とある個性の禁書目録 作:とある作者の狂人編集
「……いずく」
「エリちゃんを! 返せ!」
出久が壊した壁から入ってきた。ヒミコがうっとりとした顔をする。マグネがどでかい磁石を構えた。ドタドタドタと階段から上がってくる音。警察だろう。来られると困るなぁ。面倒臭い。
「デクさん……っ!?」
エリが鼻水を啜る音がする。鈍い私でもわかる。泣いているのだ。感動の再会? 恋焦がれた英雄?
私は出久から目を離さずにエリを背負った。おんぶ紐で固く結ぶ。
出久が宙に浮く。そして、向こう側の壁に激突。マグネの個性・磁力で反発して、壁に激突したらしい。
その隙にヒミコとマグネはできた大穴から出ていった。
私は出久に蹴りをお見舞いした。出久はガードしたが、壁を突き抜け部屋から吹っ飛んだ。私は追った。エリの叫び声と、マグネとヒミコが逃げる足音。外にいた警察が私の周りを囲む音。
私は地面に降り立ち、今ちょうど立ち上がった出久に首を傾げた。
「返せって、元々この子は、八斎會の子だよ? あなたに返すいわれはないんだよ」
「それなら君も同じじゃないか!」
「……痛い所を突かれたんだよ」
睨み合い。私は、少しワクワクしていた。なぜなら、AFOや弔の話では、この子こそが、オールマイトの後継にして、個性【ワン・フォー・オール】の継承者。緑谷出久。
オールマイトを、正義の象徴とするなら、その象徴を託された可能性がある子だ。どれだけの力量があるか、確かめたい。あわよくば、神器の触媒にしたい。
しかし、エリを抱えたままの戦闘は不利だ。
今はエリが優先だ。エリを研究することで、記憶をなかったことにしたい。当然、10万3000冊以外の記憶は残したまま。それができる可能性がエリには詰め込まれている。早くエリを分析したいんだ。
「しかし、仮免生が夜間に活動とは、いただけないかも?」
「先生と、インターン先のヒーローからは許可を貰った!」
隙がねえ。これは戦うしかないのだろうか。私は手を組んでお祈りポーズをした。
「お互い、話し合えばわかりあえると思うんだよ」
「じゃあ、話し合おう。刑務所でな!」
拘束布が私の身体をぐるぐる巻きにする。後ろを向く。イレイザーヘッド。魔術が発動しない。歩く教会が機能していない。
ただし、対応は考えている。私はナイフの刃を外側に向けるように口元へ持ってきた。案の定、イレイザーヘッドの束縛布が口元も覆う。が、ナイフで切る。
ナイフで切れなかった。硬い布だ。仕方ないので、ナイフによって空いた空間で身動ぎする。
私は鎖十字架を胸元から取り出す。あまり使いたくなかったが、やむを得ない。
私は鎖十字架の鎖の端にある針を舌先に刺した。痛い。歩く教会の効果がないので、針を刺せた。
これは、舌ピアスで装備する霊装。留め具で留めて、鎖を垂らし、十字架が振り子のように揺れる。血がそれに沿って滴る。
この霊装が宿す魔術は、『天罰術式』。
「
そう、天罰術式が発動したのである。
イレイザーヘッドは倒れた。出久も倒れた。警察も全員倒れた。それどころか、私をテレビで見たことがある人は全員倒れた。都市機能が麻痺した。トラックやバスが交通事故を起こす。飛行機が墜落していく。救急車は出動しないし、消防車も走らない。なぜなら、運転者が全員昏倒したのだから。
都市機能の麻痺。いや、おそらく私は有名人だ。世界中の人が知っているはずだ。そこで、私の顔写真が出ていてもおかしくない。それだと、都市機能ではなく、国家機能、世界機能が崩壊する、ということだ。
この術式は原作『とある魔術の禁書目録』で登場したチート級の魔術。この術式のせいで、作中のパワーインフレが加速した。これを実現するための霊装は、まだヴィラン連合が誕生していない頃から作り始めた。それこそ
これは神に近いものだけが使える代物。当然、私は転生したので神に限りなく近い。よって、使えるのだが、この世界でそれを再現するにはいくつか条件がある。
一つ、相手が私を一度でも見たことがある。あるいは、現在進行形で見ていること。
一つ、相手が私に敵意や憎悪を抱いていること。
一つ、鎖十字架のピアスを舌先に取り付けていること。
