「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
小説家になれない
「ん?」
「起きましたか」
今、俺は廊下に押し倒されている。不思議体験だ。
廊下の横窓から見える太陽の位置的に朝と推測。
(つまり、朝に俺が起きている)
大抵は睡眠薬がキマっていて意識が
そして昼頃から意識がしゃっきりぽん、とし出す。夕方にはガパオライスぐらいに脳味噌が調度学校に馴染んでくる。
「今何時?」
後頭部がジンジンするので、絶対に地面にぶつけた、ぶつけられた?
勝手にスリープ状態の俺を起こした主は……これ、近所のキッズかと思っていたら後輩か。
「知りません」
(だいたいで良いんだよ?)
「廊下で床ドンされているけど、なんか少女漫画の世界で悪役にでも憑依転生したっけ俺?」
今や悪役から始まるのが多すぎて、メインヒロインスタートの方が見かけたら珍しいと感じる。
俺も王子と恋愛がしたい。
「私は、耳の仇を取りに来ました」
後輩が手に持っているハサミに目が誘われる、これは。
「ちょっと何言ってるか分からない、眠剤は適量じゃなかったけど、こんな作用あったかな……? 耳……?」
ただ気温は暑いので廊下の冷たさが心地よい、それぐらいしか褒めるところが無い。
「先輩と違って私は優しいので、ちょうど暑くてコレ邪魔ですよね!?」
なんか前髪を掴まれた、邪魔ではある。
(最近、優しさの定義が変わった?)
広辞苑をサンタさんに頼もう。
「俺、夏休みは南極で過ごすから環境省に入場申請を企画しています!!なので髪が邪魔だと自分はそうは思いません!!」
最近あまり聞いたことないフレーズを口にしながら、そして南極は誰のものでもない大陸ということで加盟国が皆で守ろう精神を実施しており入場審査が必要なのだ。
しかも南極条約に加盟する12カ国の中に日本が入っている。これは普通に凄い、よくあの時代に南極に辿りつけたな。
「ペンギンとお揃いにしてあげます」
ハサミが目の前の視界を塞ぐ、目の前なんだから視界に決まってるだろ、と脳内で頭痛が痛い現象が起きる。
ちょきん、ちょきん、と俺はなすがままに、ありのままに。
ホールと雪の女王の流行り方が怖かった、すぐ映画館に行って雪だるまを作ろう、おかしなこと言ってもいい?
「せめて白熊程度で」
ペンギンは子供の時に親より身体デカいんだぜ。
群れが大規模なので子供が迷子になり、自分の子供が居なくなったストレスにより他人の子供を誘拐する親が多発する。
そのくせに母親は育児放棄気味で父親が子育てをする。
全部、昔見た国営放送の動物特集なので記憶は曖昧だ、現実が曖昧だからお似合い。
▽
天に唾を吐いた記憶はないが災いが降りかかった。
しょうがないから丸め込まれた精神と頭の注目緩和に
「さ、西藤くん?何その頭wそんなに私を笑わせたかったの?wウケ狙いなら大成功ねw」
お前は前の席だろうが。
こういう間の悪さは、我ながら幸運の女神に愛想が尽かされている。
「長谷部さん、俺は絶対に文芸部の良心だよ」
人を指さして笑っていた長谷部さんが一回息を整えて、
「それはつまらない冗談ね」
なんかスベり認定された。
「ゆうきー!!!聞いてくれー!!!!別のクラスじゃねえかー!!!!!!!」
アウェーだ、まずホームがない。
「宮川ー!!俺このままだと授業に集中は困難だー!!!助けてくれー!宮川ー!」
「むしろ集中している時あったかしら? 3年間、見てないのだけれど」
話の腰を折ってきた長谷部を無視して廊下の、そうだな、一番右からニ番目の窓。
「ウィッグ居るー!?」
「居るー!!」
顔が左から三番目の窓から出てきた、やっぱり持つべきものは戦友だ。
「てるきカラーだから1回ヘアスプレーで
色々と言いたいことはある。
「坊主は恥じゃない!!!!謝れよ!!そのクロスケは未来編で銭湯ハゲがススを怒っていただろ!くそっ!!!あっ、でも
俺は取り調べを行う警察官ばりにバンバンと自分の机を叩く。
「あら西藤くん、出家?大変ねw」
また嘲笑いに来る長谷部に
「いつもっ!! 前の席から後ろを一切振り向かないのに! 関わらないようにしてるよね!? なんで今日は後ろに長居するのかな!? いじめですかー!?」
そう言い放つと長谷部は俺の右側に立ち、目を細めて、眩しそうに手をサンバイザー代わりにし出した。
「今日……
(久しぶりにキレちまったよ)
「あーもういい!!保健室に行きます!テルキあとで届けてくれ、教室は耐えられない、ばーかばーか!!俺が居ない間にテロリストに教室を占拠されろ!!!最初の見せしめに長谷部は撃たれずに読者にヘイトだけ溜めるクラスメイトの足を引っ張るだけのヘイト装置なれ!!!最終回付近だけ急に改心して良いやつな感じを出してネットで『でもお前は許さない死ね』って書かれ続けてろ!!!!」
「ごめんなさい、眩しくてよくお経が聞こえなかったわ、もう一度お願いw」
「うわあああああああああああああー!!!!」
──俺は走った
必ず、かの
各々の教室で授業が始まる前の空気を感じながら思い返した。
教室を出る瞬間に、ずっと避けられて目が合わなかった樫見さんと目が合った。
きっと『文芸部なのにボールあるじゃんww』と俺の頭でドリブルからのダンクシュートで虐める気なんだ!
