内部から起きる。

 

 遅れて痛みと激痛と身体の一部が無くなった時の、神経のシグナルが迷子になって戸惑ってる感じがする。

 

「ゥグッ…ハッ…ッ!」

 

 最初に大きく血が跳ね、その後ワンテンポ遅れてポタポタと第二波が(したた)った。

 

「シンメトリーって大事だよね」

 

 鼓膜が音を拾えなくなり『グチャグチャ』とした水音と耳鳴りの不快感が聴覚を埋める。

 

 逆の耳でなんとか声を拾う。

 

「ピカソ展行きましょう!アシンメトリーの偉大さが身に沁みてきますよ!!」

 

「アシンメトリーは和製発音で英語はエイシメトリーな」

 

 残った耳と別れを告げる間も無く、サヨナラを予感した。

 

 時間が一瞬止まったと錯覚するほどの長い沈黙に思わず目を瞑っていた私は、目をゆっくり開けて現状を口に出して確認する。

 

「はぁ…はぁ…まだ私シンメですか……?」

 

 アシン、ではなくエイシにはなってませんよね私の耳……痛覚がバグってなければ無事なはずです。

 

「読唇術は使える?」

 

「切ったあと喋りづらいなって顔しないでください!」

 

 よく顔は見えてない、だけど先輩ならこういう時こそ、分かり(やす)くハリボテな表情を作る。

 

「切った耳で焼肉しようぜ」

 

 これだから漫画ばかり読んでる最近の若者は発想が短絡的でキレやすいと言われるのです。

 もっと活字を楽しんでください、私も努力しますから一緒に活字デビューと行きましょう。

 

「8時間以内なら切断後、壊死状態でも結合すれば血行再建が始まり再接着可能なのです、なるべく血流を鈍くする為に水や氷などで体温を「塩味肉!」

 

「なんで人が耳の説明している時に人の耳を食べだすのですか!?」

 

「実演販売で食欲を誘ってるのかなと思った!」

 

 そんなスーパーのウィンナーの扱いなんですか……。

 

「私の耳が!!」

 

「沖縄の名物? また生えてくるよ」

 

「そんなモヤシじゃないのですよ!!!」

 

「例えは乳歯とかで良かったと思う……モヤシ……? でもでも!残りもちゃんと食べるから許して」

 

「先輩、そのハサミ貸してください」

 

「いいよ、まだあるし、おかわりは早い」

 

「ええ、わかりました、もう痛いほどに分かりましたよ。私達部活メンバーには簡単な方法がありますよね」

 

「勝った方が正義ってことだな!」

 

「運命なんてぶっ壊してあげますよ!!」

 

 その後、お互いの凶器が交錯(こうさく)し合い、屋上で私が勝ち鬨を上げて先輩の耳を剥ぎ取り、料理レシピサイトに先輩耳料理をUPしようとしたところで

 

 

目が覚めた

 

「なんですか!!耳料理って!!!私毒されてる!!!!」

 

「って暑い!布団邪魔!エアコンタイマーにしたのが失敗でしたね!?」

 

「でもそのままだと喉がやられますし!!!あー!!!」

 

「西藤先輩死ねぇっー!!!!!」

 

 私は今日から通学鞄にハサミを持参することにした。

 

 運命は自分で切り開いていこうと思います。

 

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