「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年7月02日 日曜日
靴に付いたガムを食べて友達を怖がらせよう


 

(日曜日の朝ァー!)

 

 カーテンをシャンシャンとパンダのように開ける。

 

(昼だった……)

 

 テンションがガタ落ちしながら寝ている間に電波を浴びたくなくて部屋の隅(すみ)っこで暮らしているスマホを拾いに行く。

 中学生の時のマイブームで頭にアルミホイルを巻いて寝ていたらアルミで肌を切っていて血だらけになり目を覚めていた。睡眠導入中も単純にカシャカシャうるさいのでもう死ぬまでにやらない。

 スマホでネットニュースを乱雑に流し見しながら、今日やりたいことをメモに打ち込んでいるとユウキからのメッセージが届いてるのに気づいた。

 休日は大体ネットの海を海水浴しているのに珍しいな。せっかく海に来たんだから海に行こうぜ。

 

『暇ぁー哲也ぁー暇だよぉー』

 

 メンヘラ彼女みたいなメッセージがピラミッドになっている。よしよししてやろう。

 

『第二公園家紋』

 

 適当に返信して、とりあえずはシャワーでも浴びて寝汗を流してから着替えて行くか。

 

『第三の方が僕誓い』

 

『誓いません』

 

『辿り着くまでに干からびちゃっても僕知らないよぉー』

 

『ピラミッドだけにミイラか』

 

『どこピラミッドぉー?』

 

(早く寝巻きを脱がさせろ)

 

『着替えるからフロリダする』

 

『ウォルトは遠いよぉー待てなぃー』

 

 最近知った単語を使いたかった。風呂に行くから離脱という略らしいが、もう死んでいる言葉だ。

 用済みになった言葉を拾うのも乙なもんさ。

 

*

 

 第二公園に居るが暑苦しい、逝きそう。

 どうして七月の真夏日に外で待ち合わせを約束してしまったのだろう?

 どちらかの家で良かったのではないかと思考をしつつ、路上でフルマラソン最後の方のランナーみたいになっているユウキがヘロヘロになりながら向かっていると思うので、その姿を見届けてから考えようと目標を立てた。

 

「……」

 

 キョロキョロと辺りを見回して柊命名みーちゃんを探す。

 やはり俺命名クロロホルム却下猫は居ない。どこへ行ってしまったんだ。

 

「も、もうむりだよぉー! 哲也ぁー、支えてぇ―! うわぁ、砂利が冷たいぃ……」

 

 でもこの地域で動物虐待をするタイプの人間は生息していないと思うから生きているとは思う。

 何より俺は殺していない、不思議だ。

 

「こんこんー! エキノコックス!」

 

 転がり、日陰の砂利の冷たさに縋(すが)っている情けない親友に挨拶をかます。

 

「もう僕動けない」

 

 拗(す)ねてる。

 

「図書館や市民プラザの避暑地(ひしょち)へ逃げるか? ユウキの家でも良き」

 

「僕の家なら僕来た意味なにぃ……?」

 

 のそりとこっちを向くユウキ。

 不平不満なら吐き出せば楽になるぞ、受け止めないけど。

 

「適度な運動」

 

 こいつずっとゲームしてるか配信見てるかだからな。

 人のことは言えなかったが熱中症になられても困るから水道水でもぶっかけとくか。

 

「涼しくなったらするよぉー」

 

 公園の水飲み場、正式名称は立形水飲水栓(たちがたみずのみすいせん)、通称は立水栓(りっすいせん)の蛇口を捻(ひね)る。

 水が出るところを指で軽く塞いで、横に飛び出すようにして友達に浴びせたりする。

 

「放水開始」

 

 マンションで上の部屋の人が火災を起こしたら下の部屋が消火活動でびしょびしょになる。

 これで火災保険が下の階は燃えていないから適用されない場合がある。

 ちょくちょく裁判が起きているのでその内、法律改正がされると思う。

 

「ありがとぉ~」

 

「気にするな、俺もお前の着替えを気にせずやったから」

 

「……どうしよぉ哲也ぁー」

 

 そんな濡れた犬みたいに困るな。

 

「この暑さなら自然乾燥するだろ、乾いたら市民プラザに行くか」

 