ここまでは原作でも取り上げられていることだ。しかし、もちろんこの世界の魔術と原作の魔術とは違う。
一つ、個性保有者であること。(無個性には効かない)
一つ、私の顔を覚えていること。(つまり、忘れていたら発動しない)
一つ、私の意識があること。(つまり、意識を失ったら魔術が停止する)
これより、一つ導けることがある。つまり、〈
人は誰しも、自分を少なからず憎むことがある。それは成績が悪かったり、失望したりしたことが原因かもしれない。自分を否定することは誰もがあり得ること。転じて、自分に敵意や憎悪を抱くこともある。そして、それは私も例外ではない。
絶賛、酸欠状態で、昏倒しかかっている。不意打ちではないため、ふらふらとよろめき、何とか意識を保つ。全員が倒れたのを霞む視線で捉えて、舌ピアスの留め具を外した。
空気を一気に吸う。息が荒い。舌から血が滴る。涎と混じって糸を引く。血の味は鉄の味。一旦、尻餅をついて、背中のエリを思い出して倒れないように両手を後ろに支える。
「いひゃい」(痛い)
誰も起き上がらない。落ちていく飛行機。火の手が上がる街。しかし、誰も起きていない。死んだ訳ではない。ただ、一瞬で身体が酸欠し、突然のことで意識を失ったのだ。私はポケットから酸素マスクを取り出し、酸素をゆっくり吸う。
一つ大きく息を吸って、吐く。吸って吐く。気付くと、肩が強く掴まれていた。どうやら背中の泣き虫は私に敵意も憎悪も持ち合わせていなかったようだ。稀有な存在。
「エリひゃん、どったの?」
「……なんで」
「ん?」
「……なんで、いずくさんは、私
「……」
一瞬、私は答えに窮した。それは罪悪感とか、同情心とかでなく、純粋に答えを持っていなかったからだ。
しかし、少し考えてこれだけはまず言った。
「誰もが誰かの大切な人なんだよ? 私
「……」
どの口が言ってんだか、と思う。私が言う価値はないだろう。まぁ価値なんて気にしてたらヴィランなんてやれねぇがな。
歯軋りの音。肩越しに聞こえる嗚咽。私は立ち上がってエリを背負い直した。身体の状態はいたって健康。屈伸しながら、イレイザーヘッドを見て、出久を見て、踵を返した。
なぜ殺さないのか? 殺しては勿体ない。特に出久。今後が楽しみだ。イレイザーヘッドは殺しても良かったが、個性を消せる個性は研究してみたい。しかし、今はエリで手一杯。また今度捕まえるとしよう。
しかし、今日は色々あったなぁ、と回想する。八斎會が潰れて私も弔もホクホク顔。エリをモルモットにできるのは幸運だ。その嬉しさを神に感謝しなければならない。
と、同時に神に恨みもある。私を転生させて、10万3000冊をインプットさせ、狂わせた代償は必ずどこかで晴らしたい。神がいない場合はどうするって? そんなの決まっている。
他人に八つ当たりだ。
これは、
これは、
そう、救いはない。それが現実。それが真実。だって、そうだろ? 背中の子は泣いているのに、誰も助け出せない。私も助ける気がない。ただ、自分のためだけの物語である。
「…………………………ま、て」
肌が粟立った。
先程の余裕が一瞬で絶望になる感覚。おかしい。ただ声を聞いただけなのに、歩く教会も聖人の力も正常なのに、私は、私が負ける姿を幻視した。
ゆっくりと振り向く。そこには、ゆっくりと立ち上がるヒーローがいた。
確かに術式は起動した。さらに言えば、彼は頭から倒れて額を打っている。血が流れて鼻筋から唇へ流れている。初見殺しの魔術。私にも発動する自爆技だが、来ると分かっているのなら、色々な準備ができる。
彼はそうではない。科学的に言えば、脳内酸素血中濃度が急激に低下する技だ(正確には違うが、ここで説明しても意味はない)。適切な対応ができた私でも、復活に1分経っている。それを、初見の彼が、私と同じ時間経過で、復活する?
イレイザーヘッドを見る。倒れたままだ。警官を見る。誰一人として起き上がる者はいない。飛行機がどこかに墜落する音がした。誰も助からないだろう。
天罰術式は、敵意や憎悪の程度によって、効果は変化
それなのに、なぜ彼は、立ち上がった?