小中学校でイジメを見て見ぬふりをしてた。
これは俺への報いなんだ!思い返すとそもそも学校にまともに行ってなかったから見て見ぬふりじゃねえ!!見ぬ見ぬふりだ!!!
もしイジメが在ったなら止められなくてごめんな!
今日から人に優しくなるよ!
地球儀を回して『世界一周ゥー!フー!ウェーイ!!』みたいになるから!!!
▽
「保健室の野の花よ、ああ、人は何故、傷付け合い、争うのでしょう、人は何故、許し合うことが出来ない……ああ……」
保健室で世の中の人間の善悪が信じられなくなり、憎悪と怒りで脳内が支配されそうなのを必死に、人間そのものに責任を転換している。
人類が悪いんだ。
「西藤さん、怪我がないなら回れ右しようか?」
診察もされずに保健教諭に帰りを
「先生……! 俺はクラスでイジめられてるんですよ!? もう保健室しか居場所がないのに!! そんな俺を追い出したら、あとは犯罪に走るしか道が残されなくなりますよ!!!」
聞いたことがある、これは教員の成り手不足に
だから教師の生徒への体罰、盗撮、イジメ黙認、自殺無視などが蔓延る。
生徒からのSOSをキャッチするのには人数的な余裕も必要なのは分かるが、だからといって教員免許を取りやすくするのはどうなんだ。
まずその立場を使って犯罪をした人は免許の再取得を禁ずるべき、でもそんなことをしたら西高の教師陣が全員クビになる。
卒業までは見逃そう。
「心の病気と怪我はここでは治せないませーん、私専門外、お帰りくださーい」
「まず教員免許を持ってますか?闇教師ですよね?ちゃんと顔に彫りましょうよ!」
免許の再取得を禁ずればいいと思っていたが、免許自体が無い可能性もある。
「あのね、西藤さん。こんなこと絶対言わないと思っていたのだけれど、イジメられる方に問題があると思うの」
神妙な顔で言われる。
同じように
「同じ意見です」
「そ、そう……」
自分が悪いと分かっている。
だからといって規則正しく生きられない。
あれ?俺が悪いのかな?散髪は理不尽だ、車はリムジンだ。
「だから決めましたよ、この学校を消し炭にしてやるってね!!!」
保健室の診断用の椅子から立ち上がり林檎の最高経営責任者の真似をしながら歩き意思を固めた。
「西高のスプリンクラー等の消火設備が数年で増加した理由はわかるかな?」
「虹の
「もう保健室ではお手上げなの、ごめんなさい治せません」
先生は自分の額に手を当てながら
それなら俺は
「諦めるなんて!!スクールカウンセリングとしていいのかよ!!!ちゃんとしたスクールカウンセラーを自治体から派遣してもらえるまで帰らない!!」
俺は歩きながらプレゼンするのに疲れたので大人しく椅子に座る。
回る椅子なのでぐるんぐるんしながら自治体を待つ。
「絶対、この場合は満場一致でOKだと先生は思うんだけどね」
「へー、全員がそうだからと疑問を持たずに進むなんて先生は自分で考えられない生き物なんですね、へえー」
「また手の治療するよ」
「ごめんなさい、僕が間違ってました、反省してます、もう俺TUEE系主人公にはならないです、本当なんです!!このとおり!」
椅子を止めて頭を下げた。
謝罪と挨拶は円滑なコミュニケーションをするために必要な要素だとマナー講師が言いそう。
マナーという授業がたまに在ったが何も覚えてないな。
▽
保健室を集会所にしていたら、いつの間にか昼のチャイムがキンコンカンコンと鳴り響く。
実質、
もう昼なんだ。
放送部が、お昼のラジオコーナーを作っており、ずっと喋っているのが聞こえてくる。
『廊下に大量の髪の毛が落ちてました……怪奇現象でしょうか……怖くて学校に行けません……』
と、お便りが寄せられた。
確かに人毛は怖いな、今日のゲストレギュラーの宮川が解決方法を勝手に振られても無いのに話し出す、
おいウィッグ早くしろ。
『てるきが思うにー! ここを学校だと思わなければ解決!次!』
違うと思う。
まずそいつは学校に来れてるから、物理的な悩みを精神論で解決するな。
さっさと俺がリクエストした曲を流せ。
「西藤さんさ、髪ぐらいでそんな凹むほど
宮川のトークを聞いていたら、保健室ティーチャーがベッドで寝転がっている俺のところのカーテンを覗いて質問してきた。
「
産まれる前の曲をチックタックとしたアプリで昭和ソングがよくリフレインして流行るのだ。
それで知る曲も多い、ハンカチーフとか簡単に会えなかったその時代っぽいなぁと、絹の話をしている時に木綿の話していいのだろうか?
