「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

5 / 44
高校3年5月14日 日曜日
どうせ死ぬなら何曜日


 

(どんな夢を見れたのか)

 

 自室で目を覚ます、寝起き特有の思考の(もや)の中でさっきまで見ていたであろう夢を追いかける。

 

(捕まえられないな)

 

 見えない天井としばらく睨めっこをしていたら負けたので、カーテンと締め切った雨戸を開けた。

 電灯をオフにしていると完全な暗闇になるので天井はさっきまで見えなかったが、やっと見えた天井と睨めっこを再戦できるようにしとく。

 

(起きても朝か夜か分からないのは楽)

 

 枕元のデジタル時計の頭を軽く押し、優しいオレンジの光で時間を教えてくれる。

 

(八時か、妥協点だ)

 

 合格点と落第点は不明だが、妥協と諦念(ていねん)は常に強いられていた。満足した起床時間帯など無い。

 壁のスイッチを押して部屋に人工的な明かりを灯そうか迷う、部屋の大部分を占領している物体を見て見ぬ振りしたいので、窓から太陽と睨めっこ……すると失明するので睨めない。

 負けを認めよう。

 

 二階の窓から飛び降りたくなる、どうせこの高さでは人は死なない。

 日曜日早朝の自殺率は低そう、どうせ死ぬなら何曜日。

 

 窓から周辺の自宅を見ると雨戸を閉めている家も割と見当たる。

 皆休日ぐらいはぐっすり寝ているのか、陽の光が嫌いなのか。窓という外の目が侵入してくる入口を塞ぎたい、そんなところ。単純に開け閉めが面倒なのも有り。

 

(奥さんの手料理を愛人に食べさせるなよ)

 

 適当に人の家の食卓にツッコミを入れつつベッドの隣の引き出しから自律神経に作用する薬を飲もう、と思ったが食後だった気がする。

 薬以外を全て捨てたせいで服用回数が分からない、強い薬ほど食前と食後では薬の効き目が目に見えて違う。

 幻覚に感触が出てきたら末期。

 

(顔洗ってうがいしてこよ)

 

 

 ▽

 

 

 寝起きのなんとも言えない口の中を取り払っただけでも1日が始まった気がする、俺は単純生物だ、情けない。

 ついでに歯も磨いてきた、もう1日が終わってもいい、おやすみ。

 

 そして食後の薬を飲むには食事をしなければならない、朝ご飯は……リビングに行きづらいわけでは無いが、必要性と習慣が欠落している。

 

(どうしてマトモな家庭に生まれてしまったんだ)

 

 言い訳をする余地が無くて困る。

 理由が無いなんて許されない、毒親育ちが聞いたら殺してきそうだ。

 ん? その程度で人を殺せるなら真っ先に親を殺してるか?

 弱者に平気で出来ることが、強者相手には出来ない、それも許そう。

 

 思考と手を動かしながらベッド上の布団を綺麗に畳み終わった。

 役に立っているのか知らない除菌消臭リーズを布団に分布し終わり、スマホでネットニュースを適当に流していると、一面に母の日とほざかれている。

 

(お母さんに感謝するのが五月の第二日曜日のみなのはおかしい。日頃からするべき、日付設定をされないと動けない惰性(だせい)の感情に支配されていていいのかよ)

 

 と当たり前のように親が感謝されて当然の存在だと話が進む。

 うん、いいんじゃない。刺身にしても煮つけにしても美味しいもん。

 ならしゃーない。

 

 さて、目的意識が定まったら次は対抗馬を確認しなければ。

 兄妹の出涸(でが)らしポジションを回避するために妹の部屋をノックして敵情視察を決行。

 

「なにー、うわ、兄じゃん」

 

 ドア越しの声が近づき、扉を開けた瞬間に顔を(しか)めるな。

 

「やっぱ兄が部屋に居ないと落ち着かないわー、あ、別に嫌いじゃないよ?」

 

 なんか勝手に慌ててフォローされても困る、嫌いじゃない意味の裏は四通り。

 

「そいつはどうも」

 

 言葉の表だけを素直に受け取っとておく、一々波風を立てていても流されるだけ。

 

「で、何用?」

 

「母の日の献上品はどうした? 絶対に兄の威厳(いげん)を示したい」

 

 ただでさえ家庭内カーストが低い新参者だ。ここらで媚びりたい、こびりつきたい。

 

「私はねー、足つぼマッサージ付きスリッパ!」

 

 部屋に一度引っ込んでから『どや!』とブツを持ってきて見せびらかしてくる。

 マッサージ機能は付属されてない足つぼオンリーに見える。言葉の境界線が曖昧なのは人の解釈が曖昧な所為(せい)。そんな深い意味はここには無い。どこならあるんだ。

 

「勝ったな」

 

 勝利の確信を浮かべ腕を組む。

 

「えっ、何あげるの?」

 

「決まってない」

 

 当日に母の日を知ったのだから、さも当然。

 

「じゃあ負けた方は父の日プレの予算持ちね」

 

 自分が有利そうだからと兄を追いつめるのか、諸行無常(しょぎょうむじょう)

 まず日頃への感謝プレゼントに勝ち負けを作るな。

 

「はぁ……後で残高が泣いても知らないぞ?」

 

 愚かなる妹を泣かせる趣味は無いが涙は見たい。

 

「なんでそんなずっと自信しか無いの!?」

 

「1回もプレゼントを渡していない俺と、ずっと渡し続けている世恋(せれん)。どっちが嬉しいなんて自明(じめい)()だろ」

 

 連敗してからの1勝ほど容易いことは無い、下げランしていて負けたら引退待ったなし。

 

「えー、そう言われるとやっぱり賭けはやめようかな……! 争いは良くないよ!」

 

 持っているスリッパでバッテンを作りながら後ずさる妹。

 平和主義は負けそうな国から提案するのは歴史あるある。相手が文芸部後輩なら『戦わなければ生き残れない』と追い打ちして滅ぼしていたが 肉親は見逃そう。

 

「敵情視察も済んだし、じゃあな」

 

 適当に感謝をしつつ軽く手を振って1階へ向かう階段に足を掛けた。

 

「兄、何プレするか教えてよー」

 

 背中に声が飛んできた。

 正面に俺が居なくてやっと聞ける質問なのか? まぁいい。情報交換の申し込み期限は特に決めてなかったしな。

 自己申告で『決まってない』と答えたつもりだったが、俺の性格的に話しながら決め終わったと察知というか熟知したんだろう。

 

「花」

 

 カーネーションでいいや、と階段を下りながら反射的に返答。

 

「うわっ無難」

 

 無難な選択から1番遠かったからそれを求めてしまうのは仕方ない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。