気付くと足が震えていた。出久の足だけではない。私の足も震えていた。
身体が、後ろへと進む。尻込みする。出久が一歩前に地面を踏んだ。それだけで死が迫るような寒気がする。後ずさる私に、出久は小さく、しかしはっきりと言った。
「ェ、リ……ちゃん……を、返、せ…………っ!?」
「デク、さん。…………っ!?」
何を思ったのか、エリが暴れ出した。ハッと飲み込まれていた私は意識を取り戻し、エリを抱え直す。紐をよりきつくする。完全に私の背中に磔になったエリ。しかし、抵抗してくる。暴れようと体を揺する。早く解放しろ、と叫ぶように。
「ワン・フォー・オール……フルカウル……っ!?」
身体全身に赤い亀裂が出久に走る。出久はまた一歩踏み出し、駆けた。
「クッ!? シモンは『神の子』の十字架を背負うッ!!」
十字架を取り出し叫ぶ。出久が重力に逆らえず、目の前で倒れる。そう、目の前で。
一瞬で目の前まで移動してきた。その事実に背中が凍りつく。今までオールマイトやエンデヴァーと戦い、何度も死にそうになり、牢獄に入れられそうになった。それでも、恐怖という恐怖を感じなかった。
しかし、今は、どうだ?
ヒョロっヒョロっの少年。そばかすを散らす頬。鍛えられてはいるが、常人のそれ。決して強くない存在。
その相手に、私は強烈な恐怖とも言える感情を抱いた。
理由がわからない。意味がわからない。
今もまだこちらを睨んでいる。いや、両手で地面を掴んで、立ち上がろうとする。
シモンの十字架の魔術は、都市レベル範囲の人々全員の荷物を肩代わりさせる効果がある。ここの都市だけでも、10トンはあるはず。さらに、その前の天罰術式で酸欠状態は完全に脱してないと思われる。
出久の両手が完全に伸ばされ、片膝をつき、ゆっくりとだが確実に立ち上がった。目の前で、本当に目と鼻の先で、飛びかかればすぐに手が触れる距離で、立ち上がった。
息が荒い。目が充血している。それでも、私を必死で捉えている。
「……っ!? スマッシュ!?」
一瞬で懐に。一発の拳が顔面を捉えた。当然、歩く教会の保護で無傷。聖人の力で微動だにしない。しかし、
「────スマッシュ! スマッシュ! スマッシュ!」
何度もゆっくりとではあるが確実に拳が顔面を捉えている。もちろん私の防御はこの程度の力で揺るぎはしない。それでも、
「────っ!?」
出久の両腕が順調に速くなる。私は殴られるたび、一切のダメージがないのにもかかわらず、足が後ろへ下がる。一歩ずつ、一発ずつ。
逃走。その考えがやっと思い浮かんだ。私は後ろへとタイミングを測って一気に出久との距離を離す。そして、聖人の力で、屋根へ跳ぶ。屋根を伝って逃げる。
しかし
「ワン・フォー・オール! フルカウル!」
追ってきた。その事実が怖い。
なぜだ。なぜそこまで頑張れる? なぜ動ける? みんなと一緒にねんねしていれば、「しかたなかったね」と互いに慰めあえるのに、そんな簡単な結末を拒絶して、なぜ追うのか。
大事な人だからか? 今日会ったばかりの子供がか? 信じられない。
私はあまりにも動揺している。その事実を認識して、さらに心がざわめく。
(狂ってる!? 私以上に狂ってる!?)
私は必死で走る。聖人の力をフルで発揮して逃げる。出久は追ってくる。そろそろ完全に頭に酸素が蘇っている頃だ。それを認識しさらに私は焦る。
なぜ? なぜ? なぜ?
私は炎のルーンを取り出した。足裏の飛翔のルーン文字カードに魔力を通す。ふわりと浮く。そして、
「
後ろに炎を叩きつける。そして、加速して出久との距離が広がる。空気抵抗のみとなった移動方法に、さらにもういっちょ炎で加速。どんどんと差が広がり、ついには見えなくなった。
それでも、私は炎を出し続けた。何度も呪文を唱えた。辺りに朝日が差し込んだ時、やっと止まった。汗はびっしょりだった。震えはまだあった。歯がカチカチと鳴り、胃がせり出し、膝をついて、吐いた。
目的は果たせた。エリも手に入れた。なのに、私は、勝利とは言えない、けれど敗北よりも惨めな、感情に支配され、泣いた。
その背中で、決意を瞳に宿した少女がいることなど知らずに。
感想、評価付与、しおり登録、お気に入り登録、ここすき、何より閲覧していただき、ありがとうございます
突然ですが、本作は一旦「未完」とさせていただきます
理由としては、作者の勉強不足で、続きが書けなくなったからです
復活する予定は今の所ありません。所謂エタった感じです
もちろん、自分の中で続きが書きたくなったら、1話から書き直して続きを書くかもしれません
ご理解のほどよろしくお願いします
本作を書き始めた理由は、転生者がヴィランサイドで行動する作品を読んでみたかったからです
そういった作品が増えることを願っております