「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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高校3年5月15日 月曜日
寝取られビデオレターバトル【キリン雄同士交尾編】


 

 帰路でふと思い至る。

 

(挨拶と暗殺って似てるな、というかもう一緒じゃん……)

 

 そんなことを考えながら俺は親友内定候補の佐川(さがわ)結城(ゆうき)と下校していた。

 前回の金曜日と合わせてずるずると月曜日も一緒に下校してしまっている。

 流されて何度もワンナイトばかりの関係を続けていたら『いつか言いたいと思ってたのに』『本当はそんなつもりじゃない』『もうこんな関係は辞めたい』と、一歩踏み出す勇気が無かった期間の消費は戻らない、やむを得ないが病むは得る。

 

「でさぁー僕それで笑っちゃってさぁー」

 

 ミリも聞いてなかった。ははは、笑っとこう。

 

「なぁ、いい加減俺に打ち明けなきゃいけないことがあるだろ?」

 

 聞いてなかった話を相槌(あいづち)するのに痺れを切らした俺は神妙な顔つきで問いかける。

 声を少しだけ低く、あくまで『正直に観念するなら許してやろう』という落ち着いたトーンを意識した。

 

「えぇ~? なんだろ、親の再婚とかかなぁ?」

 

 ユウキは口元に人差し指の第二関節を当てて、『んー』と(うな)りながら考えて応えてくれた、優しい。

 

「ちげえよ! もっと大事な話があるだろ!」

 

 だがいつまでも優しさに甘えていたら互いに駄目になってしまう。

 敢えて声を高らかに上げなければいけない。再婚はおめでとうでいいのかな、家庭環境に依ってはめでたくないよな、おめでとう。

 

「うーん、長谷部さんと付き合ってることぉ?」

 

 (ひね)り出したのがそれか、さっきの宮川が替え玉登校していた話より数段どうでもいい。

 もうそれしか無いみたいな空気感を(かも)し出してるがキミにはガッカリだよ。

 

「違う! 実はお前が女だって……! 話……!」

 

 ラストスパートに証拠を突きつけた探偵のように赤き真実を伝える。

 

「体育の着替えとか一緒に居たよねぇ?」

 

 特に動揺もせずに、いつものテンションで緻密(ちみつ)に計算され尽くした反論で押し返された。

 だがこちらも負けてない、更衣室に居るだけなら男じゃなくても可能さ。

 

「分かってる……! お前が地元の風習や実家の伝統で男しか認められない男尊女卑に嫌気を感じつつサラシを巻いて日常生活を強いられてるなんてことは……! そんな生まれ持った性別すら認めてくれない家族なんてこっちから願い下げだ! 俺と一緒に駆け落ちしよう!」

 

 ユウキの肩をぽんぽんと優しく叩き同情をする。ありのままの自分を受け入れてもらえる環境なんて何処にも在りはしない。

 それが現実で未来なのだ。そう思い込んでいたら僅かな可能性すら見落とす。

 

「見る〜? してないでしょ~」

 

 なんてことない風にユウキは制服のワイシャツをパッと捲り上げてチラッと見せてくれた。

 きゃっ、と俺は棒読みで照れながら視認すると。

 

(あっ、ホントにしてない)

 

「下は?」

 

 上で駄目なら下を聞くまで、まだ負けてないよ。

 カルト宗教に教えてもらったが『国から追外される』=『国が自分達を脅威に感じて焦ってる』理論だ。今の教義(きょうぎ)が正しいと正常性バイアスがかかる。

 時には周りが言ってるんだから本当に自分が間違っていると顧みるのも一興だとは思う。いや、周りを全員同じ穴のムジナでイエスマンを揃えればいいのか。

 

「え~ここで〜? せめてトイレ行こうよぉ……」

 

 ユウキがもじもじと恥ずかしそうにする。

 あーあ、これは黒だ。俺は教祖を信じる。普通に同性でも恥じらいは存在するとか知らない。こうして友情って壊れるんだな。

 

「いい、信じるよ。ユウキちゃん」

 

 俺は脱信者して友情が壊れないように微笑む。

 

「信じられてないぃ……」

 

 子犬が眠たくなってきたようにショボショボした表情で落ち込んでいるユウキちゃん。

 うん、やっぱり友情なんて要らないかもしれない。

 

「俺、詳しいんだ。男装男子校モノとか好きだし」

 

 あれ? 俺の話だっけ、俺じゃなかった気もする。俺って今誰だっけ。

 天気を見ながら、

 

《聖人君子で在りたいなら生きる前に死になよw俗世に生まれ堕ちた時点でそれは通じないでしょww物心付いてすぐ死になw秒で自殺決定ー!w》

 

 晴れかよ。

 

「西校は共学だよぉ~?」

 

 事実には事実で返すしかない。

 

「俺以外は全員男装してる女なんだろ」

 

「陰謀論者でももっと論理的だと思うけどねぇ〜」

 

 ヤリ捨て→笑って→くたばって→菓子を持って→集めて→落ち着いて→お利口さん?

 

「分かってる、ちゃんと皆には黙ってるから」

 

 利巧になるよ。だからもう殴らないで。

 

「あーもうっ……ほら下っ」

 

 もう埒が明かないとばかりにズボンと下着を少しズラし、確かな証拠を突き付けてくる。

 マジかよ、ついてんじゃん、知ってた。

 

(え?俺知ってたの?)

 

 思わず膝から崩れ落ちる。

 

(キリンってオス同士でも交尾するのかよ……!)

