「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
地獄への道は高速道路で舗装されている
自宅
(なんだろう、この部活は?)
そう慣れ親しんだ感情を噛み締めながら、校門を出て歩き始める。そこが部室だと思ったら部活でいいのかもしれない。だから帰宅も文芸活動。
悠々自適に下校していたが後ろの生徒(制服から推測、コスプレも可)がやけに同じルートを辿ってる。なんだ? 俺の家族なのか? 偶然でお片付けしていい? お片付けの歌のタイミングに保育士さんが手を叩くリズムに圧を感じている。
(まぁ、適当に同じ道をグルグル徘徊しているだけだから、俺の行き先にゴールは無いんだけどね)
このままカラスのいる麦畑を描くのも嫌いではない。耳を
ストーカーなら確か、なりたい職業ランキング1位だったと記憶している。ストリーマーが人気だった時期も在ったが、最近は公務員や会社員といった安定路線が上位を占めている。子供が夢を見れなくなったのか、夢が安定なのかは定かではないな。実質、夢を追っているから
そろそろ接触を試みるか。このまま『今の子どもが夢を持つには色んな見聞を広げる体験を多く作るのが大人の役目なんじゃないか』とか言い出したらどうしてくれる。Uターンして後ろへ行こうか。後ろ向きな社会性を誇示し続ける。
「どちらに行かれますか?」
職務質問感を出しながら聞いてみる。私服警官が学校の制服は有りか? ぴえん系私服警官が、ホストに潜入捜査してて炎上してるのを昔はよく見たな。この電柱から半身が隠れていない『物体A』はAであってXでは無いんだ。
「私に おっしゃっていますか?」
電柱の後ろから ひょこっと顔を出して『それがなんですか?』とキョトンとした目線を向けてきた。そもそも質問を質問で返していたら1つ目の質問の答えが分からないままだろ。でも答える為の必要前提確認もある、いいだろう、かかってやるよ。
「自意識過剰かよ!お前じゃねえ!そしてお前だよ!喧嘩なら買うぜ!俺はこれでも後輩(2年生)の後輩(1年生)の足とか折ったこと有るんだからな!!!」
厳密には折れてなくてヒビ程度で済んだらしい、あいつの頭と足 丈夫過ぎるだろ。過去を話す時は三割は盛って話していいと、同窓会マスターが言っていたとしよう。
「柊さんを傷付けたのは西藤先輩なんでしょうか?」
目つきが変わった、そして名前バレもしている。
(俺も とうとう有名税を納めないといけないらしい)
「俺の負けだ。好きな方の足をくれてやる」
「……右でお願いします」
「そっちから見て? こっちから見てでいいの?」
「こちらです」
指を指す工程が省かれて足を掴まれた、怖い。カチッと何かを嵌められた、もっと怖い。
金属特有の硬質な冷たさが足首から感じ取れる。これかぁ!
「えっと、デスゲームでもやるの?」
俺生き残れるかな、初期武器で差が出るタイプの不条理ルールより、全員が同じ条件の中で知らない理不尽が裏で働いてる方が好みなんだけど。最初の犠牲者が実は生きてて黒幕やら二回目の参加者が居たりするのはあるある。デスゲームなのに誰も死なない作品が在って発狂したのは記憶に新しい、読者が死んで完成する漫画だったのかよ。
「爆発はしません、ただのGPSです」
空前のGPSブームでも来ているのだろうか? 流行りには乗っからないと、友達との話題提供に差し支える。手元が若干震えているのは気になったが、友達じゃないので話題提供したくない、断固拒否姿勢姿勢。
(位置情報を受信する電波で人を殺せたら人類抹消が出来そうだな)
ひとまず人類に対しての恐怖感 克服方法が見つかりそうな事への感謝を述べてみよう。
「君は俺の太陽だ」
「そ、そんなことないですよ///」
語尾が小刻みに揺れ、声が浮つく、何故 照れるんだい?