「西藤さんはもっと図太く、
(保健室で心の傷が出来そうだ。ここって治す場所だよね?毎回怪我してるよ?)
「ランキングは全校生徒が答えて初めて正当な公平性が生まれます。俺が上位を取りそうな悪いランキングは未記入で提出しているので、一人でも書いていない生徒が居る限り正式な結果だと認めるべきじゃないです、この非公式ランキングめ!!!」
格差社会の原因とも言える、順位システムを撤廃させなければ『不慮の事故で登校してこないで欲しい生徒』ランキングで1位を取ったあとに『故意の事故でいいから登校してくるな』ランキングでも1位を取った俺が可哀想だろ。
その後、感染病が流行り、『それで亡くなって欲しい』ランキングも1位を取った。俺は負けない。
もうこれは学園を巻き込んだ俺への圧力だと受け取った。
何回、ランキングのテキストを燃やしに火を職員室に放ったことか。
警備員さんが給料に見合わないと次々と辞めていき、夜中に警備員が就かなくなったんだった。
そうだ、だから図書室で寝泊まれたのか。
「あら、悪足掻き」
なんか『いつも元気ね〜』とリアクションされているが、嬉しくはない。
「こんな日常会話をしにきたんじゃないです!ずっとこの世界にはアダムとイヴ、つまり人間は俺とユラギしか居なかったんです!!」
どうしてこんなに心が荒波に包まれていたかと思えば、
朝のキッズに髪を切られた時の支離滅裂な感じがドキドキ(物理)してしまったのだ。
「先生も人間」
指を指して『私も私も』と茶々を入れてくる。
「うるせぇー!!!!!!!今日初めて!このエデンに侵入者がザッキン!ザッキン!しに来たんです!!!」
そう、この高鳴る心臓の音が煩いぐらいに聞こえる。
まぁ、相手に伝わらないか。
心配になる、
──そうして僕は心臓の音を誤魔化すように
みたいな純文学と真逆な世界観で今日も生きよう。
「それ毎年、先生聞いてまーす」
同じ瞬間の人生が無いように、同じ言葉だからといって意味合いや背景が違うから別の言葉なのだ。
言葉に意味を持たせるのはいつだって他人であり己なのだから、
これはちょっと違うので却下。
「びーくわいえっと!!!!!」
「うるさい。」
隣のベッドからもカーテンが
どっかで見た後輩だ、でもそんなの知らない。
「保健室登校の
「そんな学級が在ったら誰も担任は就かないと思うわ先生」
ティーチャーが『なんて恐ろしい制度を……』と恐れているが一般的にはあるだろ。
だからウチのクラスには担任が居なかったのか、謎が解けた。
負担を押し付け合った結果で生まれたのが俺のクラスってわけね。
「ほかで。寝る。」
寝起きなのかピリピリしている後輩が、のそのそと保健室の出入り口に向かう。
「しっ!しっ!」
ここが土俵際だったなら塩を
「こらやめなさい主席」
俺の態度が悪かったのか、相撲協会から部屋を取り上げられて降格処分と減給を言い渡されたような気持ちになった。
今からの俺を真剣に見て、それからでも遅くないと信じてくれ。
「腹ペコったー、もう昼時かぁー……はっ!?あの2年は
ベッドから飛び上がり、開けっ放しのドアに向かい叫ぶ。
「そろそろランチだから私も退散するね。教室に戻りたくなかったら別に居てもいいけど、物を壊したり、火をつけたり、しない、わかったー?」
噛んで含めるように言われる。
そんな、壊したり焚火するような人間に思われているなんて心外だ。
火炎瓶がちょっと手元から滑り落ちた時があっただけだ。
「簡単なことも解らない!!!俺ってなんだっけ!!アンティパシーワールド!!」
困ったら分からなくなっとこう、忘れるのは人間に唯一許された防衛手段という話は前にしたよね?
そこまたテストに出るから。
「それなら退室、願いまーす」
帰りを促されたくない。
人生ゲームで振り出しに戻されるのはもう嫌なんだ。
「わがっだ!!壊さない!わがっだ!」
座り慣れた診断椅子の上で正座する、正座になれたらいい。
「ほんとにわがっだー?」
「う” ん” ! わ” か” っ た” !」
何度も頷く、マジシャンの首が落ちるマジック並みに上下左右させる。
「じゃあ、何をしたらいけないかなー? 言えるー?」
「
日本の法律上、もっとも重い犯罪だ。死刑確定で
「それはそうだけどね……」
▽
保健室で自宅警備員と化そうと思っていたが、時間制限下に依る疑似的な
フードロスの観点では救ったと言うべきか。
ここで救世主はメシア、だから昼メシアと言い出したら怒るよ。
コッペパンで七並べが行える量をゲット。
西校はジャムなどを別売りにしている辺りが悪質だ。
パンを鳩やカラスに与えて鳥獣公害を起こし、学校の品位を堕としたいだけだから味変など俺には必要ないさ。
さっそく鳥公どもに会うために屋上への階段を駆け上がる。
気分はまるでシンデレラは前にも使ったので気分はまるでサンドリヨン。
あっ、罪悪業その全てだ。
「うちくるー?いくいくっ!」
魚の方ではない挨拶をかます。
「何。」
階段の上の方から
ただですら
「屋上のドアの鍵が閉まってらぁ」
ガチャガチャとしたが開かない。
(屋上の換気は重要だろ!!)