 

「なんでだよ……! こんな話しやすいユウキが女の子じゃないなんて……! 俺は誰とカップル限定クリスマスシートを予約すればいいんだ……!」

 

 ポケットからスマホが作為的に落ちる、情けなく空を仰ぎ悲壮感で震えた。

 

「まだ5月だよ、気が早いね」

 

 声色が柔らかく『なんだいつもの病気かぁ~』みたいな対応されてない? でも立ち止まってくれてるのは優しい! 友情に乾杯! イタリア語ではcincin!

 

「どうせお前は図書委員なのに図書室に居ないやつと行くんだろ!?」

 

 俺は長谷部(はせべ)(りん)が憎い!!

 

「クリスマスシートに行くのかは分からないけどぉ、続いてたら一緒にクリスマスを過ごすかもねぇ、哲也には柊さんが居るから平気だよぉ~」

 

 前回の下校中に後輩(体育会系志望)の架空エピソードを喋りすぎて付き合っていると思われたらしい。

 一度誤った情報が伝わって、更に積み重ねていくと軌道修正する時に根本から掘らないと解決が出来なくなってしまう。老朽化した一軒家の地盤工事は全部埋め立ててコインランドリーにしよう。

 

「アイツ今さ、寝取られてビデオレターしか送られてこないんだ」

 

 当事者が居ない所で株が下がる連鎖。続くほどスコアが高い。

 

「す、凄いことになってるねぇ……」

 

「頼む、俺もお前で寝取られビデオレターを撮らせてくれ! そして後輩との寝取られビデオレターバトルを制してみせる!」

 

 ウルトラC、これならクリスマスを撮影日にすればユウキと過ごせる。

 オマケに長谷部さんが憑いてきそう、いらない。

 

「ええ~哲也は嫌いじゃないけどぉ、そういう目で見たこと無いやぁ」

 

「そんな目で見るんじゃねえ!!」

 

 俺は反射的に立ち上がり叫び、下賤(げせん)な視線は感じなかったがユウキの頬をバシンと叩く。

 

「痛いよぉ〜」

 

 眉が下がり、頬を片手で抑えながら痛がっている姿が虫歯悪化キッズのようだ。

 ちゃんと歯磨きしないからだぞ。

 

「痛みは人を成長させる」

 

 すぐ苦痛を教訓にしてしまうのは先人の悪い所、過去に自分は居ないのだから名言に自分を当て()めても慰めにしかならない。

 自分を慰めたいなら最適解。

 

「じゃあ哲也も成長させない、とね!」

 

 ユウキが笑いながらやり返してきた、全然成長した気がしない。デマ認定。

 

「くっ……! よし今の撮ってたから送るわ」

 

 膝から崩れ落ちた(キリンの)時にスマホのレンズが上にくるようにRECしていた。

 動画は良い、スマホのカメラにはシャッター音が義務付けられている。だが動画にはそれが無いのでバレづらい。まぁアプリストアに音が出ないカメラアプリが大量にあるからガチ勢(犯罪者)の人はそっちなんだが。

 相手が女性だったら捕まりそうだったぜ。

 

(ユウキ、男に生まれてきてくれて本当にありがとう)

 

 男と証明されたと同時にスマホを下に投げ捨てたのは良かったが、盗撮は男女関係なく成立するから、いけないことだった気もする。次から気をつけよう、礼。

 

「それで柊さん、悔しがるかなぁ?」

 

 首を(かし)げてユウキは素朴な疑問を向けてきたので無視してると返信が来た。

 連絡先を交換していないのに知らない相手の知らない動画にレスポンスなんてよくするな。警戒心の低さじゃなく敵対心の高さが行動原理なんだろうか。

 

「返事早いねぇ、ほんとに寝取られたの〜?」

 

 流石に見過ごしてくれなかったのか、ユウキが俺のスマホを覗き込みながら(覗く様子が可愛い)至極当然な指摘をしてくる。

 今更俺が1人や2人を寝取られても喚くはずが無いと分かっている親友的発言。

 

「メッセージを読むぞ『カウンセリングを受診し平衡感覚を取り戻し始めてきたというのに、先輩はバラバラにしてもミミズのように這い出てくるんですね』だってよ」

 

(俺バラバラにされたっけ?)

 

 刺せなかった現実が脳内で処理できなくて記憶改変が起きたのかもしれない、まだしばらくは通院生活か。

 あー大変大変。

 

「打ち込むの早いねぇ、柊さん暇なのかなぁ」

 

「返信が遅いと頭に縛られてるスタンガンが作動するらしい」

 

 あれいいよね、一家に一台は欲しい。どこに売ってるんだろう。

 

「ハイテクだねぇ~」

 

「今はITも進んでるしな」

 

 歩き出して俺も進むことにする、ITに追いつけるかよ。

 

「半導体ぃ~」

 

 親友の適当な返事を聞き流しながらスマホをポケットに戻して思考停止会話をしつつ柊について考える。

 結局あの後は包丁を取り上げられた後に松葉杖での奮闘虚しく、バスケ部、バレー部、卓球部の数の暴力に負けてスクールカウンセリングの判断で一時入院していると聞いた。三つの部活が活動できる体育館の広さを文芸部室にも分けて欲しいとしか思えなかった。

 

「俺がもし銃刀法違反で捕まったらハロウィンの仮装で逃げ切ろうと思うから援護してくれ」

 

「今何月だと思って生活してるのぉー? 今度カレンダーあげるねぇ」

 

(人の触ったカレンダーとか要らない)

 

 だが昨日が母の日だったと知らなくて当日に駆け込んだ。カレンダーが在れば未然に防げた上に死刑囚のように1日1日を眺めて消費することも可能。

 やはり持つべきものはカレンダーなのかもしれない。

 

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