「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」   作:遺書の切れ端

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正解を叩き出すことより、自分で掴み取った不正解に価値を作れ

 

 近くのホームセンターへ足の(かじ)を切りながら、手持ち無沙汰を埋めるように親友内定候補に御一報を入れておく。

 

「よ」

 

 スマホを耳に当て呼び出し音が消えて直ぐに挨拶をジャブ。

 

『おはよぉ~』

 

 10時過ぎているけどハローで合っているのか? 時差だと思おう。

 

「母の日の見本を教えてくれ」

 

『僕はねぇ、食器洗ってねぇ、掃除機をかけてぇ~いつもありがとうするよ

ぉ~』

 

(電話の相手は小学生だったか)

 

「無茶苦茶楽してない? 俺が親だったら認知してない」

 

 食器洗いも掃除機も特別感が有ってやることでは無い気がする。

 親は『それを普段は日常としてこなしている』わけで、こっちは特別な日でも無いとやらないと言ってるような行動で気に障り、不快指数を上げないか不安になる。

 まずは母=家事の図式が駄目なんじゃないか。考えれば考えるほどに母親の気持ちをデリケートに考え過ぎてしまう。

 

『これを楽と言える哲也は何をしたのさぁ?』

 

 ふむ、一理を通り越して万里の長城はあるな。

 

「お花さんをあげます」

 

 花って良いよね。もらった最初は綺麗だと思うけど、段々と邪魔になって枯れてきたら捨てられて、花瓶の用意や水替えも面倒で、そしてドライフラワーは終わりが遅く場所を長く取られる、花って良いよね。

 

『女性は物じゃなくて、どれだけその人の為に時間を使って考えてくれたかが嬉しいんだよ~』

 

 いやいやいや。やいやいやい。

 

「母親を女性にカテゴライズしてないから無関係な話だわ」

 

 昔、羊と物理的にイチャイチャする物語をしてたせいか羊を性的に感じている。男としては羊=女性と言っていい。ネクロマンサーは知らない。

 

『いくつになっても化粧して綺麗に見られたいのは一緒だって~』

 

「うーん、分からないな」

 

 バミューダトライアングルの方がまだ分かる。

 

「つまり コスメとかの方が良いってことか?」

 

 普段興味の無い男が女性に寄り添って用意した化粧品ほど不便な物ない気がするけど、ある程度決まった色合いや慣れた物だから価値が生まれている。新しいにチャレンジするにも『なんで彼氏のお前程度に私のビジュアル管理されないといけないの?束縛?キモ』と、言われない?そう言いながらも使い切った後にそれを補充する時は全部俺の財布から出る習慣が勝手に生まれてない?怖い、羊最高。

 

『哲也が決めた花でいいと思うよ。数年前だったら何もしなかっただろうしね~』

 

「それな」

 

『頑張ってー』

 

「ばいー」

 

 正解を叩き出すことより、自分で掴み取った不正解に価値を作れと、そこまでユウキは考えるタイプじゃないな。きっと、『僕が提案したのに(かこつ)けてメイクの練習台にさせられそう……』と危機察知能力が発揮されたに違いない。メイクなんてしなくてもユウキは可愛い。弛緩。

 

 ユウキの可愛さを踏みしめながらスマホをしまい、温かい風に誘われ、日差しが雲の隙間から溢れ、天気が染みる。

 

 近くの公園を歩道越しから眺めていたら、

 

(地域猫だ)

 

 見慣れた生き物を発見。見慣れた生物ランキング1位は人間。

 

「お邪魔しまーす」

 

 公園の車やバイクの進入を防ぐ目的で設置されている棒状のモノの隙間を抜けて猫の元へ。あれ、ボラードだっけな。名前を知らない存在が許せない お年頃。

 

 公園に無断で侵入して近寄っても逃げる気配も無く、リアクションも無い。芸人だったら大分尖ってる猫だな。

 