もし自殺がしたくなったら人類の換気のために死なせてあげるべきだ。
と思ってしまう癖が抜けない、そんなアリバイ工作を企んでいると、
「
閉まっているフリをしていたのだが、隠し通路を知っていたらしい。
やるじゃん。
「…。」
小窓が半分まで開いてから、うんともすんとも言わない。
こっちをチラチラ見てきて困っているのが伝わる。
真実は教えないと。
「ごめん、隠れて入っている生徒が居るって、教師に密告して窓が半分以上開かなくしてもろたで工藤」
名前を知らないので工藤と名付ける。
工藤さんならきっと開いても入れなかったなんて言えるほどデリカシーは欠如してない。
1年の時にここで長谷部さんに階段から落とされたのがフラッシュバックとかもしてない。
「裏切者。」
俺はコッペパンを大量に抱えながら、ムスっとしている後輩に
「その言葉が聞きたかったんだよ、じゃあな盗人」
ラララと階段を下りていたら、
──背中に衝撃が走る。
「まじかっ!!」
まさか、この階段で2回も落とされるとは思わなんだ。
なんとか頭を打たずに、手を着いて足も着地した、これ以上手をイジメないでくれよ。
パン以外は助かったな。ほんとジャム買わなくて良かった、ベタベタアリさんコースの手前。
そして蹴飛ばされ、落とされたことを理解するのに時間を要したフリもした。
「こういうこと。」
階段の頂上、塔屋から小さい声だが、はっきりと聞こえた。
意味は、
「全くわからん」
俺はおずおずと散らばったコッペパンを集めた。
7つ集めて願いが叶うなら、今すぐ転校をする。
誰だってそうする。
「屋上。好きだった。のに。」
工藤は肩が下がりショボくれながら降りてくる。
同じ目線になる丁度すれ違う瞬間、
ポケットからさっき仕入れてきた金属を出す。
「あーあ、屋上のスペアキーを隠れて作っといたのになー」
この存在は秘匿したかったが仕方ない。不備を放置するより直して安心を与えて隙を突くべき、アパートの管理人が壁の中の配線に盗撮を仕掛けて売りさばいてるような、
家族サービスには時間を
「蹴って。ごめん。」
手を地元で有名な鎌倉の方にある大仏みたいに挙げる。
違かった、手を挙げてるのは奈良県の大仏だった。
もう神奈川民を名乗ってはいけない気がするので、そのムシャクシャした気持ちを彼女に打つける。
「許さない」
俺は抱えているコッペパンを赤ん坊に見立てて抱え、
公園でトラブったシンママ気分で『どうしてもっと私に優しくしてくれないの、生きやすくしてくれないの』と目つきを作る。
「一回。私。蹴っていい。」
そう言って、自分の背中を
「俺は女性に暴力を振るわない」
力では何も解決しない。
人は喋り、分かり合えるのだから、暴力という動物染みた解決をしようとしてはいけない。
特に自力で解決するのが難しい子供や社会的にまだ不遇扱いされやすい女性に対してなんて
肉体的に発達している男性が暴力を使うのを俺は何よりも憎んでいた。
▽
ht
理奈と机を合わせてお弁当を食べてる私に悪寒が走る。
「!?」
上の階の方から嫌な気配がしました。
「どうしたの?」
理奈はカニクリームコロッケを箸で半分にして食べようとしてるところをコロッケより私を心配してくれたのは嬉しいです。
だけど、先輩アンテナがビビビと心の中で反応したのは気になりますね。
「どこかで先輩が
「貴音っ、その、そういうのは中学生で卒業しとこうよ…?」
理奈は食べようとしていたコロッケを弁当のフタを皿代わりにして一旦戻し置いた。
「違うんです!!! これは……! 先輩の! あー! なんと言いますか! 絶対に私は間違って無いんです!」
全ての出来事は先輩が悪いのに、どうして分かってくれないんですか。
「またー? もう文芸部に行くのやめなよー」
最近、理奈は私が文芸部へ訪れることに対して否定的な発言をすることが多い。
「これは戦争なんです!!!! 勝った方が正義なんですよ!!!」
私が行かなくなっても先輩はきっと何一つ日常が動かされないんでしょうね。
それでは負けなんですよ。
「貴音、入学した時はもっと落ち着いてたよ?」
私が長谷部さんに持った感想と同じだ。
もしかして我が身を振り返れてなかったです…?
「……」
「彼氏の影響でタバコを吸い出した彼女みたいだよ?」
「…例えはよくわかりませんが、そうですね、もっと私はクールビューティーでしたね」
「そ、それはどうなんだろ」
初心は大事です。
これからは知的な後輩として、手のひらで転がしてやりますかね?