「やっぱりインドアが最高だねぇ。これを僕の辞世(じせい)の句にするよぉー」

 

「自制して頑張れ」

 

「上手くないねぇー」

 

「第二波」

 

*

 

 木陰(こかげ)のベンチで二人で服を乾かし合っていた。

 

「なんで俺も濡れてるんだろう」

 

 小首を傾げて、己の水の滴りをアピールする。

 

「報(むく)いだね」

 

 ユウキが猿蟹紅白歌合戦のオチみたいなことを言っているのを頭の片隅に追いやり、濡れて風を浴びていると体温が下がる気配を感じるなぁ、と思考をチェンジアップした。球種。

 

「そういや、前のお悩み相談はなんだったんだ?」

 

「あー、あれはねぇー、推しのログイン率が下がっちゃったんだよぉ」

 

「あの同じクランのネカマレスバ最弱最強さんだっけな?」

 

 中学生の時に耳にタコ焼きが出来るほどに聞いた。はぐはぐ。

 

「とっくにクランは強制除名されてるけどねぇ、あとレイカ姫ねぇ」

 

 女アバターを使っているが、明らかに男口調でずっとボイスチャットで喚いている、それなりに有名なキチガイらしいが俺のところまでは届いていない。耳ではなく。

 

「でも長谷部のドブ川は、そういう推しとか嫌いだから良かったんじゃないか? 卒業するチャンスということで」

 

「あのね、推しが卒業するのは良いけど、いや良くはないけどぉ……でも僕からの卒業は無いよー?」

 

「絶対哲也も動画見たらハマるよ~、特にこのランクマッチの時の動画はね「よし(友情が)乾いたし、行くか」

 

「露骨に面倒がらないでよぉー」

 

「話は聞き流してやるが、布教(ふきょう)活動は聞きすらしてやるか!」

 

 服よりユウキの舌の根を乾かしたくなってきたぜ。

 

「えぇーじゃあねじゃあねぇ、この大手クランと当たった時の、これは布教じゃなくて一般ウケが高くて皆楽しめるやつだよぉ?」

 

「ほら、ガムやるから黙れ」

 

 来る途中に踏んでしまった靴の裏ガムを見せる。

 

「それ食べ出すような友達 嫌じゃないのー?」

 

「イエスアイアム」

 

「そこの水道で剥がしてきなよぉ~」

 

 水では取りづらい。

 側溝(そっこう)の銀のハッシュタグみたいなところ、別名グレーチングに足に力を入れて張り付けるか。業者の人が定期点検に来る前に雨で流れていてくれ頼む。

 

「市民プラザ行こっかぁー」

 

「友人のマナーが悪い行動に一切、違和感を感じなくていいのかよ!!!」

 

「だってぇー今更だよぉー」

 

「砂場の砂を運んで水道を埋めるぞオラ」

 

「めっ」

 

「それでは人は止まらないだろ」

 

「そういう無駄なことはしないくせにぃー」

 

 結構しない。

 

「まぁ、このままビショビショで歩いていても傘を持ってきといたから通行人は夕立だと思うか」

 

「あるのに濡れてたら謎が深まっちゃうよぉ」

 

「そこまで通行人は頭良くないぞ」

 

「えー、そーかなぁー」

 

 そのぐらい人の目なんて気にしない方が気楽なんだよ。

 自意識に殺されてろ。

 

 

*

 

 

 地元の特徴として一番高い建物は学校、二番目がこの市民プラザだと勝手に決めた。コンビニやスーパーは在るものの、ドデカイ商業施設は山を三個は越えなければ無い。

 田舎からしたら都会、都会からしたら田舎なのだ。

 

「涼しいねぇー」

 

 入口は解放感があり、全面強化ガラスになっていて外からも内からも見渡せる。

 ユウキと俺は自動ドアと自動ドアの間の風除室(ふうじょしつ)を通り抜け、あとは受付で名前を記入したら無料で入場が出来る。ぐへへ流石税金の施設だぜ。

 

「西藤哲也様は当館のブラックリスト……失礼、利用制限対象者として登録されています。今後、敷地内に足を踏み入れられた場合は直ちに警察へ通報し、不法侵入として対処いたします」

 

「……」

 

「哲也ぁー元気でねぇー(涙ぐむ演技をしながら手を振る親友だったもの)」

 

