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「たまには自然というのも良いものだな」
足元に転がっている岩や木の根に注意しながらも、周囲を見渡せば、そこには大自然を思わせる樹木が広がっている。
上を見上げても葉に覆われており、その隙間から差し込む木漏れ日がとても綺麗だ。
テンペストも元々は貧しいゴブリンの村だったから、最初はこんな大自然に囲まれた生活をしていたんだよな。
だが街として発展していくにつれて、そんな自然を感じる生活からは離れていってしまったようだ。
今の俺の身体はスライムなので体力の心配はない。
とはいえこうして実際に歩いてみると、ジュラの大森林というのは歩くだけでも大変だな。
少しでも道を間違えたら、本当に森から抜け出せなくなりそうだ。
(な、なあギド……本当にこの方向で合ってるよな?)
(ちょっ、ちょっと! あの鳥の巣、ついさっきも見たわよ!)
……どうやら、3人も例外ではないらしい。
というか絶賛迷子になっている。
(ど、どうする?せっかくリムルの旦那に頼まれたのに……)
(迷子になってしまったなんて言えるわけがないでしょ?早くこの森を抜けましょう)
「……なあ、一ついいか?」
流石にこのまま見守るわけにもいかないので声をかけると、3人の肩が分かりやすいくらいビクッと跳ねた。
しかも、冷や汗まで流している。
「お前ら……もしかして……迷子か?」
「「「すみませんでした……」」」
俺の問いかけに対して、3人はしばらく顔を見合わせた後、観念したのか素直に頭を下げて謝った。
別に悪気があるわけでもないし、むしろ頑張ってくれているんだから怒るつもりはないんだけどな。
「うぅ……道に関してはプロだと自覚してたのに……悔しいでやす」
「まあまあ、こういう時もあるよ……ん?なんだ、あれ?」
3人の中でも特に落ち込んでいるギドを慰めていると、不思議な花が目に入った。
確かに不思議な色合いをした花ではある。
だが、それ以上に……なぜか気になる。
【告。その花は幻妖花と呼ばれる魔法植物です。
主に周囲の生き物に幻覚を見せることが可能とされています】
そうか、それで3人も迷子になっていたのか……。
この花を見つけられて良かったな。
【告。タケルのユニークスキルによるものだと思われます】
え?タケルは、もしかして見守っていたのか?
いや、幻妖花に気づいていたなら、もっと早く助けてくれよな。
でもあれか、タケルはこれ以上は見ていられないと思って手を貸したんだろう。
つまりここから先は自分達で解決しろ、ということなんだろうな。
「取り敢えず幻妖花の問題は後にして、そろそろ暗くなりそうだから工事作業員たちの宿舎に泊めてもらうことにしよう」
「ごめんね、リムルさん」
「いいって、気にすんな。明日からまた頑張って、イングラシア王国を目指して歩こうな」
翌日、俺たちは朝食を食べ終えるとすぐに出発した。
3人は随分と落ち込んでいたが、美味しい飯と、薬の素材として高く売れる幻妖花をお裾分けしてもらえると分かると、たちまち元気になっていた。
全く現金な奴らだ。
今回は幻妖花に惑わされないよう、きちんと対策も考えてある。
対策の内容はシンプル。
大賢者に方位磁針になってもらうことだ。
幻妖花はあくまで感覚を狂わせるだけで、物理法則を歪めるわけではない。
大賢者なら常に北がどの方向なのかを把握するくらい、造作もないだろう。
というわけで、俺たちが意図して進んでいる方向とは違う方向に進み始めたら警告してもらうようにした。
これなら、3人も安心して道案内ができるだろう。
……ただ、問題はこれでは終わらなかった。
「なんで魔物の巣を剣で突くんだよ!!」
「すみませんでした!!」
カバルが突然、
「この穴は怪しい!!」
などと言って、地面の穴に剣を突き刺した。
しかも、たまたま入り口付近にいた蟻型の魔物に突き刺さってしまいそのまま追いかけられる羽目になった。
「全くもう、カバルってば!!」
「エレンも怪しいって言ってたでしょうが!!」
なんというか……逃げながらもお互いに罵り合っている姿は微笑ましい……そう、確かに微笑ましいんだが……
ただでさえ大幅に時間を取られている以上、これ以上無駄に時間を浪費するわけにはいかない。
だから俺は立ち止まり、迫り来る蟻の魔物を殲滅することにした。
「リ、リムルさん!!」
「
たった一言、それだけで目の前に迫っていた蟻の魔物達は姿を消した。
たった一瞬で俺が全て捕食したのだ。
「リムルの旦那、流石でやんす!!」
「ありがとう!! おかげで助かったわ!!」
こいつら……調子の良いことを言いやがって。
俺がいなかったら、結構ヤバいことになってたかもしれないんだぞ?
もう少し慎重さというものを覚えてほしい。
「リムルさん、ずっと一緒に冒険しましょうよ!! リムルさんがいれば百人力よ!!」
「冒険者か……」
確かに、冒険者としてのんびり生きていくのも良さそうだな。
だけど残念ながら、今の俺は責任のある立場についている。
タケルに無理矢理その立場に立ってもらった以上、そう簡単にその立場から降りるわけにはいかない。
……でももしもこの先、テンペストで俺が必要とされることがなくなったら、その時は余生を冒険者として過ごすことを検討しておこう。
そういえば、スライムである俺の身体には寿命があるのか?
俺が隠居して余生を過ごす頃には、この3人はもう既に……。
……
タケルやミリムも、こんな気持ちを味わってきたのかもしれない。
大切な友人を作ったとしても、いつかは先立たれる。
それを知った上で、俺は大人しく見送ることができるのだろうか。
……考えても分からない。
いや、無理に答えを出してはいけないよな。
今の俺には、その答えを出せるほどの経験をしていないのだから。