▽
「どうしたら。それ。くれるの。」
今のところマトモな後輩が生息していない。
特にヒイと鳴く害虫はカミキリムシに変異した。
また保健室に籠ろう、虫が多すぎるのなら自分が虫籠に入る方が手っ取り早い。
「自分で考えてみてくれ、帰るわ」
マインドコントロールの基本は自分の悪いところを自分で考えさせること。
そうして自己肯定感を下げていく、まるで自分が世の中で必要とされてないような錯覚を起こさせる。
そこで命令や役割を与えることで『この人だけは自分を必要としてくれる』と思わせたら勝ちだ。
世の中を勝ち負けで考えているヤツは大抵ヤバい。
極論は『勝ちは殺す』で『負けは死ぬ』だから、共に歩むコマンドを用意しよう。
▽
張り込みする刑事のように放送部の出入り口で待ち伏せをしながら、形が
無味無臭オブ・ザ・デッド。
「て、てっつー!なんでここがわかったのさー!!どんどこどーん!!!」
こんな高飛び(犯罪者が海外に逃げる行為)をした犯人の演技をしているやつを追い詰めている場合じゃない。
「早くウィッグを寄越せ、さもないとコッペパンで撲殺するからな」
まだ4本ある、もう帰りに食べかけをゴミ箱に突っ込みかねない心理状態に突入した。
もはや食事は噛んで飲み込むだけの作業になった精神状態なので、昔はよく居たアニメキャラみたいにサプリが食事の路線にキャラ変をしたくなってきている。
居ねえよ。
「これこれ市場!」
宮川のワイシャツの腹部からウィッグが登場する。
(今時
宮川は宮川一式セットを持ち歩いている、主な目的は替え玉登校。
スープが無い状態での替え玉は禁止の店で水をラーメンに注いで調味料でスープを作ったら出禁になった話と、宇宙人の触手をヌードルにして別の宇宙人に食べさせたら宇宙戦争になってしまった話、アナタが落としたのは良心。
そしてウィッグを受け取り、返品をしたくなった。
「このウィッグはどうして真っ青なの?
基本的に女性は色盲になりづらい、X
つまり、君は絵が上手い。
「ほらー!!てっつー、ゲームのキャラでアオなんとかだったからさ!バファリンー!」
宮川テルキは身体は女で心は男、そして同性愛者なのに男が好きとややこしく、性別以前に宮川としての個の主張が強いので誰も性別とかは気にしていなさそうなのでバッファロー。
トレードマークはチェリーレッドの髪色。
「半分が優しさならもらうしかないな!?」
いちよう受け取るか、残りの半分はなんなんだよ。
黒いウィッグが良かったな♡
「いーえす!」
走って何処かに消えて行きそうだったので宮川の首根っこを掴む。
「こんな汚いアオと俺を一緒にするな!テルキの馬鹿!阿呆!階段を使え!でもありがとう!カス!ありがとう!カス!」
近年、階段を使っているところを見たことがない彼。
「大人の階段は登り切ったからね!! さあ! てっつーも上がろう!!」
こっちが掴んでいたと思っていたら、その掴んでいた腕を掴まれていた。
コアラが木に掴まっている感じで可愛い。
コアラが食べているユーカリは毒が有り、解毒するのに一日の大半がかかるから寝たきりなのは有名なのでマーチの話をしよう。
いちご味好き、お前嫌い。
「この髪で教室に行ったら『あら? こんなところにブルーバック? フリー配布素材かと思ったら朝の僧侶じゃない、どうしたの? 捕まるタイプのユーチューバーの真似事かしら? 別に転身しなくてもそのまま生きていれば捕まっていたと思うわよ?』と長谷部に煽られるだろうが!!!」
髪の毛を染めて成立するのはメンズ地下アイドルとコンセプトカフェぐらいだ。執事カフェで『お帰りなさいませ、お嬢様』と言われたい年頃は
「実はてるきもね、ペディキュア青いんだー! お揃いー!!」
速攻で靴と靴下を脱いで主張してくる。
確かにウィッグと同じで、トンネルで落書きされている時によく使われてるカラースプレーのドキツイ真っ青だ。
「そこはチェリーレッドじゃないのかよ」
再び腕にしがみついてくる宮川をベリベリと剥がしながら世間話に
「孤独は二人から始まるのさ! 色も二色から始まる! これはね! てるきは一人ではてるきになれないという意味!!!」
お互い、地に足が着いてきたのでそろそろリリースをしよう。
「わかんねえー!!! すげえー!!!! かっけえええええええ!」
とにかく終わらせるために宮川の顔を掴み、窓の方に向ける。
これで帰巣本能が
「でしょー!!!!」
そういって廊下の施錠された窓を瞬時に開けて飛び降りていった。
下に人が居たら事件だ。
▽
放課後を表すチャイムが鳴り止む。
保健室で貝になっている俺はノソノソと羽化をする準備を始めた。
何気なく窓を見る。
太陽が全然ギンギラギンにさりげなくない。
保健室の水道で顔を洗う。
きっと火傷などで緊急を要する生徒への処置のために取り付けられている。
ついでに蛇口でマウスウォッシュもするか。
がらがらがら。
ペッって勢いよく吐き出すやつは他人の唾の飛沫の不愉快さを理解していない。
スマホのインカメラでヘアスタイルを確認しながらウィッグを整える。
いつもは特に見栄えなんて気にしないが加害者と被害者の
文芸部へ行くか。
憂鬱が脳みそを支配しそうになる。
きっとただの人間には興味がないんだろう。
皆どっかおかしいので、ただの人間なんてこの世には居ない。
自論。
▽
どうやって文芸部にいつも入っていたっけ。
不登校で久しぶりに学校に来るとクラスに飛び込むのには勇気が要る。
案の定、入ったら入ったで空気が止まる。
あの注目を全て
今、全員の記憶の
「少年A、来てやったぜ」
男も女も少年表記なのに女性には少女という言葉がある。
なんか男としては負けた気がしているが、『男なんて負けてるぐらいがちょうどいいんだよ♡男は女の下に一生居とけ♡』と、あー、ァ?