 市の施設なのに市民が断られた。偽名を記入したのにも関わらず本名で勧告された。

 

「法律にすら時効(じこう)が在るのに! ここは治外法権かよ!!!」

 

「ご理解をいただきますようにお願いいたします」

 

 職員の手が受話器に伸びていた。この人、やると言ったらやる凄みがある。

 

「こちらこそ迷惑をかけてごめんなさい帰ります……家で大人しく一人かくれんぼをして過ごします……どうか探さないでください……ちらっ、ちらっちらっ」

 

「……(受話器から手を離さない)」

 

 なんか帰るまでジっと受付に見られている。

 確かに去年、宮川と俺で立て籠もり人質ごっこをして子供が市民プラザを利用するのが怖くなったと聞いたが、でもナマハゲって居るよね? つまりそういうことだ。

 

《ハゲはシュンくんだよ》

 

(そっかユラギは俺との未来を老後まで想像しちゃったんだね? 結婚しようね? 俺の浮気の基準は俺以外の固有名詞と動詞を使った時点で浮気だから)

 

《だる~》

 

 帰っていった、(ハゲではなく)坊主の勝利。

 

*

 

 俺は帰る家を忘れたので、施設の裏に回り込みながらスマホのメッセージ一覧を開き、ユウキに『マスターいつもの』と送った。

 流し見していたら未読メッセージの中にシュンくんから来てたのを見つけて思わず二度見した。昼間に活動しているなんてアカウントを乗っ取られた可能性がある。

 

『女装男子の八重歯煎(せん)じて飲みてえ』

 

 これは本物だ(確信)そして暇そうだ(産業革命)

 

『俺で良かったら着替えるけど!?』

 

 シュンくんの為なら人肌脱ごう。八重歯は無いけど、歯を折ればなんとかなるよね。

 

『また強請(ゆす)られそうだから来んな』

 

 返信が早いな、今日どうしたんだ。

 

『もしかして(性格の)メンテ?』

 

『日曜に長期メンテナンスとか運営 計画性ねえよな』

 

 イエス判定。

 

『じゃあ夏休みは一緒に思い出でも作る!? 作っちゃおうか!? ふぇぇ……子供は作れないよ……』

 

『月跨(また)ぐまでメンテしてねえよ、お前と過ごすとストレスで死にそうだからパス』

 

『はーいwワンキルゲットーww』

 

『殺すぞ』

 

『1k1dだね!?』

 

『キルレシオ気にして戦力にならないカスは死ね』

 

『ごめんねシュンくん、俺は今 親友と摂理(せつり)に立ち向かってるから さよーならまたいつか!(朝ドラ並感)』

 

『シュンヤはてめえだろ』

 

 スマホを閉じてポケットに入れ直す。

 叩いても増えない市民プラザの真後ろまで回り込み、そこに隠されたように設置されてある鉄の梯子(はしご)を登る。

 出禁界隈(かいわい)ではかなり知られていた裏技が有り、プラザの二階非常口からの侵入が可能という技。ちなみに出禁の基準は施設の貸し出した用具を壊したり乱暴に扱ったり喧嘩、乱闘、図書室の本を延滞(えんたい)などがある。

 立て籠もりは基準に無いのに俺が出禁なんておかしい。

 

*

 

「哲也ぁーおかえりー」

 

 防火扉を開けると俺を待っていたユウキがおかえりをしてくれた。嬉しい。

 

「今日はまだ昆虫ゼリーしか食べていないから小腹に効いたぜ」

 

「夏だね」

 

「だな」

 

 六月が終わり、本格的に猛暑地獄の沙汰(さた)は金次第になってきた。

 祖母が『お金はあの世に持っていけないから』とお小遣いをくれたのを思い出す、全部その金でソシャゲに課金したよ おばあちゃん。

 見て この水着みたいな紐を着ている女の子、これが おばあちゃんの年金の集大成(しゅうたいせい)だよ。普通に考えたら水着の方が致命傷になりやすいから防御力が落ちるとかは考えてはいけないんだろうな。

 男の水着キャラが出るソシャゲも最近は多いから助かっている。

 そう思いながら別にやっているソシャゲは無かった。

 

「図書室は警備が配置されてそうだから、体育館で不人気スポーツやろうぜ」

 

「クリケットぉー?」

 

「固有名詞は お口にチャック」

 

 ジジジジジと口の近くで横に引く動作をする。伝わっただろうか?

