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「せんせー、早くこっちに来てよ」
「そうだぞ」
まただ……
「せんせ!今日は何をするの?」
また……この夢を見ている。
もう眠る必要すらないはずの身体なのに…意識を手放すとこの夢を見る。
「せんせー!◼️◼️ちゃんがまた意地悪してくる!!」
手を差し伸べれば、本当に触れられてしまいそうなほど鮮明で、暖かくて…優しい夢。
いや……分かっている。
これはただの夢なんかじゃない。
「せんせ、どこに行ってしまうの?」
恐らく、これは彼女の……
「という訳で俺がいない間、この国をタケルに任せたいんだ」
「……という訳での前の部分を説明しないと、普通の人間は理解できないというところには突っ込んだ方が良い?」
別にタケルにはシズ先生の生徒達を助けるためにイングラシア王国へ行く、ということくらい伝わっているはずだから良いだろう。
「それで? 本当にシズ先生の生徒を助けられるつもりなの?
シズ先生でもできなかったのに?」
「それは……実際にできるかどうかは、会ってみなきゃ分からないだろ?」
タケルが疑わしそうな表情でこちらを見てくる。
だが何も分からないからといって、やる前から諦めて約束を反故にするわけにはいかない…やるしかないんだよ。
まあ、いざとなれば大賢者がいるし……解析して解決策を出してくれるだろう、という算段があるからこそできるのだが。
当然、このことはタケルには内緒にしておかなければならない。
……既にバレてそうな気配が否めないが気にしないでおこう。
「あのさ、一応僕は監視役の人なんだけど?」
「それに加えて、この国の人間側の管理を担当してるんだろ?なら問題ないな」
俺がそう言うと、タケルはものすごく面倒そうな表情を浮かべた。
タケルって落ち着いている雰囲気があるけど、意外と表情が豊かなんだよな……言葉にしなくても、何を言いたいのか割と分かる。
「裏切るとかは考えてないの?」
「お前は真面目だからな。与えられた仕事はきちんとやってくれるから、心配はしてない。それにお前だったら裏切るというより……堂々と処罰するだろ?」
「確かに……それはそうか」
自分で言っておいて変な信頼の仕方だと思う。
だがタケルだったらその認識で大丈夫だろう。
「でも、ある程度管理はすると言っても、露骨にこの国を成長させることや、この国を守ることはしないからね」
「そこは、はっきりと任せろと言ってくれないと困るんだが……タケルに言っても仕方ないか」
どこまでいっても、この国より人間の方が優先らしい。
まあ、しょうがないのか?
でもな……人間と仲良くしようとしてるんだからそろそろ認めてくれてもいいじゃないか?と思ってしまう。
「ということは、イングラシア王国への案内や護衛が必要になるのか」
「それなら、是非私にお任せください!!」
「却下」
確かにタケルの言う通りだな。
イングラシア王国がどんな国なのかも分からない。
だから、もしかしたら魔物に対して敵対的……は無いな。
もしもそうだとしたら、タケルが事前に忠告してきそうだからな。
でもいくら敵対的ではないとはいえ、突然強い魔物が現れたら警戒するに決まっている。
今回の護衛や案内は、イングラシア王国の住人のためを思ってのことなんだろうな。
だから、すまんシオン。
お前を連れて行くと大混乱になるだろうからダメなんだ。
「護衛に関してはランガを陰に忍ばせておくし、連絡用にソウエイの分身も連れて行くから安心してくれ」
「なるほど……それならば、ひとまずは問題はない……のでしょうか?」
それでもやっぱり心配にはなるか…そりゃあそうだよな。
人間の国に行くということは、【三賢人】との接触の可能性が増すということだからな。
タケル曰く、自分以外の【三賢人】の二人はヤバい奴ららしいし……何事もなければ良いな。
「リムル様!3人に案内役になってくれるか確認したところ、『大船に乗ったつもりで任せてくれ!』だそうっす!!」
「引き受けてくれたか」
「3人?」
イングラシア王国に向かうにあたって、案内役をお願いすることにしたのは、カバルにエレン、ギドの3人だ。
3人はかなり前から信頼関係を築いてきたし、ブルムンド王国やイングラシア王国にも出入りしているだろうから、案内役にはもってこいだろう。
「確かに……人間の国に魔物である我らがぞろぞろと入って行っては、かえって火種になりかねませんし」
「そうだろう?」
シュナの言う通りだ。
だからドワーフ王国の時のように、魔物を案内役にするわけにはいかないんだ。
「取り敢えず、行くための算段はついたか……じゃあ、これでもギルドに持って行って」
そう言ってタケルが俺に紙と封筒を渡してきた。
封筒の中に入れていないあたり、『中身は自分で確認してから入れろ』ということなんだろうが……
「えっと……すい……せんじょう?」
いかんせん、まだこの世界の文字はスラスラとは読めないんだ。
すまないが、大賢者先生……要約をお願いします。
【解。恐らく、ブルムンド王国において主が冒険者登録するための身元や能力を保証するための書類だと思われます】
いや、別に俺は冒険者になるつもりはないんだが。
【告。恐らくイングラシア王国で活動するにあたって、身元を保証する手段が必要だと判断されたのだと思われます】
そっか……。
常にあの3人やタケルが身元を保証してくれるわけじゃないからな。
自分で自分の身元を保証できるようにした方がいいよな。
「ありがとうな、タケル……これで安心してイングラシア王国に行けるよ」
「そうか……それなら安心だ。最後に、これを持って行くといいよ」
そう言ってタケルが何かを差し出してきたので、俺は受け取ろうとした、だが差し出された物を見てその手を止めてしまった。
弁当と思しき黒い箱から、紫色の何かがドロドロと膨らんでは地面へとこぼれ落ちていく。
そしてその何かが床に落ちた瞬間……
じゅわっ
嫌な音を立てて床が溶けた。
「タケル……一つ聞きたいんだが、これはなんだ?」
「シオンの弁当だよ?」
は?
「だってまだ罰のシオンの手料理期間が終わってないでしょ?
だからシオンが丹精込めて、保存が効くようなものを作ってくれたんだよ」
「はい! 頑張って作りました!!」
嘘だろ……こいつ……
ようやくシオンの手料理から逃れられると思ったのに……
タケルには、人の心は分からないのか……
いや、分かった上でやってるなこれ…