(一歩も引かねえぞ、この不審者)
スカウトしよう、本当に職務質問をした方がいいタイプの人材だ。何処かの誰かが君を必要としているから。目の前のストーカーの扱いに、取り扱い説明書を読まずに捨てて初期設定に困っているぐらいの心境に陥る。そして、それに付き合わされているカスタマーサービスが1番迷惑している。シルバー(お年寄り的な意味ではない)コレクター。
「何しに来たの? 足を食べに来たんじゃないの?」
素朴な疑問を口にした。昔、ベッドに足を食べられたがって寝ていた幼少期時代の俺は、起きて足が残っていたことに何回 悔しい思いをしたか、その気持ちを込めて質問した。
「実は、その……ずっと前から西藤先輩の事が好きで、付き合ってもらえませんか……?」
疑問がプラナリアと化してる、分裂しては再生して増殖ではなく生殖と言うのか、勉強になった。
(プラナリアなら害は無いから問題ないな)
「『柊さんを傷付けた~』はなんだったの?あのイントロと君のサビは本当に同じ曲なのかな?ゴーストライターとか居ない??」
まずは最初に浮かんだ疑問を消化しよう、何事も順序さえ間違えなければ解決する。出口の無いトンネルは無く、止まない雨も無いのだから。
「ズルいですよ……私以外の女性を傷付けるなんて……こんなのあんまりです……浮気じゃないですか……」
話が無限トンネル編に突入していた。か細い弱々しい声なのに内容が強々しい。止まない雨は無くても降り出す雨は在る、そして何よりも傘を持っていくのを忘れた自分を怨んだ、空がアオいせいだ。
でも浮気を正当化するのは男の得意分野のはず。つまり俺の得意分野で有ってもいい、まず浮気相手が居ないんだけど浮気って成立するのかな。
「誤解なんだ、俺はずっと君しか見ていなかった。信じてくれ、そもそも暴力行為の時はまだ俺達付き合って無かっただろ、な?」
今も付き合ってはいないが、なるべく優しく紳士に誤解を解こう、そして交際も一緒に熔けろ。
「私が拝見していても、一度たりとも目が合いませんでした。ずっと柊さんの顔ばかり触っていて……そんなに中の下の顔が好きなんでしょうか? いいですか、女性は浮気が嫌いなんです。それが過去でも未来でも家系図でも歴史でも私は許しません」
(っ……!こいつ今なんて言った……!)
恋人の視線を真っすぐ捉え、この湧き上がる怒りのごとく迫る。
「謝れよッ!!!柊の顔は下の上だ!!!!!謝れよッ!お前に柊の何が分かる!!てめえなんか柊の方向性の違いで解散だ」
人には決して譲れないモノがある、今がその時に違いない。
「謝るのは貴方の方です、柊さんは中の下です。いくら好きな相手とはいえ、そこだけは譲れません。私は夫が間違った道を進むのを、背中を優しく押して止めるような妻なんです」
(押したら止まらなくない?)
転ばせたり突き落とす意味合いなんだろうか、もしくは
「ふざけんな……!下の上の気持ちが、お前みたいな美人に何が分かるって言うんだよ!!!!そういえば名前は?というか何処で会ったっけ?」
声のトーンを音階のように下げていきリズムを奏でる。
「ふざけてなんかいませんよ、私は真剣に言っております。では柊さんに通話をかけて答え合わせをしましょう。名前は
制服のネクタイの色がビリジアンだから1年生だと思うんだけど、なんで俺、後輩と一緒に入学してるの?
「あっ、あー、あの時の……」
(どの時なんだろう)
テンプレの思い出せない相手との再会した時の反応をしておこう、同窓会は大体 金と恋の話になりがち。それらに自信が無い人は最初から来るなと参加項目に記載しておくべきかもしれない。俺は全てを気にしている。じゃないと合理性に殺されて痛い。
『えっ待ってください、私、今なに聞かされてます?イタ電ですか??』
本当に電波を繋げていたらしい、有言実行の鏡だな。聞こえやすいようにハンズフリーにしてくれてるのは助かる。
「貴音ちゃん、こんにちは。」
穏やかな声で、朝のテレビ番組のように澄んでいる挨拶だ。それでは今日も1日いってらーしゃいー。
(柊さん呼びじゃなかったか? 急激な変化を遂げている。どんな関係なんだろう?)