「先輩、そんなアニメキャラみたいな配色に髪色を染めたんですね。イメチェンですか? 似合ってます、美容院ですか? 暑いですからね、髪の毛が長いと邪魔ですよね」
どう考えてもいつもなら漫画から目を離さないのに入ってきた時から目が合った、覚えている(確信)
「俺は責任能力とか関係なく犯行したやつは全員平等に死ねばいいと思う派だからな!!! あとこの手で実刑にしてやりたい派!!」
後輩が椅子から立ち上がり、お互いにカバディみたいになっている。
「先輩も耳切ったじゃないですか!!! おあいこですよ!!」
ジリジリと牽制し合う。
汗が滴るのは夏が理由だけじゃない。
「しらねええええええぇぇぇぇー!!!!!!!!!!!!!!!」
耳が分からない。
マジで知らない。
パンの耳をラスクにして食べてみたいなぁと密かに思っていたこと以外しか心当たりがない。
「私も知りません」
こいつ理解を捨てやがった。
「耳ってなんなんだよー!!! お前が知らなければ誰も知らないだろうがー!!」
この感情と髪の毛の遺族達にどう向き合ったらいいのか。
というか誰が遭遇したんだ。
それから俺の髪の毛達はどうなったの? 毛髪検査や遺伝子検査で特定されるのか?
絶対それで特定されたら『1人で廊下で髪を毟り出した』と思われるんだろう。
味方なんてこの世に居ない。
「一回落ち着いてください、そんなに取り乱して恥ずかしいですよ?」
後輩が『まぁまぁ』と
「昨日のお前じゃいいいいいいいいいいいいいい」
「私がそんな醜態を晒すわけないじゃないですか……先輩のいつもの虚言には呆れますね、私はクールビューティーですよ?」
後輩が髪をかき上げて戯言を言い出してきたので冷静になってきた。
「そっか、俺の敵は柊を産んだこの社会なんだ」
俺が大人しく席に着いたら柊も警戒しながら座った。
「そうですね、私は悪くないです」
「あと保健室で暇だったからweb小説を書いた、感想ギブミーチョコレート」
保健室のベッドの上でスマホで
別に連載はする気はないが、なにかにぶつけたかった感情が混在したのだ。
いちよう読んでくれてる後輩を俺は伏し目がちに顔色をビクビクと
「感想ですよね……? いくらweb小説を書いても現状は何も解決しないと思いますけど」
やれやれ顔で『育毛効果なんてありません』と言ってくる。
加害者意識が不足している。
「書籍化まで行ってやるからな!!!」
こうなったら人生を舐めて印税暮らしが簡単だと思い込むしかない。
どんな職種も売れている人は自分より努力しているなんて知ってしまったら頑張っていないやつは生きていけなくなってしまう。
現実は見ない見ない。
でも現実の位置を把握しないと目を逸らせないので定期的に直視しとこう。
「それならもっと一般ウケしそうな作品を書くべきですよ」
正論だ、セイロンティーを沸かしてやる。
こちらも沸かし返す。
「VTuberモノは一般だろ!」
VTuberが出てきてかなり時間は経過していてweb小説のVモノは確立している。
もうメジャージャンルづらをしていいと思う。
「作者が一般的じゃないです」
そんな人を反社会勢力扱いしないでくれ。
でも言いたいことは分かる。
というより本気で成れるとは思っていない。
鳴るか。
「うぅ……うーーーーーー↑↑↑↑」
机で顔を隠し、
被害者アピ。
「甲子園のサイレンみたいに泣かないでください……」
泣き方を間違った、ついでに生き方も。
▽
小説家には成れなさそうなので別の将来を探しながらウィッグは蒸れて暑いから鞄にさっさとしまった。
鞄の中で蒸れるか頭の上で蒸れるかの違い、これを地球と呼ぶ。
昇降口に誘われ鼻歌を歌いながら廊下を踏む。
「すいみんすいみんすいみん睡眠時無呼吸症候群ー♪」
寝ても疲れが取れない、夜寝たのに昼間にはもう眠い、頭痛などが頻繁に発生する人は
症状が悪いと無料になったり安くなると聞いたことがあるな、だから次はコロッケの歌にしよう。
「いざぁー進めキッチンーピロピロピロピロゴーウィゴーウィ「西藤先輩には失望しましたよ」
元婚約者もどきだ。
この時間だと吹奏楽部の下校と被るのかにゃ?