 二階の非常口はプラネタリウムという不人気コーナーに繋がっている。

 基本、学生が涼しく仮眠したい時に寝ているだけの施設だ。音声ガイドで星座の説明を最初の頃はしていたらしいが、睡眠の妨(さまた)げになると苦情が入り、ひたすら天井が回っているだけの広い寝室が出来上がった。

 

 そこから大きな広場に出ると、マッサージチェアがずらっと並んでおり老人が屍と化している。近くのベンチやテーブルで将棋や囲碁、(金銭が飛び交う)麻雀をしたり、新聞を顔に乗っけて寝ている屍達。

 

 使用中止になった全身麻酔薬ハロタンがまだ使われているのかと考えてしまうぐらいに人が倒れている。

 ただ、向精神薬(こうせいしんやく)の過剰摂取のせいで身体が馬鹿になり麻酔が効きづらくなっていた俺は軽い手術も全身麻酔になるので毎回、意識を失う行程が発生し、次の瞬間にもしかしたら目が覚めなくなるのかワクワクしてしまう。

 

 一階への階段を下りる前にさり気なく図書室の方を観察。

 ここの図書室は絵本から聖書まで置いて在り、活字を全く読まない俺には立て籠もり以外に用はない。

 

 一階へ突入して、無料の自動販売機が階段の近くに設置してある。

 よく病院や大手の保険会社などで置いてあるやつだ。ラインナップが貧しい、市の税金の限界を感じるが、水しか飲む気がないのでラインナップは現状で満足。

 一面ガラス張りの壁とテーブル、ベンチだけの空間が長く続いて、終点には体育館。

 食べ物を持ち込んで食べる人や読書、勉強、リモートワーク、なんでもござれと言った様子。

 中学生の時に知らないオジサンが子供を集め、カードゲーム大会を個人主催、優勝者に好きなボックスを買ってあげるよ、と活動していた。

 今思えばカードゲーム人口を増やそうと頑張っていたのかもしれない。

 

 何よりメインの体育館だ。これがかなり広く、中高生にはバスケが人気なイメージ。次点に卓球、バレーと、ほぼ学校と同じような体育館の使い方をしている。もっと攻めろ、リュージュとかやらせろ。

 

 体育館倉庫から借りたいものを貸し出しリストに名前と借りる物を書くシステムは人の善意頼り設計。

 縄跳び、大縄、小さなサッカーゴール、テニスラケット、バドミントン、と豊富。

 個人的にオススメはサッカー、子供向けの安っぽいプラスチックみたいなゴールだけど、だからこそ大人が本気で守るとキーパーがクソ強い。

 フィジカルだけで無得点現象が起きる、ワールドカップ並に1点が決定点になるのでかなり面白い。

 

 そんな風に出禁になった施設について考えながら、長いガラス張りのベンチ空間を抜けて体育館にやっと着いた。

 

「喰らえ! 我が導きの翼撃!!!!!」

 

「効かないろん!! バリアろん!!!!」

 

 体育館にやたらと騒がしいキッズ達が居る。片方は猛暑で真っ黒な服の姿はどこかで見たことがあるな。

 あそこのガキ共には近づかないでおこう。

 

「とりあえず卓球の線は消えたな」

 

「えぇー、足動かさないスポーツが良かったよぉー」

 

「卓球は足めっちゃ動くだろ!! 頭も身体も使う心理戦! そして回転逆回転の駆け引き! 強弱の入れ具合でどれだけ相手の裏が狙えるかの真骨頂のスポーツだからな!?!?!?!?!?」

 

「けいー!!やくしゃー!!!!!来てくれたのか!!!!!!!!」

 

 出入り口に手を振ってくる黒ずくめ。

 

「卓球はスポーツじゃない(アンチに転身)」

 

「知り合いぃー?」

 

「この髪の毛の利点ってバレないことじゃないのかよ……」

 

「あっ、哲也ぁ髪切ったぁ?」

 

「闇討ちというか朝討ちされた」

 

 今、気づいたんか? いや、ユウキはそんなもんか。思わず関西弁になってしもうた。

 