『な、なんで中井さん……? 私の番号知ってるんです……?』
(友達じゃないのかよ、ほんと誰だコイツ。一発で声で分かる下の上後輩も地味に凄いな、今年の1年生も変なのばかり紛れてて俺の陰が薄い、もう誰も俺を知らないんだろう、無名なら脱税しようよ)
本当に目立ちたくないなら死んだ方が早いよね。あーあ。人里から離れて地下ダンジョン四階にでも住むか。
「ふふ、そんな話は今していませんよ。」
中井さんは微笑みながら柊の言い分を消去した、可哀想。可愛いの語源らしいから褒め言葉と認定。
『嫌です!!!これ私の話が通じない世界に連れて行かれるやつですよね!!!!』
そう言い放ち、ブチッと通話が切られたようだ。せっかく自宅療養になったのに、また入院しそうなテンションだったな。心配だ。
「切られてしまいました……」
しょぼん、とわざとらしく声を細くしてこちらを見上げてくる彼女。悲しんでる女性が居たら助けなければ、いつだって俺は困ってる人の味方で在りたい。ただ在りたいだけ。
「俺、住所知ってるから一緒に行こうぜ」
物語に出てくる王子様のように手を差し伸ばす、柊のスマホに仕込んだGPSで家は特定済みで有り、ついでに連絡先も把握しといたので、夜とか布団でお互いに朝まで通話を繋げながら寝落ちするまでお喋りが出来る状態にしといた。親切の塊。岩塩かよ。
「そうですね、お腹の子も貴音ちゃんに会いたがっていると思います」
彼女は満面の笑みを浮かべ、両手をお腹に当てて、マタニティモデルのようなポーズをした。結婚推奨雑誌が未成年にウェディングドレスを着せて炎上していたのを思い出した。つまりそういうことなんだな?
(それはそれとして俺はいつヤったんだろう? 連れ子? 貴音ちゃんか? 貴音イズベイビー? 貴音は赤ちゃん!)
結論に辿り着いたのでレディ・パーフェクトリー。
▽
俺は入学式で隣に居たらしい女と、柊家に新婚の挨拶を死にきた。家庭を持つって大変なんだな、結婚して数時間でそれを実感している。
表札の近くにあるボタンを押す、ピンポーン、とチャイムが室内で響く音が家の中から聞こえる。俺は優しいので連打なんて真似はしない。
『置き配ボックスにお願いします』
インターフォン越しに赤ちゃんの声が聞こえる、懐かしい。携帯会社の電波から自宅の電波に切り替わったのだ、やはり電波で人を殺せたら効率良い。
「私ですよ」
我先に中井さん、美代さん、どっちで呼ぼうか困るが出る。こういう時に先手は打てるのに。
『え?あ、あ、ア〇ム!』
消費者金融?
「柊……お前!酒タバコギャンブル女は身を滅ぼすってあれほど……!」
いい加減大人に慣れろ、金で買えるのは、金で買えるモノだけだ。心の中で説得を試みるが もう手遅れかもしれない、
『セ〇ムです!!間違えたんです!というか私まだ15歳ですよ!!』
声が少し恥ずかしそうに訂正と年齢が若いアピールをしてくる、『若いだけで価値が在る』その言葉は呪いのように
「貴音ちゃん……もう辞めようよ……戻ってきて」
中井さんがそっと扉に手を当てて、悲痛に説得している。彼女の気持ちを想像するととても見ていられなかった。違う意味で。
「そんなことする子じゃなかったよね……?」
泣き崩れそうな美代さんを見ながら決意する、俺の婚約者を泣かした後輩は許せない。泣き崩れそうなだけで泣き崩れてはいない彼女を見て強く心に刻む。
『誰か!!!助けて!家の前にヤク中が2人居ます!!!!』
悲鳴のような叫び声がビリビリと聞こえてきた。悲鳴だったわ。
「自分の事を棚上げして最低だな、俺、ドアと窓見て来るわ」
ドアは施錠済み、窓に回り込むか? 実力行使のタイミングを見誤らない。
「貴音ちゃんは最低ですね。ピッキングするので西藤先輩は下がっていてください」
中井さんはすっと立ち上がってリュックから秘密道具を取り出した。その手つきは慣れている、というよりかは慣れさせたか?あと誰か、彼女に登下校にリュックはダサいと教えてやらなかったのか?