「ヒカリッヘー、むしろ今までは希望していたの? 本社に御用件を御希望なら1のボタンを、製品のサポートなら2のボタンを「私はアオイさんの顔ファンだとお伝えしましたよね……もう近寄らないでください、心底失望いたしました……」
なんかガッカられている。
もしハゲていたら石を投げつけられたかもしれない。
生えていても投げつけられた気がしてきた。
「中井さん、いやルッキズム中井! お前だっていつかは!!!!おーい!! 話してる途中ー!!! 行かないでー!!!!」
でも本当は言いたいことは何も無いからラッキー。
俺は背中姿のルッキズム薄情野郎に精神を打ちのめされたので、廊下の窓を開けて夏風を浴びる。
陽炎と夕焼けがなんか二人で踊ってダンス(語彙力消失)をしているようだ。
将来は夕焼けになろう。
廊下踏みを再開した哲也ロボはガシャンガシャンと上履きを新品のランニングシューズに履き替える。
同じ下校タイミングであろう樫見さんが正門に向かうのを見つけた。
勿論、声なんて毛頭かける気はない、頭の毛も無い。
あっちはまだ靴箱に居る こちらに気づいてはいない、気づかれたところで何も現状の変化は起きない。
彼女に対する感情は複雑を
あの日は調子が悪かった。
一般的には調子が良いと言える。
樫見さんを殴れなかった、それに尽きる。
最近のトップニュースに躍り出る落ち度だ。
理由という名の心当たりは眠剤が中途半端だったこと、意識が
良くない、人間に対する擬態行為を止めてはいけない。
右の人が泣いていたら自分も泣いてやれ。
じゃないとまたあの世界に閉じ籠もり、耳を閉ざすだけ日々に戻ってしまう。
《戻れないよ》
「戻れないの?」
こういうのあっちから断られるケースあるんだ。
やっぱり柊と帰っとけば良かった、ちぇっ(下手くそ投げキッス)
「別に逃げてないからな!!!」
俺は正門を
別に何も言われてはいないが。
「西藤さん、静かに下校はしましょうね」
保健室の闇医者である
「先生!! 俺ほんとに逃げてないんです!!信じてください!」
「別に逃げてもいいんじゃない? 学校から逃げてくれると仕事が減って助かるし。あっ、でも西藤さんを信じてあげるのは無理だからね」
下駄箱と廊下の境目で人の目も多いからなのか、いつもより前半は教師らしいことを言っている、後半は知らない。
保健室じゃなければ保健室ティーチャーは弱体化するのかもしれない。
「沙代里先生は母国語を喋れたんですね」
「君と違ってね」
先生が軽く片目を瞑りながら右手に雑務であろうクリアファイルや書類を抱えて、もう片方の手で校門を
「俺だって母国語ペチャクチャ喋れますが!? その言葉に傷付いたのでPTAに駆け込みますね!!! こっちから先に言い出したとかは抜きにしてRTAPTAしてやる!!」
坊主らしく逃げながら捨て台詞を吐き返した、これは正しい?
「気を付けて帰りなねー、捕まっても在籍してる高校を伏せるのは忘れないことー」
やっぱり闇教師だ。
▽
校門に向かって走れ! 三角コーナーで差をつけろ!! そんな気持ちとは裏腹に普通に歩いて
「なにガンつけてんだよ、西藤」
「えっ」
かしみんだ。
門の正面の よく卒業式では撮影スポットにされているところに居たらしい。
あれだけ騒いでいたら そりゃ存在はバレているか。
「そんな謝りたいなら聞いてやるよ」
カシミアセーターの言葉に俺はその場で泣き崩れる。
夏なので夕焼けはまだそこまで赤くないのに、樫見さんの頬は赤くなりながら『俺の話を聞いてくれる』と言ってくれた事実に泣いてしまう。
「……うっ……くっ……!」
涙は出なかった。
演出的には出た方がいい。
頬の内側の肉を噛んで涙を出す。
「な、なんで泣くんだよ!! キツく言い過ぎたか?!」
右往左往している樫見さんに感謝の意を表明する。
「坊主になって初めて人間扱いされたッ……!!!!!!!」
こんなに人間って良かったんだ……! 温かいんだ……! 人ラブ……! 俺は人間が好きだ! 愛してる! だからこそ人間の方も俺を愛するべきなんだよ……!