「勝った方にこの伝説のレジェンドアンブレラをくれてやる!!!! かかってこいよコスプレキッズどもが!!」

 

 俺は七(しち)面倒になった傘を投げ捨て、景品として槍玉に上げた。

 

「くっははは!機関との攻防を潜り抜け新世界に到達した我に立ち向かおうと言うのか契約者、否!契約者よ!!!」

 

 否の意味は新世界を潜り抜けれなかったらしい。

 

「どっかで見たことあるような気がするろん、ん〜忘れたろん!」

 

 黒い通行人は二度目ましてだが、こっちの白い方は見たこともない。

 

「哲也ぁー、流石に小学生は止めるよぉー、柊さんまでだよぉ、親友として応援するのはぁー」

 

 どっちも応援されても困る。

 

「そこの少年!我は幼き死者ではない!!!!仮初の姿とは言え ふぃふてぃーんだ! 前世を観測するなら五億歳だがな!」

 

 数字が小学生。

 

「此方(こなた)はじゅうろくろん!西高校通ってるろん!高校生ろん!!!」

 

「あんなまだ見ぬヤバいやつが我が校に居たのかよ」

 

 刑務所以下の高校だと噂になるだけはある。

 

「少年ぃ……そんな若く見えるかなぁー……」

 

 ユウキが自分の顔をペタペタと触りながら落ち込んでる。

 片方は下校で遭遇した自称15歳、もう片方は高校二年らしい。

 一年はざらっと見たからな。制服ならネクタイで判別することが可能だが、私服なので判別は不可能。

 そもそも猫耳付き白パーカーは私服なのか? コイツら冬国出身なの? 逆に寒く感じ過ぎて着込んでいるから夏国出身の可能性。

 

*

 

「そっち いったよっ」

 

 わざわざ声なんて掛けなくても追いかけているぜ。

 

「ガイジ舐めんなよッ!!!」

 

 スリースターが刻まれている卓球のボールを打ち返す。

 ボールにプリントされた星の三つを動体視力で捉えられる人は卓球の才能があるらしい。

 

「甘いな契約書よ!!」

 

「本になってるろん!」

 

 先にウォーミングアップをしていたからなのか、少女二人はワチャワチャしながらも ちゃんと連携は取れていた。

 だがその連携も虚しく、こちらに一点が加算。

 

「流石哲也ぁ、まだまだ動けるねぇ」

 

「ふっ、これでも伊達に池沼(いけぬま)してないぜ(無い髪をかき上げる)」

 

 レシーブ担当の俺は全集中の半分ぐらいの集中をして待機。

 こっちがレシーブであっちがサーブだよな(曖昧)

 

「手元で伸びたろんっ、ごめんろん! ……あの人達は何を言ってるろん?」

 

「属性相性の話だろう! 我らは我らの務めを果たそうぞ!」

 

「わかったろん! 湖海(こかい)ろん!」

 

 ろんろんのサーブが飛んでくる。

 

「知らない日本語だぁー」

 

「知らぬが仏サーブ! じゃなくてレシーブ! 誰かルールを教えてくれ!」

 

 卓球を全く知らないボロが出ながらの卓球。

 

 

*

 

 

「ふふ……はは、くっはっはっはっは!!! 我の封印を解かせるというのか! いいだろう! もう後戻りは出来んぞ!!! 巻き方を忘却の彼方に捨てたからな!」

 

 弱から強へ笑い出した汗だくの名前すら知らない五億歳が、そう宣言をしてクソ暑そうなマフラーと長袖を脱いだ。

 

(絶対に暑かっただけだろ)

 

「続いて脱ぐろん! これで点数がイーブンろん!」

 

 卓球にそんな加点システムあるのか?

