バカな子ほど可愛いと言うけれど   作:道長(最近灯に目覚めた)

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 続きっていうよりただの妄想垂れ流しです。
 暇つぶしにどうぞ。


第2話

 四方八方からビーム兵器が降り注いでいる。表現に語弊があった。数に任せた乱射ではなく明らかにMS1機を狙っているそれは、降り注ぐ雨というより鳥かごに近い。これが一般的な携行火器なら、当たり所によっては装甲が耐えるかもしれないが、黄色く発色しているそえは明らかに戦艦の副砲クラスの出力があった。

 まともにくらえば撃墜必至、そもそも並みであれば数秒も持たない猛攻を、その狙われているMSは避け続けている。宙空間戦闘のため跳んだり跳ねたりはもちろんのこと、あまり推力頼みに動くとセーフティがかかり緊急停止する可能性があるため、マニューバを駆使し負荷を誤魔化しつつ、等速直線運動を避けている。

 結果、見事鳥かごを脱出した。

 

「このぉ!」

 

 ようやく火器を構える時間が出来たMSのパイロットは、戦闘行動中に脚を止めるという、舐めプをかます鳥かごの主に向かって高出力のビーム砲を撃つ。

 記録映像だけで判断すると、見てから避けているように見える時もあるが、基本的に非実体弾は目視からの回避は出来ない。外的環境の計算に時間がかかるため、発射までの時間差を利用して乱数回避しているだけだ。更に照準器こそあるが、非実体弾兵器が真っすぐ進むなど稀である。だからこそ実弾兵器や誘導兵器の類が未だに生産されているわけで。特に弾速の影響が少なく、速射性が重要になる接近戦と、環境計算が面倒な地上での狙撃に関しては、未だに実弾兵器の方が有利な状況があったりするのだ。

 裏を返せばロックオンしている時に、静止している物体を外す非実体弾兵器はあまりないのである。放たれた光は吸い込まれるように棒立ちの機影に向かっていき、その直前で弾けた。

 戦艦すら一撃で落とす威力の砲撃を受けて、少なくとも見た目的にはノーダメージという状況。普通は茫然として隙を晒すのだろうが、このパイロットはそれを見るや否や、ビーム砲を腰にマウントし直して、背中の大剣を抜く。

 

「~~~~っ」

 

 ブラックアウト寸前の急加速をものともせず、アクセルを踏み込み続け接近する。既に第二波の準備をしていたが、あの手のものは変にビビッて準備させた方が危険だと、彼は知っていた。

 蒼い機影の前に、奈落染みた黒い穴が開くとそこにビームを照射、するとどこからともなく再びビームの雨が降りかかる。が、今度は時間が足りなかったせいか狙いが甘い。

 一体どういう仕組みなんだと、ツッコミながらも先程よりあっさり潜り抜ける。

 が、もう一息という所で目の前に虎口がぱっくりと口を開けた。あの黒い穴が目の前に現れたのだ。普通なら一瞬後には宇宙の藻屑である。だが彼は普通ではなかった。

 

「舐めるなっ……」

 

 そんなものは読んでいたとばかりに綺麗なバレルロールで潜り抜ける。背中の大型スラスター付近を通過したビームにシステムが異常熱量を検知、リカバリーのために出力制限がかかるが、多少の推力低下は問題ない。ついに手に持っている大剣の間合いだ。この距離では散々苦しめられてきたインチキビームも使えない。

 

「貰ったぁ!」

 

シン・アスカは勝利を確信しながら、対艦刀を振りかぶり、止めの一撃を――。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、なんで接近戦もクソ強いんですか。コイツ!? どうみても遠距離型ですよね? パラメータの設定、間違ってません!?」

 

 撃破判定を下され、リザルトが表示されたシミュレーターから出てきたのはモルゲンレーテの民間協力者にして、機密扱いの新型機開発のテストパイロットに何故か任命さているシン・アスカである。あまりに理不尽過ぎる敵機の性能に悪態をついている。

 

「実戦にルールは無用でしょう? 実際、『ワームスマッシャー』を避けて接近戦まで持っていかれてるしね。過剰な性能という訳ではないわ。むしろ1対1でこれなんだから、乱戦になったら絶対に撃ち漏らしが出るということよ。やっぱりワームスマッシャーと剣だけじゃ片手落ちが拭えないか。最低でもグラビトロカノンの運用まで漕ぎつけないと実践投入は怪しいわね」