「ぼ、ぼうず?」
「樫見さん!!!いいや優香!俺は苗字呼び、さん付け大好き主義だけど!! チェス盤をひっくり返すぜ! 優香!ありがとう!!!」
ユウカの手を掴み、わっちゃわっちゃと上下して感謝を伝える。
「おう……」
「ちなみに何か用?」
待ち人来たり感が満載だったので問い合わせをする、3のボタンは昔のゲーム機だから存在していない。
「……夏祭り行かない、かなぁーなんてなっ、う、うそだから」
「嘘か、じゃあまた明日「おーい!!!!!!絶対来い!!」
百面相している優香さんが帰ろうとした俺の坊主頭を掴む。
簡単に(心の)傷口を触るな。
「絶対ってあの絶対?」
「それ以外ないだろ!!決定!もう約束したからな!指切った!」
小指られた。
せっかくなので主導的にも小指を結び直して力を込める。
「……どうした?」
不思議そうな顔で『離さないのか?』と
「なんかこうやって小指を並べているとユウカも女の子なんだね」
「ホントにどうした!?」
ユラギが興味無さげだ。
焼き餅の一つぐらい喉に詰まらせて欲しかったが、無理そう。
「あとユウカ呼びはキツいや」
その瞬間、樫見んの逆の手が噛んだ方の頬を貫く(
「ふ”ぁ”!」
違う意味で膝がまた地面についた、ボクサー的な意味だと思う。
「悪かったな! 名前がキツくて!!」
小指はあっちからも力を入れられているらしく離してくれない。
アウトレンジから逃さない様子の樫見さんを俺は殴れないから、このままだとまた怪我が増える。
「どこが優しく香るんだよ!!!!香ってみせろよ!!!嗅いでやるよ!!」
「お前こそ賢く聡く
「つまり俺達は似た者同士だったんだな……近い人が傍に居るだけで心強い気持ちが楽になるよ……」
地面についている膝をぷるぷると子ヤギか子ジカのように立ち上がろうとする、個人的には子エーデルワイスが好み。
「なんでちょくちょく歯痒いこと言うんだ!?」
同じ目線まで物理的に来たぞ。
「樫見さんの人間性を見直したんだ俺は!!褒めたい!!! 出来れば長谷部を一緒に花壇に埋めよう!!
門の前で立ち往生している
俺達はそれより長谷部を仕留める、机の上に音に合わせて動くサングラス向日葵を並べてやる。
「朝のは、まぁ……私もウケたよ」
小指を無理矢理手離す。
「お前もかー!!!!!!うわああああー!!!!!!!!!!!!!!!!」
──俺は走った
必ず、かの
▽
「さっきさよならしたよね?」
保健室の沙代里先生が事務作業をしながら俺の出戻り、魚で言うところの
「先生……! 俺はクラスでイジめられてるんですよ!? もう保健室しか居場所がないのに!! そんな俺を追い出したら あとは犯罪に走るしか道が残されなくなりますよ!!!」
先生は書類を
「先生は帰るから、あとは鏡とどうぞ」
「やあ、君なんて言うの?僕哲也」
保健室の姿見で不思議の国の哲也と化して籠城する。
よくカットされがちなラストの赤い薬とアオい薬のシーンが印象的。
赤い薬を飲めば不思議の国に残り、国を支配していた女王を打倒した英雄で自分は在り続けられる。
その上、兎はこの世界の秘密である兎の住処を教えてあげると言う。
逆にアオい薬を飲むならこの物語は今すぐ終わり、君は現実で目を覚ますだろうと言われる。
シュンくんなら迷わず赤を飲むだろう。
彼にとって現実は耐え難いだけの異物なのだから、
俺は?
両方口に含むよ
その方がキミに近づける気がする。
ボクなら
「……これ放置したらマズいかなぁ?」
先生はまた頭を痛そうにしながら俺に近づき、少なくとも医療者の端くれだからなのか戻って来てくれた。
「へー!!君も哲也って言うの!?凄い偶然ー!!!」
こうやって鏡と喋っていると中学生の時にリスカした血液を食パンに付けてトースターで焼いてジャムパンだとしていた自分を思い出す。
ただ血液を飲むと発生する可能性がある病気がB型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス、ハンタウイルス、エボラ出血熱などがあるのでマトモな人間は血液なんて飲まない方が良い。
プリオン病や梅毒や白血病を入れ忘れたが、そこまで言っていたらコンプリートしてしまうじゃないか。
「はい、先生が悪かったから帰りましょうねー、はーい、キリキリ歩くー」
鏡の前から肩を掴まれ、背中を押されて廊下に押し出される可哀想な哲也。
(※頭が可哀想という意味ではない)
「いーやーだー!!!てつやとしゃべるー!!!!てつやぁー!!!!!!!」
鏡越しに映ったユラギは興味無さげに
▽
その晩、眠剤に手をかけ、やっぱり引っ込めた。
今更 薬での肉体的な蓄積負担とかを気にし出したわけではない、早死に上等で生きている。
《また浮気?》
多分、後輩のことを指してるのだと思う。
この意地悪な指摘は『だからといって俺と付き合っている』と勘違いしてはいけないし、賛成も否定もしたら彼女の好感度が下がるという点。
「とぅーとぅーとぅるーとぅーとぅーとぅるー」
月を監視しながら月泥棒が居ないか警戒をしとく。
俺が兎さんを守らなければ誰が守るんだ。
《シュンくん》
嫌なワードだぴょん。
眠剤を掴んで月に向かって投げる。
「眠剤なんて要らねえー!俺は俺だぜ!!ヒャッハー!!!一日が長ええええええ!!!!パーリーピーポー!!!!!ピポピポピポピポピポピポピポピポ!!ピポピポパリパリパリパリピポピポピポピポ!!!」
窓まで届かなかった眠剤が床に転がる。
窓を割ったら夏の夜の害虫共が部屋に入ってくるからな。
一般ピポとして当たり前なことをしたまでだ、感謝される筋合いはない、キリッ。
《逃げた先は行き止まりだよ?》
「ならそこに住むさ」
もう誰かが先に居てもな。
やっぱ飲もう。
脱眠剤はもう少しレベルを上げてから挑戦しよう。
現実にレベルなんてねえええええええええええええええええええ!
あるのは等身大の自分と現実だけ。