『待ってく、ドア叩かないでください! 窓をガチャガチャするのも辞めてください!!』
なんか二階から、ドタバタと駆け下りて来る音がして、その音はドアの前まで近づいてきた。足大丈夫なのかよ。ガチャガチャ。
「あ、あの今日、予定があるので帰ってくれませんか?」
柊がドアチェーン越しにヒョコっと顔を覗かせながら凄い嫌がってる、俺は何もしていないので中井さんの好感度不足が原因だろう。
「ありがとう、俺達の予定を覚えていてくれたんだな」
ほっこり調査隊。
「貴音ちゃんのそういう律儀なところは好きですよ」
今ぐんぐん好感度がバベルの塔のように高くなっている。たとえ『言葉が通じても』結果は変わらなかったと思う。とりあえず何かのせいにしたいという意味では人間らしい最期。
「やばいです……話が1ミリも通じてません……」
迷子の子犬のように震えている柊をガン無視で中井さんが躊躇いなくドアチェーンを切り落とした。これで友達の線は消えたか。後輩の顔がデスゲームの参加者みたいだな、伏線回収もされていて万々歳。
(さて、玄関は突破できた。まずは親の生存安否を確認しないと)
「御両親に御挨拶したいんだけど、何処に居る?」
「核シェルターです」
羊飼いだ、真顔で嘘を吐いた。だから狼に食べられるんだ。
「この家に核シェルターは豚に真珠ですよ?」
中井さんは『お前の家は狭い』と貧困家庭に遊びに行って、平気な顔で言えるタイプの育ちなんだろう、まるで悪意は感じない。
「中井さんって双子だったんですか? 私が知ってる教室での様子と違うんですけど、え? なんか先輩、スタンガンで頭に42V以上の電圧を与えました??」
真っ先に俺が疑われている。スタンガンだったら42V以上出るだろうに。人体が致死電圧となる基準は『死に(42)ボルト』と韻が踏まれているが、日本国内では35Vでの死亡例も有るから、雨が降っていたらスワンプマンの話が出来たのに、ちぇ。心の雨も降ってない。日照り。
「俺達結婚したんだ」
誠心誠意伝える、それしかスベを知らないからだ。ソーラービーム。
「なっ……」
柊が三度見して俺と中井の顔を交互に見る。口がポカンと開いているので何か口に入れてやりたい。歯鏡にしよう。
「ごめんね、貴音の先輩を盗っちゃって……」
中井さんは指をモジモジとさせながら泥棒猫みたいな事を言ってやがる。まず俺は共有財産なので皆のモノだよ。
「どういうことですか!? いつもなんで私の時間だけ加速してるんですか……! 今の瞬間に何故呼び捨てに変わったんですか!?」
良かったな、ボッチ体育会系文芸部後輩にも友達が出来たみたいだ、うるうる。
「ただ俺は別れようと思っててさ」
そう言い残した瞬間、顔に強い衝撃が走る。
「ハニー、言いましたよね?死が二人を分かつとしても養育費を払うと」
頬が痛い……絶対別の感情が入ってただろ。
(どこに振り込めばいいんだ、死より前に分かれてくれないかな、物理的に)
「ぷぷ、先輩が叩かれてるw」
柊が指をさしながら嘲笑いやがってる、許せねえ、報いを受けさせてやらぁ。
「悪かった!!!でも俺が本当に好きなのは貴音なんだ!」
人の痛みを分からない後輩に抱きついて正面からの羽交い絞めを行使、つまり抱擁。
「ひっ」
