「毎日生命線を彫刻刀で延ばしてる俺が死ぬわけないだろ」「手相以外の知識を捨てて来たのは分かりました」 作:遺書の切れ端
【悲報】幼児化した先輩、待機児童になる。
足が道筋にも慣れてきてしまっている文芸部への廊下を辿りながら、放課後特有の独特な空気感が私を帰そうとしてくれない。
正直、この部活を選んだのをかなり後悔していた。
(それなのに)
喉元過ぎれば熱さも忘れてしまうらしい。
(その熱さがいつ喉を過ぎてくれるのが問題点ですね)
文芸部の引き戸を開け、いつもの定位置の、窓際の年季が沁み込んでそうな席に座る。
鞄から漫画を取り出し、机にざっと並べてから再度選んだラインナップを黙視して悩む。
『ひとつなぎの大悲報』
『死神代行サービス』
『逆だったかもしれねェ……』
(ある出版社に偏りが見受けられますね)
学校図書購入の審査で何故か、この連載誌は交付金が通りやすいということで、図書室は漫喫と化していたのを思い出す。
(唯一ですね、この学校の褒められる点は)
窓際に目をやると、陽が長くなった影響が色濃く日差しに表れている。葉っぱ達もきっと喜んでいるでしょう。
「……」
『ノコギリ上位互換マン』にしましょう、やっぱり能天気なのは大事ですよね。
意味ありげに過去やトラウマとかチラチラされても困りますし、その点は西藤先輩は失格です。常に表情筋が死んでるクセに声の音量だけで適当に喋っているというか、何処を見ているんですかね、不自然に止まったり動いたり、何かの顔色を伺ってると言うべきか、非常に面倒……ではあるんですが。
「はぁ」
(私はなんでこの部活を辞めれないんだろう)
この部活に来なければそれで終わり。単純明快に結論は見えてる、見えてるのに。
漫画への集中力が手薄になりながらも、なんとなく読むが、目立つ絵だけ見るに変化した頃に文芸部のノックの音が耳に届く。
(いつもそんな殊勝じゃないですよね……)
そう反射的に思い 恥ずかしくなる、『来たのが先輩だと決めつけてる』自分の姿が情けなくなったから。
(全然別の人の可能性も有りますよね、毒されてきてました)
そもそも先輩が悪い……って危ないですね、勝手に思って勝手に責めて、いちいち気にしてたら病みそうです。
私は落ち着いて、意識して深呼吸をする、冷静な声でノックに応える。
「開いてますよ」
トントン、とノックが2回に増えましたね。
(やっぱりですか、もう無視します)
漫画をドアの方に積み上げてバリケードのように並べて、我関せずのスタンスに切り替える。
「絶対に入らないでください」
そう私が言い終えると先輩は入室してきた。
「失礼します」
(この天邪鬼の権化が……)
でもちゃんと椅子の左側に立って待ってますね、面接としてのビジネスマナーなら正解なんですが……。
「先輩の椅子は存在しません、お帰りください」
「嫌だ!!!俺は椅子になる為に生まれて死にたいのに!!じゃあ何の為に生まれて何の為に戦えばいいんだ!」
そんな顔面毟りパンみたいな事を言われても困ります、妥協案を出してあげますかね。
「では、自分の存在価値を証明してください」
腕を組み、偉そうに面接をしときます。相手のルールで相手に敗北を与えるのが1番効きますからね。
「家に忘れてきました!」
存在価値って取り外し可能なんですね、駄目元で帰宅を促してみますか。
「お祈りメールを送っときますので退室して結構です、永遠に」
「今日はどの漫画を読もうかな……顔に傷がある医者でいいや、ちょうど俺も肩に傷が在るし、お似合い愛」
21ですか。古い漫画は手を出したことが無いので知りませんが名作だとは聞きますね。
先輩が、私が図書室から密輸している本棚に手を伸ばしたのを見て軽蔑する。
(そこに医者は居ないんですが……)
「あの、私のラインナップから選ぶの、辞めてもらっていいですか」
プライバシーを知らないんですかね?
「これ図書室の
「いえ皆の本棚ですね。口が滑りました」
「ふーん」
先輩が興味無さげに本を抜き取っていきました、泥棒です。最低です。犯罪者です。
(そもそも図書委員がザル警備だからいけないんです、紛失を把握できてないと踏んでいましたが、蔵書印ですか……。やはり文明は侮れません、だから滅びてないんですね)
「医療モノが無い、バトル漫画ばっかりじゃねえかお前ん
は?なに世迷言を?