 

 答えたのはアークエンジェルから下船後、オーブのモルゲンレーテ本社で始末書と報告書、実験機のテストに追われ、そのテストパイロットに民間人であるシン・アスカを採用したバカ、ホシミ・ヤマトだった。採用理由は大型アーケードゲームとして調整したシミュレーターで妙な成績を出していた彼に興味を持ち、試しにテストをしたらドンピシャだったためである。アドリブでの修正能力と肉体と反射面での学習能力が非常に高い。

 ホシミは水分補給に適当な清涼飲料水とエナドリ2本を両手に持って差し出し、スポーツ飲料を取ったシンを見て、残ったエナドリの缶を開けて一口飲み、「旨くねぇ……」と言わんばかりに顔をしかめた。

 シンは「だったら飲まなきゃ良いのに」と思った。学生の彼はデスマーチでカフェイン中毒になる社会人の悲哀をまだ知らない。

 

「避けたと言っても、ここまでどれだけ撃墜判定食らってると思ってるんですか。50回は墜ちてますよ。突破確率2パーセントということはありませんけど、実際に展開される戦力を考えたら破格じゃないですか? あれ1機で30機は墜とせますよ。そもそも自分がテストしている『D』もそうですけど、実際に作れるんです? これ」

「『D』 の方は核動力さえ使えれば十分製造可能な範疇よ。バッテリー機じゃ無理だけど、核動力機ならフレームのPS化が可能でしょうし、耐久力と出力の問題はほぼ解決するから。基本コンセプトが、あらゆる戦況においてMS1機が現状持ちうる最大威力を目指した機体なのよね。搭乗者に容赦なく理論値を求めてくるあたりが実にデュ……教授らしいけど」

 

 ホシミはヘリオポリス脱出後、補給のために立ち寄ったアルテミス要塞での交渉で自身を取引材料にしつつ、捕虜のニコル・アマルフィとブリッツを使って何とかアークエンジェルを脱出させようとしたら、何故かニコルにブリッツのコックピット連れ込まれてクルーゼ隊の高速戦艦『ヴェサリウス』に捕虜として乗艦するという事態を経験している。

 その間、ザフトのお偉いさんになっていたギルバート・デュランダル、学生時代にプラントへの短期遊学で世話になっていた恩師、と私的な話をいくらかしていたのだ。やり取りの中で互いに出し合ったカードに『D』 と名付けられたMSの構想があったのである。実際はやり取りというよりホシミがコーディネーター向けの遺伝子治療薬の改良案を世間話感覚で出してきたので、せめてもの誠意で送られた大分濁したプラントの内情と断片的なデータに含まれていたものだったのだが。

 ただのコンセプトデータ、そもそも採用されるかもまだ不透明ないくつかの企画の一つに過ぎないそれを、現在使用できる技術と製造されるであろう年月日を逆算、そこにデュランダルの趣味嗜好を加えて、ザフトがワンチャン連合に勝つために要求されるキルレシオを計算、更にそれを現実的な範疇で収めて、データ上でホシミが仮組したのが『D』と名付けられたシミュレーションデータである。

 仮にデュランダルが見たら卒倒する代物だったりする。インテリはバカに勝てないことは歴史で証明されているのだ。某天然パーマとオールバックのエースパイロットも似たようなことを言ってるし。

 

「核って……あぁ。でもエネルギー確保のためにも、何とかして使えるようにはしますよね。きっと」

「そういうこと。だから勘定に入れていい数字」

「なんていうか。スゴイですね。ホシミさんって」

「すごいすごくないとか、頭の良し悪しというより感覚の問題。昔、ティッシュ一枚から原爆の爆発力を計算した科学者がいたんだから、これくらい実数が存在するなら誰でも出来るわ」

「じゃああの仮想敵の蒼い機体は何なんですか? あれも感覚で?」

 

 自分がテストしているデータには納得がいったシン。が、そうなると気になるのはビックリドッキリ兵器でこちらを苦しめるあの機体である。『D』 ですら現行機を遥かに上回っていることを身をもって知っているが、あれはそれ以上、なんならMSの括りに入れ良いのかも怪しい。