 

「俺達もなんか脱いだ方がいい流れだな……?(ルールを知らないから不安になってきた俺)」

 

 シャツ一枚なので、俺はもう脱ぐものは無い。

 

(男は上半身オーケーと世間に思われがちだが普通にアウトだ、俺の中では男の上半身も性的に見れるからな)

 

「哲也強いからハンデに着てみたらぁ?」

 

 良い勝負がしたいわけじゃないので遠慮する。流石に女子の脱いだ私服を着ながら女装卓球をしていたらバスターコール案件。

 

「嫌だ、気持ちよく勝ちたい」

 

 俺は戦うのが好きなんじゃない! 勝つのが好きなんだよぉ!! と、思わなくもないが、負けて得るものもある。

 友達の家で大乱闘するゲームで勝ち過ぎたら『お前とゲームやっても楽しくない』と泣き顔で六回ぐらい言われたが、何回言っても手なんて抜く気にならなかった。大人しく塗り絵ゲームで共同しとけばいいものを。

 

「後輩には優しくしようよぉー」

 

「勝負に私情は挟まない! それが相手への最大の敬意だ!!!」

 

 『わざと負けよう』とか『接戦を演出しよう』の発想をしている人は二度とスポーツをするな。

 

(こっちはいつだって真剣なんだよ)

 

「そうだ! 契約者!! 肉体は滅ぼうとも! 魂の鼓動は不滅!」

 

「あの二人仲良さそうろん」

 

「ね、似てるのかなぁー」

 

 

*

 

 

「くそっ!!!! ユウキのサーブさえ決まってれば!!!!!! 僅差で負けたのに!!」

 

「途中で『傘取られなさそうで良かったねぇ』って僕が言った瞬間からわざと負けてなかったかなぁ」

 

「敬意の塊と魂の俺が? ありえない……笑止」

 

《スポーツと絶好まだー?》

 

(これからはスポー2(ツー)として扱うよ)

 

 睡眠不足だからなのかユラギが沸く沸くしてる。ただ『うぜぇ』という顔をして直ぐに消えた。

 俺の予想だとスポーサウザントまで粘るつもりだったのに、それでユラギと俺がイチャコラする予想まで建てたのに。御破算。

 

「これであの時の借りは返したぞ契約者!!」

 

 俺は何を貸してたんだろう。

 

「あー! 思い出したろん!! 壇上に登って取り押さえられてた人ろん!!!」

 

「ユウキお前何してんだよ(心底見下して目つき)」

 

「絶対僕じゃないぃー(首を振る)」

 

 それはそうと身バレ対策を聞いとこう。

 

「というか相棒はよく俺が俺だと気づいたなッ……! 対策するからカラクリを教えろッ……!」

 

「何度再演回想したと……苦汁を嘗(な)めさせられた屈辱はいつか、この演舞のように撃ち返す! というより! フレンド申請を何故断る!? 個別チャットで話しかけても無視どころかブロックまでの所業! 契約者!! 勝ち逃げするような卑怯者ではないと我は心得てるぞ!?」

 

(相手してやれよシュンくん……)

 

 原因は性別か? 早く女アレルギー処方箋を医師さん出してあげてくださいホント早く、変なやつに絡まられてるんです助けて。

 知らん女と知らん女でエクシーズ召喚できるレベルだ。レベルじゃなくてランクは禁句。

 

「なぁ相棒、仲良しごっこがしたいだけなら俺は お前を相棒として認められない、俺達が見てる景色は……(天井に挟まって取れなくなっているバレーボールを見上げる)だろ?」

 

 敢えて言葉に余白を作り、意味ありげに上を指で差しながら発言した。

 

「合点したぞ、つまり上で決着をということだな……すまない、我はてっきり面倒で返事が来なかったと勘違いしていた!!」

 

 面倒を通り越して殺意が湧いてそうだから それは勘違いだな!

 

「こいつら何言ってるろん?」

 

「偶然野良で仲良くなれたからってスタメンヅラして一緒にランク戦回ろうとしてくる格下は迷惑な時があるからねぇ、キャリーや寄生は人を選ぶってことだと思うよぉ」

 

「こいつも分からないろん……」

 

「そこのろんろんは一年? 二年? ちなみに俺達は西高三年の超先輩だ、俺達より上は存在しない超超先輩だ」

 

「に、二年ろん」

 

「なにー!? 我が来年西高に入れられる時には契約者は卒業してるではないか!!!」

 

「哲也は留年してるんじゃないかなぁ」

 

「フッ……また一足、死に近づくぜ(額を抑えてチェスをしてるようなカッコいいポーズ)」

 

「先輩達は何部ろんー?」

 

「帰宅部だよぉ」

 