後輩が真っ青に顔色が変わり、全身が小刻みに震え、鳥が肌ってる。俺もキツい、この空間に果たして勝者は居るのだろうか。
「そう……貴音ちゃんは敵だったんですね……」
居たわ、ありのままに自分を
「ま、待ってください! 嫌そうな顔が視えてないのですか!? なんで誰も待ってくれないんですか!?」
足がまだ完治していないからなのか、簡単に逃げられないらしい。割とそこまで本気で拘束してないぞ、この状況を終わらせるのは柊の肩に掛かっている。俺は俺の意思で動けないからな。
「身体が貧相過ぎて……温かいだけの木だ……」
これがコアラの気持ちなのか? ユウキが正直な感想を女性が求めているからとアドバイスしていたので、率直に思ったことを言った。体温と脈拍の通常値は知らないが、これは高いのかな? 血圧を測る機能は俺には無い、肉付きが少なく流木みたいな感じだ。芸術大学の生徒に流木を売るバイトが割高で有ったのを思い出す。
「何で私、性的加害を受けて文句を言われてるんですか……ううっ……」
日照りが終わった、塩化ナトリウムが含まれている水だが、水は水だ。
(ユウキは責任を取って毎月俺に面会に来いよ、もしくは弁護士になって毎日面会に来い)
受刑者の行状次第では月7回とか回数が上がるらしい、一般的には月2回、弁護士は接見交通権と法に権利を保障されているので毎日面会に来れる。もう弁護士になってくれよユウキ。
「そうですよ、西藤さん。中の下だって女の子なんです。前にも言いましたが大切に扱ってあげてください」
「だから下の上だと言ったよな?結論も決まって!!半永久的に不可逆と約束しただろ!!!」
誰だって譲れないものパートツー、シーズン2は大体評価されないのは1は期待されていないから期待を超えるのは容易く、2はハードルが上がり過ぎているのが問題。制作会社がデカいと前評判の煽りが多くてシリーズ1から盛大にコケる可能性は有るな。
「私、どこで間違ったんだろう……そうだ文芸部……文芸部にさえ入らなければ幸せだったのに……」
なんか耳元で、抱きついている相手の呪詛がぶつぶつと聞こえてくる。俺もコールアンドレスポンスを返した方がいいよな、きっとそう、深夜の心細い時に猫の交尾の鳴き声が聞こえてきて『凄えな』と元気が出た。
「一緒に文芸部を抜け出して料理研究部にでも入る?なんか包丁とか似合いそうだし」
それならこういうのが在るよ、と温かく声をかける。別に転部システムはウチの高校には無いが、勝手に文芸部の部室を調理室にすればいい。たまたま同じ部室に部活動が2つ存在してるだけ、これでゴリ押そう。
「じゃあ今すぐ装備してきますね^^^^^^^^^^^^」
(元気が出たみたいで良かった)
身体検査は済んだが身体は離さない。危険物は持っていなそうだ、危険思想は持ってそう。ここで刺されたら、死ぬタイミングで救急車を呼ばれてアリバイ工作をされて殺されるんだろうな。
「二人で料理なんて……私はまた負けたのですね……そうですか…………やっぱり、お母様のようには成れなかったのですね……」
顔がみるみる曇り、目からは大粒の涙がポタポタしている。ここの皆 すぐ泣きすぎじゃない?花粉症シーズンなの?そうだったわ。
(俺の知らない間に
中井さんが脱力して覇気(狂気)が消えた、今だっ! 今が! チャンスなのに!