 純粋な興味関心で尋ねるシンに、しばらく無言で手元の缶を弄んでいたが、一つため息をつくと、中身を飲み干して「マッズ……」と呟いた。

 

「これから言うのは独り言だから」

「へっ? あ、はい」

「プラントってさ。戦争始まる前は宇宙開発にかなり乗り気でさ。そのための大規模施設を開発しようとしてたんだけど」

「ウェブニュースで見たことがあります。たしかシーゲル・クラインが……」

「独り言」

「あっ。はい」

「……その大規模施設が、この戦争が始まってから所在不明なんだよね。情報遮断は当たり前だけど、逆にプラントの光学観測は定期的に行われていた。ただザフトの戦闘行為で観測部隊が一時全滅したのをきっかけに、確認できなくなった。上は戦争の資材のために解体したと分析してる。でもあれだけの巨大構造物を解体するには相応の時間がかかるよね? 実際に作ってる側からすれば、あれだけの構造物を作るなら相当な安全措置を講じてる。ましてや逃げ場のない宇宙空間で作られているなら、万が一の時の被害はオーブのマスドライバーの比じゃない。宇宙への階っていうのは簡単に作れないし、逆に壊すことも難しい。で、人を殺すための機械を作るって大変なんだけど、人を生かす機械を作るのはその倍、大変なの」

 

 ホシミ・ヤマトの目は中空を見つめたまま動かない。空になった感を弄んでいた両手が動きを止め、それを握りつぶす。

 彼女の目が見ているものが分からないほど、シン・アスカは愚かではない。自然と研究室の天井を見上げた。当たり前だが頑丈そうな地下室の天井しか映らない。

 

「だったら単純計算、最初から人殺しの道具として作られるものの倍、人を殺せるよね」

「……何が起きるんですか?」

「地球に向けたら人類滅亡させるくらいには酷いことが起きるんじゃない? あそこから兵器として改造したら、人為的に引き起こされるガンマ線バーストもどきになりそうだから。……独り言のはずなんだけど」

「じゃあオレのも独り言です。気にしないでください」

「……そう」

 

 ホシミが一瞬だけシンを横目で見た。そして空き缶をゴミ箱に捨て、二本目のエナドリに手をかけようとしたらシンにやんわりと止められた。目が合うと「ダメですよ」と言わんばかりに微笑まれて、バツが悪そうに顔を逸らした。そういえば捕虜だった時、アスランとニコル、何故かイザークにも心配されたことを思い出していた。あの時は捕虜だし女だし、それなりの扱いをされるものだと思ったが、何故かやたら丁重に扱われていたなと。

 タダ飯食らってるわけだし、あんまりなの以外は別にいいと言ったら「キサマに手を出したら負けだ」とイザークに即答された。仕方ないのでXシリーズの起動方法の面倒くささの理由とか、開発思想とか質問されたことには可能な限り答えたが。彼女自身はモルゲンレーテからの出向なので、オーブやアークエンジェルが不利になるようなこと以外隠す気はなかった。守秘義務があるもの以外は。迂回した質問には同じくらい迂回して答えたけど。

 

「タカ派のトップがパトリック・ザラのうちは、クライン一派が機能するから何とかなるだろうけどね。レノアさんもいるし。ただ過激派の中には本気で絶滅戦争したがってるのもいる。ブルコスも盟主ムルタ・アズラエルが程々に抑え込んでるけど、どうなることやら。トップが本気で殴り合う気がなくても、下が納得しないから」

「政治と人間の感情が混ざってるせいで収集つきそうにないですね。戦争は嫌ですけど、オレは家族とホシミさんが無事なら多少はいいです」

「……あんがと。ぶっちゃけあの蒼いのは、仮にあの施設が兵器に転用された時、何とか出来るものを作ろうとしたわけ。実際は技術的ハードルが高すぎて、まんまは現状無理だけど。対消滅エンジンには素粒子単位で調整された資材が必要だし、ワームホールの制御には基地1つの電子機器全部使っても、演算が追い付かないから。歪曲フィールドも、仮に機動兵器に積もうとしたらサイズが2倍になった挙句、肝心の機動性が皆無になる。しかも信頼性皆無。ちょっとしたことで使えなくなる」