「帰宅部と書いて文芸部と読むから覚えとけよ後輩、そう言えば お前らの名前は?」

 

 やっと聞けた。

 

「名乗るほどの者ではない!」

 

 いい加減名乗れ。不便だ、この元一般通行人野郎。

 

「佐々木ろん」

 

「下は?」

 

「……ぅろん」

 

「ろん? 親凄いな」

 

「道桜(ちはる)ろん!!!!」 

 

「ちはるろんか、攻めてんな」

 

 シェンロンとかにならなくて良かったな。

 

「契約者、名を弄ぶのは道義に反するぞ」

 

「なんか優しくなってない? 気のせい?」

 

「哲也ぁ、受付の職員がこっちに来てるけど、これも気のせいかなぁ……」

 

「傘を受け取れ! 相棒!!!!! じゃあな! 俺はそろそろめざましジャンケンの出番だ! さらば!!」

 

 傘をかなり無茶な方向に投げてみたが難なくキャッチする五億歳。目を覚めさせるジャンケンは相手を殴ることだと思う。

 

「日曜の午後は違うジャンケンじゃないかなぁー?」

 

「おー、なかなかの代物! しかと受け取った! あっ佐々木……さん、我がもらっても大丈夫か?」

 

「平気ろん! それに今日で友達ろんだから呼び捨てでも平気ろん!」

 

「おお! 盟友佐々木!」

 

「そうろん! えっと……ろん!!」

 

「僕もちょっと盟友 助けてくるねぇー、対戦ありがとねぇー、ばいばいぃー」

 

「少年! 再び邂逅があれば!」

 

「少年ばいばいろんー!」

 

 誰か俺のカッコいいポーズに触れようぜ。

 

*

 

 体育館の出入り口はただ一つ。そこを堂々と通してくれるほど市の職員は甘くないだろう。

 非常口は卓球エリアの反対方向なので、大人しく地下体育倉庫に引っ込む。

 

 出禁界隈不人気部門上位である体育倉庫の換気用小窓からの脱出を試みよう。

 埃だらけで蕁麻疹(じんましん)が浮かび上がりそうな気持ち。

 夜中に柔道やテコンドーなどの習い事をやっている声が外まで響いていた。マットが乱雑に置かれている現状を見るに、スポーツの基本心技体(しんぎたい)の最初の部分が無いかもしれない。

 あと偶(たま)に成人バレーチーム、あまりママさんバレーという言葉が好きじゃないがそれもあるか。

 整理整頓しようという発想に至らない辺りは気持ちが凄いわかる。

 『どうせ誰かがやる』『自分達以外にも使ってる人達が居るから自分のせいじゃない』そんな気持ちが免罪符にしやすい。

 一番安易な足台の跳び箱が無い、やはりボール入れのデカいカゴが車輪で動いて汎用性(はんようせい)が高いぜ。

 シャァーっとホイールを回転させながら小窓の下に設置する。

 あとはどうせ誰かが片付けるだろ、はい免罪符。

 

「何してんすか……?」

 

 小窓からひょっこりひょうたんしていると目が合う。

 

「よ! 支部大会、県大会はどうだった? 負けたか?」

 

 バスケ部の元後輩の坂下がわざわざ外の暑いバスケットゴールでボールと戯(たわむ)れていた。

 ボールを触りたい お年頃は流石に誤解釈を招くので控えたい。

 

「よく その状態で聞きますっすね」

 

 両手で窓のフチを掴んで、懸垂で頭だけ出しているのでオットセイの恰好と言ってもいい。うおうおうお。

 この格好で手だけの力で前に進む練習をしとくと戦場で足が撃たれてもその場から腕だけで逃げられると戦争映画で昔見た気がする。

 

《それが匍匐(ほふく)前進でしょー!? 知らないの恥ずかしいねぇー!》

 

(俺達の関係は確かに前進しそうなんだけどさ!!!!)