「バトルしながら恋愛もしますし、バトルしながら食文化も形成されてます、差別化はちゃんとしていますが??文句あるなら自分で書いてみてください、目の前で破ってやりますよ」
「わかった」
先輩が新品同然のノートを広げて、本当に書き出しました。珍しい光景ですね。というか初めて見ました。
(字が書けたんですか……)
破る時は縦にするか横にするか迷いますね、無難に縦でいきましょう。
「タイトルは決まりましたか?」
「『弟が隣に引っ越してきた推しのVtuberだったけど俺は異世界転生して無自覚に努力チートでハーレムしてたらモテ過ぎて元の世界が現実ダンジョンでなんか帰還したら滅びてた件について』」
(絶対、作者も設定を把握ができてないヤツです)
タイトルが長い小説って内容すかすかなんですよね*1……全部タイトルに書かれていると読ませて読者に伝える技術が無いと自分から白状してるようなものです。
「95パーセントぐらい削りましょう」
「じゃあ『弟が滅びてた件について』にするわ」
ちょっと読みたくなるのが悔しいですね。
「それなら破るのは読んだ後にしてあげます、感謝してください」
「
(海外サーバーじゃないんですからスラングで感謝を述べられる意味が分からないです)
*
「でけた、みてみて」
何故か幼児化してますが気にしません、気にしたら負けです。
「ふむ……『これは弟の弟を弟する話である』もう読む気が失せました破りますね」
返答は聞かずビリビリと千切る縦に。
ちらっと先輩の顔色を
「……」
何を考えてるか相変わらず無表情で分かりませんね。
「今日の夕飯はキャベツの千切りにしよう」
献立を考えてたんですね……。
「いいですね、野菜を先食べると身体に良いって聞きましたよ」
細かい効果は知りませんが野菜ならなんでもいいんでしょう。
(…………)
結局、この紙屑はどんな話だったのかは分からずじまいです。寝る前に『わー!』と叫びそうです、まだ紙吹雪を集めて再現可能ですかね……?
「柊、紙は食べれないよ……」
紙切れをじーっと見てたら『やれやれ、これだから
「ホントですか?先輩なら食べれますよね?おかわりもいいですよ」
「いちまーい、っと、んむんむ。皿屋敷の味がする」
つい反射的に喧嘩を売り返しましたが即答で買われていきました。なんなんですかね、きっと綿菓子を渡されたアライグマもこんな気持ちだったのでしょう。
アライグマは可愛いですが、先輩は可愛くないです、可愛げが全くないです。
「どんな話だったんですか?その食品」
「柊、紙は食べ物じゃないよ……」
「ウザいんでさっさと答えてください」
「んーと、姉が弟の性癖を歪ませて人生を間違った方向に転ばせて弟を滅ぼす話」
さっきまで書いてた小説を食べながら思い出し解説してるのを聞いてると、特に食べても問題なさそうですね。ごっくんしていいです。
でもバッドエンドは
「なるほど、もしハッピーエンドにするとしたらどうしますか?」
原作改変は原作者に頼みましょう。
「一人っ子にするかな」
(それ話ごと消えません???)
「元も子も無いです、明日までに考え、いえ、もういいです。私帰ります」
くだらない会話に辟易しながらも時計の針がかなり進んでいることに気づき、帰り支度を急いで開始する。漫画をマイ本棚に入れ直し、開けた窓を閉めて、紙吹雪は……先輩がなんとかします。
「弟くんがエアシスターのお姉ちゃんと喋りだす!!」
なんか凄い結論に至ってます、もうそのまま何も至らないで帰って来ないで欲しいです。
(エアシスターってなんですかね?……検索してもヒットしないじゃないですか)
ついつい気になって調べてしまったのが悔しいです……。
「早くその弟を医療に繋げる医療モノにしてあげてください。先輩はもうエアになってくれて問題ないです」
それ以降一切視線を送らずにドアに歩み、扉を閉めた後に中から声が耳に届いた。
「ツンデレは流行らない!」
(もう流行る流行らないの域にツンデレは居ないと思いますが……)
そもそも私はツンデレでは無いですし、先輩に与えるのはツンもデレも無くグサだけです。