「よしよし」

 

 人を舐め切ってるのか死を悟ってるのか猫を撫でる。悟り猫。ごろごろーにゃあにゃあー。

 

(触っても眠たそう)

 

 モフモフとした毛並みの奥に骨格の形が分かる、抵抗をしないと燃えない、抵抗をされても燃えない。放火を他人のスタンスに委ねてないにゃあ。

 

(この場所を安全だと信じてるんだな)

 

 悪い

 

 猫成分、お菓子のパッケージ裏にそう表記されてたら猫の髭の粉末のイメージだ。コオロギに引っ張られてるのかな?本体は別に美味そうに見えないし。

 

 何かしら補充してもらった対価にハンカチを取り出し、猫の目にこびり付いてる目ヤニを拭こうと鼻先にそっとハンカチを差し出す、顔を引っ込めもせずにジッとしている。

 

「ゃー」

 

 拭った後に小さく鳴いた。なんて言ったのかな。眉間を緩く撫でながら通訳を考える。

 

「ごめんな、爪切りは持ち歩いてない」

 

 どうせ『爪も切れよ人間風情が』辺りだろう、傲慢な生き物め。罰としてもっと撫でてやろう。

 

 ごろごろ。

 

 

 ホームセンターの無駄に広くない駐車場まで着いた、スマホを見れば十二時を回ってる。

 

(大人しくタクシーを使えば良かったな)

 

 花より高い出費になるが、タイパとコスパどっちを優先するか考える。まずは中途半端にバスから始めよう。バス停が家の近くに無いことなど忘れて、スマホをポケットに戻すついでに反対側のポケットに手を突っ込み、さっき使ったハンカチを確認する。

 

 公園の水飲み場で猫の目ヤニは流して絞りはしたけど、歩いた道のりの所為か、おかげなのか、完全に乾いた様子、人の体温説も有力。チェーン、無効。

 

 買い物カゴは必要ない、ショッピングカートはもっと要らない。当日ということもあり、外に並べられてる花達を見ていく、ピンクや赤のカーネーション諸々。

 

(色によって意味が変わるとか気にするべき?)

 

 いちいち少女漫画の無言の描写で、意味深に持ってる花の花言葉に『負け男ヒロインの隠れた恋心があったんだ……!』とかじゃない限り気にしなくていいよな。別に負けねえし……。

 

 青いカーネーションと目が合う、色合い的に良くない意味に気がする。偏見は良くは無い、でも。これを取る気にはならない。意味は知らないけど。

 

 無難な赤を選んだ。今日のテーマは無難な選択だから『母への愛』『深い愛』ならテーマに沿ってるだろう。

 

 目的の花を買い、俺は空腹を認識した、朝ご飯を食べずに昼過ぎまで歩いたのが主因。

 

 ふらふら、とホームセンターに付属しているベーカリーに抗えず、抗う気も無く入る。

 

(ありえない……この俺が……)

 

 と思いながらパンを選ぶ、どの俺なんだ。パンの香ばしい匂いに包まれながら、白いトレイにパンを次々とトングで運んでいく。

 

(甘いより総菜系がいい)

 

 何故か甘いベーグルを選びつつ往生際にカレーパンを選んだ、あとはサンドウィッチでいいや。異世界で出てくると怒られる定番のパンだ、ハンバーグと共に言葉狩りの討伐対象。もう狩られ過ぎてそろそろ絶滅するんじゃないかな。

 

(あっ、メープルブレッドもある)

 

 四つ、楽勝だな。負けたとしても、パンなら持って帰ってオーブンで軽く焼き直せば食べられるし。Japanのパンは俺の為に付いた名称だと今日決めた。米の国で米国なのはアメリカで俺と同じように決めたヤツが居たんだろう。カルローズへGO。

 