「一人で世界征服でもする気ですか? まんまは無理って言ってましたけど、一部は何とかなるってことですよね?」

「世界滅ぼす兵器相手にしてるんだから妥当なスペックよ。グラビティ・コントロールシステム自体は現状でも動力運用の基準はぎりぎり満たしてる。現状だと『シュバイン』と『ファルケン』の予備フレームを流用して、動力源をブラックホール・エンジンにするのが現実的な策かな。照射先に人工ブラックホールを置いておくっていうとんでもなくシビアな迎撃作戦になるけど。これだって間に合うかどうか……」

「ブラックホールで対抗って……、どこのガ〇バスターですか。そもそもどこから資金が出てるんです?」

「ガンマ線バーストVSブラックホール。宇宙なら割りと普通のマッチアップじゃない? お金持ちのライオンさんがお小遣いをくれるの。直接のスポンサーの意向は無視できなくて、私とファルケンは降りる羽目になったんだけど。あぁ独り言はここまでだから、あとは大丈夫よ」

 

 今頃離島で解析されているであろうファルケンに思いを馳せ……てはいなかった。半ば思い付きと閃きで付けた機構が多いし、そもそもコーディネーターの中でも上澄みの上澄みである義弟専用に調整した機体だ。常人の手に負えるものではない。現場は苦労してるだろうなーくらいにしか考えていなかった。しかも、宇宙での連邦軍先遣隊救出の時にキラ自身がOSを弄ったので、その操作方法は初期以上に複雑か否代物となっている。犠牲は出しつつも撃退に成功、フレイは父親と再会出来たが、その裏で整備班は頭を抱えていた。何せ開発者がいない状態でワンオフ機を修理せざるを得ない状況だったのだから。最終的にキラが整備に協力して「姉さんならこうするはず」、「この配線は実戦での負荷を見て、思い付きで変更しましたね。あの人バカだから。これで正常です」と思考を辿りつつ、四苦八苦しながら使える状態にもっていった。そのキラでもテスラ・ドライブやグラビティコントロールは手が出せない代物で、ホシミが帰ってくるまで『ストライク』一機と『メビウス・ゼロ』しか動けないタイミングがあった。だってバカしか思いつかないし、こんなバカげた装備。逆にキラが作ったソフトウェアはホシミもよく分からず、そのまま使うしかないことが多々ある。現在使っているシミュレーターも、当時キラに鬼電して組み上げたものだった。お互い思考のトレースは出来るので、基本動作が分かれば何となくイジれはするが。

 そんなバカとスーパーコーディネーターの合作であるスーパーバカな代物を常人が理解できるはずもない。恐らくスキャンの度にSAN値チェックが入る。

 弟は電子的に理解不能なものを生み出すが、義姉は物理的に意味不能なものを生み出す。なんやかんや似たもの義姉弟なのだ。ちなみに姉は喜ぶが、キラに直接言うと「名誉棄損で訴えますよ」と真顔で言われる。温厚で通っているキラの数少ない地雷だった。キラがキレたのはそれと、トールが誕生日プレゼントにジョークで姉モノを送られた時である。その時は数瞬の沈黙の後、トールが宙を舞った。

 

 姉さんはこんなんじゃないよ

 

 その意味を聞ける勇者は誰もいなかったので、真意は本人しか知らない。

 

「しかしまさか言い出しっぺが最初に艦を降りることになるとは……。最悪な人間よね」

「弟さんとその友人が軍艦に乗ってるんなら心配ですよね……」

「モルゲンレーテからの出向扱いがここで足を引っ張るとはなー。『ファルケン』も整備が出来ないから、ゴネて残しても置物になるだけだったし……。『砂漠の虎』と関係者の身柄を取引材料にオーブへの入港がスムーズに出来ただけでもマシね。『ストライク』と『スカイグラスバー』だけだったら、際どかったでしょうから。必要なのは1機のワンオフ機より、流用が効くカスタマイズ機か。……動力部分は現場だと、予備パーツと換装するのが精々だったわね。つまりソフトウェアと動力炉、一部の推進器は、そもそも現場でも弄りにくいから高性能化しても整備性の影響は少ない。なら胴体以外に完全な互換性を持たせるコアシステム(仮)を打診してみるか……」

「また変なこと思い付いたんですか? 言葉悪いですけど、第2世代コーディネーターの自分より遥かに頭いいですよね?」

「さっきも言ったけどただの感覚の話よ。それにコーディネーターでも、適不適はあるでしょう? そういえばシンは第2世代コーディネーターなのに、珍しく妹さんがいるのよね?」