「離してください、凶器を取りに行けないじゃないですか」
手が残念ながら違う方の覇気(殺気)を抑えてるので中井さんにトドメを刺せないじゃないか。
「俺さ木が好きなんだよ!!!」
森林保護団体に署名する勢いで抱擁する。ここで柊をフリーにしたら森林伐採されかねない。その場合は俺が自然に還る。
「まず人を植物扱いするところから辞めてみてください」
「大丈夫!所々柔らかさは残ってるから!」
正直者は馬鹿。
「あっ警察ですか?今、精神病棟から人 抜け出したりしてませんか?」
「ごめん、さっきSIMカード抜いといた」
将棋は6億手読む世界なのだ。身体検査する前にやるべきだったな、物理的に壊すより外側だけでは故障が判断出来ないのがSIMカードの良い所。通信会社を変える時も差し替えるだけで済んだりもする。便利。
「返せッ!!」
後輩が暴れるので俺はSIM君を居間の隅っこに投げる。
「わ、私のこと覚えてますか?二人とも私ですよ?」
中井さんがウルウルと自己主張をしている、正直目障りだから森へ帰そう。俺は木は好きだけど森は嫌いだし、全部燃やしてやりたい、面倒なモノは全て森へ帰すべき。いまさら森が俺を好きだと言われても もう遅い。
「人の家に勝手に入ってきといて その態度をお母様が見たらなんて思うかな?それじゃあ
全く関係性は知らないが誰かがそう言っている。俺だったかもしれない。
「っ……ごめんなさい。母君、今帰ります」
美代さんと目が合い軽く頬を赤らめられた。怖い。だがまた1人、人を救ってしまったか。俺はドヤ顔で柊に向かってほくそ笑む。嬉しい。
「待ってください。行かないでください。この状況で親が帰宅したら私死にますから」
もちろん声は届かない。中井は家から帰宅した、英語にすると意味が分からなそうな文。自分が思ったり言ったりした通りになるほど世の中は甘くない。だからズルをして、ルールを破り、犯罪は蔓延り、悪は滅びない。そう言い、自分の悪を正当化してはいけない。正しさを抱えて死ね。
「死ぬ時は一緒だよ、柊」
「い”や”です!!男のクセに女を力で捻じ伏せて恥ずかしくないんですかね!?」
「性別を理由にするなよカス! 多様性、宗教、国家、民族、全てが尊重される世の中を否定するんじゃねえ!!!」
言ってはいけない事を言われたら注意する、俺は負けない。
「前回、女の涙がどうとか言ってませんでした???」
(そんな記憶はある)
誰の記憶かは記憶に無い、ちゃんと名前を書いておかないと誰の持ち物か分からないじゃないか!トランプ1枚1枚に自分の名前を書いていた同級生が居たな。1枚盗んでもゲームが成立しなくなるだけ。
「過去の積み重ねで人は生きているんだ……今の俺を見てくれ、過去の俺ばかり見ないでくれよ」
後輩に悲しげに、限りなく本心じゃない言葉を心から吐き出す。
「私の家に無断で入って来て抱き合ってます、強制わいせつ罪です」
(やれば出来るじゃねえか)
「だがな、物事ってのは見てる視点に依って移り変わる」
真実は人の数だけあるが、事実は1つしか無いとドラマで言っていた。俺は事実なんて1つも無いと思うが。
「……どんな風にですか」
後輩の目線は時計を視認している。絶対に話している内容に集中してないで『どうやったらこの状況を打破できるか』で脳みそをグルグルしてるだろ。
「例えば、そうだな……最初から鍵を開けなければ良かったじゃん、とか」
「…………」
なんか『あっ……』みたいな顔をしてる、どっちにしろピッキングの成功率の高さが乱数だったからな、二の矢を放とう。
「知らない番号からの通話に出なくていいのに、とか」
「………………」
毛利元就の言葉を信じよう、一本の矢では簡単に折れるが三本では折れない。だから人の心も簡単に三の矢では折れないはず。そして矢も折れない。
「え?警察に連絡するの大分遅かったよね?前回で何を学んだの?前回の相手の話を持ち出す前に自分の経験は持ち出し忘れたの?」
「………………………」
凄い、開いた口が塞がらない。これが先人の知恵か。元就すげえ。
「大丈夫だよ、俺はいつまで待つから……」
優しい声のトーンを作りあげる、きっと俺の半分は優しさで出来ているんだ。
「あの、この体勢で待たれても地獄なんですが」
地獄への道は高速道路で舗装されている。
「とりあえず、親は何時に帰ってきそう?」
ずっと難しい お話をしていて特に気にしていなかったが、そろそろ簡単に応えられる質問を投げる、拷問の基本。
「えーあー7時30頃ですね……?」
「まだ余裕じゃん」
「何がですか!?」
(どうやって抜け出そう……俺も正直 嫌なんだよね。人の肌ってずっと触っていると汗ばんできたり、微妙な変化を脳が学習していくし、このまま親と初対面の再会をしたら48手の抱き地蔵と言うしかなくなる)