 

「今、ファンクラブに追いかけられてるんだ」

 

 ユラギは俺の顔を殴り体育倉庫に落とそうと図ってきているが、慣れているのでノーリアクションで状況を説明した。

 

「先輩のファンとか聞いたことないっす」

 

(同じく)

 

「俺のファンは皆(存在が)シャイだからな、手を貸せよ年下」

 

 視界がユラギの手がブンブンしているので、まるでレースゲームの画面妨害系アイテムを使われるがコースを覚えていたら ほぼ害は無いからそれとは違かった(自己完結)

 

「試合 控えてるんすから引っ張ったりしないでくださいっすよ?」

 

 多分、今、坂下の手が俺の手を掴んだ、見えない。

 

「俺はそんな子供じゃない! 大人でもない!! どっちでもない18歳モラトリアム!」

 

 選挙権転売したい、売れないかな?

 

「いきますっすよ、いち「にーのさんっ」す」

 

 俺はやっと地に足が着いた、やっぱり外は蒸し蒸しだ。

 

「褒めて遣(つか)わす」

 

 ユラギがブーイングをしながら帰っていった。手の指紋を間近で見れてたから あのままでも良かった気もする。

 

「お礼は期待してないすけど、態度は問題すね」

 

 なんかこっちもブーイング気味だ、共通言語が悪かったのかな?

 

「つかわすっす!!!(共通言語)」

 

「……」

 

 また手を繋ぎ直される。

 

「ブロック大会前に暴力事件!? いいのかよ! 皆で頑張って勝ち取った勝利だろ!? やめて! 小窓に俺を帰そうとしないで!!」

 

 小窓に向かってジリジリと追いやられる。

 おしくらまんじゅうなんてやってる場合じゃないんだ!

 

「元のとこに戻るっすよー」

 

 子宮!!!

 

 


tr

 

 運なんて曖昧な概念は信じていねえが馬鹿に強請(ゆす)られるわ、変な女にDMで付き纏(まと)わられるわで、最近 全くイイことがねぇ。

 

(ツキをどこで落としたんだ?)

 

 ログイン画面を無心で何度もリロードし続けているがメンテナンス終了時刻まではまだ遠い。当然、サーバーは沈黙したまま。

 伸び過ぎた前髪に視界を奪われるのを鬱陶しく感じながら、フローリングに座る。

 時間の潰し方が分からない、持て余したクソみたいな時間を馬鹿に再びメッセージを送ることにした。

 

『煎じて飲むよりチップとして脳に填める方かもしれん』

 

『今、後輩に産婦人科からやり直されそうだから逆子だわこれ!!マダガスカル!ここ孔明!今です!!!!』

 

(ほんと何してんだアイツ……)

 

 つい習慣でタイムラインも開(ひら)いてしまう。

 こっちのアカウントはどこかで見切りをつけないと殺意がふやける。

 SNSを見てるとアニメアイコンが無数に溢れてる、二次元でも女が嫌いで嫌いで仕方ない。

 別に男尊女卑でもミソジニーを掲げるわけではないが、ただただ、生理的拒否、耐え難い苦痛、嗚咽、精神的憎悪、負担、吐き気、そしてそれに群がってる男共は死ね。

 キモいんだよ、下半身でしか物事が考えられない、人間未満のオスは。

 人を犯すな、罪を犯せ、誰かこの煩わしい気持ちの発生源を殺してくれ、誰もやらないなら俺に殺めさせろ。

 

「ほんっと なんでメンテなんだよ、何もやる気しねぇ……」

 

 男の数だけ女が居るなんて理解してる。

 なのに耐えられない、でも今一番耐えられないのは高橋由良が今もどこかで生きているということに違いない。

 あのキチガイにも人の同性愛に感化されやがっててムカついてる。

 あいつにとって同性愛もメンヘラもファッションでしかない。

 人の真似をするな。好きなタイミングで脱いだり着たり流行に乗ってTPOに合わせて逆張りをして必要なら捨てる、何の拘(こだわ)りもプライドも持ち合わせてない。

 なのにクソ女に対する羨望(せんぼう)だけは認めざる得ない。

 初めて捨てれない感情に出会った人間は、あんなに惨(むご)いのか?

 

 一つ仮説はある、それすら(・・・・)もファッションの場合、

 

「第一印象はただの馬鹿。現実を突きつけてみたが、アイツにとってはどうやら現実は『苦しく』ない」

 

 第一印象は誰でも勝てそうな存在、なのに誰も勝てなかった。

 西藤哲也は苦しまないんじゃない、苦しみ方を知らない。

 さっさと誰かアイツを人間にしてやれ。

 

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