「はい。だから仮にマユが軍艦が乗ってたらと考えると、気が気じゃなくて。ホシミさんの気持ちが分かるって訳じゃないんですけど」

「……ありがとう。そっか、そうだったわね。いくらゲームが上手いからって、この順応速度を考えると……、もしかして天然モノ?」

 

 まじまじと見ているのが分かって、シンが観念して振り向くと目がバッチリ合った。それでも目を逸らす気配が無いので、先に折れて目線を外す。

 

「……お世辞でも優秀な生徒とはいえませんけど。コーディネーターにしては理数系得意じゃありませんし。ウチの両親、そんなスゴイ調整受けてなかったんですよ。それこそ整える位の調整だったらしくて。いやこれは、両親が悪いとかじゃなくてですね」

「そういう意味じゃないわ。これ言っていいのかしら……。これからに関わることだし言うべきか。また独り言言うから。何かあっても知らぬ存ぜぬで通して頂戴」

「なんですかそれ? 分かりました」

 

 これマジなヤツだ。と国語のテストはコーディネーター基準とナチュラル基準共に9割以上を叩き出す、シンの繊細な感性が自然と背筋を伸ばした。なんなら道徳にテストがあったら80点は固い。

 バカはテストの点数だけは良いよ。

 

「コーディネーターの出生率が問題になってるでしょ。特に第3世代以降」

「一応は知ってます。自分はあんまり気にしませんけど、妹のことはちょっと気になりますね」

「なら知ってると思うけど、あれの原因って遺伝子弄り過ぎて、生殖細胞が受精して細胞分裂する際、遺伝子の複写が上手くいかないのが原因なの。なんでって、大半のコーディネーターは、本来の遺伝子に余計なモノくっつけて調整されているから。だから調整がシンプルだった初期のコーディネーターは話題にならなかったのよ」

「……その理屈でいくと、もしかしてオレや妹はそこまで神経質にならなくていい感じですか?」

「正式な検査は受けるべきだけど、ここでやった検査を見る限り大丈夫そうよ。で、なんでそういう調整の仕方をしたかって言うと、昔提唱されていたジャンクDNAの存在があるのよ」

「ジャンクDNA?」

 

 聞きなれない言葉にオウム返しのように反復するシン。ただ興味はあるようで、赤い目は続きを促している。

 

「当時の研究だと人間が発現させているDNAは全体の2パーセントくらいしかないって当時発表されてね。残りの98%はただのダミーって考え方。実際、DNAの長さだけで生物の優劣は決まらないし。その後の研究で、その98%の中から2%の発現を調整するDNAを見つかったけど、それと同時に明らかな無駄も見つかったわ。そしてコーディネーターが生まれた現在でも、判明していない部分は多い。で、雑に言えば確実に無駄って部分に、役割がわかってる遺伝子を突っ込んだのが普通のコーディネーターってわけ」

「分かりやすい解説ありがとうございます。……あれ、ホシミさんって機械工学専門ですよね?」

「そうだけど? 必要だったから短期遊学の時覚えただけ。プラントにいた時、『コーディネーターの種としての退化』っていう題材で論文を教授に出したら速攻追い出されたけど」

「当たり前じゃないですか。ヤバいなこの人」

「その後何故かブルコスの上の方に呼ばれたけど、メンドくてブッチしちゃった」

「……もういいや」

 

 バカに一々ツッコんでいたら身が持たないことを知っている彼は、スルーすることにした。絶句という言葉の意味を、ここ数日身をもって学習している。

 

「当時の第一人者は更に飛躍して、超能力染みたものを発現させようとしたらしいけど。もしかして身近にいるかもしれないわよ、超能力者。天才ってすごいわねー」

「スゴイですけど……、さっきホシミさんが言った理屈だと、次の世代に繋がらなくなりません?」

「ピンポンピンポン、せいか~い。恐らくその超能力者同士で子どもを残せる組み合わせは相当限られるね。サラブレッドより酷いよこれは。その科学者の作品としては素晴らしいけど、種としては大失敗じゃないかな? 天才だけどアホだと思うんだ。その人」

「……ノーコメントで」

 