 ベーカリーの簡易イートインスペースで、窓際の端のぼっちでも耐えられるであろう有名な席を選ぶ。1人行動が苦手というかずっと2人だから1人の気持ちが分からないのかもしれない。2人ぼっち。

 

(甘い、辛い、甘い、サンドウィッチ)

 

 この順番で峠を攻めよう、どうせ最後は水で口内をリセットする。なんとなく甘いや辛いで終わりたくないプライドの問題。死ぬまでの食事回数が決まってるんだから、厳選された物を食べたいという美食家の言い分もいいだろう。まず人生が有限なのだから全てに回数制限が施されている、どの回数の質を上げるかは自分次第であり、上げなくてもいい、あー、死ねる回数は1回が美学。俺より先に産まれてはいけない。俺より後に死んでもいけない。

 

「もしかして西藤くーん?」

 

 休日にクラスメイトと遭遇とか嫌だなー、と感嘆たる思いが芽生えずに振り向かないで返事をする。

 

「人違いです飯塚さん」

 

 俺はまだパンを食べる順番に悩んでいる、空腹より食べる順番を優先したい。食べたら全部一緒だから、不毛な思考なのは分かる。でもそれが等身大の自分だと認めてあげたい、無駄、無意味、無意義上等。無責任だから無問題。

 

「じゃあ始めまして西藤君! 飯塚美咲って言います!」

 

(うるせえパン食わせろ)

 

 元気全開に俺の視界に『おーい』と手を振ってくる、距離感とテンションと不毛さに飽き飽き、もっと意味のあることをしようよ。責任が在るから達成感が生まれるんだよ?問題が有るから解答が生まれるんだよ?

 

「この人、一切こっち見てないけど。まだ美咲 続けるの?」

 

 声がもう一人分ある。二人居るのか? パンに忙しいから気にしている暇はないな。

 

「ホントだよ、帰れよ! 俺はパンとデートしてるんだよ! お前らだってパンとデートしてる時に邪魔されたら迷惑だろ!!散れ哺乳類が!!!酵母菌になって出直せ!」

 

 ガツンと柑橘系風味に言い放つ、絶対に振り向かない強い意志。

 

「相変わらずだね! ねえねえ今度さ、コタツを文芸部に運んでもらっていいかな?」

 

 猫とセットなら考える、でも食べれる猫なのか食べれない猫なのか。

 

「お前に与えられた時間は、このパンの数だけだ」

 

 ご飯粒だったら老後イートイン編が始まっていた。

 

「えーっと四分かな。ほら最近温かくなってきたじゃん! 茶道部 狭いのにコタツが邪魔な訳! だから文芸部に冬まで眠っててもらいたい訳!」

 

 人のパンを数えるな、パンに迷惑だろうが。

 

「文芸部は実家じゃねえんだよ、絶対に見返さないアルバムとか捨てろ」

 

「よく美咲、話しかけれるね」

 

「西藤くんは別に怖くないよ」

 

 ここで感想を話すのを辞めてくれ。

 

(パンもう食べていいんけ)

 

 プレーンベーグルを掴む、いいね、ベーグルは静かで話をゴリ押して来ない、パンがクラスメイトに居たらいいのに。教科書とか忘れてきそう、二学期には腐って退学。

 

「1回も こっち見なかったけど……」

 

「パンが見たかったんじゃない?」

 

 モチモチとした食感に生地の甘さ、砂糖というより牛乳の比重が傾いているかな。

 

「そんなパン好きなやつなんだ」

 

(なんかパン好きにされてらぁ)

 

 もぐもぐ。

 

「じゃあね! 西藤くん、また学校で」

 

(駄目だ、聞く耳が壊死している。早く誰か彼女を耳鼻科に連れて行ってあげて)

 

 最初に話した頃は聞く意思があったイイ子だったのに、二年生を過ぎた辺りから要件ゴリ押し悪い子になってしまった。俺の優しさに漬け込みやがって。ざぶんざぶん。

 

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