 シン・アスカは読書好きの繊細な少年である。もしかしたらいるかもしれない超能力者を慮る。あまり頭の良くない自分でも思い当たる欠陥を抱えて産み落とされた当人の気持ちはどうだろうと。

 普通の人間なら悩みは尽きなそうだが、恐らくいびつな環境で育てられるだろうから、あんまりお付き合いしたくない性格してそうだなと、最終的に結論付けた。

 読み取り問題100点の回答である。

 

「でも世の中不思議とバランスが取れているから。天才的なアホがいれば、天才的な天才もいるわけで。一人ね。いたんだよ。本物の本物が。こっからが本題」

 

 いつもと明らかに声音が違う。本気かどうか分からないお気楽さが完全に消え失せていた。

 シンは真面目に聞きつつ、テンションの乱高下がエグイなと思った。根底にあるのはまともな理屈なのに、どうしてこう地球一周回って大気圏外に出力するのか不思議でしょうがないのである。

 バカだから仕方ない。

 

「多くの科学者がDNAの足し算と割り算をして人間の最適解を求める中、その科学者は引き算と掛け算をし始めて、生物としてのペイロードを拡げようとしたの。……情報分野の意味だと凝縮になるのかしら? まぁいいか」

「何が違うんですか? それ」

「要は遺伝子の小型、高性能化。能力の発現を効率化させて、種としての拡張性を高くしたの。多くが種に定められた限界に挑む中、その人だけは人間の限界を取っ払おうとした。ある意味本当の種の進化。その先は自然に委ねつつも、明らかに神様の掌から逸脱した行為よ。初期のコーディネーターはこの遺伝子の効率化を多少なりと行った人がいてね。君のご両親がそうだったのかもしれない。だからあなたは、その科学者が求めたものに近い存在かもねってこと」

「それめっちゃスゴイじゃないですか! 今コーディネーターが抱えている問題を解決する唯一の方法じゃ? 法律で規制されているのもそうですけど、なんで行われてないんです?」

 

 シンのもっともな疑問に、ホシミは黙って首を横に振って続ける。

 

「シンプルに難しいのよ。失敗したらヒトにすらならなくなる。実際それで多くの命が犠牲になった。だからその科学者はフラガに目を付けられ、だからこそ殺されてしまった。もし成功してしまえば、本当にナチュラルは旧人類へとなり下がると思われたのでしょう。……この世界のどこかに調停者気取りの黒幕がいると思わない? 天才のアホが生きてて、天才の天才が死んでる時点で」

 

 最後は陰謀論よ。冗談っぽく言うが、シンには冗談を言っているようには思えなかった。

 

「……その人の研究は今どうなってるんですか?」

「一部は残ってるけど肝心な部分はキレイに燃やされちゃった。完全にロストテクノロジー」

「……それは」

「何かあったらこの研究室使っていいから。……バカの妄言よ。あんまり深刻にとらえないで」

「こういう言い方はどうかと思うんですけど、その……成功作の人はいるんですか?」

「……ノーコメントで。さて、キラ達はどこかしらねー。まだ太平洋上でしょうけど」

 

 わざとらしく話題を逸らすと通信が入ってきた。機密扱いの情報が多い研究室のため通信が来ること自体珍しいが、その中でも特にセキュリティが厳重な暗号通信だった。

 心当たりが多分にあったホシミは、眉をひそめながら回線を開いた。

 

「ごめん、通信に出るわ。3日ぶりですね。ウズミ様。キラとも3日間会ってないんですよね。何ででしょう。あんなに一緒だったのに」

 

 明らかに「不機嫌です」と顔に書いているホシミを見ても一切表情を変えず、オーブ元代表で現在も実質の指導者である『ウズミ・ナラ・アスハ』は、淡々と用件を言い始める。

 

「業務中にすまない。ヤマト研究員。至急の知らせだ。本来なら機密だが、私個人の判断で君に連絡させてもらった」

「なんですか? 生憎グラコンとテスラ・ドライブの説明はもうしませんよ」

「茶化すなホシミ。緊急時に理解してはぐらかすのは良くないぞ」

「……ごめんなさい」

「私も人のことは言えんがね。本来ならカガリより君の方が政治向きかも知れんな。……では本題を言おう」

 

 キラ君が戦闘行為中に行方不明になった。




 適当なノリなので冷笑してあげてください。
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